第56話:三人でダンジョンへ
カタリナの準備とダンジョン探索回です。
細かい条件を詰めていき、契約を交わす。
とは言え、カタリナは先に奴隷商が言った以外の条件を出してこなかった。
クォーリンダム家のお家再興を手伝う事。そのため、毎月ある程度の賃金を支払う事。
これは年間で俺がカタリナを購入した金額の一割、つまり2100デューを超えるように設定した。
余裕があればボーナスも出そう。
一年後、カタリナが望むならば奴隷契約を破棄できる。この時、俺は購入金額の一割をカタリナに支払う事。
契約破棄後、カタリナは奴隷商に戻る。
これだけ。
あとは奴隷の基本としての衣食住の保障などが契約に盛り込まれただけだ。
家事や戦闘は勿論行うし、上記二点に違反しない限り、俺はカタリナに何をしても許される。
エッチなあれこれは、違反しない。
それだけ金が必要って事だろうか。禁止事項が増えると金額が下がるから、できるだけ下げたくなかったって事なんだろうか?
今回も100デューを渡して身なりを整えさせようとしたが、それには及ばないとの事。
「お待たせいたしましたわ」
そう言って俺達の前に姿を現したカタリナは、青色の絹のドレスを着ていた。
女性特有の体のラインがわかる造りながら、ふんだんにレースがあしらわれている。
盛り上がった肩部分と言い、妙に広がったスカートと言い。
いかにも貴族然とした姿だった。
「家財道具も全て借金の返済のために売却したとは言え、裸で奴隷館に来た訳ではありませんの。このくらいは淑女のたしなみとして当然ですわ」
そう言って、長い金髪をかきあげた。
その縦ロール、さっきまで普通の長髪だったよな? まさか巻いたのか? このためだけに巻いて来たのか!?
とは言え、奴隷に落ちた苦労は隠せない。見ればドレスはあちこちほつれていて、補修した跡が見える。
髪も輝きを失っていて、縦ロールにボリュームが無いように見えるのは、決して十分な時間が無かったからだけではないだろう。
「カタリナ、前の主人ってどんな奴だったんだ?」
「Aランクの冒険者ですわ」
「そうか……」
冒険者は基本自称だし、素材の売却などに特に冒険者ギルドに登録する必要は無い。
あくまで冒険者ギルドでクエストを受領する場合に登録が必要になるだけだ。
ランクはこのクエストの成功率と達成数、そして獲得報酬を総合して判断したカテゴライズで、E~Sまで存在している。
となるとAランクはかなり凄いように思えるけれど、まぁ、ピンキリだ。
先にも述べた通り、クエストをどれだけこなしたかの目安でしかないからな。クエストを一切受けずに黙々とダンジョンに潜っている奴なんかはEランクになってしまう訳だし。
最近では素材やマジックアイテムの売却額なんかでもランクを決めようという動きがあるようだけど、中々上手くいっていないらしい。
さておき、『魔導士』持ちとは言え、種族LVが10に満たないカタリナを(この世界の人間はLVを認識できていないけれど)わざわざ雇用するくらいだから、大した事無いのかもしれない。
まぁ、緊急で魔法使いが必要になったという事も考えられる。
そもそも稼げる場所なら、カタリナが契約を破棄して戻って来る訳がないのだし。
「どのくらい居たんだ?」
「二年ですわね。最初の一年はダンジョンの探索に同行したりしてそれなりに賃金をいただいていたのですが、次の一年は拠点で留守番を言い渡される事が多くなって、稼げなくなってしまいましたから」
ああ、やっぱり緊急で魔法使いが必要だっただけだな。二年目からか一年目の途中からかはわからないけれど、別の戦力のあてができたから、彼女はベンチウォーマーにされたと。そうすれば勝手に契約を破棄して出て行くからな。
そう考えると、それなりに稼いでいた冒険者だったのかな?
