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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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第70話:ミカエル

時間がかかってしまいました。

会話は書いていると楽しいので、つい凄い分量になってしまいます。

あと、妙な方向へ脱線しがちです。一度ミカエルがバカ過ぎるキャラになってしまったので、その辺りを書き直していました。

どの辺りでバカになったかは本編を読んで察してください。


「み、ミシェル殿下が……何故……?」


ミカエル、いやミシェルの自己紹介を受けて、カタリナが呆然とした様子で呟いた。

王族なんて雲の上の存在でしかないサラと違って、貴族のカタリナは彼女の正体にかなりの衝撃を受けたみたいだな。

当然だよね。俺だって『アナライズ』で見た時びっくりしたもん。


どうも隠してるようだったし、色々事情がありそうだったし、それこそ、知っている事を知られたら面倒だと思ったから黙ってたけどさ。

正直、あの決闘提案が、本当に俺を独善的に批難するだけのものだったなら、彼女の正体を知っている事を示唆して逃げようと思っていたからな。


ただ、負けたら何でも願いを聞く、の言葉で何となく察しがついた。

ああこいつ、王族辞めたいんだろうなって。


そりゃ勿論、ただの自信過剰な正義の味方気取りの可能性もあったけどさ。


「詳しい話は着替えてからにするか。ミカエル、いや、ミシェル?」


「そこは好きに呼んでくれて構わないよ。他の人が居る所ではミカエルと呼んで欲しいから、慣れるためにもそうして貰った方がいいかな?」


「わかった、じゃあミカエル。俺もお前には色々聞きたい事があるからな。この一ヶ月程、俺達は『クリーン』くらいでしか体を綺麗にしてないし、服も着たきりだ。お前も決闘で汚れただろう?」


「『クリーン』はかけてもらったけれど、汗臭いのは残ってるかな?」


言いながら、ミカエルは自分をふんふん、と嗅いでいる。

こういう時、脇の匂いを嗅ぐのは異世界でも共通か。


「カタリナ、風呂の使い方を教えてやってくれ、お前も一緒に入って良い。その後は、あー、ミカエル、着替えは?」


「無いよ。ボクの荷物はこれだけさ。後は王室だね。取りに帰るかい?」


「諦めよう。明日服を買いに行く。カタリナ、今日はお前の服と下着を貸してやってくれ」


「それは構いませんわ。入らないという事もないでしょうし」


「はっはっは、それは風呂でもいでくれという意思表示かな?」


カタリナの視線がミカエルの一部に注がれる。ミカエルは笑っているが、額に青筋が浮かんでいた。


「ふっ」


「サラ君、誇れる程君とボクに差は無いと思うけど?」


「私には将来がある」


確かにサラはまだ12歳。これから成長する可能性があるけれど、ミカエルは17歳だ。現代地球の日本人なら成長期を終えている。

それから育つ人も居るそうだけど、そんなのは例外だし、大体そういう話をする人って、既に大きな状態から、更に大きくなったって話だしな。


「ふふ、甘いね、サラ君」


しかしサラの年齢を根拠にした勝利宣言を、ミカエルは鼻で笑う。


「ボクもかつてはそう思っていたよ。自分にはまだ未来がある、これから育つ筈だってね」


そしてサラを見る。その目は、凪いだ大海のように静かだった。


「けれどそういう事を言う人間は、既に終わっている(・・・・・・・・)んだよ」


「ひぅっ!?」


ミカエルの非常な宣告に、サラが悲鳴を上げた。

涙目でこちらを見る。


「全く育たなくても気にしないから安心しろ」


「それはフォローのようでフォローになっていません……」


頭を撫でてやるが、サラは唇を尖らせて愚痴を零す。

うん、俺もそう思う。


「でしたらサラさんがミシェ……ミカエルでん……さんとご一緒に入られてはいかがでしょう? わたくしはその間に着替えを用意しておきますわ」


まだカタリナは慣れないようだ。


「そうだな、その方がいいか。じゃあサラ、任せてもいいか?」


「構いませんけれど、タクマ様はどうされるのですか?」


「うん? 俺は後で入るけど?」


正直、今すぐにでも入って頭を洗いたいところだけど、今はミカエルを優先させてやろう。


「一人で、ですか?」


「あー……」


サラが何を懸念しているのかわかってしまったぞ。



>勿論だよ。

 時間が勿体無いしカタリナと一緒にだな。



変な選択肢が浮かんでしまった。

まぁ、あまりサラをからかってグレてしまってもなんだしな。ここは素直に……。


「そりゃタクマ君はカタリナ君と入るだろう。奴隷と主人、年頃の男女だ。そういう関係なんだろう?」


爽やかな笑顔で何を言ってるんだこのイケメンは。


カタリナはその言葉を聞いて顔を赤らめるが、満更でもなさそうだ。

サラの目つきは非常に悪い。


「そういう関係なのは否定しないけれど、別に一緒に入るとは……」


「入らないのですか?」


尋ねて来るのはカタリナだ。なんでちょっと縋るような目を向けて来るのかね?

