第4話:はじめての冒険者ギルド
それから何体かの山羊小鬼を狩った頃、空腹を覚えたのでステータスを確認してみた。
状態:疲労(軽度)空腹(中度)
うん。わかりやすい。
ちなみに空腹は重度を超えると飢餓となり、全ステータスにマイナス補正を受ける。
現在でも生命力と体力と魔力にマイナス補正が入っていた。
三時間くらい潜ったかな? とりあえずこのくらいにしておくか。
そう考えて俺は入口に向かって歩き出す。
倒した山羊小鬼の数は13体だ。
山羊小鬼以外のモンスターも出る筈だが、山羊小鬼しか出なかった。
第一階層だからな。
もっと下の階層へ行けば山羊小鬼以外も出てくるだろう。
強化された山羊小鬼も出てくるので、割合は変わらないかもしれないが……。
外に出ると太陽が真上よりやや過ぎていた。
おそらく13時かそこらだろう。
入口の爺さんが安堵の表情を見せている。
一人で潜った俺が無事に出てきたからだろう。いい人だ。
会釈しながら何気なく『アナライズ』でステータスを確認してみた。
名前:クレイン・ヴェルゴ・アンドリュー
年齢:46歳
性別:♂
種族:人間
役職:ガルツ都市長
職業:執政官
状態:平静
種族LV59
職業LV:戦士LV52 魔導士LV33 魔導戦士LV35 執政官LV5
HP:654/654
MP:581/586
生命力:312
魔力:208
体力:178
筋力:212
知力:186
器用:235
敏捷:174
頑強:288
魔抵:192
幸運:67
装備:魔槍エグルヴォ 反魔の兜 ニブラスアーマー 魔剣レゼル
保有スキル
槍戦闘 剣戦闘 鎧戦闘 武器戦闘 直感 忍耐 精神抵抗 仁徳 カリスマ 戦闘指揮 世界魔法
スマッシュ ダブルスラッシュ フライングブレード 双龍撃 大車輪 足払い フルスイング ランススライダー 自己回復 アクセル バンプアップ プロテクションオーラ カウンターマジックオーラ 俯瞰視覚
またすごいのいたああああああぁぁぁぁぁああ!!
てか何やってんだ!? 都市長おおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!
あ、あれ? 『常識』だと都市長女性だぞ?
影武者?
いや、現在の都市長になって20年だってのに、この爺さん『執政官』のLV5しかないから、実務は女性にほぼ丸投げなんじゃ……?
まぁ、迷宮都市の都市長なんだから、ほぼ全ての住民が確認できるダンジョンの入口にいるのはむしろ正しいのか?
しかし『常識』の中にこの爺さんの正体が都市長だって入ってなかったって事は、この街の冒険者の7割以上を騙せてるって事なのか。
20年近くも……? すごくね?
しかしこれ見ちゃうと、俺のチートがしょぼく感じちゃうな……。
いや、アーノルドとかと比べれば十分凄いのはわかってるよ?
職業持ちが四人がかりでようやく倒せる山羊小鬼を、一人でバンバン狩ってた訳だしな。
ずっと弓使って戦ってたお陰で、戦士LV1を取得すると同時に弓使いLV1も獲得できたのは嬉しいな。
俺のスキル『技能八百万』は職業さえ獲得してしまえば、その職業が使用する事のできるスキルを全て使用可能になるってスキルだ。
しょぼいって言ってすまん。こうして考えると破格だわ。
ちなみにレベル自体は種族LVが5。『戦士』と『弓使い』はそれぞれ3まで上がっている。
現在のステータスは以下の通り。
名前:佐伯琢磨
年齢:28歳(肉体年齢18歳)
性別:♂
種族:人間
役職:異世界からの訪問者
職業:弓使い
状態:疲労(軽度)空腹(中度)混乱(中度)
種族LV5
職業LV:戦士LV3 弓使いLV3
HP:167/167→249
MP:87/196→279
生命力:112→166
魔力:135→185
体力:108→155
筋力:110→155
知力:120→179
器用:108→156
敏捷:105→147
頑強:130→180
魔抵:150→193
幸運:100→104
装備:ショートボウ 革の服 布のズボン 革のブーツ ショートソード 鉄の矢
保有スキル
神々の祝福 技能八百万 魔導の覇者 異世界の知識 世界の常識
また混乱してるよ。
メンタル弱すぎだろ、俺。
アーノルドと比べると、1LV上昇ごとの成長度が高い気がするな。
LVが高くなると緩やかになるのか? それともここもチート入ってんのかね?
