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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第二章:エレノニア王国探訪記
37/149

第35話:エレア隧道

王都へと向かう話です


テテスとの熱い別れ(笑)の後、俺とセニアは軽く昼食を摂り、王都へ向かって旅立った。

もう一日いてもいいとは思うけど、そろそろ祝福の日だ。

門が混む前に外に出てしまいたかった。


ルードルイに大勢の人がやって来るという事は、これから俺達が進む事になる、エレア隧道も混雑するという事でもある。

今から馬を走らせれば、なんとかその前に隧道を抜けられる算段だった。


西門で一時間待たされてから出発。ルードルイから西に伸びる街道を馬で二時間程進むと、エレア山地の麓に辿り着く。

この山道もよく整備されていて、馬で登る分にも問題が無かった。


「この鞍とても具合がいいわね。こんな山道でもあまり衝撃が来ないわ」


ハイソな人は感じる場所が違った。


山道を一時間、遂にそれは姿を現す。

高さ五メートル、幅三十メートルの巨大なトンネル。

入口には警備員の詰め所が置かれていて、同時に通行税も取っていた。


入口前の広場には既に長蛇の列ができている。

けれど、中に入ってしまえば馬で一気に抜かしても問題が無かった。

左通行とかのルールは無いんだ。

往く人の多くは馬車や徒歩なので、わざわざ徒歩で一日かかるこの隧道を急いで抜けようとしないからな。


入り口前には他に屋台などの商店があり、宿も建設されている。

隧道の中にも同じように店や宿があり、中で宿泊できるようになっている。


三十分程待って、俺とセニアも通行税を払って中へ入る。

通行税は一人30デュー。荷駄などは馬一頭につき10デューだ。

日本の高速道路などを考えれば、この通行税はやや高い気がする。

けれど、王都へ行く人間の殆どがこの隧道を利用する。


ルードルイと王都は、この隧道が完成するまで、王都北にあるイウニスを経由して十日かかっていた。

当然、今も隧道を使わなければ同じだけの時間がかかる。

日にちがかかれば、当然その分旅費が嵩むし、安全性の問題も出て来る。


だから誰もがこの隧道を利用するんだ。


じゃあ代わりにイウニスが衰退したかと言うと実はそうでもない。

イウニスは王国北部と北西部を繋ぐ重要な拠点でもあるからだ。

むしろ、王国とルードルイが繋がり、繁栄した結果、イウニス経由で北から物資が流入するようになり、隧道開設前よりむしろ潤っていた。


卵型にくり抜かれた巨大な穴。

等間隔で木製の支柱と矢板が設置されていて、崩落を防いでいる。

同じく等間隔で魔法の明りが設置せれていて、トンネル内をオレンジ色の柔らかな灯りが照らしていた。


「見たことの無い漆喰よね。これがあるからこの隧道は完成したそうよ」


速歩の速度で馬を走らせながら、セニアが感心したような声を上げた。


「へぇ……」


俺も感心したような相槌を打つ。

ていうかあれ、コンクリートだよなぁ。


独特の質感と灰色のソレは、間違い無くコンクリートだった。

まぁ、地球でも古代ローマでコンクリートはあったらしいけど、どうなんだろう?

『常識』に無いって事は新技術? それとも転生者か転移者が知恵か技術を提供したか?


まぁ考えてもわからない事は考えても仕方ない。

昔の俺なら、むしろそうした無意味な事を延々と考えていただろう。


けれど今の俺は違う。


一人で益体の無い事を考えるより、セニアと会話している方が楽しいからだ。

昔だと楽しそうだと思っても、失敗するのが怖くて話しかける事さえできなかったからなぁ。


俺も成長したもんだ。


「うん?」


今、なんか揺れたか?

地震……?


「なぁセニア、今……」


ずずず。


セニアに尋ねようとすると、今度は地響きまで聞こえて来た。


「セニア、今」


「近くで採掘でもしてるんじゃないの?」


答えるセニアの言葉に危機感は無い。

『常識』によると地震の知識は無い。伝承の中に『大地の神の嘆き』と呼ばれる、一夜にして大都市を崩壊させた災害が残されているけれど、多分これが地震だろうな。

つまりそれは、神話になってしまうくらい、馴染みが無いものだという事だ。


エレア山脈は王国内でも有数の鉱山地帯でもあるから、隧道の近くで採掘が行われていてもおかしくはない。

ダイナマイトなんて無い世界だけど、それは魔法で代用できるだろう。


「そうかなぁ……?」


仮に地震じゃなかったとしても、今の揺れ方はやはりおかしい。

隧道での事故で一番懸念しなければならないのは当然崩落事故だ。

その事故を誘発する可能性のある発掘を、近くでやるか?


