第54話:奴隷少女との絆
同日更新二話目です。
サラが落とし穴に落ちてから、翌日までのタクマ視点の話です。
明り取りから差し込む朝日の眩しさと、窓の外から聞こえる小鳥の囀りで目を覚ます。
ゆっくりと上半身を起こし、そして俺は一人ごちた。
「ああ、朝チュンだなぁ……」
またやってしまった……。
俺は深い溜息を吐き、そしてちらりと目線をそっちへ向ける。
そこには、布団に包まれて、すやすやと眠るサラの姿があった。
勿論、布団の下は生まれたままの姿だ。
ていうか、幸せそうな寝顔しやがって。
まぁ、ヤっちまった訳だよ。色んな意味で。
昨日、ダンジョンでサラを鍛えている最中、突然その姿が消えた。
どうやら落とし穴のトラップにひっかかったらしい。途中でスロープになってて、下の階層へ転げ落ちたので、落とし穴というか、強制移動のトラップと言った方が正しいかもしれない。
とにかく、それまでは存在していなかったトラップに完全に無警戒になっていた俺は、サラの安否を気遣うより前に、パニックを起こしてしまった。
豆腐メンタルはまだ健在だったよ。
>豆腐メンタルは仲間を呼んだ。
>ネガティブシンキングが現れた。
>ネガティブシンキングの攻撃「さいあくのそうぞう」
>効果は抜群だ。
こんな感じだった。
いや「さいあくのそうぞう」は効いたね。
サラが殺されるのもそうだけど、ここシュブニグラス迷宮のメインモンスターは山羊小鬼だからさ。
小鬼系のモンスターは異種族交配持ってるからな。
まぁ、つまり、そういう想像をしちゃった訳だよ。
平常心でいられる訳がねー。
もう出現するモンスターとかその辺歩いてる他の冒険者とか気にせず突っ走ったからな。
この時はまだなんというか、サラに対する愛情は兄が妹に対するとか、親が娘に対するとか、そういう感情だと思ってたんだよ。
奴隷として生きて来たサラに対する同情とか、憐憫とか。
そういう感情が基になってると思ってたんだよ。
その光景を見るまでは。
その通路に入った瞬間、漂って来たのは血と肉の混ざった匂いだった。
『マップ』の中のサラの輝点はまだ生存を示しているので、サラのものではないとはわかっていたのだけど、それでも、「さいあくのそうぞう」は俺への攻撃の手を緩める事は無かった。
そしてそれを目にする。
壁際に追い詰められたサラと。
股間の蛇を奮い立たせた山羊頭のモンスター。
その瞬間、目の前が赤く点滅したのを感じた。
一気に頭に血が上り、俺は何も考えられなくなった。
気付いた時には駆け出していて、次の瞬間には跳び蹴りをかましていた。
「てめえええぇぇぇぇはぁ! 俺の女にいいいぃぃぃ! なぁにをしようとしてっだらあああああぁぁぁぁぁ!!」
俺は何を口走ってしまったんだろうな。
俺の奴隷、とか。俺のもの、とかじゃなくて、俺の女って……。
思わず俺は山羊頭の股間に第三階位の自然魔法、『フレア』を放っていた。
ダジリン戦でも使用した、広範囲に小爆発を撒き散らす魔法だが、それを、相手の股間に集中させたんだ。
その効果は推して知るべし。
そして股間を抑えて地面に蹲り、びくんびくん、と痙攣する山羊頭の頭を、火竜槍でかち割ってやった。
魔石を回収して俺が駆け寄ると、サラは暫くこっちをぼうっと眺めていた。
うん、正直に言おう。その瞳が意味するところを俺はちゃんとわかっていた。
正直、吊り橋効果とか、悪く言うとストックホルム症候群とか、そんなものだと思ったけれど。
抱き着いて来たサラの温もりが愛おしくて。
腕の中で振るえる小さな存在が、あまりにも愛おし過ぎて。
俺も抱きしめ返してしまった。
サラを落ち着かせるためだ、とか。安心させるためだ、とか。色々建前とか言い訳はあった。
けれどそれ以上に。
全身で感じられるサラの温もりと柔らかな少女の感触に。
俺は離れたくないと思ってしまったんだ。
そのまま家に『テレポート』。
それでもサラはまだ俺から離れない。俺もサラを放さない。
サラが俺を見る。
熱の籠った視線。何かを期待した目。
そして俺はその目に吸い込まれるように顔を近付け、一瞬、停止して、サラが逃げないのを確認してから。
彼女にキスをしたんだ。
で、目覚めたら朝チュンですよ。
ええ、勿論堪能しましたよ。12歳の体をね。
最初に見た時は、いやらしさい気持ちを抱くよりも先に、心配してしまうくらい細かったサラの肢体は、この十五日程で、少女特有の柔らかさを取り戻していた。
色々細いし小さいし何より狭かったけれど、けれど俺は、サラの体を余すところなく楽しんでしまった。
できる限り優しく、繊細に、丁寧に扱ったつもりだけれど、何分俺も魔法使い一歩手前まで行った身。
その上で、相棒と訣別した時の一回だけしか経験が無い。
どれだけシャドーボクシングをこなしていたとしても、実戦で同じように動ける訳が無かった。
まぁ、この幸せそうな寝顔を見れば、少なくとも、怖がらせたり、不快な思いをさせる事は無かったんじゃないかな?
