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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第二章:エレノニア王国探訪記
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第32話:はじめてのデート

セニアとのデート回です。

どちらも恋愛経験少ないので、無意識ですが。


宿屋でチェックインを済ませると、俺は手紙を書くと言って部屋に入った。

その時のセニアの目が、若干……いやかなり冷たかったのは、多分、エレンに手紙を書くためだと誤解したんだと思う。


そうか、ついでに書いておこうかな。

でも何語で書けばいいんだ? 言葉は通じたけど、共通語コモンを読めるとは限らないんだよなぁ。

俺には言語チートもついてるから、エルフの言葉も書けるけれど、書いても大丈夫なもんなのか?

『常識』によると、森の中に住むエルフは自分たちの言語を秘匿してるってあるんだけど……。


まぁ、素直に共通語コモンで書こう。

差出人だけエルフ語で書いておけば、いいだろう。そのくらいの単語なら、どうにかして調べられる範囲だ。


勿論メインは母への手紙だ。

なんせ、女神からは延長を認めず、言い訳も弁明も聞かず、慈悲も無く容赦もしないって言われてるからな。


書き出しは拝啓だよな。

ええっと、どういう漢字だっけ?

やっべ、自動変換機能に頼り切ってたせいで覚えてねぇや。


何となく形はわかるんだけど、合ってるかどうか自信が無い。

鉛筆じゃなくて筆ペンでの一発書だから失敗できないしな。植物製の紙だから気軽に使い捨てにもできないし。



前略、お母さん、お父さん



日和ました。

まぁ、そこまで硬い手紙じゃないんだし、いいだろ。



前略、お母さん、お父さん


早春の候、皆様におかれましては

ご清祥のこととお喜び申し上げます


お母さんから紹介していただいた仕事を始めて、早いもので一月が経ちました。

新しい環境で中々慣れない事も多いですが、充実した日々を送っております。

こちらでは薬になる草木を採取して売る事を生業にしておりまして、先日は職場の先輩と一緒に、森の中へと採取に赴きました。

日本では中々できない体験に、これまでの自分がいかに無為な時間を過ごしていたのかと、悔やんでも悔やみきれません。

今度はできた薬を別の街へと送る仕事をさせて貰う予定です。

今までの感謝と謝罪を込めて、少々のお金を同封させていただきます。


早春の息吹を感じる昨今、どうぞお健やかにお過ごしください



ええと、最後は草々で〆るんだっけ?


何とか便箋一枚に文章を書いて、俺は手紙を完成させた。

うーん、敬語がなんか滅茶苦茶な気がするけど、まぁ、社会に出た事ない俺としては上出来じゃない?


母さんはともかく、父さんには詳しい事書けないから、どうしても怪しい仕事をしてるみたいになるなぁ。


一緒に購入した封筒に入れて、蝋を垂らして封にする。


さて、まだ時間はあるし、エレンにもついでに書いておくか。フェルディアルに頼んで、断られたら冒険者ギルドに依頼を出そう。


こっちの手紙の書式はわからんなぁ。流石に『常識』にもねぇや。冒険者、手紙書かないもんね。

まぁ、そんな気取った手紙でもないんだ。お手紙で失礼します、くらいから始めればいいや。


けど何を書こうか?

へたに気を持たせるような書き方はマズイかな?

