第27話:ゴブリンフォート
拠点攻略回です。
まともな攻城を期待している人はごめんなさい。
夜の宴会は、エルヴィンが言ったように本当にささやかなものだった。
料理は野菜のサラダを中心に軽いもの。
戦の前に肉類は食わないんだそうだ。
普段は普通にエルフでも食うよ?
ザクロのような果実を基にして作った果実酒も振る舞われた。
甘味より酸味が強くて、俺はあまり美味いと思わなかったけど、セニアは結構なペースで飲んでいたので気に入ったのかもしれない。
俺とセニアは本当に末席での参加だった。
それでも外からの来客は珍しいらしく、何人ものエルフが俺達を囲んでいた。
正直、まだヒキニートのリハビリが終わってない俺としては、よく知らない大勢の人間(しかもみんな美形)に囲まれてオロオロしていた。
大した話もできず、宴の後半は俺の傍には殆ど人は居なくなっていた。
その点セニアは、王族としてならした社交術をもって、エルフ達をうまく捌いていた。
明日の事もあるのであまり宴もそれほど長く続かず、二時間程でお開きとなった。
日が沈んでからの時間で計算すれば、多分夜の九時くらいに解散になったと思う。
俺とセニアはすぐに就寝した。
敷布団代わりに敷かれた布が一枚だけだったのもあるけど、隣に並んで寝てくれたのは信頼の表れだろうか。
それともただ酔っ払っていてまともな判断ができなかっただけか?
朝起きると恥ずかしさのあまり悶絶していたので、多分後者だったんだろう。
翌朝。戦士階級のエルフが俺達の新しい装備を持って来た。
昨日決まった通り、セニアには淡い緑色の外套、風の外套が。
俺には灰色狼の毛皮で作った服が渡された。
戦士階級のエルフは緑熊の毛皮で作った服を着ているので、彼らとの視覚的な差別化も図ったようだ。
ちなみに性能としては、防御力は灰色狼の方が低く、緑熊が上。しかし、灰色狼の服は装備者の魔力上昇効果を持つ。
エルフの戦士は、戦士階級、術士階級、指揮階級に分かれている。
階級としては戦士<術士<指揮だ。
術士階級のエルフは灰色狼の毛皮で作ったローブをよく着ている。
ローブではなく、服にする事で、俺が術士階級と同等に見られる事を避けたんだろうな。
指揮階級はエルヴィンと同じく、黒狼の装備を身に着けている。
布の服を灰色狼の服に変え、その上から革の鎧を着る。
ついでに弓も、集落にあった予備のショートボウを貰う事ができた。
既製品のそれと違い、エルフの手作りであるため、性能が若干上だ。
器用にプラス補正もつくそうなのでこれはラッキーだな。
名前:佐伯琢磨
年齢:28歳(肉体年齢18歳)
性別:♂
種族:人間
役職:異世界からの訪問者
職業:弓使い
状態:平静
種族LV21
職業LV:戦士LV12 弓使いLV14 剣戦士LV11 狂戦士LV2 魔導士LV3 自然術士LV6 暗殺者LV4 槍戦士LV3 錬金術師LV8
HP:503→620
MP:504→630
生命力:337→416
魔力:330→408
体力:301→366
筋力:275→338
知力:316→402
器用:310→379
敏捷:272→354
頑強:302→366
魔抵:298→362
幸運:115→120
装備:エルフのショートボウ 革の服 灰色狼の服 灰色狼のズボン 革のブーツ 小鬼の大鉈 鉄の矢 ブロードソード 鋼鉄の槍
保有スキル
神々の祝福 技能八百万 魔導の覇者 異世界の知識 世界の常識
ちなみに今の俺のステータスはこんな感じだ。
壊れたショートソードの替わりに小鬼の大鉈を拾って来ている。
ゴブリンからすれば大鉈だけど、俺からすれば丁度良い大きさだ。
