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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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閑話:農業改革?

そのまま本編としてナンバリングしても良かったですけど、一応閑話です。

内政チートは女神から禁止されています。

とりあえず慌ててサラドを離れてしまったので、あまりおおっぴらにガルツに戻っている事を見せるのはマズイ。

街にさえ行かなければ追及されても「知らない」で押し通せるだろう。

夜に家に明りが灯っている場面を目撃されても、留守なのをいい事に旅人や盗賊が使っていたんじゃないか? とか恍けてしまえばいい。

そもそも、夜に城壁の外に出る酔狂な人間はほぼ居ない訳だし。

それこそ、そいつこそ追及されるとマズイ事情を抱えてるだろう。


「という訳で、一週間ほど家の中から出ないように」


「はい」


「わかりましたわ」


「それはいいけど、食べ物とかはどうするんだい?」


俺の能力を知らないミカエルだけが疑問を口にする。


「そうだな。その辺も含めてミカエルに教える事は一杯ありそうだ。まぁ、時間は沢山あるし、問題無いだろう」


『マジックボックス』に解体していないものも含めて、猪と鹿の肉がまだ大量に入っている。

ダゴニアから北回りで西へ向かっていた時、ある程度は消費したのだけど、現地で珍しい食べ物や食材を見かけたら、ついついそっちを優先していたからな。

思ったより減ってないんだよ。


野菜スープと青汁も在庫はまだある。

サラをちらりと見ると、それを察したのか、サラは目を逸らした。


「まずはミカエルの荷物を整理するか。必要なものは後で買いに行かないといけないからな」


「荷物と言っても大したものはないよ。基本サラドの街で必要な分だけ買っていたからね。お金と、少量の素材くらいかな」


そう言ってミカエルは慌ただしい中でも宿から持ち出した布製の鞄を取り出す。

彼女が中身を漁るが、確かに言葉通り、少しの保存食と水の入った革袋。金貨や銀貨が入っているらしい袋。

幾つかの魔石が出て来た。俺に出会ったのは、ダンジョンの探索を終えてギルドに寄る前だったらしい。

山分けした後の還元前って事だな。


ミカエルが主な狩場にしていたダンジョン、サラ・バーティはアンデッド系のモンスターが多く出現する。

メインモンスターはスピリットゴーレムというかなりレアなモンスターだ。

シュブニグラス迷宮の山羊小鬼のように、そのダンジョン固有のモンスターだと言われている。

霊魂によって造られたゴーレムという稀有な存在で、ゴーレムが元々持つ怪力と耐久力。加えて霊魂なので物理攻撃は一切通じず、悪霊系でもないため、光や聖属性の攻撃も特に効き目があるという訳じゃない。

おまけに、重量ってものが無いから、その巨体に似合わず非常に素早い。しかも壁をすり抜けて来るという。


魔法使い系の需要が高いダンジョンであるが、その魔法使いを守るための壁として、近接戦闘職も必要とされている。

色んな意味で、カタリナはガルツじゃなくてサラドに行くべきだったよな。


「けれど、そうしていたらタクマ様に出会えませんでしたわ」


嬉しい事を言ってくれるぜ。


「スピリットゴーレムの魔石が二つと、ゴーストの魔石が三つか」


ちなみにどちらもポーション的なアイテムの素材になる。

そして袋の底から、ごとり、と中々重たそうな音を立てて一つの石が出て来た。


「なんですの?」


「黒い……石?」


「何かの石、だよ。ギルドの鑑定ではそう出た」


「それは間違いなく職員の鑑定LVが足りていないだろ」


「レベル?」


まだその辺りの用語を説明してなかったな。


「説明は後でする。今は流せ。で? そんな正体不明の石をなんで持ってたんだ?」


「正体不明だからさ。ボクだってギルドの職員の鑑定技術が足りてないんだって事くらいはわかったからね。いずれこの石の価値か正体がわかるまで、持っていようと思っていたんだ」


丁度良い重りになるしね。なんてミカエルはおどけてみせた。


「ふぅん……」


とりあえず『アナライズ』してみる。



隕鉄鉱



あ、これマズイ奴だ。


「隕鉄……ってあれかい? 星の欠片から取れる金属だよね? 凄い! ダンジョンの宝箱から手に入れたから、何か特別な石だとは思っていたけれど、まさか天賜物質だったなんて!」


