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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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第48話:サラとお勉強

サラとの生活三日目。今回は料理メインと勉強です。

その後、二体の山羊小鬼をサラに倒させたところでダンジョンから出る。

俺が操り人形状態でサラを手助けした一体目と違い、二体目、三体目はサラ単独で戦わせた。

俺は後方から指示を出していただけだ。勿論、危なくなったら魔法で援護したが。

LVが低い状態では、複数人で囲んで討伐までに数十分かかると言われる山羊小鬼。

高性能な武器を持っているとは言え、基本ステータスの低いサラでは、倒すのに苦労するのは当然だった。

一体倒すのに一時間以上かかっていたからな。


疲労困憊のサラを負ぶってガルツの外へ。

おんぶする事に関して、サラは非常に強く拒絶したんだけど、膝がガクガク、足がフラフラでは説得力が無かった。

HPと疲労度を回復させても見た目には変わらないところを見ると、精神的なものなんだろうか?

それとも、表面上だけ回復させても、根っこの部分に疲労が蓄積していたりするんだろうか?


ともかく俺はサラをおんぶしたまま『テレポート』で家へと帰る。

装備を外し、普段着に着替えてリビングに集合。

サラの感情の無い顔の中に、若干の疲労が見て取れる。やっぱり、ステータス上で回復しているだけなのかもしれないな。


「よし、すぐに夕食の準備を始めるぞ。今日の夕飯はアジフライだ!」


「あじ……ふらい?」


小首を傾げるサラの仕草は可愛らしい。計算でやっているなら大したものだ。

鯵自体はこの世界に存在しているけれど、海の魚なので今日使う魚は厳密には鯵じゃない。

白身魚のフライ、が今日の料理の正式名称になるんだろうけど、まぁ、こういうのはその場の勢いだ。


肉、野菜、と来たので今日は魚という訳。

ガルツだと身の少ない川魚くらいしか流通していないけれど、ルードルイならそれなりの種類が買えたからな。

徒歩で数日かかるとは言え、近くにルル湖という巨大な漁場がある訳だし。


そんな中で、『アナライズ』を使用し、最も性質、味的に鯵に近い魚を選んで買って来た。

『常識』は地域差にも対応してくれるので、ルードルイでなら魚の捌き方、特に、開きにする技術の知識も仕入れる事ができた。


あとは衣をつけて揚げるだけの状態で『マジックボックス』に保存してあったんだ。


油を暖めている間に、衣の準備をする。

例によって、サラにはパン粉作りを頼む。

俺は小麦粉と、卵黄を溶いて水で薄めたものを用意した。

開いた魚を卵黄にくぐらせ、小麦をつける。

サラが準備したパン粉をつけて、いざ油へ投入。


「あちち」


じゅじゅー、と油がはねる音と共に、その飛沫が俺に飛んで来る。

肌を露出させている部分は仕方ないけど、服を防御するためにエプロンが欲しいな。


醤油もソースも無いのでフライはそのまま食べる事になる。

タルタルソースの作り方とか知らないからなぁ。そのうち妹に聞こう。

あいつなら醤油とか造ってそうだな。


とりあえず二枚ずつ作ってみた。

塩を振って皿に盛り付け、おあがりよ。


「「いただきます」」


アジフライにフォークを突き刺し口に運ぶ。

うん、やっぱり箸が欲しいな。

齧るとサクリ、という音がした。ついで、柔らかな白身の感触が歯を通して伝わる。

うん、いいじゃないか。


魚の味の違いなんてよくわからないけれど、香ばしい衣はサクサクで、中までしっかり火が通った白身は口の中でほどけるように柔らかい。


アジフライのできに自画自賛していると、目の前からサクサクサクサク、という物凄い音が聞こえて来る。

ちらりと見ると、サラが一心不乱にアジフライに齧りついていた。

一口が小さいので、なんかリスがクルミ齧ってるみたいだな。


「尾ひれは食べても残してもどっちでもいいぞ」


俺がそう言うと、一瞬サラの動きが止まった。しかしすぐに食事を再開し、尾ひれの部分まで食べ切ってしまった。

すぐに二枚目にフォークを突き刺す。


うん、気に入って貰えたみたいで何よりだ。

野草のスープもちゃんと食べろよ。


さて、夕食と片づけを済ませたら、風呂に入る前にやっておく事がある。