火竜シリーズは『マジックボックス』に入れっぱなしだから装備欄に表示されていない。
軽く朝食を摂った後、俺とセニアは、五十人のエルフと共にゴブリンの拠点に向けて出発する。
指揮階級のエルフはエルヴィンと長老会の孫の二人。
術士階級が五人。残りが戦士階級だ。
戦士階級ではないが、斥候が何人か先行しているらしい。
ここからゴブリンの拠点までは徒歩で半日程。
しかしそれはエルフの速さだ。
セニアに合わせれば更に時間はかかるだろうし、到着しても疲労困憊では満足に戦う事もできないから、一時間事に十五分休憩。三時間事に三十分休憩を挟んで、一日かけて進む事になる。
明日の早朝に戦闘開始予定だ。
ゴブリンにこちらの動きを知られる訳にはいかないので、斥候の報告を受けながら、慎重に移動する一団。
ほぼ道なき道を行く事になるので、俺はともかくセニアは大変そうだ。
エルフ達は『森林踏破』のスキルで難なく進んでいく。
「おぶろうか?」
「…………お願い」
今回は素直に聞いてくれた。
そりゃ、集落に着けば休めるだろうと思っていた昨日と違い、今日はこの後戦闘が確定してるからな。
できる限り体力を温存しておきたいんだろう。
俺のリュックをセニアに背負わせ、俺がセニアを背負う。
うむ。俺が装備している革の服と、セニアが装備している堅亀虎の鎧のせいで、背中に嬉し恥ずかしの感触が全く伝わってこないぜ。
けれど、背後からしっかりと回された腕からは彼女の熱が伝わって来る。
抱えた太ももは、硬く引き締まっていながら、その奥の柔らかな部分を感じられた。
何より、首筋にかかるセニアの吐息と、ふわりと香る彼女の匂いが俺の脳髄を蕩けさせる。
やべぇな、おんぶ。
これで背中が嬉しい事になっていたら、俺は暫く歩けなかったところだ。
いや、セニアを背負って自然と前かがみになるから、案外バレないのか?
体力と筋力が非常に高いお陰で、人一人を背負った状態でも、エルフの行軍について行く事ができた。
むしろ、セニアを俺が背負った事で、全体の行軍速度が上がったくらいだ。
流石に悪いと思っているのか、休憩中、セニアは甲斐甲斐しく世話してくれた。
しかしそこは王族。こういう時、何をすればいいのかわからず、保存食と水袋を手に、俺の傍に座っていただけだった。
「どうだ? 何かして欲しい事はあるか?」
正直、俺もこういう時何を要求すればいいのかわからなかった。
「膝枕して」
「え?」
「膝枕」
疲労もあってか、素直に欲望を口にしてみた。
セニアは一瞬固まり、その後頬を染めて、ちらちらと周囲に目線をやる。
「駄目ならいいけど……」
言って俺はセニアに背を向け、木の根を枕代わりにごろりと転がる。
別に拗ねたとかいう訳じゃない。
俺は普段寝る時、右を向いて寝る癖があるんだけど、セニアは俺の左側に座っていたから、彼女に背を向ける形になってしまっただけだ。
けれど彼女はそれを誤解した。
俺を怒らせてしまったと思ったんだろう。
別に、それで負ぶって貰えなくなる事を恐れた訳じゃないだろう。彼女のプライドはそこまで低くない。
単純に、ここまで俺の世話になっておきながら、俺の要求に応えられない事に申し訳なく思っただけだ。
「だ、ダメとは言ってない……」
声が震えている。
そしてセニアは俺の隣で足を揃えて木の根に座りなおす。
「ど、どうぞ」
おお。耳まで真っ赤だ。
そして膝枕、太ももやわらけぇ。おんぶとはまた違った感触がある。
頭に伝わる仄かな暖かみに、俺は疲労もあって眠りに落ちていった。
何度目かの膝枕を終えた俺は、エルフと共にある茂みの中に身を隠していた。