一緒に入りたいって事?


「氾濫の鎮圧前に強引に純潔を奪われてから、わたくしサラさんと一緒でしか相手をしていただいていませんわ」


「それを言うなら、私だってここのところ、数日おきにしか相手してもらってない」


「暫く野宿が続いてたからだろ。一人を見張りにさせて、残りの一人とスるなんてそんな真似できるか」


ていうかその辺は説明しただろ。


「ふぅん。てっきりカタリナ君だけだと思っていたけれど、サラ君ともそういう関係なのか」


「むしろ私の方が先」


言って胸を張るサラ。

これは、サラが初めてじゃないってのは伝えない方がいいよな。

サラはサラで、俺を経験豊富なベテランのように思っているけれど、実はその一月前まで童貞で、しかもたった一回きりしかしてないってわかったらどう思うだろうか。


より悔しいと思うのは後者の方だろうからな。


「奴隷としても私が先輩。だからミカエルも、私の言う事をよく聞いて、タクマ様の役に立てるよう頑張るように」


「ああ、それは勿論だよ。それに、サラ君がありなら、ボクも相手にして貰える可能性が高いって事だろ?」


「「「え?」」」


そこで三人の言葉が重なる。

いや、確かに絶対服従って事は、そういう事もアリって事ではあるけれど……。


「この際だからハッキリ言っておくけどタクマ君……」


「詳しい話は風呂に入ってからな。サラ頼む。それとミカエルの部屋はカタリナの左隣だ。まずは案内してやってくれ。俺はその間に風呂を沸かしてくる。カタリナは着替えの用意」


そう言って俺はリビングから出た。


「逃げましたわね」


「逃げられちゃったね」


「逃げてくれました」


出ようとする俺の背後にそんな言葉が聞こえて来た。

サラが安堵しているのはわかるけれど、カタリナは何故呆れている? ライバルは少ない方がいいだろう?




「改めて、ミシェル・ラナ・エレノニア。王国の第一王女だったけれど、この度タクマ君の奴隷になったので、見事王位継承権は剥奪された筈だ。と言っても、そこまで高い訳じゃなかったけどね」


風呂から上がったミカエルが、テーブルの前に置かれた椅子に座って改めて自己紹介をした。

ちなみに俺は一人で入った。カタリナが残念そうにしていたけれど、これで一緒に入ると色々ややこしくなるからな。


エレノニア王国は女性にも王位継承権はあるけれど、直系だけだし、その順位も、直系男子の後だ。

過去にも女王が誕生した事はあったけれど、大体は、直系男子が居なくなったからと言ってすぐに女子に継がせるんじゃなくて、直系男子を産み、育つのを待つ事の方が多い。


「その数少ない女王誕生の事例は、直系男子の誕生、成長を待つことができない事情があった時なんだよね。そしてそういう時は国が危急存亡の危機にある時でもあるんだ」


歴史を逆算する訳じゃないけれど、こうして王国が存続し繁栄している以上、女王就任から国が持ち直したという事でもある。


「つまり貴族の中には、国が危機に陥った時、女子が王座に就くと、その危機を脱する事ができる、と信じている者も居るんだよね。それも、かなりの数がさ」


当然、女性が王座に就いただけで、奇跡が起きてそれまで王国を取り巻いていた危機や災厄が消えてなくなるなんて事は無い。どん底だったからこそ、女王を始め、大臣達が奮闘した結果なんだよな。

まぁ、実際に神様が存在していて、普通に奇跡が起きるこの世界。戦の神か軍神か。或いは疑暗の神か玉座の神か。とにかく、国家運営に関わる加護を持った神が、とんでもない女好きなら、女王が就任した結果、奇跡が起こって危機を脱する事も可能かもしれない。


「ボクは直系の兄妹の中では一番年上なんだよね。それでも、いや、だからこそ、自分が王位を継ぐべきじゃないってのはわかってたんだ。だからいずれ王座に就くだろう弟を補佐するためにも、政治や計算、歴史を学び、体を鍛えていたんだよ」


