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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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第45話:サラとの生活。初日

ついに購入した奴隷。

その奴隷、サラとの生活初日です。

適当な食堂に入って食事にする。

サラは最初、座った俺のナナメ後ろに立ったが、座れと言ったら素直に従ってくれた。

いや、床じゃなくて椅子な。


すり潰した肉を入れたスープがあるのでそれを注文する。注文したスープは最初俺の前に置かれたので、俺はそれをサラの前に置いてやった。

驚いたような表情を浮かべて、いや、実際驚いたんだろう。

奴隷が主人と同じテーブルに着く事がまずあれだけど、その上で先に食えって示したんだからな。


「よく噛んで食え」


ガッツキ防止のために命令にする。

サラは俺の命令通り、木匙でスープを具ごと掬って口に入れ、そしてよく噛んでから飲み込んだ。



状態:疲労(重度)空腹(中度)



食い終わると、飢餓が消えて空腹になった。

疲労が悪化している。ここまで歩いたからか? 体力無いからなー。


すぐに野鳥のソテーと蒸しジャガイモのセットを注文する。これは二人分。

黒パンは硬いので注文しなかった。


「よく噛んで食え。ただし無理はするな。入らなければ残しても構わん」


料理が運ばれて来たので俺はサラにそう伝えてから、自分も食事を始める。

残しても良いとは言ったが、サラは全部食べ切った。ただ、かなり苦しそうだ。

とは言え、残せって命令する訳にもいかないからなぁ。


「これも飲んでおけ」


言って俺は元気ドリンクを取り出し、サラに渡す。

元気ドリンクだと疲労が一段階回復するだけだけど、強壮剤やデリホルを飲ませると色々まずそうだからな。

興奮とか、絶倫とか。


サラのお腹が落ち着くのを待ってから店を出る。

そのまま人気が無い所までサラを連れて行く。

繋いだ手から彼女の緊張が伝わって来た。

いや、しないからな。性的なアレコレは。するにしても最初はちゃんとシたいよ。


周囲を見回し、『サーチ』と『マップ』を使用して、誰にも見られていない事を確認して、俺はルードルイへと『テレポート』した。


突然変わった景色に、サラが目を白黒させている。

『テレポート』はある程度の人数を同行させられる。セニアの場合は見られると色々マズイと思ったから使わなかったけれど、サラなら問題無いだろう。

他言無用の契約を結んでる訳だし。


「あ、あの……」


街道から外れた草原だったのも混乱の原因だろうな。


「理解しろとは言わない。そういうもんだと思っておけ。ここはルードルイの外れの草原だ」


「え? え?」


とりあえず『サニテイ』をかけて無理矢理落ち着かせる。

そのままサラを連れてルードルイへ。そしてルードルイの中の、ある場所へと向かう。

勿体つける必要は無い。テテスの工房だ。




「ほう……」


テテスの工房に着いた俺は、思わず感嘆の呟きを漏らした。

人が多い。

従業員を雇ったのもそうだけど、客らしき人物もちらほら居る。


「いらっしゃいませ。テテスの工房へようこそ。オーダーメイドは只今六人待ちですが、既存の商品でしたらすぐにお買い求めいただけますよ」


俺達に気付いた従業員の女性が声を掛けて来た。

ていうか『アナライズ』で見たら商業ギルドの職員じゃねーか。

まぁ、あのテテスが積極的に従業員を雇うってのは確かに考えられないからな。雇うにしても職人になるだろうし。


職人はテテスを含めて三人か。

二人とも鍛冶ギルドの出向組みたいだな。


「できれば依頼したかったんだが、盛況ならそれに水を差す事も無いかな。既存の商品を見せてくれるか?」


「おや? どなたかのお知り合いですか?」


「テテスとレバンノさんとエレディオさんとメルダオさんとディントゥスユーグルさんの知り合いだ」


「え……?」


女性従業員はその言葉に固まってしまった。

しまった。ちょっと目立ちたくてやってしまったんじゃないか? これは……。


「も、もしや工房長の才能を見出した慧眼の持ち主、時空の神の使徒様では……!?」


あ、そういう風に伝わってんのね。

まぁあながち間違いじゃない。『アナライズ』がなきゃ見向きもしなかっただろうからな。


「ああ、多分な」


そう言って俺は時計を掲げて見せた。


「と、時の旗印!? し、失礼いたしました! 貴方様が来店された折は、全ての予定より優先するよう言われております」


「誰から?」


テテスからなら一発殴って、そういう依怙贔屓をするなと伝えてやらないとな。


「レバンノ様とエレディオさんとメルダオ様とデイントゥスユーグル様からです」


「…………」


あの爺さん達は、もう……。


「そういう事なら割り込ませてもらおう」


「は、はい。ご案内させていただきます!」


本当は文句の一つも言いたいところだけど、あの三人が考えなしにそんな事を指示する筈がない。例え大した理由が無かったとしても、俺が割り込みをしても俺は勿論、テテスに悪評がいかないようにしてあるだろう。