俺が石の正体を明かすと、目に見えてテンションが上がるミカエル。カタリナも感心していた。

サラだけは、何が凄いのかわからず首を傾げている。


地球で言えば金属が主流の隕石でしかない。

製鉄技術が低かった時代は、貴重な金属として珍重されていたけれど、次第にその価値は下がって行った。

むしろ、天から贈られた金属としての宗教的価値の方が高かったかもしれない。

現在では、金属が主流の隕石、以上の価値は無いだろう。

地球には存在しない金属でも含まれていれば別だろうけれど、基本は鉄とニッケルらしいからな。


この世界でも、隕鉄ってだけなら基本は地球と同じだ。

錬金術師アルケミスト』のスキル『分解』を使えば含有された金属を取り出す事ができるだろう。


で、この隕鉄鉱はまた別だ。

ミカエルの言った通りの天賜物質。ようは天からの贈り物。

天の神アルスールの神力の一部が物質化した存在だと言われている。


魔的な力を持った鉱石という訳だ。ミスリルとかアダマンタイトとかと同じだな。

これを素材に武具を造れば魔法の武具ができあがる。道具を造ればマジックアイテムになる。


出す場所に出せば、金貨100枚(一千万円!!)はくだらないだろう。


てか、ちゃんとダンジョンって宝箱出るんだな。『常識』にあるからそれは知っていたけれど、やっぱり今まで一度も見た事ないからな。


「モンスターを倒すと魔石と同時に落とす場合と、魔力の噴出が起きてモンスターの代わりに出現する二種類があるね。ボクはどちらも見た事が無くて、既に出現していた宝箱を見つけた事しかないけどね」


俺がぽつりと呟くと、ミカエルがそう解説してくれた。やっぱりあんまり無い事なのか。


「宝箱はダンジョンが冒険者を呼び寄せるための餌として出現させるという話がありますから、冒険者が頻繁に出入りするシュブニグラスのような場所ではあまりお目にかかれないのではないですか?」


今度はカタリナが補足説明をしてくれた。


「それだと、こないだダゴニアで宝箱を見つけられなかったのはよっぽど運が悪かったって事か?」


そう言えばカタリナは『不運(中度)』持ちだ。


「この間って事は氾濫の時だよね? それなら宝箱は出ないよ。ダンジョンが溜め込んだ魔力をモンスターに変えている筈だから」


ああ余剰魔力が無いのか。


「でも、それなら氾濫が起きる前に作っていた宝箱くらいあるんじゃないか?」


ダゴニアが冒険者を呼び込むために、氾濫が起きるまでに作っていてもおかしくはない。


「ダンジョンは学習するそうだからね。氾濫が起きるようになるまで、冒険者があまり来ない事を知っているんじゃないかな?」


「なに、その無駄な労力を省いた省エネダンジョン……」


そう言えばダンジョンには意思があるってのが通説だったな。


「さておきこの隕鉄鉱だ。俺は『鍛冶師スミス』を持っていないからこれを加工できない。かと言って、そこらの街に居る鍛冶屋だとLVや習熟度が足りないだろう」


「れべる? 習熟度?」


「その辺りの説明はまた今度な」


「聞くと常識が変わりますわよ」


首を傾げるミカエルの仕草が意外と可愛かった。あと、カタリナはなんで何かを諦めたような表情をしているのかな?