そしてそこは流石に高貴な血筋。やる気があって最高の教育環境を与えられれば、才能通りの実力を有するに至った訳だ。

ちなみにミカエルはその過程で身分を偽り冒険者をやっていたんだと言う。勿論、無断で。

王宮は最初は慌てただろうけど、継承順位が低い王室であるし、出たきりではなくて数日、数カ月で毎回戻って来るから、監視だけつけて特に問題にはならなかったそうだ。


「そう言えばなんでサラドなんだ? 王都から近いってのもあるだろうけど、正体を隠すならガルツの方が良いだろ?」


「え? 君こそ何を言ってるんだい? あそこはそういう人間が集まる場所だよ。家出した人間を探すなら真っ先にあそこだろう?」


つまりそれだけ見つかりやすい、と。

俺が無言でカタリナを見ると、カタリナも無言で顔を背けた。


元婚約者から身を隠すためにカタリナはガルツを拠点に選んだからな。


「身分を隠したい人間が住む分には最高の場所だと思うけど、身を隠したいなら別の場所の方がいいだろうね。他国との交易で栄えるサラドは、そういう意味で最適だったのさ」


無意識の追撃がカタリナの心を痛めつける。


「王宮で勉強したり訓練したりしながら、時折身分を隠して冒険者としてダンジョンを潜ったりして、それはそれは充実した日々を送らせて貰っていたよ。けれど、三ヶ月前、ある事件が起きた」


ん? これひょっとして……。


「君たちも知っていると思うけど、エレア隧道が崩落し、王都が襲撃された。王国内の治安が悪化したのも勿論だけど、周辺国がにわかに騒がしくなって来たんだ」


ああ、やっぱり俺と関係があった。

どちらも俺が悪い訳じゃないけどさ。

けれど、俺を活躍させるために多少フェルディアルが運命というか、時空を操作している筈だからな。

そう遠くない未来に起こっていただろう事が、前倒しで起きてしまったのかもしれない。


「そのせいで先に言った、王国の危機に女王が誕生すると、国が救われると信じている派閥の声が大きくなってきてしまったんだよね」


王宮では王子派と王女派に分かれて、後継者争いが起こってしまったそうだ。

すぐに血なま臭い争いに発展した訳じゃないけれど、それでも王宮が割れてしまった。


「王国が一体となってこの状況を脱しなければならないのにね……」


「そんな時に俺を見つけた?」


「ああ。確かに最初見た時は、女性を奴隷にして侍らせている許しがたい男だと思ったけれど……」


「待って、女性を侍らせていたのはミカエルも同じでしょう?」


口を挟んだのはサラだ。目に見えて、機嫌が悪い。


「あれは別に侍らせていた訳じゃないよ。女の子達がボクから離れてくれなかったんだ」


うわー、殴りて―。そして言ってみてー。

いや、今なら言っても許されるか? 駄目だ。それだとサラやカタリナが慕ってくれているのが不本意だって事になってしまう。

あ、これも割とモテセリフだったわ。

よし、俺モテメン。


「身分がバレてしまうのはマズイと思ったからね。最初は一人でクエストをこなしたりダンジョンに潜ったりしていたんだけど、噂を聞きつけて他の冒険者からパーティに誘われるようになってね。その時限りの臨時でいいならって事でそれらを受けていたんだけれど……」


目に見えて麗しいミカエルは女性冒険者から非常に人気があったそうだし、ミカエルをパーティに加える事で、彼をエサにして女性冒険者を勧誘しようとした男性冒険者のパーティからも誘われる事もあったそうだ。

とは言え、死と隣り合わせの冒険者稼業、ただ外見が良いだけで人気が出る訳がない。

困った人を放っておけないミカエルの性格と、その正義を貫く事ができる高い実力が相まって、彼女はサラドの街で英雄として知られるようになったそうだ。


「けれどボクにはわかったんだ。彼こそが、この国を救ってくれる英雄だとね」


何? 『直感』のスキルってそういうのまでわかるの?

