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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:異世界ハーレム生活
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第41話:建築ギルドのご隠居

建築回最終話です。

勿論、三章はまだ続きます。

「お前さんかい? 街の外に家を建てたいって莫迦野郎は」


俺が案内されたのは、一人の老婆の元だった。

建築ギルドの二代前のギルド長。現在はご意見番のような存在。


レセンダさん。御年81歳の人間種。通称『ご隠居』。

そう呼ぶと怒られるらしいけどなー。


「はい。タクマと申します」


「へぇ、面白いもんつけてるじゃないか」


レセンダさんは俺が首から下げてる時計を見てにやりと笑った。


「はい。時空の神の使徒なので」


勿論俺も隠さない。こういう発言力がある人にはどんどん売り込んでいこう。


「それで? 建てるのはどんな神殿だい?」


「それも面白そうですけど、残念ながら俺の家です」


「ははは」


皮肉を言われたので真面目に返してみた。

それを理解してくれたのか、レセンダさんは豪快に笑った。


「いいね。中々面白そうな坊やじゃないか。それで? どんな家を建てたいんだい?」


「広さは大体このくらいです」


俺に同行していた職員が、羊皮紙をレセンダさんに手渡す。


「ふぅん、まぁまぁの広さだねぇ」


「あ、それ二階建てにできますか?」


「うん? まぁできるけど、お薦めはしないよ。目立つからね」


「まぁ、それは今更ですから」


「ははは。確かにそうだ」


ただでさえ草原の真ん中にポツンと家が建っていたら目立つんだ。それが二階建てになったからって状況はかわらないだろう。


「大体こんな感じなんですけど……」


言って俺は、あらかじめ用意しておいた家の見取り図を見せる。

勿論、本格的な見取り図なんて書いた事ないから、大雑把な適当だ。

とは言え、この世界だとそんな精巧な見取り図なんて存在しないから問題も無いんだが。


「へぇ。部屋が多いね。リビングがこれだけ広いって事は、大勢で住むのかい?」


「そうなるかもって感じですかね」


「台所に厠。風呂まで造るのかい?」


「一応魔法が使えるので、側だけ造って貰えれば後はなんとか」


「この図だと川をまたいでるようだけど?」


「台所と洗濯所とトイレと風呂の水がその川に流れるようにしたいんですよ。あ、堰き止めるなって言われてるんで、その辺も考慮してお願いします」


「ああ、クソとか川に垂れ流す形なんだね。確かに、それなら厠が臭くなることもないから良い方法かもねぇ。まぁ、街中じゃ使えない方法だけどさ」


この世界には上水道は勿論、下水道なんてないからなぁ。


「二階は少し小さめか。ふぅん、中々建築ってもんをわかってるじゃないか。素人に絵図を描かせると、一階と同じ大きさで二階を描いちまうからねぇ。中にはわかってて二階の方をでっかく莫迦もいやがるしさ」


