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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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第63話:氾濫鎮圧、二日目

氾濫鎮圧二日目です。

基本的に全編戦争です。

日が暮れてサハギン達が波が引くように一斉に退却していく。

追撃を行うような事はしない。勿論、かなりの打撃を与えられるだろうが、そもそも泥濘と湿地帯なので追撃には向かないし、反撃されれば機動力が殺されているのでこちらは撤退が難しいのだ。

背後から矢や魔法で攻撃する者は何人かいたけど。


俺達が居た第一陣は大した被害は出なかった。軽傷者はそこそこ。重傷の者は数える程度。死者は無し。

しかし第二陣、第三陣と被害が増え、第三陣では死者多数となった。

理由としては、疲労が一番大きな原因だろうな。


第一陣、第二陣が戦っている間、第三陣もただ休んでいるだけじゃない。

柵に攻めかかって来るサハギン達のその後方へ向けて遠距離攻撃を仕掛けていたんだ。

それに、戦場のひりついた空気の中に居るというのは、ただ待機しているだけでも精神力を削られる。

そして肉体的にも精神的にも疲労が蓄積した状態で、第三陣はサハギンと接触する事になった。


第一陣はサハギンと接敵するまで、それなりに時間があったけれど、第二陣、第三陣はいきなり接近戦から始まるんだ。

そりゃ被害も大きくなるだろうさ。


柵が壊される事こそ無かったけれど、柵を乗り越えて内側に多数のサハギンが侵入した事もあり、かなりの被害が出てしまった訳だ。


ちなみにサハギンが柵を乗り越えた時、柵に取りついているサハギンを後方のサハギンが次々踏み台にして跳び越えていった。

これは別に連携していた訳じゃなくて、たまたま後方から走って来たサハギンが、目の前で柵に阻まれて止まっているサハギンを跳び越えるために背中を踏みつけたところ、上手く柵の内側に入り込めたので、以降、サハギン達がそれを真似て柵を跳び越え始めたのが真相だ。

