第36話:空中大激戦
王都での戦闘です
タイトルから、どのような戦いかは想像つくと思います
王都での滞在費を騎士団が負担してくれるとは言え、基本的に寝泊まりは騎士団の客室だし、食事も騎士団の食堂だ。
何かあった場合にすぐに対処して欲しいだろうし、俺達に何かがあっても困るという事で、外出する時には騎士団の護衛が必要になった。
そんな状況で呑気に王都観光なんてできる訳がない。
仕方ないので水の神フィグルァの神殿と、大地の神カルスフィの神殿へ行って洗礼を受ける事にする。
光の神? 実はあんまり有用な祝福が無いんだよな。
闇の神の派閥の洗礼が受けられない事の方がデメリットだ。
何故光の神の洗礼を受けないのか? とセニアが若干批難がましい目で見て来たけれど、直接文句を言われてないのでスルーする事にした。
ちなみに、水の神の洗礼を受けたからと言って、炎の神の洗礼を受けられないという事はない。
まぁ、そもそもこの世界は四元素じゃないし、五行でもないからな。
どちらかと言うと自然を司る神同士って事で、炎、水、大地、風の神は割と仲が良い。
自然の神は他にも森やら海やら雷やらが居るし、獣も自然と言えば自然かもしれない。
そんな感じでほぼ王都の観光をする事も無く、滞在一日目は終了した。
ちなみに、俺とセニアは別の部屋に宿泊している。
流石に男女が同じ部屋ってのは問題があるらしい。
翌日、朝食を食堂で摂っている俺達の耳に、隧道の調査に黄虎騎士団が出発する事になったという話が聞こえて来た。
また、国境の巡回のために赤狼騎士団が昨日のうちに王都を出立していたらしい。
王都に駐留する五つの騎士団のうち、二つが居ないのか。
それは一時的とは言え、王都の防衛力が落ちる事を意味している。
調査が進まないと、これ以上の戦力低下は無いだろう。
むしろ、騎士団が動く事で、王国全土で警戒態勢に入る可能性がある。
つまり、何かするなら今日が都合が良いって事だな。
「セニア、少し外に出ないか?」
「ええ。じゃあ騎士団に……」
「いや、中庭に行くだけだよ」
「そう?」
俺はセニアと連れたって、騎士団本部内にある中庭へと出た。
そこは背丈の短い芝生が植えられた、開けた場所だった。陸上の400mトラックとほぼ同じ広さがあり、使用目的も大体同じだ。
基本的には訓練目的で使用される場所だ。
何となく嫌な予感がした俺は、建物の中に居たくなかった。
かと言って、護衛を連れて王都を周る気にもなれず、屋外に出るもっともらしい理由として、選んだ場所だった。
空を見上げると曇っており、残念ながら太陽は隠れていた。
この世界に来てから、昼間に日の光を浴びる事が、少し楽しくなっていたから、ちょっとガッカリした。
灰色の空は、曇りと言うより雨の直前と言った印象を受けた。
「一雨来そうね」
俺と同じ感想を抱いたのか、セニアが空を見ながらそう言った。
「わかるのか?」
「空の感じと空気の冷たさね。風も強くなってきたし」
なるほどわからん。
そう言えばこの一ヶ月、雨なんて体験してなかったな。
日本に居た頃はヒキニートだったから、雨が降る直前の空気なんて当然感じて無かったしな。
中学時代は、どうだったかな?
若干中二病だったし、無駄に感じていたかもな(感じていたとは言ってない)。
「ん?」
そこで、俺は空に何かが居るのに気付く。
飛行機は勿論、飛行船も存在しないこの世界。空に居るのは鳥か竜か。
しかし見えにくいな。灰色の空に溶け込んで殆どわからないじゃないか。
鳥にせよ竜にせよ、下から見上げた時、灰色一色なんて奴がこの世界には居るのか?
まるで迷彩だな。まぁ、下から見つかりにくいって意味じゃ、野生の動物や魔物がそんな進化をしていても不思議じゃないけど……。
ん? 迷彩?
そう言えば、飛行機の迷彩って機体の下半分に施されるんだっけ?
その影はどんどん王都へ近付いてくる。
しかも、影は一つじゃなかった。十、二十……いや、もっといるか?
V字編隊を組んで飛ぶ事自体は、雁だってそうだし、別に不自然じゃないけれど、俺の頭の中では警報が鳴りっぱなしだ。
これ、従った方がいいかな?
