第49話:カレー
時間かかっちゃいました。
あと、何故か一度投稿したのが反映されてませんでした。
翌日も八時頃に目を覚ます。
「おはようございます」
「おっ!?」
俺が扉を開けて部屋を出ると、同じタイミングで部屋から出て来たサラが挨拶をした。
思わず驚いてしまったぜ。
「おはよう」
とりあえず俺も挨拶を返す。
多分、昨日起きたなら部屋から出て来て良いって言ったからだろうな。
それでもひょっとして、俺が起きるまで待ってたんだろうか?
……マジでコイツいつ起きてるんだろう?
まぁ九時前後には寝てるからなぁ。日の出と共に起きてても不思議じゃないのか。
そうするとコイツ、いつも三時間以上待ってる事になるよな。
とは言え、早く起きたら起こして良いとは言えない。
そんな早く起こされたらたまらないからだ。
掃除ローテーションが一周したら、とりあえず早起きしたら掃除を始めてて良い事にしようか?
あ、でも台所やリビングはその後使うしなぁ。
やっぱり俺が起きるまで寝ててもらうのが一番か。どうにかして二度寝の素晴らしさを教え込まないと。
さて、今日の朝食はハムステーキだ。
『マジックボックス』にしまいっぱなしになっている猪肉を使ったハムを、分厚く切って焼くだけ。
どうもサラは肉が好きみたいだからな。これは喜ばれるだろう。
ちなみにハムは専用の技術で加工して、専用の施設で肉を熟成させなければならないのだけれど、これもチートで何とかした。
まず塊肉を持って『錬成』をすると『ハム(熟成前)』に変化する。
耐火煉瓦と同じく、大きさが一回り小さくなるけど、まぁ、これは仕方ない。
手間暇を少しの量と引き換えに省略できたんだから、贅沢は言わない。
あとは塩漬けにして時空の神の祝福『スペンドタイム』をかければいいだけ。
『スペンドタイム』は対象の時間を進める祝福だ。現代でも、超音波で酒の熟成を加速させる方法とかあるけど、あれと同じだ。
という訳で本来なら三日から一週間の熟成が必要なハムが、わずか半日で完成した。
しかも特別な技術も施設も使わずにだ。
『常識』にこの『錬成』の使い方は無かったから、マジで世の『錬金術師』は料理に興味が無いらしい。
フライパンに油を引いて厚さ5mm程のハムステーキを乗せる。その段階でサラの目が輝いていた。
昨日のパンはとりあえず取っておいて、今回は他に、初日から作っている、黒パンのスープがけと青汁を添える。
青汁が置かれた時、サラの表情が渋いものに変わったのを俺は見逃さなかった。
「とりあえず青汁半分飲まないとハム食べさせないからな」
「…………」
首輪が赤く光っている。ほんと、野菜嫌いなんだな。
まぁ日本でもピーマンとかニンジンとか。子供は野菜嫌いなイメージだからな。
苦みだけしかないような緑野菜ばかりで作ったうえに、味も調えられてないんだからな。そりゃ嫌いだろうよ。
朝食の後は洗濯と掃除だ。今日の掃除箇所は階段と二階の廊下。
昨日は筋肉痛もあって大変そうだったけど、今日は筋肉痛が治った事と、掃除にも大分慣れたようで、そつなくこなしていく。
掃除が終わったらガルツへ向かい、昼食を摂った後ダンジョンへ。
成長しているとは言え、まだまだステータスが低いサラでは山羊小鬼を倒すのに時間がかかる。
「こ、こうですか?」
「そうそう」
モンスター出現の前兆である魔力の噴出の前で、サラは槍を大上段で振りかぶっていた。
第二階位の世界魔法『サイレントヴォイス』によって、シャウト系の攻撃を無効化している。そのため、出現と同時に放たれるバインドシャウト中が必ず攻撃が入る隙になる。
一撃で倒す事は難しいだろうけれど、渾身の一撃を撃ち込める機会はそうそうないので、チャンスは逃すべきではない。
それに『スマッシュ』なんかのスキルも、職業を獲得したからと言って自動的に得られる訳じゃないからな。
『スマッシュ』は振り下ろし攻撃を行った経験がある事が条件なんだけれど、これ、どうも全力で振り下ろさないといけないみたいなんだ。
昔から冒険者や兵士を目指していた人間なら、一度や二度そういう経験はあるだろうけど、ずっと奴隷として生きて来たサラにそんな経験があるとは思えなかった。