他国との国境にある山ならともかく、王国内の山だぞ?

鉱山の拡大より隧道を保護した方が利益に繋がるくらいわかる筈だが……。


他の客達も誰も気にしていないようだが、やはり嫌な予感がする。


ずずん。


再び揺れと地響き。


「走れ」


「え?」


「できるだけ出口に向かって素早く駆けろ!」


「あ、待って!」


俺は言うが早いが、馬の腹を蹴って駈歩に変えて走り出す。

セニアも慌ててついて来た。


ずずずずずずず。

その俺達を追いかけるように、地響きが入口の方から聞こえてくる。


ドドドドドドドドド。


「うわぁ!?」


「な、なんだ!?」


更に轟音が響き、悲鳴が聞こえてくる。


「マジか!?」


入口のほうからどんどん隧道が崩落して来ている。

いったい何が!? いや、今はそんな事はどうでもいい!!


「だめ、追いつかれる!」


セニアも事態に気付いたようだ。

後ろを振り返りながらも、馬の速度を緩めない。


「セニア、馬借りるぞ!」


「え? ええ!?」


俺は馬をセニアの傍につけ、その背後に飛び移る。

俺という荷物を下ろした馬は、そのまま速度を上げてどんどん遠くへと逃げて行く。

相変わらず薄情な馬だ。


「な、なに? なに!?」


「魔法を使うのに両手が必要だった!」


セニアの背後で向きを変え、背後を向く。

うぉぉ、怖ぇ。


高速で走る馬に後ろ向きに乗るというのも恐怖だが、逃げる人々を飲み込みながら土砂が迫って来るというのは、その迫力も相まって凄まじい威圧感だ。


大穴セカンダス・ノーム!!」


本来なら人一人分くらいの穴を開ける精霊魔法だけど、『効果拡大』と『範囲拡大』を重複発動させる事で、俺を中心に半径三十メートルを対象にする事に成功する。

『対象識別』も併せて発動させる事で、元々隧道に設置されていた支えと、コンクリートまで消すとマズいので、これらは残す。


「馬、止めて!」


「う、うん!」


そしてゆっくりと馬がその歩みを止める。

同時に、地響きも止まっていた。


「と、止まった……?」


「助かったのか……?」


同じように逃げ惑っていた人々も、足を止めて振り返っていた。

しかしそこで皆一様に表情が凍り付く。


三十メートル先までは無事だけど、その先は完全に土砂で塞がれている。俺の魔法によって、空中で土が止まっているのも恐怖の対象だろう。


『サニティ』『サニティ』『サニティ』……。


「セニア、前の方はどうだ?」


「え? あ、うん。大丈夫。進めそうよ」


「よし、じゃあこのままゆっくり進もう。皆も、俺より後ろに行かないようについて来てください」


「だ、大丈夫なのか?」


「わかりません」


「なんだと!?」


「無責任じゃないか!?」


口々に非難を口にする行商人達。

まぁ、こんな非常事態だから仕方ないとは思うけど、俺を責められても困る。


「俺もこんな状況は初めてなので、どうなるかわかりません!」


「し、しかし……!」


「このままここに居れば確実に死ぬぞ!」


尚も食い下がろうとした商人を、セニアが一喝して黙らせる。

思わず、俺も首を竦めてしまった。


「私達はこのままゆっくりと出口へと向かう。当然、この魔法もそれに合わせて出口へと向かう訳だ。その時、ここに残っていたらどうなる!?」


セニアが指差す先は、俺の魔法によって土砂が堰き止められている場所だった。

まぁ、想像するのは簡単だな。


「ところでタクマ、何故ゆっくり進む? 確かに彼らの速度に合わせる必要があるとは思うが」


「今は魔法で止まっているとは言え、間違いなく崩落自体は続いている。あまり早過ぎると、どんな連鎖反応が起きるかわからない。最悪、この魔法の範囲以外、全て埋まってしまう可能性だってある」


