第61話:カタリナ陥落
大規模戦闘があると言ったな。あれは嘘だ(ネタバレ)。
氾濫鎮圧への導入部分を書いていたら予想以上に長くなってしまいました。
「周辺の貴族が連名で冒険者ギルドに依頼をして来た」
「はぁ」
「もちろん、貴族達も兵を出すだろう。全体で二千人は集まりそうだ」
「はぁ」
「当然それなりに報酬は出る。今回で言えば、参加一人につき1000デュー。更に鎮圧で手に入った魔石を生存者で等分だな」
「はぁ」
「……ガルツの冒険者は、ルル湖の、南側を担当する、事に、なる……」
「へぇ」
「…………そこまでは馬車が出る。大体二週間程だな。出発は明後日の早朝だ」
「はぁ」
「…………」
「…………」
ついにクレインさんは沈黙してしまった。
それはそうだろうな。
ルル湖にある迷宮、ダゴニアの氾濫鎮圧依頼。
依頼主はルードルイとウェドロカの冒険者ギルド、そして、ルル湖周辺に領地を持つ貴族。
更にガルツの冒険者、つまり、俺達の担当地区はルル湖の南。
これだけなら普通だ。ガルツがあるのがルル湖の南側なのだから、配置される場所にも納得がいく。
先日揉めて、現在進行形で因縁のある貴族が、ルル湖の南に領地を持っていなければな。
理屈じゃないよな。
勿論、ルル湖の周辺にあるのは件のディール家の領地だけじゃないし、氾濫によって出現したモンスターがピンポイントでそこだけを狙う訳がない。
おまけに、領主には隔意はあっても、そこに生きる領民達には何の関係も無い。
だから俺の抱いている怒りのような感情は、間違いだってわかってる。
けれど、理屈じゃないんだよなぁ。
別に俺達が行かなくても、氾濫は鎮圧されるだろうし。
ディーン家を潰す目的で行かない選択をしても無意味。
逆に、参加したからと言って、ディール家に恩を売れる訳じゃない。
一人につき1000は魅力的だけど、考えられるリスクがちょっと無視できないくらい大きい。
最悪、氾濫鎮圧のどさくさに紛れて、刺客を放たれる可能性だってある訳だし。
カタリナは狙われないだろうし、俺を何とかできる程の刺客が居るなら既に動いているだろう。それこそ、俺の手に渡る前、他の人間がカタリナの主人になった時に暗殺している筈だ。
問題はサラの安全だ。
一人残していくのは論外。かと言って連れて行くのも不安だ。
氾濫の鎮圧に参加させるだけでも不安なのに、その中に暗殺者が紛れているかもしれないとか。
「まぁ、お前の気持ちもわかる。わかるがここは堪えて貰いたいんだが……」
「ではクレインさんが個人的に約束してください」
「……内容によるな」
自分の立場が弱いのを理解していながら、クレインさんはそう答えた。
慎重だな。仕方ない。
「今回の氾濫を鎮圧したら、ディール家を二度と俺達に関わらせないと約束してもらえますか?」
「う、ぬ……」
即答できない所が逆に信用できるな。
ジョン個人ならともかく、どう考えてもディール家と彼らと親交のある幾つかの家がカタリナに関わっているからな。
約束なんてできる訳がない。
事が起こった後に処理するならともかく、事前に防ぐとなると難しいだろうな。
「仮にだ。仮に、だが。その約束が破られるとどうなるんだ?」
「神の使徒と交わした約束は神への宣誓に他なりません。それを違える事は神への冒涜。神殿を通して抗議する事になるでしょうね」
「ぬ……」
俺の言葉に渋面を作るクレインさん。
