第60話:ディール家対策
カタリナ関係のエピソード。
タイトル通りディール家への対策を周囲に頼む話です。
ジョン達を追い返してすぐに、俺はカタリナとサラを連れてガルツへと向かう。
厳密にはサラは関係が無いのだかれど、以来見ていないとは言え、一度盗賊達がやって来た以上、彼女を一人残していくのは不安だったからだ。
元々連れて行くつもりだったけれど、カタリナと二人で出かける、と言った時の、サラの泣きそうな顔は、正直嗜虐心を刺激された。
その表情を見たかったから敢えて言ってみた訳じゃないからな。
ほんとだよ。
『テレポート』は使わずに徒歩だ。大丈夫だとは思うけれど、ジョン達が帰り着く前にガルツの中に俺達がいたりすると色々問題だからな。
考えすぎとは思うけれど、今回のようなトラブルがあった以上、慎重に慎重を重ねてもやり過ぎという事はない筈だ。
サラは俺と一緒に出掛けられることが純粋に嬉しいらしく、俺の腕を抱えて嬉しそうに頬擦りして歩いている。
カタリナは俺の二歩程後ろを歩ているが、その足取りは明らかに重い。
俺は時折後ろを振り返って、カタリナが遅れていないか確認していた。
実際には『サーチ』があるので、いちいち確認しなくてもいいのだけれど、カタリナに対して、お前の事を気にかけているぞアピールのために行っていた。
あざといと言うなかれ。こういう細かい事をできる男がモテるのだ!
ああ、ついこないだまで童貞だったよ? けどそれが何か?
何度も言っている通り、俺は間違いなく高校入学まではモテていた。
俺のスペックの高さもあったけれど、同時に、女子に対してある程度の気遣いを忘れなかったのもあるだろう。
なんせその年代の男子なんて、ヤリたい盛りの猿か、女子に優しくする事を恥ずかしいと思う子供のどちらかだからな。
さておき、俺達がガルツに着いたのは昼過ぎだった。
ガルツで昼食を摂った後、シュブニグラス迷宮へ向かう。
入口の所にクレインさんは変わらずに居た。
「気を付けてな」
そしていつも通りに俺達に声をかけるクレインさん。
「いや、今回はクレインさんにちょっとお話があって来たんですよ」
「ほう?」
「実は新しく買ったカタリナの事でちょっと問題が起きましてね」
「ああ、そいつは有名だからな。けど、その嬢ちゃんと関係が悪化してるようには見えねぇが?」
ガルツを中心に活動していたんだろう、カタリナの事はクレインさんも知っているようだった。
けれどそれは、カタリナと購入者との間のトラブルだと思っているらしい。
「あー、実はカタリナが没落する前に関係があった貴族とちょっと揉めましてね。ディール家って男爵家なんですが……」
「ディール家……? 知らんなぁ。この辺の貴族なら大体頭に入ってるんだが……」
クレインさんが首を傾げている。どうやらガルツの近くに領地を持つ貴族じゃないらしいな。そんな遠くからわざわざ来たのか?
「ディール家の領地はルル湖とエレニア大森林の間にありますわ。エレノニア王国内でも屈指の小ささを誇りますの」
カタリナを見ると、説明を始めてくれた。
「クォーリンダム家もそれほど大きくありませんわ。領地も近くでしたし」
ルードルイと、ルル湖東の国境付近にあるベドナ砦を結ぶ街道があるけれど、そこからも外れているらしい。
基本は農地が広がるだけの土地で、寒村と小さな街がある程度なんだそうだ。
「ガルツの奴隷商に自らを売ったのは、冒険者パーティや団に魔導士として需要が高いと考えたのもありますが、領地から遠かったというのも大きな理由ですの」
それほどジョンから逃れたかったのか。
逃れたかったんだろうなぁ。罠に嵌められたってのもあるだろうけど、正直あの性格だもんな。
進んで嫁にいこうとは思わない相手だよなぁ。
ジョン自身だけじゃなく、家族や家人の性格も知れたものだし。
「カタリナの生家が没落したのは、言ってしまえば詐欺同然のような手法で嵌められたせいです。法務局などにも根回しがあったと思いますが、今となっては証明不可能でしょう」
「まぁ、証拠なんかは処分されてるだろうからなぁ」
クレインさんは渋い顔をしながらも納得していた。
「カタリナを狙うジョンという男はディール家の三男なのですが、生家を継げない事にも、また、カタリナと結婚してクォーリンダム家に婿入りする事にも不満を持っていたようで、クォーリンダム家の領地を自分のものにするために画策したようです」
「ああ、それで今でも嬢ちゃんにちょっかいかけてるって訳か」
俺の言葉を継いだクレインさんに、俺とカタリナが頷く。
「まぁ、色々と無茶を言ってきたので、全部跳ね除けてやったんですが、今後も嫌がらせが続くような事を言って帰っていったものでね」
「護衛でも探してんのか?」
「いえ、それに関してはこちらで対処できます。俺としては俺個人では対処が難しい、不可能な事への対策でして……」
「ああ、嬢ちゃんの実家を罠に嵌めた時みたいに、法務局とかを巻き込んで来るって事か?」
「ええ。クレインさんならこの辺りの貴族に顔が利くと思って」
「まぁ、お前達が法を犯していないと言うなら、味方をしてやれるが……」
「誓ってそのような事はありませんわ!」
偶々俺がガルツで有名人ってだけで、そこまでクレインさんと親しい訳じゃないからな。クレインさんの懸念は当然だ。
感情的に叫んだカタリナをどう思ったかな?
