第83話:エレンとのデートとハーレム合流
お待たせしました。
エレンとハーレムメンバーとの邂逅回です。
「そうか、エレンは肉が苦手か」
「はい。匂いと苦みが少々……」
エドウルウィンを後にした俺とエレンは、エレニア大森林を外へ向かって歩いていた。
森の中ですぐに『テレポート』をしてもいいのだけれど、折角なのでエレンの事を知っておこうと思い、会話ついでに歩いているんだ。
エレンの親父さんから父親としての複雑な気持ちを拳に乗せて受け取った翌日、親父さんやヴィーシャさんと話した感じだと、やはり里帰りはあまり理解されなかったようだ。
ヒルダさんは、可愛がっていた妹が定期的に帰って来る事に単純に喜んでいたけれど、やっぱり難しいんだろうな。
折衷案として、エレンに手紙を書いてもらい、それを女神に託す事にした。
勿論、エレンに手紙を強制する訳じゃない。彼女が書きたいと思ったら書けばいい、と伝えてある。
まぁ、エレンはエルフの常識がしっかりと身についているから、手紙を書く気にならないかもしれないが。
それならそれでいい。俺としては選択肢を与えて、エレンに決定させるだけだ。
「それなら、その辺りをきちんと処理すれば食べられそうかな?」
「歯ごたえや味自体はあまり気になりませんので大丈夫かと。でもどうしてですか?」
「いや、ウチにお肉大好きな娘がいるもんでな」
「…………ソウデスカ」
ちなみに今、俺はエレンをお姫様抱っこしている。
エドウルウィンを出たすぐはエレンも歩いていたんだけど、一時間も経たないうちに足が痛くなって歩けなくなってしまった。
彼女のステータス的には大丈夫そうだけど、それでも俺は彼女を負ぶってやった。
あれ? お姫様抱っこに移行した経緯が思い出せないな。まぁいいか。
正直、ステータスに比べて体力無いな、とは思った。
その体力でどうやってダンジョンを攻略したのかすげぇ気になった。
まぁ、聞いて納得した。基本は今と同じだ。
歩き疲れたら戦の精霊に負ぶって貰っていたんだそうだ。
エルフィンリードで何日も戦っていた事があると言っていたが、その時も、戦の精霊に周囲を守ってもらい、自分はその中心で休んでいたらしい。
それでも、召喚術は対象を呼び出している間MPを消費し続ける。そのうち枯渇するんじゃないかと思ったけれど、状況を聞いて納得した。
エレン、戦の精霊の中心で眠っていたらしい。
MPは休息を取ると回復する。睡眠はその最たる例だ。熟睡できれば尚良し。
戦闘音が周囲で響く中でよく熟睡できたもんだと感心する。
「戦の精霊が倒されれば結局私は生きていられませんから」
だから開き直れるってのも、すげぇなぁ、とは思った。
エレンの戦術は基本同じだ。
召喚術で呼び出した精霊、魔物を壁にして、自分はその後方から弓や魔法を放つ。
MPの消費が激しいようなら、周辺を守って貰って普通に寝る。
成る程。『召喚士』のソロ戦闘としては悪くない戦略だ。
むしろ理想的と言えるだろう。
眠っている間に殺されるかもしれない、という恐怖を感じないのであれば……。
その後、俺達は昼を過ぎた頃に『テレポート』をした。飛んだ先は俺の家じゃなくてルードルイの近くだ。
モニカの時に犯した失敗を繰り返さないように、先に服や小物を買いに来たんだ。
流石に街に入るのにお姫様抱っこをしたままだと目立ち過ぎるので、エレンを降ろして歩く事にした。
若干ぐずったので、手を繋ぐ事で妥協して貰う。
うぅむ、小さくて柔らかい手が、性的な欲求より庇護欲を掻き立てるなぁ。
「まぁ! これが街というものなんですね! 本当に石でできているんですね! わぁ、地面が平ですよ!」
街に入るとわかりやすくテンションが上がるエレン。
ずっとエルフの里で生きて来たから、人間の街では、見るもの全てが新鮮なんだろうな。
これまで、何となく落ち着いた雰囲気を感じていたエレン。外見こそ幼いけれど、やっぱりそこは100歳超えなんだなぁ、とか思っていたけれど。
石と煉瓦の街並みを見てはしゃぐエレンは、外見相応の少女に見えた。
うん、微笑ましい。
「ヒトも沢山いますね! あ、あれはなんですか!? 頭の上にお耳が生えていますよ!」
「獣人だな。猫耳だから猫人種かな? あと『あれ』とか言っちゃいけません」
「あちらの方は子供くらいの大きさなのにお髭が凄いですね!」
「ドワーフだな。あと指差しちゃ駄目」
うっかりするとどこかへ走って行ってしまいそうなエレンの手をしっかりと握り、俺はお得意様になりつつある服屋へと向かう。
「これはタクマ様、いらっしゃいませ。今回はそちらのお嬢様ですか?」
店に入るなり、揉み手の店員にそう声を掛けられた。どうやら既にお得意様と認定されているようだ。
まぁ、この国の人は貴族でもなきゃ一シーズン二、三着で着回すからな。
月に一回くらいのペースで来るし、普段着こそ二、三着だけれど、寝間着、お出かけ用、と大量に買って行く俺はお得意様扱いされても仕方ないよな。
「ああ。いつも通りに頼むよ」
という訳で俺も店員に乗っておく。これはこれで楽でいい。
未だにこの世界の、グイグイ来る接客は慣れないからなぁ。
カタリナやミカエルが居れば彼女達が上手くさばいてくれるんだけど。
今回同行しているのは、どうやら俺以上に人見知りが激しいエレンだ。
さっきまでのはしゃぎっぷりはどこへやら。彼女は俺の背後に隠れてプルプル震えている。
「それでは幾つか見繕って来ましょう。暫く店内でお待ちください」
そんなエレンの様子を見て、何かを察したらしい店員は、すぐに俺達から離れてくれた。
うぅむ、これができる商人ってやつか。
店員が持って来たのは白いワンピースタイプの服、それから若草色のケープだった。
昔にサラに同じようなのを買ってやった記憶があるな。あの時は確かガルツだったから偶然だろう。
可憐な少女のイメージと言えばこの組み合わせなのかもしれない。
色が違うから大丈夫かな? それとも被ってるって事でサラもエレンも気を悪くするかな?