「よう、久しぶりだな」


「ああ、君か。久しぶりだね」


従業員に案内されてテテスの元へと赴き挨拶をすると、彼も顔を上げて俺に挨拶を返した。

うん、笑顔に前みたいな陰が無くなってるな。

毎日が充実してる証拠だろう。良い事だ。


「悪いな、割り込んでしまって」


「いや、いいよ。君が居なければ、俺は未だに大通りで売れない商品を並べて座っていただけだっただろうし、その前に野垂れ死んでいたかもしれないからね」


自虐的な自己分析だけど、多分その通りだろうからなぁ。


「この工房を守る事もできたし、それで? 今日は何の用だい?」


「ああ。防具を作って欲しいんだよ。俺と、この娘の」


「おや? この間の子とは違うね。それに……ふぅん、奴隷か……」


「まぁ、色々あってな。俺はこれ(・・)の代わりになるような軽装の鎧が欲しい」


言って、革の服の襟を引っ張って見せる。


「この娘は、サラって言うんだが、サラは、そうだな。まぁ、こっちも軽装だな。機動力よりは防御力を重視して欲しいけど、何分非力だから」


「ふぅん、使い捨ての囮って訳じゃないんだな」


「まぁな」


怒るところかもしれないけど、一般人の奴隷に対する認識なんてこんなもんだ。合法だから特に差別的になるような事はないけど、だからと言ってまともな一人の人間として扱う者は少ない。


「遠距離攻撃はちょっと難しそうだから、まぁ、槍かな? 盾も扱えないだろうから。それに合わせた防具が欲しい」


「槍か。となると、両脇の可動域は可能な限り広げた方がいいね」


俺の要求にすぐにテテスは応えてくれる。この辺りは流石だよな。

サラに弓を使わせるとなってもボウガンがせいぜいだろうな。力が無いと大きな弓は扱えないし、ショートボウだと今度は攻撃力が足りない。


「君の鎧に関しては丁度良いものがある。冒険者ギルドから渡された素材で作ってみた奴なんだけど、実際に着た感想が欲しかったんだ」


「へぇ」


「そっちの子は、そうだね。体が小さいから前に造った事のある防具でも改めて作り直さないといけないだろうね。むしろ、その分色々試せそうだ」


「ある程度は効果が見込めるものにしてくれよ」


「ふぅん。自分の装備よりそっちの子の装備の方が大事みたいに聞こえるね」


「実際そう言ってるんだよ。俺は最悪なんとでもなるけど、こいつはマジで普通の少女だから」


「まぁ、奴隷も高い買い物だしね。消耗品としては使えないか」


うん、そういう事にしておこう。世の人々の多くが奴隷を大事にする理由って大部分がそれだし。

車をぞんざいに扱う人間は少ないだろう?


「まず君の方だね。これなんかどうだい?」


そう言ってテテスが取り出したのは、毛皮のジャケットだった。


「これからの季節は暑そうだな……」


「まぁ、そういう事もあるかもね」


あ、やっぱり暑いんだ。


「これはハーピーの毛皮を使ったジャケットなんだけどね」


マジで毛皮のジャケットじゃんか。

うん? ハーピーって羽は以前セニアがエルフから貰った風の外套の素材になるらしいけど、毛皮は本当に毛皮としての使い方しかないぞ?