竈の傍に置いておいた、林檎と水の入った瓶。

今までは『アナライズ』で『林檎入り水』と表示されていたんだけれど、今朝見たら『林檎のパン種』に変わっていた。

これを手に持った状態で『錬成』を使おうとすると、『天然パン酵母』が浮かんで来る。

『錬成』すると水だけが瓶の中に残った。

肉眼では見えないけれど、『アナライズ』で見ると、『天然パン酵母』と表示された。


「という訳でパンを作る準備をする。これには時間がかかるから、今のうちに少しだけ作業を進めておく。風呂から上がったら残りを仕上げる」


「パン、ですか?」


「ああ。硬い黒パンとは違い、柔らかでしっとりとしていてもちもちのパンが出来上がるぞ」


多分。

二十一世紀の日本は野菜に限らず、色んなものが品種改良されている筈だから、パンだって原始的なやり方で本当に日本のパンのようなものができるとは限らないからな。

いや、できない可能性の方が高い筈だ。

それでも、この世界の黒パンしか知らないサラなら、十分柔らかでしっとりとしてもちもちだと感じられる筈だ。


サラの顔は無表情のままだ。多分、ぴんときてないんだろうな。


「まずは小麦粉と塩、砂糖、水を入れて、これにパン種を加えて混ぜる」


酵母と言ってもわからないだろうから、この世界で一般的に使われているパン種で通す事にする。

錬金術師アルケミスト』はもっと生活用品や食材に目を向けるべきだと思う。


「固まるまで混ぜる」


一部をサラに渡して作業を指示する。『天然パン酵母』は一部を残してあるのでこれからも培養していく。

確認は俺が行わなければならないけれど、これで『錬成』を使わずとも酵母をパン作りに利用する事ができるようになるからな。

サラ一人でもパンを作れるようになって貰わないと。


「固まりになったら植物油を加えてこねる。生地の端を持って叩きつけるように、しっかりと力を入れてな」


ぱちん、ぱちん、と陶器にパン生地が叩きつけられる音が響く。


「生地が大きく伸びるようになったら一時中断。このまま暫く置いておく」


所謂一次発酵だ。


「この間に風呂に入ろう」


俺の言葉に肩を震わせるサラ。ふむ、まだ慣れないか。

当然だろうな。慣れる訳が無い。


「あの、一人で入れます……」


こちらから目を逸らし、サラは小さな声でそう言った。

これまでも割と自己主張をして来たけれど、奴隷っぽい行為を明確に拒否したのは初めてじゃないか?


お兄さんちょっと嬉しくなっちゃったよ。

反抗も、ある意味心を許してる証拠だからな。


「よし。じゃあ一人で入れるかどうか見てやろう」


「え?」


「それで大丈夫そうなら明日からは一人だ」


「…………」


「嫌なら明日からも毎日一緒な」


「入ります」


ちょっと意地悪かな? とも思ったけれど、まぁいいじゃないか。


一人でちゃんと入れるか見る、という建前なので、俺は風呂に入らず(風呂場には入ったけれど)、サラの入浴をじっと見ていた。

俺にガン見されているのが恥ずかしかったのか、サラは終始居心地悪そうにしていた。

ふむ、しかしこの三日で随分と栄養状況は良くなったんじゃないか?


枯れ枝のようだった手足、骨盤の形がはっきりとわかった腰、あばらの浮いた体。

まだ細いとは思うけれど、若干肉がついてきている。

女子の成長は早いとは言え、まだ12歳。しかもこの世界は数え年なので実質11歳だ。

これからしっかりと食べれば、いい感じで成長するんじゃないか?

いや、別に大きいのが良いって訳じゃないよ? やっぱりそれなりの肉付きをしてないと可哀想に見えちゃうからな。

ちなみに、ステータスはその人物の世界基準で表示されているので、俺の年齢は満年齢だけど、この世界の人間は数え歳で表示される。

つまり俺の年齢が数え歳で表示されたら、29歳(肉体年齢19歳)と表示されるようになる。


泡を洗い流すと、『ライトボール』の光に照らされ、輝きを放つ銀髪が姿を現す。まだ若干くすんでいるようだけど、出会った頃の灰色に比べれば雲泥の差だ。


サラが湯船に浸かったところで、俺も体を洗い始める。


「百まで数えたら出ていいぞ。それができたら明日からは一人で入ってよし」


「は、はい!」


嬉しそうに返事をするサラ。ここでやっぱり駄目、とか言っても面白いと思ったけれど、まぁ、やめておこう。

俺の目的はサラに奴隷っぽい事をさせる訳じゃないからな。ちゃんと懐いて貰わないと困る。


けどサラって数かぞえられるのか?