スキルが増えてないのは、『戦士』のスキルと『弓使い』のスキルは『技能八百万』に含まれているからだ。
布の服は別に脱いだ訳じゃなく、防御力0なので、同一部位に他の装備があると表示されなくなるそうだ。
これは他の装備も同じで、重複装備不可能な防具は、性能が高い方しか表示されない。
まぁ、ステテコとか表示されても困るしな。
女性の下着も表示されると確かに嬉しいが、もしも何もつけていなかったとしたら、俺はどういう反応を示せばいいんだろう?
というか、中世ヨーロッパくらいって、下着って無かったんじゃなかったか?
ああ『常識』の方には下着の情報があるな。
なるほど、ブラジャーが存在してないのか。
代わりになるのがコルセットらしいが、上流階級の女性くらいしか身に着けないらしい。
庶民は基本カボチャパンツにノーブラだそうだ。
オシャレの文化が庶民にまで根付いてないから、特に人に見せる事の少ない下着は実用的なものになるよな。
夜の生活的な意味じゃなくてな。
防御力0装備が存在している理由としては、スキルや魔法による防御力向上などは装備に付与するものもあるからだ。
俺は都市長さんから逃げるようにその場を後にする。
もしも気付いた事に気付かれたらどうなるかわからないからな。
20年近く隠していたんだから、悪戯以外の意味もあるはずだし。
……悪戯心だけって事はないよな?
最初は誰か気付くかワクワクしてたら、誰も気付かないから、そのまま仕方なくって事はないよな?
モンスターを倒して手に入れた魔石は冒険者ギルドへ売却するのが普通だ。
時々行商人が買う時もあるが、それは希少な魔石の場合だろう。
このガルツで山ほど手に入る、山羊小鬼の魔石にそんな価値はない。
冒険者ギルドは三階建ての大きな建物だった。
観音開きの鉄扉を開けて中に入る。
カランカランと鐘が鳴り、中の人間が一斉にこちらに目を向けた。
鎧を身に着けていたり、ローブを身に纏っていたり、いかにも冒険者な恰好をした人間が多数。
顔に傷を持つ者や隻眼の者などもおり、いかにもな雰囲気だ。
首に黒い輪っか、『隷属の首輪』をつけているのは奴隷だな。
裸足に布一枚なんてみすぼらしい恰好をしているのは、荷物持ちなどの雑用を任されているだけの奴隷だろう。
『隷属の首輪』をしているが体格が良く、そこそこ装備が整っているのは、主人とともにダンジョンに潜る役割の奴隷だろう。
人身売買が普通にある世界だけで、奴隷の多くは自ら望んでそうなった者だ。
貧農の出だったり、借金で首が回らなくなった商家の人間だったり……だけどな。
その多くは奴隷になんてなりたくなかっただろう。
今はボッチニートのリハビリが済んでいないから、暫くはソロでやっていくつもりだが、いずれは冒険仲間を作らなければならない。
そうでなくても、安定して毎月金貨1枚分、1000デューを稼ぎ、俺自身の生活も安定させようと思えば、人との繋がりも必要になってくるはずだ。
そうなった時、俺に絶対服従の奴隷から慣らしていくのは選択肢としてありだ。
…………。
奴隷のくせに! なんて言って美少女奴隷を折檻している俺の姿が浮かんでしまった。
そんな俺を見る美少女奴隷の目は非常に冷たく、とても同じ人間を、いや、生き物を見る目とは思えない……。
うう、トラウマが刺激されてしまった。
中にはそれがイイって言う人もいるかもしれないけど、俺にそんな属性はなかった。
奴隷の購入はまだ先だな……。
買うにしてもダンジョンに潜る用の奴隷がいい。
それならステータスの高さでゴリ押しして、尊敬を得られるかもしれないし……。
冒険者ギルドの一階はホテルのロビーのようになっている。
ソファや観葉植物こそないけど、広い空間が取ってあり、そこで冒険者同士で歓談ができるようになっていた。
情報交換を基本とした世間話。パーティ内での今後の方針会議。
自分を売り込む者、逆にスカウトする者。
騒々しい中を俺は真っすぐに、奥にある受付へと進む。
受付には木製のカウンターがあり、その向こうに三人の男女が座っている。
うち二人は接客中。必然的に空いている三人目の前に立つ。
く、女性か……。
綺麗な女性なのでそれは嬉しいが、ヒキコモリ歴12年の俺には女性に話しかけるというのは非常にハードルが高い。