「カタリナ、俺が言おうか?」
「いいえ。当時の事も含めて、わたくしが伝えるのが正しいと思いますわ」
カタリナの心情を慮って俺が声を掛けるが、カタリナはそれを拒否した。
まぁ、拒否される事はわかっていたけどね。カタリナならそう言うだろうと思ってた。
だから俺から提案したんだ。
カタリナの好感度を稼ぎつつ、面倒な説明を回避できるからな。
あざといなんて言うなかれ。
「当時の事は例え罠に嵌められたのだとしても、法律的にはディール家に間違いがない以上、受け入れざるを得ません。ですからわたくしは、自ら奴隷に堕ちて、雌伏の時を過ごしているのですから」
沈痛な面持ちだけど、声にはしっかりとした力がこもっている。それは彼女の不退転の決意を表しているようだった。
「法に則り領地を国に返還し、法に則り奴隷となり、法に則りタクマ様に買われました。今のわたくし達には何の落ち度もありませんわ」
「ああ、それなら問題ねぇ。ここの領主を含めて、知り合いの貴族に話通しておいてやるよ。なぁに、ディール男爵家なんて殆どの国民が知らないような小さな家、おまけにそこの三男ごとき。それに懐柔される程度の貴族も含めて、手出しなんざさせないさ」
「頼もしいです」
「ありがとうございます」
「ます」
俺が感心し、カタリナが頭を下げると、サラも頭を下げた。
カタリナは自分の事だけど、サラは多分、俺に害が及ばないようにしてくれると言うからだろうな。
「それじゃよろしくお願いしますね」
そう言って、俺達は踵を返す。
「おう、って、ダンジョン潜っていかねぇのかよ?」
おお、ノリツッコミだ。
「ええ、今日は色々やる事がありまして。件の貴族のせいで午前中に用事を済ませられなかったもので」
「そうか、まぁ、急いだほうがいいわな」
俺達がわざわざ、今回の事を頼むためだけに迷宮にまで来た事を知り、クレインさんが苦笑いを浮かべた。
俺もここに来るまではこの後迷宮に潜って二人のレベリングを、と思っていたんだけれど、ジョンの領地の場所を聞いて予定を変更する事にした。
ルル湖とエレニア大森林の間って、そりゃルードルイの近くだ。
そしてルードルイには、ガルツ以上に頼りにできる人がいる。
クレインさんが頼りにならないって事じゃなくて、俺の親密度的にな。
という訳で俺達はルードルイへ飛ぶ。
あ、レセンダさんへの挨拶忘れてた。
まぁ、必要ならクレインさんから話がいくだろ。
ルードルイに来たついでにテテスの工房へ寄っていこうか。
そろそろカタリナ用の服の改修が終わる筈だし。杖の事についても聞きたいしな。
まぁ、まずは今回の事を報告だ。
「ルードルイに知り合いがいらっしゃるんですの?」
「前に少し話したと思うけど、テテスの工房を再建する時にお世話になった人たちがな」
「役に立つんですの?」
言葉が辛辣だな、カタリナ。
いやわかってる。工房の再建を手伝ってくれた人たちで、今回のような事態に対処できるのか? って意味だろう?