『直感』のスキルは持ってないけど、無ければ勘が働かないって訳じゃないしなぁ……。
「セニア、建物の中に入るな」
「え?」
「それから、高い建物の傍に行くな」
「え? なに? あれの事? 鳥?」
俺の言葉を聞いて、セニアもそれに気付いたようだ。
「誰かに聞かれたら、神の使徒が戦いに行ったと答えておいてくれ」
「ち、ちょっと、タクマ!?」
「『ライトウィング』!」
そして俺は第五階位の真理魔法を使用して、大空へと舞い上がる。
何も無ければそれでいい。
けれどもしも俺の予想が当たっていたら……。
それは王都が壊滅する事を意味していた。
近付いて来ていた鳥らしき影と同じ高さまで飛び上がった所で俺は気付いた。
『ライトウィング』って、別に使用者を風圧や気圧や寒さから守ってはくれないんだな。
言ってしまえば魔法の光る翼を背中から生やすだけの魔法だもんな。それで浮力は得れても、上空を高速で飛行する事で起こる様々な影響から術者を守るようにはできてないんだ。
あ、相手? うん。グリフォンだったよ。
ライオンの体に鷲の頭を持つあれね。
勿論、野生のグリフォンが体の下半分を灰色に塗って編隊を組んで飛ぶ訳がない。
というか、グリフォンが編隊飛行をするなんて話は聞いた事が無かった。
グリフォンやドラゴンは基本単体で活動する。あって番だ。
そしてグリフォンは前足に何かをぶら下げていた。黒光りする鉄製の球体。
まぁ、爆弾だわな。
仮に爆弾じゃなかったとしても、この高度からあんなものを落とされたら、直撃した建物はただでは済まない。
え? ヒト?
まぁ、ミンチよりひどいことにはならないんじゃないかな?
俺は『マジックボックス』から火竜の全身鎧と火竜の兜を出現させ身に纏う。火竜槍を装備したところで『ソウルアームズ』発動。
これで下から見たら、俺は光る魔法の鎧に身を包んだ、光翼を持つ神の使徒、となった。
うん、イメージとしてはいい感じじゃないかい?
しかもこれで風圧とか寒さとかに耐える事ができるようになった。
空中での高機動戦闘による内臓への影響は、まぁ高いステータスでなんとかなるだろう。
グリフォン自体、そこまで空中での機動力がある魔物じゃないしな。
それに、グリフォンはともかく、その背中に乗っている奴は無事じゃすまないだろうし。
そう、グリフォンの背中、乗ってるんだよ。馬具がついてたからおかしいとは思ったんだ。
モコモコの灰色の暖かそうな服と、ヘルメットらしき防止、そしてゴーグルにマスク、とこの世界のものとは思えない装備に身を包んだ小柄な生物。
『アナライズ』で見れば種族はベテランゴブリンって出た。
ゴブリンの上位種だ。
ゴブリンがグリフォンに乗ってて、この世界にはあり得ない装備に身を包んでる。
もう嫌な予感しかしねぇよ。
グリフォン編隊はまだ王都の上空には差し掛かっていない。
ここで始末する!
グリフォンによる爆撃部隊とか、未来を先取りし過ぎだろ!
まず先頭のグリフォンに『インヴィジヴルジャベリン』を放つ。
流石に距離があったし、迫る魔力や風切り音で気付いたのか、体を傾けて躱されてしまう。
けれど、空中でそんな動きをすれば、体を傾けた方に流されてしまう。後方のグリフォンの編隊に若干の乱れが生じる。
すると騎手のゴブリン達が何やら手で合図を送り合っている。
先頭のグリフォンを中心に、編隊が乱れた右翼の部隊がその速度を落とした。
代わりに、左翼のグリフォン達が速度を上げる。
やべぇ、二手に分かれられた。
だからこのゴブリンの動きの良さはなんなんだよ!?