「服はそれだけか? 装備は?」
「ありませんわ」
何故胸を張れるのかわからん。
うむ、でかいな。
いや、態度がな。うん、態度の事だとも。
だからサラさんや。カタリナの胸元を親の仇でも見るような目で凝視するのはやめなさい。
「よし、まずは服を買いに行こう」
「この服があれば戦闘も問題ありませんわよ?」
青絹のドレス:[分類]防具
[種類]服
[耐性]斬△突△打〇火△熱△氷〇水△風〇土〇石△雷△光△闇△
物理防御力8
魔法防御力8
重量6
一部破損によりステータス低下
[固有性能]なし
ふむ、まぁまぁだな。
耐性に弱点が無いのが素晴らしい。魔法防御が高いのは、魔法使い用の装備としては利点だな。
ちなみに耐性とステータスは万全の状態の時のものだ。今はこれより弱くなっている、と。
「保存状態が悪くて性能を十全に発揮できてないように見えるぞ」
「え!?」
さすがにアナライズの事は言えないので若干ぼかして指摘する。
「まぁ、予備があってもいいだろう。それに、部屋着も必要だしな」
「ま、まあ、そこまで言うなら、お言葉に甘えてあげてもよろしくてよ」
すました顔でそう言うが、カタリナの頬を一筋の汗が流れ落ちて行った。
気付かないふりをして店を出た。
すぐに、サラが俺の腕を抱きしめるように抱えてくる。
「わたくしもそれをした方が良いのかしら?」
「したいなら俺は構わないけれど?」
それを見ていたカタリナが聞いてきた。俺が答えるが、カタリナは俺の空いている腕を取る事はしなかった。
別にいいけどね。ちょっとその大きな膨らみの感触には興味があったけどさ。
サラさんや。俺はお前で十分満足してるから、腕を組むふりをして手首の関節を極めるのはやめてくれんかね? そんなの教えてないよね?
ガルツの服屋でカタリナの普段着と部屋着、寝間着と下着をそれぞれ三着ずつ購入する。
「安い布のキトンでも構わないのですけれど?」
「それ普通に奴隷服じゃん。俺が構うから普通の買ってくれ」
キトンは古代ギリシャなんかで見られる、布を巻いただけのあの服装な。一枚の大きな布を横向きに巻いて、腰の辺りで紐で縛り、肩をボタンで留める奴だ。
絹とか木綿でやるから神秘的な雰囲気が出るんであって、麻とかでやったらどうしてもみすぼらしい印象を受けるからな。
「この服の修理とかは頼めたりするのか?」
「そうですね……ええ。可能ですよ」
店員にカタリナの来ている青いドレスの修繕を聞いてみると、やや間をおいてそのように返答があった。
答えるのに少しの時間があったのは、アナライズ系のスキルを使用していたものと思われる。
ていうか『アナライズ』で見ると、『防具鑑定(服)』があったからな。
範囲の狭いスキルだよなぁ。やっぱり鑑定系は汎用性を犠牲にしないと獲得できないんだろうな。
「それじゃ頼む。カタリナ。買った服と着替えて、そのドレスは修繕に回せ」
「わかりましたわ」
若干表情が曇ったのは、やはり思い入れがあるからだろうな。自分の手で直して使って来たって自負もあるのかもしれない。
まぁ、そこはプロに任せてくれよ。
「サラも普段着と部屋着を一着ずつ選んでいいぞ」
「タクマ様に選んでいただきたいのですが……」
サラにも新しい服を、と思って提案すると、上目遣いでそんな事を言って来た。
いや、俺ファッションセンスとか自信ないんだけど。
けれど、熱の籠った眼差しを俺に向けるサラに、そんな事は言えなかった。
そうだな。中学時代のスーパー俺を超える、ハイパー俺になるためにも、当時磨かなかったファッションセンスを鍛えるのもいいだろう。
「これとかどうだろう?」
紺色のワンピースタイプの服に、白のチュニックを合わせてみた。何となく黒タイツを履かせたくなったけれど、一体型のは無かったので、シルクのタイツを履かせる事にする。
そのせいでガーターベルトを着させる事になったけれど、まぁ、良し。幼いサラの肢体に妖艶なガーターベルトとか、よくなくないですか?