「でもそれ、支柱さえちゃんとしてれば可能じゃないですか?」


「そういうわかってる奴ならいいんだけどねぇ」


苦笑するレセンダさん。なるほど、おバカさんだったか。


「一応木造でお願いしたいんですけど……」


「木造? また妙なお願いだねぇ。で、建材は? 檜かい? 杉かい?」


正直俺には素材による建物の質の違いがわからない。


「夏には涼しく、冬には暖かいのがいいです」


「王宮にでも住んだらどうだい?」


「いや、ガッツリ快適じゃなくていいんですよ。そういう特性でって事で……」


「ふぅん、なら一種類に絞らない方がいいかもしれないねぇ。内壁に杉、外壁と土台に檜。梁や柱には欅ってところか。予算は?」


「10万までなら大丈夫です」


「それだけありゃぁ、この広さなら立派なもんができるさ」


「必要なら魔樫も採ってこれますけど?」


「そう言えば冒険者だったね。まぁ、そんだけ予算があれば必要ないだろ」


防御力で考えれば普通の建材より上だけど、この場合は居住性を重視するべきだろうな。最悪付与魔法でなんとかしよう。


「あと魔法の石があるので、これで門、というか家を囲む塀を造ってください」


「どのくらいの広さだい?」


「広ければ広いほど。家を建てている間にせっせと貯めておきます」


「まぁ、材料をそっちで用意してくれれば、こっちも楽でいいけどね。魔法の石なんてそうそう市場に出回らないしさ」


出ても国とか貴族とかにすぐ買い占められちゃうらしいからな。


「それとこれなんですけど……」


言って俺は、リュックから一つのブロックを取り出した。

それは何の変哲もないコンクリートブロックだ。

二十一世紀の日本なら驚くようなもんじゃない。まぁ、普通の人間がリュックからコンクリートブロックを取り出したらそれはそれで驚くと思うけど。

さておきここは異世界で、文明レベルは中世ヨーロッパかそれ以下。

古代ローマでは利用されていたそうだけど、果たして……。


「お前さん、それをどこで手に入れたんだい?」


ぎらり、とレセンダさんの目に怪しい輝きが灯った。

うおー、マジ怖ぇ。しっかりとした人生経験を背景にした老人の目って、なんでこんな凄みがあるんだろうな。


「あ、やっぱりマズイですかね?」


「いや、マズくはない。リチャード坊やも別に製造も使用も禁止してないからね」


王様を坊や呼ばわりですか。まぁ、年齢的にはそうなるのか。知り合いなら尚更だわな。


「けれど、製法は秘密になってる筈だよ」


「実はこれ、俺が造ったんです」


「だから、どうやって造ったんだい?」


「細かい製法は俺も知りません。俺は『錬成』しました」


「なんだって!?」


椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がり驚くレセンダさん。

ガラスができるんだから、コンクリート(というかセメント)も『錬成』できないだろうか? と試してみたら、普通にできちゃったんだよな。

材料はある程度知ってた。あとはそれを手に持って、『錬成』を思い浮かべれば、足りない材料が自然と浮かび上がってくれる。

まずは石灰石と石膏と粘土と鉄を『錬成』。これでセメントのできあがり。このセメントを更に砂利、砂、水と『錬成』すると固まる前のコンクリートができあがる。

あとは一月ほど干して固めれば良いだけ。

干す際にはフェルディアルの祝福『スペンドタイム』を使ってその時間を省略した。

これは対象の主観時間を進める祝福だ。現実世界でも海中に沈めたり、超音波を当てる事で、酒の熟成を進める方法があるらしいけど、そんな感じだ。

たった半日で、みるみる固まっていくコンクリートを見るのは若干面白かった。


「勿論、まともに造るなら材料だけじゃなく、その量、というか配合比も正確じゃないといけませんが、『錬成』なら問題ありませんから」


例えばAというアイテムを造る際、水100gと小麦粉50gが必要だったとしよう。

当然、普通に造るならこれを過不足無く揃える必要がある。

けれど、『錬成』の場合、水100gと小麦粉100gを使って『錬成』したら、アイテムAと50gの小麦粉がその場に出現する事になる。

便利だよなぁ。

配合比がわからなければ、とりあえず全部同じ量だけぶちこんで『錬成』すればいいんだから。しかも残された材料の種類と量から、配合比まで計算できてしまう。


「煉瓦や魔法の石を積む際、繋ぎに使えばかなりの強度を持たせる事ができますし、礎石に使ってもいいかもしれませんね。そこは専門家にお任せします。俺は必要な量を『錬成』して用意しますよ」


