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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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第89話:汝勇者に非ず

前半はタクマの一人称視点。

後半は三人称視点となっています。

特殊な構成ですが、ご了承ください。


俺の一撃で勇者サトシは気絶。

呆然としている女性魔法使い二人には『マインドスタン』で『拘束』を与える。

その後、サトシを含めて第三階位の世界魔法『マジックスティール』でMPを奪っておく。


更にサトシの下に第五階位の天理魔法『ステータスダウン』を設置。

これは継続型の設置魔法で、その名前通りに相手のステータスを下げる魔法だ。


正直、使い方が限定され過ぎてて使いにくい魔法だけど、この状況なら最高の魔法になる。


「タクマ様、ご無事ですか!?」


武器を取り上げ、サトシのステータスが低下するのを待っている間に、サラ達が追いついて来た。


「ああ、問題無いよ」


「遠くから見ていましたが、一瞬で勝負がついたように思えたしたわ」


「ああ、その認識で間違ってない」


「その勇者はそれほど強く無かったって事かい?」


「いや、ステータス的には俺より上だよ」


「それでなんで……、いや、いいわ。アナタなら不思議じゃないものね」


「流石旦那様です!」


「なんだ、もう終わってたのか」


女性陣が思い思いに感想を口にする。


「帝国の勇者と同じだな。ステータスの高さだけに頼って今まで生きて来たから、技術が全然磨かれていなかった」


まぁ、必要無いんだからわざわざ鍛えようとは思わないよな。


「ぐ……いつつ……」


ステータスが下がり切る前にサトシは目を覚ました。

大体全部300くらいまで下がっている。これなら大丈夫か。


「さて、話を聞く気になったかな? 炎の勇者、サトシ君?」


「ぐ、てめ……」


「『致死予測』で見えているだろ? 俺の名前、どうなってる?」


「!!? み、見えねぇ! てめぇの名前が見えねぇ……!?」


「? ああ、MPが無いから『致死予測』使えないのか」


まぁコイツ、スキルらしいスキル持ってないからMP無くさなくても良かったな。


「まぁ、それでなんとなく自分の置かれた状況を理解したんじゃないか?」


「お、俺を殺すのか……!?」


「殺さないよ。まぁ、殺せと言うなら殺すけど?」


俺はちらりとノーラを見た。俺の視線を追ってノーラに目を向けたサトシの顔色が一気に蒼褪める。

自分が獣人に何をしてきたかって自覚はあるみたいだな。


モンスターとのハーフだなんだと言っても、殺して来たのは事実だ。

そしてモンスターだろうとそうでなかろうと、仲間を殺された相手が恨まない訳がないからな。


「ゆ、ゆるしてくれ! し、仕方なかったんだよ! こんな世界に突然呼び出されて、訳がわからなくて! こいつらの言う事きくしかなかったんだよ!!」


本能的に命の危険を感じ取ったらしく、サトシが額を地面に擦り付けるように土下座をする。


「謝るし、俺にできる事ならなんでもする! だから、だからどうか命だけは……!!」


これまで命を奪って来た経験があるからだろうか。

殺される事を、どこか遠いテレビの向こうの出来事じゃなくて、今そこにある危機だと感じているようだ。


「だ、そうだけど? ノーラ、どうする? なんなら俺んちの周りのテントまでコイツ連れて行こうか?」


「必要にゃいよ」


溜息を吐きながらノーラは言った。


「確かにコイツには恨みがある。けど、腹を見せてる相手を弄る程、アタシ達も堕ちちゃいないよ」


「だってさ、良かったな」


「あ、ありがとう! すまねぇ! すまねぇ!!」


そして何度も頭を下げるサトシ。涙を流し、鼻水まで垂らしたその様子は、とても演技とは思えない。


「いきなり呼び出されて何も知らないままだったんだろうから仕方無いとは思うけどな。国に帰ったら王室じゃなくて炎の神の教会に行け。本来勇者は国に帰属するものじゃないんだと」


な? とミカエルに水を向けると、彼女は無言で頷いた。


「そこでこれまでの行いを懺悔するんだな。許すか許さないかはその時決まるだろう」


「あ、ああ、わかった……」


「獣人はモンスターじゃない。この世界に住む歴としたヒトだ。国の体制に関しては俺も口出しする気は無いけれど、それだけは忘れるな。国の命令だとしても、お前はヒト殺しをしていたんだと自覚しろ」


と言っても、俺みたいな『常識』がある訳じゃないから、中々厳しいだろうな。


「ひと……ころし……」


今度はサトシの顔が白くなる。


「う、ううぉおおええええぇぇえぇえええ!!?」


そして嘔吐した。

まぁ、こうなるか。

一人殺しただけでも精神的な負担が半端ないそうだからな。

それが今まで何十、何百人と殺して来たんだ。

耐えられるんだろうか……?