俺の言った事の意味が理解できるんだから、丸投げ状態でも流石は都市長ってところか。
神の力が実際に加護や神罰として存在しているこの世界では、宗教勢力の発言力は相当に高い。
地球でも、織田信長の天下統一を阻んだのは、武田でも毛利でも、ましてや明智でもなく、石山本願寺をはじめとした宗教勢力だったって言われるくらいだからな。
力を持った宗教勢力はそのくらい厄介なんだ。
フェルディアル自身はこの国に神殿が無いくらいのマイナー神だけど、だからこそ、無碍に扱う事はできない。
何せマイナー神とは言え、神の使徒をぞんざいに扱えば、他のマイナー神を信仰する教団が、自分達も同じ目に遭うのでは? と危惧し始めるからだ。
そうすると、マイナー神を信仰する弱小教団が連名で抗議する事になるだろう。
それだけでも国にとっては国際信用度が著しく低下するなどの被害が大きいが、マイナー神でも、複数の国で信仰されているようなメジャー神と深い繋がりがあったりすんだ。
そうして神々の繋がりで抗議が連鎖していくと、国一つが潰れる可能性さえ考えられる。
勿論、一部の高尚(自称)な聖職者しか神の声を聴く事ができない地球と違い、割とほいほい神が降臨するこの世界で、神の使徒である事を悪用する事なんてできない。
神本人が現れて「そんな事言ってない」って言えばそれで終わりだからな。
信仰が力になる神々だから、信仰を集めるために悪用するなら許される可能性はあるけれど。
神自身は、それを『悪用』と考えないだろうからな。
フェルディアルはどうだろう? あちこちの世界に移動できるせいで、結構俗っぽい性格してるからなぁ。自分の利益のために使徒としての立場を利用したら、例え信仰を集めていたとしても、『悪用』って判断するかもな。
閑話休題。
まぁ、クレインさんに意地悪するのもこのくらいにしておこう。
正直、クレインさんとは良い関係を築いておいた方が色々とメリットがあるからな。
「まぁ、俺だって貴族でない人が、貴族の横暴を未然に防ぐ事の難しさくらいある程度は理解しています。だから、約束が破られたらすぐに抗議するような事はしませんよ。その後の対応を見てから判断させていただきますとも」
「う、む。すまない……」
素直に頭を下げてくれたクレインさんからは哀愁が漂っていた。
「ただ個人的な約束の保障のために、もう一つ条件を飲んでください」
「な、なんだ?」
やだなぁ、そんなに警戒しないでくださいよ。
「氾濫鎮圧中、もしくはそこへ向かう途中、あるいは鎮圧後の帰り道。とにかく今日から氾濫を鎮圧して家に帰り着くまでの間に、俺達三人が襲われたり理不尽な扱いを受けたりした場合、クレインさん個人の資産から1000デューを支払って欲しいんです」
「む……」
「勿論、あからさまな野盗の類や野生の獣、魔物、モンスターの襲撃はそれに含みませんよ」
「まぁ、いいだろう。そのくらいは約束してやろうさ。担当地域で事が起こっても、すぐに対処できないからな。そのくらいの保障が必要だろう」
クレインさんは自分の胸を叩いて、大仰に条件を受け入れる。ヤケクソ気味だなぁ。まぁ、ガルツの都市長として冒険者に氾濫鎮圧を依頼しないといけないのに、つい先日相談を受けた相手に、トラブルの原因である悪徳貴族の領地を助けてくれ、と頼んでいるんだからな。
その心労は推して知るべし。
え? 半分くらい俺のせい?
クレインさんが悪い訳じゃないとはわかっていても、やっぱり、ねぇ?
