第69話:決闘終結と三人目の奴隷
日付的には間に合いませんでしたが、一応本日二話目です。
決闘当日の話になります。
闘技場が空いていたのは二日後の午後だった。
もう一日滞在するのか。
この騒ぎのせいで変に目立っちゃったからな、決闘の場所である闘技場には行きにくくなってしまった。
中学時代のスーパー俺なら、周囲からかけられる声に軽快に返事をしながら堂々と闘技場の催し物を観戦できたんだろうな。
けど今の俺じゃ無理。
サラとカタリナの手前、格好つけたいと思っても、それでも無理。
見知らぬ大勢の人間に話しかけられたり好奇な目で見られたりする事を想像するだけで、動悸が激しくなり、嫌な汗が吹き出し、脚が震えてしまう。
好意的な声や視線だけでそうなんだ、間違いなく、現実には悪意も混じっているだろう。
無理。絶対無理。
そんな訳で俺は昼食を買ってすぐに宿屋に返って引きこもった。
宿の親父さんにも既に情報が行っていたのには驚かされたけど。
決闘の日まで部屋の中で過ごす事にした。
風の魔法を使って防音と防臭に気を使えば、部屋の中で調理をしても問題無い(と思う)から、食事のために外に出る必要も無い。
というか、宿の一回は食堂、というか酒場になっているんだけど、夕食時にそんな所へ行ってみろ。
間違いなく酒の肴にされてしまうわ。
嫌だ。それは無理。
とは言え二日間、サラとカタリナと三人で爛れた日々を過ごしていた訳じゃない。
訓練はできないけれど勉強はできるし、料理の練習も可能だ。
更に俺は魔石の還元と素材の錬金をする時間もあるしな。
近々サラとカタリナにも『錬成』を教えないとな。
ダゴニアで教えた魔法のように、『錬成』だけを教える事もできるけれど、それよりは中和剤を造らせた方が早いし簡単だ。
『錬金術師』の職業を獲得できれば、職業補正でステータスも上昇する訳だし。
「ところで、勝てるんですの?」
宿の部屋で作業をしていると、カタリナが聞いて来た。
「勿論」
俺は即答する。
「相手はAランク冒険者ですわよ? わたくしも何度かAランク冒険者と行動を共にした事がありますが、彼らの強さは次元が違いますわ。能力……ステータス的にも勿論ですけれど、戦闘経験や戦闘に関する嗅覚が桁違いですから」
経験者らしい実感の籠った言葉だな。
「それでも大丈夫だよ。あの場の雰囲気に流された所が無い訳じゃないけど、勝てると思ったから受けた訳だし」
『アナライズ』があるのに、勝機もなく受けるのはどう考えたって馬鹿だよな。
「お前達二人を失うなんて、今じゃ考えられないからな。勝てないと思ってたら逃げてたさ。その結果について回る悪評は、まぁ二人を守れたんなら甘んじて受けるよ」
噂は回るのが速いからなー。サラドの街の出来事でも、交易商人などから王国中に伝わる可能性は非常に高い。
ガルツが住みにくくなったら他国へ逃げるって手もあるけれど、できればカタリナの願いは叶えてやりたい。
他国で金を稼いで、自国に戻って領地を買い戻す事ってできるのかな? 『常識』に無いからわからんな。
今回は勝てると思ったから、受けなかった場合に発生するデメリットより、受けた場合に起きるだろう面倒事を取ったけれど、いつか国外逃亡しないといけない事態に追い込まれないとは限らないからな。
近いうちに聞いておこう。即断しなきゃいけない場合もあるだろうし。
正直、そんな事態に陥らないように動くのが一番なんだけれど、どうにも状況に流されやすいって言うか、他人に悪く思われる事が怖いんだよなぁ。
女神も女神で、信仰を集めさせるために、俺をトラブルの渦中に放り込みたがっているみたいだし。
「それともカタリナは、俺が負けると思ってるのか?」