陽光に照らされてキラキラと輝く銀髪を優しく撫でる。
うん、大分サラサラして来たな。もう日の光を浴びなくても銀色だとわかるくらいに髪の色も戻って来たみたいだし。
ヤっちまったもんは仕方ない。
日本だとバッチリ犯罪な年齢だけど、この国だと合法だ。
未成年に手を出した、と白い目で見られる可能性はあるけれど、そもそも未成年の少女を奴隷にしている時点で、そういう事をしていると思われている筈だ。
だから今更だ。
サラが嫌でないのなら、俺は覚悟を決めるだけだ。
「おはよう」
サラが目を覚ましたので、俺は挨拶しながら微笑んでみた。
「お、おはようございます……」
すぐに状況を理解したらしく、顔を真っ赤に染めて、サラが挨拶を返して来た。
寝起きは良い方みたいだな。今回は完全に仇になったけれど。
「昨日はお愉しみでしたね」
俺から言うセリフではないけれど、誰も言ってくれないだろうから自分で言ってみた。
「は、はい。大変良くしていただいて、サラは幸せ者です」
なんて返して来た。
けれどやっぱり恥ずかしいんだろう。布団を引き上げて、目元まで隠してしまう。
「サラ、まぁ、これから色々話す事はあるだろうけど、とりあえず、あれだ」
「…………」
「嫌じゃ、なかったんだよな? 嫌だったけれど、奴隷として仕方なく、相手をしてくれた訳じゃないんだよな?」
「も、勿論です! 私は、自分の意思で、そうしたいと思ったから、タクマ様に純潔を捧げました!」
おう、ここまで大きな声を出したのは初めてだな。
というか、俺、今初めて呼ばれた? これまでサラから話しかけてくるような事は無かったからな。
ご主人様って呼ばれて、それはやめてくれ、じゃあタクマ様で。みたいなやり取りなかったよな。
うん、まぁいいか。
多分直そうと思っても直せないだろうし。
『さん』あたりが妥当だとは思うけど、まぁ、これも個性の一つと考えよう。
正直、その方が萌えるってのもある。
「俺もまぁ、女性なら、誰でも良いって訳じゃない。サラだったから。サラが愛おしかったから、抱いた」
「…………」
おお、耳まで真っ赤だ。あと銀髪のせいで頭皮も見えるけれど、それも真っ赤だ。
「サラ、これからもよろしくな」
そう言って、俺はサラの頬にキスをした。ちょっとキザっぽかったかな?
けれど、文化自体が摺れていないこの世界の住人であるサラには、効果が抜群だった。
「ふ、ふちゅちゅかな奴隷ですが、末永くよろしきゅお願いしましゅ」
カミカミだな。可愛いけど。
タクマ、ロリコン疑惑。
経験人数二人。回数二回。相手は14歳と12歳。
タクマの経験時の年齢を言わなければ早熟だね、で済みますが実際は……。
次回から、いよいよ章タイトルっぽい展開になります。




