第55話:二人目の奴隷
遅くなりました。
サブタイトルで内容がネタバレしています。
「もう一人奴隷を増やしましょう」
サラとそういう関係になってから十日が経ったある日、サラがそんな事を言った。
夕食を食べ終えて片づけをしている最中だった。
ちなみに今日の夕食は、先週教えた煮込み料理、ポトフもどきだった。
流石に十種類をローテーションするだけでは駄目だろうと思って、先週、ポトフとクリームシチュー、お好み焼きを新しく教えておいたんだ。
ステーキの代わりにポトフ。焼肉の代わりにお好み焼きを作ると言った時、サラはこの世の終わりのような顔をしていた。
けれど、実際食べてみたら美味しかったんだろう。にっこにっこしながら料理を頬張っていた。
ほんと、表情も感情も豊かになったもんだ。
「お前がいいって言うなら、いいけど、なんでまた?」
正直、俺としてはサラを奴隷から解放して、内縁の妻みたいな扱いをしたかったんだけれど、それはサラに反対された。
一回ヤったくらいで彼氏面しないでよ、なんて心を抉られる事を言われた訳じゃない。
あと、一回シたくらいで奴隷から解放とか、平和ボケし過ぎじゃないか? と言われても、反論できない。
ただ俺は、サラと奴隷としてじゃなくて、一人の人間同士として暮らしたかったから、サラと関係を持った翌日の夜、彼女に奴隷からの解放を提案したんだ。
「申し訳ありませんが、タクマ様が私を信用してくださっている程に、私は自分を信用しておりません」
そう言って、サラは奴隷からの解放を拒んだ。
こちらを真っすぐに見るサラの瞳は、不安に揺れていた。
「タクマ様へのこの気持ちが、『隷属の首輪』の影響でないと、断言できないのです」
目を伏せるサラの睫毛が震えていた。
「怖いのです。この首輪が外れた瞬間、タクマ様への思いが消えるのが」
俺には大丈夫だとわかっていたけれど、それをサラに説明するのは難しいし、サラに理解、納得して貰うのはもっと難しいと思ったので黙っていた。
「今この胸を満たしている、暖かな想いが、無くなってしまうと、また私は中身がカラッポになってしまいます」
一度満たされてしまったから、余計怖いんだろう。
俺は何も考えずに、奴隷からの解放を提案した。奴隷から解放されれば、誰だって喜ぶだろう、なんて安易な考え方だった。
サラの不安もそうだけど、俺自身、サラに言われて不安に陥ってしまった。
大丈夫だとはわかっていても、それでも不安だった。
彼女の言う通り、『隷属の首輪』を外した瞬間、サラが俺から離れてしまうのが怖かったんだ。
結局俺はサラを解放しなかった。
サラが俺の事を好きでなくなるのは怖いし嫌だった。
好きな女の幸せを願うべきだ、なんて綺麗事は言えなかった。
サラも望んでいる事だし、お互いが落ち着くまで、この関係を維持しようと思ったんだ。
ヘタレだよなぁ。
マジで中学までの俺なら、その後からでも俺を好きにさせてみせる、とか言えたんだろうな。
……昔の俺を美化して過大評価してるのは、妹だけじゃないみたいだな。
「今のままでは時間が足りません。タクマ様のお世話に家事、勉強に魔法の練習、ダンジョンでのレベリングに素材や魔石回収。家計簿をつけるのも時間がかかりますし」
ちなみにレベリングも家計簿も、言葉は俺が教えた。
ダンジョンを探索している訳でも、攻略している訳でもないし、訓練とは少し違うからな。サラのLV上げが目的なんだから、レベリングで間違っていない。問題は、この世界に人間はLVというステータスを認識していない事だけど。
家計簿は簡単なものだ。簿記なんてわからないし、一家庭の収入と支出を記すだけだから、収入と支出を、一ヶ月単位でそれぞれ別の紙に書き、また別の紙に収支の差を書くだけだ。
貯金はまだまだあるけれど、今まで通りの丼勘定じゃなくて、きちんと収支を把握しようと思って、読み書き計算の練習代わりにサラに任せてみた。
一日どれだけの魔石を回収し、それを還元し錬成し、売却すれば良いかがわかるようになったのはかなり有り難かった。
改めて、サラに凄い負担をかけているな。元々そういう目的で奴隷を買って来たとは言え、基本的に全て任せきりだからなぁ。