その後、安心したのかクレインさんは紅茶を飲み、クッキーを食べて足取りも軽く帰って行った。
多分、俺が引き受けてくれるかどうかが一番の懸念材料だったんだろうなぁ。
「という訳でサラ、カタリナ。俺達は明後日、ダゴニアの氾濫鎮圧に赴く」
「はい!」
サラは力強く返事をするが、カタリナは難しそうな表情で沈黙している。
「何か不満か?」
その態度の理由が、仇敵の領地を助ける事に手を貸すのは気が進まないせいだと考えた。
「いえ、大丈夫です。氾濫の被害を受けるのは、ディール家の領地だけではありませんから……」
そう言うカタリナはやはり苦しそうだ。
「ダゴニアの氾濫だからメインに戦うモンスターはサハギンだろう。正直、二人だと一体倒すのでも苦労する相手だ」
「はい……」
「ですわね」
サハギンは戦士LVで言えば10相当のモンスターで、ホブゴブリンより弱い。
けれど奴らは集団戦闘を得意とし、更に地形適応もある。
「という訳で、戦力の底上げを行う」
「レベリングですか?」
「とは言え、あと一日程度でなんとかなるものかしら?」
「レベリングも勿論だけど、もっと手っ取り早く戦力の底上げをする方法がある。これは既にサラには仕込んである」
教えると、常時発動させてしまいそうだったから黙ってたんだよな。
切り札的な扱いにしようと思ってたから、基本まだ俺と一緒にいる事が殆どのサラには必要ないと思ってたんだよ。
「という訳でカタリナ。お前を抱く」
「え!?」
「は?」
隷属の首輪は慈愛の神によって造られている。
慈愛の神と奴隷を縛る首輪が繋がらない人間もいるかもしれないけれど、そもそも隷属の首輪とは、奴隷に主人の命令を強制させるためのものではなく、主人の横暴から奴隷を守るためのマジックアイテムだった。
かつて奴隷が今のように人権や生活を保障されていなかった時代、ヒトがヒトを虐げる様を嘆いた慈愛の神によって造られたのが隷属の首輪なんだ。
隷属の首輪に禁止事項を仕込んでおけば、主人の命令に逆らう事ができる。
代わりに、首輪に従属事項を入力する事で、奴隷が逆らう事を防ぐ事ができる。
そして隷属の首輪は、主人と奴隷の間に真なる絆ができた時のために、色々と隠された能力があるんだ。
『常識』で知られている事として、奴隷が主人からの命令を心底から受け入れた場合、首輪の魔力で奴隷の能力が上昇する効果がある事は前にも述べた。
世間的には知られていないが、サラが得た『真の絆』もそう。
そして隷属の首輪の固有性能として発生するものもある。
「『真の絆』もそうだけど、その性能を発生させる事で奴隷のステータスが大幅に上昇する。つまりは生存率が大きく上がるんだ」
一通り説明をしても、カタリナは了承しなかった。
俺は彼女に詰め寄り、その肩を掴んだ。
「お前はこんな所で死んでいいのか? 叶えたい夢があるんじゃないのか?」
俺が顔を近付けると、その分だけ、カタリナが後退る。追いかけるようにして前に出る俺。
「俺は前に言ったな。お前が俺に抱かれたいと思い、俺がお前を抱きたいと思ったら抱くと。今がその時だ」
「け、けれど、これは何か違うような……」
「打算や下心があっても良いとも言ったぞ。そしてそれは、俺の側でも同じ事だ。俺はお前を失いたくない。だからステータスを上昇させるために、お前を抱く!」
「や、やはり、なんだか、何かが蔑ろにされているような……」
「お前が大事だから、お前を守りたいんだよ。勿論、純粋に女性としてのお前に興味があるのも当然ある!」
「う……」
真正面から俺に見つめられて、情熱的な言葉を投げかけられて、カタリナの心の壁は崩壊寸前だ。
元々相当俺への好意が高くなっていたんだからな。
そこへこの押しの強さ。
陥落しない訳がない。
カタリナの背が壁に当たる。
それ以上は下がれない。
両肩を掴んでいた俺の手が、カタリナの頭と背中に回される。
顔が近付く。
潤んだ瞳が俺を映す。
それでも。
カタリナは逃げない。
「無理矢理じゃ意味がない。お前の同意が必要だ」
「それなら……」
「だから、嫌なら逃げればいい」
もう、俺はカタリナを抱く腕にそれほど力をこめていない。
軽く押すだけで、カタリナは俺の両腕から逃れられるだろう。
