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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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第73話:再会、セニア

セニアとの再会回です。

勇者とも若干絡みます。


さて、恐らくはセニアの逃亡を助けてくれた帝国の勇者と、追っ手の兵士が睨み合いをしている状況だな。

大事なのは声の掛け方だ。勇者への対応だ。

ここで対応を間違えると、セニアの心があの勇者に傾いてしまうかもしれない。


状況から考えて、セニアはまだ俺に心を残している。

あの勇者が帝国から離れられない事情があったとしても、ここまで連れて来てくらたのなら、国境までは守ってくれる筈だ。

あとはセニアだけで国境を越えて、俺の下まで逃げればいい。

だけどセニアは俺を呼んだ。それは何故か? 俺に助けて欲しいからだ。

どうして?


そりゃ俺の事が好きだからだろう。


自意識過剰とか勘違いとか言うなよ。

少なくとも実績があるんだからさ。


だけどここは最悪の状況も想定しなければならない。


セニアが俺よりあいつを選ぶ可能性だ。


帝国の勇者は『常識』によるとあいつ一人。

装備が帝国騎士団の正規品なのは、ダンジョンに潜るのではなくて、帝国のあちこちで防衛、侵攻、内乱鎮圧にあたっていたからだ。

何故勇者をダンジョンに潜らせなかったのかは想像でしかないけれど、まぁ、ダンジョンの深部で手に入る強力な魔法の武具を与えたくなかったからだろうな。

ただでさえ神から与えられた神器を持っているんだから。

勿論、ダンジョンから勇者が強力な武具を手に入れて来ても、国が命ずればそれを没収する事もできるだろう。

けれどそれで帝国と勇者の間に溝ができてしまったら?


勇者を中心に革命が起きちゃうかもしれないからな。


さておき、そんな勇者が自分に協力してくれた、となれば感謝と同時にある程度の好意は抱くだろう。

しかも強い。性格はわからないけれど、皇室での権力闘争に敗れた、有体に言ってもう皇族ではなくなっただろうセニアの逃亡を助けてくれるくらいだから、それなりに義に厚い筈。

そして俺と同じ黒目黒髪。


まぁ、セニアが惹かれてもしょうがない。

俺という初めてを捧げた相手がいなかったら、普通にくっついてたんじゃねぇの? ってくらいよくできた関係だよ。


だからここで俺は間違える訳にはいかない。


たった一つの言葉、対応のチョイスの間違いで、体だけじゃなくて心まで奪われるのは、NTRもののパターンの一つだからだ。


ちなみに俺はNTRものを忌避してはいない。特に女性視点のストーリーは背徳感と相まって非常にエロいとさえ感じる。

ただ、彼女や幼馴染、家族をNTRされる以外の理由で主人公がこき下ろされるのはあまり好きじゃない。

ディープなNTR好きはそこも含めて良いと思うのかもしれないが、エロとは関係の無い所で主人公をボロボロにしても意味が無いと思うんだが、どうだろう?


なんだったかな? NTRもの自体はともかく、主人公が精神的にも肉体的にも社会的にも全てを失うような作品が多くなった背景には、ギャルゲーエロゲーによくある、『どこにでもいる学生』の主人公に対するアンチテーゼだとか読んだ記憶がある。

なんでこんな凡庸な奴がこんなにモテモテなんだ? という嫉妬と疑問。

あまりにも受け身な性格であり、何もしなくても無条件にモテる、そういう主人公に嫌気が差した、或いは不快に感じたユーザーが多かったために、そうした主人公が徹底的に貶められる作品がヒットした、みたいな話だった気がする。

