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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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閑話:そして戦いが始まる

三人称です。

戦争の話ですが、タクマが戦うより残酷描写が少ないです。

三人称視点です。




帝国軍、国境付近の村に集結中。


その報告が届いたのは、王都が爆撃の被害から立ち直ろうとしていたある日の事だった。

その数は二万にものぼると言われ、更に後方から後詰の軍が進軍を開始したという情報も上がっていた。


「北方の貴族に動員をかけよ。フェルデバの砦に集結。その後は赤狼騎士団の指揮下に入るように」


現在赤狼騎士団は王都を離れ国境の防衛にあたっていた。

これまで、何度か小競り合いがあったが、本格的な侵攻となれば彼らだけでは防ぎきれないと判断した。


「ロドニアとノークタニアには使者を出せ」


王国の西側に位置する国にはそれで充分だった。戦力の提供はしてくれないだろうが、帝国に阿る事さえなければ問題が無い。


「南の防備は決して薄くせぬよう」


王国南にはラングノニア王国があるが、彼らは国内に不安を抱えている。

国境を手薄にさえしなければ、彼らが動く事はないだろう。


「東には青犀騎士団を向かわせ、東方の貴族と共に小国家群を牽制させよ」


状況によって王国にも帝国にもつく東方にある小国家群にも睨みを効かせなければならない。

今回帝国との戦いに徴収するには、ダゴニアの氾濫で東方貴族はダメージを受け過ぎた。


「黄虎騎士団を呼び戻しておけ。中央の貴族に動員をかけ後詰とする」


現在王国内を巡回している騎士団に召集をかける。


王都が爆撃された日から、今日のこの時を警戒して準備を進めていたとは言え、やはり実際に事が起きると、多くの人間が混乱していた。

リチャード三世の指示が無ければ、まともな対策を打てず、国境では赤狼騎士団千人が瞬く間に蹴散らされていただろう。

流石に平和な時が長過ぎた。会議の場に集まった貴族達は、何が正解かわからなかったため、いざ失敗した時の責任を取らされないよう、当たり障りの無い意見しか出さなかった。