勿論、ハーピーはファンタジー小説やゲームなんかで有名なあのハーピーな。

人の上半身に鳥の下半身。両腕が羽になってる割とガチの奴だ。

昨今の萌えキャラっぽい感じの奴じゃなくて、もっとリアルな感じの……。

西洋のマーメイドに対する日本の人魚みたいなもんだ。


「昔は防寒具として使うしかなかったんだけど、俺のやり方なら立派に魔法の防具になるのさ」


ドヤ顔するテテス。前よりは、自分の造ったものの価値がわかってるみたいだな。



テテスの人鳥魔獣の毛皮のジャケット:[分類]防具

                  [種類]服

                  [耐性]斬〇突△打〇火△熱×氷〇水〇風◎土〇石△雷〇光△闇△

                  物理防御力24

                  魔法防御力8

                  重量3

                  [固有性能]なし



『の』多いな。

ブロードソード止めるのか……。

そして相変わらず耐性優秀だな。やっぱり熱には弱いみたいだけど。

この見た目でブーツより軽いのか。素材の問題かな?


「まぁ、暑いからって薄着でダンジョン潜る訳にはいかないからなぁ。その辺は気にしなくていいか」


一人のままなら、確実に夏は休みだったな。

あ、奴隷、それからでも良かったんじゃ……。


いやいや、こういうのは思い立ったが吉日だから。


「うん。これくれ。幾らだ?」


「え? 試作品みたいなもんだし、タダでいいよ」


「そういうのは良くないっつったろ?」


「君だってブーツをギルドに二束三文の値段で売ろうとしてたじゃないか」


「俺は商売人じゃないからいいんだよ」


ついでに言えば200デューは二束三文じゃねぇよ。


「それなら俺だって職人だ」


「じゃあ商売人に聞いてみよう」


「え?」


そして俺はここまで案内してくれた従業員さんを呼ぶ。


「これ買いたいんだけど、いくらくらいなら売ってくれる?」


「タダでいいですよ」


従業員さんの言葉にドヤ顔するテテス。


「宣伝してくれるなら、ですけど」


「ほら、これが商売人ってもんだ」


今度は俺がドヤ顔する番だった。


「聞かれたら答えるけれど、基本人を避けてダンジョンを攻略する予定だと?」


俺は従業員さんに向き直って聞き直した。


「ハーピー自体が中々狩れない魔物ですからねぇ……。600ってところでしょうか」


ふむ、微妙にブーツより高いのは、やっぱり面積の問題だろうか?

ちなみに出現頻度自体はセアカドクグモとそれほど大差無いけど、やっぱり飛ぶ相手ってのは戦いにくいらしい。

ハーピー自体もモンスターじゃなくて魔物なせいか、ヒトを積極的に襲うような好戦的な性格じゃないしな。


「じゃあ半金貨1枚と銀貨10枚な」


「はい。確かに」


従業員さんは俺から代金を受け取った後、何やらメモを取り出し記入し始める。


「テテスのハーピーの毛皮のジャケット、販売額600デュー、と」


どうやら今後の参考にするようだ。てか名前そのまんまだな。


「で、こいつの分だけど……?」


「うーん、あんまり重いと装備できなさそうだよな……。かと言って、前衛に立つんならそれなりの装備が必要だろうし……」


「ああ、成長したらまた買い直すから、そこまで気にしなくていいぞ。布の服と革の鎧より強ければ、別に」


「そう? あー、じゃあハーピーでも狩って来て貰おうかな?」


「ハーピーを? これ結構重いぞ?」


単純に、合計重量が筋力を超えると装備できても動きにくくなるからな。疲労もしやすくなるし。

布の服が重量1。ハーピーの毛皮のジャケットが重量3。これで靴やグローブ足したら、槍持てないんじゃないか?


「使うのは羽の方さ。ついでに毛皮も採って来て貰えると有り難い」


テテスはちらり、と従業員さんを見た。

どうやら、試作品を作った後、それを大量生産させられるのはお約束の流れらしい。

素材が必要だからそうそう簡単にはできないだろうからな。こういう時についでで発注しておけ、とでも言われてるんだろう。

それとも叱られたか?


ははーん。ひょっとしてそういう関係ですか?

それとも、そういう関係にはなってないけど、互いが気になっちゃうアレですか?


「わかった。まぁ、コイツ連れてハーピーが居るような所に行くのもアレだから、暫くあとだな」


「悪いね」


「今ある素材とかで造れるものって無いのか?」


「それこそ、灰色狼の毛皮があるけど?」


また毛皮か。うん? 毛皮?

灰色狼の毛皮って、皮を剥ぐとボロボロと抜け落ちるから、存在しないんじゃなかったか?

基本、毛玉として使う事になるらしいけど?