「とても素敵です! タクマ様、ありがとうございます!」
サラはご満悦だ。けれど彼女の場合、何でも喜びそうだからな。カタリナに目を向ける。
「似合っていますし、よろしいのではないですか?」
肯定的な意見。店員を見る。
「大変お似合いですよ」
店にある中でもそこそこ値段の高い組み合わせだったからな。これも鵜呑みにいせ良いものかどうか。
まぁ、俺が見て似合っていると思えるし、カタリナなら嘘を吐いたら首輪が反応する筈だから、信じて良いだろう。
部屋着用には簡単な木綿の服上下を買って店を出た。
サラと同じく餌付けをするため、オヤツと称して屋台でフルーツを買い、三人で食べた。
サラは純粋に喜んだけれど、カタリナはお礼を言っただけだった。
ふむ、戦闘奴隷として働いていたから食事はきちんと摂れていたのかもしれない。
量では駄目だな。味で釣ろう。夕食は何にするか。カレーは過ぎてしまったからな。お祝いとして焼肉にするか。これでサラも、焼肉は特別な日に食べる料理だと認識するだろうし。
いきなりルール無用の戦場では厳しいか? ステーキの方がいいかな。
「次は装備だな。二人とも、こっちへ」
俺はサラとカタリナを伴って人気の無い路地へと入る。
「装備なら向こうのお店では?」
「まぁまぁいいからいいから」
疑問を抱くカタリナを宥めて、周囲に誰も居ない事を確認すると、ルードルイへ『テレポート』する。
「え…………!?」
一瞬で変わった景色に、カタリナが呆然としている。
「ルードルイ近くの草原だ。俺の魔法の一つでな。まぁ、他の人間には秘密にしておけよ。色々と面倒だから」
「…………まさか『テレポート』!? 伝承に出て来る第九階位魔法ではなくて!?」
流石に『魔導士』を持っているだけあって、魔法に関する知識はあるらしい。
「ま、色々あってな」
説明は面倒なので、曖昧に誤魔化す。とりあえず、俺がそれを使える事だけわかっておいてもらえればいい。
ルードルイに来て向かう先は、当然テテスの工房だ。
「また女の子が増えてるね」
俺を出迎えたテテスの第一声はそれだった。
工房は以前来た時より賑わっているようだ。職人が二人、事務員らしき人が一人増えている。
「まぁ、色々あってな」
やはり説明が面倒なのでそれで流す。
「という訳で、こいつの装備が欲しいんだが。魔法使い系だからそれで後衛用の防具がいいな」
「そう言えば、魔法使い用の装備は創ってないな」
「そうなのか?」
「今ある手持ちの素材で何かできないか考えてみるから、一週間後にまた来てくれるかい? ついでにここに無い素材でも何かできないか考えておくから」
「そうか。じゃあ既存のもので何かないか?」
「魔法使い用に拘らないのなら、それこそ服系の装備が幾つかあるけど……。女性用だと入らないかもしれないし、男性用だと丈が長いかもしれないね」
言うテテスの目線はカタリナの体の一部に注がれていた。頬を赤らめ、両腕で胸を抱くようにして体を捻るカタリナ。キッ、とテテスを睨む。
「ああ、そういうつもりで見ていた訳じゃないから、気にしないでよ」
「無理だろ、それは」
俺もテテスがそんなつもりで見ていなかっただろう事はわかっていたが、それとカタリナがどう感じるかは別問題だからな。
「灰色狼毛皮の服とズボン、ブーツの在庫はあるか?」
とりあえずサラと同じものを注文しておく。そう言えば、ハーピーの毛皮獲りに行ってないな。
「ええ、ございますよ」
テテスが従業員さんを見ると、彼女は頷いた。
「じゃあそれを。サイズが合うかわからないから、カタリナ、試着して来い。着替えをお願いします」
「わかりましたわ」
「かしこまりました」
サイズは合うものがあったらしく、問題無く着替えられた。
代金として300デューを支払い、工房を後にする。
「ルードルイで今一番有名な武具工房である、テテス工房の工房長とあんなに親密に話すだなんて、本当に貴方は何者なのですか!?」
「まぁ、色々あってな」
そうか。テテスの勇名もガルツまで轟くようになったか。
まぁ、色々珍しい品物を取り扱ってるってだけでも、話題にはなるだろうしな。
それにエレア隧道が潰れたから、ルードルイから王都へ行くのに、フィクレツ、ガルツ経由で南回りにエレア山地を迂回する商人が増えて来たのもあるな。
北回りのルートの方が近いんだけど、帝国領に近いせいもあって治安があまりよろしくないらしいからな。
「ルードルイで売れない露天商やってたテテスを見出して、ルードルイの色んなギルドに援助するよう話つけて、あの工房を建て直したのが俺なんだ」
「え?」
「ええ!?」
サラは普通に初耳だという感じで。カタリナは信じられないという感情を込めて驚いた。
まぁ、驚くだろうな。わざとそういう風に言ったし。
やっぱり折角奴隷として買ったんだから、少しでも尊敬して貰いたい。それがひいては信用信頼に繋がる訳だし、俺のモチベーション維持にも都合が良いし。
「そんな訳で時々様子見も兼ねて買い物に行くんだよ。色々面白い物も見れるしな」
折角なのでこのままシュブニグラス迷宮で少し戦っていこう。カタリナのデビュー戦だ。
いや、戦闘奴隷として何度か潜っている筈だから、デビューというのはおかしいな。
移籍後初戦闘、とか?