赤狼騎士団の団長でさえ、自国の村で士気を上げるために略奪を行う帝国軍のおぞましさを伝えただけで、生産性のある意見は出さなかった程だ。


「会議は踊る。されど進まず」


会議に参加していた一人の貴族が言った言葉を受け、リチャード三世が直々に指示を出したのだ。


「黒鯨騎士団、王都を離れる事をお許しください」


「勝てるか?」


評定を終え、自室に戻ったリチャード三世は、先の言葉を発した貴族に問いかけた。

その貴族は四十を超える壮年の男性で、王室直属の五つの騎士団の一つ、黒鯨騎士団の団長を務めていた。

彼はリチャード三世がルードルイ太守だった頃に知り合い、それから三十年近く、王の懐刀として仕えている。


リチャード三世からすれば、気の置けない親友でもあった。


「勿論。そのために準備をしてきたのですから。錬金術ギルドには随分無茶をさせました」


「元々王座に興味は無かったが、お前が居なかったら今の私は無い。勿論、これからもお前には私のために、王国のために役立って貰わなければならない」


「そろそろこの老人は隠居させてくださいませんか?」


「抜かせ」


唇を歪めて軽口を叩く黒鯨騎士団団長に対し、リチャード三世は苦笑いで応えた。


「勝てるな?」


「違います、陛下」


もう一度尋ねるリチャード三世に、黒鯨騎士団長はそう言った。


「陛下はただ私に命じてくだされば良いのです。いつも通りに、無理難題をふっかけてください」


そのあまりの物言いに、やはりリチャード三世は苦笑を返すしかなかった。


「では帝国軍二万、いや、帝国国民六百万。これを相手に負ける事は許さぬ」


「御意に」


「頼むぞ、イチ。知恵の勇者よ」




ついにこの時が来た。

黒鯨騎士団団長であり、知恵の勇者であり、公爵の地位にもあるイチ・ヤガタ・ウェズレイは心の中でほくそ笑んだ。

彼の本名は矢形やがた耕一郎こういちろう。四十歳の時に日本から召喚された勇者である。

その時は何の力も持たないただのサラリーマンだったが、勇者として得た神の加護のお陰で冒険者として生きる事ができた。

その時に出会ったのがルードルイ太守リチャード三世である。


特にこの世界で成り上がろうとか思っていなかった耕一郎だが、王族でありながらどこか厭世的なリチャード三世に惹かれ、自分の持つ知識を彼のために使う事を決めた。

冒険者としてその日暮らしの日々に飽いていたというのもある。そこは元サラリーマンらしい思考だった。

別にリチャード三世に手柄を立てさせて、王位継承権を押し上げようなどとは考えていなかった。

ただ偉い貴族に気に入られて、安定した生活を手に入れようと思っただけだ。

あとは、折角友人になったのだから、彼のために何かをしてやりたい、という純粋な友情もあった。


コンクリートを製造した事でエレア隧道の構想は絵空事では無くなり、結果リチャード三世はその功績をもって王になった。

第一王子が病死しなければリチャード三世が王座に就く事はなかっただろう。それが彼らにとって幸運であったか不運であったかはわからない。

けれど、間違いなく王国にとってはリチャード三世が王位を継いだ事は幸運だった。

彼によって耕一郎も引き上げられたからだ。

ただ個人で所有していただけの現代日本の知識を、王国の潤沢な予算の下で研究できるようになったのは大きい。


様々なものを生み出し、それによって王国を発展させてきたが、それ故に、彼が三十年近く研究しているある事柄に関しては、道楽だと笑われる事が多かった。

それを、ついに披露する事ができる。


「戦争になるのですか?」


自室で出立の準備をしていると、そう声をかけられた。

振り向くと耕一郎の予想通りの人物がそこに居た。

柔らかな金色の巻き毛。優し気な垂れ目にぷっくりとした唇。

顔に刻まれた皺は穏やかで、年老いて尚、女性としての魅力を失わない。

彼女はエリーゼ・ロート・ウェズレイ。

耕一郎が婿入りした、ウェズレイ公爵家の令嬢だった女性だ。

三人の子を産んだ事で、年相応の体形になっているが、未だに二人は同衾する事があるほど仲が良い。


彼女と結婚した時、耕一郎は既に六十近かった。

しかし、LVの存在を知り、そのメカニズムを解明した耕一郎は、所有経験値が下がらなければ老化も抑えられると考え、暇さえあればダンジョンに潜り、レベリングに勤しんでいた。