現に、最初に踏み台にされたサハギンは、何体目かのサハギンが踏みつけた際、光の粒子となって消えてしまった。

つまりこのサハギン、蹴りによるダメージをずっと受けていた事になる。


同士討ちとも言えるこの現象は、陣地のあちこちで見られた。これだけでも、サハギン達の知能の低さが窺い知れると思う。


日が落ち、サハギン達が撤退し、陣地内にサハギンが残っていないかの確認が終わると飯を含めた休息となった。

歩哨は兵士達が担当するので、俺達のような冒険者は朝まで自由時間だ。

飯は炊き出しが行われ、それを受け取るも良し、自前で用意するも良し。

俺は『マジックボックス』内に野菜スープと猪や鹿の肉を入れているが、今回は炊き出しを貰う事にした。

サラが若干悲しそうだ。


「家の食事が恋しいですわ」


サラの気持ちを代弁するかのように、カタリナが溜息と共に呟く。

言うなよ、俺だって我慢してるんだから。

こんな所で料理は勿論、『マジックボックス』を見せて目立ちたくねぇよ。


食事が済めば後は眠るだけだ。

寝具は支給されるけれど、毛布一枚貰えるだけだからな。冒険者ならそんなの自前で持ってるし、俺達のようにテントを持ってる者も居る。

まぁ、自前の毛布やマントは掛け布団代わりにして、支給された毛布を敷いてそれなりに快適な寝床を作る者も居るようだけど。


行商人はここにもついて来ているから、当然娼婦も居る。

女を買いに行く元気な奴らも居るけれど、殆どの冒険者達は明日に備えて大人しく眠るようだ。


俺もサラとカタリナを伴ってテントに入る。

当然、何もせずに寝た。

サラだけでなく、カタリナも若干寂しそうだったのは、嬉しくもあって複雑な気分だった。

だから俺だって我慢してるんだっつーの。


翌日、朝日が昇る前に目が覚める。

テントを出ると既に大勢の冒険者達が活動している。

多くは、陣地に漂う料理の匂いで起きたようだ。


俺も食事を受け取り、三人で朝食にする。

まだ夜も明けきっていない空は瑠璃色だ。季節的にはもう秋だ。流石にこの時間帯は肌寒いな。

暖かいスープが沁みるぜ。


斥候の兵士の話では、俺達が起きたくらいにサハギン達もダゴニアを出て四方へと動き出したらしい。

昨日と同じく日が昇る頃に来るな。

相対しているのが南北で良かった。これダゴニアの西に布陣してる部隊、厳しそうだな。


俺の予想通り、日が昇り始めた頃に鐘の音が響く。

遥か遠くで蠢く影。サハギンの一団がこちらに向かって来ていた。

数は昨日とそれほど変わりがないようだ。

これは、まだ暫くかかるな。


まぁ、まだ蓄えはあるから、一月二月ここに張り付けられていても、女神によって不幸にされるような事はないからいいけどさ。


サハギンを倒せば倒しただけ、最終的な報酬も多くなる訳だし。


やはり昨日と同じように、まずは遠距離射撃による攻撃が開始される。

昨日俺が独断専行して合図を待たずに射撃を開始した事もあってか、今日は俺が撃つより先に、射程距離に自信がある冒険者が射撃を開始していた。

俺の射程距離より十メートル近く長い。やるな。


とは言え、俺はこれ以上射程距離を伸ばせない。

スキルによる強化は限界がある以上、それ以上だと筋力が重要になるわけだけど、今度は弓の耐久度の問題が出て来るからな。

俺の筋力を十全に使えば、それこそ一キロ先の相手だって余裕で届く。

けれど、それを可能にするためには、かなりでかい弓が必要になる。でかいだけでなく、弓本体の強度も大事だ。


俺の持つエルフのショートボウは、ショートボウでありながら、耐久、射程共にロングボウを凌ぐ逸品だ。

けれどそこまで。スキル無しの俺の射程距離は二百メートルが限界だろう。

しかもこれは弓の耐久限界ギリギリの数字だから、数発撃っただけで弓が破損してしまう可能性が高い。

弦は間違いなく一発で切れるだろうな。


という訳でスキルも使って、弓に負担の少ない距離で射撃を開始。

うーん、随分出遅れてしまったな。

報酬自体は誰がどれだけ倒したかに関係無く、生き残った冒険者で頭割りだから別に構わないけれど、経験値が減っちゃうんだよな。

さすがにこの陣地一つで一個のパーティとは判定されてないらしいからな。


「そろそろだな」


今日もサラがボウガンを撃ち始めた段階で俺は弓をしまった。


「また行かれるのですか?」


サラが心配そうな表情を浮かべて訊いてくる。


「まぁ、昨日見てたろ? 大丈夫さ」


「……気をつけてくださいね」


止めても無駄だと悟ったのか、サラは何かを諦めたような表情でそう言った。


「あらためて、凄まじいですわね……」


柵を降りて、素手でサハギンと戦っていると、背後からそんな声が聞こえてくる。

感心しているというより、呆れているといった感じだ。

この二週間でカタリナも大分慣れたみたいだな。

良い事だとは思うけど、俺はちょっと寂しいぜ。


サハギンは同じようにただただこちらへ向かって突撃してくるだけだ。

最初は体捌きの練習をしていたけれど、徐々に捌き切れなくなったので、一撃必殺に切り替える。


昨日よりはもったな。多少慣れたって事か。

拳や蹴りでサハギンを撃破していると、鐘の音が聞こえた。

騎兵の合図、そして交替の合図だ。


俺は近くに居たサハギンの頭を掴み、持ち上げると、そのまま振り回した。

サハギンが武器と判定されたようで『フルスイング』が発動できた。

まぁ、大事なのは周囲に群がっているサハギンを吹き飛ばす事だから、その辺りは別に良いけどさ。


サハギンの一撃を受けたサハギンが光となって消え、振り回している途中にサハギンがサハギンにぶつかった瞬間に光になって消えた。

その瞬間に俺は柵に手をかけ、素早く登る。

柵の内側に降りてショートボウを取り出し、再び迫って来たサハギンに射撃を加える。

そして両側から聞こえてくる騎馬隊の突撃音。


目の前を数百騎の騎馬が通り過ぎるのを見て、俺はサラ達と共にその場から離れた。


前に出る冒険者と入れ替わり後方へ。

昨日と同じく三交代制。

待機場所に着くと小休止を命じられるが、それが終わると俺達と入れ替わりに前線に出た第二陣を援護するために射撃を行わなければならない。

流石にサラは届かないし、カタリナだとMPの残量に不安があるので俺だけだ。


第一陣は昨日と同じく負傷者こそ出たものの死者はゼロ。

しかし、第二陣は昨日より被害が出ているようだ。


第二陣自体が昨日の疲労もあって疲れているのに加え、それを援護する第三陣、第一陣も疲れているから、昨日以上にサハギンの攻撃が第二陣に届いているんだ。


これ明日以降やばいな。へたすると第三陣が壊滅しないか?