「じゃあ売るかってなるとそれも勿体無い。普通には手に入れにくいものだし、まともにこれの価値がわかる人間を探すのも難しい」


「ならどうするんだい? その時が来るまでやっぱり鞄の肥やしかい?」


「いいや。ここは『錬金術師アルケミスト』を使う」


「『錬成』ですか? それで何をお造りになられるのでしょう?」


「いや、『錬成』じゃない。『糸状錬成』を使う」


「寡聞にして存じませんわね」


「ボクは聞いた事があるよ。確か天から才能を愛された『錬金術師アルケミスト』だけが使える秘術の筈だ」


ミカエルの説明はあながち間違いじゃない。なんせ、『糸状錬成』を使うための『錬金術師アルケミスト』の必要LVは80以上。

更に知力と魔力が共に300以上必要だってんだから、普通の人間じゃ辿り着くのはかなり難しい。


しかも何とか覚えても、習熟度が低いと鉄などの価値の低い金属や鉱石しか『糸状錬成』の対象に選べない。

金や銀。白金、ミスリル、アダマンタイト。更に隕鉄鉱となると、要求される習熟度もかなりのものになる。


けれど俺には『技能八百万』がある。

職業さえ獲得してしまえば、その職業が使えるスキルは全て使えるし、習熟度に左右される事も無い。

まぁ、『錬成』の習熟度が低いと、本来高い習熟度が必要となる物質の『錬成』にかかる時間が長くなってしまうという欠点があるけどな。


『糸状錬成』は名前の通り、物質を糸状に錬成するスキルだ。


鉄にこれを使えば鉄条網とか有刺鉄線とかを簡単に作れる。

鎖帷子どころか、鉄製の糸で編んだ、或いは織った衣類も作れるようになるんだ。


鉄で言えば、鉄の鎧より鉄の糸で編んだ鎧の方が軽い。防御力は変わらないが、斬撃や刺突に対して耐性が付く場合がある。


「という訳で、この隕鉄鉱を糸状にする。その後何か装備を作ろうと思うけど、何がいい?」


「ボクが決めていいのかい?」


話を振られたミカエルは怪訝そうな表情を浮かべる。


「元々お前のもんだからな」


「けどボクの財産は君が所有する事になっているだろう?」


「あくまで契約上の話だ。俺が許可すれば何も問題無いさ」


「そういう話なら有り難く……。頭に装備するものがいいな。サガ鋼の兜でも作ろうかと思っていたところだったし」


ちなみにサガ鋼はサラヴィ荒地で採れるサラド鉱石と鉄の合金だ。普通に製錬でも造れるが、大体は『錬金術師アルケミスト』が錬成して造られる。

鉄より硬くそれでいて軽い。更に若干の魔法防御力もあるという事で、サラドの金属製防具では一番人気の素材だ。

その分高価だけどな。


「じゃあ帽子的なものがいいな。それだけだと多分余るから、サラとカタリナの分も作ってやっていいか?」


「いいよ」


ミカエルは二つ返事で了承する。


「よろしいのですか?」


反対にカタリナは申し訳なさそうにしている。


「タクマ様が自らお造りになられるのですか?」


サラは若干興奮しているようだ。頬が赤く、目が爛々と輝いている。


「糸にするまではそうだな。その後は『織師ウェーバー』か『編師クロシェ』に頼む事になるだろうな」


どちらも仕事としても、獲得できる職業としても存在しているから、ガルツやフィクレツで探せば見つかるだろう。

編み物はまだ編み機が発明されてないらしいから(少なくとも常識には無い)、ニット帽的なものが丁度良いだろうか。


「その辺りは任せるよ」


「ご主人様がよろしいのでしたら、わたくしも何も言いませんが……」


「よろしくお願いします」


「とは言え、喪が明けてからだな。ガルツは勿論、今他の街に行くのはリスクでしかないし」


まぁ『糸状錬成』にどれだけ時間がかかるかわからないから丁度良いけどさ。



数日後、朝。リビングで俺を含めた四人が各々勝手に過ごしていると、扉がノックされる音が聞こえた。

素早く反応する三人。サラとミカエルは近くに置いていた武器を手に取り、カタリナはすぐに屋根裏部屋へ向かう。


「大丈夫、敵じゃない」


既に『センスアトモスフィア』と『サーチ』によってその存在に気付いていた俺は、三人を制するように声をかける。

俺は扉に近付いて鍵を外し、扉を開ける。


「お久しぶりです。時空の神の使徒様」


そこには黄色いローブと怪しい雰囲気を身に纏った女性商人、ガラム・マサラこと俺の妹であるユリアが居た。


「ああ。久しぶりだ、ガラム・マサラ。入ってくれ」


「それじゃお邪魔しますよ。おやおや、随分と賑やかになったものですね」


カタリナとミカエルを見てユリアは言った。若干、言葉に棘が含まれている。

こいつがブラコンなのは知ってるからな。多少嫉妬が混じっているんだろう。


「そのキャラはなんだ?」


「いや、実は前のキャラ忘れちゃって」


そのせいで過剰演技になってしまったようだ。前回も部屋に入ってすぐにキャラ崩壊してたからな。


「そちらの方は?」


「俺が懇意にしている商人のガラム・マサラだ。まぁ、ぶっちゃけ商売の神の使徒だよ」


カタリナの問いに俺はさらりと嘘を吐く。

しかしこれで細かい追及は避けられるはずだ。


「ガラム・マサラと申します。以後お見知りおきを。タクマさんからご紹介いただいた通り、商売の神の使徒をいたしております。主からは、タクマさんのようなヒトでありながら神の使徒となった者のサポートを仰せつかっております。勿論、その分対価はいただきますがね」


俺の嘘に乗ってくれるユリア。

俺が言えた事じゃないけど、よくもまぁそんな設定がペラペラ出て来るな。確かにその設定なら、ユリアが俺の下にやってくる理由になるけど。


「スキルや魔法だけじゃ説明がつかない不思議な品の数々は君から仕入れていたということ?」


「その通りにございます。麗しきお嬢様」


「!?」


ズバリ性別を言い当てられ、ミカエルはこちらを見る。


「商売の神の使徒だからな。そのくらい見抜く力はあるさ」


俺は教えていない事を言外に含めて答えた。

顔立ちは整っているとは言え中世的だし、女性らしい凹凸が無いし、服も男性冒険者が着るような服装をしている。

このミカエルを一発で女性と見抜くのは流石だよな。ハーレムキング。

あれ? 鑑定系のスキル持ってるんだっけ?