有能無能って事じゃなくて、得手不得手の話だよな。
「工房の再建の時にもあまり品のよろしくない相手が絡んでたからな。むしろ状況的にはよく似てるよ」
「そうですの……」
あまり納得してないようだな。
そしてサラは俺の体越しにカタリナを睨んでいる。
俺の事が信じられないのか? って感じか。
「サラ、俺は気にしてないからな」
「!? そ、そうですか……」
自分の思考を読まれた事にびっくりしたらしい。
いや、お前顔に思いっきり出てるからな。
慈愛の神の神殿に入ると、レバンノさんをすぐに見つける事ができた。
「おう、久しぶりだな」
俺が近付いていくと、向こうも気付いて片手を挙げて挨拶をしてくれた。
「お久しぶりです」
俺も軽く頭を下げる。カタリナとサラもつられて頭を下げた。
「ほう、暫く見ねぇ間に随分と偉くなってるじゃねぇか」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて言うレバンノさん。その視線はサラとカタリナに向けられている。
「まぁ、色々ありまして」
「そういや工房に何度か女連れで来たって聞いたな。二人だとは思わなかったがよ」
「ははは」
とりあえず返し方がわからなかったので愛想笑いをしておく。
「それで? 今日はどうしたんだ? そっちの二人に洗礼を受けさせに来たのか?」
「いえ、レバンノさんに相談したい事がありまして」
「なんだ? またトラブル抱えてやがんのかい?」
「ええ、まぁ」
「お前さんも難儀だねぇ。まぁ、退屈しなさそうではあるか」
「おかげさまで、充実した日々を送っていますよ」
言いながら俺はサラとカタリナを見た。サラはその意味を誤解しなかったようで、頬を染めてはにかんだ。
可愛いなおい。
カタリナはそれに反応する余裕もないらしい。
「実はちょっと面倒な相手と揉めましてね……」
そして俺は事の次第をレバンノさんに説明する。
罠に嵌められて没落した事に関しては、カタリナももう仕方のない事、と割り切っているようなので特に話さず、正規の手続きでカタリナを奴隷として購入したのに、以前からカタリナに目をつけていた性質の悪い貴族に強請られていると説明する。
「一度は追い払ったのですが、また来る気満々でしたし、捏造や賄賂などでありもしない罪をでっちあげられる可能性もあって……」
「それで俺の下に来るって事は、この辺の奴かい?」
「ええ。ディール男爵家の三男です」
「あすこか……」
その名前を聞いて、レバンノさんの表情が渋くなる。
「あまり良い噂を聞かねぇ家だ。また面倒な所に目をつけられちまったな」
「ええ。ですからこうして相談に……」
「ああ、任しときな。なんかあったら助けてやっからよ。それとも、先制攻撃を仕掛けるかい?」
「うーん、それも魅力的ではありますが、それを口実にされても困りますし……」
「ああそうだなぁ。貴族は色んなところで色んな奴が繋がってるから、ディール家を全滅させたとしてもどっから報復が飛んで来るかわかんねぇしな」
さらっと恐ろしい事言ったな。俺としてはジョンらの非道を先に訴えて、行動させないようにする、程度の認識だったんだけど。
「俺達じゃ解決できない事態に巻き込まれたら、何とかして時間を稼いで、レバンノさんに事情を伝えに来ますから、その時はよろしくお願いします」
「おう、任せとけ。いつでも動けるように他の奴にも声かけといてやるよ」
「ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
俺がお礼と共に頭を下げると、カタリナとサラもそれに続いた。
「今の方はどういう方ですの?」
神殿を出ると、カタリナが俺に尋ねて来た。
「この街の有力者だよ。他の有力者の人達とかなり仲が良い、ね」
流石に盗賊ギルドの元元締めとは説明できない。
「テテスの工房は元々借金で手放す寸前だったんだ。真っ当な借金なら俺だけでもなんとかなったんだけど、工房の土地が目的の悪質な借金だったからな。あの人に協力を仰いだんだよ」
「なるほど、確かにわたくしの境遇に似ていますわね。そしてそれを解決されたという事は、そうした問題の解決に向いている、と?」
「まぁ、そういう事だな」
「やぁ、灰色狼毛皮の服とブーツの用意、できてるよ」
テテスの工房に行くと、テテスが出迎えてそう言った。
こいつが作業場を離れるなんて珍しいな。
「いや、ちょっと気分転換にね」
なるほど、スランプか。
「どこの世界にも一発屋はいるからなぁ」
「おい、かなり失礼な事を言っている気がするぞ?」