かと言って、俺の事は気にせず、好きな人ができたらその人と一緒になって、なんて書いたら、遠回しの拒絶だよなぁ。

保留しておいてそれはないわ。


うーん、こっちも簡単な季節の挨拶と、ちょっとした近況報告くらいにしておこう。

特に感情を伝えるような何かを入れないように気を付けて……。



正直こっちの手紙の方が時間かかったわ。

ラブレターすら書いた事ないからなぁ。年頃の女子に対する無難な手紙なんてかなりの難問だったぜ。


さて、と。


手紙を『マジックボックス』にしまった後、俺は小鬼の大鉈も『マジックボックス』にしまって、ブロードソードを背負う。


「『テレポート』」


そして俺は飛んだ。


どこへ飛んだかって言うとフィクレツだ。

例の陶器の大量注文を出していた雑貨屋に顔を出すつもりだ。


十日に一度くらいって言っちゃったからな。せめて今回くらいはちゃんと行こう。


俺の事を覚えてくれていたらしい雑貨屋の店員さんが、店の奥から木箱を一つ持って来た。

蓋を開けると、この間買ったのと同じくらいのサイズの陶器が入っていた。

二十個くらいかな。


まとめ買いなので15デューでいいと言われた。有り難く好意を受け取っておく。

店を出てから、人目に付かない所まで木箱を運んで『マジックボックス』にしまう。

そして再び『テレポート』で飛ぶ。


場所はガルツの迷宮、シュブニグラスだ。


うわー、久々。


『サーチ』と『マップ』を駆使してサクサクと山羊小鬼を狩っていく。

正直、金にはまだ余裕があるから、別にこんな事をしてまで強壮剤を造る必要は無い。

けど、陶器を買ったついでだ。折角だからちょっと稼いでおこうと思ったんだ。


魔石を十個手に入れた所で『テレポート』で迷宮を出る。


飛んだ場所はフィクレツの近くだ。

その場でこそこそと魔石を素材に変換。

合計十個の山羊小鬼の角(やっぱりレア素材は出なかった)を手に入れて、それぞれ陶器に突っ込む。

そして『錬成』して強壮剤に変えていく。


できた強壮剤はコルクで封をしてリュックに入れる。

最初に入った門とは別の門からフィクレツへ。


そして、この間強壮剤を売った商館へ持ち込む。


今回の買取価格は一個10デュー。

問題無いのでそのまま売って、銀貨十枚を受け取る。


そして物陰から『テレポート』でルードルイの宿屋へ飛んだ。



「ルードルイの後はどこへ行くの?」


夕食時、セニアがそう尋ねて来た。

俺としては特に考えてなかったけれど、そう言えば、セニアは帝国の王女だった。

身分を隠して何故か王国で冒険者をやっているんだ。

ルードルイより北へ行くと、帝国の人間に見つかる可能性が高まると思ってるんだろう。


「とりあえずこのまま北上してウェドロカへ行こうと思ってるけど……?」


「え?」


「何か不都合でも?」


彼女が絶句した理由はわかっていたけど、敢えて聞いてみる。


「いや、ええと……。そう。ウェドロカって神殿無いけど、いいの?」


お、中々良い理由を持って来たな。俺があちこち巡っている理由付けとして、各地の神殿で洗礼を受けるためって言ってたからな。


「そうだな、じゃあ噂のエレア隧道を通って王都にでも行ってみるか」


「そう、そうね。私もあそこを通るのは初めてだから、行ってみたいわ」


俺の言葉にあからさまにほっとするセニア。

まぁ、あんまり突っつき過ぎて正体バラされても困るからここらへんにしておこう。


ルードルイからエレア隧道までは馬で半日程。そして隧道も半日程かかるというかなり巨大なトンネルだ。

建築技術があまり発達していないこの世界で、よくもまぁ、そんなものを造ったもんだ。

崩れやしねぇだろうな。


「まぁ、折角だから明日はルードルイを見て回ろうぜ」


「ええ、構わないわよ」


という訳で明日はセニアとルードルイを散策する事になった。


夜、寝ていたら起こされた。


「あのぅ、せめて起きて待っていて欲しかったんですけど……?」


目を覚ますと、申し訳なさそうな顔をしたフェルディアルが居た。

あと、若干涙目だ。

足元で魔法陣が光っている。

これまで通りに仰々しく登場したものの、俺が寝ていたのでしょんぼりしちゃったんだろう。

なんだこの萌え女神。


「ああ、すまん。普通に忘れてたわ」


「不幸になりたいんですか?」


「いや、大丈夫。手紙は準備してあるから」


唇を尖らせて、上目使いで聞いてくるフェルディアルははっきり言って心臓鷲掴みにされちゃうくらいの可愛さだったけど、口にした内容は凶悪極まりなかった。

まがりなりにも本物の女神だからな。

不幸にすると言ったら、本当に不幸になるんだろう。


くわばらくわばら。


俺はフェルディアルに準備しておいた手紙を渡した。


「二通?」


「できたらでいいんだけど、もう一通の方は、エドウルウィンの……あれ? なんて家だっけ? まぁ、とにかく長老会の一人の娘、エレンってエルフに渡して欲しいんだ」


「恋文ですか?」


口元を隠しているけど、目が笑っている。

下衆いなぁ、この女神。


「咲江さんの願いの中には、琢磨さんの結婚もありましたからね。どうもモニカさんとはそういう関係を結ぶつもりがない様子でしたので」


モニカ? ああ、セニアの本名か。

あ、咲江さんってのは俺の母親な(五日振り三度目)。


「そういうのじゃないけど、ひょっとしたら将来そうなるかもしれない。けど、母さんはともかく、父さんには紹介できないよなぁ」


なんせエルフだからな。耳が特徴的過ぎる。

鋭利な福耳ですって通らないだろ、それ。


あと、実は母さんにも紹介するのはヤバイかもしれない。

何故なら彼女はエルフ。長命だからこそ成長が遅い種族。

例え十年後にそういう関係になったとしても、その時彼女は128歳。

人間で言えば13歳前後。

むしろエレンはどっちかってーと発育不良っぽかったからな。もっと幼く見えるかもしれん。

まぁ、どのみち紹介しづらいのは確かだ。


「その辺りは魔法で誤魔化しますよ」


天然でも女神は女神。頼りになります。


「ところで、琢磨さんの中で、私はどういう存在なんでしょうか?」


頼りになる天然系お姉さん女神ですが、なにか?



