閑話:兄妹の会話
妹にしてゴブリン(♂)との会話です
佐伯友理愛は六つ離れた俺の妹だ。妹だった。
友理愛が物心ついた頃、俺はスーパー兄だった。
人から褒められる事、称賛される事が何より好きだった俺は、勉強も運動もかなりできた。
明るく社交性もあり真面目でもあった。ただ優等生なだけじゃなく、状況に応じてルールを破ったりできる柔軟性も持ち合わせていた。
そうあれるように努力をしていたし、そう見られるように振る舞っていた。
振る舞えていた、筈だ。あの笑顔と称賛の輪が見せかけで、実は嫌われていたとか死にたくなるぜ。
だから、そう信じさせてくれ。どうせもう戻れない日々だ。
真相なんてどうでもいいなじゃないか。
妹はそんな俺によく懐いていた。お兄ちゃんお兄ちゃんと言っていつも俺の後をついて来ていた。
友達に俺の事を自慢しているのも聞いた事があるので、自慢の兄だった筈だ。
中学を卒業するまでは。
俺が県内一の進学校に入った時は、自分の事のように喜んでくれた妹だったが、だからこそ、俺は高校で落ち零れた時、ヒキコモリになってしまったんだ。
勿論、妹のせいにする気はない。
けれど、友理愛にとってスーパー兄だった俺の凋落ぶりを見て、落胆し、失望されてしまうのが怖かった。
ヒキコモリニートになっている時点であれだけど、俺は俺の落ち零れた所を妹に見せたくなかったんだ。
俺がヒキコモリになった後も妹は俺を邪険に扱う事はなかった。
一日一回、必ずドア越しに俺に話しかけてくれた。
そんな妹が、俺がヒキコモリになってから約五年後、突然この世を去った。
交通事故だ。
確かに、友理愛を轢いたのは信号無視をしたトラックだったと聞いている。
なるほど。トラックに轢かれたんだから、異世界に転生していてもおかしくはない。
その当時ならそんな訳あるか、と妙なノリツッコミをしていたかもしれないけれど、実際に転生しているからなぁ。
しかも8歳って事は、死んですぐにこの世界に転生したのか……。
「いやぁ、生まれ変わりってほんとにあるんだね。しかも他の世界なんてさ。えっと、異世界って言うんだっけ?」
そういやこいつはオタクじゃなかったよな。
トラックに轢かれて異世界転生。しかもゴブリンに。なんてテンプレは知らないのか。
「それも人間じゃないなんてね。こっちの世界でゴブリンっていう生物らしいよ」
そうか、ゴブリンも知らないのか。
「まぁ、うん。お前が転生したのはわかったよ。それもゴブリンにな。それで、なんでゴブリンキングダムなんて創って……。それもなんかすげぇ発展してるし」
「うん。こっちの世界でこのゴブリンって凄い弱くてね。しかも、ただ弱いだけじゃなくてヒトによく殺されるんだよね」
ああ、そうだな。
「でね。私もヒトに転生してたらそんな事思わなかったと思うんだけど、今の私ってゴブリンな訳じゃない? だから、なんとか皆を助けたくてね」
最初は生きるために野生動物を殺したり、襲って来た冒険者を返り討ちにしていた程度だったらしいけど、弱くてすぐ死んでよく襲われるゴブリンを守るためには、組織化するしかないと思い、当時一緒に居た同族達を率いて作り上げたのがこのゴブリンキングダムらしい。
友理愛……ユリアンの装備などを見てわかる通り、時にドラゴンを倒したり、時にダンジョンの最深部へ潜ったりした、激動の八年間だったらしい。
「それで、エレア隧道や王都への爆撃はなんでだ? まさかヒトと戦争をする気か?」
エドウルウィンを襲撃した事もあったな。
「逆よ。私たちが安全に暮らすための策よ」
「安全って……」
「このままキングダムが大きくなれば、いずれヒトにバレるわ。そうなると、ヒトはこちらを脅威と見做して全力で排除しにかかってくるでしょう?」
「まぁ、そうかもな……」
「けれど今のこの国の状況はどう?」
「え? そりゃ隧道と王都が被害を受けたから……。!? おまえ、まさか……!」