もうすぐ夜が明ける。
森の中はまだ真っ暗だが、『ダークサイト』の祝福を持つ俺と、『森林踏破』で森の地形を感覚で把握できるエルフにとっては、闇は味方だ。
俺達の目の前には、異彩を放つ建造物が姿を現していた。
十メートルはある巨大な丸太。それらが隙間なく並んで形成された城壁。
周囲に張り巡らされた空堀は、ただぐるりと囲むように掘られただけでなく、そこから更に細い堀が外側へと向けて掘られている。
それらがあちらこちらへと捻じれているため、堀の周囲に大軍を配置して囲む事は難しいだろう。堀の中には情報通り、逆茂木が設置されている。
丸太の柵から飛び出している櫓は、確認できるだけでも柵に沿って二十はある。奥にも同じような影が見えるから、拠点の中にも設置されているんだろう。
なるほど、要塞だ。
こんなものがいつの間にか森の中に出現したらそれは恐怖と困惑の対象になるだろうし、ゴブリンが出入りしていたら脅威に感じられるだろう。
頭が悪く、数で押す事しかできないゴブリンが、組織だって襲ってくるんだ。
それが脅威でなくてなんだというのか。
そして『アナライズ』で見れば、全ての施設に防御魔法がエンチャントされているのがわかる。
物理防御力は1000。魔法防御力も500を超える。
ダンジョンの壁かよ。
そして物理防御力は、先の尖った逆茂木はそのまま攻撃力にも変わる。
強引に堀を渡ろうとすれば、間違いなく串刺しになるだろう。
そして、ここまで入念に要塞を造る相手が、他に罠や防衛設備を備えていないとは思えない。
堀の間の足場に、落とし穴があっても驚かないぞ。
いや、これエルフでの攻城は無理ゲーだろ。
エルフって森の神を祖先に持つらしくて、その関係から火を恐れるからな。
流石に何代も経てるから、火を扱う事に関してはそこまでの忌避感は無いらしいけど、木に火を着けたり、森の中で火を使う事は未だに抵抗あるらしいからな。
火を一切使わず、攻城兵器も無しで攻城って……。
どんだけ被害出んだよ?
うーん、これはしゃーないなー。
「少しいいですか?」
「なんだ?」
俺はエルヴィンに近付き、小声で話しかけた。
エルヴィンもこの異様に慄いているようだ。やっぱり、聞くだけと実際見るのとでは違うよな。
「これをまともに攻略しようとしたらかなりの被害が出ると思いますが?」
「だから貴様らに陽動をだな……」
「俺はともかくミューズがこれ相手に陽動は難しいですし、そちらはどうやってこの拠点に潜入するつもりですか?」
「むぅ……」
俺もここまで堅牢な造りだとは思わなかった。
予定通りに俺が派手に暴れれば、エルフ達の侵入は可能だろうと安易に考えていたんだけどな。
「俺には誰にも気づかれずに潜入できるスキルがあります。陽動はそちらに頼んでもよろしいですか?」
「しかし……」
「俺一人で入ります。ミューズを頼めますか?」
俺は彼女を人質として差し出すと言ってるのだが……。
「わかった。確かに他に方法は無さそうだ」
どうやら伝わったみたいだ。
エルヴィンが指揮階級のエルフを呼び、作戦の変更を伝える。
指揮エルフが俺を疑わし気に見たので、『暗殺者』のスキル『気配遮断』を使用し気配を消す。更に、LV50以上で使用可能になる強力な隠蔽用スキル『闇化』を使用。
「!?」
俺の姿を完全に見失ったらしく、指揮エルフは驚愕の表情を浮かべる。
ぽん、と肩を叩いてやるとびくり、と体を震わせた。
「いかがです?」
「…………エルヴィン様、任せてみてもよろしいかと」
無言ながら興奮している様子だ。
「ああ。すぐに他の者に伝えよ。合図と同時に一斉攻撃。シャールは攻撃開始後に拠点に潜入」