俺の言葉にざわめく商人達。


「そうか、なら仕方ないな」


そして、セニアの馬がゆっくりと歩き始めた。



「自然現象かな?」


「どうかな? そういう事故が起きないように気を遣っていた筈だ。セニアも見ただろ?」


「そうね……」


ここに来るまで、何人もの作業員を見ていた。

彼らは梁やコンクリートに不備が無いか確認していたからな。


恐らく、日本のトンネルなんか比べ物にならないくらい安全に考慮しているだろう。

点検を毎日行えるように人員を配置していたんだ。


「人為的なものってこと?」


「その可能性の方が高い。大体、自然に崩落するんなら、入口から順番じゃなくて、隧道の真ん中の筈だ」


そこが一番、負担がかかっている場所なんだから。


「けれど一体誰が……?」


「この隧道が潰れて得をする人間はこの国にはまず居ない。けれど、国の外には大勢居る。特に北に六百万人ほど……」


「帝国の仕業だと!?」


「隧道を崩すにはそれなりの技術と人手が必要だ。それを王国に気付かれないように配置するとなると、かなりの組織力が必要だろう?」


「うぅ……む……」


俺の推理にセニアは黙ってしまった。

帝国の王族としては賛同できないけれど、しかしいかにもやりそうではあるからだろう。


「あくまで例の一つだよ。さっきも言った通り、国外にはこの隧道を潰したがっている人間や組織は多い。俺達素人じゃ真相なんてわからんさ」


「あの、集中してもらえんか?」


俺達の会話を聞いていた商人が口を挟んで来た。

周囲の人々の中にも、頷いている者も居る。


「集中するって言っても、魔法の事だけ考えてると余計に精神を消耗するんだよ。こういう時は別の事を考えていた方がいいんだ」


「そ、そういうものか?」


俺達が移動するごとに、後方が土砂で埋まっていっているんだ。怖がるのも仕方ないけどさ。


「あ、セニア、頼む」


「はいはい」


セニアは俺のリュックからマジックヒーリングポーションを取り出し、俺の口に当てた。

セニアが角度をつけるのに合わせて、栄養ドリンクに近い味の液体が口の中に入って来たので、俺も顎を上げて、それを嚥下する。


MPが少し回復したのがわかった。

けれど、それもすぐに減り始める。

通称『トンネル』と呼ばれる第二階位の精霊魔法をずっと使っているからだ。


これは想像以上にきっついなぁ。

周りの人間もつらいんだろうが、できれば俺に非難めいた目を向けるのはやめて欲しい。

感謝しろとは言わないけど、俺一応君らの命の恩人よ?


あんまり俺の精神削ると、セニア連れて『テレポート』しちゃうからな。


勿論、そんな事を言うつもりはない。というか脅しにもならないだろう。

『常識』にもない第九階位の神理魔法だ。セニアだけになら見られても構わない。黒い言い方をすれば、俺達が『テレポート』で飛べば、彼らは土砂に潰されてしまう訳だし。

ちなみに神理魔法とは、世界魔法と自然魔法と精霊魔法にそれぞれ二つずつ習熟すると使えるようになる、真理魔法と天理魔法と超理魔法を全てに習熟すると使えるようになると言われる魔法だ。