俺が声を上げると、ユリアンは笑顔を見せた。これまでの、兄と再開できて嬉しいというような表情じゃない。
嗜虐的な笑顔。所謂、悪い顔だ。
「経済的に発展して、周辺の国と比べて豊かなエレノニア王国が、一時的とは言えその国力を落としている。番犬が隙を見せた肥え太った羊を前に、飢えた狼はどういう行動に出るかしらね?」
「他の国にエレノニア王国を襲わせるつもりか! それで自分達に対処する余裕を与えないようにすると……!?」
「うーん、おしい。もう一声」
しかしユリアンから語られた計画は、俺の予想の更に先をいっていた。
「周辺の情勢がきな臭くなったとしても、全力で国境の警備になんて当たれないのがこの世界でしょう?」
ダンジョンとか、モンスターから自国を守るためにどうしてもリソースを割かざるを得ない。
この大陸東部が統一されない事情。神の牢獄の先へ行けない理由。
「そのダンジョンとかの対処を、私たちがするって申し出たらどうなる?」
「ばかな! お前たちはモンスターなんだぞ! 王室が交渉に応じる訳がないだろう!」
「普段ならそうだけど、切羽詰まってる状況なら、藁にも縋るんじゃない?」
俺は反論できなかった。
確かに、ヒトにとってモンスターは殲滅すべき対象だ。
けれど、実際にダンジョンなどの脅威にさらされている人々が、モンスターとは言え、ヒトを襲わず、逆に自分達を守ってくれるゴブリンを見たらどうなるか?
すぐに友好的にはならなくとも、少なくとも、問答無用で敵対するような事態にはならないのではないだろうか?
現に、俺がエレニア大森林でゴブリンをスルーする提案をした時、エルヴィンもセニアも反対しなかった。
あの時は事情があったが、それはつまり、理由があればゴブリンと敵対しないという証左でもあった。
ヒト至上主義のハイエルフと、光の神の信者である帝国国民でさえそうなのだから。
「周辺の情勢が落ち着くか、自力で国力が回復するか。どちらにしても数年じゃ済まないよね? その間に、ダンジョンや他のモンスターはゴブリンに頼めばいいって空気を作ればいいんだよ。何も王国全土にその空気を作る必要は無い。過半数である必要も無い。ゴブリンキングダムの周辺さえ味方につけちゃえば、王国全体の一割で十分なんだよ」
あとは獲物を取り合う事になる冒険者がどう考えるかだけど、王国公認なら逆らう者は殆どいないだろうな。
「全ては私と私の大切な人、いや、大切なゴブリンが安全に暮らしていけるための居場所を造るためだよ」
そしてにっこりと微笑むユリアンの顔は、人間の俺には壮絶な印象を与えるものだった。
正直、ヒいたわ。
「それで? お兄ちゃんは? あ、もしかして勇者? ……敵なの?」
「敵、チガウ、俺、勇者、チガウ」
背筋に走った怖気に、思わず片言で答えてしまう。
「時空の神の使徒なんだけどさ、その時空の神が実は俺達の世界でも神やっててな」
「え? なにそれ?」
俺がヒキコモリになった事で心が弱っていた母さんが新興宗教にハマってしまった事。その新興宗教の信仰している神がフェルディアルだった事。
母さんの願いに応えて、俺を真人間にするために異世界に転移させた事。そして俺は、こちらから母さんに毎月十万円を仕送りしなければいけない事。
そういった諸々の事情をユリアンに話した。
「お兄ちゃん、あれだね。なんか、地味だね……」
「言うなよ」
チートを得たのは間違いなく派手なんだけど、俺の目的のためには必要以上に目立ちたくないんだよな。
「じゃあお兄ちゃん、うちくる?」
「は?」
「月に十万円、えっと、1000デューだよね。そのくらいのお給料なら払えると思うよ。勿論、働いてもらうけど」
「給料って……。え? ここ貨幣が流通してんの?」
「ううん。基本は自給自足だけど、どうしても足りないものなんかは物々交換で手に入れてるの」
「物々交換って、どうやって?」
モンスターでも取引に応じてくれる違法業者でも居るんだろうか?
