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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第二章:エレノニア王国探訪記
27/149

第25話:ゴブリン襲撃

エルフの集落へ。

後半はタイトル通りの戦闘になります

その日は元野盗たちのアジトで一泊する事になった。

折角なのでエルフに見張りを頼む事にする。

セニアが提案すると彼らは渋ったが、貴重な戦力のMP回復云々を伝えると了承してくれた。


俺とセニアは適当なテント住居で就寝。

四畳半ほどの広さのそこに、二人で寝るのはちょっとドキドキしたけれど、疲労もあってすぐに眠りについた。


何も無かったよ。

うん。ほんと、何も無かったよ。


本当に何も無かったのに、大事な事だからと二回言うと、逆に怪しくなるのはなんでなんだろうな?


正直、セニアが自分の正体を明かしたうえ、王女としての立場を捨てて俺と共に居る事を選択しない限り、俺から彼女に手を出す事はない。


それはそれで重いけどなー。


翌日、女性達がエルフの護衛で旅立ったのを確認し、俺とセニアはエルヴィンと二人のエルフについてアジトを出発した。


目指す場所はエレニア大森林にある、エルフの集落エドウルウィン。

集落で俺達を紹介した後、報酬などの交渉を行って改めて正式に契約を結ぶそうだ。

その後はエルフの戦士達と共にゴブリンの拠点へと向かう事になる。


エドウルウィンへはエルフ達の足で六時間程度。俺は高いステータスのお陰でそれについていく事ができるけど、セニアはそうはいかない。

慣れない森の中を歩く事になるから、どうしてもその歩みは遅くなる。


エルフの威光は獣や魔物にも通じるらしく、道中、一度も襲われる事はなかった。

猪や熊が、木々の間からこちらを見ているのは中々シュールであったけど、若干可愛かった。


ただモンスターは別だ。

植物や動物系のモンスターの襲撃を度々受けた。

集落に着く前に多少、俺達の力を見せておこうと、積極的にそれらと戦った。


エルヴィンの種族LVこそ高いが、他の二人のエルフはそれぞれ17と18だ。

セニアのLVも16に上がっているから、彼らとセニアの実力にそれほど差は無い。

むしろ、武具の性能が良い分、セニアの方が強いくらいだ。

ただ、森の中という特殊な地形では、慣れたエルフに分があった。


二人とも『野伏レンジャー』の職業を持っているし、『森林踏破』のスキルもあるからな。


ちなみに、職業を持っているからって、その職業のスキル全てを使える訳じゃないからな。

必要LVとか、必要なステータスとかあるし。

同じ『野伏レンジャー』でも、森の中で活動する人間と、山の中で活動する人間だと自ずと必要なスキルが違ってくる。

そうすると、無意識のうちにスキルの選別でも起きるのか、使えるスキルに差が出てくるんだ。


スキルや魔法に熟練度があるように、スキルを獲得するための経験値みたいなのがあるんじゃないかな?

必要なスキルには優先的に経験値が回る、みたいな感じだろう。多分。


『常識』にもなくて、『アナライズ』でも見れない事は流石にわかんないからなー。

時間があったら女神フェルディアルにでも聞こう。


「ゴブリンだ!」


斥候を務めていたエルフの一人が鋭く叫んだ。


彼が指示した先を見ると、木々の間を歩くゴブリンが見える。

どう見ても何の変哲もない普通のゴブリンだ。

『アナライズ』で見ても特に変わったところは見当たらない。

種族LVも1なので、出現したてか、出現してから特に戦闘などを行っていない個体だろう。


「奴らの仲間ならこんなところで一体だけというのはおかしいな。警戒している様子もないし」


エルヴィンが冷静に分析する。

うん、俺もそう思う。


「ならば通常のゴブリンだろうな。向こうはこちらに気付いていないようだが、どうする?」


「放っておいた方が良いのでは? あれが件のゴブリンの仲間でないという保証は無いですし、罠の可能性もあります」


「罠?」


「聞いた限りでは、そのゴブリンは相当知恵が回る様子。ならば、通常のゴブリンとは一線を画す存在。その通常のゴブリンを囮に使い、引っかかった相手を襲う計画なのかも?」


可能性は低いと思ったけど、敵の正体がわからない以上、慎重に慎重を期すべきだ。


「そうだな。向こうが気付いていないなら無視しても構わんだろう。行くぞ」


俺の言葉を受け入れ、エルヴィンはエルフ二人に指示を出す。彼らも特に反論などせず、無言で頷き歩き始めた。

意外に話が通じるんだよな、こいつ。

人間を下等と見下しているのは間違いないけど、下の者からの進言を受け入れるだけの度量と柔軟さも持ってる。

長の後継者だという話だけど、これはエドウルウィンの未来は明るいんじゃないかな?