時々思い付きで料理をしてみたりする程度だからな。あ、風呂掃除は俺がやってる。サラの魔法だとまだ風呂を沸かす事ができないから、風呂を沸かすのは俺の仕事。だからその前に掃除をしているんだ。
「タクマ様とイチャイチャする時間が中々取れません!」
あー、そういう……。
ちなみにあれから毎晩そういう事をしている。
夜遅くまでかかる事もあるので、必然的に朝も遅くなった。
俺もサラも、仕事は仕事で集中してやるタイプなので、掃除をしているサラにエッチな悪戯をしたりとか、料理中のサラを後ろから襲ったりとかはしていない。
勉強も集中させてやりたいし、魔法の練習中はふざけていると危険だ。ダンジョンなんかでイチャイチャできる訳がないし。
基本、風呂と寝る前だけだな、イチャイチャタイムは。そういう関係になったためか、サラの方から一緒に風呂に入りたいと言って来てくれた時は嬉しかった。
「うん、まぁ、そうだな。二人でまったりする時間があってもいいよな」
「はい!」
力強く頷くサラ。ほんと変わったね、お前。
俺が変えたんだと思うと、ちょっと感慨深いというか、達成感のようなものがある。
「家計簿をつけさせていただいておりますので、日々の生活費と、一ヶ月に一度支払われる女神様への寄付。万が一に備えての幾ばくかの貯金を差し引いても、ある程度の黒字が見込めます。一人増えても問題ありません」
やっぱり『キャストアストーン』と『錬成』が自前で使えるって強いよなぁ。
まだサラはフェルディアルとは会っていない。果たしてどういう反応をするだろうか。
そうか、仕送り日か……。
時計を見ると、真ん中の数字は『22』となっていた。ふむ、丁度良いか。
「よし、じゃあ明日奴隷を買いに行こう。女性の奴隷になると思うけどいいか?」
「そういう事をなさるおつもりでも問題ありません」
「ん、まぁ、元々サラもそういうつもりで買った訳じゃなかったしさ」
「ですから、問題無いと言っています」
無表情が怖いんですよ、サラさん。
よく笑顔で怒っているのが怖い、という描写があるし、俺もエルフで経験したけれど、無表情で怒っているのも、普通に怖いな。
「戦闘できる奴隷がいいからガルツだな」
なんて言っても、戦闘できる奴隷を買いに行ってサラを買って来た俺だからな。正直どうなるかはわからないけど。
「……一緒に来るか?」
「是非」
一人残していくのも心配だし、折角だしデートをしよう。
毎日ランチデートをしているようなもんだけど、やっぱりはっきりそうだと自覚してするのとじゃ大きく違うだろうし。
「じゃあ風呂入って寝るか。今日はどうする?」
「両方で」
俺の質問の意味を誤解しなかったサラが、頬を染め、妖艶な表情で微笑んだ。12歳できる表情じゃないと思う。やっぱり経験すると女性は変わるなぁ。
質問の意味? 察しろよ。
翌日。朝食を摂ってサラが家事を終わらせるのを待ち、俺達はガルツへと赴いた。
昼食を摂ってしばらくブラブラする。
手を繋いで歩くのもいいけど、サラは俺の腕を自分の方へ抱き込むのが好きらしい。何が、とは言わないけど、あまり感触が無いのは、彼女が子供だからか、それとももう限界なのか。
俺の腕に頬を摺り寄せ、嬉しそうな表情をしているけれど、その意識が周囲にいってるのを俺は知っている。
サラは俺に仇なす何者かが潜んでいても対応できるように、周囲を警戒しているんだ。
たった二週間とちょっとで、随分と忠誠心を稼いでしまったもんだ。
名前:サラ
年齢:12歳
性別:♀
種族:人間
役職:タクマの奴隷
職業:家事士
状態:歓喜(軽度)
種族LV8→13
職業LV:戦士LV2→5 槍戦士LV2 家事士LV11 事務員LV2 家事女中LV3 洗濯女中LV1 台所女中LV2 愛人LV6 自然術士LV2
HP:91/63→98
MP:77/47→81
生命力:35→52
魔力:20→41
体力:40→67
筋力:33→54
知力:38→55
器用:54→92
敏捷:25→53
頑強:31→52
魔抵:27→42
幸運:9→11
装備:アシッドランス 灰色狼毛皮の服 灰色狼毛皮のズボン 灰色狼毛皮のブーツ
