第72話:過去からの手紙
第三章後半開始です。
タクマ視点です。
ミカエルが俺の所に来て一年が経った。
俺がこの世界に来てからもうすぐ二年が経過する。
この一年は特に大きなイベント、というかトラブルは無かった。
農業を始めた事で収入が上がり、ダンジョンを利用したサラ達のレベリングも順調だ。
そろそろ馬の飼育でも始めるか、と考えていた頃、予想外の来客があった。
俺の家を訪ねて来たのはただの商人だった。
ただ、その商人は俺宛の手紙を持参していた。
中を改めて、俺は驚いた。
差出人はモニカ・ヴェレイ・デル・フェレノス。
ついに来たか、という思いと、やっと来たか、という想いが俺の中に生まれる。
彼女を既に過去の人間にしていた訳じゃない。
けれど、まさかもう一度会えるとは思っていなかった。
いや、まだ会えるとは限らない。
手紙には、皇室での政治闘争に敗れた事。これから帝都を脱出する事。
可能なら、国境付近まで迎えに来て欲しい事が書かれていた。
行かない訳には、いかないだろう。
正直帝国のどこへ行けばいいかわからなかったけど、国境を越えたら村や街をとりあえず帝都まで北上してみるか。
リビングに全員を集めて説明をする。
「という訳でちょっと帝国行って来る」
「なにがという訳なのかわからないけど、その帝国の第三王女とはどういう関係なんだい?」
尋ねて来るミカエルの笑顔が怖い。
嫉妬っすかー? 嫉妬っすねー。
嬉しく思うけれど、やっぱり怖い。
「昔一緒に冒険した仲だな」
「それだけですの?」
カタリナが即座に突っ込んで来る。
追及厳しいなぁ。
「まぁ、一応男女の関係はあったよ」
隠しても仕方ない。向こうで見つけたらこっちに連れて来る事になるんだから。
「え……?」
そして自分が俺の初めてだと思っていたサラが、この世の終わりのような表情を浮かべている。
「帝国の王女って事を隠しててな。まぁ、ミカエルの時と同じように『アナライズ』で最初からわかってたんだ。だから、面倒事を避けるために最初はそういう深い関係になるつもりが無かったんだけどさ。それが逆に、紳士的だと思われたらしくてな」
「ていうかタクマ君はあれだよね。優しいというか、甘いよね、色々」
呆れた様子でミカエルに言われてしまった。
カタリナもサラも、うんうんと頷いている。
「けれど、その甘さがあったお陰で、今のわたくしがありますから、そんなご主人様を否定いたしませんわ」
嬉しい事言ってくれるじゃないか。
「そうだね。その点はボクも感謝しているよ」
「勿論、私もです」
苦笑しながら言うミカエルに、サラも鼻息荒く続く。
「ボク達だけ助けられておきながら、彼女は駄目、なんて虫の良い事は言わないよ。君も、二年振りって事は積もる話もあるだろうから、わかった。大人しく留守番しているよ」
「すまんな」
「構いませんわ。その代わり、戻ってきたらたっぷりと、お礼をいただきますわよ?」
「お手柔らかに……」
髪をかきあげながら言うカタリナの言葉に、俺は苦笑を返した。
「タクマ様、ご武運をお祈りしております」
そしてサラが、深々と頭を下げたのだった。
王都北部にあるイウニスの街郊外まで『テレポート』で飛び、イウニスで馬を借りて北上する。
帝国との国境にある、直近の場所はイウニスから見て北西にあるフェルデバの砦だけど、イウニスからだと王国北部に横たわる、ニルム山脈を越えなければならないので時間がかかる。街道も直通で繋がってないしな。
ニルム山脈は王国北部中央から、北部東のルル湖の北辺りまで伸びる巨大な山脈で、これがあるから、帝国は王国へ侵攻する際、大軍を用いる場合はフェルデバ砦を攻略しなければならなかった。
どこを攻められるかわかっているから、王国としても守り易い訳だ。こういう時は不便だけどな。
イウニスから北へ真っ直ぐに行くと、このニルム山脈を東西に分ける位置にマナグル砦がある。
山脈の他の部分に比べ、標高が低く、それなりに大軍が動けるこの位置に砦を築くのは、まぁ防衛上当たり前だ。
帝国との関所は西部のメグレ砦か、東部のフルーグナルの街にあり、基本帝国との交易はこの二ヶ所で行われている。
セニアが皇室での権力闘争に敗れたという事は、急戦派が勝利したという事だから、まともな道は警備が強化されているだろう。
戦力にもなる冒険者をこの時期にすんなり帝国側へ通すとは思えない。
だからマナグル砦から北の国境へ向かい、山地を越えて帝国領内へと入るつもりだった。
馬で越えるのが難しいようなら、それこそ魔法を使って飛べばいい。王国領内だと目撃者が居ると面倒だけど、帝国ならそこまで気にしなくていいだろう。
伝え聞くだけでも、外国人が住みよい国とは思えないからな。わざわざ帝国内にあるダンジョンへ行く必要も無いし。
最悪雲の上まで飛べば見つかる事はないだろう。雲が途切れても、この世界にそこまで上空を観測する方法が無いから、鳥かなんかだと思う筈だ。
そんな上空からどうやってセニアを見つけるのか? って問題もあるけどさ。
しかし、この一年半程、常に誰かと寝ていたせいで、久しぶりの一人寝が寂しいぜ。
随分贅沢な体になったもんだ。
「おや……?」
首尾良く帝国領内に入り、山地を進んでいると、『サーチ』と『魔力感知』に反応があった。
あまりにも強大な魔力。周囲を見渡してもそれらしいものは発見できない。そのくらい遠くからこちらまで届いているんだ。
しかも『アナライズ』を併用して探ると、この魔力、微妙に神の力を帯びてるらしい。
神官か、使徒か。あるいは勇者か。
正直、国境付近まで迎えに来てくれ、と言われても、どうやってセニアを探せばいいのかわからなかったけれど、もしもこれがセニア、或いはその協力者によるものなのだとしたら。
成る程。国境付近まで来ればわかるって寸法か。
勿論セニアとは全然関係無い可能性があるけれど、他に手がかりも無いしとりあえず行ってみよう。
仮に違っていたとしても、これだけの魔力の持ち主。個人だろうと組織だろうと、絶対に帝室と繋がりがある。
セニアの敵にしろ味方にしろ、その行方をある程度掴んでいる筈だ。
…………セニアが敵に発見された結果とかじゃないよな?