「本日はご要望通り、作物の苗と種をお持ちしました。それと、調味料の補充と、布団の追加ですね」


言いながらユリアは『リトルマジックボックス』から次々に商品を取り出す。


「じゃあこれ代金な」


そう言って俺は金貨10枚相当の銀貨と銅貨を渡した。


「ありがとうございます」


通貨経済を浸透させるために、数が欲しいって言ってたからな。


「作物そのものじゃなくて苗と種ですか?」


「ああ。折角広い土地があるんだから畑を作ろうと思ってな」


「よろしいですわね」


「へぇ、タクマ君にはそっちの知識もあるのかい?」


「いや、ないぞ」


感心するミカエルに俺はそう答える。農業高校を目指していたユリアと違って俺に農業知識は無い。

この世界じゃまともに作物を育てるのは無理だ。


「じゃあ苗や種を貰っても仕方ないんじゃ……?」


「普通の農家ならそうだな。けどここはガルツの郊外だ。つまり、この下にはダンジョンが存在している筈だな」


言って俺は床を軽く蹴った。魔力によって空間が多少歪んでいるとは言え、あれだけ広大なダンジョンだ。ガルツの街の地下だけで収まる訳がない。


「それはそうだけど、それと農業となんの関係が?」


「確かに普通の作物を育てようと思えば、農業の専門知識が必要だろう」


ただ土を耕して種を撒いておけばいいってもんじゃないからな。


「けど、ダンジョンの魔力を利用すれば、土に埋めておくだけで勝手に育つ」


「いや、そんな事をしてもできあがるのは……あ」


どうやらミカエルは気付いたようだ。


「わざとイーティングイーターを作る気かい?」


「その通りだ」


作物が魔力を帯びてモンスター化した存在、イーティングイーター。

本来ならこれらは倒しても食べる事はできない。けれど、これらを倒して手に入った魔石から、元になった作物を入手する事が出来る。


イーティングイーターを倒せるだけの実力があるなら、育成の手間も時間もかからないこの方法が有用だ。

勿論、ダンジョンの傍にあるここの地形だからできる事だけどな。


普通の土地だと魔力だけで育てるのは非常に時間がかかる。かと言って、ダンジョンの傍に畑なんて造ったら、収穫前に別のモンスターや魔物に襲われてしまう。


ガルツの傍で暮らせる拠点と戦力を持つ俺達だからできる事だ。


ちなみに似た考えで街を作ったのがガルツな。育てているのが野菜と経済の違いがあるけど。

失敗したのがサラ・バーティだ。サラ・バーティという大きすぎる失敗のせいで、ダンジョンの魔力を利用しようとする研究は一気に廃れてしまったからな。


「野菜は高いから自給自足できれば節約になるし、余れば売ればいい」


「余りますか? タクマ様が保管すれば腐らないでしょう?」


サラの疑問はもっともだった。まぁ、それは感覚の問題だな。

時間が経過しないとは言え、なんとなく、何カ月も食べ物を放置しておくのは気が引けるし、それを口にするもの嫌だ。

『マジックボックス』に大量の肉を保管している俺が言うんだからこの感覚は間違っていない筈だ。


「だから収穫した野菜は全部売ってしまいませんか? そのお金で必要な食材だけを買えばいいと思います。家計の管理も楽になりますし」