どっちかってーと、英雄はその時ウェドロカ近辺に居たと思うぞ? 今どこで何してるんだろーな、ユーマ君。

ゴブリンキングダム見つけて突撃してないといいけど。


「とは言え、ボクの勘違いだって可能性もあるからね。実力を見るために決闘を申し込んだんだけどさ。いやあ、予想以上の結果が出たよ」


言ってミカエルは嬉しそうに隷属の首輪を撫でる。


「ボクを歯牙にもかけないくらい簡単にあしらうその実力。お陰でボクは見事奴隷堕ち。王子派でも王女派でも、ボクを監視していただろうから、ボクが奴隷になった事は王宮に伝わっただろうね」


あ、流石にまだ到着してないか、とミカエルは笑う。

笑いごとじゃねぇんだけどな……。


「これでボクはもう王族には戻れない。貴族がどれだけボクを女王として担ごうとしても、その資格が無いんだ。彼らだって、自分達の利益のためにボクを推していた訳じゃない。帝国との戦争が無くなって三十年。この危機的状況に怯えているんだ。だから、より楽な方法でこの国を救おうと思ってしまっただけだ」


けれどもうそれもできない。彼らが担ぐべき御輿はその資格を失ってしまった。

ならば、この国を救うために、この国を滅ぼさないために、彼らは力を合わせて危機に立ち向かわなくてはならない。


「出した条件も秀逸だったね。ただ奴隷になっただけなら、諦めきれない貴族がタクマ君やサラ君達を排除してボクを復権させようとしたかもしれない。けれど、隷属の首輪に仕込まれた条件によってそれもできなくなってしまった」


ミカエルの財産は俺が管理する事になっている。俺が死ねばサラが、サラが死ねばカタリナが引き継ぐ。これはミカエルの身分と同じ。他に引き継ぐ人間が居なければ、時空の女神の教会に寄付される。

だから、王女派はミカエルをミシェルとして取り戻す事ができない。

約束したのはミシェルではなくてミカエルだと言っても、神と交わした誓約だ。どこまで適用されるのか、誰にもわからない。

試す訳にはいかない。

何故ならその瞬間、王国全てが俺のものになってしまう可能性があるんだから。


勿論、ミシェルはあくまで王女であるから、ミカエルの財産という設定が、王女のミシェルにも適用されたとして、それが王国全体に及ぶ筈がない。

けれど明言されてない以上、最悪の事態を想定するのは当然の話だった。


正直、王国なんて貰っても俺はどうしようもないしどうもしない。

まぁ、月に1000デューだけ貰って後は今まで通りにどうぞ、ってなもんか。

けれど、それは貴族達にはわからない。

むしろ彼らからすれば、奴隷を二人も引き連れ、その上でミカエルを絶対服従の奴隷として連れ去ったんだ。

どれだけ強欲な人間に見られているだろうな。


そんな人間に国を全て預ける可能性がある行動を、取れる訳がない。

王女派は別に権力の簒奪を狙う売国奴ではないんだ。

国を危機から救おうと本気で想っている愛国者なんだから。


ちなみに今王国では、他国にある時空の神の神殿に、自分達の国での神殿の建立許可を求めるために動いているそうだ。

王都を救ったのが時空の神の使徒だし、ダゴニアの氾濫にも、光の神の要請で力を貸しているからな。今後良い付き合いをするためにも、洗礼を受けられる神殿があった方が良いって判断だろう。

そして今回の事が伝われば、その建立は急ぐ筈だ。


神殿が他国にしかないと、ミシェルの財産が時空の神の教会に寄付されてしまった時、手出しできなくなるからな。


「そういう訳でボクはタクマ君に感謝しているよ。家族に気楽に会えなくなってしまったのは寂しいけれど、国の大事に比べたら個人の感情なんて大した事ないしね」


「微妙に反応に困る事を言うなよ。お陰でこっちはまた面倒事を背負いこんだって言うのにさ」


「ふぅん? だったらどうしてボクを奴隷にしたんだい?」


「どうしてって? お前が決闘を受けざるを得ない状況を作ったから……」


「でも、勝者に与えられたのは、あくまでボクを奴隷にする権利だ。それを放棄して立ち去れば良かっただけじゃないのかい?」


「そんなこと、できるかよ」


「どうして? 意に沿わない決闘をさせられた勝者が、その権利を放棄してその場を去るっていうのは、美談として人気がある展開だよ?」


「そういう意味のできないじゃなくてな……」


ミカエルの言う通り、ミカエルが抱える面倒に巻き込まれたくないなら、あの場で権利を放棄すれば良かっただけの話だ。

けれど、俺は思っちゃったんだよな。

俺が奴隷にしなかった場合、こいつはどうなるんだろう? って。


勿論、サラやカタリナとは事情が違うから、どうにもならない可能性だってあった。

普通に王女として、王座に就いた弟を補佐していく人生を歩んでいたかもしれない。


けれど俺は想像してしまったんだ。

俺が考えられる限り、最悪の状況をさ。


勿論ただの想像だ。予想でしかない、妄想の類だろう。

けれど駄目だ。一度考えだしたら止まらなくなってしまったんだ。


想像だけでもあんなに陰鬱な気分になったのに、もしも本当にそんな状況になっていて、それが俺の耳に入ったら?