「その言い方は、ずるいですわ……」
頬を赤く染めてそう呟いたカタリナは、そっと目を閉じた。
微かに、閉じた唇が突き出される。
迷わず吸い付く。
「ん……」
再びカタリナを抱く腕に力をこめて、彼女を強く抱き寄せる。
「ん……。んん……!?」
俺は若干口を開き、その間からカタリナの唇へと舌を差し込む。
大した抵抗も無く、舌は用意に彼女の口内へ侵入を果たした。
「んちゅ、ちゅぅ、ちゅぷ、ちゅぱ……」
今は『チャーム』も『ダブリングスマイル』も使用していない。
けれど、カタリナは俺のディープキスを受け入れている。
「ん、ちゅぷ、ちゅ、んぅ、ちゅ……」
カタリナの方からも積極的に舌を絡めはじめた。俺の背に回された腕に力が籠る。
「ぷは……」
そして二人の唇が離れた。
暫く見つめ合う。
上気した頬、潤んだ瞳。
何かを期待するようにこちらを見つめるカタリナ。
「サラ」
「は、はい!」
カタリナを抱きしめたまま、俺はサラの名前を呼ぶ。
「すまん、暫く一人にする」
「!! ……いえ、はい。大丈夫です。タクマ様の思う通りに」
そして俺はそのままカタリナを自分の部屋へと連れ込んだ。
凄かった。
何が凄かったって、俺が今まで体験した事のないめくるめく快楽の世界がそこにはあった。
初体験は行為の最中、世界が輝いて見えた。
サラとの初体験は、彼女の全てが愛おしく思えた。
そして今回。
やはり母性の象徴は偉大だと、俺に実感させてくれた。
揺れたっていうか、回ったよ。
指が沈む沈む。しかし確かな弾力もあった。
言ってしまえば脂肪の塊。それが揺れたり回ったり激しく動いたりしただけ。
なのになんであんなに卑猥なのかね。
人間が猿から進化した過程で、オスへのセックスアピール場所が臀部から移動しただけはある。
「サラ、待たせた」
行為を終え、暫くまったりして余韻を楽しんだ後、俺はカタリナの腰を抱いたまま、部屋から出た。
その瞬間、サラが勢い良く立ち上がり、こちらを見る。
そして浮かぶ、絶望の表情。
しかし俺は、空いている方の腕を大きく広げ、
「来い!」
「はい!」
打てば響くとはこのことか。小走りで近づいて来たサラが、俺の胸に飛び込む。
それを優しく受け止め、抱きしめる。
「俺は二人を大切に思っている。だからサラ、そんなに不安そうな顔をするな」
「不安にもなります。私がタクマ様にしてあげられる事は、私がタクマ様に差し上げられるものは、あまりにも少ない」
「そんな事はない。お前は十分に俺に尽くしてくれているし、誰もが他人に渡さずに持っている、『自分』を俺にくれた」
「そのお言葉だけで、私には十分過ぎます」
「さぁ、このまま二人の感触を楽しんでいたいところだけど、早速説明の続きといこう」
俺は二人を両腕で抱いたまま、二人の耳元で囁くように言った。
「ここに意識を集中しろ。魔力を集めるイメージだ」
俺は二人の頭に腕を回して、大外から首輪の中心にある宝玉に触れた。
早速、カタリナの首輪の宝玉が、発光を始める。
サラに顔を向け、にやりと笑うカタリナ。それを受けて、眉間に皺を刻みながら集中を開始する。
サラの首輪の宝玉も光始めたところで説明を再開する。
「俺の事を思い浮かべろ。お前達は俺の盾であり、俺の剣である。お前たちの喪失は俺の心の喪失でもある。
俺を守れ。自分を守れ。俺の心を守れ。そのための力を欲しろ。そのための力の象徴をイメージしろ」
宝玉の中で魔力が渦巻いているのが見えた。首輪自体が熱を持ち始める。
「唱えろ」
「「エンゲージリンク」」
力ある言葉に応え、首輪から眩い光が放たれる。
俺は腕を離して一歩下がった。
そして、光が収まったそこには。
「こ、これは……!?」
「これが、首輪の隠された力ですの……!?」
全く違う姿へと変貌したサラとカタリナの姿があった。
サラは黒い全身鎧を身に纏っていた。
鉄とは違う金属でできた黒光りする鎧。その妖しい輝きは、ただ光を反射しているだけではないように思われた。
狐のように口元が尖った形のフルフェイスの兜。面当ての奥にあるだろう、目の部分は、赤く発光していて、外が見えているようには見えない。
なんか、全体的に禍々しいな。
サラは12歳。
そうか、若干早い中二か。それとも小六病って奴か?
