第34話:気分はご老公(のお供)
テテスのエピソード最終回です
レバンノ爺さんとイブリードさんに挨拶回りと称してあちこち連れ回された。
「根回しはテテスから話を聞いてからじゃなかったのか?」
「顔見せだけでもしとけば、後の反応が違うからよ」
理屈はわかるけれど、それに俺がついて行く必要はあるんだろうか?
「護衛を任せてるとは言え、連れを待たせてるんだけど……?」
「ふむ、ならそろそろいい時間だし、昼飯買って陣中見舞いと行くか」
「ところでそれはなんだ?」
俺が時計で時間を確認していると、イブリードさんが尋ねて来た。
「ああ、これは時計って言って、時間を知るための道具だよ」
「へぇ、面白いもん持ってんなぁ」
「……!? ばかな!? 俺の眼に見えないだと!?」
俺の時計をじっと見ていたイブリードさんが驚いている。多分、俺のグローブの素材を看破した時みたいに、鑑定系のスキルを使っていたんだろう。
「あ、そっか。神の加護が効いてるから鑑定、看破ができないんだ」
「はぁっ!? 神の加護!?」
「ばかな! 神器だって事か!?」
フェルディアルに対して『アナライズ』が効かないように、この世界にはその正体を見る事ができない存在がある。
まぁ、神とかそれに準ずる、強過ぎる相手には効果を発揮しないんだ。
「あ、実は俺時空の神の使徒でさ、これはその証っていうか、時の旗印って言うんだけど……」
「…………」
「…………」
そういや信者を増やさないとなー、とか思って正体を明かしてみたけど、二人は俺を見たまま絶句してしまった。
うん、まぁ、ある意味予想通りの反応だよな。
でもさ、エレノニア王国って時空の神の神殿無いんだけど、この後どうすりゃいいの?
信者を増やすのはフェルディアルに丸投げ。俺は一応自分が時空の神の使徒だと明かして、その上で名前を売ればいいやと考えた。
レバンノ爺さんお薦めの店で昼食を買い、テテスの工房へと向かう。
時間は二時を少し過ぎた頃。ちょっと時間かかっちゃったな。
「あ、タクマ。貴方の分、できてるわよ」
工房に入ると、セニアが嬉しそうな表情を浮かべて手を振って来た。
それは、俺が戻って来た事への嬉しさか。テテスと二人きりから解放された事への嬉しさか。
どちらがより強いかで、俺のテンション変わるよ?
セニアが指差した先には真っ赤なブーツが一足置かれていた。
わぁ、目立ちそう……。
俺なんか最近赤色に縁があるなぁ。別に好きな色って訳じゃないんだけど。
「ほほう。これが……」
「うむ、中々……」
おっさん二人がそれを興味深げに眺めている。
「誰?」
「テテスの事で、ちょっと相談した二人」
「ふぅん……」
そんな俺達のやりとりを意に介さず、テテスは黙々と二足目を造っている。
集中力はんぱねぇな。
目つきは真剣そのもの。なんか、テテスの周囲からオーラのようなものが湧き立っているような気がする。
「あ、セニアこれ、昼飯」
「あ、ありがとう。そう言えば、食べてなかったわね」
「そんなに楽しかったか?」
「え? うぅん。実は三食食べるようになったのって最近で。お腹が空いてても、食べるのを忘れる時があるのよ」
「へぇ……。帝国の人みたいだな」
「え!? そ、そう? そうね。あ、あは、あはははは」
勿論、一日二食しか食べない国や地域は他にも存在する。
けれど帝国は、光の神の教義で一日二食を推奨していた。昼間は太陽からエネルギー得られるから食わなくても大丈夫だろ? って事らしい。
現実的な理由としては、帝国はあまり食糧事情がよろしくないからだろうな。
テテスが作業していた場合に備えて、できるだけ匂いのしないものを、とチョイスしたのはサンドイッチもどきだった。
この世界の硬い黒パンにスライスした肉と野菜を挟んだだけのものだけど、そもそも新鮮な菜物がこの世界では珍しい。
香辛料や調味料があまり使われてないせいで味が薄い。逆に、野菜と肉の味がダイレクトに主張してきて味がうるさい。
お薦めといっても、こんなもんか……。