この世界で空中戦、それも、集団による戦いなんて普通想定しないだろ。
飛行速度は俺の方が上だ。俺を迎撃する構えを見せた編隊を素早く処理して、左翼のグリフォンを追いかける。
それしかない。
再び『インヴィジヴルジャベリン』を放つ。今度は五発連打だ。
一発は躱したようだが、次弾が先程躱したグリフォンに直撃。更にその後方のグリフォンに、残りが命中する。
グリフォン自体はこれだけじゃ倒せなかったが、命中したうちグリフォンのうち、二体の背からゴブリンが落ちた。
騎手が居なくなったグリフォンは、俺を敵と見做しているのでそのまま襲って来るけど、まぁ、後回しでいい。
なんせ、こいつら爆弾みたいな奴も落としちゃったからな。
重かったんだろうな。
よし。グリフォンは生命力も頑強も魔抵も高くて倒すのに時間がかかるけど、騎手のゴブリンさえ落としてしまえば、爆撃機としての機能を失うな。
それならなんとでもなる!
俺は光の翼に魔力を集中させ、速度を上げる。
迫るグリフォン達。
一体のグリフォンが口を大きく開けた。その奥が、オレンジ色に光っている。
火のブレスだ。けれど俺が装備しているのは火・熱属性の攻撃を無効化する火竜シリーズだ。
壊れているせいで防御力は著しく下がっているが、その特性はまだ健在だ。
怯むことなく接近。俺に向かってブレスが放たれるが、その中を突き進んだ。
「ぎゃぎゃ!?」
騎手ゴブリンが驚愕の表情を浮かべる。
多分、鳴いた筈だけど風の音が煩すぎて聞こえなかった。
そのままグリフォンの頭の上を通過。翼の間を通ってすれ違いざまに、グレイブで騎手ゴブリンを串刺しにする。
「ぎゃぁ……!」
おう、一撃で死なないのか。まぁ、LV30もあるもんな。
けれどこの高さから落ちれば死ぬだろ。
俺はグレイブを振るってゴブリンを振り落とすと、別のグリフォンへと狙いを変える。
四肢が使えるお陰で空中での方向転換が容易だ。
戦闘機のソレのように、大きく弧を描く必要が無い。
その分体や内臓に負担がかかるけれど、許容の範囲内だ。
反転のために制動をかけると、わかりやすくグリフォン編隊がこちらへ向かって来る。
引っかかりやすすぎだろ。
「『フラッシュファイア』!」
日本で言えば、毛玉の多い服の上を、高速で炎が走っていく現象の事だ。
一瞬のうちに全身に火傷を負うらしいから、火を使う時は衣服に気を付けろよ。
しかしこの世界では、第三階位の自然魔法である。
術者を中心に高温の炎を放つ魔法。
丁度、アルグレイの熱波に近い魔法だ。
「ぐぎゃああぁぁぁあ!?」
俺に向かって集まって来たグリフォンとゴブリンが魔法の炎によって薙ぎ払われる。
グリフォンは火に耐性があるから大したダメージにはならなかったようだけど、乗っているゴブリンは別だ。
体から黒い煙を吐きながら、ある者は落ちて行き、ある者はグリフォンの上で息絶えた。
そしてやはり、騎手が居なくなったグリフォンは、前足にぶら下げていた余計な荷物を捨てて行く。
やっぱ、重いんだろうな。
俺はすぐさまその場から離脱。
残った、騎手が無事なグリフォンへ向けて高速で飛翔。
『インヴィジヴルジャベリン』を牽制に使うという贅沢な戦法。怯んだ隙に高速接近して、すれ違いざまにグレイブでゴブリンを叩き落としていく。
何体かのグリフォンが編隊から離脱を始めた。
しかしその方向は王都だ。
俺を排除するのを諦めて、元々の目的を果たそうというんだろうけど、させるか!
魔法の力で飛んでいるとは言え、グリフォンの飛行速度と、機動力はそれほど高くない。
またゴブリンを背に乗せているせいで、俺のように無茶な機動を行えない。
追いつくのは容易だった。
殿のつもりか、何体かのグリフォンが俺の進路を塞ぐように割り込んで来る。
けれど、『インヴィジヴルジャベリン』でゴブリンを落としてやればそれで事足りた。
勿論、俺を敵だと見做しているグリフォンは、騎手が落とされてもそのまま攻撃を仕掛けてくるが、ブレスは効かないし、前足による攻撃も、その動きは緩慢だった。
多分ここまで重い荷物を運んで来ていて疲れてるんだろう。一部のグリフォンは、荷物を捨てる前に俺とすれ違ってしまって、碌に攻撃できない奴も居たし。
どこから飛んで来たのか知らないが、もしも前回のゴブリンフォート、ラザニアがあった辺りに本拠地もあるんだとしたら、こいつらはエレニア大森林から飛んで来た事になる。
対象物の少ない空中なので測りかねるが、グリフォンの飛行速度はおよそ60km/hほど。
なので大体二日かけて飛んで来た事になる。
そんな疲労困憊の状態で、俺を相手に空中で高機動戦闘なんて無謀もいいところだぜ!