それを考えると別の服を買ってやった方がいい気がするけれど、しかし似合う。
これで鍔の広い帽子でも被れば、まんま深窓の令嬢だぞ。
似合う。これは外せん。
「エレンの雰囲気とマッチしていていいな。これとは別の方向であと二着ほど選んでくれるか?」
「かしこまりました」
うむ、上手い事誘導できたな。これで、複数買ったうちのワンセットがあくまで似ただけ、という言い訳を確保する事ができた。
「そんなによろしいんですか?」
「ああ、エレンは可愛いからな。色々な服装を見てみたいんだよ」
「まぁ……」
頬を染めて嬉しそうに俯くエレン。
うん、俺も口が上手くなったもんだ。
とは言え本心でもある。可愛いエレンの色んな恰好を見てみたいってのは本音だ。
心の底から出た言葉は、通じるんだよ。
それが例え下心でもな。
次に店員が持って来たのは草色のロングスカートに、薄い藤色のセーターだった。
素朴な感じで良い。
最後に店員が持って来たのは、赤いスカートと赤いシャツ。その上から、白いカーディガンを羽織るセットだった。
上下の色が揃った事で、体のラインがシャープに見えるな。そこにやや大きめのカーディガンを羽織る事で、全体にメリハリができ、妖艶さが醸し出されている。
少女の外見をしたエレンにはアンバランスだけど、逆にそれが良い。
わかってるなぁ、この店員。
当然全部購入し、寝間着も三着買って店を出る。
下着は、今度サラ達と一緒に買いに来よう。或いは、女性陣の仲を深くさせるために、俺抜きで買い物に行かせてもいいかもしれないな。
「さて、エレン。これから俺の家に帰る」
「はい、旦那様。エレンは今から楽しみです」
「そうか。昨日言った通り家には……」
「他の愛人の方がいらっしゃるのですよね? エレンは大丈夫です。きっと仲良くできます。だって、同じ旦那様が好きなんですから」
好きなものが同じだと話が弾むし仲良くなれるよね。うん、本当にそうならこの世に修羅場なんて仏教用語以外で無いと思うんだ。
今から胃が痛いが、まぁ、仕方ない。
腹を括ってエレンを皆に紹介するとしよう。
思えば、カタリナはサラから奴隷が欲しいと言い出したのだし、ミカエルも決闘騒ぎがあって有耶無耶になった。モニカは緊急事態だったから俺の気がそこまで回っていなかった。
どうしても俺の下に身を寄せないといけない事情も無く、奴隷でも無く、俺が連れて行く女性って、エレンが初めてなのか。
そりゃ緊張する訳だ。
まぁ、家に帰らない訳にはいかないし、今更エレンを里に返す訳にもいかない。
男は度胸だ!
そして俺は、エレンを連れて家へと飛んだ。
耳を劈く轟音が響き、熱風が俺の肌を舐めていく。
衝撃波で眼球が押され、景色が歪んだ。
もうもうとたちこめる黒煙が天高く舞い上がっている。
俺の家の庭に突如出現した戦場のような光景。
それは、ミカエル達が野菜を収穫している光景だった。
「やぁ、おかえり」
俺達に気付いてミカエルがこちらを振り返った。
爆炎をバックに微笑む様は、思わず背筋が寒くなるような迫力だ。
おかしいな、この光景は今まで何度も見ている筈なのに。
どうしてエレンが隣に居るだけで、ミカエルの微笑みが底知れない不気味さを持つようになるんだろう?