全ては野菜を食べたくない肉食獣サラの策謀だった。後半の取ってつけた感すごいな。


「お前暫く飲み物全部青汁にするぞ?」


「申し訳ありませんでした」


綺麗に土下座をするサラ。野菜の味しかしない青汁よりは、肉や調味料の味がつく野菜を使った料理の方がマシって事だろうな。


「ただ食べるだけじゃ太るだけだぞ? ちゃんと成長したいならバランス良く栄養を摂らないとな」


「…………はい」


応えるサラの言葉は弱々しい。首輪も微かに発光してるし。


「これはニンジンの種ですね。本来は夏に撒いて収穫は二~三ヶ月後なんですが、流石に私も魔力のみで育てた事はないのでどうなるかはわかりかねます」


ユリアが種と苗の説明をしてくれる。

ちなみに今は日本で言えば11月くらい。ユリアの説明を聞く限り、生育の時期を思いっきり外している。


「こっちはタマネギの苗と種。種は通常冬に撒いて、夏に収穫する感じですね。苗は冷暗所に保管しておいて、暖かくなったら土に植えます。まぁ、やはり普通に育成する場合の話ですからね。魔力のみだとどうなる事やら」


どうやらユリアも、俺がダンジョンの魔力を利用して農業をしようなんて思ってなかったらしい。


「これはニンニクの苗です。丁度今から植えて収穫は半年後。ですが……」


うん、魔力で育てるとどうなるかわからないのね。


あと貰ったのはジャガイモの種芋とトウモロコシの種。そしてキャベツの種だ。


「色々作ってんな」


「こちらも魔力で気温などをある程度操作できる農場を所有しておりますので、一年を通して様々な作物を育成可能なのです」


ビニールハウスか温室みたいなものがキングダムにはあるって事か。


「まぁ、半分残して全種類を植えてみよう。魔力のみで生育できそうにないなら、生産が簡単なものだけ栽培して、後は買うか」


言って俺は種と苗を持って立ち上がる。


「じゃあミカエル、行くぞ」


「え?」


「基本お前に頼むのはこの農作業だ。外での作業だからな。ある程度戦えないと危険だ」


「タクマ君の結界があるんだろう?」


「それでも、だよ。『センスアトモスフィア』を無効化できる敵が居ないとも限らないし」


実際、ユリアが纏っている黄斑のローブはこれを無効化する。今回反応したのは俺に来た事を伝えるためにわざとだからな。


「ゆり……ガラムも、畑造りにアドバイスを貰えるか?」


「ええ、喜んで」


ミカエルとユリアを伴って外に出た俺は、棒を使って地面に線を引いていく。その場所は縄張りや魔法の石で作られた塀の外側だ。


「いいのかい? そこは君の土地じゃないんだろ?」


「防壁の外は宣言した者勝ちらしいからな。領主やガルツの執政府から開発するから退けって言われたら退かないといけないらしいけど」


「とりあえず土をおこしましょうか。鍬やそれの代わりになるものは……?」


足元で蠢く者(セカンダス・ノーム)


ユリアの疑問に答える代わりに、俺は第二階位の精霊魔法を使用する。

『ブリング』と呼ばれる、大地の精霊を使役して地形を変える魔法だ。魔力や習熟度が低いと大した効果は得られないけれど、俺の魔力なら今回設定した五十メートル四方の範囲くらいなら簡単に耕せる。