後は俺の戦闘力を見て、それなりに敬意を払うと決めてくれたのかもしれない。

エルフは弓の腕に誇りを持っていると『常識』にあったので、敢えて弓は使わずにブロードソードで戦っていたのも良かったんだろう。


日が暮れる前にエルフの集落に辿り着く。

森の中を歩いていると、突然木々が密集し、通路のようなものを形成している場所に出た。

背丈が合わせられた木と、綺麗に剪定されたその木々は、明らかに人の手が入っている事がわかった。

あ、エルフの手か。


「この先がエドウルウィンだ。もう少しだぞ」


エルヴィンが激励の言葉を口にする。

彼の性格を考えると、ありえない態度だが、それも仕方ないというもの。


セニアは息も絶え絶えで、明らかに限界に見えたからだ。

エルフィンリードの往復は適度に休息を取りながらだったもんなー。流石に半日歩き詰め(早足)はきついか。


「おぶろうか?」


「!? だい、じょう、ぶ……」


道中俺が尋ねると、セニアは一瞬驚いたような表情を浮かべ、次いで頬を赤くし、目を逸らし、そして、こちらを強く見返してそう言った。


「そっか」


俺はそう言うと、セニアの背後に回る。

セニアが歩き出すと、俺もその歩調に合わせて歩き始めた。


少しでもよろめけば、強引に担ぐつもりだった。

けれどそれを感じ取ったのか、それとも本当に大丈夫だったのか、セニアは歩調を緩める事無く歩き切った。



HP75/137


状態:疲労(重度)空腹(中度)



ステータスがセニアがいかに限界だったかを物語っていた。


「あれって煙か?」


通路の向こうに煙が見えた。

煮炊きの煙か、それともこれから暗くなるから篝火でも焚いているのだろうか。


「夕餉の準備には早い。それにあの煙はそういうものとは違う……!」


俺の言葉を聞いたエルヴィンが、一人のエルフに指示を出し先行させる。


おや、ひょっとしてまずい状況?


エルフが走り出し、エルヴィンともう一人のエルフがやや早足になった。

俺とセニアもそれに続く。


集落が近づくにつれ、通路の向こうから人が争うような声が聞こえて来た。

怒号に悲鳴、そして金属同士がかち合う音。


それは男がその価値を賭けるべき時に奏でる音。

すなわち、戦場音楽だ。


「集落がゴブリンの一団に襲われています!」


「なんだと!? 状況は!?」


先に様子を見に行っていたエルフが戻って来て報告する。

音が続いている以上、集落自体は無事だと思うが、それがどの程度無事なのかは重要だからな。


「集落入口に簡易陣地を築いて侵入を防いでいるようです」


報告するエルフの口調には若干の余裕があった。

恐らく、突破されるような事はないと考えているのだろう。


「このまま進めば挟撃できますね」


「危険ではないですか?」


俺の言葉に、残った方のエルフが反論する。

まぁ、普通に考えればそうなんだけどな。


「敵の規模は?」


「詳しくはわかりませんが、おそらく百体程。レッドキャプやホブゴブリンも見えました。魔法の炸裂音がしませんでしたので、メイジは居ないかと」


「元々敵にメイジは確認されていなかったのですか?」


先行したエルフの報告に、俺は違和感を覚えた。


「いや、メイジも居たし、その亜種であるブラックアニスも確認されている」


レッドキャップと同じく、地球ではイギリスの伝承に登場する邪妖精ブラックアニス。この世界ではエルヴィンの言葉通り、ゴブリンメイジの亜種とされている。


「という事は、敵の目的は集落の陥落ではないかもしれませんね」


「どういう事だ?」


「これまでに集落が襲撃された事は?」


「いや、ないな」


「という事は、今回のこれは威力偵察でしょう」


「偵察だと? 攻撃を仕掛けているのにか?」


『常識』からわかっていた事だけど、この世界に威力偵察という言葉は無かった。

地球でも、いつ頃から使われ始めたのか知らないけど、どうだろう? 言葉は無くても、概念自体は昔からあったんじゃないかな?