「ま、魔石の買取をお願いします」
それでも脳内シミュレーションが可能な受付嬢との会話はなんとか可能だ。
シミュレーションの中では『魔石を買い取って欲しい』なんてすました顔で上から目線だったのに、実際には下手に出てしまった。
声も上擦ってたし。
18歳というとこの世界ではそこまで若いという訳ではない。なにせ成人が15歳だ。
それでも俺の姿恰好は、いかにも新米冒険者。そんな人間が居丈高になっても滑稽なだけだ。
そんな考えから、自然と俺の姿勢は低くなる。
「はい、魔石の買取ですね。魔石のご提示をお願いします」
対する受付のおねーさんは慣れた者。営業スマイルを浮かべて俺にそう言った。
顔がこっちを向いているのに目線が合わない。いかにも事務的な対応だった。
名前:サラ
年齢:16歳
性別:♀
種族:人間
役職:冒険者ギルドガルツ支局受付
職業:拳闘士
状態:疲労(軽度)空腹(軽度)
種族LV7
職業LV:戦士LV5 拳闘士LV8 事務員LV4
良かった。ギルドマスターが隠れて受付やってるとかでなくて本当良かった。
『事務員』持ってるけど職業『事務員』じゃないのか。
この職業の表示ルールはよくわかんないんだよな。
大体は表示されてる情報に意識を集中すると、詳しい説明が出るし、表示ルールが表示される事もあるんだけどな。
一番高いLV? でもクレインさんの職業は『執政官』だったし。
自分がそうだと思ってる職業? でもこの人自分を『事務員』だと思ってないの?
ああ、ギルドの受付とは思ってるけど、『事務員』とは思ってないのか。
『事務員』の職業持ってる事にも気付いてないかもしれないな。
自分の職業を知るには、神殿や各ギルドで特殊なアイテムを使用しないといけないらしいし。
勿論有料な。
『剣戦士』とか『弓使い』とかだとそれ用のスキルが浮かんでくるから確認しなくてもわかるけど、『事務員』ってアクティブスキルが無い職業だからなぁ
「お願いします」
俺はリュックサックから魔石を5個取り出してカウンターに置く。
13個全部は出さない。残りはマジックボックスにしまってある。
山羊小鬼を一人で13体も倒せるとか、目立つにも程がある。
その日暮らしが基本の冒険者が、魔石を貯め込む意味もないしな。
「はい。確認させていただきます……山羊小鬼の魔石が5個ですね」
「はい」
魔石は残したモンスターによって大きさも色も形も違う。
よほどレアなモンスターの魔石でない限り、見ればすぐにわかる。
特に山羊小鬼は、このガルツにあるシュブニグラス迷宮のメインモンスターだからな。
「山羊小鬼の魔石が5個で10デューになります。お渡しは銀貨でよろしいですか?」
「はい」
銀貨ならどこの店でも普通に使えるし、お釣りは銅貨になる筈だから問題ない。
「ではこちら、買取金の10デュー、銀貨1枚になります。お確かめください」
そう言ってサラさんはカウンター下から銀貨を1枚取り出す。
エンゲルスみたいなのがそこにあるんだろう。
俺が右手を出すと、手のひらの上にぽんと置いた。
両手で包み込むものでも、こちらに触れないよう不思議なテクニックを駆使する訳でもない。
至って普通の渡し方だ。
「それでは還元させていただきます」
言ってサラさんは、受付の後方に控えていた、いかにも神官風のローブを身に纏った男性に魔石を渡した。
受け取った男性は魔石を一つ握り、何やらもにょもにょと唱え……。
「キャストアストーン」
男の言葉に応じるように、魔石は一度眩く輝くと、その手の中で姿を変化させた。
男の手には、俺の肘から手首の長さくらいまでの角が握られている。
『山羊小鬼の角』だ。『アナライズ』で確認するまでもない。
素材としてそのままギルドや商館に売却した場合の価格は、魔石と同じ2デュー。しかしギルドや商館から買おうと思うと3デューが相場。
じゃあ魔石にせずにそのまま素材として使用した方が得だと思うかもしれないが、そうすると別の問題が出てくる。
魔石を素材に還元するには、狩りの神ビクティオンの神殿で洗礼を受け、特別な訓練を受けた者だけが使えるようになる『キャストアストーン』の祝福が必要になる。