「こんなイイオンナを前に手を出さないなんてバカじゃねーの?」とはNTR男が彼女に投げかける言葉のテンプレの一つだ。

この言葉に共感したユーザーが非常に多かったんだろう。


閑話休題それはともかく


冷静になって見ればあの体勢にも理解できる。

二人の足元に広がっている凍った大地は、氷の勇者の固有技能ユニークスキル、『ケルヴィンサークル』というそうだ。


氷の勇者の神器である氷の斧槍を突き立てた場所を中心に、絶対零度の場を作り出すスキルらしい。

なにそれ怖い。

絶対零度はおよそマイナス273度。そんな温度になった地面に足を下ろしたら、一瞬で凍結。そして自重に潰されて砕け散る、と。

ヤバイなんてもんじゃないな。そりゃセニアも足下ろせないわ。


なんか現実の世界では熱力学とか量子力学とかで扱いというか、概要が違うらしいけれど、まぁあれは神の力によって無理矢理引き起こされた物理現象だからな。

全ての原子が停止する世界、と表しても間違いじゃないだろう。


ここまで順調に逃げて来たけど囲まれてしまった感じか。

ステータスの差を考えれば、囲まれたとしてもあの氷の勇者が無双して逃げられた筈。

周囲に他の兵の死体も見えず、いきなり切り札発動させてる事を考えると、どうもあの勇者、帝国兵を極力殺したくないみたいだな。


戦争では普通に敵兵殺してたみたいだから、帝国に何か恩義でもあんのかね?

現代日本人の倫理観や道徳からすると、帝国はかなりヤバイ国な訳だけど、その帝国に同調したんなら、セニアを逃がそうと思わないだろうし、帝国兵も気にせず殺す筈だからな。

国というより、人に恩義とかそういうのを感じてるのかもしれん。


てことは俺が後ろから近付いてバッサリ、ってのはマズイか。

じゃぁ、まぁ、普通に行くか。


という訳で、馬に『アイスターミネイト』をかけて腹を蹴る。

包囲に向かって駆け出す。

炎の魔法を囲む兵達の周囲に着弾させる。驚き、混乱する兵。

そして近付いて来る俺を全員が見る。

勇者の首にしがみついていたセニアの目が驚きに大きく見開かれ、次の瞬間、喜色が浮かぶ。


「手を伸ばせ!」


叫んだ。抱きかかえられたままの体勢で両手を伸ばすセニア。

その動きに、俺が敵ではないと判断したらしく、身構えようとした勇者もその動きを止めようとしない。


「待て、今ここは……」


代わりに俺に向かって静止の声を上げる。


「大丈夫だ! 問題無い!」


そのまま混乱する兵達の間を駆け抜け、サークルへと突入。

これが、何か魔法や祝福が炸裂した結果、マイナス273度に変化したのなら、『アイスターミネイト』では防げなかっただろう。けれど、魔力によって地面の温度をマイナス273度に変えたのなら問題無く無効化できる。


すれ違い様にセニアの手を掴み、引き上げる。そのまま俺の前、腕の中に横向きに座らせた。


「悪い、待たせたかな?」


「うぅん、大丈夫」


息がかかる程の距離で見つめ合う。自然と、唇が重なった。


よし! 最悪の状況回避!