伝聞系なのは、歴史上この魔法を使えた者が存在しないから。そもそも神理魔法という分類が、『常識』の中に無い。

高いLVの魔法使いでも知っているかどうか。

俺は『魔導の覇者』で知る事ができるだけだしな。



その後も暫くはセニアと会話しながらだったが、半日もすると、二人とも疲れてしまい、無言になる。

そうなると、周囲の人々も、俺の邪魔をしないようにと無言になってしまった。


うぅむ、空気が重い。


最早、セニアにMPの回復を頼む時くらいしか口を開かなくなっている。

歩くよりも遅い速度なので、最初に飛ばしていた分があると言っても、まだまだ先は長いだろう。


これはマジで彼らを見捨てる事も選択肢に入れないといけないな……。


「ところでタクマ、その魔法を使ったまま休む事ってできるの?」


ふと、セニアが俺に尋ねて来た。


「休憩くらいならできるけど、結局MPは使ったままだからなぁ。疲労の回復もあんまり期待できないし」


こんな事なら作った強壮剤を少し残しておくんだった。


「じゃあ寝る事なんて……」


「まず無理だね」


商人達の空気が変わるのがわかった。

俺が寝ないという事は、彼らも眠る事ができないからだ。

だって俺はその間も進み続ける訳だからな。

寝てる間に魔法の効果範囲から出たら目も当てられない。


「よかったらこれを……」


言って、一人の商人が差し出したのは、小さな陶器だった。


「これは?」


「元気ドリンクが入っています。まだ数はあるので遠慮なさらずにどうぞ」


「ありがとうごぜいます。そういう事なら……」


俺はセニアに頷いて見せる。セニアも頷き返し、陶器を受け取ると、そのまま俺の口に持って来た。

この状況で毒を盛る奴なんていないからな。

一応『アナライズ』で確認したけれど、間違いなく元気ドリンクだ。


森などで大量に採取可能な薬草とアオダケを『錬成』するか『薬師ファマシティスト』で『製薬』する事で造れる、体力回復のアイテムだ。

勿論、機材を揃えて、正しい手順を踏んで、時間をかければ、スキル無しでも造る事はできる。


効果は状態異常『疲労』を一段階回復。強壮剤より効果は低いが、変な副作用が無い分汎用性がある。

何より安い。

なので普通は街で造って、その街の中だけで消費されるものなんだけどな。

あとは冒険者とかが買い込むくらいか。


「商売用ではなくて自分用です」


旅に疲労はつきもの。それ用の栄養ドリンクって事だな。

しかしこの元気ドリンクというネーミング。転生者か転移者か召喚者が(要はこの世界以外の人間が)関わっていそうな名前だ。

造り方は簡単なので偶然なんだろうけど。


ちなみに二つ飲んだからと言って、一気に『疲労』が二段階回復する訳じゃない。

最低四時間、間を置かないと効果が発揮されないんだ。


「セニア、MPの方も頼む」


「わかった。……ねぇ、もうポーションないけど?」


セニアの言葉に、再びざわつく商人達。

彼らの多くは、俺と自分の荷物を交互に見比べていた。

おそらく、今度は商売用のポーションを持っているためだろう。


「ポーションは無くても、別のがあるだろ?」


「え? あ、ほんとだ。魔力回復薬なんてまた高級品を……」


「大事だろ?」


「まぁね」


ちなみに、魔力回復薬は今まで『マジックボックス』の方に入っていた。

セニアがポーションがもう無いと言った時、リュックの中身はほぼ空だった筈だ。

そこで俺は『マジックボックス』からリュックの中へ、魔力回復薬を移動させたんだ。


5ミリ程の丸薬を口に放り込んでもらう。


ゴブリンフォートで飲んだ時にも思ったけれど、苦い。

正露丸のAじゃない方を更に苦くした味がする。


「水が欲しい……」


「無いわよ」


そう言えば、最近は俺が魔法で創ってたんだった。


「よろしければ、どうぞ」


今度は別の人間が水袋をセニアに渡した。

商人とは違う、旅人の恰好をした男性だ。冒険者か?


「ありがとう」


「すまん、助かる」


お礼を言って、セニアが受け取り、俺もお礼を言って水を飲ませて貰った。


ふぅ、落ち着いたぜ。


「よう、保存食で良ければ食うかい?」


「元気ドリンクなら俺もあるぜ」


「強壮剤があるけど、その状態だと余計精神消耗しそうだな」


そこで一笑い。


どうやら、最初にあったピリピリした雰囲気は無くなったようだ。


「ありがとうございます」


あー、人の善意って、本当に心に沁みるんだなぁ。

マジで泣きそうだよ、俺。



隧道を出たのはそれから更に一日後だった。

光が見えた時の、周囲の人間達の喜びようったら無かったからな。


途中から天井が崩れなくなったけれど、念のため、俺は魔法を使ったままゆっくりと進んでいた。

全員一丸となって俺に協力してくれた事もあって、俺は心が折れる事無く、最後まで魔法を使い続ける事ができた。


マジ感謝。


まぁ、心が折れたら見捨てるだけだったけど、でもやっぱりここは感謝するべきところだろう。

死ななくて良かったな、なんて、上から目線で言える程、鬼畜じゃないぜ。


「大丈夫か!?」


隧道を出て、抱き合ったり涙を流したりして喜んでいる所に、数人の兵士がやって来た。

先に隧道を出た人々に報告を受けた警備の人間だろう。


「突然の地鳴りと地響きの後、いきなり隧道が崩れ始めた。魔法を使ってなんとか途中で食い止め、ここまで辿り着いたが、多くの者が犠牲になってしまった」


「なんと……!?」


セニアの言葉に兵士達は絶句してしまう。


「隧道も半分以上埋まってしまっている」


「……そうか……」


そちらに関しては門外漢なのか、少し落胆した程度だった。


「貴方たちのお陰で助かりました。なんとお礼を言っていいのやら……」


「いえ、俺達の方こそ、色々助けていただいて」


「しかし、あれほどの魔力。さぞや高名な魔法使い様なんでしょうな」


「いや俺達は……」


「その通り、ここに居るタクマ・サエキ殿は、あの時空の神、フェルディアルの使徒である!」


セニア!?