「シュブニグラス迷宮で戦った事は?」
「勿論ありますわ。ギルドのクエストにもそういうものがありますからね」
氾濫対策に、ギルドは定期的に、どこそこのダンジョンの何階層でどのくらい戦って来い、というクエストを発注する。
ギルドにはダンジョンのどこで、どれだけ戦ったかを調べるマジックアイテムがある。これを使ってクエストの成否を確認する訳だ。
ガルツは迷宮都市という性質上、冒険者がよく潜るのだけれど、あまり深い階層にはいきたがらないらしく、十階層以上での戦闘依頼がよく貼り出されているそうだ。
「なら、少し深いところへ行こうか」
そう言って俺はカタリナの手を握り(サラは既に腕を組んでいるので)、十五階層へ『テレポート』する。
「こ、ここはどこですの!?」
ある程度予想はついているだろうけれど、カタリナは周囲を不安げに見渡してそう尋ねて来た。
「シュブニグラス迷宮だよ」
「そ、そう。そう思っていましたわ。ええ、もう、既に一度『テレポート』は経験しましたからね。そのくらいは予想できますとも。わたくしが聞きたいのは、シュブニグラス迷宮の何階層か、という事ですわ」
目が泳いでるなー。まぁ、敢えて指摘はすまい。
「十五階層だ」
「…………」
あ、黙った。
サラがトラップに引っかかったあの日以降、とりあえず十五階層に来ておいたんだよな。
その後はサラのレベリングを中心にしていたし、サラが言っていた通り、基本的に忙しくなってしまったから、攻略はそこで止まっていたんだよ。
だから、今回は俺がどのくらい強いのかを見せるために、十五階層のボスを二人の前で倒そうと思う。
ついでに道中のモンスターと戦って、カタリナがどのくらい使えるのかを見ておこう。
名前:カタリナ
年齢:21歳
性別:♀
種族:人間
役職:タクマの奴隷
職業:貴族
状態:困惑(軽度)
種族LV6
職業LV:貴族LV7 魔導士LV4
HP:65/66
MP:92/92
生命力:41
魔力:56
体力:38
筋力:37
知力:60
器用:42
敏捷:39
頑強:43
魔抵:49
幸運:37
装備:灰色狼毛皮の服 灰色狼毛皮のズボン 灰色狼毛皮のブーツ
保有スキル
世界魔法 魔力操作 魔力感知 貴人の振る舞い 不運(軽度)
まぁ、このステータスで十五階層じゃ不安にもなるか。
LVが低いせいか、サラより弱いもんなぁ。てか不運持ちなんだ……。
そう言えば、杖的なもの持ってないな。テテスの所でついでに頼んで来ればよかったな。
「杖とかは必要ないのか?」
「なくても魔法は使えますわ。マジックアイテムや魔法の杖でもなければ、集中を助ける補助的な役割しかできませんから」
「そうか」
確かに『常識』でもそうあるな。『魔力操作』と『魔力感知』があるから必要無いって事だろうか。
まぁ、テテスの所で頼めば変な魔法の杖が出て来るだろう。機会を見つけてまた行けば良い。
強さを見るとは言っても、わざわざモンスターが居る場所を通る必要は無い。道すがら出現したら戦わせてみたらいいだろう。
なんて考えてるそばから、魔力の噴出が目の前で起こっている。
サラがすぐに槍を構えて前に出た。
「カタリナ、魔法準備。山羊小鬼ならバインドシャウトをサラがキャンセルするから、その後に魔法を撃ち込め。ウィッカーマンなら優先的にそっちを狙え。ストーンゴーレムは最優先だ」
「え? バインドシャウトってキャンセルできるんですの?」
「できる。来るぞ!」
果たして、出現したのは山羊小鬼とストーンゴーレムだった。
素早くサラが前に出て、山羊小鬼が叫び出す前に槍を振り下ろす。
「『エナジーランス』!」
驚きながらも呪文の詠唱をしていたカタリナが、ストーンゴーレムに向かって魔法を放つ。
第一階位か。まぁ、そりゃそうか……。
ストーンゴーレムが一緒に出たので援護は期待できないと踏んだんだろう。サラは顔面に槍を振り下ろされて体勢を崩している山羊小鬼に追撃を仕掛ける。
「カタリナ、続けて魔法放て!」
「は、はい! 我が身に巡る魔の力よ……」