後は家に着くまでに奴隷の事を言わなければ、なし崩し的に納得するしかないだろう(ゲス)。


「このまま『テレポート』で帰ってもいいが?」


「てれぽーと?」


そう言えばセニアには『ワープゲート』と思わせていたんだったな。


「その辺りも後で説明しよう。積もる話もあるしな。それで、どうする?」


俺はちらりと勇者の方を見た。


「私を逃がす手伝いをしただけでもかなりまずい立場に追い込まれている筈。何とかできる?」


「そうだな、とりあえず目撃者を消しておくか。問題あるか?」


「私が皇族でなくなった時、彼らは敵になったわ。そして、私は敵に容赦も寛容も持ち合わせていない」


「了解した!」


セニアを抱えたまま馬を回頭させ、追いかけようとしていた兵達へと向かって突撃する。

途中で『マジックボックス』から火竜槍を取り出す。


「あ、それ」


「もう一年以上前の話だしな。それにここは帝国だから問題無い!」


駆け抜け様に、箒で地面を払うように槍を振るい、帝国兵を切り裂く。

更にもう一人を、振り下ろしで袈裟掛けに斬る。


次々に駆け抜けながら帝国兵を薙ぎ払う。赤い線を引いていく、とかなんとか。


十分程で、二人を囲んでいた兵は全滅した。

ひの、ふの……結構な数が居たんだな。包囲網が広かったからもっと少ないように錯覚してたわ。


「ここまで無事に連れて来てくれた事、セニアに替わって礼を言う」


俺は氷の勇者の近くに馬を止め、セニアを乗せたまま地面に下りると、勇者に対して頭を下げた。


「あ、いえ。あ、いや。うむ。問題無い」


年相応の高い声。最初は戸惑っていたようだけど、すぐに声を抑えて俺に応えた。


「ん? セニア?」


そして氷の勇者は首を傾げる。


「ああ、そうだな。どうする? もうモニカって呼ぶか?」


勇者が疑問を持った意味を理解した俺は、馬上のセニアに尋ねる。


「そうね。もう私は帝国王女モニカ・ヴェレイ・デル・フェレノスではなく、只一人の女、モニカよ」


若干俺とセニア、いやモニカの間にズレが生じた。

まぁいいか。モニカと呼ぶがよいってんならモニカと呼ぼう。


自分が捨てた、或いは自分を捨てた国とは言え、名前に愛着が無い訳じゃないだろうからな。


「わかった、モニカ。状況を見れば何があったかはわかる。だから改めてもう一度言おう。俺はいつでもお前の味方だ。いつでも頼ってくれて構わない」


「ええ、お願いタクマ。私を攫って逃げてくれる?」


「ああ、勿論だ」


「で、そっちはどうする?」


そこで俺は勇者に話を振る。


「いや、迎えが来たというなら、俺の役目はここまでだ。王女の護衛、いや、もう王女ではないのだな。も、モニカの護衛、よろしく頼む」


名前を呼ぶところで若干照れたな。

ははーん、さてはこいつ童貞だな(上から目線)。

モニカを好きとかいう以前に、綺麗な女の子に参ってる感じか。

ひょっとして、モニカを助けたのも、自分に惚れてくれるかも、とか考えてたとか? 邪推し過ぎ? いや、俺がモニカを最初に助けた時はそういう下心持ってたじゃん。実体験に基づく限りなく確信に近い予想だよ。


「お前は来ないのか?」


「俺にはここでやる事がある」


「こんな国に恩義でも?」


「こんな国か……」


ふ、と勇者は鼻で笑った。


「確かにそうだ。この国と、この国の上層部には好意を抱いていないどころか、憎んでさえいる」


「だったら……」


「けれど、この国の人には恩義を感じている。奴隷のような扱いを受けていた俺を助け、正当に評価してくれた人々が、この国には居るんだ」


「そうか……」


どうやら只の中二病という訳ではないようだ。名前からして召喚されたか転移者だろうな。俺みたいに事前の説明とかが無いとやっぱりチートがあっても生きていくのは厳しいか。


「俺はタクマ。時空の神の使徒だ。名前からわかると思うけど、多分同郷だな」


「! そうか。俺だけじゃないよな……。俺は長瀬ながせ慎二しんじ。氷の勇者だ。けれどなんと言うか……、なんかズルいな」


「ズルい?」


まぁ、言いたい事はわからなくもない。


「俺はこっちの世界に突然呼び出されて、右も左もわからずに居たら、兵士に剣突きつけられてさ。そのまま投獄&奴隷堕ちだ。俺が勇者だと知れると皇族はあちこちの戦場に向かわせてさ。実力を示したお陰で兵士とか将軍とかと仲良くなれたけど、贅沢もさせて貰えずにこき使われてたって言うのに……」


俯いて肩を震わせる慎二君。あー、溜まってたんだね。

ていうかこれマズイ流れじゃないか?


「なのにアンタは美少女と楽しく冒険した挙句、その美少女を攫って逃げるだとぅっ!!」


叫んで突き立ててあった斧槍を手に取る慎二君。おい、待て、それはヤバイ。


「とりあえず色々な俺の鬱憤と嫉妬と憎悪をこの武器に乗せるから、一発殴らせろ!!!」


「お前の攻撃力で殴られたら死ぬわ!」


「誤魔化せないぞ! アンタの名前黄色じゃないか(・・・・・・・)! 一発くらい大丈夫な筈だ!」


くそ『致死予測』か!? 厄介なスキルだ。


横薙ぎに振るわれた斧槍をしゃがんで躱す。振り抜くと同時に慎二君は右手を離し、左手を大きく引く。今度は片手で引く。

そこから片手で斜めに振り下ろした。斧槍が光っている。『スマッシュ』を乗せてるのか!?


「お前、スキルは反則だろ!」


しゃがんだ際に畳んだ足をバネ代わりに跳躍。横に跳んで斧槍を躱した。


そこへ無詠唱で炎の魔法、『フレイムランス』をぶち込む。

五発程。


フレイムランスの威力上限キャップと慎二君の魔抵の高さなら五発全弾直撃しても死にはしないだろう。


「があああぁぁぁ!!」


咆哮と共に爆炎の向こうで斧槍が振るわれ、炎と煙が薙ぎ散らされる。


 


状態:激昂(中度)狂気(中度)



あ、キレた。

これがキレやすい若者って奴か。


『サニティ』『サニティ』『サニ』……


ひぃっ!? 『サニティ』レジストされた!!