「そういう訳ではございませんけれど……」
「まぁ俺を信じてくれよ。絶対に勝ってみせるからさ」
うぅん、言えば言う程信憑性が薄れる気がする。
こんな時に何て言えば説得力があるのかわからんなぁ。
いずれハイパー俺に至るためにも、こういう所も努力しないといけないな。
ファッションセンスも結局磨かれてないし。
「……もう受けてしまったのだから、仕方無いとは思いますけれど……。サラさんはどうなのですか?」
「タクマ様が負けるなんて有り得ません」
俺が作成した算数のドリルと格闘しながら、サラは断言する。
サラの信頼は重い時もあるけれど、基本的には嬉しいな。特にこういう時には間違いなく俺の力になる気がする。
他人から褒められたいって欲求、強いからな、俺。
そういう意味では、今度の決闘は怖い反面楽しみでもあるんだ。
大勢の人間に称賛されるのは、やっぱり嬉しいもんだよ。
「むぅ……」
まだ納得できていないのか、唇を尖らせるカタリナ。
サラと違って彼女には俺の奴隷になるまでに培った常識があるからなぁ。俺の力を間近で見て感じていても、やっぱり不安なんだろう。
「まぁ、あれだ。最悪ミカエルは良い奴っぽいし、あれの奴隷になった後でも、俺についていく宣言すればいいんじゃないか?」
「そういう問題ではりませんのよ?」
「そういう所、タクマ様だなって思います」
怒るカタリナに、最近だと珍しく俺を批難するサラ。
うん、今のは失言だったね。
時は流れて(言う程流れてないけど)決闘当日。
「人、入ってんなー」
俺は闘技場の真ん中に立ち、周囲を見回して呟いた。
平日の催し物でも八割は客席が埋まるくらいに、この街にとって闘技場でのイベントは関心が高いけれど、それでも満員になるのは珍しい。
あれから俺の情報が街中で出回ってたらしいからな。まぁ、時の旗印を隠してないから、時空の神の使徒だってのはどこからかバレる訳だし、冒険者や商人の情報ネットワークによって、最近ガルツに現れた新鋭冒険者だって事も知られていた。
やっぱパネェな、旅人の情報網。
これはまた、家に押しかけて来る奴が増えるか?
失敗したかなー。でもあの状況で受けないで立ち去るなんてできなかったし、受けて逃げたら悪い情報のみが伝わってただろうし。
「逃げずによく来たね」
この目の前のイケメンが全ての元凶なんだよな。
まったく面倒な状況に追い込みやがって。
「ここで逃げるとただでさえマイナーなうちの女神様の評価が地に墜ちるからな」
「はは、使徒は大変だね」
爽やかに笑うミカエル。観客席から黄色い歓声が上がる。
ちなみにサラとカタリナは関係者、っていうか今回の景品なので観客席とは別の場所でこの戦いを見ている。
当然のように賭けが行われていて、入場する前に係の人間から、ミカエルのダントツだって教えられた。
俺を怖がらせるとか動揺させようとか言うんじゃなくて、間違いなく、俺が勝った方が儲かるから伝えたんだろうな。
大丈夫、そこはしっかり儲けさせてやるよ。
ついでにサラとカタリナにも賭けさせている。
あまり大きく賭け過ぎて八百長を疑われてもあれだから、それぞれ金貨一枚ずつな。
ちなみに、オッズは俺の2倍。
そこまでダントツじゃないと聞いた時は思ったけれど、これはオッズの計算方法を知れば納得の数字だと思う。
オッズは賭け金の合計から胴元の取り分、所謂寺銭を引いた金額を、勝者の賭け金の合計で割る事で算出される。
例えば10000デューが売り上げで、寺銭が三割だった場合。
それぞれの人気順に、一番人気5000。二番人気3000。三番人気1500。四番人気500がそれぞれの掛け金の内訳だったとしよう。