援軍の手配はされているだろうけど、そんなすぐ来ないだろう。

やっぱり湿地帯っていう地形がまずいよな。個人でサハギンの大軍とやり合える実力者が前に出れないんだから。


「あ、やばいな」


第二陣が交代した。当然第三陣が前に出るのだけれど、かなり旗色が悪いことに気付いた。

既に多くのサハギンが柵の内部に入り込んでいる。一部、防衛部隊の壁を突破している奴らもいるくらいだ。


第三陣が抜かれれば、当然被害はその背後で待機している第一陣へと及ぶ。


「ちょっと行って来る」


サラとカタリナが何か言う前に俺は走り出した。

柵の内側に入り込んだサハギンと乱戦になっている辺りへ飛び込み、サハギンへ攻撃を仕掛ける。


「すまん、助かる!」


弓と剣を持ち変える暇が無かったのか、片手に弓を持ったまま、サハギンの攻撃を躱していた冒険者が目についたので、サハギンの槍を掴んで顔面に拳を叩き込んだ。


「今のうちに!」


「お、おう……!」


言われて冒険者は弓をしまい、剣を抜く。

殴りつけたサハギンから槍を奪い、足元にひっかけて地面に転がす。


「あとはよろしく!」


「お、おう、任せとけ!」


手近なサハギンに奪った槍を投げつけて突き刺す。

生体武器は持ち主が死ぬと一緒に消えるからな。さっさと消費してしまおう。


他の場所でも、個人的戦闘力に自信のあるらしい、第一陣に参加していた冒険者が乱戦エリアで戦っているのがわかった。


サハギンに集団でたかられて、その体に何本もの槍を突き立てられている冒険者を発見する。

サハギンは飛び込んで撃破するが、その冒険者はスルー。

魔法やスキルを使えば蘇生は可能だけれど、ここでそんな真似をして目立つ訳にはいかない。


全てを救う事ができない以上、目についたから、なんて理由で特別扱いはできない。

俺がそれ(・・)ができると知れたら、果たして周囲はどんな反応を示すか。

好意的な反応ばかりじゃない事は確かだ。


俺を守ってくれる奴も出るだろうけど、敵対する奴も多く出る。

リスクとリターンが吊り合っているからと言って、それを選択するなんてとんでもない。

リスクとリターンはプラスマイナスでゼロ、なんて計算は成り立たないからな。俺はリターンがゼロでもリスクゼロを選ぶぜ。


これがサラやカタリナだとどうかな?

『テレポート』で連れて離れてから蘇生させるか? そして後は知らぬ存ぜぬで逃亡生活?

うーん、悩むところだな。

正直、俺の中で二人の存在はかなりのウェイトを占めている。

二人を連れての逃亡生活ならそれはそれでありだな。

問題はカタリナの事情か。今度きちんと話し合おう。



日が落ちてサハギンが退却していく。

昨日はそんなサハギンの背中に向けて、遠距離攻撃を仕掛ける者も居たのだけれど、今日はそんな元気がある者は居なかった。


第三陣の被害は五割ほどだろうか。

これは死者だけでなく、重軽傷者も含むから、実際に明日戦闘に参加できるのは七割程度だろうな。


現在の戦闘では二割が被害を受けると全滅って判定されちゃうんだっけ?

まぁ、それは部隊として役割分担がされている近代以降の戦争の話だ。特に戦術が発達していないこの時代、世界では二割の損害なんて、単純に数が減った、程度の意味しかないんだろう。

特にただ数を集めただけの傭兵部隊だからな。大事なのはどれだけやられたか、じゃなくてどれだけ残っているか、だから。


それでも損害は甚大だ。そのせいで、陣地全体の空気が沈んでいるように感じる。

食事時、昨日はあった賑やかさが無くなっていて、多くの人が無言のままだ。

そんな空気の中で大騒ぎできる人間も居ないようで、沈黙が沈黙を呼んでしまっている状態だ。


「ちょっと、いいでしょうか?」


俺もサラとカタリナの三人で、陣地の隅で静かに食事を取っていた。

そこに、一人の男性が話しかけて来た。


黄金色という一歩間違えれば趣味が悪いというか、成金趣味にしか映らないデザインながら、どこか上品さを纏った鎧に身を包んだ男性。

あどけなさを残しながらも整った中々精悍な顔立ち。

強い意志を宿した瞳。太い眉は何かに怒っているようだ。


そして俺と同じ、黒目黒髪。



名前:ユーマ・クジョウ

年齢:16歳

性別:♂

種族:人間

役職:光の勇者

職業:勇者

状態:疲労(中度)空腹(重度)