いつの間にか手には槍が握られている。
『アナライズ』で見ると、アシッドランスだとわかるが、鎧と同じく黒光りしており、穂先がフランベルジュのように波打っているその形は、魔槍的な何かに思える。
悪の幹部的なビジュアルだな。
反対にカタリナはやたらと露出が多い、赤いドレスを身に纏っていた。
しかしスカート部分も、かろうじて肌を隠している上半身も、布とは違う、金属的な素材でできているように思えた。
やはりこちらも、光の反射以外の理由で発光しているように見える。
肘から指先にかけて謎金属の手袋をはめているが、手がやたらと大きい。指先は長く、先が尖っていた。物を掴むのに苦労しそうなフォルムだ。
赤色と白い肌のコントラストが妖艶な雰囲気を醸し出していた。
「姿以外だとどうだ? 何か変化を感じ取れるか?」
「そうですね」
言いながら、サラは首を巡らして自分の全身を確認しつつ、その場でクルクルと回っている。
オシャレな服を着ているなら、少女の可愛らしい行動なんだろうけれど、禍々しい黒い鎧に身を包んだ姿じゃ萌えねぇよ。
「特には感じませんね。しかし、このような全身鎧を着ていながら、いつも通りにしか感じませんので、身体能力は確実に上昇しているものと思われます」
「魔力が高まっているように感じられますわ。サラさんと同じく鎧の重さを殆ど感じないのはわたくしも身体能力が向上しているからでしょうね」
カタリナもサラと同じように、自分の体を確認しながらクルクルと回る。スカートの裾を広げて回る様は絵的に映えた。
「それじゃちょっと試してみるか」
「試す?」
「何をですの?」
「実際にどのくらい動けるのか確認しておこうぜ。いつもと感覚が違うと本番でまずいだろう?」
「そうですね、流石タクマ様です」
普通に褒めてくれているんだろうが、その褒め方は俺的に引っかかる。
「もっともですわね。それで? どういたしますの? このままシュブニグラス迷宮へ行くのかしら?」
「まぁ表に出るのは間違ってない」
そして俺は唇の端を吊り上げて、
「俺と模擬戦をやろうぜ」
そう言った。
名前:サラ
年齢:12歳
性別:♀
種族:人間
役職:タクマの奴隷
職業:家事士
状態:歓喜(中度)興奮(重度)狂気(軽度)嫉妬(中度)
種族LV13→15
職業LV:戦士LV5→7 槍戦士LV2→6 家事士LV11→14 事務員LV2→5 家事女中LV3→6 洗濯女中LV1→3 台所女中LV2→5 愛人LV6→12 自然術士LV2→3
HP:136/98→140
MP:93/81→114
生命力:52→79
魔力:41→61
体力:67→92
筋力:54→77
知力:55→75
器用:92→118
敏捷:53→82
頑強:52→71
魔抵:42→55
幸運:11
装備:隷属の首輪
保有スキル
奴隷の心得 清掃 不意打ち 従属 自然魔法 槍戦闘 パワースパイク スマッシュ 戦闘継続 ダブルスパイク 魔力操作 洗濯 料理 床術 スタミナ 根性 書類作成 清書
真の絆 慈愛の神の加護 愛の神の加護
フルスイング 絶倫
大分強くなったな。『真の絆』がチート過ぎる。
家事の一切を任せているから、LVが高くなっても家事士の上りが良いな。そして愛人の上がり方といったら……。
なんだよ、『絶倫』って。それケンタウロスとかトロールとかのいかにも性欲旺盛なモンスターが持ってるスキルだからな!
ここのところ、夜戦でサラに負けっぱなしなのはこのせいか……。愛人を獲得していない以上、『技能八百万』でも使用できないからなぁ。
装備欄が隷属の首輪だけになってるな。今までは表示すらされていなかった隷属の首輪が出現したのは、エンゲージリンク発動中だからか、それとも本人が装備品だと認識したからなのか。
あとサラさんや。その状態異常は一体なんなんですかね?