寺銭三割の3000デューを引いて、残りが7000。これをそれぞれの掛け金の合計で割るとオッズは、
一番人気は7000÷5000で1.4倍。
二番人気は7000÷3000で2.3倍。
三番人気は7000÷1500で4.6倍。
四番人気は7000÷500で14倍。
となる訳だ。
で、今回はミカエルが勝つか俺が勝つかの二択しかないので、賭けが不成立な程ミカエルに人気が集まらない限り、俺のオッズもそこまで高くならない。
ちなみに賭けが不成立になるのは、わかるとは思うけれど、上記の計算で言えば、一番人気に7000を超える掛け金が集まった場合だ。
オッズが1倍を下回っちゃうからね。
賭けが成立している以上、必然、俺への掛け金は3000以上になる筈なので、上の計算例で言えば2.3倍を上回る事は無い訳だ。
ただこの2倍のオッズは、闘技場が主催している賭けであって、観客に混じった個人の胴元がやっている中には、どちらがどうやって勝つか、とか、どのくらい時間がかかるか、とかに賭けさせている者も居るので、単純な二択じゃないけどな。
さておき、ミカエルの装備は二日前に街中で見たのと同じだ。
鉄とは違う素材の金属でできた胸当てと脚甲。同じく謎金属の丸い盾。そして腰に下げた小振りの剣。
片手剣と盾で戦う、割とオーソドックスなスタイルだな。
「今から降参しても良いよ? ボクも彼女達を悲しませたくないからね」
「だったらこんな決闘を提案しないで欲しかったな」
「それは仕方ない。ボクの性分だからね。悲しませた相手はその倍幸せにするさ」
「女性に限定しないところが好感持てるよ」
『みなさんお待たせいたしました!』
ミカエルと会話をしていると、俺達の間に立った、一人の男性が声を張り上げた。
風の魔法を使って客席に届くようにしているらしい。
身なりと恰幅の良い年配の男性だ。
さっきこの闘技場の支配人だと紹介された。近くに領地を持つ伯爵家の四男だそうだ。
『只今より、冒険者にして時空の神の使徒タクマと、我が街が誇るAランク冒険者『輝きの剣士』ミカエルの決闘を執り行う!』
支配人の言葉に観客が湧く。
時空の神の使徒だって堂々と宣言しないで欲しかったな。まぁ、この観客の反応を見る限り、殆どの人間にバレてたっぽいけど。
これならあと六日くらい引き延ばして、支払日に決闘を合わせた方が良かったか?
それなら俺への印象より、フェルディアルのインパクトの方が大きかっただろうし。
無理だな。六日もこの熱狂の中で引きこもるなんて俺にはできない。
いや、俺一人ならなんとでもなったかもしれないけれど、二人に悪いしな。
『テレポート』で一先ずガルツに戻るって事もできるけれど、それを誰かに見られたらまずいしな。
『ワープゲート』って言い張る事もできるけれど、それはそれで治安維持の観点から問題視されそうだ。
王都の時は緊急事態だったから誰にも咎められなかったけれど、普通に考えれば、設定した場所に一瞬で移動できるとか、権力側からしたら脅威以外の何物でもないだろうな。
嫌だよ。国家反逆罪で指名手配とか。
俺自身もそうだけど、カタリナに土下座しても足りなくなっちゃうじゃないか。
『……ルールは以上。勝敗は戦闘不能、あるいは降参によって決定される!』
ちなみに相手を殺しても罪には問われず、普通に勝ち名乗りを受ける。
こういう所で、人の命が軽い世界だなって実感するよね。
いや現代日本でも、試合で人を殺しても罪には問われないけどさ。それは殺してしまわないよう周りが配慮してるだろ?
でもミカエルが装備してる剣、普通に真剣なんだぜ?
魔法やスキルも特に使用に制限無いんだぜ?
金的狙おうが目潰ししようが、背面部分を攻撃しようがお咎めないんだぜ?