「初めまして皆さん!」
俺が引きつった笑みを浮かべてその場で硬直していると、エレンが一歩進み出て挨拶をした。
「この度、新しくタクマ様の愛人となりました、エレンと申します! 不束な娘ですが、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!」
そして腰を折り、頭を下げるエレン。
うわー、礼儀正しい感じがしているけれど、声に込められた力は誤魔化せてないぞー。
これ所謂、攻性防御だろ。
「ああ、君が。話はタクマ君から聞いているよ。立ち話もなんだから、中に入ろうか。あ、魔石拾うの手伝ってくれる?」
笑顔で応じるミカエル。
言っている事は普通なんだけれど……。
俺の考えすぎかな。後ろ暗い所があるから、そういう風に思えちゃうだけかな?
そもそも後ろ暗い所なんて無い筈なんだけどな……。
魔石を回収して家に入る。
もうすぐ夕飯時だからか、ミカエルが鍋に水を溜め、サラが火をつけた竈の上に置いた。
それだけの行動のなのに、何故か俺はミカエルから目が離せなかった。
「改めまして、タクマ様の愛人となりましたエレンと申します」
エレンがそう言って頭を下げる。正座して三つ指ついて。
確かにうちは土足厳禁だし、毎日掃除しているから床もそれほど汚れていないけれど、それでもやはり地面に直接座っての挨拶は与える衝撃が大きい。
現にモニカとカタリナが気まずそうに眼を逸らしている。ミカエルも敢えて見ないようにしているのが、その背中からわかった。
「タクマ様の第一の愛人であるサラです」
そしてずっと奴隷として生きて来たため、世間の常識が一切通じない、空気の読めない少女が一人、ふんす、と胸を張って応えた。
ある意味、助かる。
「はい、サラ様。今までエルフの里、エドウルウィンの中でのみ生きてきましたので、色々勉強不足だとは思いますので、よろしくご指導ご鞭撻のほど、お願いいたします」
「うん、任せて」
エレン、そいつヘタしたらお前以上の世間知らずだぞ。
サラも安請け合いするんじゃない。
「タクマ様の第二愛人のカタリナですわ。サラさんの常識は若干不正確である可能性が高いので、わたくしから学びなさい」
何が心の琴線に触れたのか、カタリナも髪をかきあげながら前に出た。
「はい、カタリナ様。よろしくお願いいたします」
「カタリナ、今のは聞き捨てならないのだけど……?」
「事実でしょうに」
むっとするサラに苦笑するカタリナ。正直、俺を含めてこのパーティ、世間知らずしか居ないんだよな。
俺はまだ『常識』でなんとなるけど、その中で一番常識があるのが、奴隷とは言え冒険者として長く活動していたカタリナだってのは皮肉なもんだ。
ミカエル? あいつは唯我独尊だから。
「タクマの第四愛人のモニカよ。あなたにはセニアと言った方がわかりやすいかしらね」
「ちょっと、ボクを飛ばさないで―!」
キッチンからミカエルの声が聞こえてくる。
「はい、モニカ様。ええ、覚えていますよ。タクマ様と共に里を救ってくださって英雄ですもの」
「ミカエル! 第三愛人のミカエル! みんなのツッコミ役だよー!」
その自己紹介は決してツッコミ役じゃねぇよ。一度火を消してこっちに来い。
「はい、ミカエル様。頼りにさせていただきます」
「えぇと、その、なんだ。みんなこれからもよろしくな」
「そうですね、タクマ様。今日はエレンに譲りますが、明日はよろしくしていただきたいですね」
「そうですわね」
「私なんてほぼほったらかしよ?」
「まぁ、皆さん仲がよろしいんですね」
「ボクも、ボクも忘れないでー!」
なし崩し的ではあるけれど、エレンが皆に受け入れられてよかったよかった。
エレンも思ったより他の皆に嫉妬というか、対抗心のようなものを抱かなかったみたいだし。
「ところでタクマ、その頬はどうしたの?」
「……エレンを貰った対価だよ」
俺の左頬は腫れたままだ。なんとなく、自然治癒以外で治しちゃいけないような気がしてる。
事情を察したらしいモニカはそれ以上は追及してこなかった。
「そうだ、カタリナ。お前の父親にもこの対価、払いに行かなきゃいけないんだが?」
ふと思い出したので提案してみる。
「不要ですわ!」
しかしカタリナははっきりと断った。
「わたくしが父に会いに行く時は、クォーリンダム家再興が叶った時です。それまでわたくしは、一介の奴隷に過ぎませんわ」
「そうか……。なら、お前の目的が達せられた時には、ちゃんと挨拶しに行かないとな」
「勿論ですわ! クォーリンダム家再興が成るという事は、間違いなくご主人様の尽力によるところが大きいでしょうから、是非ともクォーリンダム家の恩人として招かせていただきますわ!」
うーむ、微妙に通じてないっぽいな。
まぁいいか。いざその時に改めて気付いて慌てるカタリナを楽しみにしておこう。
今夜はエレンとの初体験。
しかしその翌日は、ほぼ一日中、エレン含めた五人と仲良くする事となった。
朝日が黄色眩しいぜ…………。
感想でご意見いただきましたので修羅場にはしませんでした。
あと新作始めました。
どなたか、目次の作者名から作者マイページに飛べるように設定する方法ってご存知ないですか?