名前:カタリナ
年齢:21歳
性別:♀
種族:人間
役職:タクマの奴隷
職業:貴族
状態:歓喜(軽度)興奮(軽度)困惑(軽度)
種族LV6→10
職業LV:貴族LV7 魔導士LV4→8 家事士LV2
HP:82/66→91
MP:106/92→124
生命力:41→53
魔力:56→75
体力:38→49
筋力:37→47
知力:60→78
器用:42→55
敏捷:39→49
頑強:43→52
魔抵:49→62
幸運:37
装備:隷属の首輪
保有スキル
世界魔法 魔力操作 魔力感知 貴人の振る舞い 不運(中度)
魔法戦闘 真の絆 試練の神の加護
『真の絆』を獲得したのがついさっきのせいか、ステータスの上昇がサラに比べて緩やかだ。
家事をサラと分担させていたから家事士を獲得。この分だと、派生職の獲得も早そうだな。
なんで不運が悪化してるんですかねぇ? 試練の神、お前のせいか。
時空の神以上のマイナー神だぞ。『常識』に存在してねぇもんよ。お前実在してたの? レベルだぞ。
神が俺と関係を持った相手に加護を与えてくれるのは、何か理由があるんだろうか?
俺が使徒だから? でもそれなら『時空の神の加護』が入る筈だよな。ん? 二人とも持ってないのはなんでだ? 今度フェルディアルに聞いてみよう。
ちなみに『エンゲージリンク』発動中だから、二人のステータスはこの数字より更に大きい筈だ。
そして二人のMPが大きく減っているのは、『エンゲージリンク』が発動時と発動中の両方でMPを消費する能力だからだ。
当然、MPが無くなれば『エンゲージリンク』は効果を失う。早くカタリナにも『根性』獲得させてやらないとな。
しかし、二人とも装備欄に隷属の首輪しか表示されてないって事は、サラ鎧の下全裸?
カタリナもさっきまで普通に服を着ていたのに、現在胸の先端以外の上半身ほぼ全ての肌が露出しているし。
「じゃあまずはサラからな」
疑問はひとまず横に置き、俺はサラと対峙する。
距離としては五メートル程度。
「本当によろしいんですね?」
槍を構えながら確認するサラ。フルフェイスのせいで表情がわからないけど、声には困惑した様子が見て取れる。
けれど、それがフェイク、というか、本心でない事は俺にはわかっている。
だってあの状態異常見たらな……。
「ああ。幾ら強化されても、お前たちに一対一で引けを取るほど……」
言い終わらないうちにサラが突進して来た。
槍を臍の前に構えて、穂先をこちらに向けて突っ込んで来る。
おお、速いな。いつもの動きに比べて倍以上速いぞ。
繰り出された穂先を躱す。
「ちっ!」
横に避けた俺を追いかけるように、槍を横薙ぎに振るった。
ていうか今舌打ちした?
嫉妬があった事を考えると、ひょっとしてカタリナ抱いた事怒ってる?
いや、怒るのは理解できるよ。それで今回、模擬戦にかこつけて俺をボコってストレス解消する気か?
歓喜と興奮がやけに高かったのもそのせい?
不届きなご主人様に合法的にお仕置きできるって?
なるほど、チャンスだよな。普段は隷属の首輪のせいでそれができないもんな。
ヤンデレか! あ、だから狂気……。
俺は振るわれた槍の回転半径の中、穂先ではなく柄の軌道上に居る。
なるほど、この位置だとバックステップで回避する事も難しい。しゃがんだり、ジャンプしたりは次の行動が遅れるから駄目だ。
ほうほう、よく考えてるな。
だがまだ甘い!