「毛が抜けないように皮を剥いで鞣す方法があるのさ」


「ほほぅ」


「製作過程で魔法の道具とかを錬成するせいで、若干重くなっちゃう灰色狼革の服と違って、こっちはそれほど重くないよ。布の服以上革の服未満ってところかな」


それは凄いな。


「ただ、性能的には灰色狼革の服に劣っちゃうから、あんまり人気無いんだけどね」


あ、やっぱりそういうのもあるのな。テテスの技術で造ったものが、全部既存のものより性能良いって訳じゃないわな、そりゃ。

それでも今は軽量な事が重要だ。


「布の服や革の鎧よりは性能良いんだろ?」


「そりゃ勿論」


「じゃあそれで、上着とズボンと靴って作れるか?」


「できるよ。全部合わせて二日くらいかな?」


相変わらず早い仕事だぜ。


「じゃあ二日後にまた取りに来るよ。ダンジョンに行くのはそれからだな」


そこで俺はサラに向き直るが、サラはこちらを見たまま無反応だった。

いや、これ俺を見てないだろ? かと言って、どこを見てるって訳でもないな。


うん、これはなんとかしないといけないな。

いちいち答えろ、って命令する訳にもいかないし。

ていうか、さっきそれ注意したばっかじゃん。


俺はサラを連れて工房を後にする。

再び人気の無い所へ行き、『テレポート』。


飛んだ先は俺の家だ。


「ここが俺の家だ」


「…………」


サラはぽかんと口を開けたまま、周囲を見回している。

『テレポート』に慣れていないのか、それとも家に驚いてるのか。


「暫くは俺が仕事をして見せるから、お前はそれを見て覚えろ」


「え……?」


その反応はなんだ? 勿論、仕事をしなきゃいけないと思ってなかったなんて事はないだろう。

てことは、教えて貰えると思ってなかったんだろうな。


奴隷の心得持っててこれだもんな。イメージよりは扱いが良いとは言え、やっぱ奴隷は奴隷って事ね。


ウチでは違うって事をちゃんと教えてやらないとな。


「今日はもう遅いから掃除は明日やるとして、まずは夕食の準備だな。これから一週間、俺が料理を教えるから、お前はその作り方を覚えろ。来週はお前が実際に作る。けど安心しろ、俺がちゃんと教えてやるから。次の一週間は、俺の助言無しで作ってみろ」


「え……? そんな、いいんですか? お手を煩わせて……」


「変なもん作られるよりよっぽどいい」


「わかり、ました……」


どうにも口調が暗い。抑揚も無いし。

ふふふ、しかしこれには耐えられまい。


諦観してるように見えてもまだまだ子供。美味しい物の前には膝を屈せざるを得ないだろう。

しかも飢餓状態に陥る程食事情が悪かったんだ。


「ここが台所だ。基本は俺が魔法で火を点ける。第一階位の魔法くらいは覚えて貰うからな」


「……はい」


まぁ、全部覚えなくてもいいだろう。必要なものを必要な時に覚えさせていこう。

泥縄的だけど、まぁ、しょうがない。


俺は適当に薪をくべると、そこに『ファイアショット』で火を点ける。

火を点けるだけなら『イグニッション』でもいいんだけど、まぁ、こっちの方が効率が良い。


『イグニッション』も『ファイアショット』と同じ、自然魔法の第一階位だ。

じゃあ何が違うかと言えば、『ファイアショット』は攻撃魔法で『イグニッション』は生活魔法だって違いがある。


世界魔法や自然魔法などの分類の他に、攻撃魔法、補助魔法、回復魔法、生活魔法とカテゴリーが分かれている。

世界魔法が大分類とすれば、生活魔法は小分類だろうか。

いや、魔法を大分類として、世界魔法を中分類とした方が良いか?