保有スキル
奴隷の心得 清掃 不意打ち 従属 自然魔法 槍戦闘 パワースパイク スマッシュ 戦闘継続 ダブルスパイク 魔力操作 洗濯 料理 床術 スタミナ 根性 書類作成 清書
真の絆 慈愛の神の加護 愛の神の加護
ちなみに今のサラのステータスはこんな感じだ。正直、俺を害そうとする人間が居たら、警戒していたからと言ってどうにかなるようなステータスじゃない。
弱くはないけど、特別強くはないからな。
家事をサラに任せていたら、獲得した『家事士』が凄い勢いで上がって、派生職業の『家事女中』『洗濯女中』『台所女中』『愛人』を獲得している。
『愛人』のLVが他の派生職に比べて非常に高いので、お前らヤりすぎ、と言われてるようで恥ずかしい。持ってるスキルも『床術』だしな。
真の絆
主従が真の意味で信頼関係を築いた証。隷属の首輪を所持していないと発動しない。
LVアップ時のステータス成長率上昇。絆を結んだ相手と同一戦闘に参加している場合ステータス上昇
獲得職業が多いとは言え、妙にステータスの上昇がいいなぁ、と思っていたらこんなスキルを獲得していた。
『隷属の首輪』ありきのスキルって……。
あと、神の加護ってそうそう簡単に獲得できないらしいよ? クレインさんとかでも持ってなかっただろ?
地味に灰色狼毛皮のブーツから『テテスの』が消えてる。どうやら量産され始めたようだ。
幸運はなんで上がったんだろうな?
サラを買った奴隷商へと向かう。
「いらっしゃいませ」
前回も会った茶髪の青年が店に入ると挨拶をして来た。
「ああ、これはこれは」
そして俺を覚えていたらしく、営業スマイルの中に、若干の喜色が混じった。
「奴隷を買いたい。女性で戦闘もできる。家事は教えるから、やりたくないのでなければ問題無い。この娘が先輩奴隷になるので、それを尊重できる奴隷がいい」
「かしこまりました。予算や条件は前回と同じでよろしいですか?」
「ああ、頼む」
そして俺とサラは応接室へ通される。
俺がソファーに座り、サラがその後方へ立つ。今回は、何も言わない。
これから買う奴隷に、妙な先入観を与えないためだ。甘い希望を与えるのは、俺が買った奴隷だけで良い。俺に買われたいがために、これから他の客を拒否する奴隷が出て来ても責任取れないし。
それとも自意識過剰か?
紅茶と焼き菓子が出される。
「彼女にも水を」
「かしこまりました」
接客係らしい従業員に伝えると、その女性は特に反発する事もなく、サラに水の入ったコップを手渡した。
「ありがとうございます」
「いえ」
短いやりとりだけど、奴隷に対する嫌悪や侮蔑の感情は見えなかった。
奴隷商に勤めているからその辺りは寛容なのかな。
「お待たせいたしました」
暫くすると奴隷商が戻って来た。彼の後に続いて、何人かの女性奴隷が入って来る。
ひの、ふの……13人か。今回は多いな。
「実は貴方と貴方の奴隷の事は街でも噂になっておりまして、どこから聞きつけたのやら、奴隷達がこぞって希望した次第です」
奴隷商がそう説明した。
「いいさ。選択肢が多いのはむしろ助かる」
「ありがとうございます」
「それじゃ、そっちから自己紹介して貰おうか。名前と年齢と種族。あとは一言二言、得意な事でも教えてくれ」
「かしこまりました。おい、自己紹介しなさい」
そして自己紹介を始める奴隷達を見ながら、俺は『アナライズ』でステータスを確認する。
人間種が7人。エルフが2人。ドワーフが1人。獣人が3人。獣人の内訳は猫人が1人。兎人が1人。犬人が1人だ。
獣人はそれぞれの種族らしい耳が頭についていて、尻尾があるだけだ。犬人は若干顔の下半分が前に突き出ていてマズルっぽい。
肉球とかあるんだろうか。あ、ウサギは肉球無いんだっけ。
さておき、やっぱり長く活躍を望むなら人間種だよなぁ。けどドワーフも捨てがたいな。『鍛冶師』の職業を持っているのは見逃せない。
ちなみにドワーフは、身長が低いだけで、別段合法ロリな外見をしている訳じゃない。どちらかと言うと、種族的に胸とお尻は大きくなりやすいそうだ。
あれは胸じゃない、胸筋だってやつかな?