それこそルールなんて乱入禁止とか、降参した相手を追撃するなとか、そんな程度のもんだったよ。
怖い怖い。
『ミカエルが勝利した際には、タクマが所有する奴隷を買い取る権利が与えられ、タクマが勝利した場合は、ミカエルを奴隷にする権利が与えられる!』
そこで起こるブーイング。
まぁね、そうね。これだけ聞いたら条件が吊り合ってないもんね。
『確かに不平等な条件だ。しかし聞いてください皆さん! この不利な条件を、我らがミカエルが敢えて飲んだのだ!』
沸き起こる歓声。俺へのブーイングがミカエルへの称賛の声に変わったようだ。
やっべ、超アウェーじゃん。
あと支配人の言い方だと、俺が出した無茶な条件をミカエルが了承したように聞こえねぇか?
ミカエルの方から条件出して来たんだぜ?
「なんだかすまないね」
苦笑いを浮かべて謝罪するミカエル。
「まぁ、仕方ないさ」
俺も苦笑いで返す。こればっかりはな、ミカエルのせいって訳でもないし。
ここで観客に説明する勇気なんて俺には無いしな。
『首輪に込められた条件は所有者への絶対服従。タクマ死亡の場合、所有権はサラへ。サラ死亡の場合はカタリナへ移譲される。カタリナ死亡の場合、ミカエルはサラドのある奴隷商に引き取られる事になる。その際、ミカエルの所持する財産の全ては時空の神の教会へ寄付されるものとする!』
「それで、本当にいいんだな?」
「おや、君からそれを聞くのかい?」
「負けた後で色々言われてもあれだからな。支配人は奴隷にする権利と言っていたけれど、俺はマジでお前に隷属の首輪をはめるぞ?」
サラとカタリナを購入しておいてあれだけど、そもそも俺は戦闘奴隷を欲しがってた筈なんだよ。
家の事を任せるにしても、留守を任せるにはそれなりに強さが必要だからな。
どのみち女性の奴隷を買う事になるんなら、後で問題が起きたりしないよう、最初から女性の奴隷を購入しようと考えたんだよな。
これからも奴隷が必要になったら、買うのは女性の奴隷だろう。
それでもやっぱり、この世界では戦闘が可能なのは女性より男性の方が多い。
けれど、契約で縛るだけでは、戦闘用の男性奴隷をサラ達と住まわせるのは不安だ。
特に、そういう奴隷は血の気が多いっていうか、野生的というか。
本能に素直な奴が多いからな。
そういう意味では、絶対服従を条件にできる戦闘奴隷というのは貴重だ。
普通は何百万と積んでもそんな条件受け入れて貰えないからな。
しかもミカエルはAランク冒険者。実力的にも破格だ。
「ああ、ボクはどちらでも構わないよ」
「……そうか」
俺達の間の空気を感じ取ったのか、支配人が俺達からゆっくりと離れる。観客たちも、一斉に静かになった。
ミカエルが剣を抜き、構える。中々堂に入った構えだ。雰囲気マジであるなぁ。
俺も適当に両手を前に出して空手っぽい構えをした。
構えなくていいのか? これが俺の構えだ。的なやりとりをしても良かったけど、ちょっと恥ずかしさが勝ってしまった。
『はじめ!』
支配人の言葉と共にミカエルが飛び出す。
爆発するように沸き起こる歓声。
俺は適当に呪文を唱えたふりをして……。
「フレイムランス!」
掌から炎の槍をミカエルに向けて放つ。
「くっ!?」
ミカエルはその槍を盾で防いだ。
魔法の防具だな。ただの盾以上に魔法防御力が高い。
けれど足は止まった。
「フレイムランス!」
続けて炎の槍を放つ。今度はその場で回転して躱す。
「フレイムランス!」
そこへ向けて三度放つ。今度は盾で防がれた。
「魔法使い……!? そうか、使徒だもんね」
成る程、そこまでは俺の情報は出回ってなかったか。
「悪いけど、俺の得意な距離は遠距離だ。お前を近付かせる気は無いぜ?」
「ふふ、望むところだよ」
俺は後退しつつ、ミカエルと距離を取りながら魔法を次々に放つ。
ミカエルも俺から放たれる魔法を、時に躱し、時に盾で防いで回避する。
「ライトボール!」
「!? 目くらましかい!? 小癪な!」
俺が放った光の球を、目を細めながら盾で弾き飛ばすミカエル。
勿論、『ライトボール』をただの光源、目くらましで俺は使っていない。
「光の槍!」
「なにっ!?」