「冗談だよ。お前は一発どころじゃない数の武具を発明しただろ。多分、才能が尽きただけなんじゃないのか?」
「それも随分な言い方だな!」
さて、冗談はこのくらいにしておこう。
「煮詰まってるんなら今回は遠慮した方が良いかな?」
「うん? なにか依頼かい?」
「魔導士用の杖が欲しいんだけどな……」
「杖か……作ってみた事はないな……」
テテスは何やら考え込んでいる。
「難しいのか?」
「いや、実は試したことがないんだよな」
「そういや、お前が作るのって防具系統が多いよな」
「そうだな。大雑把な言い方をすると、防具は特殊な効果を常に発揮していればいいけど、武器は必要な時しか発揮しちゃいけないだろう?」
「ああ、極端な話、鞘から常に炎が漏れてる剣なんて使いにくいどころの話じゃないからな」
テテスの言葉に俺は相槌を打つ。
「だからこれまで、あまり武器の類は作ってこなかったんだ」
「金なかったもんな」
「加えて素材もな」
つまり失敗が許されない状況だった。だからテテスは、自分の得意分野である防具系統ばかり作っていたんだ。
「それに、杖って何をどうすればいいかわからない」
「なるほど……」
カタリナも言っていた通り、杖は魔法の発動を補助するための道具だ。魔力の発動を補助し、その指向性を定めやすくするのが杖の役割なんだ。
だから熟練の魔法使いは杖やそれに類するものを必要としない。むしろ、魔法の狙いがばれてしまうから、邪魔だと言う者さえ居るそうだ。
「魔法の武器にするにしても、杖自体で殴る訳じゃないから、通常の武器と同じように作っても意味が無い。特殊な効果が付随してるかどうかなんて、わからない訳だし」
「鑑定系のスキルは貴重だからなぁ」
「杖自体がなにがしかの魔法を発すると言っても、一種類しか魔法が使えないんじゃ冒険に持って行くのは憚られるだろう? 各迷宮の専用装備にするならともかくさ」
「確かにな……」
テテスの言葉は納得できるものだった。
そう言えば、『常識』の中にある名のある杖は、ダンジョンや遺跡で発見されたものばかりだ。
それはつまり、ヒトでは作れないって事なんだ。
少なくとも、今のところは。
テテスなら先駆者になれるだけの才能はあるだろうけど、こいつはこいつで今とんでもなく忙しい筈だからな。
それらの仕事を全て投げ捨てて、杖の研究をさせる訳にもいかない。
「魔樫の先に魔石をつけただけのものでも多少魔法の効果を上昇させる事ができるらしいけど、魔石の種類によってその効果はまちまちだし、数回魔法を使うと魔石が砕けるからなぁ」
「それなら魔樫を持たせるさ」
確かあれ、杖として装備すると魔力+1効果があるからな。
まぁ、魔石から得られる素材は大体杖として使うと魔力+1効果が付随するんだけど。
それこそ魔石を杖代わりにしても一緒なんだよな。まぁ、その場合はテテスの言った通り、数回魔法を使うと砕けてしまうんだけど。
「まぁ、仕方ないな。またくるよ」
「いいよ。こっちこそ、役に立てなくて申し訳ない」
「なに、これまで作って貰った分で十分役に立ってるさ。あ、ところで」
俺はふと思い出した事があったので聞いてみる事にした。
「櫛って何かないかな?」
「櫛?」
そう、カタリナ用に櫛を買ってやる予定だったんだ。すっかり忘れていたけどな。
背後でカタリナが、あっ、と声を上げたのが聞こえた。
彼女も忘れていた、訳じゃないだろう。何せ風呂上りには毎晩サラに櫛を借りて髪を梳かしているんだから。
あれは、俺が覚えていた事への驚きだろうな。
カタリナを購入して一週間近く。櫛を買ってやると言って買ってないんだから、忘れられてたと思われても仕方ない。
正直、すまんかった。
次にどんなラッキースケベを起こさせてやろうか考えてて頭がいっぱいだったよ。
「前に露店広げてた時に装飾品の類も置いてたと思うんだけど、もうないかな?」
「あれから作ってないのは確かだけど、当時のものはまだ幾つか残ってる筈だよ。マーゴさーん!?」
「は~い! 工房長、しばしお待ちを~~!!」
テテスがその名を呼ぶと、工房の隣の部屋からいつもの従業員さんが小走りでやって来た。
ほうほう、大分いい感じになってるじゃないか。
これは従業員さんがテテスを名前で呼ぶ日も近いか?
「みんながこの工房にやって来た時、俺が作ってあった小物、どこにしまったっけ?」
「もう、だからちゃんと管理しましょうって言ったでしょう? 工房長がご自身のお部屋に持って行ったじゃありませんか?」
「そうだっけ?」
なんだ、その気安い感じ?
ひょっとして、その日が近いとかじゃなくて、とっくにそういう関係なの?