その甲斐あって、今なお耕一郎の外見は、この世界に召喚された時とさほど変わらない。

むしろ、冒険によって引き締まった体のお陰で、若返ったようにも見えた。


結婚当初は四十もの歳の差があったが、今ではエリーゼの外見が彼に追いつき、外見の釣り合いが取れるようになった。

エリーゼは自分だけが年を取ったように思えて若干劣等感を感じていたが、変わらず愛してくれる耕一郎との生活に幸せを感じていた。


「ああ。暫く家を空ける。なに、心配するな。私は負けないよ」


準備を中断して耕一郎はエリーゼに近付き、その腰を抱いた。

出会った頃の触れれば折れそうな細い腰も良かったが、程好く肉のついた今の腰も抱き心地が良い、と思った。


この世界に呼び出された当初は、神を呪い運命を嘆いたものだったが、若く美しい少女を嫁に貰った時は、思わず神に感謝してしまった。

元の世界にも妻子は居た。しかしあれは家族では無かったな、と耕一郎は思う。

妻にも二人の子供にも、自分は邪魔者扱いされていた。家に耕一郎の居場所は無かった。

日曜日に家に居ると、彼らが迷惑そうな顔をするのでそんな趣味も無いのに近所を散歩していたくらいだ。


亭主元気で留守が良い、とはよく言ったものだ。


「お前の夫は勇者なのだよ? ただの人間などに負ける筈がないだろう」


そう言って顔を近付けると、うっとりとした表情でエリーゼは目を閉じた。


「父上、この度は……! 失礼しました……」


唇を重ね、暫くそのままで居ると、はきはきとした声が聞こえた。すぐに慌てて立ち去っていく。


「今のはジョセフかな?」


「…………」


子供に見られた事でエリーゼは顔を真っ赤にして無言で俯いてしまった。

その仕草が可愛らしく、たまらなく愛しい。


「ジョセフは結婚したがジョージはまだだ。フェリアの相手も見つけてやらなければならない」


耕一郎こそ、研究に横やりを入れられないだけの権力を手に入れるため、公爵家との縁を結ばせたが、その子供の結婚相手となると難しかった。

へたに家格の高い貴族と結ばせると、他の貴族からの反発が大きいからだ。

どれだけ実績を積んでも、所詮耕一郎は出自の怪しい平民に過ぎない。


「それに、孫を抱くまで死にはしないさ」


そして再び唇を重ねる。

これは、明日寝不足かもしれないな。

久しぶりに耕一郎は、下腹部に力が漲るのを感じた。




エレノニア王国とフェレノス帝国の国境にあるフェルデバ砦。その前方およそ一キロの地点に帝国軍は布陣していた。

槍兵と弓兵が隊列を組んで行進する前を、土煙を上げて進む一団があった。

基本領民兵で構成されている帝国軍は装備が統一されていない。その中にあって、全員が同じ形状の鎧をつけた騎士達。

その先頭を行くのは、帝国六将と謳われる帝国一の猛将の一人、アンドレイ・ロワーナ将軍。


「ち、流石に気付かれていたか」


馬上でアンドレイは舌打ちをする。彼の目の前には、地面に幾つかの壁が設置されているのが見えた。

敵の防衛が整う前に騎馬隊約千騎でこれを切り裂く作戦だったのだが、やはり万の軍勢が動けば相手に知られてしまう。


「とは言え、敵もそれほど余裕がある訳ではないようですな。土壁でさえないうえ、高さも人の太もも程度しかありません!」


並走する騎士が嘲るように言う。彼の言葉通り、前方の壁は、何やら麻袋のようなものを積み上げただけの代物だった。


「袋の垂れ具合からして、石や鉄などではないな。砂か土か……」


確かに土壁は野戦陣地では基本となる防衛設備だ。しかしそれは、しっかりと高さと厚みを持たせ、乾燥させて初めて意味を持つ。

固まりでさえないただの土や砂では、騎馬隊の突撃を止められる筈がない。


「戦いは弓や魔法の遠距離攻撃から始まるのが定石。それを防ぐだけならあれで十分という判断なのだろう」


「しかしそれも一射で終わりですよ! やはり間に合わなかったので急造しただけだと思いますよ!」