「実際に敵と戦い、その戦力を肌身で推し量る事です」


「危険過ぎではないか?」


「対象が独力で対処可能な事がわかっている事が前提ですね」


そう、エルフの集落ならばある程度戦力は把握できる。

後はそれがどれほどの規模なのか? 自分たちの予想を超えた何かがあるのか?

何より、彼らの気質を測るうえでは非常に有効だ。


勇猛なのか慎重なのか?


また、その戦い方から、指揮官の有能さも確認できるし、部隊が指揮官に依って戦っているのか、それともある程度独自に動いているのかも確認できる。

そうした情報は非常に重要だ。

この世界だとあまり重視されていないけれど。


「という事は今集落を襲っているゴブリン達は……?」


「ある程度戦ったら逃げると思います」


勿論、そのまま陥落させられそうならそうするつもりなのだとは思うけど。


「ならば余計に戦わない方が良いのでは?」


残っていたエルフがそう発言する。

彼の提案は非常に現実的だ。何せ敵は適当な所で逃げるのだから。

先行したエルフの態度から、防衛部隊が突破されるような事は無いと彼もわかっているんだろう。

だったら無理に戦う必要は無い。

それこそ、退路を断たれたとして、犠牲を厭わず襲って来る死兵になられては困る。


「偵察に来ているという事は、相手はここがエルフの集落である、という以上の情報を持っていないという事。その規模も、個人のレベ……戦闘力も。だからこそ、奴らは皆殺しにしなければなりません。なぜなら――

――死体は情報を持ち帰らないから」


情報が手に入らなければ、襲撃を中止するか、しっかりとした情報が集まるまで延期するかするだろう。

こちらが敵の拠点を攻めるための時間を稼げる。

無駄な戦闘はしない方が良い。


勿論、敵をわざと逃がし、敵に攻めさせる事で、敵を攻撃部隊と防衛部隊に分断するという策もある。

攻城戦は通常、防衛部隊の3倍から5倍の兵力が必要とされているから、その敵部隊が減る事はこちらの有利に働く。


戦う回数を増やす事で、一度に戦う敵の数を減らす戦略だ。


けれどその場合、敵が襲って来ない可能性を考慮しなければならない。

敵が偵察の結果、攻めるのは容易ではないと判断する可能性がある。

それは偵察部隊を全滅させたのと同じ状況だが、決定的に違う部分がある。


それは敵がこちらの戦力を把握しているかどうかという事だ。


それこそ敵が襲撃を警戒し、拠点の防衛力を強化してしまう可能性だってあるんだ。


だったらここで偵察部隊を全滅させて彼らの分だけでも数を減らし、そして相手に情報が渡る前。つまり、相手の防衛準備が整う前に攻め込む方が良い。


「先鋒を任せられるか? 我々は後方から弓と魔法で援護する」


「それは……!」


セニアが口を挟もうとするが、俺はそれを手で制する。


「任されました」


そして俺はブロードソードを抜いて走り出す。


「あ、もう!」


セニアも俺を追って走り出そうとして、あ、コケた。

随分足にキているようだな。


「コルドは我と来い。ルドは彼女と後から来い」


「はい」


「かしこまりました」


先行したエルフがセニアに駆け寄り、残っていたエルフがエルヴィンに続いて走り出す。


少し走るとゴブリン達の背中が見えて来た。

流石に数までは正確にわからないが、報告通り、ホブゴブリンやレッドキャップが居る。


というかおい、騎乗したゴブリンが居るぞ?

あれこそ報告しなきゃいけない存在じゃないのか?


馬ではなく、黒い毛並みの大型犬に乗ったゴブリンが、5、6……7体居た。

ただ跨っているだけじゃなくて、鞍に鐙もついている。


乗っているのはモーザドゥーグ。黒い犬の姿をしたモンスターだ。

騎乗しているゴブリンは『アナライズ』で見てもただのゴブリンだ。

『常識』には無かったけれど、ゴブリンライダーとか居るのかと思ったけど、そうではないらしい。




名前:タンタン

種族:ゴブリン

性別:♂

種族LV21



名前:ワンタン

種族:ゴブリン

性別:♂

種族LV18



名前:サーラー

種族:ゴブリン

性別:♂

種族LV19




ていうか、おい、種族LV!!