「うちに居るのはモンスターだけじゃないんだよ? 襲って来たけど返り討ちにして捕えたヒトとか。そのヒトの村から逃げて来たヒトとか。そういう人に街や村まで交換に行って貰ってるの。最初は持ち逃げされたりしたんだけど、最近は魔法やスキルで行動を縛れるようになったから」
言われてみれば、意外とヒトの世界の常識にも詳しいんだから、情報提供者が内部に居てもおかしくないよな。
「お兄ちゃんみたいな自主的に手伝ってくれる人が居るとこっちも助かるんだけど?」
「うーん、確かにちょっと魅力的じゃああるけど、母さんが女神に願ったのって、俺の就職だけじゃないんだよな」
「ていうと?」
「非合法組織には就職しちゃいけない」
「あー……。そうね。今はまだそうだもんね」
「あと、女神の中でモンスターがどういう扱いなのかわからない以上、迂闊な真似はできない。次の支払日に不幸にされても困るし」
「そっか、そこは確認が必要だね」
俺の説明にうんうんと頷くユリアン。
外見はただの金髪のゴブリンなんだけど、俺の記憶にある妹の動きと重なって、友理愛に見えちゃうから困る。
「それに、結婚と子育ても願われてるんだよな」
「あー、確かにそれはここじゃ厳しいかも。女の人は基本的に苗床だからね」
言い方。
「ご褒美に下賜されてもそれはお母さんの思う結婚じゃないよね。かと言って、捕えて来たヒトがゴブリンの味方してるお兄ちゃんに簡単に心を開く訳ないし」
「まぁ、そういう事だな。やり方はともかく、積極的にヒトと戦争する気が無いってんなら、俺はお前と敵対しないさ」
「冒険者として依頼されたら?」
「逃げる」
「ぷ」
「まぁお前の作戦通りに事が運べば、冒険者ギルドが討伐依頼を出すような事はないだろう。それこそ、これまで戦うしかないと思われていたモンスターと交渉が可能だとわかったんだ。戦うより利用した方が良いと思うやつはいくらでもいる」
それこそ、国内の守りをゴブリンキングダムに任せて、自分達は他国へ侵攻したり、神の牢獄の向こうへ開拓団を派遣したりできるからな。そこまで信用を得るにはそれなりの時間がかかるだろうけど。
「お前も言った通り、王国が今自分達を狙っている周辺国を独力で押さえつけられるようになるには数年かかる。ゴブリンキングダムの討伐依頼が出るのは早くともその後だろう? なら、俺もそれなりの蓄えができてる筈だ。それ持って他の国に逃げるさ」
それだけの時間があれば、『テレポート』で行ける場所も増えてるだろうしな。
お互い色々と話はあったが、八年間の溝を埋めるのは簡単じゃなかった。
この部屋はユリアンの執務室だったらしく、その後、応接室らしき場所へ案内され、雑談に興じる事になった。
広さは先程の執務室より二倍くらい広い。天井にはシャンデリア。レースのカーテンには細かい刺繍が施され、壁にはユニコーンの首の剥製が掛かっていた。
なんだろう、あれ? 金持ちの家にある、鹿の首の代わりかな?