まぁ、ともかく。


『ファイアショット』の方が威力が大きいが、その分MP消費が多い。

『イグニッション』は生活魔法だけあり、同じ第一階位でも『ファイアショット』より習得が容易だ。


これは同じ水を創る魔法である、『ウィーターボール』と『クリエイトウォーター』でも同じ事が言えるな。


後は、攻撃魔法や補助魔法は術者の魔力に依存して威力や効果が増減するけど、生活魔法は魔力に依らずに効果が一定って違いがあるな。


俺はまな板の上に鹿肉を置き、包丁代わりの解体用ナイフで刻み始める。

サラが、コイツは何をしてるんだろう? って目でこっちを見ている。

うん、肉を刻むって調理方法、この世界に無いもんね。少なくとも『常識』には無かった。


「あ、これ細かくちぎって、そっちの陶器に入れておいてくれ」


俺は肉を刻みながら、サラに黒パンを渡した。

正直、俺はもうこれを食用とは見ていない。

いや、食用ではあるんだろうけど、そのまま食べる気は無かった。

だって硬ぇんだもん。マズイし。


ただまぁ、折角量は用意できるんで、有効に活用しようとは思った。

パン粉にするんだ。


サラが言われた通りに黒パンをちぎり始めたので、こちらも次の工程に進む。

以前エレニア大森林で採取したニンジン(らしきもの)と玉ねぎ(みたいなもの)をみじん切りにする。


実家でヒキニートをしていたとは言え、このくらいの料理はできるさ。

何せ中学卒業までの俺の成績は常にオール5だ。

当然、その中には家庭科も入っている。


作っているのは子供なら皆好きだろうって事でハンバーグ。

勿論、肉を刻む常識が無い世界に、ハンバーグが存在する筈がない。


更に塩胡椒で味付けするんだ。

この濃厚な旨味に慄くが良い。


「お、いい感じだな」


ニンジンと玉ねぎをみじん切りにしていると、サラが黒パンをちぎり終わったようで俺に見せて来た。

流石にこの手で撫でる訳にはいかないので、表情筋を総動員して笑顔を作って見せる。


うん、無反応。


「まず玉ねぎを炒める。透明になるくらいな」


ちなみに、炒めるって調理法も『常識』には無かった。

まぁ、やって見せればどういう意味かはわかって貰えるだろう。


マルガリンで油をひき、フライパンで玉ねぎを炒める。

いい感じの所でニンジンも投入。

程好く炒めたら火からフライパンをどかし、油を切って肉の入った陶器に玉ねぎとニンジンを入れる。


「じゃあこの中にパン粉を全部入れてくれ」


ちなみにパン粉も存在しない。でもまぁ、ニュアンスで通じるだろう。


「……全部?」


通じたらしいが、サラの瞳が不安に揺れている。


「全部だ」


どうも未知の料理なせいか、サラが怖がっているようだ。


「細かく刻んだ肉とニンジンと玉ねぎに塩胡椒をまぶして、パン粉を入れてひたすらこねる」


そう言えば、作り方を教えるんだった、と思い出してサラに説明する。

陶器って結構ザラつくな。味に影響しないよな? 大丈夫だよな?


卵や牛乳を入れてつなぎにする場合もあるらしいけど、今回はシンプルにいこう。

牛乳は存在しているけど高価だ。『錬成』できない以上、俺だってつなぎに使うなんて贅沢な事はできない。


卵は……。

この衛生観念なんてものが存在しない世界で、生卵とか自殺だろ。


「いい感じに混ぜ合わさったところでこのくらい切り取って形を整えるんだ」


手の平に乗るくらいの量を取り出し、俺は両手で肉をキャッチボールするように投げる。


「こうすると空気が抜けて美味くなるぞ」


本当は形が崩れにくくなるだけらしいけど、まぁ、ここはそう言っておこう。

料理の見た目を気にするのって王侯貴族相手の料理くらいだからな。

わかりやすいメリットを提示して、必要な手順だと教え込むんだ。


「形が整ったら、中央を少しくぼませて焼く」


油を引き直したフライパンに二枚のハンバーグのタネを置く。

置いた直後から、じゅわーっといい感じの音がキッチンに響いた。


うん。美味そうな音だ。

サラもそう感じたらしく、目に見えてそわそわしている。

無表情のままなのが、余計に微笑ましい。


フライパン用の蓋なんて無いから、いい匂いがダイレクトに伝わって来る。

サラを見ると、鼻をひくひくさせていた。心なしか、うっとりした表情になっている。


「暫くしたらひっくり返す」


木ヘラを差し込みひっくり返す。テフロン加工なんてされてないからな。底にひっつかないように細心の注意を払わないと。


「また暫く焼いたら串を刺してみて、いい具合に肉汁が出てきたら完成だ。焼き過ぎるとこの肉汁が無くなってしまうし、焼く時間が短いと半生で腹壊すかもしれないから気を付けろよ。どっちかって言ったら焼き過ぎた方が良いな。主に安全面で」