迫るグリフォンの攻撃を掻い潜り、時にグレイブで、時に魔法で一撃を与えて離脱する。
倒さなかったんじゃなくて倒せなかったんだ。
やっぱグリフォンってタフだわ。
それでも包囲を抜ければ俺に追いつける速度の持ち主は居ない。
すぐに攻撃できない位置まで離れられたせいか、グリフォン達は俺を追いかけるのを諦めたようだ。
これで元々飛んで来た所へ帰るのか。それとも地上に降りて人を襲うのか?
まぁ、近くに黄虎騎士団が居る筈だから、そこまでの被害は出ないだろ。
楽観的過ぎるとは思うけど、正直、戦線を離脱したグリフォンまで構っていられない。
まだ二十体以上のグリフォンが、爆弾を前足に抱えて王都へ向かっているんだから。
殺気!?
追撃しようと翼に魔力を込めたところで、俺はそれに気付いた。
正確には、迫る魔力の塊を感知したんだ。
その場で横回転すると、それまで俺が飛んでいた位置を、魔法の槍が通り過ぎて行った。
地面から見ると、仰向けの形になり、攻撃された方向を見る。
そこには、一体のゴブリンが浮かんでいた。
ゴブリンか? あれ……?
緑色の肌に丸い頭、潰れた鼻は確かにゴブリンっぽいけど、頭には風になびく長い黒髪が生えている。
そして広げた両手には、烏の翼を思わせる、黒い羽が生えていた
名前:ダジリン・ザ・バード
年齢:5歳
性別:♂
種族:ワンダーアリス
役職:パエリア防衛司令官
職業:魔光師
状態:空腹(軽度) 疲労(中度)
種族LV53
職業LV:魔導士LV49 魔光師LV21 戦術家LV15
HP:1078/1096
MP:1920/1939
生命力:645
魔力:1423
体力:796
筋力:508
知力:927
器用:536
敏捷:602
頑強:286
魔抵:793
幸運:45
装備:黒福のローブ 黒狼革の服 黒狼革のズボン 泉の精霊石 清流のブレスレット
保有スキル
魔法戦闘 暗視 精神耐性 鋭敏感覚 異種族交配 風属性半減 魔力軽減 小鬼英雄 高速思考 並列思考 高速詠唱 詠唱省略 魔力感知
バインドシャウト 風雅結界 飛行 英雄力解放
ぎゃああぁあ!? アルグレイの同僚だぁぁぁあ!!
防衛司令官がこんな前線に出てくんな!
ワンダーアリスはゴブリンメイジの亜種であるブラックアニスの上位種だ。
魔法特化型かよ……。
あと名前……。あれ? もしかしてアルグレイも同じ系統の名前なの……?
「ほう、今の一撃を躱すか……。スキルを使ったヒトだと思ったが、使徒か亜神の類だったか?」
あ、はい。そうです、時空の神の使徒です。
「その姿に輝く翼。なるほど、光の神の使徒か光の亜神といったところか。ふむ、いいのか? この国は敵対しているのだぞ? お前が仕える神を崇める国とな」
帝国の事ですね。わかります。
「この国にも多くの信者がいるさ」
一応、反論しておく。
「なるほど。お前のような存在を置く事で、この国の人間を光の神の信者にして、そこからこの国を操るつもりか」
勝手に深読みするダジリン。
「それはそれで面白いが、しかしこちらにもこちらの目的があるのでな。恐らくは追いつけんだろうが、それでもどんな切り札が隠されているかわからん」
そしてダジリンの背後に浮かぶ、紫色に輝く三つの魔法陣。
無詠唱!? いや、詠唱省略か!
「ここでお前は排除させて貰おう。『エナジーレイ』!」
第三階位の世界魔法!