『ライトボール』から『スピーアレイ』が放たれ、ミカエルを襲う。驚きながらも盾で防いだ。
「二種類の魔法を使うだって!?」
「まだまだこんなもんじゃないぜ? ライトボール」
沸き起こる驚きの声が気持ち良くて、つい調子に乗っている俺が居る。
どのみち目立つんだから、とことん目立ってやるか。今後、ミカエルみたいな勘違い野郎が出て来ないとも限らないからな。
『テレポート』や『キャストアストーン』を見られるのはまずいけれど、第二階位の魔法を複数使いこなすくらいなら、まぁ今更だ。
時空の神の使徒って特殊な立場に居る以上、使徒だから、の一言で納得できる範囲だろう。
多分。
ミカエルの周囲には四つの『ライトボール』が浮かんでいる。
「……まさか……」
「耐えてみせろよ?」
ひきつった笑みを浮かべるミカエルに対し、俺は悪い笑顔で言った。
『ライトボール』から放たれる光の槍。
「くっ!」
おお凄いな。
四方から放たれる光の槍を、ミカエルは躱し続ける。キレの激しいダンスを踊ってるみたいだ。
躱しきれないものは盾で防ぐけれど、それも徐々に厳しくなってきた。
「な、め、る、なあああぁぁぁぁぁぁああ!」
そしてついにミカエルがその剣を振るう。
刃が光の槍を弾き散らす。
魔法の剣だからこそできる芸当だな。それでも、かなりの速度で迫る魔法の槍を剣で撃ち落とすなんて、かなり難易度が高いぞ。
ついには『ライトボール』がその身に蓄えていた魔力を使い切って消滅する。
「はああぁぁあ!」
それを機と見てこちらへと駆け出すミカエル。
新しい魔法で迎撃してもいいけれど、ここは乗ってやるか。
「っ!?」
もう何度目か。ミカエルが驚愕の表情を浮かべる。
走り込んで来るミカエルに向けて、俺が槍による突きを繰り出したからだ。
手にしているのは以前手に入れた鋼鉄の槍。火竜槍なんてこの場じゃ出せないからな。
「『リトルマジックボックス』か。けれど、これで距離は近付いたよ」
「遠距離が得意だからって、接近戦を軽んじてる訳じゃないぞ?」
言いながら俺は突きを繰り出す。
右へ体を傾けて躱したミカエルに向けて、高速の連撃。
今度は左へ傾けて躱す。そこへ再び突き。
右、左、右、左。
順番に突きを繰り出しているだけだけど、その速度はかなり速い筈だ。
俺の筋力の高さもあるけれど、『ダブルスパイク』を連続発動させているんだから。
流石にこの場で『インフィニティスパイク』を見せる訳にはいかない。
目にも止まらぬ速さで槍を繰り出し続ける俺と、それを躱すミカエル。
それを見ていた観客のボルテージも上がったのか、再び歓声が沸き起こった。
ああ、やっぱりいいねぇ。こういう称賛の声。
これだよ、これが無かったから俺は高校で……。
やばい一瞬暗黒面に堕ちそうになった。
「唸れ、『鈍喰』!」
そしてその一瞬の隙を突かれてしまう。
突きを躱した直後に大きく剣を振りかぶり、そのまま槍の柄に向けて振り下ろす。
柄の部分は鉄製じゃないとは言え、突いて来た槍の柄を切り落とすなんて、普通はしないしできない。
一瞬を捉える動体視力と、寸分違わず槍の柄を打ち据える事のできる技量が必要になる。
けれどミカエルは敢えてそれを狙った。
「ソードブレイカーか!?」
そういう技を持っていて、そんな技を身に着けているって事は、それ用の武器を持ってるって事だよな。
宝剣・鈍喰:[分類]近接武器
[種類]片手剣
[属性]斬撃
[備考]魔法の武器
[性能]物理攻撃力120・重量9
物理防御力がこの武器の物理攻撃力を超えた対象を攻撃しても、この武器は破損判定を受けない
[固有性能]鉛喰
MP30消費して相手の武器を攻撃した際、対象は破損判定を受ける
破損判定とかゲーム的だな。多分、神様がシステムとして設定する時に便利だから使ってる表現なんだろう。
片手剣としては若干重いけれど、威力は最高峰だろ、これ。
あとやっぱりソードブレイカー的な武器だったしな。
俺の手にしていた槍は、柄の半分程で断ち切られてしまった。
振り下ろした際の勢いを利用してその場で回転し、俺を真正面に見据えるとそのまま盾を構えて突進して来た。
『シールドバッシュ』が来るか? それとも、その引いたままの右腕を振るって来るか?