無言で頷くサラ。しかしその目はハンバーグに釘付けだ。

やっぱり子供を手懐けるには美味い飯だな。


「慣れてきたらスープや付け合わせのポテトを作ったりすればいいけど、まぁ、今日は初日だからな」


まずはハンバーグをきちんと作れるようになって貰おう。


「肉はまだあるから、足りなければまた焼けばいい。とりあえず、できた分を食ってしまおう」


言って俺は更にハンバーグを乗せ、リビングのテーブルへと運ぶ。


ナイフとフォーク。それと水の入ったコップを置いて席に着く。


「座りなさい」


サラが立ったままだったのでそう命じた。


「地べたじゃなくて椅子な」


「……はい」


それもさっき注意したじゃん。

うぅむ。恐るべし、奴隷の心得。


「まずは両手を合わせて」


俺の動きをサラが真似る。


「復唱、いただきます」


「い、いただきます」


「よし、食べていいぞ」


俺が許可を出すと、サラはフォークを手に取りハンバーグに突き刺した。

てか、逆手か。ワイルドだな……。


そのまま肉を持ち上げかぶりつく。


「はふ、は、はふ」


どうも熱いようだ。それでも一口分噛み切り口に入れ、熱さと戦いかながら咀嚼する。


「はふ、はふ、ん、んぐ」


ごくりと飲み込みそして……。


「……美味しい」


ぽつりと呟いた。心の中でガッツポーズする俺。

さて、俺も食べるか。


ナイフで切り取ってフォークで口に運ぶ。

うん? サラが俺をじっと見てるぞ。


慌ててサラはフォークを左手に持ち替え、右手にナイフを持つ。


ああ、使い方がわかってなかったのか。

それで俺が使ってるのを見て、それに気付いたと。


そういや、これまでもナイフを使って食事してるヒト見た事ないな。

一応『常識』にはあった。ただし、上流階級の作法として、だけどな。


まぁいいか。家の中だけの作法だと教えておけばいい。


うん、まぁまぁだな。

鹿肉百パーセントだから合挽肉のような深みが無いし、つなぎをケチったせいで肉が玉ねぎやニンジンの部分ですぐに崩れてしまう。

味は悪くないので、良しとしよう。

サラも喜んでるみたいだし。


サラはあっという間にハンバーグを食べ切った。

そして俺をじっと見る。


「俺も食べたらすぐに二枚目を焼いてやるから、ちょっと待ってろ」


「はい」


三点リーダーが無くなったな。そんなに気に入ったか。

美味い物作戦、大成功だった。



飯の後は片付けだ。これもサラの仕事になるから、と教えながら食器やフライパンを洗う。

廃油から石鹸が作れる事は知っていたけど、作り方は知らなかった。

だから油を買ってみて『錬成』してみたらできた。

案外、『錬成』って万能だよな。


『錬成』できる事を知らなくても、素材を持って『錬成』を思い浮かべれば、何と掛け合わせると何ができるかがぼんやりと浮かんで来るんだ。

勿論、知らない事は浮かんで来ない。

けど、俺には現代日本の知識があるからな。できそうなものは片っ端から調べれば、結構造れるもんだ。


事前知識が必要になるから、『錬金術師アルケミスト』はギルドでその知識を学ぶ。

基礎知識があれば、そこから応用として、全く新しいアイテムを『錬成』できるようになるらしい。

勿論、それが頭に浮かぶかどうかは才能に因るけれど。


「これは植物の油から作った、石鹸っていう、物を綺麗にする道具だ」


「はい……」


石鹸自体は知らなくても、掃除なんかの際には植物の汁なんかを使って綺麗にする方法はあるからな。受け入れるのは簡単だろう。



洗い物が終われば次は風呂。

風呂桶に『ウォーターボール』で水をはり、世界魔法の第二階位、『ヒートハンド』で熱くなった腕を突っ込んで湯を沸かす。

一度『ファイアショット』をぶち込んだ事があるのだけれど、水が爆発してびしょびしょになってしまった。

これから風呂に入るんだから、それはそれで別に良いんだけど、お湯も半分くらいになっちゃったからな。

サラの魔力でやったらどうなるんだろうか?