「けれどいいのかい? それをアタシらに教えてしまって。こっちにだって『錬金術師アルケミスト』の伝手くらいあるんだよ?」


「構いませんよ。むしろ、早急に『錬金術師アルケミスト』の人数を確保する事をお勧めします」


「なんでだい?」


「一人でそれなりの量を用意するのが大変なのが一つ」


正直、どれくらいの量でどのくらいの事ができるのかが、俺にはわからんからな。

それこそ、建築ギルドで雇った『錬金術師アルケミスト』にやり方を教えて、お任せしたいもんだ。


「そう遠くないうちに製法が公開されるから、というのが一つ」


俺の言葉にレセンダさんは片眉を跳ね上げて反応した。


「なんでそう思うんだい?」


「エレア隧道が崩れたのは知っていますか?」


「知ってるよ。商人は勿論だけど、アタシら建築家にも関わり深い事だからね」


「昔なら隧道が完成するまでゆっくりと造っても問題無かったですが、今は状況が違います。早急に復旧させる必要がある。それには人手と資材が大量に必要です。勿論、隧道の内側を固めるためのコンクリートも」


「自分達だけで、それも秘密裏に用意しようと思えば時間がかかるか量が揃えられない。だから一般に公開して必要量をさっさと集めてしまおうって事かい?」


「そう、考えるでしょうね。普通は」


けれど、製法を教えられてもすぐに同じものが造れるとは限らない。

ならば当然、誰かが気付く筈だ。いやひょっとしたら、リチャード三世と当時エレア隧道の開設に関わった人間は知っているかもしれない。

『錬成』で造れる事に。


「そうなる前に先に『錬金術師アルケミスト』の人数を確保しておく。しかもいざ本番となった時、コンクリートの『錬成』経験があるのとないのとでは違いますよね? 練度が足りずに錬成できない可能性だってあるんですから。先に確認しておけば、その時までに鍛える事もできます」


「くく、いいね。あんた中々の商売人じゃないかい。アタシがあと20年若かったら放っておかなかったよ」


「どうも……」


20年でも還暦超えてるじゃないか。

背筋も伸びてるし、目にも力があるし、纏ってる雰囲気が若々しいから、一見すると60代。ヘタしたら50代くらいに見えそうなレセンダさんだけど、よく見ると普通におばあちゃんだからね。

流石に勘弁してください。

DTじゃなくなったからって、いきなり見境無くなる訳じゃないんですからね。


「勿論、それらの情報料がタダって訳じゃないんだろう?」


「ええ。当然です。とは言え、この情報に価値をつけるのはそちらですから。俺から幾ら、とは言えません。まずはご提示ください。釣り合わないと思ったら、材料を教えないだけですから。あ、回答は何度でも大丈夫ですよ」


「タダだ」


「は?」


え? 情報料なしって事? いやいや。交渉前提とは言え、流石にそれは……。


「タダであんたの家を建ててやろう」


あ、だめだ。これは勝てん奴だ。

エレア隧道修復のために必要なコンクリートを、他より先んじて『錬成』によって用意し、卸す事ができたなら、その利益は計り知れない。

エレア隧道は直線で30キロを超える長大なトンネルだ。それに必要な量のコンクリートは流石に想像できないし、1立法メートルあたりのコンクリートの相場も知らない。


だから俺は最初から値段交渉をする気は無かった。


エレア隧道修復工事で得られる、建築ギルドの利益の一部を貰おうとしたんだ。

正直、これが通っていたら、仕送り用の金はもう用意しなくて良くなってただろうけど……。


けれどこれはアカン。今の俺じゃどう足掻いても勝てない。

先に直接の値段以外のものを提示されたら、そこから更に別の条件を提示するなんて、俺には無理だ。

それこそ、それが本命だったと見抜かれて足元を見られてしまう。

交渉の結果そこに辿り着いたならともかく。


まぁ、レセンダさんが一枚も二枚も上手だった訳だ。

流石年の功。ギルド長を退いたのに現役の相談役になってる人はやっぱ違うぜ。


まぁ、いいさ。俺だってこれで仕送り終了。あとは好きに生きよう、なんて本気で考えてた訳じゃない。

一割、いや、二割……三割くらいは期待してたけど、駄目なら駄目で仕方ない。今まで通りにコツコツ稼ぐとしよう。


俺はレセンダさんに右手を差し出した。


「よろしくお願いします」


俺の完全敗北宣言に、レセンダさんは渾身のドヤ顔と共に、握手に応じたのだった。

家の完成はまだですが、一先ず建築周りの話は終了です。

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