「ぐふ、ぐう……うぉえ!!」


「その苦しさがお前の罪の重さだ。よく覚えておくんだな」


流石に哀れに思えたので、それっぽい事を言って締めておく。




その後、俺は三人を連れて国境付近へ飛び、ラングノニア側へとお暇願った。

流石に関所からだと、ラングノニア側の衛兵に怪訝に思われてしまうので、『ライトウィング』で三人を連れて上空へ飛び、文字通り飛び越える事にした。


ラングノニア王国側に入って暫くした辺りに捨てて来た。


「けど良かったのかい?」


家に戻るとミカエルが尋ねて来た。


「なにが?」


「あの勇者を放りだして、だよ。確かに恐怖を与えたかもしれないし、獣人を殺していた事に罪悪感を抱かせる事ができたかもしれない。けれど、時が経って恐怖が薄れても、彼は獣人を殺さないと思うかい?」


ミカエルの言う通り、今は罪悪感があっても、それが薄れれば、獣人を殺して来たという体験だけだ。

一人二人じゃなくて、何千、何万と殺したんだ。

果たしてサトシは、その後に獣人を殺す事を躊躇うだろうか。


「大丈夫だろ」


俺はそう結論付けた。


「それはちょっと考えが甘いんじゃないの?」


「そうですわ。ヒトというのはそう簡単に改心するものではありませんわ」


人の心の醜い所を見て来た元王侯貴族がこぞって俺を批判する。

わかっててそういう言い方をしたとは言え、ちょっと悲しい。


「あの勇者が獣人を殺す事はもうない。それは確かだ。けれど、それはアイツが改心するからじゃない」


「どういう事ですか?」


「改心して獣人を殺さなくなるならそれが一番良いんだけどな。周囲にとっても、アイツ自身にとっても」


けれどアイツはやり過ぎた。

ラングノニア王国内だけだったなら、見逃されていたかもしれない。

国がどの人種をどのように扱うかはその国の自由だ。

それが道徳的に、倫理的にどうであるかはこの場合関係無い。

その国ではそういうものなのだから。それが認められなくなれば、今回のように反乱が起きたりするだろう。


だから、ラングノニアで囲われている勇者が、ラングノニアの法律に従って、ラングノニアの獣人を殺すだけならば問題は無かった。


けれど、サトシはエレノニア王国までやって来てしまった。

法律も文化も習慣も違う、別の国で、獣人を殺そうとしてしまった。


これは問題だ。

国際関係的にもそうだが、何より、勇者的に問題なんだ。


「オイタをしたうえ、反省しない勇者は、勇者に叱って貰わないとな」


「あ……」


「ああ……」


俺の言葉に合点がいったのは、サラとカタリナだけだったようだ。



……


…………


……………………



「クソ!」


国境から少し離れた所に捨てられた、炎の勇者佐川さがわさとし

ミカエルやタクマの予想よりも早く、彼の中の罪悪感は薄れていた。


「あの野郎、ふざけやがって! なぁにが、その苦しさがお前の罪の重さだ、だよ! サムイんだよ! クソがっ!」


MPが回復し、ステータスが元に戻り始めると、タクマへの恐怖が薄れ、怒りが込み上げてきていた。


「獣人はモンスターとのハーフじゃないだ!? じゃあなんだってんだよ! あんな頭から耳が生えてる気色悪い生物が人間な訳ねぇだろ!」


「その通りです、勇者様!」


「あのような者の戯言に惑わされてはいけません」


同じくMP枯渇と『拘束』から回復した女性魔法使い二人がサトシに追従する。

しかし、そんな二人をサトシは胡乱な目で見た。


「な、なんでしょうか……?」


「別に……」


サトシの心に湧き上がっていたのは怒りの感情だけではなかった。

紛れもなく、そこには嫉妬もあった。


タクマの周りには様々なタイプの美少女が居た。しかも、全員がタクマに心を許している様子だった。

前の世界で、ナンパと合コンに精を出していたサトシは、そうした女性の心を読む事を得意としていた。


だからわかった。あいつら、できている(・・・・・)と。


サトシの周りに居るのはこの二人。

確かに美人だ。タイプが違うがスタイルも良い。

けれど、二人はサトシにボディタッチはしてくるが、サトシから寄って行くとするりと逃げていく。


その代わりではないが、ラングノニア王国内で立ち寄った村や街で気に入った女性は、夜に部屋に呼ぶ事ができたが。

とは言え、誰も彼も、悲壮感漂う表情だったり、泣き喚いたり、と甘い雰囲気だった事は一度も無い。