ルードルイは王国一の交易都市だけあり、その賑わいはガルツやフィクレツと比べても相当なものだ。

俺達が泊まった宿は大通りに面しているが、そこには様々な屋台が並んでいる。

ガルツもフィクレツも、屋台は食べ物に関するものが多かったけど、ここでは雑貨屋や装飾品屋のようなものも多く並んでいる。

迷宮都市であるガルツは例外として、フィクレツがあくまで交易の中継点なのに対し、ルードルイは物流が収束する場所だからだろう。

大道芸人や歌手、ギターのような楽器(『常識』によるとヒロクというらしい。音楽の神ヒューロクから取ったそうだ)を弾いている芸人も居る。

見ているだけでもかなり楽しめる。セニアも目を輝かせながら、顔をあちらこちらへと向けていた。


お祭り状態のルードルイだけど、これ平日だからな。祝福の日に来たらどうなってしまうんだろう。

ただでさえ芋洗い状態なのに。


そんなお祭りムードに浮かれて、俺は目についた大道芸人達に、碌に芸も見ずに銅貨を投げて行く。

いや、なんかしないといけないような気がしてさ。

勿論、屋台で売られている食べ物にも舌鼓を打つ。

中には、小麦粉を百倍の量の水で溶いただけみたいなのもあったけど、まぁ、ハズレを引くのも屋台の醍醐味だ。


そう言えば金が入ったら装備を新調しようと思っていたんだけど、エルフの集落でいいもの貰っちゃったからなぁ。

灰色狼の服とズボンは、非金属鎧としてはかなり良いもので、これ以上となると、店では中々売っていない。

魔法の武具は文字通り桁違いに高い。今の俺の財力でも手が出ない。


ショートボウもエルフのショートボウに変わったお陰で、これ以上は威力や射程距離の代わりに取り回しのしやすさを諦める事になる。

俺的には『性能』が劣ってしまうんだ。


ショートソードも、短剣としては最高峰の威力を誇る小鬼の大鉈を手に入れちゃったしな。やっぱりこれも、これ以上を求めるなら魔法の武具になってしまう。

そうでなければ、自分で素材を調達して作成を依頼しないといけなくなる。


まぁ、素材なら適当なダンジョンへ潜って取って来てもいいんだけど、『常識』に無いと、何を作るのに何の素材が必要かわからないからなぁ。

現物を見れば『アナライズ』でそれがどのくらいの装備で、どの素材が必要かわかるんだけど。


となると新調するならブーツか手袋か。

ブロードソード? それを変えるなんてとんでもない。


いや、別にソードを悼んでいる訳じゃなくてね。

ほんとだよ。そこまで感傷的じゃないよ。


ルードルイなら普通に店を構えている商館でもかなりの品揃えが期待できるだろうけど、ここはやっぱり露店で買いたいな。

なんとなく、掘り出し物ってそういう所にありそうじゃない?


あ、あとあの馬これからも使うんなら、もっといい馬具を買ってやってもいいんじゃないかな。

今は宿に繋いだままだから、後でサイズを測っておこう。


「そうね。今の鞍だと長く乗っているとお尻が痛いのよね」


俺の提案にセニアも賛成してくれた。お尻をさすりながら、という普段の彼女では見る事のできないジェスチャー付きだった。

やはりセニアも舞い上がっているのかもしれない。


まずは露店で色々見よう。


「セニアはつまらないかもしれないけど」


「ああ、いいわよ。見てるだけでも楽しいし」


それはウィンドウショッピングが好きなのか、それとも俺と一緒だからなのか?

彼女をどうこうする度胸も覚悟もない俺が、後者だと嬉しいと思うのは傲慢だろうか?