俺のメンタルが豆腐なのはこの世界で散々見せられたからな。

勢いで自殺とかしかねないし。


そんな事になる訳がない、と言うのは簡単だ。

けれど、本当にどうなるかはその時が来ないとわからない。

そして、その時が来たらそれは手遅れだ。


「ふふ、結局君は優しいんだよ」


「小心者なだけだ」


カタリナの時にも、俺が買わなかったらどうなるのか? って考えるのはやめようって思ったんだけどな。

こればっかりは性分だからな。


「やはりボクの直感は間違っていなかった。男装して冒険者をしていて、すっかり鳴りを潜めていた、ボクのなけなしの乙女心を褒めてやりたいよ」


あ、言っちゃうのね。その先、この場で言うのね。

何となく察して風呂前には誤魔化したんだけど、これは無理だよなぁ。


「好きだよ、タクマ君。ボクは、一目見た時から君の事が好きになった。奴隷からこんな事を言われて、なんて言葉は、サラ君達を見ると逆に君に失礼だよね。だからボクは、一人の女性として、ここに君に頼もうじゃないか」


真っ直ぐに俺を見ながら、柔らかく笑うミカエルは、思わず見とれてしまうくらい魅力的だった。

というか、そんな直球の告白が、前置きになるってなんだよ? 更に俺に何を伝えようって言うんだよ?


「どうかボクの事を抱いて欲しい。君との確かな絆をボクに刻んで欲しいんだ」


座ったままとは言え頭を下げるミカエル。

もう奴隷だけど、王族がする行動じゃないよね。カタリナ固まってるし。


「タクマ様、私からもお願いします」


え? なんでお前が援護するの? お前は嫉妬して反対する側じゃないかい?


「私も以前、同じような不安を抱いたのです。タクマ様は私によくしてくださいますが、それはあくまで私が奴隷だからではないか? と。 この想いは、私からの一方通行なのではないか? と。お情けを頂いた後も、暫くその不安は消えませんでした」


そう言えばサラもそんなような事を言っていたな。

サラが奴隷からの解放を望まないのは、俺との間に確かな絆が欲しいからだという話だった。

自分の中にある想いが、隷属の首輪の影響なんじゃないかと不安があると言っていた。

けれど、そうか。

自分だけでなく、俺に対しても不安があったか。


俺がサラを大事にするのは、彼女が高い金を払って買った奴隷だからじゃないか?

俺がサラを愛するのは、サラから向けられる愛情に応えているだけじゃないか?


そういう不安が、サラにもあったんだな。


「いや、まぁ、ほら。勿論、ボクにそういう気持ちを全く抱かないし、これっぽっちも興味が無いっていうなら、そりゃボクとしても諦めざるを得ないけど……」


目を逸らして慌てて弁明するミカエル。これだけ整った外見をしてても、やっぱり告白の返事を聞く時はこんな感じになっちゃうんだろうか。

断られた時に少しでもダメージを減らすために保険をかける、みたいな。


「いや、ミカエルは綺麗だし、抱けるもんなら抱きたいさ」


「そ、そうかい……?」


照れるミカエルが非常に可愛らしい。


「ご主人様って意外とそういう事、さらっと言いますわよね」


「愛の言葉を囁くより、相手を褒める方が簡単みたい」


サラとカタリナが俺を冷静に分析してくる。やめて、恥ずかしいから。


「まぁ、俺としても、サラとカタリナとはそういう関係なのに、ミカエルだけほったらかしとか、色々気まずいから、ミカエルが望むならそれを断らないけどさ」


二人のお陰で経験豊富になったとは言え、精神的にはアラサー童貞からまだ抜けられてないからな。

可愛い=エッチしたい=好き、みたいな感覚が俺の中にある。

こればっかりはどうしようもない。だって感情の問題だから。

この感情を抑制できたり、性欲と愛情を分けて感じられるようなら、こんな豆腐メンタルじゃねぇわ。


……ちょっと言い訳が過ぎたな。

まぁ、早い話が美人が抱いてと言って来ているのに、拒否るなんてする訳がないって話だよ。

色々理由をつけて、自分を正当化したいだけだ。


「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします。は、初めてなので、その、色々と不手際があるかもしれないけれど……」