これは素直に一発貰った方が良かったかなー? もう一発じゃ済まない雰囲気じゃね?


「し、シンジ、やめて……」


馬上からモニカが叫ぶ。しかしその声ももう届いていないようだ。


「そのまま馬の上に居ろ!」


止めに入られて事故が起きては敵わない。まぁ、一応蘇生の魔法はあるけどさ。


慎二君の周囲に氷の槍が浮かぶ。

『アイシクルランス』? そうか、氷魔法か。

魔法の殆どは神によって製作された、或いは、祝福の弱体化、汎用化したものだ。


そして、この祝福として使用した魔法は、通常の魔法と比較した時、大きな違いはその威力に現れる。


魔法の場合はそれぞれの位階に依って威力に制限がかかる。けれど、祝福にはそれがない。

四桁超えの魔力が凝縮された氷の槍が俺を襲う。


当たる訳にはいかない。これを何とか躱す。


「うぉっ!?」


目の前に慎二君が迫っていた。

氷の槍を囮に突っ込んで来たのか! けれど、甘い!


「ぐおっ!?」


斧槍を振るう前に、俺が放った『インヴィジヴルジャベリン』が慎二君に直撃する。

仰け反るが、その動きを利用して逆袈裟に切り上げて来た。


とは言えなんか慎二君の動き……。


振り上げた所で両手で柄を掴み、大上段に構える。


大雑把というか……。


力任せに振り下ろされた一撃。その刃の速度はかなりのものだし、地面に小さなクレーターを作る程の威力だったけれど、動き出しが見え見えなので回避するのは簡単だった。


「素人臭ぇ!」


こういうの、言えると嬉しいよね。

あの漫画は虎の字に限らず、セリフが芝居がかってるというか歌舞伎みたいというか。恰好良いのが多いからなぁ。

不思議な冒険に並ぶ、一生のうちに言いたいセリフが沢山ある漫画だと思う。


斧槍を振り下ろした慎二君の顔面にハイキックをぶち込む。足を振り抜きながら、『インヴィジヴルジャベリン』を連打する。


多分だけど、ダンジョンに潜らず戦争にばかり駆り出されていたから、身体能力の高さを頼りに無双する動きが身についてるんじゃないかな。

大仰な動きも、戦場では相手を威嚇するのに役立つし。


「ぐはぁ……!?」


流石にこれには耐えきれなかったのか、大きく吹き飛び、地面に仰向けに倒れる。


その隙に俺はひらりと馬に飛び乗った。


「とにかく、ここまでモニカを無事送り届けてくれたことには感謝する! できれば二度と会いたくないけれど、もしも会う事があったら、改めてお礼をしたい!」


「……一つ、言っておく」


どうやら吹き飛ばされた事で正気に戻ったらしい。コンヒュでも食らってたのかな?


「多分、近いうちに帝国と王国で戦争になる。俺も多分、それに参加する事になる」


「だろうな」


慎二君がどうとかじゃなくて、戦争の方に俺は頷いた。モニカが逃げて来たって事は、そういう事だからな。


「アンタはどうするんだ?」


「一応俺の身分は冒険者だ。依頼があったら考えるよ」


まぁ、ガルツの位置なら召集されるのも大分後だろう。それこそ、国境を破られてからになる筈だ。


「できれば、お前とは戦いたくないけどな」


「それはこっちのセリフだ……」


そして俺は、モニカを乗せてその場から駆け出した。




「暫く進んだら『テレポート』で家に帰る」


「家?」


「ああ、お前に貰った報酬で建てたんだ。ガルツの郊外に。大分留守にしちゃったからな、急いで戻らないと」


「ふぅん? 待ってる人でも居るの?」


「ああ」


「え?」


「しかも三人」


「三人も!?」


「すぐに紹介する。きっと仲良くなれるさ」


「だといいけどね……」


俺にしがみつくモニカの腕に力が込められた。


「それとモニカ」


「……なに?」


唇を尖らせてぶっきらぼうに応えるモニカ。拗ねているようだ。可愛い。


「綺麗になったな、見違えたぞ」


「…………もうちょっとムードを考えてよね」


言いながらも、モニカの頬は赤く染まっていた。


という訳で、無事セニア確保しました。

今後彼女はモニカ表記で統一していきます。

次回はまた三人称。戦争の話になります。

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