識字率が非常に低い時代や国だとそういう事もあるみたいだし。


そういや、サラが読み書き計算どれだけできるのか聞いてないな。

来週からはそういう勉強も開始する予定だから、先にどれくらいできるのか聞いておかないとな。


俺が頭と体を洗い終える頃、サラは百まで数えて湯船から上がる。

どうやら数をかぞえるくらいは問題無いようだ。千以降はどうか知らないけれど。


風呂から上がるとサラが陶器をじっと見ていた。

その中にはさっきこねて置いたパンの生地が入っている。


「お、できてるな」


風呂に入る前の二倍くらいに膨らんでいる。これなら十分だろう。


「次に手頃なサイズに切り取って、形を整える」


言いながら俺は生地をちぎりとり、両手の中で転がすようにして形を整えていく。


「あとは並べて二次発酵」


発酵の意味がわかったかどうかはともかく、俺が鉄板の上にパン生地を並べると、サラもそれに合わせて並べ始める。

両手で包めるくらいの大きさの記事が二十個できた。これなら暫く持つだろうな。


「今日のところはお終いだ。さて、休むとしようか」


「はい」


風の魔法でサラの髪を乾かしてやり、歯磨きをして寝た。

あ、勿論別の部屋でだよ。



翌朝は八時過ぎに目が覚めた。

徐々に生活リズムが戻って来ているようだ。

元々ヒキニートでほぼ昼夜逆転生活だったので、戻る、というのとは少し違うか。


昨日台所に放置しておいたパンは鉄板いっぱいに膨らんでいた。

石窯に火を点け、暫く待って鉄板を中に入れる。


これがうまくいけばピザとかも作れるようになるかな?

ふふ、夢が膨らむな。

ピザとスナック菓子とコーラはニートの三大必需品だからな。

けどスナック菓子はともかくコーラってどうやって造るんだろう?


今度妹に相談してみるか。


ちなみにサラはまだ起こさない。パンを焼くのは俺がやろうと思っている。勿論、サラができるようになったら任せてもいいけれど、今のところは難しいだろう。


どのくらいの熱でどのくらい焼けばいいのかわかってないからな。

じゃあ俺はどうするのかって言うと、『アナライズ』の出番だ。

石窯の中のパン生地に向けて『アナライズ』を使う。今は『パン生地』だけど、暫く眺めていると『パン』に変化するのだ。


という訳で『パン』に変化した段階で石窯から取り出す。

うん、焼き立てパンのいい匂いだ。きちんと焼き色がついた巨大なパンが焼きあがった。

あとはこれを適当に切り分けるだけ。ジャムや蜂蜜が無いので今日のところはマルガリンで食べよう。


残りは『マジックボックス』に入れておけば、腐らないし焼き立てのまま保存ができる。

大丈夫とわかっていても、ちょっと『マジックボックス』に料理をそのまま入れるのは抵抗があるな。

動物の死体や密閉された壺とかなら平気なんだけど。


パンの準備ができた段階でサラを起こす。

ノックと同時に扉が勢い良く開かれた。

どうやらじっと待機していたらしい。

扉を閉めていても密封性なんてほぼ無いからな。匂いで目が覚めたんだろう。


「起きたんなら先に出て来てもいいんだぞ?」


俺がそう言うと、サラは頬を赤く染めて俯いてしまった。


後ろをついてくるサラの足音がぎこちない。

振り向くと、ひょこひょことした歩き方になっていた。


「どうした?」


「なんだか、太ももが痛くて……」


ああ、筋肉痛か。

考えて見れば、生まれてからずっと奴隷として過ごして来たサラは、そんな経験が無かったのかもしれない。

寝て起きたら突然体が痛いんだから、かなりびっくりしたんじゃないか?