「これもいずれサラにやって貰う。ただ、お湯を沸かすのは難しいから、できなくても良い」


第二階位って世界魔法なんかを専門に勉強してる魔法使いが使えるようになるものだからな。家事の片手間で覚えられるもんじゃない。


「よし、入るぞ」


「…………え?」


三点リーダーが長くなったな。


「いや、風呂の入り方わからないだろ?」


「お湯に入れば、いいんですよね?」


「体も洗え」


「……できます」


「髪も洗え」


「……で、できます」


お前のその脂とフケの浮いた髪からは説得力が微塵も感じられない。


「洗髪料を使うんだが?」


「…………」


ついに無言になってしまった。

という訳で風呂だ。

12歳の少女と一緒に風呂だ。

何故だろう? 12歳と一緒に風呂に入る28歳、よりも、12歳と一緒に風呂に入る18歳、の方がヤバイように思える。


歳が近いから生々しさが出るんだろうか。

まぁ、前者も普通に事案だけどさ。


いや、別にやましい事は何もないよ。

本当にサラにお風呂の入り方を教えてあげるだけだよ。


木製の椅子に座らせ、まずは髪を洗う。

使うのはエルフも愛用している人捕椿の種から作った椿の香料だ。手に取り、お湯を含ませ、泡立たせた後、サラの髪を洗い始める。


うわ、かってぇ。これ相当洗ってないぞ。皮脂脂でガッチガチじゃないか。

相当っていうか、多分生まれてからだな。

大丈夫、この椿の香料は魔法の道具だけあって、毛虱なんかも殺してくれるから。


頭頂部から順番に、しっかりと、丁寧に髪を洗っていく。サラの髪が泡だらけになったところで、一回お湯で泡を洗い流す。


「ふむ、まぁ、初日はこんなもんか……」


俺の漏らした呟きに、びくり、と体を震わせるサラ。

なんだ? 俺と一緒に風呂に入るのがそんなに嫌か。

嫌だろうなぁ。いつ俺に襲われるかサラにはわからないんだから。

いくら俺がそんなつもりは無いって言っても、首に巻かれた首輪が説得力を吹き飛ばしている。


次いで体を洗う。

ここで使うのも、エルフの風呂で使っていたフスマの入った木綿の袋だ。

少し濡らしてこすり始めると、面白いように垢が取れていく。

いや、面白がっちゃダメなんだけどな。

なにこれ、凄い。


いや、ヌカの袋の方じゃなくてな。サラの体の方な。

12年間風呂に入らないとこうなるんだな。


これもう性的に興奮するなんて無理だろ。それこそ特殊な性癖でもないとさ。

そして俺にそんなものはない。


あと、いくら何でもサラが小さ過ぎる。

幼いのも勿論だけど、肩が小さい。背中が薄い。手足が細い。あばらが浮いてる。

骨盤の形がわかるほど肉が無く、その代わりにお腹がぽっこり出ている。

さっき食べたハンバーグだとか、幼児体形だとか、そういうもんじゃない。

いや、それもあるんだろうけど、一番の原因は筋力の不足だ。

痩せ衰えて腹筋が無いから、内臓を抑えておけないんだ。

ほら、日本史の教科書とかで飢饉の絵を見た事ある? そこに描かれている人って、手足は細いけど腹はボテっとしてるだろ?


…………あれだよ。


うぅむ。色んな意味で可哀想になって来たよ。


耳の裏。首筋。肩。背中。手足を洗った後、俺はサラに新しいフスマ袋を差し出す。


「前は自分で洗え。使い方はなんとなくわかっただろう?」


無言で頷き受け取るサラ。

俺もサラの背後で自分の髪を洗い始める。

俺が体を洗い終えたところで、サラも前を洗い終えたので、二人でお湯を被り、泡と体に残った垢を洗い流す。


そして二人で湯船に浸かる。


「ふぅぅぅぅぅぅぅーーーー」


自然と漏れる深い溜息。


「はふぅ……」


サラの口からも可愛らしい溜息が漏れた。


暫く無言。けれど、サラから拒絶の雰囲気は伝わってこない。

多少は信用してくれたのかな?


風呂から上がって俺はサラに乾いたタオルを渡す。サラが自分で体を拭いている間、髪を拭いてやる。

優しく、丁寧に。

ていうか、灰色の髪の色、それ汚れじゃなくてデフォルトだったのか。

まぁでも、多少光沢が戻ったから、もう何日かすれば、銀髪っぽくなるんじゃないかな?