敵と戦いながらだと、回避や防御を気にしない一撃ってのは中々繰り出せないからなぁ。
特に今のサラはステータスがかなり低いし。
「ぼえええぇぇぇぇええ……」
そして山羊小鬼が出現する。同時に放たれるバインドシャウト。
しかし魔法で無効化しているサラは、目の前で無防備に叫んでいる山羊小鬼目がけて槍を振り下ろした。
「ぼひゅえ!?」
シャウトの途中で顔面に一撃を受けたためか、山羊小鬼はなんか面白い音を出しながら体勢を崩した。
そのまま真っ直ぐ振り下ろすと、地面を叩いてしまうので、山羊小鬼に穂先が命中すると同時に、軌道をななめに変化させるように伝えてあった。
サラはその教えを覚えていたようで、腰を捻り、槍を横へ流す。
それなりに戦える人間なら、ここから手首を返し、逆袈裟に切り上げるところだけど、今のサラのステータスじゃ無理だ。
だからそのまま槍の動きに合わせて回転させ、再び上段から槍を振り下ろさせた。
「ぶふぅお!?」
更に体勢を崩せば、サラが目を回すまで、ひたすら回転斬りを続けさせるつもりだったが、山羊小鬼は体勢を崩しながらもバックステップして距離を取った。
これにサラが追撃するのは無理だ。
「ぶふううぅぅぅう!」
着地と同時に前傾姿勢を取る。おそらくそのまま突っ込んで来る気だ。
「槍構えろ!」
「はい!」
槍で防御しようとした場合、どうしても槍を横に持ち、柄の部分を自分の前に置きがちだけど、それは間違いだ。
総金属製の槍ならそれでも良いが、今回のサラの槍のように、柄の部分が木製の槍では、防御力なんて期待できないし、最悪、折れてしまう事だってある。
金属製でも、相手の攻撃力によっては曲がってしまう事があるしな。
振り下ろしの攻撃などに対しては有効な防御なんだけれど、今回のような突進に対しては効果的じゃない。
「ぶおおおぉぉぉぉぉおお!!」
雄叫びと共に走り出す山羊小鬼。
俺から見れば非常に遅いけれど、サラはもっと遅い。
「右に跳べ!」
だからサラの判断を待たずに俺が指示を出す。
危ない、とか、避けろ、とかだと、人間は反応が遅れるらしい。まず自分にどんな危険が迫っているのか確認してしまうからだそうだ。
できる限り具体的に伝えてやると、人はその通りに動くから、危険を回避できる可能性が上がるそうだ。
サラが右に向かって跳躍すると、その直後に、彼女がそれまで立っていた場所を山羊小鬼が通過する。
回避されたため、山羊小鬼は急ブレーキをかけ、強引に方向を変えようとする。
「薙ぎ払え!」
サラの体勢も十分ではないけれど、それでもリーチは彼女が上だ。
アシッドランスの特性を活かすためにも、手数を重視するべきだ。
穂先が顔の先を掠めた程度だったが、山羊小鬼の動きが止まった。
例えダメージが無くても、突然顔に何かが当たれば、上半身を引いて動きを止めてしまうものだ。
「突け!」
無防備な胸元へサラが槍を突き出す。
「ぶううぅうおおぉぉぉお!?」
思わぬダメージに、再び山羊小鬼はバックステップで距離を取る。
やっぱり簡単には倒せないか。
それでも初日に比べれば、俺の声によく反応するようになった。
初日はそれこそ、俺が背後にぴったりと張り付いて指示してやらないといけなかったからな。
その後、一時間近く戦い、ようやっとサラは山羊小鬼を一体倒した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
達成感よりも安堵感の方が大きいんだろうな。槍を杖代わりに立つサラの体からは覇気が感じられない。
まぁ、俺という保険があるとは言え、命のやりとりを一時間近くも続けたんだ。体力的にも精神的にも疲労するよな。
生まれてから戦闘とは無縁の生活を送って来た少女が、一日数時間の戦闘だけで、慣れる事なんてできないよな。
「しっかりと休んで息を整えろ。お前の成長も大事だけど、お前の命の方が重要だからな」
「はぁ、はい……」
俺の言葉にサラがどんな感情を抱いたのかは窺い知る事はできなかった。
とりあえず、回復魔法を使ってHPとスタミナを回復させる。