おお、と周囲から感嘆の声が上がる。

予想以上に歓声が小さいのは、おそらく、殆どの人間がフェルディアルを知らないためだ。

多分、神の使徒、という単語に反応しただけだろう。


「この度は民を救っていただき感謝する」


そこは流石王都周辺の警備兵と言うべきか。中年の警備隊長らしき人が、冷静に俺に話しかけて来た。


「詳しい事情を聴きたいので、王都まで同行願えるだろうか?」


「構いませんよ。元々王都に向かうつもりでしたし」


「済まない」


そして俺とセニアは警備隊に連れられて王都へと向かう。

俺はセニアとタンデムだ。

俺が乗り捨てた馬は見当たらなかった。どこかへ逃げてしまったんだろう。


まぁ、元々俺のじゃないからな。全く懐かれてなくても仕方ない。

べ、別に寂しくなんてないんだからね。

あんなぶどう酸っぱいに違いないんだから。


警備隊に囲まれて、護衛だか護送だか微妙な状態で、王都へ。

途中で野営を挟み、二日かけて辿り着く。


ルードルイより更に高い城壁に囲まれた都市だ。

モンスターが跋扈しているせいか、基本的にこの世界の都市って円形の城壁に囲まれてるから、外観はあまり変わらないから面白みにかけるなぁ。


警備兵と一緒だったので門はスルー。ルードルイ程ではないが、検問待ちの人々の列ができていたので、これを回避できたのは嬉しい。

門をくぐると石畳の地面に、煉瓦造りの建物が並んでいた。

ここは兵士の詰め所や訓練所、官舎などがあるエリアで、王都の城門は東西南北に一つずつあるんだけど、その更に内側にもう一枚城壁があり、どの門から入っても、南からしか市街地へは入れないようになっている。