「ねぇ、あれなんてどうかしら?」


「うん? これ?」


セニアが指差したのは一つのグローブ。


「ふむ……」


『アナライズ』で見る。



焦蚕のグローブ:[分類]防具

        [種類]布手袋

        [耐性]斬△突△打△火×熱△氷△水△風〇土〇石△雷◎光△闇△

        物理防御力3

        魔法防御力3

        重量1

        器用上昇

        [固有性能]なし



ほう、中々。

焦蚕の名前通り、茶色の繭を作るブラウンワームという蚕の、その繭から作ったグローブだ。

火には弱いけれど、風と土、何より雷に対して大きな耐性を持つ。器用上昇もポイントが高い。

グローブやブーツに純粋な防御力を期待する人は少ないからな。こうした特殊な効果がついている方が良い。


値段は500デュー。高い。買えるけれど、高い。

ちなみに、『アナライズ』で見た相場は350だったのでぼったくり価格だ。

いや、賑わっているとは言え、現代地球に比べればまだまだ流通が安定してないこの世界、品薄だと一気に値段が跳ね上がっても仕方ないか。


ブラウンワームは王国西部に生息しているけれど、養蚕が難しく、まとまった数が供給されない。


絹とは手触りが違うな……。


「お、姉ちゃんお目が高いね。それはブラウンワームの糸で作ったグローブだよ。革で作った手袋と比べても丈夫だし、革と比べて軽いから、兄ちゃんみたいな軽戦士には人気があるんだ」


露店のおっちゃんがそう声を掛けて来る。

この世界に来たばかりの頃なら、その声掛けでごっそりと精神をもっていかれて、すごすごと退散していたところだ。

けれど、今の俺は違う。

セニアと二人で冒険を続けた結果、知らない人に声を掛けられても心を乱されなくなったのだ。


まぁ、会話するには別のペルソナ呼び出さなきゃいけないけどな。


ここで値切り交渉でもできればいいんだけど、まだそこまでのスキルは無い。

ところで値切りを根切りとすると一気に意味が怖くなるよね。


根切り交渉……。

よっぽど深い恨みでもあるのかな?


さて、正直高いし他のも見てみたいからこれは保留にしておきたいんだけど、これって言っていいものなのか?

折角俺のために選んでくれたのに、ここで拒否して大丈夫なのか? セニアとの関係的に。


女子と付き合った経験は勿論、デートなんてした事ないから正解がわからん。


「とりあえず、他も見て回ろうぜ」


 買う

→保留する


選択してみました。炎に弱いから、これも買って別のも買って使い分けるのもありだけど、やっぱり高いよ。


「そうね。まだお店は一杯あるものね」


よし。どうやら正解だった、というか駄目な選択じゃなかったみたいだ。

あんまりセニアは気分を害した様子は無い。


「おう、またよろしくな」


おっちゃんも特に気にした風もなく、俺達を見送ってくれる。


ふぅ、この綱渡り感、心臓に良くないぜ。同じ綱渡り感なら、まだアルグレイと戦ってた方がマシだ。


「このブーツも良さそうじゃない?」


「金属製はちょっと動きにくそうだよ」


「このグローブはどう?」


「分厚いな。弓を撃ちにくそうだ」


「これは?」


「ちょっと派手じゃないか?」


「でも、女神様の使徒なら、少しくらい目立った方がいいと思うわよ?」


「そうかなぁ」


「それに、貴方にとっても似合うと思うし」


「え……?」


「あ……」


「…………」


「…………あ、あのグローブはどう?」


「指抜きはちょっと厨二くさいよ」


「チュウニ?」


最後の方は性能とか関係ない話になっちゃったな。

ていうかデートだ、これ。

途中なんか恥ずかしいやりとりあったし。


うへぇ、恥ずかしい。28歳にもなって、何を中学生みたいな青春してるんだよ。

いや、中学時代もこんな青春はしてなかったけどさ。

間違いなく全盛期はあの頃だったのになぁ。なんであの頃の俺は、女子と嬉し恥ずかしの青春するより、女子に興味ない俺カッケーを選んじゃったんだろう?


「あ、これは?」


「ほう……」


セニアが指差したのは、大通りの端の露店で売られていた一対のグローブだった。

色は淡い茶色。そこまで厚くないから弓を射るのに邪魔にならなそう。



テテスのグローブ:[分類]防具

         [種類]革手袋

         [耐性]斬〇突△打〇火△熱〇氷〇水△風△土〇石△雷〇光△闇△

         物理防御力5

         魔法防御力1

         重量3

         器用上昇 精神抵抗(小)

         [固有性能]なし



なんだこれ?

テテスってなんぞ? 『常識』にもないんですけど?

耐性は優秀だし、物理防御力も高い。重量は少しあるけど、まぁ俺の筋力なら気になるほどじゃないな。

精神抵抗の効果がつくのはおいしいな。


でもテテスってなんぞ?