種族LV98

職業LV:勇者LV120


HP:4638/4649

MP:814/2884


生命力:2878

魔力:2019

体力:2345

筋力:10250

知力:1535

器用:2460

敏捷:2321

頑強:2774

魔抵:3015

幸運:300


装備:光の剣 陽光の鎧 白竜の篭手 神炎鳥の羽長靴 淡水の服


保有スキル

光の神の加護 英雄の資質 光魔法 剣戦闘 直感 致死予測 忍耐 精神抵抗 死後の一戦 ラッキースケベ 不屈 根性 勝利への導線

ダブルスラッシュ アクセル ラッシュ 英雄力解放




かつて見た、新米勇者が成長して俺の前に姿を現した。

いや、知ってたよ、第一陣の中に居たのはわかっていたよ。

けど関わり合いたくないから極力気にしないようにしてたんだよね。

なのになんで自分から来るかね? この勇者様は。


ステータスだけでなくて装備もかなり良くなってるな。

『常識』に無いものばかりだよ。『アナライズ』で見たらどいつもこいつも伝説級の装備じゃないか。

なんだよ、筋力1万って。その250になんの意味があるんだよ!? 常人五人分が誤差ってどういう事?


ちなみにユリアと違ってユーマ君のステータスが見られるのは、以前『アナライズ』に成功しているからだ。

まぁ、このステータスだと見れたところで関係ないけどな。




名前:佐伯琢磨

年齢:28歳(肉体年齢18歳)

性別:♂

種族:人間

役職:時空の神の使徒

職業:錬金術師

状態:疲労(重度)困惑(軽度)


種族LV27→35

職業LV:戦士LV21→28 弓使いLV15→20 剣戦士LV15→18 狂戦士LV11→14 魔導士LV14→18 自然術士LV12→16 暗殺者LV6→9 槍戦士LV10→16 錬金術師LV11→23

     拳闘士LV13 野伏LV12 精霊術士LV9 教師LV8 主人LV6


HP:788→1137

MP:809→1327


生命力:525→729

魔力:520→883

体力:473→746

筋力:449→723

知力:523→819

器用:491→806

敏捷:443→734

頑強:468→739

魔抵:475→758

幸運:126→134


装備:エルフのショートボウ 人鳥魔獣の毛皮ジャケット 灰色狼の服 灰色狼のズボン 砂漠狐の毛皮グローブ 赤毒蜘蛛革の靴 小鬼の大鉈 鉄の矢 ブロードソード 鋼鉄の槍 時の旗印 火竜槍


保有スキル

神々の祝福 技能八百万 魔導の覇者 異世界の知識 世界の常識




ちなみに俺のステータスだ。二ヶ月ぶりだな。サラとカタリナの育成に力を注いでたから戦闘系がこれまでに比べて成長してないな。

その代わり非戦闘系職業の伸びがいい。新しい職業を獲得したし。

最初『主人ホスト』は主人公に空目したからな。


さて、この勇者様はどんな用件なんだろうか?

見たところ鑑定系の能力は持っていないから、俺が異世界人である事はバレていないと思うけど……。


あ、それとも奴隷か? 現代日本の価値観だと、確かに奴隷って抵抗あるよな。

でもそれなら俺だけに文句を言う訳がない。

確証は無いけど俺を転移者か召喚者だと思ってる? それなら、確かに、元日本人が奴隷連れてたら一言言いたくなるか。


「どうして……」


どうでもいいけど、ユーマ君って一人なのか? 『ラッキースケベ』仕事しないぞ?


「どうしてそんなに強いのに、あんな戦い方をするんですか!?」


真剣な目で俺に怒りの感情をぶつけてくる。

カマかけや装備からの当て推量じゃないな。これはかなりの確信を持っているぞ。


ちょっと、冗談やおふざけで誤魔化せる雰囲気じゃなさそうだ。


勇者ユーマ再登場。

そして何気に、主人公のステータス公開が20話振りという事実。

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