いや、うーん? うまくは言えないけど、何か違うような気がする。
「あの中に櫛ってあったっけ?」
「え? 少々お待ちください」
言って従業員さんは持っていた資料を確認する。どうやら、テテスが作ったものは全部記録してあるみたいだ。
「ああ、ありますね。どなたにも販売していないので、工房長が捨てていなければ残っている筈です。ただあれらの品は『鑑定』もしていませんので、どういう性能を持っているかは不明ですが……」
「いや、彼女にプレゼントするための櫛が欲しかっただけなんだよ。普通の櫛よりは、何か従属効果があった方がいいかと思ってさ」
「ですって」
「うん、探してくるからちょっと待ってて」
言い残して、テテスは工房の奥へと引っ込んだ。
確かテテスの居住地だけは工房の敷地内にあるんだよな。
「あったあった。これだよ」
ややあって、テテスは一つの櫛を持って戻って来た。
半円型の木製の櫛で、水色に塗られている可愛らしい櫛だ。
テテスの雨櫛:[分類]装飾品
[種類]櫛
[耐性]斬△突△打△火△熱△氷〇水〇風△土△石△雷〇光△闇△
物理防御力0
魔法防御力0
重量1
[固有性能]なし
特に何か効果がある訳じゃないのか。水と氷に強いのね。だから雨櫛? 雷に強いのは雷雨のイメージかな?
「へぇ、中々いいものじゃないか」
「これは何の素材で作られたんですか?」
俺が素直に褒める横で、マーゴさんが商売人の顔になっている。
「え? なんだったっけ? あの当時はほんと適当に作ってたからなぁ。工房に適当に転がってた奴だから、高い物じゃない筈……」
マーゴさんに睨まれて、徐々にテテスの声が小さくなっていく。
「まぁ、櫛として使うものを求めた訳だから、特に特殊な効果が無くてもいいさ。これを貰おう、幾らだ?」
「え? タダで……」
「10デューでいかがでしょう?」
まぁ、元々テテスが特に売る気も無くしまいこんでたものだから、これをタダって言われても俺は文句は無かった。
しかしそこは流石に商業ギルドから派遣されてる従業員さん。しっかりと値段をつけてくる。
サラのより安くなっちまうな。まぁ、いいか。こういうのは値段じゃないだろう。
「じゃあまたなんかあったら来るから」
「ああ。ハーピーの素材早めによろしくな」
おう、すっかり忘れていたぜ。
それから暫くは平穏な日々が続いた。
ディール家からのアプローチが無いのが、まだなのか、もうないのかはわからないけれど、少なくとも、この一週間は特にトラブルも無く過ごすことができた。
ただし、カタリナとの関係は若干変化したようだ。
風呂上がりにすっかり恒例になった、サラの髪を梳かしていると、カタリナが順番待ちをするようになった。
ラッキースケベに関しても、反応が変わった。例えば俺が着替えている場面に遭遇した際、恥ずかしさに慌てて立ち去るのは同じだけれど、恥ずかしさの内容が違うようだった。
以前は淑女として男性の裸を見てしまった事に対する羞恥だったのが、今は、俺個人の裸を見てしまった事に対する羞恥に変わったようだ。
サラとイチャイチャしている時も、以前は席を外すか、我関せず、といった風に装っていたが、今は時折睨んだり、羨ましそうな表情を浮かべてこちらを見たりするようになった。
これは良い傾向だ。それこそ、何かイベントがあれば、一気に最後の一線を越えてしまいそうだ。
正直今でも、スキンシップと称したセクハラを行っても、きっと嫌がったり不快に思ったりしないだろう。
しないけどな。
今回は焦らすつもりだ。
やっぱり恋は焦がれるもんだろう。
そんな穏やかな日々が続いたある日、クレインさんが俺の家を訪ねて来た。
シュブニグラス迷宮の入口から離れるなんて珍しい事もあるもんだ。
「今日はどうされたんですか?」
ユリアから貰っていた紅茶とクッキーを出して、俺はクレインさんをもてなす。
渋い表情からは、決して世間話をしに来ただけではない事を俺に伝えている。
「冒険者ギルドからの緊急依頼を伝えに来た。ガルツ内及び、その周辺で活動している冒険者全員に伝えている」
「はぁ」
緊急依頼だけでは特に驚くような事ではないので、俺はどうしても気のない返事になってしまった。
ただの緊急依頼なら強制力は無いけれど、しかし冒険者ギルドが緊急依頼を出す時は、基本的にはある事が起こった時だけだ。
「ルル湖にある迷宮、ダゴニアで氾濫の兆しがあった。これの鎮圧に向かって貰いたい」
迷宮からモンスターが溢れ出し、周辺を襲い始める現象、氾濫が起こった時だ。
次回は氾濫対策。
大規模戦闘を予定しております。