「ああ、いや、気にするなよ。こちらこそよろしくな。俺も、回数はともかく、人数は少ないからさ」


ちらりとサラとカタリナを見る。

これで二人は、俺の経験人数が自分達だけだと誤解するだろう。

追及はしてこなくなる筈だ。


つーか、あれだな。ミカエルの恥じらいがこっちにまで感染うつっていかんな。


「では行きましょうか、タクマ様」


「え?」


「ミカエルが粗相をする事無くタクマ様のお相手ができるよう、僭越ながらお手伝いさせていただきます」


え? この子は何を言っているの?


「助かるよ、サラ君」


お前も爽やかな笑顔で何を言ってるんだ!?


思わずカタリナを見ると、彼女は慌てて首を横に振った。どうやら王国にそういう習慣がある訳じゃないらしい。


「実は一人だとやっぱり怖くてね。さっきお風呂で、タクマ君がボクを抱いてくれる時、傍で励まして欲しいって頼んだんだ」


「後輩の面倒を見るのは先輩として当然です」


あ、サラ先輩風吹かしてる? そういや奴隷商に居た頃、年上の奴隷に色々世話になったって言ってたな。

できれば料理とか洗濯とか、別のところで吹かして欲しかったな。


「いや、ほら、カタリナ一人残すのもあれだし、サラは今日はカタリナと一緒に……」


「だったらカタリナ君も一緒に来ればいい」


「そうですね。私だけでは至らないところもあるかもしれませんし」


「わたくしを巻き込まないでくださいませ!」


話を振った俺が悪いよな。

遠回しに言うんじゃなくて、こういうのはハッキリ言わなきゃ駄目か。


特にサラは、年齢にしてはしっかりしてるけれど、実はかなり世間知らずだからな。

生まれてずっと奴隷商に居たからな。

貴族や王族っていう、よっぽど世間知らずそうなカタリナやミカエルは、家を出て冒険者をしていただけあって、サラよりは常識を知ってるからな。


「サラ、こういう時は二人っきりでするのが常識だぞ」


「え? でも侍女から聞いた話だと、初めてで失敗が無いよう、侍女や執事が初夜に付き添うらしいけれど……?」


王族の常識パネぇな。やっぱミカエルも世間知らずだわ。


「通常の貴族の場合は、性教育を施される場合はございますが、流石に本番で付き添いはありませんわね。せいぜい翌朝、きちんとできたか侍女が確認するくらいですわ」


それもどうよ。

まぁ、シーツの乱れ具合とかから推測するとは聞くな。


「と、とにかく。俺が落ち着かないから駄目だ。ミカエル、怖いかもしれないけど、俺を信じてくれないか?」


「でも、最近はカタリナと二人で抱かれていますよ?」


「は、初めての時は二人きりだったろ?」


サラは他に同居人が居なかったけれど、カタリナの時はサラを残していったからな。


「そうですか。タクマ様がそこまで言うなら仕方ありませんね。ミカエル、一人でも大丈夫?」


「ああ。少し怖いけれど、タクマ君を信じてみるよ。ありがとう、サラ君」


二人の間に妙な絆が出来ている。

まぁ、奴隷同士仲が良いのはいいことだ。

女性は三人寄ると姦しいけれど、二人だと争いが起きるって言うからな。


「それじゃ、よろしく頼むよ……」


脚震えてんぞ。声もな。

まぁ、ここまで来たらもう指摘しないよ。それは野暮ってもんだ。


俺はそっとミカエルの腰に手を添え、強く抱き寄せた。


「そ、それと一つ頼みがあるんだ」


「なんだ?」


囁くように耳元に口を寄せて先を促す。

少しでもミカエルが安心できるように、経験豊富な様子を装いたかったからだ。


「二人きりの時は、ミシェルって、呼んで欲しいな……」


「わかった。愛してるよ、ミシェル」


昨日の今日で何言ってんだ? って感じだが……。


「ああ、ボクもだよ、タクマ君」


そもそも相手は一目惚れだしな。



という訳で、ミカエルが奴隷になった理由と、タクマがミカエルを奴隷にした理由でした。

タクマが優しいのか、小心者なのか、はたまた考えなしなのかは、読んでくださった方の判断に任せます。

次回は水曜日頃までの投稿を目指しています。

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