あ、いかんな、これは。
カタリナの魔法の威力が大した事ないせいで、ストーンゴーレムの足止めができていない。
サラも体捌きのお陰で山羊小鬼から反撃を受けていないが、ステータスが低いのでまともなダメージを与えられていない。基本はアシッドランスで防御力下げてからが勝負だもんな。
当然、遠くからちまちま魔法を撃って来るカタリナより、ストーンゴーレムは近くで動いているサラをターゲットにする。
「我が身に宿る魔の力よ。枯れる事無き大いなる力。我が身を巡りこの手に集い、我が目の前にその偉大さを示せ」
「え!?」
二発目の『エナジーランス』を放った後、カタリナは俺の詠唱を聞いて驚きと共にこちらを向く。
よし、そうだ。よく見ておけよ。とりあえずお前が目指す所だからな。
「光の槍となって我が敵を貫け――『エナジーレイ』!」
ダジリンも使っていた、第三階位の世界魔法だ。俺の手の平から放たれた光の槍が、ストーンゴーレムを貫く。
命中した箇所を中心に、砕けるようにストーンゴーレムの体が吹き飛んだ。
狙ったのは人間で言うと脇腹の辺り。そこを大きく抉られた事で、ストーンゴーレムはバランスを崩し、その場に膝をつく。
「よし、動きが止まった。続けて放て!」
「は、はい! 我が身に巡る魔の力よ……」
ゆっくりとした動きで、自重を支えるように状態を前に倒すストーンゴーレムに向けて、カタリナが魔法を撃ち込む。
やはり、あまり効いていないな。ゴーレムの動きを阻害できていない。
ゴーレムは一度動きを止めると、再びゆっくりと立ち上がり始めた。
サラもカタリナも、まだそれぞれの敵を倒せていない。
「サラ、右へ跳べ!」
俺の指示に従い、何の躊躇いも無くサラは右へ跳躍する。
「『エネルギーブラスト』!」
丁度山羊小鬼とストーンゴーレムの中間地点に俺の放った魔法が着弾し、エネルギーの衝撃波で二体を吹き飛ばす。
「第二階位の広範囲魔法まで……」
「また暫く時間を稼げるぞ! 休まず撃て!」
「はい!」
「や、やった……」
「やりましたわ……」
ほぼ同時に、山羊小鬼とストーンゴーレムが光の粒子へと変わっていく。
カタリナ
MP:18
随分使ったな。
ただLVは7に上がっている。
カタリナはその場に膝をつき、大きく息を吐いた。
サラも、槍を杖代わりにして荒い呼吸を繰り返している。
「二人とも深呼吸。吸って~~~~~~~~~」
「すぅううううぅぅぅぅ~~~~~~~~~~」
「え? あ、はい。すうううぅぅぅぅ~~~~」
俺の言葉にサラは即座に従い、カタリナも遅れて息を吸い始める。
「吐いて~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「「はあああああぁぁぁぁ~~~~~~~~~」」
「吐いて~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「「はぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~」」
「吐いて~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」
「吸って」
「「ぷはぁ!!」」
人間は、息を吐いた分だけ反射的に吸い込むから、呼吸をするなら吐く方を意識した方が良い。
「ふぅ」
「あら? 呼吸が楽になりましたわ」
「強く息を吐いて、大きく深呼吸をする事で、無理矢理息を整える方法だよ」
空手だと、息吹と言った筈だ。
「流石です、タクマ様」
「そんな方法があるのですね」
二人が感心したように言う。うん、もっと褒めて褒めて~~。
「流石にまだこの階層は二人には早かったみたいだな。後は俺が蹴散らすから、よく見て参考にするように」
「はい」
「わかりましたわ」
そして俺は、先頭に立って歩き始めた。
勿論、『マップ』と『サーチ』でトラップの有無を調べながらだ。
次回はボス戦。
何となく、流石〇〇様、ってキャラに言わせづらい。