「おいおい、なんだあれ……?」
魔力の発生源は、山地の麓にある村だった。
その中央広場のような場所で、数人の兵士らしき男達が、同じ格好をした男を囲んでいる。
けれどその距離は妙に遠い。おまけに、遠目にも囲まれている男を中心に地面が凍っているのが見えた。
帝国は北にある国のイメージに違わず、王国より大分寒い。この時期だと国土全てが雪に覆われていても不思議ではないそうだ。
けれどあれはそういうのとは違う。
囲まれている男の傍らには、まるで氷でできているかのような透明感と輝きを持つ斧槍が突き立てられている。
そしてその男は、一人の女性を抱きかかえていた。
髪と手足が伸びて、美しいが幼さを残しており、どちらかと言えば可愛らしい雰囲気だった顔は、肌の白い細面の美人へと成長していた。
かつて恋し、愛し、そして別れた少女。
セニアこと、モニカ・ヴェレイ・デル・フェレノスがそこに居た。
…………居たのはいいけど、その態勢はなんなん?
ここまで逃げて来るのに、兵士や騎士団に協力者が居たって別におかしくはない。
おそらく追っ手だろう敵に囲まれているのだから、その協力者の傍に居てもおかしくはない。
でも何故抱きかかえられている?
何故お姫様抱っこされている?
おいおい、まさか俺と別れてから今までの間に、そいつと個人的に仲良くなったのか?
そりゃ俺はお前を手放しましたよ。けれど、それはお互いに仕方のない事と理解していたじゃないか。
いや、確かに、別に恋人だった訳じゃないし、そうと明言された訳じゃありませんし?
お互いに恋人も親しい異性も作らずにいようって約束した訳じゃありませんし?
そもそも俺が三人も奴隷を抱えてしかも肉体関係を持ってて何言ってんだ? って気もするけれど。
けれど流石にそれはないんじゃないか?
いや、勿論、ただの協力者だって可能性はある。
というか普通に考えてその可能性の方が高い。
第一、いくらなんでも、別の男と愛を確かめ合っておきながら、俺に助けてくれって言っては来ないだろう。
セニアなら誇り高く自害を選ぶ筈だ。
いや、うん。俺だってそういう時に自ら命を絶つのが正しいって思ってる訳じゃない。
でも、セニアの性格的にそうなんじゃないかなー? って。
まぁ、いいや。仕方ない。
あの男がただの協力者だろうとセニアの恋人であろうと、俺が彼女を助ける事に変わりはない。
少なくとも、自分の女じゃなくなったから後はどうでもいい、なんてそんな薄情な事は言えねーよ。
名前:長瀬慎二
年齢:15歳
性別:♂
種族:人間
役職:氷の勇者
職業:勇者
状態:疲労(中度)空腹(軽度)興奮(中度)
種族LV73
職業LV:勇者LV68 戦士LV7 槍戦士LV3 斧戦士LV4
HP:1756/1849
MP:1215/1801
生命力:1098
魔力:1221
体力:1256
筋力:2105
知力:1013
器用:1573
敏捷:1692
頑強:1223
魔抵:1412
幸運:122
装備:氷の斧槍 白鋼石の鎧 白鋼石の篭手 白鋼石の脚甲 ダガモ毛の服
保有スキル
氷の神の加護 英雄の資質 氷魔法 斧戦闘 槍戦闘 長柄戦闘 直感 致死予測 忍耐 精神抵抗 死後の一戦 見切り
スマッシュ フルスイング ダブルスパイク ダブルスラッシュ アクセル ラッシュ 英雄力解放
それに、こいつと恋仲なら、俺を呼ぶ必要が無いしな。
タクマの嫉妬炸裂。
そして次回はセニアとの再会。
果たして彼女はNTRなのかNTRされていないのか。
 