二十一世紀の日本がどれだけ贅沢か改めて思い知らされたな。
とは言え、これまでの食事の中では相当マシな部類だと思う。
とりあえずセニアにも事情を説明する。
「なるほど。それなら、今後手を出される可能性も低いでしょうね」
「ああ、よく考えてやがるぜ。まぁ、俺の予想じゃもう一当てはあると踏んでるがね」
「そうだな。このまま引き下がるような相手ではないだろうからな」
「それに関しては、俺達がいれば問題無いと思ってる」
「でもいつ来るかわからないでしょう? それまでずっとこの街に居るの? まぁ、私は構わないけれど……」
ちらりと俺を見るセニアの瞳に籠った熱は、何を意味しているのか。
頼むから、王女の肩書持ったままフラグ立てようとしないでくれ。
「来るなら早いうちだろう。遅くとも二~三日中に来るさ」
「どうして?」
「時間が経つ程向こうの方が不利になるからだぜ、お嬢ちゃん。こっちの味方は増えて、あっちはどんどん手を出しづらくなっていくって訳さ」
「できたよ」
そんな話をしていると、テテスが赤いブーツを持って俺達の輪に近付いて来た。
「お、早いな」
「君の分を造る時に一緒にある程度工程を進めてあったからね」
どことなく自慢気なテテス。
「なぁ兄ちゃん、それ、こっちで買い取らせて貰えねぇか?」
「セニア?」
「私は構わないわよ」
レバンノ爺さんの申し出に、俺はセニアに話を振る。彼女はその意味を誤解せず、了承を口にした。
「なんでまた?」
「冒険者ギルドにせよ、職人ギルドにせよ、交渉するのに現物があった方が良いからよ」
「ああ、それは確かに。なら、200デューでどうだ?」
「そんなもんでいいのかい?」
「魔法の武具ではないとは言え、それなりの性能だ。もう少しふっかけても構わないと思うぞ?」
俺の言った値段に、レバンノ爺さんが訝り、イブリードさんも忠告してくれる。
「これでもテテスに払う金額の倍近い値段なんだぜ?」
「え?」
二人はテテスを見る。テテスは見られて居心地が悪いのか、顔を逸らした。
「なるほど、兄ちゃんが肩入れしたくなる筈だぜ。この坊主、危ういな」
「だろ?」
「けど、今回の値段がどうしても今後の基準になる。安売りしないためにも、もう少し出させて貰うぜ。500でどうだ?」
「むしろそんなにいいのか? って感じだけど」
「買取価格じゃなくて購入価格だからさ」
言ってレバンノ爺さんはにやりと笑った。成る程、そういう事か。
「実際には素材の下取り分が入るから、もう少し安くなるがな」
「いいんじゃないか。俺もテテス程じゃないにせよ、そこまで商売に詳しい訳じゃない。その辺りの調整は任せるよ」
「何の話だい?」
この話題の中心人物であるテテスだけが置いてけ堀だった。
「よう、坊主。まだ本決まりじゃねぇが、この工房、冒険者ギルドと職人ギルドが共同で購入する事になりそうだ」
「なっ!?」
「まぁ、聞け。坊主一人じゃこの工房を維持していくのは難しいだろう? 土地と建物には税金が発生するんだぜ? その分の収入はあるのかい?」
「え……?」
レバンノ爺さんの言葉に顔を蒼褪めさせるテテス。あれは、この二年間の税金、払ってないな。
「レグナーは自分で素材を獲りに行く時、いつも三年分の税金を先払いしていた。多分、今回みたいな事態を見越しての事だな」
遺言書を残してたり、そこそこ後の事も考えられる人だったみたいだな。
「詳しい事は商業ギルドに聞いてみないとわからねぇが、今年でそれも終わるだろう。最悪、既に終わってる可能性だってある。この土地と建物の規模なら、合わせて一万五千デューってところか」
日本の税金にさえ疎い俺では、それが高いのか安いのかわからなかった。
ただ、純粋に金額だけを考えれば、非常に高い。
今日の生活費にさえ困るテテスが、払える金額だとは思えない。
「だから一旦ギルドが土地と工房を買い取る。そうすりゃ税金はこっちが支払う事になるからな。その上で、坊主はこれまで通りここを使っていい」
「え?」