「は」
「わかりました」
そしてエルフが動き出す。
まずは術士階級による精霊魔法。
第一階位の『風の刃』と同じく第一階位の『水の奔流』が城壁へ向かって飛ぶ。
わずか五個の魔法。ただの城壁相手でも大したダメージは期待できないだろうそれを、防御魔法のエンチャントが付与された城壁に撃ち込む事がどれほどの意味があるのか。
勿論、その魔法で攻略しようとしていたら、の話だ。
その間にエルヴィンが呪文の詠唱を終えている。
彼の足元には光輝く魔法陣が浮かび上がっていた。
「『岩石の颶風』!」
第三階位の精霊魔法が炸裂する。
一個が人の頭程もある無数の石が、竜巻のように渦を巻いて城門に直撃した。
轟音と衝撃波が辺りに撒き散らされるが、それだけだった。
わずかに城門は揺れたが、表面を削る事さえできていない。
「ぎゃ、ぎゃぎゃ!」
「ぐぎゃ!?」
流石に気付いたゴブリン達が、櫓から顔を出す。
そこへ戦士階級のエルフが矢を射かける。
何体かのゴブリンが矢を受けて倒れた。
内側に足場が通してあるんだろう、柵の間から顔を出したゴブリンが弓を構えてエルフ達に反撃を試みた。
更にゴブリンメイジも加わり、射撃は苛烈さを増す。
術士階級が防御魔法を使用してその攻撃を防ぎ、その内側から間断無く矢が拠点に向かって放たれる。
セニアも、俺から借りたボウガンを連射していた。
あまり戦果は上がっていないようだけど、まぁ、弾幕の一端を担っていれば上出来だろう。
突然騒がしくなった森の中、俺は既に堀を渡り、城壁に取りついていた。
周囲を走り、城門からできる限り離れる。
戦闘音が小さくなって来た辺りで足を止め、俺はその場で跳躍する。
俺の筋力をフルに使えば、このくらいの高さなら跳び越えられる。
柵の先端に手をかけ、身を捻って城壁の内側に入り込む。
音も無く着地。
すぐ傍を、槍を持ったゴブリンが駆け抜けて行ったが、隠蔽系スキルを重複発動している俺に気付く事は無かった。
『インヴィジヴルジャベリン』で頭を砕いておく。
まずは櫓を全部壊す。その後城門を内側から破壊する。
エルフが突入する間に指揮所へ向かい、この拠点の指揮官を倒す。
俺がエルヴィンに提案し、彼から若干の修正を受けた計画を大雑把に言うとこんな感じだ。
勿論、できる限りゴブリンを減らしておくのも任務に含まれている。
隠蔽系のスキルは、攻撃するとその対象に効果を発揮しなくなる。
だから確実に一撃で仕留める。
櫓に向けて最初に放つのは、エンチャントを解除する第二階位の世界魔法『ディスペルマジック』。
続けて第二階位の自然魔法『バーストフレイム』を放つ。
俺の手の平から放たれた炎の塊が櫓に命中。同時に爆発し、櫓を中にいたゴブリンごと木っ端微塵に吹き飛ばした。
「ぎゃあぁ!」
「ぐぎゃあぁ!」
ゴブリン達が騒ぎ始める。
奴らの意識が外のエルフだけでなく、内側の侵入者にも向いたみたいだけど、俺を発見する事はできていない。
俺は若干パニックを起こしているゴブリンの集団に『バーストフレイム』を連打して、更に混乱を助長させながら、『ディスペルマジック』と『バーストフレイム』で櫓と柵の内側に通された足場を破壊していく。
「ぎゃ!」
「ぎゃあ!」
すると、こちらを指差してレッドキャップの一団が向かって来る。
見つかった!?
何故? と思った時に初めて気づいた。
日が昇ってるじゃねぇか!
夜が明けて『闇化』の効果が無くなったのか。
『アナライズ』で見ると、どいつもこいつもLVが20を超えている。
この拠点の主力か?
え? 『剣戦士』? なんでモンスターが職業持ってるんですか?