ステータスはそれぞれの種族の平均を大きく超えていないし、大きく劣ってもいない。種族LVも際立って高い者も居ないな。
レアな職業やスキルを持っている奴も居ない、と。
「ん?」
名前:カタリナ・アルヌス・エンデ・クォーリンダム
年齢:21歳
役職:クォーリンダム子爵家令嬢
種族:人間
種族LV6
職業LV:貴族LV7 魔導士LV4
え? なんで『元』でも無い貴族がいるんだ?
しかも年齢が結構高いぞ。
『魔導士』持ってるのか。戦闘はできそうだけど、家事はどうなんだろう?
うわぁ、気になる。
正直他にコレだ! って人材が居ないせいで、もうコイツしか目に入らないよ。
逸る気持ちを抑えて全員の自己紹介が終わるのを待つ。
もう、他の奴の話は右から左へ受け流されていた。
「一人、毛色の違う奴隷が居るみたいだが?」
「あー……彼女ですか……」
俺の言葉を奴隷商は誤解しなかったようだ。苦笑いを浮かべる。
「『魔導士』の職業を持っていますので、戦闘はできますが、正直奴隷としてはあまりお勧めできません」
「年齢が高いからか?」
と言っても、それは貴族として子供を産み、育てるための適正年齢だから、戦闘奴隷として使う分には問題無い年齢だと思うけど。
「それもありますが、この奴隷は、奴隷契約を結ぶ際、必ずある条件を入れなければならないのです」
「条件?」
「お家再興です」
「没落貴族なのか?」
役職に『元』がついてないけど?
「そうです。まぁ、没落貴族と言っても、何か粗相をして貴族位を剥奪された訳ではありません。借金により領地を失ってしまったのです」
「ふぅん」
どうしても、俺の返事は気の無いものになってしまう。
だって『常識』にその辺の知識が無いんだもんよ。位を剥奪されたのと、領地を没収されて没落したのと、違いがわからん。
いや、彼女の役職が未だに子爵令嬢である事を考えると、その辺りに違いがあるのか?
「それでなんで奴隷なんだ? 思うに金を稼いで領地を国から買い戻すつもりなんだろうが、それなら他に仕事が……」
「まさにそこなんですよ。領地を返上したり、没収されたりしただけでは、貴族はその位を剥奪される事はありません。しかし、元々領地を持たない貴族ならともかく、領地を失った貴族が、その領地を取り戻す、あるいは、別の領地を手に入れる前に、他の役職を得てしまうと、貴族位を剥奪されてしまうのです」
そうか。役職の概念はあるよな。神殿とかで確認できるもんな。
しかし面倒な制度だな。
「元々は領地を勝手に売買できないようにするための制度だったらしいのですが」
ああ、借金の形に領地を商人とかに勝手に売られたら国が困るもんな。自国の商人ならいいけど、他国の商人だったり、それこそ、他国の貴族の可能性だってある訳だし。
「他の役職を得る事無く再興の資金を稼ぐ事ができるのが、唯一奴隷なのです。奴隷で得た賃金を用いて国から領地を買い戻します」
「何年かかるんだよ」
「だからこそ条件をつけるのです。この奴隷の場合は契約は一年ごと。その際契約を更新するかどうかは奴隷の側に選択肢があります。奴隷が更新を拒否した場合、違約金として、購入額の一割を奴隷に支払わなければなりません」
「奴隷に?」
「はい。奴隷に」
それってつまり、年間で奴隷に支払う賃金が、購入額の一割に満たない場合、更新を拒否されるって事だよな。最低でもそれだけ支払えって言ってるよな。
「当然、更新を拒否さいた場合、奴隷を扱っていた奴隷商に戻されます」
「ただで?」
「彼女の場合は。はい」
二万前後の販売額の奴隷が、一年ごとにただで手に入るのか。
奴隷商としてはウハウハだな。
いや、けれどここでこれだけ説明してるって事は……。
「彼女と私との契約で、購入される方には全てを説明する義務が発生するようになっておりますので、話を聞いて購入を取りやめる方もいらっしゃいます」
言う奴隷商の顔には苦労が滲んでいた。
前回彼女を紹介されなかった事から考えて、つい最近彼女は契約を破棄して戻って来たんだろう。
そして、その前に彼女を売った際、かなり苦労したに違いない。
「お家再興の手伝いさえすれば、何に使っても、どう使ってもいいのか?」