「その代わり、ギルドから色々と依頼が行くと思うから、それを優先してこなして欲しい。できるかい?」
「も、勿論だ。依頼さえあれば、オレは……!」
驚きと喜びで感情ぐちゃぐちゃなんだろうな。怒ったような顔をして、涙浮かべながら、弾んだ声でテテスは応えた。
「坊主に頼みたいのは、これまで使えないと思われていた素材を使って武具を造る事だ。勿論、武具じゃなくてもいい。とりあえず冒険者ギルドで、これまで買い取りをしていなかった素材を買い取りを始めさせるから、坊主はそれを使って色々造ってみてくれ。できあがったものはギルドで全部買い取る。ただし、値段はこっちでつけさせて貰う。その値段が気に入らなければ拒否してくれていい」
「あ、ああ……」
怒涛のレバンノ爺さんの説明に、押され気味のテテス。
あー、あれ多分わかってないぞ。ほら、こっちちらちら見てる。
「今まで誰も造った事の無いものを沢山造ればいいのさ。素材は冒険者ギルドが用意してくれるってよ」
「おう、わかった!」
「兄ちゃん、暫く通訳として雇われてくれねぇか?」
「断る。それも含めて関係を築いていくのが爺さん達の仕事だろ?」
「ちがいねぇ」
テテスの成長を傍で見るのもそれはそれで楽しそうだけど、俺は俺でやりたい事があるからな。
その日はそれでお開きとなった。
爺さんは早速ギルドに報告に行くとかでさっさといなくなってしまった。
イブリードさんは今夜の護衛を手配すると言って、同じく街へと消えて行った。
何となく不安だったけど、俺とセニアも、明日また来ると約束し、宿に戻った。
テテスの赤毒蜘蛛革の靴:[分類]防具
[種類]革靴
[耐性]斬〇突△打〇火△熱〇氷△水〇風△土〇石△雷△光△闇△
物理防御力16
魔法防御力2
重量4
敏捷上昇
[固有性能]なし
相変わらずの高性能だ。
夕食後、いつも通りにガルツへ飛んで山羊小鬼を狩る。
今回は宿へ帰る前に買っておいた陶器を使って強壮剤を造る。それを前に売ったのとは別の商館で売った。
今回は一個14デューで売れた。別の商館で取り扱いがあったから、問い合わせでもあったのかもしれない。
8個売ったので112デューの稼ぎになった。
翌日。
朝食を摂った後、軽く街を回ってからテテスの工房へ行く。
すると既にレバンノ爺さんが居た。
テテスが露店を開きに行く前に来たんだそうだ。
一緒に来ていた冒険者ギルドと商業ギルドと職人ギルドの職員が苦笑いをしていた。
テテスはなんだか不満そうだ。
いやお前、もう露店で一日中座ってなくていいだぜ?
「そう言えば、お前既存の素材とかで新しい武具とかは造れないの?」
「できると思うけど、大抵既存のものの方が性能いいと思うよ」
ふと疑問に思って聞いてみると、そんな答えが返って来た。
職人ギルドと商業ギルドの職員の目がぎらりと光ったのを俺は見逃さなかった。
「まぁ、いきなりあれもこれも、となると混乱するだけですよ。今の所は、これまで商売にならなかった素材が活かされるという事実だけでいいじゃないですか」
冒険者ギルドの職員がそれを止めた。
商品の種類が増えて嬉しいのは職人ギルドと商業ギルドだけど、冒険者ギルドとしては、取り扱う素材が同じならあまり意味がないからな。
それでテテスが多忙になって質が落ちても困る訳だし。
「おうおう、昨日は若いもんが世話になったみえぇだな!?」
テテスを中心におきながら、テテスを置いてけ堀にして商談を進めるギルド職員三人とレバンノ爺さん。
そんな折、入口から威勢の良い声がした。
見ると、昨日のガラの悪い男にポール、そして、初めましてのガラの悪い男がそこに居た。
ちなみに、昨日置き去りにされた男の行方を俺は知らない。
神殿に放置してきたところまでは覚えてるんだけど……。
「多少腕に覚えがあるみてぇだが、俺達がどこの誰かわかってて喧嘩売ったんだろうな!? あぁ!?」
ずかずかと入り込みながら凄む男。ついてくる昨日の男達とポール。
そして、その後ろからも、ゾロゾロと柄の悪い男が十人程ついて来ていた。