この日は四体の山羊小鬼を倒す事に成功した。
お陰でまたLVが上がったようだ。
名前:サラ
年齢:12歳
性別:♀
種族:人間
役職:タクマの奴隷
職業:なし
状態:疲労(重度)空腹(重度)
種族LV2→3
職業LV:取得職業なし
HP:27/31→36
MP:2/20→23
生命力:21→23
魔力:10→11
体力:16→21
筋力:15→18
知力:16→19
器用:23→27
敏捷:13→14
頑強:23→24
魔抵:19→20
幸運:8→8
装備:アシッドランス 灰色狼毛皮の服 灰色狼毛皮のズボン テテスの灰色狼毛皮のブーツ
保有スキル
奴隷の心得 清掃
ちょっと限界まで戦わせ過ぎた。MPがやばい事になってるな。
ダンジョンを出た後は一度ルードルイへ飛び、錬成したアイテムなどを売った後、夕飯の材料を買って帰った。
今日買ったのはジャガイモ、ニンジン、タマネギ。これに『マジックボックス』の中で余っている猪肉を加える。
勿論、これだけでも十分料理として成り立つと思うんだけど、今日はある特別な料理を作ろうと思っていた。
そのために必須の材料があって、それは頼んでいるんだけど……。
下ごしらえとしてジャガイモとニンジンの皮を剥いていると、ドアノッカーが鳴った。
「いや、俺が出るよ」
さっと立ち上がったサラを制して、俺が応対する。
まだサラだと、何かあった時に対処できないからな。
魚眼レンズ(っぽいもの)から外を覗くと、黄色のローブを被った怪しい人物が立っていた。
いやまぁ、黄斑のローブを羽織った何者か。つまりはゴブリンキングダムからの使者なんだけどさ。
「初めまして、時空の使徒様。私はしがない流浪の商人、ガラム・マサラと申します」
家に入れると、相手はそう名乗った。
ていうか名前……。なんてツッコミを入れる事はしない。
「本日は特別な取引をご要望とかで。ふふ、私共に任せていただければ如何様な商品でもご用立てさせていただきますとも」
無理して低くしているような声で喋る商人を、俺は冷めた目で見ていた。なぜなら……。
名前:ユリアン・ザ・キング
おい王様、護衛もつけずに何してんだ。
まぁ、サラや世間体を気にして、幻術か何かで姿形を人間に変えて来てくれた事に感謝して、ここはノってやるか。
「ああ、ユリアンから聞いてると思うけど、ちょっと特殊な食材が欲しくてな」
「!!?」
ガラム・マサラが驚愕の表情を浮かべる。俺がゴブリンの王を呼び捨てにしたから、じゃないだろう。
俺が日本語で話しかけたからだ。
一応、バレてるって事だけは伝えておこうと思ってさ。後で騙しきったとか調子こかれても困るし。
「それで、持ってきてくれたか?」
今度は日本語のままだけど、言語チートによる謎翻訳を発動させて言う。
多分ガラム・マサラ、いや。もう面倒だ。ユリアでいい。
とにかくユリアには日本語で聞こえているかもしれないけれど、今度はサラにも内容が理解できた筈だ。
「え、ええ。こちらがご要望の商品でございます」
そしてユリアは『リトルマジックボックス』から次々と壺や革の袋に入った商品を取り出し、テーブルに並べていく。
「砂糖、蜂蜜、花蜜、真珠油脂、バター、生クリーム、イチゴジャム、リンゴジャム、白桃ジャム、オレンジマーマレード、マヨネーズ、タルタルソース、ウスターソース、みりん、お酢、辛そうで辛くないほんのちょっと辛い食べるラー油……」
とりあえず思いつく限りの調味料やソース類を頼んでみたんだけれど、結構な量を持ってきてくれたな。
「そしてこれがカレー粉でございます」
ドン、と置かれた壺の封を外してみると、途端に薫るスパイスの香。覗いてみると、黄色いパウダー状のものが大量に入っていた。
「それと、醤油と味噌はまだ作ってないけど、本当にこれで良かったの?」
もう俺にバレているからだろう。突然口調がユリアのそれに戻った。
ユリアが俺に差し出したのは大豆だ。正確には大豆に似た作物なんだけれど、性質が同じなら問題無い。
「大丈夫だ。問題無い」
図らずもネタ的なやりとりになってしまった。