鍛える過程で獲得したんですか? そうですか。
今なら誰にも見咎められる事はない。
俺は『マジックボックス』から火竜槍を取り出し、レッドキャップの一団を迎え撃つ。
まだ『槍戦士』のLVは低いし、槍なんてちゃんと扱った事はないが、『常識』にある動きと、フェルが見せた動きをなぞる事でそれなりに戦える筈だ。
「どおおおぉぉぉぉぉおりゃあああぁぁぁあ!!」
槍を振るう直前、『狂戦士』のスキル『狂気の咆哮』で相手の動きを一瞬止める。
横薙ぎに振るった槍が二体のレッドキャップを真っ二つにしながら吹き飛ばした。
更に踏み込みながら、反対に振るう。レッドキャップの頭上から振り下ろし、一刀両断。更に槍を突き出してレッドキャップを串刺しにする。
十秒と経たずに俺に気付いたレッドキャップの一団は全滅した。
全部で二十体くらいだったかな?
魔石を拾っている暇は無い。
俺はすぐにその場を離れて櫓を壊す作業に戻る。
「てめぇかあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
俺のさっきの叫び声なんて蚊の鳴くような音だったんじゃないと思えるくらいの絶叫が響いた。
何か、もの凄いものがもの凄い勢いでこっちに向かって来るのがわかる。
「!?」
咄嗟に槍を構える。
直後、俺の目に映ったのは、誰かの足の裏だった。
槍の柄で防御が間に合った。
衝撃を殺す事はできず、そのまま吹き飛び、背後の城壁に激突する。
「ぐはっ!」
飛び蹴り!? いや、それよりも壁が痛ぇ! 流石防御力1000!!
「いつの間に入り込みやがった!? 表の奴らは囮かよ! つーか、折角コツコツエンチャントした櫓壊しやがって!」
何かすげぇ大声で文句言ってる奴がいる。
二メートルくらいの巨漢のゴブリンがそこに居た。
いや、赤い髪が生えてるからレッドキャップか?
炎のように逆立った髪型に個性が感じられる。上位個体か?
普通に服着てるし、身に纏ってる鎧もそれなりに上質そうだ。
筋骨隆々の大男。袖から出ている肌が赤銅色をしているのは、俺があちこちに放った炎に照らされたせいだけではないだろう。
言動からは知性の欠片も感じられないが、共通語を喋れるところを見ると、かなり知能は高いんだろう。
言動からは信じられないが、こいつがこの拠点を建築したゴブリンに違いない。
となるとコイツがここの指揮官だな。
ゴブリン的には群れのボスってところか。
作戦の順番が変わってしまったけど、コイツを倒せばここのゴブリンは烏合の衆になる。
そうなれば、攻略はより簡単になるだろう。
問題は俺がコイツを倒せるかだけど……。
名前:アルグレイ・ザ・ドッグ
年齢:4歳
性別:♂
種族:クリムゾンクラウン
役職:ラザニア防衛司令官
職業:撃闘士
状態:興奮(中度)
種族LV51
職業LV:戦士LV32 拳闘士LV41 撃闘士LV28
HP:2073/2082
MP:815/841
生命力:1318
魔力:722
体力:1526
筋力:814
知力:127
器用:438
敏捷:826
頑強:509
魔抵:345
幸運:39
装備:黒狼革の服 黒狼革のズボン 灼熱鉱の胸当て 泉の精霊石 清流のブレスレット
保有スキル
徒手空拳 直感 精神耐性 軽業 鋭敏感覚 異種族交配 炎属性半減 根性 小鬼英雄
バインドシャウト 連撃 アームズボディ フルコンタクト 乱打 空撃 フレイムボディ 熱波 英雄力解放
クリムゾンクラウン!? レッドキャプの上位種だと!?
ていうかステータス!!
筋力と敏捷俺の倍あるし、生命力と体力に至っては四桁って……!?
泉の精霊石は一定時間ごとにHP小回復。清流のブレスレットは一定時間ごとにMP小回復だ。
え? ひょっとして詰んだ?