二つ目の門をくぐると大通りが真っすぐに伸びていて、その先には幾つもの尖塔が目立つ王城がある。

王城を中心に貴族の屋敷や公的機関の建物、商館、住宅街などが放射状に広がっている。


賑わってはいるが、その喧騒はどこか大人しい。

やはり、交易を中心にしたルードルイと違い、こちらは王国の運営が中心だからな。その違いだろう。


王都には水の神の神殿と、大地の神の神殿、そして光の神の神殿がある。

ちなみに、教会とは違って神殿は、本来各国ではなく、大陸東部で一つなんだけれど、この世界で最も信仰されている光の神の神殿だけは、各国に一つ置かれていた。

とは言え、それはエレノニア王国やフェレノス帝国などの大国の話で、周辺の小国には神殿が一つも無い国も多い。


実際に神が祝福を授け、恩恵を与えてくれるこの世界では、その神の代行者である神殿の建立は、国威を示すための重要事業だった。

光の神を例外とすれば、各神の神殿は一つしか建設できないので、どうしても各国で神殿の取り合いになる。

勿論、勝手に建設する事は許されない。

そもそも神々自体がそういう風に定めてるからなぁ。つまり、神から許可を得て神殿を建立する訳だから、無許可で建設しても洗礼を授けられないんだ。

そうすると偽物のレッテルが貼られてしまう。へたをすると、その神殿の神自体にも悪影響が出るので、無許可の神殿は神罰が下るそうだ(物理的に)。


俺達が連れていかれたのは、王城の傍に建設されている王国騎士団の本部だ。

流石にこのまま王城に入れるような事はないらしい。


「少しここで待っていてくれ」


隊長さんがそう言い残し、一人騎士団本部へ入っていく。俺達はそのまま入口前で待たされる事になった。


暫くして、隊長さんが戻ってくる。


「準備ができたので、来て貰えるか?」


疑問形だけど拒否は許されないだろうな。任意の事情聴取と一緒だ。

あれ、断っても罪に問われないらしいけど、じゃあいいです、とはならないらしいからな。


「はい、わかりました」


そして俺とセニアは隊長に連れられて騎士団本部の中へ入る。

石造りの無骨な建物で、飾り気の無い廊下は、質実剛健さを体現しているようだった。


案内されたのは本部内の一つの部屋。

隊長さんがドアをノックすると、入れ、と部屋の中から反応があった。


誰何の声も無しにいきなり入室許可とは。

鷹揚なのか、それとも自分の腕っぷしに自信があるのか。


隊長さんがドアを開け、俺達を中へと促す。あなたは来ないんですね。まぁいいけどね。


「失礼しまーす」


「失礼します」


一応そんな声をかけて室内に足を踏み入れる。俺に続いて、セニアも入って来た。


「うむ。ご苦労」


そう言って俺達を出迎えたのは、白銀の鎧に身を包んだ初老の男性だった。




名前:エドワード・グレン

年齢:42歳

性別:♂

種族:人間

役職:エレノニア王国白鷲騎士団団長

職業:神性騎士

状態:平静

種族LV43

職業LV:戦士LV24 槍戦士LV18 重槍戦士LV15 神性術士LV18 神性騎士LV19 騎手LV15 事務員LV4


HP:362/362

MP:324/324


生命力:218

魔力:188

体力:203

筋力:202

知力:186

器用:213

敏捷:207

頑強:165

魔抵:149

幸運:71


装備:騎士の大剣 白鷲の鎧 白鷲の盾(未装備) 白鷲の兜(未装備) ハガギの服 聖槍ウェンデル(未装備)




うわー、普通に強い。

そして『事務員クラーク』から漂う苦労人感……。


職業LVの分布を見ると、この人職業獲得条件わかってるんじゃないか? と言いたくなるな。

ちなみに白鷲シリーズは、別にそういうモンスターや魔物が居る訳じゃなくて、白鷲騎士団に貸与されているオリジナルの武具というだけだ。

ハガギの服は、ハガという木綿に似た性質の繊維を使った作られた服で、特に防御性能は高くないものの、動きやすく、保温性に優れ、蒸れにくく、通気性も良い、というジャージを高性能にしたような服だ。

二十年前に突然現れた天才服飾師によって考案されてから、多くの騎士や兵士が愛用するようになったと言われている。

俺はこの服飾師、転生者か転移者じゃないかと睨んでいる。


白鷲騎士団は王国に五つある、国王直轄騎士団の一つで、王都の防衛を担っている。

ちなみに近衛兵は別に居る。




「私は白鷲騎士団団長を務めるエドワード・グレンだ」


「冒険者をやっております、タクマと申します」


「同じく冒険者のセニアです」


隧道で一緒になった商人達には、俺達が名前で呼び合っているのを聞かれている筈なので、ここは素直に名乗っておく。

セニアはそれでも偽名だけど。


王都防衛の騎士団の人なら、帝国王女を見た事無いかもしれない。

仮にあったとしても、こんなところで冒険者をやっているとは思わないだろう。


「エレア隧道が崩れたと聞いたが?」


「はい。しかし若干情報が違っていますね」


「と言うと?」


「崩れたのではなく、崩された(・・・・)のです」


「ほう……」


俺の言葉に、エドワードさんは肩眉を僅かに上げた。


「自然な崩落なら、入口から順番に崩れる事はあり得ません。勿論、入口側がどうなっているか、俺達ではわかりませんが……」


それでもあの崩落は、入口方向から徐々に出口へと向かって崩れて行った。ならば、入口が崩された事で、徐々にトンネルが支えを失って崩れていったと考えた方が自然だ。


「そちらに関しては調査中だが、恐らくはその通りだろうな」


エドワードさんはあっさりと認めた。


「自然崩落でも十分問題だ。あの隧道は今の王国に無くてはならない程有用なものだったからな。そしてあれが人為的なものであったとしたら、これは明白な王国への攻撃である」


ルードルイやその周辺の街道を攻撃されたのなら、それはその土地を治める領主の問題になる。領主が自分達の手に負えないと判断し、救援を要請しない限りは、王国は動かない。