「土壁を築くために他所から土を運んで来たはいいが、我々があまりにも早く来たため、とりあえず積んだだけでしょう!」


「そうだな。あの壁にどれほどの効力があろうと我らのやるべき事は変わらない。このまま突撃し、脆弱な王国軍を蹴散らしてくれん!」


「「「おおおおおおおおお!!!」」」


アンドレイの言葉に呼応し、騎馬隊が裂帛の意思を込めた雄叫びを上げる。

それは蹄の音と共に地響きとなって戦場を揺らした。


その直後、前方の壁から突き出た何かが瞬いたかと思うと、叫び声を掻き消す程の轟音が響いた。

何事かと思った直後、体に激痛が走り、アンドレイは馬から振り落とされたのだった。





「帝国六将の一人、『貫きの』アンドレイか。丁度良いな」


迫りくる騎馬隊を眺めて、耕一郎は呟いた。双眼鏡を覗き込んでいるので顔の上半分は隠れているが、口元が怪しく歪んでいた。

帝国随一の猛将を前にそのように嗤う様を見て、部下は、流石勇者だ、と素直に感心していた。


双眼鏡もそうだが、このような文明度の低い世界に来て、現代科学の知識がある者の多くが作る、作ろうと思うものがある。


火薬と銃だ。


火薬は素材を揃えて『錬成』して貰えば良かったが、苦労したのは銃だった。

『錬成』や『製作』で作ろうにも、スキルの使用者がイメージできなければ不可能だった。

では耕一郎が『錬金術師アルケミスト』や『鍛冶師スミス』を獲得すればいいかと言うと、今度は『勇者ヒーロー』の特性が邪魔をする。

レベルアップ時の成長率が上がる代わりに、『勇者ヒーロー』以外の職業を獲得しにくくなり、獲得しても成長しにくくなるのだ。

一応『錬金術師アルケミスト』は獲得してみたが、銃を作るにはLVが足りず、しかも全然上がらないので諦めた。

国中のドワーフを訪ねて周り、試作品が完成したのが五年前。銃の製作を開始してから、実に十年の時が経っていた。

その後も改良を重ね、ようやっと量産を開始したのが二年前だ。一年前の爆撃は驚かされたが、あれで軍事費が予算の大部分を占めるようになり、研究と量産が進んだのは皮肉としか言いようがない。


(あれもおそらく召喚された何者かが絡んでいたのだろうな)


グリフォンを操って空から攻撃するにしても、それは急降下しての肉薄攻撃になるだろう。

上から物を落とす。それも爆弾を落とすなんて発想は、この世界の人間ではまず出て来ない。

発案した者が居たとしても、賛同が得られずあれだけ大規模な作戦は不可能だろう。


耕一郎の研究にしても、彼が異世界から召喚された勇者であり、しかも『知恵』の勇者であったから容認されていたのだから。


そして耕一郎にはある懸念があった。

LVというものが存在し、ステータスの高さに物理法則が捻じ曲げられるこの世界で、果たして銃はどれほどの効果を発揮するのか? というものだ。


弓矢ならステータスが乗る。スキルの恩恵を得られる。

だが、火薬の爆発によって鉛の弾を撃ち出すだけの銃に、それらのシステムは適用されるのか?


結論で言えば否、だった。

大した強さを持たない新兵に撃たせた時と、自分が撃った時で銃弾の速さも威力も変わらなかった。

弓使い(アーチャー)の職業持ちに撃たせても同じく。


おまけに、放たれた銃弾が的に当たるまで、耕一郎は見る(・・)事ができた。

あれなら躱せる、と直感的に思ったのだ。


流石にどのくらいのステータスなら躱せるかを試す訳にはいかなかった。個人的に強いと言われる兵や将軍達に銃撃を見せて、躱せるかどうかを確認した事はあるが、耕一郎では細かいステータスの数字を知る事ができないので、大雑把な目安にしかならなかった。


間違いなく、目の前で銃を撃っただけでは、あの先頭を走る将軍には当たらないだろう。

ならば面の攻撃ならどうか?

それも、相手にはそれが何かわからない状態ならばどうか?