怒り、嫉妬。それぞれがそれぞれを煽り合い、巨大な炎となってサトシの中で燃え上がっていた。


「おい、どっか適当な獣人の集落探しとけ!」


「勇者様、それでは……」


女の顔が歓喜に歪む。


「暫くは適当に国内の獣人を狩る。ほとぼりが冷めたらまたあっちの国に行くぞ!」


その時には、あの男を必ず殺す。

いや、ただ殺すだけじゃ物足りない。

手足を切り落として、あいつの前で女共を犯してやろう。

今までの女達と同じように泣き叫ぶだろうか。同じ無理矢理でも、そうした付加価値がつくだけで興奮の度合いが全然違った。


「なんて言うかな? 殺してやる? 絶対に許さない? それとも、命だけは助けてくれ?」


サトシが、そんな黒い炎に身を焦がす愉悦に寄っていると、一人の少年が三人の前に立ちはだかった。


「あぁ!? なんだ、てめ……え!?」


折角の楽しみを邪魔され、サトシは機嫌を悪くするが、すぐにその顔は色を失くし、言葉を失う。


目の前の少年の名前は『ユーマ・クジョウ』。

そしてその名前は、真っ赤だった。


「僕はユーマ・クジョウ。光の勇者だ」


「勇者!? そ、その勇者が、何の用だよ」


纏っている雰囲気が明らかに友好的なそれではない。


「随分とこれまで好き勝手に生きて来たみたいだね。僕の使命は君のような勇者を排除し、この世界に平穏と秩序を取り戻す事にある」


「は、排除……?」


「安心していい。君にもまだチャンスがある。君に加護を与えた神が君を勇者だと認めるなら、僕はおとなしくここを去ろう」


「はっ……!」


ユーマの言葉に、サトシの顔が歪む。

安堵と歓喜、そして侮蔑が入り混じった複雑な表情だ。


「だったらとっとと帰りやがれ! 俺は勇者だ! 炎の勇者! これが俺が神から認められた証だろうが!」


そうだ、自分は勇者だ。

これは紛れもない事実。このよくわからないうちに呼び出されたよくわからない世界の中で。

唯一揺るがない絶対の指針だ。


「そうかい。なら、試してみようじゃないか」


そしてユーマはゆっくりと右腕を上げてサトシを指差す。


「汝、勇者に非ず」


「あ……ぎ……!?」


その瞬間、サトシは地面へと倒れ込んだ。

鎧が重い。グローブが重い。靴が重い。

何より背中に担いだ、斧が重い。


「どうやら、炎の神は君を勇者と認めなかったようだ」


「な、に、を……!?」


斧と鎧の重さで体が圧迫されて、上手く声が出せない。


「これが僕の固有技能ユニークスキル、『反英雄宣告』。このスキルを受けた者は、加護を受けた神から裁かれる事になる」


まずは光の神による審判。光の神が、対象が勇者に相応しいと判断すれば、『反英雄宣告』自体が発動しない。

光の神が不適格だと判断した場合、次に、対象に加護を与えた神による審判。

この時、神が相手を勇者と認めた場合、神からの信頼とユーマによる力の綱引きが開始される。

これにユーマが勝利する。あるいは、加護を与えた神でさえも、勇者に相応しくないと判断した時。


対象は、勇者の力を奪われる。


職業としての『勇者ヒーロー』。それによって獲得したスキル。そして、職業補正によるステータス。

勇者ヒーロー』の職業は高いステータス補正と成長率補正を有するが、他の職業を獲得しにくくなり、成長しにくくなるというデメリットも持つ。

多くの勇者は他の職業を得ていない場合が多い。


勇者ヒーロー』の職業を奪われた勇者は、種族LVしか残らない。

そして、勇者の高いステータスは、『勇者ヒーロー』の成長率補正によって伸ばされたものである。

そのため、多くの勇者はそのステータスを大きく減じる事になる。


「君は勇者に相応しくない事が判明した。よってここに、光の勇者として断罪する」


そしてユーマは剣を抜く。

太陽のように眩く光り輝く、神から賜った神器、光の剣を。


「せめてもの情けだ。苦しまずに一撃で終わらせてあげるよ」


「まって……! お、ねがい、しま、す……! いの、ち、ばかり、は……!」


「一人でもその願いを聞いた獣人は居たのかい?」


「あ……。でも、だって……」


視界を埋め尽くす眩い光。

それが、佐川聡が見た、最後の光景になった。

第三章は今回で最終話です。

次回、閑話を挟んで第四章に入ります。

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