出されたのはガラスの器に盛られたクッキーと白磁のカップに入った紅茶だった。
「これもお前が?」
「小麦は簡単に手に入るし、エレニア大森林にてんさい芋があったから、それで砂糖も作ったの。畜産も行ってるからバターも簡単に手に入るのよ。最初、畜産が行われてないって聞いてびっくりしたんだから」
「まぁ、魔物やモンスターが普通に居る世界だからなぁ。迂闊に魔力に触れた家畜がモンスター化する可能性もあるし」
この世界で行われている牧畜は馬くらいだ。
王国の西部では羊の放牧が行われているけど、これは毛を狩るためだから、モンスター化しても問題無いからなんだよな。
後は労働力として山羊や牛。時を告げる神聖な鳥として鶏が居る。どれも食う時は年老いて役目を果たせなくなってからだ。
乳牛なんて姿形もないしな。
「お兄ちゃん私ね、実は農業高校へ行きたかったの。そのための勉強もしてたし、中学生にあがったくらいから畜産に興味を持って独自に調べたりもしてたんだから」
「へぇ」
たまたま趣味で農業や畜産調べていたら、文明の遅れた異世界に転生したんで、その知識を活かして農業チートとか。
お前テンプレも大概にせぇよ。
「この間養蜂にも成功したし、椎茸っぽいものの人工栽培もやってるんだよ。あとは竹を沢山育てて竹炭と竹酢液と木タールも生産できるようになったし」
それで何ができるのか、俺にはわからなかった。
「この国は海に面してないから塩が作れないのが難点だよねぇ。聞いた限りだと揚浜式みたいだから、流下式塩田に変えるだけも大幅な増産が見込めるんだよね。そういう意味でも、自由に動けるヒトが居てくれると助かるんだけど?」
ちらちらとこちらを見て来るユリアン。
「悪いけど、女神から内政チートを禁止されてるんだ」
「内政チート? チートってどういう意味だっけ?」
「ズルとか反則……だったかな?」
正直チートはチートとして使ってるから、改めて意味を問われると困る。ニュアンスだよな、こういうのって。
「ああ、そっか。私はこの世界に生まれ変わったからともかく、お兄ちゃんは地球から来たんだもんね。異文化の流入は時として悲劇を産むからねぇ」
コイツあれだよな、農業に加えて塩の生産の知識もあるし、この拠点を見る限り建築学にも深い造詣がありそうだよな。しかもゴブリン達の戦術、戦法を見る限り、そっちの知識もあるんだよな。
【悲報】転生した妹のチート知識がとどまるところを知らない。
「あ、どう? 紅茶。この世界にあったのは中国にあったのと同じチャノキに似たものだったんだけど、アッサムチャっぽいのを見つけたからそっちで造ってるんだ」
「紅茶と言えば、三鬼将はなんであの名前なんだ?」
「紅茶が好きだからだよ、私が」
シンプルな答えだった。
「ゴブリンって個別に名前をつける習慣ないんだって。まぁ、基本は魔力から出現して、そのまま周囲をうろついた後、ヒトに殺されるだけだからねぇ。個体識別って認識が無いんだってさ」
野生の獣や魔物にも狩られるくらいだからな、ゴブリン。
「それで最初にセイロンに名前をつけてあげたら、他の子も名付けて欲しいって言われたから。あ、お兄ちゃんはセイロンって呼んじゃだめだよ? 私から貰った大事な名前だからって、私以外に呼ばれるとすっごい怒るんだから」
「ああ、アルグレイ……ドッグにも言われたよ」
「そっか、彼と戦ったんだっけ。強かったでしょ?」
どや顔で胸を張るユリアン。
「まぁな」
「けどお兄ちゃんも凄いよね。ヒトなのにアルグレイやダジリンを撃退したんでしょ? あの二体、何人か勇者を殺してるくらい強いんだよ?」
「運が良かっただけだよ。それに、お前の方が強いだろ?」
「まぁね」
再びドヤるユリアン。ダジリンは撃退した訳じゃないけど、まぁいいか。
「ところで、エイプが最初ってなんでだ? 年齢はドッグ達の方が大分上みたいだけど?」
「ああ。セイロンは私の子供だからね」
「は…………?」
紅茶を飲もうとカップを持ち上げた手が止まった。
今、なんとおっしゃいましたか? 友理愛さん?
「セイロンは私とエフィちゃんとの息子なんだよ。あ、エフィちゃんっていうのはね、四年位前に捕えた某国のお姫様なんだけど、今じゃ鬼母として、他の鬼母達を取り仕切ってくれてるんだ」
そういや、捕えた冒険者とかの女性、性欲処理や苗床に使ってるって言ってたな。
てっきりそれは一般的なゴブリンの話だと思ってたけど、そうかー。お前も使ってたかー。
「最初は特別な地位をあげるつもりはなかったんだけどね。ゴブリンって妊娠って概念が無いらしくてさー。お腹おっきくなった子も構わず犯しちゃうもんだから、これはマズイって事で隔離するところからはじまったんだよね」
もうすっかりこの世界に馴染んでるな、この妹は。
まぁ、若返ったとは言え元の世界の姿でこちらにやって来た俺と、ゼロからゴブリンとして人生やり直してる友理愛とじゃ、状況が違い過ぎるか。
それとも、俺も八年経てばこのくらい染まるんだろうか?