「ひょっとして、二の腕や腹にも痛みが無いか?」


「はい、少し……」


「それはお前が成長している証だ」


筋肉痛なんて言ってもわからないだろうからな。超回復なんて余計知らないだろうし。


「今日一日休めばその痛みは取れる。今日のダンジョン探索は休みにしよう」


「すみません」


「いいさ。その方がお前が強くなれるんだから」


詳しいメカニズムは省くけれど、筋肉痛の間にトレーニングをしても良い結果は得られない。

勉強は来週からにしようと思っていたけど、これはスケジュールの組み直しだな。


「これが、パンですか……!?」


リビングに辿りつき、テーブルの上に並べられたパンを見て、サラは驚いている。

同時にその目は輝いていた。

パンと言えば硬い黒パンくらいしか無いこの世界だ。イースト菌を用いたふっくらパンは未知の食べ物だろう。


「こうやってちぎって、断面にマルガリンを塗って食べる」


木ヘラでマルガリンを塗ると、熱であっさりと溶ける。そして漂って来る、パンとマーガリンの混ざった良い匂い。

一口齧る。

表面はサクサク、中はしっとりとした、良い塩梅のパンができあがっていた。

若干の甘味があるな。砂糖を入れ過ぎたか? いや、これは砂糖の甘味というより、野菜とかのそれに近いな。

小麦粉か?


昨夜のアジフライ同様、サラは物凄い勢いでパンにかぶりついていた。


「ちゃんとスープと青汁も飲むんだぞ?」


一瞬動きが止まる。本当、素直だよな。


朝食を終えたら片付けと洗濯。今日の掃除場所は一階の個室だ。

約3メートル×約4メートルの部屋が七つもあるので大変そうだ。

とは言え使っているのは二つだけ。残りの部屋は簡単に済ませていいだろう。


回復魔法と補助魔法でサポートしつつ、何とか午前中に掃除を終わらせる。

ガルツへ行って昼食を食べた後、黒板とチョーク、それから魔法の教本を買って家に戻る。


古代中国で既に実用化されていただけあり、黒板とチョークはこの世界でも普通に存在している。

とは言え、基本は貴族や各ギルドの学院に卸されているものだけなので、個人用のものは高い。

A4サイズくらいのもので100デューするんだからな。

チョークも一本10デューだ。

素材を知っている身としては非常に高く感じられる。

次は『錬成』で造ってしまおう。


「文字の読み書きはできるか?」


「……いいえ」


しょんぼりするサラ。

まぁ、それは仕方ない。識字率が30%を切るこの世界じゃな。


「大丈夫だ。じゃあそこから始めよう」


という訳でお勉強の時間だ。

俺には言語チートがあるので、この世界、この国の文字も問題無く教えられる。

とは言え単語が教えられないんだよな。文字単位なら『あ』は『あ』だから、自動翻訳されても問題無いんだけど、『雨』は『雨』として俺の意識に入って来るから、この国で『雨』をなんて言うかがわからないんだよ。

まぁ、それは文字の並びからある程度推測するしかない。

英語でスペルをローマ字読みして、変な覚え方をするような形になっちゃうだろうけど。


あ、でも俺が『雨』と言えば、この国の『雨』に自動翻訳されるんだから、単語を指差して『雨』って言えばいいのか。

問題は書く方だな。これは文字列を覚えるしかない。

サラと一緒に俺も書き取りの勉強をしないとな。


一時間勉強し、十分休憩。再び一時間勉強する。

更に十分休憩して、次の一時間は計算の勉強に当てる。


簡単な四則演算だ。とは言え今日は一桁の足し算引き算だけ。

明日は繰り上げが入る計算をやらせてみて、無理そうなら今日の復習をしよう。

さて、掛け算割り算はいつになるかな?


日が暮れて来たので勉強を切り上げて夕食の準備を始める。

今日は鳥のカツレツだ。

衣をつけて、揚げるんじゃなくて焼く。

本当は唐揚げにしようと思ってたんだけど、醤油が無い状態じゃ味付けができないからな。

今度大豆を買って来て『錬成』してみよう。

ひょっとしたら味噌とか納豆とかも造れるかもしれない。


カツレツもサラに好評だった。ナイフとフォークの使い方も随分上手になっている。

学習能力が高いのか、それとも、この国のこの年齢の少女としては普通なのか。

他の例を知らないから判断できないな。


片付けを終えて、昨日の約束通りにサラを一人で風呂に入らせる。

ちなみに、風呂掃除は俺が毎日朝にやっている。

サラに余裕ができればやらせるつもりだけど、まぁ、まだ先だろうな。


「お休み」


「おやすみなさい」


髪を乾かし歯磨きを終えて、俺とサラはそれぞれ眠りについた。


【悲報】サラ一人で入浴するようになる

章タイトルからわかるかもしれませんが、そのうちまた一緒に入るようになりますけどねw

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