「便利ね。私も部下に精霊魔術覚えさせようかしら」


そんな光景を見ていたユリアがポツリと呟く。キャラ忘れてんぞ。


「第一階位のものでよければ教本あるぞ。買うか?」


「それなら多分うちにもあるからいらない」


冒険者や勇者を撃退した時の戦利品だろうか。


「ええと、畝も作った方がいいのかな?」


「そうですね。時期や肥料以外は普通に栽培するのと同じようにしましょう。その方が失敗した時に原因がわかりやすいですからね」


「じゃあおおまかに形を作るから、細かい調整よろしく。ミカエルも手伝ってやってくれ」


「ああ、わかったよ」


この魔法だとそこまで細かい作業はできないからな。

とりあえず、よくある畑をイメージして畝を作る。


「で、鍬とかは?」


「あると思うか?」


「ですよねー」


仕方ない、とユリアは『リトルマジックボックス』から一振りの剣を取り出し、それで器用に畝を整えていく。

おい、それ宝剣だろう? そんな使い方していいのか?


それを見たミカエルも剣を抜き、そして、刀身を睨んだまま動かない。


「素手でやった方がいいと思うぞ? そもそも慣れてないんだし」


「だ、だよね!」


俺のアドバイスに、唇の端を引きつらせながらも、嬉しそうにミカエルが剣を鞘にしまった。

まぁ、普通の感覚なら宝剣を農作業に使うのは抵抗あるよな。


畝を作り終えたので種と苗を植えていく。

同じ種類の野菜と種と苗を一緒に植えるなんて有り得ない、とユリアは難しい表情で呟いた。

へたに農業の知識があるから、常識が邪魔してるんだろうなー。


「あとは水まきくらいしておいた方がいいか?」


「そうですね。ニンジンもトウモロコシも水が多過ぎると生育に悪影響が出ますが、多少なら問題ないでしょう。川から水を汲んで……」


「ウォーターボール」


やっぱりユリアの言葉を遮るように、俺は空中に巨大な水の球を出現させる。


「そ、それをそのまま撒く気!?」


「いや、流石にそれがまずいのは俺でもわかるよ」


種や苗に悪い以前に、折角圃場した畑がダメになっちゃうだろ。これ一応攻撃魔法だからな。


「二人の剣ならこれを薙ぎ散らせるだろ?」


「ああ、スプリンクラーみたいにしたいんだ」


「まぁ、それならいいか……」


ユリアは俺の意図を理解し、ミカエルは剣の使い方として妥協できたようだ。


「魔法で楽しても、結構かかるな」


「ふふん、農業をなめちゃいけないよ」


昼過ぎに始めた筈なのに、全ての作業が終わる頃には日が傾き始めていた。


「今日は疲れたから夕食は簡単なものにしよう」


「「えー?」」


俺の家に来てから数日で、既に料理の味を覚えてしまったミカエルと、俺の料理を楽しみにしていたらしいユリアが同時に不満そうな声を上げる。


「まぁまぁ。簡単なものとは言ったが、イコールで質素や味が悪いって訳じゃない」


「というと?」


「まぁ見てからのお楽しみだ。サラ、カタリナ。魔法の石と鉄板を用意しろ」


「わかりましたわ」


「すぐにでも!」


家に入りながら中の二人にそう声を掛けると、カタリナはすぐに立ち上がり、夕食のメニューを察したサラが即座に行動を開始した。


そして開始されるのは焼肉だ。

カタリナは食べた事があるけれど、ミカエルはまだ経験していない。

そしてサラは既に捕食者の目になっている。


一回目に俺に惨敗したサラはその後一念発起して箸の特訓を開始した。

そして二回目の焼肉。満を持して箸で参戦したサラだったが、やはりまだ訓練が足りなかったのか、フォークを使っていた一回目より食べるスピードが遅かった。

カタリナがそこまで肉に執着しておらず、食べるのが遅く、小食でなければ、彼女の後塵を拝する結果になっていたかもしれない。


そして今回。

およそ三ヶ月の箸の特訓を積んだサラの腕前はかなりのものになっていた。

少なくとも、料理に菜箸を用いる際は普通に問題無く使えている。

カタリナはマイペースだし、ミカエルも箸は使えない。

ならば、サラの敵は同じく箸を使いこなす俺のみ。