俺は大豆の入った壺を持ち、『錬成』を試みる。
頭に浮かぶ、『味噌』『醤油』『納豆』。
「うん、『錬成』で創れるみたいだ」
「え!? ウチの子達じゃ創れなかったわよ!?」
「あー『錬成』ってある程度創れるものをイメージできないと浮かばないっぽいんだよ」
「それは初耳だわ……」
これが、ゼロから異世界生活してるユリアと、チート使ってる俺との違いだよな。
「ていうかお前は『錬成』できないのか?」
「うん、私は『錬金術師』持ってないから……」
「お前ならすぐに得られると思うけど、ひょっとして、獲得方法を知らない?」
「……まぁね。元々持ってる子達って生まれつきだし。捕えたヒト達も知らないヒトばかりだったし」
そう言えば、俺も『錬金術師』の獲得方法、知ったの『技能八百万』からツリーで辿ったんだし、『常識』では錬金術師ギルドで習う、くらいしか情報無かったもんなぁ。
「まぁでもお前の場合だと『錬成』の習熟度が足りなくて、すぐには醤油とか創れないかもな」
「それでも私が使えるのとそうでないのとでは大きな差があるわ! お願い、教えて!」
「じゃあ今回の品物と交換って事で」
「これ、街で卸したらどのくらいの値段になるかわかってるの……?」
「キングダムには貨幣経済が浸透してないんだろう?」
「むぅ……」
「じゃあ金貨1枚でどうだ? 1000デューだ」
「いやだからさ……」
「まずは物を売る事で金が得られる事を教える方が先だろ? 値段や価値はその次でいいじゃないか」
「…………まぁいいか。元々多少は勉強するつもりだったしね。ところで……」
そこでユリアは初めてサラに視線を向けた。びくり、と肩を震わせて顔を逸らすサラ。
「ふぅん。中々可愛い娘じゃない。あ、けど奴隷なんだ……」
「変な勘繰りはやめろよ? そういうつもりで買ったんじゃないからな」
「べっつにぃ? 何も言ってませんけどぉ?」
腹立つ言い方しやがって。
駄目だ。これは何を言っても無駄だな。
「それで、このカレー粉はどれだけいれればいいんだ?」
「三人分なら大匙一杯程度で十分よ。小麦粉は水の十分の一くらい必要だけど」
さらっと自分の分入れたぞ、こいつ。
「おかわりと明日の分も含めて大匙四杯ってところか?」
「お? 寝かしちゃうの? 二日目のカレーにしちゃうの?」
「まぁな。醍醐味だろう?」
それに明日は祝福の日。ガルツだっていつも以上に賑わうだろうからな。そんな芋洗いの中で昼飯食いに行きたくねぇよ。
まぁ、サラが行きたいって言うなら連れてってやるけど、まだ自己主張はしないだろうなぁ。俺がどうするか聞いたら、本当は外に食いに行きたいけど、言い出しにくいからサラに言わせようとしてる、とか誤解されても困るし。
そう言えば小学生時代、俺の時はまだ完全週休二日制じゃなかった。第二第四土曜日だけが休みだったんだよ。
第一、第三。そして時折第五土曜日は半日授業、所謂半ドンだった訳だ。
その昼飯に、前日のカレーが出ていた。
よし。これからもカレーは祝福の日の前日に固定しよう。
サラが自己主張するようになったら、その時はその時だ。
「それで? 米は? わざわざカレーを作るって事はあるんでしょう?」
「ねぇよ。それを言ったらお前なんてカレー粉造ってるじゃねぇか。稲作くらいしとけよ」
「稲の種籾が見つかってないんだからしょうがないじゃない。カレー粉は色々料理に使えるから便利なのよ」
「とにかく米は無い。その代わりに、パンにかけて食う」
「ビーフシチューみたいなもの?」
「いや、千切ったパンをライスに見立ててカレーをかけるんだ」
カレーパンとかあるんだし、大丈夫だろう。世の中には、ハッシュドポテトにカレーかける地域もあるそうだし。
「え? でもこの世界のパンって黒パンよね。大丈夫なの?」
「皮剥いで千切ればなんとかなるよ。うちの朝飯は黒パンのスープかけだ。普通のパンもあるけど、できればこういうのには使いたくない」
「え? 普通のパンがあるって、どうやって? イースト菌をどこから手に入れたの!?」
「え? 普通に林檎とか水に漬けとけばそのうちできるだろ?」
「まさかおに時空の使徒にそんな知識があったなんて……」