さて、試してみよう。自分の知識がこの世界でどのくらい通じるのかを。


「地球人が一万年をかけて積み上げた科学の力、とくと味わうがいい!」


そして耕一郎が腕を振り上げ、


「てぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


号令と共に腕を振り下ろすと、土嚢の背後に並んだ銃口から、轟音と共に鉛の弾が飛び出した。




「将軍!?」


頭上から聞こえて来た声に、アンドレイは意識を覚醒させた。


「な、なにが起きた……?」


「わかりません。敵陣地から轟音が響いたと思ったら、将軍を始め、前を走る騎士が突然倒れて……」


「む……?」


起き上がろうとして、脇腹に熱を持った痛みがあるのに気付いた。

鎧が赤く染まっている。触れると、穴が空いていた。


「魔法……でしょうか?」


「わからん。治癒魔法を使える者は?」


「騎兵の中には組み込んでおりません」


「動ける者を集めろ。集結後、再突撃を図る」


「よろしいので?」


「もしもあれが急拵えの簡易陣地でないなら、敵は元々この一撃で決めるつもりだった筈だ」


「なるほど。まさに、その一撃を撃ち込むまで矢や魔法を防げれば良い、というだけのものだったのですね」


「ああ。魔法かマジックアイテムかは知らんが、まぁ、目の前の陣地から突き出たあれが先の現象を起こしたのだろうから、マジックアイテムの……」


言いかけて、アンドレイは絶句する。


陣地から突き出ていた鉄の筒が一度引っ込んだかと思ったら、再び同じものが陣地の上に据えられたからだ。


「命令を撤回する。動ける者はすぐに退却。生死問わず同胞を乗せて速やかに」


「え……? は、はい……」


「急げ! もう一度あれば来るぞ!」


アンドレイが叫ぶと同時に、再び陣地から轟音が聞こえて来た。

今度はしっかりと見た。

筒から放たれた鉛の玉が、高速でこちらへ飛来するのを。


「ちぃっ!」


躱そうと思ったが、腹部の痛みが行動を阻害する。何とか、身を捻って頭部への直撃は回避した。

アンドレイの周囲で悲鳴が起きる。


「状況!」


「シドレ副長が戦死! 自分エンデヴィが引き継ぎます。先の攻撃と併せて、負傷400! 死者はわかりません!」


先程まで話していた騎士が、頭を吹き飛ばされて地面に横たわっていた。


「動ける者はすぐに撤退せよ! 馬が無事なものは生死問わず同胞を回収!」


同じ命令を発し、アンドレイも立ち上がる。


「ぐぅ……」


動くと腹部と右肩に痛みが走る。どうやら先程の鉛の玉が体内に残っているらしい。


(このまま治癒魔法を受けていたら死んでいたな……)


自らの強運に感謝をしながら、アンドレイは激痛に耐え、その場から撤退を始めた。




「今、躱したな……」


双眼鏡で見ていた耕一郎は、アンドレイが頭部への直撃を躱した動きを見て、そう呟いた。

やはりステータスが高いと見切られるか。

銃の正体に気付いたか、それとも直感で避けたのかはわからないが、ここは前者と見ておいた方がいいだろう。


他の騎士は反応できていなかったから、躱せるのはアンドレイだけだ。これがわかったのは大きい。まだ銃撃は有効だ。


「三射目構え!」


耕一郎の言葉に、膝射姿勢を取っている銃歩兵達の背後に控える兵士が、銃歩兵から鉄砲を受け取り、代わりを渡している。


「四射目用意!」


そして更にその後方に居る兵が弾込めを行い、前方の歩兵に渡している。


織田信長が長篠の戦いで用いたとされる三段撃ち。

射手交代の(・・・・・)三段撃ちはほぼ否定されている。その替わりに考察されているのが、この鉄砲交換の三段撃ちだ。


これなら鉄砲の弱点である射撃間隔の長さを補う事ができるし、射撃の訓練をするのは一人で良いので育成も楽。射手は射撃にだけ集中できるので命中精度も上がる。

良い事尽くめだ。


(スコープやマシンガンが作れれば良かったんだが……)


流石にそこまでの知識は無く、また研究している時間も予算も無かった。


(焦る必要は無い。これで鉄砲の有用性を示す事ができた。私とその周囲だけで細々とやっていたが、これで大々的に研究できる筈だ。ひょっとしたら市井に、最新の銃の知識を持った勇者が紛れているかもしれない)


「構えよし!」


「撃て!」


三度轟音が響く。


敵は既に撤退を開始している。ほぼ目標は、動きの鈍い負傷者や徒歩の者に集約されていた。

その中にはアンドレイが居る。ここで彼を打ち倒す事ができればこの戦いは最早勝ったも同然だ。

背を向けている状態では銃弾を躱す事もできないだろう。


だが、耕一郎の思惑は一人の男の出現によって外れる事になる。

突然後方から飛び込んで来たその男は、目にも止まらぬ速さで斧槍を振るい、迫る銃弾の多くを弾き落とした。


「なにっ!?」


予想外のできごとに、思わず耕一郎は双眼鏡から目を離して叫んでいた。

そして視る。

アンドレイを背にし、自身の身の丈を超える、長大な斧槍を構えてこちらを睨む黒目黒髪・・・・の男を。

勇者ヒーロー』のスキル、『致死予測』によって男の頭上に名前が浮かぶ。


(長瀬慎二……。 日本人? 勇者か!)


そしてその名前は、黄色く点滅していた。

次回は帝国との開戦前でタクマ視点となります。第三章後半開始です。

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