「へぇ、焼肉……」


元日本人の転生者である妹が参戦していなければ……。


熱されていく鉄板と、用意された肉類を見て、目を細め、唇の端を妖しく歪めたユリアを見て、サラの顔に緊張が走った。

サラは感じ取ったのだろう。この慈悲も容赦も無い戦場に、新たなる強敵が現れた事を。


俺と同じく箸の使い手。

そして、肉限定でこそないが、サラと同じかそれ以上に食に執着する腹ペコ魔人。

技術と動機の両方を備えた彼女は、間違いなくこの中で最強であるだろう。


「よし、そろそろいいだろう。いただきます」


「「「「いただきます」」」」


そして戦争が始まった。



結果。


カタリナ<ミカエル<<<サラ<<俺<<<《超えられない壁》<<<ユリア




「これは、ひどいな……」


「ああ、ひどいね……」


種を撒き、苗を植えて三日。俺とミカエルは畑を見渡して嘆息した。


眼下に広がるのはすっかり育った野菜達。

ニンジンとジャガイモの短い葉。俺の膝くらいまで伸びたニンニクとタマネギの茎。玉のように広がったキャベツ。そして、ミカエルの背丈を超える程に成長したトウモロコシ。


一日目に全ての種が発芽した時は、ガッツポーズをしたものだし、泊まっていったユリアが帰る前にそれを見て、自分の所でも魔力による栽培を導入しようか、などと呟いていた。

二日目には目に見えて成長していたので、魔力すげーなんて話をしていたのだけれど。


「イーティングイーターだよなぁ」


「これは間違いないね」


風も無いのに葉や茎が揺れ、キャベツも葉っぱの中で何かが蠢いている。

トウモロコシなど、実をこちらに向けて威嚇していて、今にも発射してきそうな塩梅だ。


『サーチ』と『マップ』で確認すると一目瞭然。畑一面敵性を示す赤い輝点プリッツで埋め尽くされていた。


「元々こういう計画だったんだよね? だったら大成功じゃないか」


「そうなんだけどな。ここまでとは思わなかったんだよ」


まさか三日とはな。これは控えないと市場で価格の暴落が起きるぞ?

今でこそ数は全部合わせても二十無い程度だけれど、植えてない種と苗は同じ数だけ残っているんだから。


特にトウモロコシとジャガイモは、一つのイーティングイーターの魔石から、複数個出て来るからな。

栽培数を増やすのは簡単なんだよ。

本来の農業なら人手と相談して増やしていく事になるんだろうけど、ここだと植えるだけでいいからな。


「とりあえず収穫してしまおう。サラとカタリナを呼んで来てくれ」


「いいけど、あの二人だと危険じゃないかい?」


イーティングイーターと一対一なら二人でも負ける事は無いだろうけれど、流石に数が多いからな。ミカエルの懸念もわかる。


「いや、戦闘に参加しているようにするだけだ。俺が広範囲魔法で一気に薙ぎ払う」


「普通の作物と違って、収穫に気を使わないでいいのも楽でいいね」


言うミカエルの声には感情が籠っていなかった。


こうして俺は、大量の経験値と野菜の魔石を入手する事になる。

この時ほど、レアドロップを望んだ時は無かっただろうな。


タクマ邸に新たな施設が追加されました。

「モンスター畑」。

明らかに魔王とかが造りそうな施設ですね。


次回も閑話の予定です。その次から、三章の後半が開始されます。


隕鉄鉱の値段についてご指摘がありましたので修正しました。

価値がわかり、かつ買い取る事ができる相手を探すのが大変って事にしようとも思いましたが、それだと素材として使わないだろうと思ったので、値下げしました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 宝箱の話したときに、 しかも先のダゴニアでの氾濫鎮圧にも彼は参加していたそうだ。 この時、光の勇者に時空の神が手を貸して、使徒を遣わしたそうだけど、これはタクマ君とは別らしい。 別…
[一言] 然りげ無く神の使徒を詐称させて元妹に天罰くらわせて片付けようとしている?
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