驚愕していながらも、一応妹である事は明かさなかったユリア。
あ、こいつ、そのうち普通のパンを俺に売りつけるつもりだったな。
「まぁ食ってくんなら手伝えよ。サラに手順を教えないといけないんだから」
「ふふん、任せてよね」
「えっと、あの……」
二人でキッチンへ向かおうとすると、俺の陰に隠れるようにしてジャガイモの皮を剥いていたサラが戸惑いの声を上げる。
「ああ、えっと、俺が懇意にしている商人のガラム・マサラだ。料理とか色々な生活用品の事を教えて貰った相手だ」
「そ、そうよ。私が流浪の商人ガラム・マサラよ。おに時空の使徒とは仲良くさせて貰ってるわ」
「時空の使徒……?」
あれ? そう言えば話してなかったっけ?
「ああ、俺時空の神の使徒なんだよ」
詳しく説明するのが面倒なので、食いつかれないよう軽い感じで言う。
「え……?」
ち、誤魔化せなかった。
「とにかくまずは飯の準備だ。今夜はごちそうだぞ?」
「わかりました。いきましょう」
今度は誤魔化されてくれたようだ。
ユリアにジャガイモとニンジンを炒めて貰ってる間に、俺はサラにタマネギの炒め方を教える。
タマネギを切る時に涙が出て来るけど、別に毒じゃないから気にするなと伝えておいた。
まだサラの包丁さばきはおぼつかないので、タマネギをみじん切りにするのは俺の役目だ。
「で、これを色がつくまで炒める」
「はい」
フライパンでじゃっじゃっ、と炒めていると、いい感じに色がついてきた。
「こっちもいいわよ」
丁度良いタイミングでユリアがジャガイモとニンジンを持って来た。そのまま鍋にぶちこむ。
「肉も一緒に入れて暫く煮る」
「猪肉のカレーなんて贅沢ね。ん? どっちかと言えば質素なのかしら?」
まぁ、言ってみればタダだからな。
「そう言えば、ジャガイモは割と安かったけど、ニンジンとかタマネギってかなり高いよな? なんでかわかるか?」
「あれでしょ? 根野菜はモンスター化しやすいからでしょ? 食べられる野菜だっけ?」
「お前は何を言ってるんだ?」
「あれ? こっちの世界だと何て言うんだっけ? そうそう、イーティングイーター」
何故か英語になった。いや、これは言語チートによる謎翻訳の仕様だろう。
なるほど、『食べられる』は野菜を食べる事が可能、という意味じゃなくて、野菜に食われる可能性があるって意味か。
「地中には魔力が溜まってる事が多いからね、植物はモンスター化しやすいのよ。茎や葉が地上に出てる系のは多少マシね」
「じゃあ高いのって、モンスター化しなかった奴を使ってるから数が少ないせいか?」
「それもあるけど、倒すと魔石になるでしょ?」
ああ、そこまで言われれば『常識』にあったわ。イーティングイーターの魔石からは、元になった野菜が出て来るらしい。
ニンジンやタマネギは魔石一個につき一個だけど、ジャガイモは五~六個出るのか。普通に収穫するのと同じような出方をするんだな。
「数が少ないから高いし、数を揃えるにはイーティングイーターを倒さないといけないから危険。ジャガイモが若干安いのは個数が多いからよね」
イーティングイーターは戦士LV6相当の強さを持ってるからな。下手な冒険者じゃ返り討ちだ。
ちなみにマンドラゴラはそういう魔物が別に居る。
「はぁ~~~~…………」
灰汁をとりつつ煮込んでいると、良い匂いが漂って来た。さっきからサラの口は開きっぱなしだ。
「そしてここにカレー粉を投入」
壺から木匙でカレー粉を掬い、鍋に入れて行く。途端に漂い出す独特のスパイスの香り。
「ふわぁ……」
うっとりと目を閉じるサラ。
よし、異世界人でもこの匂いは食欲をそそられるのか。
「小麦粉を入れてとろみをつけて……」
「お餅やヨーグルトがあれば良かったんだけどね」
隠し味って奴だろうか。残念そうにユリアが呟く。
いい感じでとろみも出て来たので、ユリアに千切っておいて貰ったパンの上にかける。
「カレーパンならぬ、パンカレーの完成だ」
「安直……」
うるせぇ。いいんだよ、こういうのはシンプルで。
タクマの気まぐれ時空の使徒風カレーバケットとかつけろってか?