「俺達は泣く子も黙るヴェルゴ会だぞ! コラァ!?」
ヴェルゴ会ってのは昨日から話に出ている、デルゴって人の所の下部組織だ。
まぁ、早い話が企業のケツモチ。もしくは企業を後ろ盾にした非合法組織。
つまり、ヤクザだよね。
デルゴがやってるのはデルゴ商会って言って、金貸しと人材派遣をしてる。
表でもあまり良い噂は聞かないけれど、裏もやってるって事は、デルゴ商会がどれだけ黒いかわかろうってもんだろう。
とは言え、チンピラやゴロツキ共の良い受け皿になってるんで、ルードルイの太守も、この地方の貴族も黙認してるのが現状だ。
確かに、普通の奴ならその名前を出したらびびって土下座の一つもするんだろう。
けれど、ここに居る奴で普通の人間なんて一人も居ないからな。
レバンノ爺さんを始め、職員三人の目が、テテスを前にした時とは違う輝きを放ったのに、俺は気付いた。
「泣く子は黙らせられるかもしれないが、老人は無理だろう」
俺は言って、レバンノ爺さん達を庇うように前に出る。
セニアも半歩、前に出た。
いかにも冒険者風の俺達が前に出た事で、ポール達はその後ろに居る人間を、昨日の俺達と同じく、テテスに依頼に来た酔狂な客だと勘違いしたらしい。
「あぁ!? そんな死にかけの爺さんがなんだってんだ!?」
「後ろのヒョーロクダマがなんかしてくれんのかい!?」
「ここを売る算段でもつけてたのかよ!?」
俺の動きに調子に乗って、後ろの男たちが口々に怒鳴る。
最後、ある意味正解だ。
「だってさ、どうする? レバンノ爺さん?」
「そうだな。とりあえず、デルゴの坊主が居ないのが不満だな。こういう場面なら本人がノコノコやってくるもんだろ」
「レバンノ……?」
流石に、リーダー格にはその名前に聞き覚えがあったのか、怪訝な表情を浮かべた。
「こんな所にデルゴさんが来るかよ、バーカ!」
「身の程ってもんを知りやがれ!」
けれど、彼程に鋭くない若い衆は更に前に出て来た。
「エレディオさん、メルダオさん、ディントゥスユーグルさん、皆さんはどうされますか?」
「話し合う必要があるかと」
「暴力は何も産みません」
「折角我々には物事を考える頭と、それを伝える口があるのですから」
それぞれ、商人ギルド職員、職人ギルド職員、冒険者ギルド職員だ。
勿論、レバンノ爺さんに連れて来られた彼らが、普通の職員である筈がない。
商人ギルド職員エレディオさん。今でこそ白髪混じりの人の好さそうなオジサンだが、若い頃は相当無茶をしていたらしい。エレノニア王国のみならず、大陸東部の国々を又にかけて交易を行っていた骨太の商人だ。そのうえで、一介の貿易商としての給料しか得ていなかったというから、どれだけ商売が好きなのか? と言いたくなる。
職人ギルド職員メルダオさん。背が低く、豊かな顎鬚をたたえているので一見するとドワーフに見えるが歴とした人間の鍛冶師だ。レグナーの弟弟子であり、彼と共に素材を自力で獲っていたそうだ。火竜シリーズの生みの親でもあるのだけど、それはつまり火竜をその素材の殆どを傷つけずに狩る事ができたという事だ。
冒険者ギルド職員ディントゥスユーグルさん。三人の中で一番温和そうな外見をしているが、一番の武闘派。冒険者ギルドとノークタニア公国の有志で結成された、神の門を越えて大陸西部進出のための調査団に二度参加。三十年間で都合四度行われたこの調査団で、二度以上参加していて現在生存しているのは彼だけだそうだ。
『アナライズ』で見れば、ステータス的には俺の方が上なんだが、どうにも勝てる気がしない。
知らないとは言え、この三人に加えて、前盗賊ギルド元締めのレバンノ爺さんを相手にするとか。
もうチンピラ達に軽く同情したくなるような状況だよ。
「エレディオ……? メルダオ……!? ディントゥスユーグル!!??」
どうやらリーダー格、その名前を知っていたらしい。
三人共一線を退いてから二十年以上経ってるのに、物知りだねぇ。
それとも、そこそこ地位が上の人間なんだろうか?