放たれた魔法の光は、一本の槍となって、三方向から俺を襲う。
「くっ……!」
ダジリンのセリフから、攻撃を仕掛けて来る事はわかっていたので、何とか回避が間に合った。
「ふ、やるな」
だが、回避した先にはダジリンが先回りしていた。
くそ、速い! 他の能力に比べれば、敏捷がそこまで高い訳じゃないけど、俺と比べれば相当強いからな。
アルグレイより遅いとは言え、こちらは慣れない空中戦。
どうしても一呼吸遅れてしまう。
振るわれた腕をグレイブで受け止める。
弾き返して今度はこちらの番、と思った時には相手は俺の視界から消えていた。
流石にザ・バードの名を冠するだけあって、空中での動きは速いな。
かと言って、地上に引き摺り下ろすには俺じゃ力不足だ。
まだこのまま戦った方が、勝機はあるだろう。
『サーチ』を常時使用中にしておき、相手の動きに対応する。
背後に回り込まれたのはわかったので、前転するような動きで上へと飛び上がった。
「『エナジーレイ』!」
直後に俺の下を通過していく魔法の槍。
俺はそのままの姿勢で『インヴィジヴルジャベリン』を放つ。
しかし俺から放った不可視の槍は、ダジリンに易々と躱されてしまった。
まさか、見えてるのか!?
いや、スキルには『魔力感知』があった。見えないまでも、感じ取る事はできるんだろう。
「だが!」
流石に体勢は崩れた。翼に魔力を込めて一気に肉薄する。
「ぬぅっ!?」
すんでのところで躱される。だが、それも想定済み。当たればいいな、くらいにしか思ってなかったからな。
振り下ろす勢いをそのままに、左足の踵を振り上げる。
「ぐはっ!」
その場で一回転するような動きで踵落としを決める。
俺の筋力はこいつの頑強より上だし、『ソウルアームズ』で能力が上昇している。
流石に『スマッシュ』は乗らなかったか。
考えてみれば、俺のステータスは頑強>筋力なんだから、武器を使うより素手で戦った方が強いんじゃないか?
今のところ、火竜槍以外では俺の筋力を十二分に発揮できる武器を持っていない。
通常、素手で全力を出せば、自分の体の方が衝撃に耐えられないんだけど、高い頑強でカバーできるのでは?
うん、そのうち試してみよう。
そのうちな。
何故今じゃないかっていうと、攻撃した踵がすげぇ痛かったからだ。
どうやら、相手の防御力が高かったせいで、攻撃したこっちもダメージを受けてしまったらしい。
そうかぁ、こういうデメリットもあるかぁ。
踵を振り下ろした勢いを上乗せして、俺は更にグレイブを振るう。今度は『スマッシュ』が乗る筈だ。
「『エネルギーブラスト』!」
直前で目の前に出現した魔法陣。そこから放たれた魔法に、俺は吹き飛ばされる。
ダメージは!? よし、そこまでじゃない。
咄嗟に放った第二階位魔法だからな。見た目は派手だけど威力は大した事無い魔法で助かった。
本来は広範囲にダメージを与える魔法だからな。
「『エナジーレイ』!」
しかしまた距離が空いてしまった。
すぐさまダジリンが俺に向けて魔法を放って来る。
翼に魔力を込めて全速力で飛ぶ事で、次々に襲い掛かる魔法の槍を回避する。
俺が進む先に次々と魔法陣が浮かび、そこから魔法の槍が射出される。
ただ真っ直ぐ飛ぶだけじゃ避け切れない。俺は時に速度を緩め、時に上下に動き、時にはその場で横回転するなどして、魔法を躱す。
その間にも俺は徐々に旋回し、ダジリンを正面に捉える。
しかしダジリンは俺の方を向いたまま横移動。それまで自分が浮かんでいた場所に魔法陣を設置し、魔法を放ちながらという厭らしさだ。
くそ、追いつけん!
ならばと俺も、ダジリンが移動する先に魔力の起点を設置し、そこから『インヴィジヴルジャベリン』を放つ。
ダジリンが横回転で回避する隙に速度を上げ距離を詰める。
更に『ランスストライダー』のスキルを発動させ、突き出すように槍を構えた姿勢のまま、ダジリンに向かって突き進む。
「うぐぅっ!?」
これは流石に躱せなかったらしく、何とか身を捻ったダジリンのわき腹にグレイブが突き刺さる。
よし、好機!