「「「いただきます」」」
そして三人で夕食を摂る。
木匙で掬って一口食べる。
うぅむ、カレー自体はまぁ、いい。ルーに慣れた身にはちょっとコクが足りないような気がするけど、まぁ、カレーだ。
けれどパンが微妙だな。やっぱり白パンでやれば良かったか?
「ふぅん、まぁまぁね。ちょっと猪肉のクセが強いかな?」
料理の勉強をしてる人間は感じる所が違う。
「おいひいでふ……」
はふはふしながら感想を言うサラ。あ、コイツにはちょっと辛いか。
「そう言えば林檎はあるのよね? 蜂蜜も今日持って来たから、少し入れれば良かったかな?」
そんなサラを見てユリアは何か思いついたようだった。
「でもおに時空の使徒じゃ味の調整とかできないか」
「まぁ、自信はないな。それは今後のサラの成長に期待しよう」
「が、がんばりまひゅ」
ユリアは一杯だけだったが、俺もサラもおかわりをした。
なんだかんだ言って、久しぶりのカレーにテンション上がってしまったんだ。
夕食後は片付けをして風呂に入る。
俺とサラが別々に入る事にユリアは驚いていた。
だからそういう目的で購入したんじゃねぇんだって。
風呂に入る準備をするサラをユリアはチラチラ見ていた。
なんとなく、一緒に入りたいんじゃないかと思ったけれど、サラが変な影響を受けても困るので黙っておいた。
言ってくれれば聞くくらいはしてやるんだけどな。
結局、サラ、ユリア、俺の順番で一人ずつ入った。
就寝も別の部屋だという事に、ユリアはやっぱり驚いていた。
そういやコイツ、一夫多妻制上等のハーレム持ちだった。一緒に住んでて、おまけに『隷属の首輪』で言う事聞かせられるのに、手を出さない俺を不思議に思っても仕方ないか。
俺はまだ日本の感覚が残ってるから、命令で無理矢理は勿論、12歳に手を出す気はおきないけれど、コイツはもう違うんだなー。
お兄ちゃん寂しいぜ。
「「「おやすみなさい」」」
それを思い出したら、コイツをサラと一緒に入浴させなくて正解だったな。
サラは別に俺のモノじゃないけど(ある意味奴隷だから俺のモノだけど)、妹にネトラレとか勘弁だわ。
という訳で渋るユリアを強引に空いている部屋に押し込んで、三人で別々に寝る事にした。
とうか、どうもユリアは俺と一緒に寝たかったようだ。
久しぶりに兄妹で、とか言ってたけれど、俺がお前と一緒に寝た最後の記憶って、お前が小学校入る前まで遡らなきゃいけないんだが?
一応今は謎の女性商人の姿をしているので、サラに変に誤解されても困るので、断固拒否しておいた。
なし崩し的にユリアが宿泊する事になったけれど、キングダムの政務の方は良いんだろうか?
他人事ながら、若干心配になった。
サラとの生活五日目。そしてチート転生妹三度登場。
投稿のし直しですが、特に編集などはされていません。