この祝福を使う以外に魔石を還元する方法はない。
そしてこの祝福を使える者は、冒険者ギルドかビクティオンの神殿でしか働けない。自身が冒険者になろうとしたり、他の場所に就職しようとした場合、神殿から『スキル封じ』の祝福をかけられてしまう。
『キャストアストーン』を習得しようと訓練を受ける者には『追跡』の祝福をかけるほどの念の入りようだ。
魔石はそのままだと魔力を込めて投げつけて爆弾にするくらいしか使い道はない。それはそれで役に立ちそうだが。
魔石は必ず同じものに還元されるのではなく、稀にレア素材に還元される場合がある。
これの買取価格は最低でも100デュー以上。
素材は『錬金術師』の『錬成』などによってマジックアイテムや魔法の武具にする事ができる。
レア素材は例外なく通常の素材より効果が高いものになるため、売却価格も跳ね上がる。
そんなレア素材も出るのに魔石の売却価格が一律なのはおかしいと思うかもしれないが、魔石は還元しないと何の魔石になるかわからない。
魔石はそのままだと魔力をこめて明りの代わりにするくらいしか使い道はない。それはそれで役に立ちそうだが。
だから冒険者達は、安いとわかっていてもギルドやビクティオンの神殿に魔石の買取を頼むのだ。
勿論、様々な方法で『キャストアストーン』が使えるまま野に下った者もいる。
しかし彼らは表に出る事はできないので、自然と依頼料が高くなるし、そんな伝手がない場合も多い。
同じように男が魔石を次々と還元していく。
そして最後の一個でそれは起こった。
光が収まった後、男の手には巨大な毛皮が握られていた。
「おめでとうございます。山羊小鬼のレア素材、『山羊小鬼の毛』に還元されました」
それを見ていたサラさんが抑揚はついているが感情のこもってない声で祝福する。
そして俺に布の小袋を手渡した。
ジャラリという音と感触。ずっしりと重たい。
その正体はわかっていたが、一応中身を確かめる。
銀貨だ。それも10枚入っている。
これは魔石を還元した際、レア素材ならギルドや神殿から支払われるご祝儀だ。
これはどんなものでも一律100デュー。
素材の売却価格はギルドの胸先三寸なので、レア素材の価格がどんなものでも100デューを下回らないのはこの祝儀を払っても赤字にならないようにするためだろうな。
更に一週間、この素材の優先買取権が与えられる。
自分で獲得した魔石を還元して出た素材を自分で購入する、というのは何だか腑に落ちないが、一般的な冒険者は『キャストアストーン』を使えないし、使える知り合いも伝手もないから仕方ない。
俺も今は使えない。そう、今は。
『神々の祝福』のスキルは、全ての祝福を使用できるスキルだが、その神を祀る神殿で洗礼を受けないといけない。
面倒ではあるが、非常に強力なスキルだ。
洗礼を受けただけでは『スキル封じ』も『追跡』もかけられる事はない。
つまり俺はビクティオンの神殿で洗礼を受ければ、何のペナルティもなく『キャストアストーン』を使えるようになるのだ。
人前では絶対に使えないけどな……。
洗礼は他の神殿で洗礼を受けていても受ける事ができるので、俺はほぼ全ての祝福を使えるようになる。
ほぼと言ったのは、特定の神殿の洗礼を受けていると、洗礼を受けられない神殿もあるためだ。
例えば光の神ウェルと闇の神ヴェルは出会ったら即殺しあうレベルで仲が悪いとされているので、その信者同士の仲も悪い。
そのため、ウェル神殿で洗礼を受けているとヴェル神殿では受けられない。追い返されるならまだ良い方で、その場で殺されてしまう可能性だってある。
他にもタブーな組み合わせはあるので、どの使える祝福からどの神の洗礼を受けるか慎重に選ばないとな。
『山羊小鬼の毛』の販売価格は150デューだ。
衣料と一緒に『錬成』すると防寒性能の高い『シュブラスジャケット』に変化する。こちらの販売価格は250デューから。一緒に『錬成』された衣料によって値段は変動する。
物理防御力は9から。これも一緒に『錬成』された衣料で増減する。
防寒だけでなく、氷属性の攻撃は半減。水属性の攻撃は二割減。重量も革の服とそう変わらないので、初心者を卒業するくらいの後衛職に好まれている。