ここを逃す訳にはいかない。
すぐにダジリンの背後に『インヴィジヴルジャベリン』を出現させ、挟みこむ。
「ぐはっ!」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉおお!!」
翼に魔力を込め、更に『ランスストライダー』を連続発動させる。そして、背後からは『インヴィジヴルジャベリン』を連打。
魔抵自体は高いから、魔法がどれだけ効果を発揮しているか微妙だけれど、これは相手を後ろに下げないための保険だから、例え1でもHPが削れればそれでいい。
「調子に、のるなあああぁぁぁぁぁあ!!」
「どわっ!?」
一瞬、ダジリンの体に魔力が収束されたかと思ったら、つぎの瞬間、俺は吹き飛ばされていた。
ダメージはそれほど出ていない。アルグレイの『熱波』のようなスキルか?
そう言えば、風属性の防御スキルみたいなのがあったな。
「なるほど。スキルを使用して実力の低さを補う戦法か……。ふふ、まるで我らが王のようだ」
多分、アルグレイの『大将』と同一人物の事だろうな。ん? 人? ゴブリン?
「だが、小手先の策が通じるのはここまでだ」
いや、お前『戦術家』持ってんじゃん。むしろ小手先の策で劣勢を覆す側だろ。
「我はユリアン三鬼将が一体、ダジリン・ザ・バード! この名の持つ意味、とくと味わえ!」
宣言と同時に、周囲の魔力が渦巻き、ダリジンに集まり始める。
え? まさかアルグレイと同じ変身!?
この状態が既に変身後じゃなかったのか!?
確かに、アルグレイは完全な犬型だったもんな。
なんて膝打ってる場合じゃない。
アルグレイも変身したら全体的なステータスとスキルが強化されていた。
時間稼ぎも地形を利用する事も難しいこの状況で、更にパワーアップとか手に負えるか!
俺は『ランスストライダー』を発動させてダジリンへと突撃する。
「ぐ……!」
しかし、濃密な魔力に阻まれて、穂先が前へ進まない。
「変身中に攻撃するとは、無粋な」
「だったらバンクでも用意しときやがれ!」
俺はその状態のまま、ダジリンの周囲に火球を出現させる。
威力や命中精度より、広範囲に爆裂を撒き散らして魔力を拡散させる事を優先。
正直、うまくいくかどうかはわからないが、やらないよりはマシだ。
「『フレア』!!」
ダジリンを中心に無数の小爆発が起きる。
俺も巻き込まれたが、火竜の全身鎧と兜で無効化している。
やったか!? とは言わない。それは完全にフラグだからだ。
代わりに俺は更に畳みかける。
アルグレイと違って頑強が低いので、こいつに必要なのは一撃の威力より手数だ。
突き攻撃による連続攻撃、『ダブルスパイク』を発動させ、更にそこから無数の連続突き、『インフィニティスパイク』へと繋げる。
『槍戦士』ではLV90にならないと獲得できない上位スキルだ。
亜種の『重槍戦士』や上位職業なら低いLVで済むけどな。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!!」
折角なのでそんな掛け声と同時に、爆炎の向こうへ槍を間断無く繰り出し続ける。
てか手応えがねぇ。
いや、何かに当たってるのはわかるんだけど……。
「『マジックトルネード』!!」
「!?」
その連続攻撃の繋ぎを縫うかのように魔法が放たれた。
第六階位の世界魔法。流石にこれを食らう訳にはいかないので、強引にスキルを中止して身を捻って躱す。
風が逆巻き、爆炎が吹き散らされる。
煙が晴れたそこには、一体の巨大な梟が居た。
黒い毛並みの梟。金色の目が俺を射抜く。
「これぞ我が真の姿。この空は我の庭だ。人間如きが我が物顔で飛び回るな」
――HOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――
アルグレイと同じく、発声器官が変わったためか、声がくぐもって聞こえた。
直後に響く、梟の鳴き声。
アルグレイの咆哮とは違って、特に下腹に響くような感じはしないが……。
動かないし、体。
これがバインドシャウトか!? アルグレイのものに比べて広範囲。そして、効果時間とうか、当たり判定の時間が恐らく長い。
厄介過ぎる……!
「散れ」
そしてダジリンの背後に浮かぶ紫色に輝く魔法陣。
その数……八、九、十個!
多くねぇかなぁ?
「『エナジーレイ』」
そして俺に向けて、必殺の魔槍が放たれた。
出ました二体目の三鬼将
やったか!? はやってないフラグ
そして絶対絶命で次回へのヒキはピンチ脱出のフラグですね