と思って露天商を見る。

フードを目深に被っている怪しい風体の男だった。

でもこいつ、結構若そうだな。



名前:テテス

年齢:49歳

性別:♂

種族:ドワーフ

職業:細工師



おぅ、あなたの名前でしたか。

既存の品を真似して作ったんじゃなくて、完全オリジナルって事か?

ドワーフで『細工師クラフトマン』ってわかりやすいな。

ドワーフの寿命は人間の三倍くらいだから、人間で言えば14歳くらいか。

こっちの世界でもまだまだ若いな。


まぁ、セニアと同じって考えたら独り立ちしていてもおかしくないのか。


テテスをじっと見るけど、向こうはこちらを見ていないらしく、視線を寄越さない。

愛想が無いってより、接客が苦手なのかもしれない。


そう思うとちょっと親近感が湧いた。

良さそうなものだし、買ってやろうか。

うん? 値段が書いてないな。


「これ幾らだい?」


俺はテテスに聞いた。

一瞬びくり、と体を震わせたあと、彼はやはりこちらを見ずに、


「50……」


と小さな声で言った。


いや、安すぎるだろ、それ……。


「安いな。これでも見る目はあるつもりだけど、これは相当良い品だぞ? 本当にそんな値段でいいのか?」


「…………ち」


舌打ち!? およそ接客では聞かない音だぞ、それ。

これは作り方とか素材とか聞こうと思ってたけど、それも難しそうだな。


「材料費と、作るまでにかかった生活費、それくらい……」


原価かよ。

接客手の不得手さといい、商売下手過ぎるだろう。


「そうか、じゃあこれをもらおう」


言って俺は八分金貨を渡した。


「こんな釣り、無いよ」


いや、釣りは75デュー、銀貨七枚と銅貨五枚だからそのくらいあるだろ。絶対計算面倒だっただけだろ。


「良い物だったからチップだよ。またここに寄った時、同じように良い物が並んでいたら、その時は値段通りで買わせてもらうよ」


所謂先行投資って奴だ。金額しょぼすぎるけど。

正直、こいつこのまま商売してたら、絶対途中で立ち行かなくなる。

売値が材料と製作期間の生活費でほぼトントンって、完売しなかったらお前次が作れないって事じゃねぇか。

勿体無ぇよ。こんだけの腕があんのに。


「……毎度」


得した、くらいにしか思ってないんだろうな。

まぁ、このくらいでヒトの心動かせるとは思ってないから、それは良い。


「良かったの?」


露店から少し離れたところでセニアが聞いて来た。


「まぁ、ちょっと同情っていうか、保護欲みたいなのは湧いたけどさ」


慈愛の神の洗礼の効果だろうか?


「腕はいいみたいだから、長く続けて欲しくてさ」


「そんなにいいものなの?」


「ああ。素材は……」


『アナライズ』『アナライズ』……。


「砂漠狐の毛皮だな」


「毛、無いけど……?」


「どう造ったのかはわからないけど、多分、そのお陰で高性能になってるんだと思う」


「へぇ、聞いた事ない技術ね。いえ、私もそんなに詳しい訳じゃないけれど」


「ああ、俺も初めて知った」


多分テテスだけ、もしくはその師匠だけの技術だ。

折角だからブーツのオーダーメイドも頼んでみようかな? 必要な素材を言って貰えれば、とりに行きやすいし。


「そう言えば、革の服も新調したいな。せめて胸当てくらいは欲しい」


「先に言ってくれれば選んであげたのに」


「すまん、さっき思いついた」


「でももう遅いわよ?」


セニアの言葉通り、既に日が傾き始めていて、屋台や露店の多くが撤収準備を始めている。


「また明日だな」


「え? 王都は?」


「まぁ、何か急ぐ用事がある訳じゃないしな。それとも、早く出たいか?」


理由はわからないけど、彼女は護衛クエストからの警戒を抜きにしても、追っ手か何かに怯えている。


「まぁ、貴方がそう言うならいいけれど」


「なんだかんだ、今日も楽しかったろ?」


「そうね……!?」


何気なく相槌を打ったセニアだけど、その意味に気付いて顔を真っ赤に染める。


「俺も楽しかったよ」


「…………そう」


そして俺達は宿屋へと戻った。


その後昨日と同じようにガルツへ飛び、山羊小鬼を狩って魔石から角を手に入れ(レア素材は出なかった)、余っていた陶器を使って強壮剤を作り、ルードルイで売却した。

ガルツからフィクレツより遠い事もあって、一個13デューで売れた。

全部で11個売ったから、143デューになった。


出費は宿代と昼間の散財で313デューだ。


余裕があるからって、ちょっと使いすぎだとは思った。


あ、馬のサイズ測るの忘れた。



という訳で次回もルードルイでセニアとデートします。

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