「なら話し合いをしましょう。この工房は冒険者ギルドと職人ギルドが正式に買い取りました。買い取り金額は約300万デューになります。商人ギルドがその交渉に何ら違法性が無い事を確認しています」
「こちらがその書類になります」
メルダオさんとさんが、分厚い羊皮紙の束を、リーダーに渡した。
「更にテテスと、彼と冒険者ギルドと職人ギルドの全てが認めた人物に限り、無料でこの施設を利用する事が出来ます」
「こちらがその書類になります」
エレディオさんがやはり分厚い羊皮紙の束をリーダーに手渡す。
「また、テテスとの業務提携によってこれまで買取金額がほぼゼロだった様々な魔物、モンスターの素材がそれぞれの討伐価格に準じた値段で取引されるようになります」
「こちらがその書類になります」
ディントスユーグルさんがやっぱり分厚い羊皮紙の束をリーダーに渡す。
「これに伴い、各地の治安が良化するものと考えられ、ルードルイ太守エンデム伯爵及び、ナラド侯爵より、テテス工房を保護、支援する旨の書状が出されています」
「これがそれな」
レバンノ爺さんは二枚の羊皮紙を渡した。ちなみにナラド侯爵は、ルードルイのある領地を治める王国貴族だ。
「という訳なんですが、デルゴ商会の下部組織であるヴェルゴ会の皆さん、何かご質問はございますか?」
そして俺はにっこりと微笑んでやった。『狂者の眼』と『狂者の威圧』と慈愛の神の祝福『ダブリングスマイル』を重複発動させて。
『ダブリングスマイル』は使用者が微笑んだ時、対象が使用者に対して抱いている感情を倍化する祝福だ。
「う、あ……が……。おい、コラ、ぽぉぉぉぉおるぅう!! どういうことだコラぁ!?」
それなりに高かったお陰で、発狂や気絶に至らずに済んだリーダーが、その怒りの矛先をポールに向けた。
「い、いや、俺も何がなんだか……。おい、テテス、これはどういう事だ!?」
「お、オレも実はあんまり……」
ポールの剣幕にびびったらしく、テテスはレバンノ爺さん達の後ろに隠れてしまった。
「まぁ、ここまで状況が整ってしまったら、どうしようもないですよ? という訳で、この工房の敷地が冒険者ギルドと職人ギルドのものになった以上、テテスをどうにかしてもポールさんのものにはならないんですから」
「くっ……!!」
リーダーは悔しさに顔を顰めている。
デルゴの狙いは土地だったんだから、それを手に入れる事が不可能になった以上、ポールだけでなく、リーダーにも何かしらの処分が下るだろう。
更に言えば、こんなに美味しい商売の話に、デルゴ商会が入れなかったというのも失点だろう。
まぁ、それに関しては、レバンノ爺さんとエレディオさんで話し合って、商業ギルドに加入している商会、商店も新規参入を近いうちに募集するらしい。
思い余ったデルゴが、自分の利益にならないなら、他の奴の利益にもさせない、と無茶な行動に出られると困るからな。
結局リーダーは、部下達を引き連れて帰って行った。その際、来る時はポールに対してフレンドリーだったのに、帰る時は両側から脇をガッシリと抱えて、引き摺っていたのが印象深い。
「その、なんか、色々ありがとう……」
リーダー達が帰った後、レバンノ爺さん達も引き継ぎや微調整のために工房を後にすると、テテスがお礼の言葉を口にした。
「いや、俺達がやりたかったからやっただけだしな。それに、お前に技術があったから、レバンノ爺さん達も協力してくれたんだ」
「でも、あんたがオレの作品を買ってくれたのがはじまりだから……」
「まぁ、お礼の言葉と気持ちは受け取っておくよ。今後もいい仕事してくれよ?」
「ああ、それは勿論だ」
そして俺達は、固い握手を交わしたのだった。
同時にルードルイでの話、最終回でもあります