買取優先権は謹んで辞退し、俺は受付から離れる。
優先権は放っておけばいいのだが、ギルドもさっさと通常販売に回したいだろうから敢えて辞退してみた。
少し覚えが良くなるといいな、くらいの気持ちだった。
受付を離れて壁際へと移動。そこにはクエストの依頼書が貼ってある。
依頼を受けるのに特に制限はないけど、難しい依頼や高額の依頼はここにはない。
そういったものはギルドから冒険者に依頼される事が多い。
あとは依頼主がギルドを通さずに冒険者に直接依頼するとかな。
失敗しても特にギルドの信用が落ちないような依頼しかそこにはない訳だ。
ギルドを利用するのに特に登録などは必要ないが、クエストを受けるには必要になる。
とは言え契約書にサインをするくらいだが。
「ふむ……」
依頼書を流し見てその内容を簡単に確認する。
俺が探しているのはある一つの依頼だ。
乗り合い馬車の護衛クエストである。
街から街へ移動するのは基本的に徒歩だが、時間がかかるし何より危険だ。
隣の街まで何日もかかる事が珍しくないこの世界では、食料の確保も重要だ。
多ければ荷物になるし、途中で腐ってしまう可能性もある。
馬や馬車なら時間が短縮できるし危険も減る。
個人で所有するのは難しいので、都市や大きな商会が運営している乗り合い馬車を庶民は利用する。
当然有料だが、護衛クエストを受ければ、ただで馬車に乗せてもらえる上に金まで稼げる。
一石二鳥だ。
目指すのはフィクレツの街。ビクティオンの神殿がある街だ。
そこで洗礼を受け、『キャストアストーン』を使えるようにしたい。
第九階位魔法に『テレポート』があるが、これは一度術者が行った場所にしか移動できないので、一度は自力で到達する必要がある。
人に見られるとまずいので、街の外の人気が無い場所をテレポート地点に設定しておくのが無難か。
理想は個人宅を所有する事だけど、流石に高い。いずれ手に入れるつもりではあるが、すぐには無理だ。
売却できるギルドを二ヶ所抑えておけば、『キャストアストーン』を駆使して素材や『錬成』したアイテムを売却する際、怪しまれる可能性が減る。
「お、あった」
目当ての依頼書を発見する。
フィクレツの街までの乗り合い馬車の護衛クエスト。
出発は二日後の早朝。
報酬は200デューだ。
乗り合い馬車の料金が一人1000デューとかなり高額なのを考えると、結構報酬が安い。
依頼書を壁から外す。下から同じ依頼書が現れた。
複数の人間に依頼する場合は、このように同じ依頼書を重ねて貼っておく。
一人一枚だが、同じパーティなら人数超過していても依頼を受けられる。
あまりにも多いと人数を限られてしまうが。
乗り合い馬車の護衛クエストはフィクレツまでなら5人前後が普通だ。
特に野盗や魔物の目撃が相次いでいるという『常識』は存在しなかったので、今回もそのくらいだろう。
知らない人間と一緒に仕事をするというのは苦痛だが、周囲を警戒している風を装っておけば、そうそう話しかけられる事もないだろう。
実際、『サーチ』で警戒する訳だし。
依頼書を受付に持っていく。先程と同じくサラさんが応対してくれた。
契約書にサインするとクエストの受領が完了する。
ギルドの紋章が入った木の札を渡された。
これを馬車の御者に渡す事で、護衛名目でただで馬車に乗る事ができる。
フィクレツに着くと御者からクエスト成功を証明する羊皮紙が渡されるので、それをフィクレツの冒険者ギルドに提出すれば報酬がもらえる。
帰りはまた馬車を護衛して来てもいいが、街の外のポイントまで『テレポート』してもいい。
向こうにあるクエスト次第だな。
俺は札をリュックの中に入れると、ギルドを後にする。
まずは今日の宿を決めないと。
昼食を摂った後は『テレポート』のポイントつくりのために一度街の外に出よう。
グルリと見て回れば、良さそうな場所が見つかるはずだ。
その後は夕方までダンジョンに潜る。
勿論、明日もダンジョンに一日潜る。
折角異世界に来たのに、結局俺はヒキコモリになってるな。
目的は世界を救う事でも領地を発展させる事でもなくて、毎月仕送りするための金を稼ぐ事だから、これはこれで正しいのだ。
次回もまた迷宮での戦いです