「ええ、彼女が合意しさえすれば……」
「それは奴隷なのか?」
「条件を先に提示しておいて、首輪に登録しておきます。禁止事項が多い程、購入額が下がる契約でして……」
つまり、一年ごとに彼女が手にする金が減る、と。
「元値はいくらだ?」
「3万2千です」
「高いな」
前回伝えた予算が二万。そして今回も同じくらいと言ってあった筈だ。
まぁ、サラを購入した際の大盤振る舞いで、多少予算をオーバーしても大丈夫と思われてるんだろうな。
うぅむ。色々面白そうな奴隷ではあるけれど、色々制約が面倒くさい。
『鍛冶師』持ちのドワーフか、『魔導士』を持っているけど面倒な条件が付随する貴族か。
「ええ、勿論。それは重々承知しておりまして。年齢も些か高くなっておりますので、その分は勉強させていただきます。2万6千でいかがでしょう?」
いきなり60万円も値段が下がった。
そりゃ、この奴隷は戻って来てから間を置かずに販売した方が利益が出るから、多少安くてもさっさと売ってしまいたいんだろうけど。
けど、それだと奴隷の方から文句が出ないか? 彼女の目的はお家の再興。国から領地を買い戻す事だ。
それが幾らかかるか知らないけれど、高かろうと安かろうと、一年は奴隷として過ごさなければならないんだから、少しでも高く売りたいと思うんじゃないだろうか?
そう思って奴隷を見るけれど、彼女は目を伏せたまま反応しない。
うん? この値段で文句が無いのか?
それとも、彼女も安くてもいいから早く売りたいのか?
「それでもやっぱり高いな。予算は伝えてあるだろう?」
という訳でカマをかけてみる。
「で、でしたら、2万3千でいかがでしょう?」
またすぐに下がった。
おい、他の奴隷たちが冷めた目で見てるぞ。
これはとっとと売ってしまいたい理由があるな。貴族奴隷も何も言わないし。
まぁ、年齢だろうな。
俺はあまり気にしないけれど、この世界、この国だとやはり年齢と言うのはかなり重要な要素だし。
人間種は15歳で成人。結婚適齢期は18~20だ。
21歳以上は年増と言われ、初婚の男性からは忌避される傾向にある。
年増でも経産婦だとまた違うんだけどな。この国の結婚ってもろに子作りと子育てが目的だからさ。王侯貴族ともなれば、その傾向は更に強くなる。
年齢が高いと子供を産めるか不安になるだろうし、子育てもちゃんとできるか不安になるだろう。
けれど経産婦は別だ。だって子供を産める証明が終わってる訳だし。
死亡原因の上位を占めている出産。それを乗り越えているのも大きい。
処女かどうかはさておいて、一度も子供を産んだ事が無い年増は、結婚でかなりの不利となるだろう。
ああ、そうか。それもか。
お家再興って、ただ領地を買い戻せば良いって訳じゃないもんな。
その後、結婚して跡取りを産んで育てないといけないもんな。
でないと、今度こそお家お取り潰しになっちゃうもんな。
おそらく、奴隷としての買い手はまだつくだろう。けれど、お家再興を果たしてその後は?
あと2~3年で領地を買い戻せればまだ良いけれど、それ以上かかってしまうと、25歳以上の嫁き遅れと呼ばれるようになってしまう。
30歳を超えると嫁かず後家だ。最早、王族でもない限り貰い手は現れない年齢だ。
やっぱり経産婦は別なんだけどな。
だから、貴族奴隷は早く売って欲しい。奴隷商も、時間が経てば経つ程、貴族奴隷に猶予が無くなるので、求める金額が高くなってしまい、余計売れなくなってしまうから、早く売れて欲しい。
今がギリギリ、安売りできる限界なんだ。
「2万1千」
そして俺は値段を提示した。
「よろしくお願いいたしますわ」
それまで黙っていた貴族奴隷が、それに即座に応じ、奴隷服の裾をつまんで優雅に一礼する。
外見のみすぼらしさなどものともしない、堂々とした態度だった。
こうして俺は、二人目の奴隷を購入した。
いい加減、俺が買わなかったらこの奴隷はどうなってしまうんだろう? と考えるのをやめないといけないよな。
二人目の奴隷購入。
ようやっと章題通りの話になってきました。
次回はもう少し早く投稿できるよう頑張ります。