俺は回避を選択せずにそのまま前に出た。
「くっ!」
長柄の武器は先端にいくほど遠心力が強くなるけれど、根本はそれこそ使用者の筋力だけしかない。
右手でサラの持ち手を握って槍の回転を止めると、サラが悔し気に呻いた。
槍を握るサラの手を、包み込むように握っているので、槍を離して距離を取る事もできない。
俺は左手で掌打を放つ。兜の上からだったが、サラの顔面を直撃。かぁん、と甲高い音が響いた。
うーん、今の感触は鉄じゃないよな。水晶が近いか? 魔力の塊みたいなもんだからなぁ。ああ、魔石と一緒なのか。
よろめき、たたらを踏むが、俺がサラの右手を握ったままなので退がる事ができずに態勢を大きく崩した。
普通の戦闘なら追撃して一方的にフルボッコにするんだけど、これ、サラがどのくらい動けるかを見る模擬戦だからな。それじゃ意味が無い。
という訳で俺は手を離してバックステップ。サラと距離を取る。
「どうだ?」
俺の行動の意図を理解したんだろう。その場で膝をつき、槍を支えに息を整えているサラに尋ねた。
「そうですね。今までより攻撃の繋ぎが楽になりました。突きから薙ぎ払いは脇腹がひきつるような感じだったのですが、それが無くなりましたね。スピードも上がっているのでしょうか? 自分では実感できなかったのですが……」
ああ、感覚も鋭敏になっているから、速度の上昇が感じられなかったんだな。
まぁ、スピードだけ大幅に上昇して意識そのままだったら、思考がついていけないもんな。
「なら大丈夫そうだな。一応耐久力もテストしておくか。さっきの感じだと、サハギン程度の攻撃力なら、直撃されない限り大丈夫とは思うが」
「……何をなさるのでしょうか?」
「全力で殴りつける。大丈夫、オートレイズの魔法を先に使っておくよ」
「おーとれいず?」
「死亡前提ですか……」
言葉の意味がわからず首を傾げるカタリナ。俺からゲーム用語などを教わっているせいで理解できてしまったサラ。あれ絶対兜の下苦笑いしてるな。
……サラの苦笑い、見てみてぇ。
「わかりました。本番の不慮の事故に遭わないとも限りませんからね」
「そうそう。限界を知らなきゃ限界には挑めないからな」
そして俺はサラに『オーバーロード』をかけた後、スキルを多重発動させて突撃する。
「!」
足を肩幅に開き、若干内股。重心を落として背筋を伸ばし顔は正面に向ける。
俺が押してた通りの防御態勢をサラが取る。よし、優秀。
サラの手前で踏み込む。爆発したような音が轟き、衝撃と共に地面が陥没した。
わぁお、俺のフルステータスで『震脚』かますとこうなるのか。
あ、サラ宙に浮いてる。折角の防御姿勢が無駄だ。正直すまん。
突進と『震脚』で発生したエネルギーを、下半身を固定する事で全て上半身へ伝える。
捻転をもって、そのエネルギーを拳へ。腰から肩、肘、手首を一本のルートで結ぶように突きを繰り出すと、膨大なエネルギーがその路を通って拳から放たれるのを感じた。
『震脚』の何倍もの轟音。
拳が胸に命中した瞬間に吹き飛ぶサラ。どうやら上半身は無事の様子。
サラの吹き飛ぶ軌道上でキラキラと陽光を反射して輝いているものが舞っている。おそらく、『エンゲージリンク』で纏っていた鎧の破片だ。
吹き飛んでいくサラをカタリナがポカンとした表情で眺めていた。
そのまま数秒滞空し、百メートル以上向こうの地面に落下。更に地面を削りながら滑っていく。
それから十メートル程滑り、ようやっとその体が止まった。
HP:1/140
拳闘士のスキル『不殺の誓い』によってサラは死なずに残った。
確率発動だからな。念のためオートレイズの『オーバーロード』をかけていたけれど、良かった良かった。
すぐに『テレポート』でサラの傍まで飛び、『ヒーリング』を使用する。
上半身の鎧が剥がれて白い肌が見えてしまっている。アームガードも二の腕は完全に破損し、肘から先も罅割れていた。
兜は残っているけれど、同じように罅割れている。
しかし徐々に、散った破片が魔力として集まり、鎧を修復していっている。