是非月の光を浴びて貰おう。


清潔な麻の服を着させ、歯磨きを教える。

歯ブラシの代わりになるのは殺菌効果のある草の茎だ。

ナスのヘタが歯ブラシ代わりになるらしいけど、『常識』にはナスが無いからなぁ。


風の魔法で自分とサラの髪を乾かし、温めの水を一杯出してやる。

受け取ったサラは口をつけずにこっちをじっと見ている。


「? どうした?」


尋ねるが答えない。頬が赤いな。風呂上がりだからか?

太ももをもじもじさせているのは、ズボンが履き慣れないからだろうか……?


あ、そうか。


「すまん、厠はこっちだ」


そう言えば教えていなかった。気付けば俺ももよおしてしまう。

レト川の上に、落ちないようにコンクリートで足場をつけただけのシンプルな造りだ。

人が二人使えるようにはできていないけれど、入るくらいはできる。

当然、サラは嫌がったが、使い方を教えてやらないといけない。


少女の排尿シーンに興奮するような特殊な性癖はしてねぇよ。


「そこにしゃがんで用を足す。終わった後は川の水で綺麗にした後、布で拭け。拭いた布は外の籠に出しておけ。出て左の籠な。茶色の方。右の黒い籠に入ってる布を持って入るんだぞ」


トイレットペーパーなんてないからなぁ。不浄の左手って訳にもいかないし。

布は後で川で洗った後(トイレより上流)、『クリーン』の魔法をかけて干して乾かす。

俺は大なら起きた時と寝る前くらいしかしないし、小は男なので洗う必要が無いからこれで良かったけれど、サラの頻度によっては、乾かすのは魔法で行った方が良いかもしれないな。


「終わったら交代な。大丈夫だとは思うが、川に落ちるなよ」


流石にそのまま見守る事はしませんよ、ええ。



風呂に入り、歯磨きを済ませ、トイレにも行ったとなれば後は寝るだけだ。


「ここがお前の部屋だ」


「え?」


俺が空き部屋に案内すると、心底サラが驚いていた。


「個室があるって言ったろ?」


「……すいません」


聞いてなかったな、コイツ。自分には関係ないとでも思っていたんだろうか。


「敷布団と掛け布団はわかるか?」


本来は俺の予備用に妹がくれたものだけど、まぁ、貰ったものをどう使おうと俺の勝手だよな。

後で俺のとサラの分の予備をねだっておこう。


「はい……」


「じゃあ大丈夫だな。この部屋は好きに使え。ああ、窓は日中、家に居る時以外は開けるなよ」


こないだも野盗が来たばっかりだからな。


「風呂に入る前に来ていた服は『クリーン』の魔法をかけてそこのクローゼットにしまっておいた。明日起きたらまた着ろ。そのうち予備の服も買ってやる」


「え? そんな……」


「買ってやる」


「……はい」


遠慮は過ぎると美徳じゃない事を教えてやろう。


「明日は俺が起こしてやるが、本来はお前が先に起きて朝食の準備をしてもらう。その後、お前が俺を起こしに来い」


「はい」


「それじゃ、おやすみ」


「あ、あれ?」


俺が部屋から出ようとすると、戸惑ったような声が聞こえて来た。

何となく想像できるけど、一応確認しておこう。


「なんだ?」


「だ、抱かないんですか……?」


「そんな条件、契約の時に言ったか?」


「…………すみません」


聞いてなかったんだよな。知ってた。奴隷ってそういう事するもんだと思ってるんだろうな。

マジ奴隷の心得の中身が気になるわー。

今度『アナライズ』でじっくり確認しよう。


抱いて欲しいなら抱いてやるけど?

言おうとして、やめた。どう考えても返答に困る言葉だからだ。


嫌だと言うと失礼になるかもしれないし、良いと言って抱かれても困る。


そんな葛藤に揺れるサラが想像できてしまった。

実際には、無表情のまま首を横に振るだけかもしれないけど。

想像しちゃった以上は、やめておこう。


「お休み」


「……おやすみなさい」


結局俺はそれだけ言って部屋を後にした。


ちなみに俺の部屋は角部屋で、サラはその隣だ。


こうして、初めての奴隷との共同生活、その一日目が幕を閉じた。

ああ、なんかすげぇ疲れたぜ。



状態:疲労(重度)



風呂入ったのになぁ……。

俺は寝る前に、元気ドリンクを一杯飲む事にした。


サラとの奴隷生活初日でした。

どちらも手探りな感じですね。

次回は掃除、洗濯の話になります。

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