フェルの時と違って弱点が見当たらないんですが……。
いや、まだだ。
こういう時のために俺には切り札が幾つかある。
『マジックボックス』から火竜シリーズを取り出し身に着ける。
矢を直接クロスボウに設置するように取り出せる事からわかるように、直接身に纏うように取り出す事ができるんだ。
全身鎧は壊れているけど、粉々に砕けた訳じゃない。通常の方法だと着る事はできないけどな。
勿論、壊れているから全身鎧自体の防御力は低くなっている。ゼロではないけど、今重要なのはそこじゃない。
全身鎧という点が重要なんだ。
俺は即座に第八階位の真理魔法『ソウルアームス』を発動させる。
自身のHPを魔法の武具に変換し、対象が装備している武具に纏わせる魔法だ。
防御力だけでなく、ステータス上昇効果もあるが、その上昇率は纏わせた武具によって変動する。
壊れていても、現在俺が装備している灰色狼の服よりは防御力が高いから、俺はわざわざ火竜シリーズを身に纏った。
あと、目の前の相手はどうも炎属性の攻撃もしてくるっぽいから、それを無効化できるこの装備は相性が良い。
俺は今、光輝く魔法の武具に全身を包まれた姿をしている。
エルフ達が突入して来ても、すぐには火竜シリーズを見られる事は無い。
情報が入っているかはわからないけど、隠せるなら隠しておいた方が良いだろう。
ついでに火竜槍にも同じ魔法を纏わせる。
槍のそれではなくて、もっと刃が長く、幅が広いイメージ。
所謂グレイブのような形だ。
「は、はは。はははははははははは!!」
アルグレイが突然笑い出す。
「ははは! なんだ!? なんだそりゃ!? いいな! いい!! すげぇぜ!! 大将以外にこんな奴がいたのか!?」
大将? こいつの上にまだ誰かいる?
そう言えば役職は防衛司令官だった。ここはあくまで拠点で、本拠地は別にあるのか?
「いいな。いい。そういう切り札を躊躇なく切れるってのはいいな。なら、こっちも見せてやらないとな!!」
その言葉に背筋が震える。
そうだ、こいつのスキルには不穏なものがあった。
『英雄力解放』。
それは勇者ユーマが持っていたスキルだ。
てっきり勇者専用だと思っていたけど……。
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁあうううううううぅぅぅうう!!」
アルグレイから放たれる咆哮。
バインドシャウトの効果が入っているのか、それとも単純に恐怖で竦んだのか、俺の足が動かなくなる。
周囲の魔力が渦巻き、相手の周りを廻り始める。
目で見える程の濃密な魔力。
これはマズい。
これは放置できない。
動け。
動け。動け。動け。
動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。
動けっ!!!
そして俺は駆け出した。
槍を構えて突進する。
「ぐっ!?」
だが、その穂先はアルグレイの手の平で、いや、手の平に集まっている魔力によって止められた。
「変身中は手出ししないのがお約束だろ?」
「お前っ!?」
その言い方。やっぱり転生者か。
この外見と種族で来訪者や召喚者って事はないだろう。
「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
魔力が炸裂し、眩い光を放つ。俺はその魔力の奔流によって弾き飛ばされた。
「ぐ、くそ……」
すぐに立ち上がる。
そして目の前には、巨大な赤い毛並みの犬が居た。
アルグレイ・ザ・ドッグ。俺はその名前の意味を知る。
「ゴブリンフォートラザニアを預かる、ユリアン三鬼将が一体、アルグレイ・ザ・ドッグ」
赤い犬の口から発せられた声はくぐもっていた。
発声器官が変わったから、魔力によって補正を受けているせいだろう。
「さぁ、楽しい戦闘の時間だ」
言って歪めた唇の奥から見えた鋭い牙が、炎に照らされて鈍い輝きを放った。
強敵現る!!
ただでさえ強いのに、更にパワーアップしました。