「う……」
「すまん、少しやり過ぎた。大丈夫か」
「だ、大丈夫です。さ、流石、タクマ様……」
息も絶え絶えじゃねぇか。
HPは回復しても肉体のダメージ自体は抜けていないらしく、まだ目の焦点が合っていない。
しかし参ったな。これじゃどのくらいの攻撃を止めるかわからんぞ。
スキルを一つずつ無くしていけばいいんだろうけど、正直、サラをそんなに殴りたくない。
俺の精神の方が保たないわ。
「そのまま休んでろ。カタリナ」
「は、はい」
「次はお前だ」
「え? いえ、その、私は後衛ですので……」
「ああ、だから思いっきり魔法を放ってもらう」
「あ、なるほど……」
あからさまにほっとするカタリナ。まぁ、さっきの衝撃映像を見た後じゃなぁ。
「今お前が使用できる最大の攻撃魔法を空に向かって放て」
「わ、わかりましたわ。……我が身にある魔の力よ……」
唱え始めたのは第二階位の世界魔法、『マジックボルト』。カタリナが唯一使える第二階位以上の魔法だ。
うん、よく覚えたもんだよ。
「マジックボルト!!」
淡い赤色で発光した魔力の弾丸が空へと放たれる。
うーん、見た目だけじゃよくわからんな。いつもよりは大きかった気がするが……。
「どうだ?」
「そうですね、手の平からいつもの何倍もの魔力が放出されたのが感じられましたわ。けれど、体内の魔力はさして減っていないように思われます」
カタリナは威力の上昇をしっかりと感じたようだ。
「とりあえずこんなところか。一応明日シュブニグラス迷宮で『エンゲージリンク』を発動させた状態で戦ってみよう」
「はい」
「わかりましたわ」
未だに動けないサラを背負って、俺は家に入る。カタリナも後に続いた。
「え? さ、三人で、ですか……!?」
夜、いい感じに夜も更けたところで、俺は今日は三人で寝ようと提案した。
狼狽するカタリナ。しかし拒絶というより羞恥っぽい感じだ。
「今日は昼間にカタリナを抱いたから、サラのフォローがしたい。かと言って、今日初めて抱いたカタリナを夜一人で寝させるのもどうかと思ってな」
「そ、そんなお気遣いは不要ですわ」
「ならあなたは一人で寝ればいい」
真っ赤に染まった顔を逸らすカタリナに、サラが冷たく言い放つ。
「私はタクマ様といつも通りに楽しく過ごさせてもらうから。あなたはいつも通りに一人で寂しく寝ればいい」
これはなんだ? あえて挑発する事でカタリナを一緒に寝させようとしているのか? それとも独占欲か?
後者だろうなぁ。
「首輪の力を完全に引き出せるのに、意地を張るような人にタクマ様の寵愛を受ける資格はないわ」
前者かもしれないな。
「う、ぐぐぐ……」
言い返す言葉が見つからないらしく、カタリナはとても淑女らしくない様子で唸った。
しかしこの二週間ほどで確認できたカタリナの性格的に、プライドを捨てて一緒に寝ると言い出す事はないだろうな。
「なぁ、カタリナ。俺は今日、サラとお前と三人で寝たいんだよ。いやらしい意味だけじゃなくてさ」
「わたくしを求めて頂けるのは大変光栄ですし、嬉しいんですけれど……」
「俺もこういう経験が無いからあれなんだけど、折角お前とそういう関係になれたんだから、今日は一日一緒に居たいんだよ。それと同時に、俺の突発的な行動で、サラに寂しい思いをさせるのも嫌なんだ」
「…………うう」
反論が出なくなったな。
じゃああとは強引にいこう。背中を押すって意味では、主人命令されたから仕方なく、って建前は大事だ。
あと多分勘違いしてるしな。
「ほら、行くぞ、カタリナ」
俺はカタリナの肩をそっと抱き、部屋へと向かう。
「流石に今日はもうしないから安心しろ。三人で仲良く寝るだけだよ」
「本当ですの?」
「勿論。俺が嘘を吐いた事あったか?」
「……わかりました。信用させていただきますわ」
そうしてカタリナは、俺に寄り添い歩調を合わせ始めた。
そして俺達の後ろでは、カタリナ同様勘違いしていた肉食獣が崩れ落ちていた。
という訳でカタリナが落ちました。
次回こそ、氾濫鎮圧の大規模戦闘です。