「ここからはボクの距離だ!」
速度を落とす様子が無い。どうやら『シールドバッシュ』みたいだな。
それでこちらの体勢を崩して、斬撃で止めって感じか。
だが甘い。
「なっ!?」
俺に迫って来る盾に向けて魔法を放つ。当然防がれるけれど、無詠唱で放たれた魔法にミカエルは面食らっていた。
ミカエルはどうせこの後奴隷にするんだからバレてもいい。この歓声と距離なら、観客にはバレない。
支配人の位置が微妙か。まぁ、この状況だ。追及されたら聞こえなかっただけだろう、でゴリ押しすればいい。
動きが止まったミカエルに今度は俺から近付く。
顎を下から突き上げるようにして掌底を撃ち込む。
この時、指は広げず、軽く曲げておく。所謂、虎爪の形だ。
虎爪は掌底を相手の顔面に撃ち込むと同時に目潰しをしかけられる便利な技法だ。
けれど今回はそれが目的じゃない。
掌底を撃ち込んだ後、そのまま指をスライドさせて、小指を口にひっかけて投げるためだ。
最初に顎を下から突き上げているから指を噛まれる心配も無い。
「くっ! ぐ……」
倒れたミカエルの右手首を踏みつける。これでこいつはもう身動きできなくなった。
「俺が得意なのは遠距離だけど、中距離も近距離も苦手って訳じゃない。そもそもお前みたいな近接戦闘を得意としている相手を想定して槍や体術を会得してるんだから、その想定した相手より上なのは当然だろ?」
「言うのは簡単だけどね……」
「さて、ここからの逆転は無理だと思うけど、お前はどうだ?」
「ああ、ボクも同じ考えだ。時空の神の使徒であり、複数の魔法を使いこなし、武器術も格闘術も習得している。この負けはまぐれなんかじゃないさ。完全にボクの負けだ」
『勝負あり! 勝者タクマ!!』
ミカエルがそう言うと同時に、支配人が決着を宣言した。
怒号のような歓声が闘技場を包む。観客席の一角からは悲鳴が聞こえて来た。
『ではタクマ、勝者の権利を』
支配人の隣から、三方のような台に首輪を乗せた男性が俺に近付いて来た。
俺は隷属の首輪を受け取り、ミカエルを見る。
ミカエルはその場で項垂れるように蹲っている。
うなじを俺に差し出すその姿は、斬首を待っている罪人のようにも見えた。
ざわつく場内。甲高い悲鳴は罵倒となって俺に降り注いだ。
「本当にいいんだな?」
最後にもう一度尋ねる。
「ああ。構わない」
「この首輪には本当に絶対服従を条件に仕込んでいる。もう後戻りはできないぞ?」
「いざとなったら許しを請う程度の覚悟で、ボクは他人に決闘を仕掛けたりしないさ」
「そうか……」
これ以上はかえってミカエルを貶める事になる。俺はゆっくりと近付き、首輪をミカエルの首にはめた。
白く細い首に武骨な黒い首輪はミスマッチだけど、それが逆に程好いアクセントになっているように思えた。
宝玉が一度輝くと、首輪は完全にミカエルの首にはまった。これでもう、俺が解放しない限りミカエルは奴隷のままだ。
こうして決闘は俺の勝利に終わり、ミカエルが俺の新たな奴隷となった。
そのまま祝勝会が開かれる流れになりそうだったので、俺はサラとカタリナ、ミカエルを連れてさっさと闘技場を後にし、宿を引き払って『テレポート』でガルツへ戻った。