「せっかくだから生まれた子の面倒とかも見てもらってね。ついでに他の妊婦とかの面倒も見てもらう事にして、それで鬼母っていう特別な地位を与えたんだよ」
死ぬのも俺より先なら、子作りも結婚(はしてないけど似たようなもんだよな)もキス(おそらく)も全部先こされてしまったなー。六つも離れた妹に。
あ、キスも性交渉も、俺はセニアが初めてよ?
あ、クッキー美味い。
シンプルなバタークッキーだけど、俺にはこのくらいが丁度良いな。
「ゴブリンなうえ男性だったから、最初はちょっと混乱したけどもう慣れちゃったよね。お陰で可愛い彼女もできたし」
「そのエフィとかいうお姫様?」
「うぅん。あの娘は苗床だもん」
「お前、いや、まぁ、いいけどさ」
「あはは。私も自分でびっくりなんだよね。発情はするけど、ヒトに愛情みたいなのは抱かないんだよ。お気に入りの食器に対する愛着心くらいの気持ちはあるかな?」
そこはやっぱりモンスターなんだなぁ。妹が遠いよ、母さん。
「グリフォン部隊の世話をしてるサクラって娘と、畑耕してるボタンって娘と、畜産に携わってるモミジって娘。多分、これからも増えるんじゃないかな? いいなと思ってる娘はたくさんいるし」
ああ、ハーレムに抵抗ないんですね。これもゴブリン効果かな? まぁ、この世界はヒトも一夫一妻制って訳じゃないけどさ。
むしろ、男性にとっては女性をそれだけ囲えるって事はそれだけ稼ぎがあるって事だから、称賛されるくらいだからな。
稼ぎは美徳だ。日本でもそうだと思うけど、この世界だと余計にな。
「なぁ、その子たちの名前って……」
「うん。私がつけたよ。勿論、キングダムに居るゴブリン全てに付けてる訳じゃないけどね。私と同世代か、それ以下の世代のゴブリンは、自分の子供の名前は自分で付けるようになったし」
「それもあるけど、由来……」
「うん、勿論お肉だよ」
妹が食いしん坊キャラだった。十四年間妹と接して来て、初めて知ったぜ。
農業に興味を持ったのってその辺からなのかな?
「ところでお兄ちゃんはこの後どうするの?」
「え? 帰るけど?」
「そうじゃなくて、どこに?」
クッキーの数が少なくなって来た頃、ユリアンがそう尋ねて来た。
「まぁ、とりあえずガルツかな? 徒歩で日帰りできるダンジョンなんてあそこくらいだし」
「あ、家がある訳じゃないんだ」
「まだこの世界に来て一ヶ月だしなぁ。まぁ、今回沢山お金貰ったから、これ使って建てると思うよ」
「そうなんだ。じゃあそのうち遊びに行くね」
「え? あ、いや、うん。まぁ、いいか。見つかるなよ」
「任せて」
兄の新居に妹が遊びに来るっていうのは別におかしな事じゃないけど、その妹がヒーローゴブリン(♂)だと話は変わってくる。
これは街中に建てるのはマズイな。少々危険だけど、城壁の外に建てるか。
そのまま俺は夕飯まで御馳走になり、風呂まで入って一泊する事になった。
久しぶりの敷布団に羽毛布団は非常に寝心地が良く、目覚めるまで夢さえ見なかったほどだ。
「女のヒト、いる?」
「一人ではいれる」
風呂に入る前の俺とユリアンの会話だ。
「女のヒト、いる?」
「いらん気を回すな」
寝る前の俺とユリアンの会話だ。
「此度の会合は非常に有意義なものであった。お前と友誼を結べた事を嬉しく思う」
「こちらこそ、王よ」
帰る俺と見送るユリアンの白々しい会話だ。周りにゴブリンがいるからね。仕方ないね。
そして俺は、来た時と同じく、黄斑のローブに身を包んだセイロンによってグリフォンで送って貰った。
気を効かせてガルツ近くに下ろしてもらったのは地味に助かった。
妹の内政チートがとどまるところを知らない
そしてタクマは再びガルツに戻って来ました
次回も一応、閑話の予定です