勿論、今回のエレア隧道のように、王国内に非常に大きな影響を与えると判断された場合はその限りじゃないが。


の目的がなんであれ、エレア隧道だけが目的という可能性は低い。ならば、次はどのような手で来るか……」


王都とルードルイを繋ぐ隧道を塞いだんだ。それだけでも通商破壊としては十分な成果だ。

更に結果を求めるならば、隧道が塞がれた事で重要性が増した、王都とルードルイを繋ぐ北のイウニスを攻めるか。

それとも、王都との繋がりを断った事で、孤立したルードルイを攻めるか。


「だがどちらもそれなりの規模の軍隊を差し向ける必要がある。しかし、そのような動きは確認されていない。とは言え、今この時にも国境に敵が迫っているかもしれんのでな。そこで君達にはある事を頼みたいのだ」


「事情聴取ではなかったのですか?」


「隧道が崩され、君たちはそれに巻き込まれた。魔法を使ってなんとか生還した。それ以上に何か聞く事が?」


「えっと……」


そう返されたら言葉も無い。


「勿論、君たちに何の疑いも抱いていないという訳ではない。自らを事故に巻き込む事で被害者を装い、その後の追及を逃れるというのは常套手段だ。だが、今回のそれは度が過ぎている。一歩間違えれば死んでいただろうし、周囲の商人たちの協力が無ければ、出口まで辿り着けなかっただろうという報告も得ている」


確かに、あの状況で俺達が犯人だというのは少々猜疑心が強すぎるように思える。

王都を守る役を与えられているのだから、そのくらい疑り深くても当然のように思えるが、しかし逆に誰も彼もが怪しくなってしまい、まともに機能しない可能性の方が高いよな。


「君たちには暫く王都に滞在して貰いたい。エレア隧道の調査が終わるまで。まぁ、早くて一月程だな。当然、その間の滞在費はこちらが出すし、報酬も払おう」


「それは王都の防衛を任せるという事ですか?」


「ある意味ではそうだ」


ちょっと俺の想像とは違う方向に話が進んでいる。急いでシミュレーションし直さないと、まともに会話できなくなるぞ。


「エレア隧道を崩壊させたのが、この国の経済に打撃を与えるつもりだったとしても、それによる混乱はわずかなものだ。すぐに商人達はエレア山地を迂回するルートを取るようになるし、今回の事を報告すれば、補助金は王国が出すため、物資の極端な値上がりも防げるだろう。今回の事だけで王国が著しくその国力を減衰させる事はあり得ない。

ならばこれは布石だ。次の一手のためのな。そして時間をかければこの布石はその意味を失う」


つまり、敵が動くなら早いうちに動くと読んでいるんだな。


「今の段階では敵がどうやってエレア隧道を崩したのかがわからない。国王が太守時代に作り上げたあの隧道は、まず第一に安全性を考えて作られたそうだからな。すぐ傍で鉱石の採掘を行ったとしても、そうそう崩れるようにはできていない筈だ」


だから、王国側には、今の所何故エレア隧道が崩れたのかわからないんだ。


「つまり、敵は我々にとって未知の手段を有している可能性がある。それに対処してみせた、君たちに期待するのも理解できるだろう?」


「魔法で崩落を食い止めただけですよ」


「いや、その前に前兆に気付き、素早く行動しただろう? 魔法による防御は結果に過ぎない」


そこまで細かい報告がされてるのか。確かに、ゆっくり進む俺達と違い、全速力で出口へと向かった人は大勢居た。

出口までに崩落が無かったから、彼らは当然、無事に辿り着き、そして警備兵に状況を伝えている筈だ。

その過程で俺達の事も知られたか。


依頼の形をとっているけど、これはほぼ命令と同じだ。俺達に断る選択肢なんてない。

断れば、自分達にやましいことがあると言うようなものだ。

それがエレア隧道崩落に関わる事でなかったとしても、現状、彼らがどのように思うかは想像に難くない。


「わかりました。暫くお世話になります」


「うむ。寝起きは騎士団の客室を使ってくれたまえ」


俺達は王都に暫く滞在する事になった。

一ヶ月もすれば、当然次の仕送りをまたぐ事になるけれど、エルフからの報酬がまだ残っているから大丈夫だろう。


多分、監視もつくだろうから、暫くシュブニグラスには行けないな。


アルグレイの事を考えると、金稼ぎ以外でもレベリングのために迷宮には行きたかったんだけどな。


王都に滞在する事になりましたが、フェルディアルがあまり長くタクマを放っておくわけがありません。

状況はすぐに動きます

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