もうこれ以上の面倒事はごめんだ。ミカエルに今後の事を説明するためにも、一度家に帰るべきだと判断した。
「はは、成る程。ボクは負けるべくして負けたんだな」
『テレポート』を体験したミカエルは、乾いた笑いを浮かべていた。
「タクマ様、彼をどうされるおつもりですか?」
家に戻るとサラがすぐに聞いて来た。サラが俺にそんな疑問を持つなんて珍しいと思ったけれど、彼女はミカエルに敵意の籠った眼差しを向けている。
まぁ、ミカエルが俺に絡んだ事で、間違いなくいらない面倒事を背負い込むはめになったからな。サラの感情も理解できる。
「勿論、奴隷として使うさ。戦闘奴隷だな。家事も手伝わせるけれど、基本はそれだ」
「絶対服従を首輪で強制しているとはいえ、大丈夫でしょうか?」
心配そうに尋ねるのはカタリナだ。
自らの体を抱くようにして身をよじっているので、何を心配しているかは丸わかりだな。
「そうだな、改めて自己紹介といこうか。俺はタクマ。知っての通り時空の神の使徒をやってる。一応今後の目的とか、生活の方針とかは後で教えるとして、その二人がサラとカタリナ。俺の奴隷であり、愛すべき女達でもある」
「愛……!?」
「まぁ……」
俺の言葉に二人ともそれぞれ違った反応を見せるけれど、どちらも顔が真っ赤なのは一緒だな。
「お前もちゃんと自己紹介しろ」
俺の言葉に一瞬ミカエルは驚いたような顔をするけれど、すぐに苦笑いを浮かべて首を振った。
「全部わかっていたのかい。ひどい男だな、君は」
「何度も確認したろ? 本当にいいのか? って」
「むしろ望むところだったよ。勿論、負けたのはわざとじゃなくて実力の結果だけどね」
そしてミカエルは二人の前に立つ。
ただ立っているだけなのに、気品と威圧感がある。その動作の一つ一つが洗練されているんだ。
「改めて、ボクはミシェル・ラナ・エレノニア。こう見えて、女性なんだ」
「え?」
「は?」
ミカエル、いや、ミシェルの自己紹介を聞いて二人は固まってしまった。
美形剣士だと思っていたら実は男装の麗人だった。
それも驚きではあるけれど、勿論、二人が驚いたのはそんな事じゃないだろう。
特にカタリナ。
名前:ミシェル・ラナ・エレノニア
年齢:17歳
性別:♀
種族:人間
役職:タクマの奴隷
職業:王女
状態:歓喜(軽度)疲労(中度)
種族LV51
職業LV:戦士LV48 剣戦士LV38 強剣士LV31 王女LV40 探索者LV18
HP:387/387
MP:194/328
生命力:223
魔力:176
体力:226
筋力:241
知力:203
器用:235
敏捷:239
頑強:202
魔抵:173
幸運:93
装備:宝剣・鈍喰 サガ鋼の胸当て サガ鋼の脚甲 革のグローブ 砂漠亀の小盾 絹の服
保有スキル
剣戦闘 盾戦闘 軽業 直感 王気 人徳 カリスマ 貴人の振る舞い サタナキアの誘惑
エレノニア王国第一王女さんです。
何? 最近の王族の間では家出が流行ってんの?
俺の奴隷になる事を進んで受け入れた事といい、なんか面倒くさい事情を抱えてるんだろうなー。
三人目の奴隷は王女様。
何故彼女が名前と身分を偽って冒険者をしていたのかは、また次回。