他のゴブリン達が軒並み1なのに、騎乗ゴブリンだけやたらと高いんだけど!?


あと名前!!!


まさか転生者……!?


これは本当に威力偵察なんじゃないだろうか?

他のゴブリン達は完全に捨て駒で、この騎乗ゴブリン達がある程度戦ったら情報を持ち帰る役目。

ただ指揮が目的じゃなくて、機動力を高めるための騎乗なんじゃないか?


そうすると、拠点の情報といい、こいつらかなりやる(・・)ぞ。


これはいよいよ生きて返す訳にはいかない。

人間を下等と見下し、閉鎖的な森で生きるエルフなら、俺の情報が出回る可能性は低い。

むしろ、自分達だけが知っている優越感に浸ってくれる筈だ。


「『ライトボール』」


俺は空いている手から光の玉を、ゴブリン達の上空へと放る。


「ぐぎゃ!?」


「ぎゃぎゃ!?」


突然の閃光に目が眩み、悲鳴を上げるゴブリン達。

その直後に続く『スピアーレイ』の追撃。


眼が焼かれる事を免れた騎乗ゴブリンの一体が、奇襲に気付いてこちらを向く。


「空を穿つ槍――インヴィジブルジャベリン!!」


後方のエルヴィン達はまだ距離がある。

呪文の詠唱さえ聞かれなければ、俺が何をしたかわからないだろう。


振り向いた直後のゴブリンの頭が、不可視の魔槍に貫かれ、弾け飛んだ。


「ぎゃ、ぎゃぎゃ!」


「ぐぎゃ、ぎゃあ!」


異変に気付いたのか、残りの騎乗ゴブリンもこちらを向く。そして、前方に居たホブゴブリン達に何やら命令を下した。


一部が戦線を離脱し、こちらに向かって来る。

騎乗ゴブリンもその後ろから追って来た。


多分、ホブゴブリンを俺にけしかけて、その間に逃げるつもりだ。

よく訓練されている。だからこそ、こいつらを逃がす訳にはいかない。


「『ウィンドウォール』!」


俺の放った魔法の風が、ホブゴブリン達の足を止め、黒犬の足を乱れさせる。


その隙を突き、素早くクロスボウを抜き、矢を放つ。

狙うのは騎乗ゴブリンじゃなくてモーザドゥーグ。

ゴブリン達はLVが高いだけあり、HPも高いので、一撃で倒せない可能性があるが、モーザドゥーグの種族LVは3~5程度だった。

騎乗用モンスターまで育っているのは驚いたけど、それでも騎乗ゴブリンよりはワンパンが狙える。


更にブロードソードを捨て、ショートボウを取り出す。

一発放った後、クロスボウを捨て、『クイックショット』から『パワーショット』で黒犬を狙い撃つ。

次いで『連射』ではなく、『乱れ撃ち』のスキルを選択。


モーザドゥーグを殺す必要は無い。転倒させるだけで十分だ。

普通の人間なら、走り出した馬が突然転倒したなら落馬する。

それだけで死ぬ事は稀だけど、すぐに戦闘に移れる状態では済まないだろう。


こちらをやり過ごして逃げようとしている騎乗ゴブリン達を相手に、一体ずつ確実に仕留めていたのでは、絶対に何体か取りこぼす。

後方のエルヴィン達、セニア達が迎撃してくれるとは思うけど、逃がす可能性だってあるんだ。


だったらまずは、確実な方法で敵を全員戦闘不能にするべきだ。

止めを刺すのはそれからでいい。

黒犬の機動力が無くなれば殲滅も容易い。


と、思っていた時期が俺にもありました。


「ぎゃああああぁ!」


バランスを崩したモーザドゥーグの背から、素早い身のこなしで跳躍すると、騎乗ゴブリンは雄叫びを上げてこちらに飛び掛かって来た。


その手には大振りの鉈が握られている。



小鬼の大鉈:[分類]近接武器

      [種類]片手剣

      [属性]斬撃

      [備考]なし

      [性能]物理攻撃力33・重量5

      植物に対する攻撃力30%増加

      [固有性能]なし



魔法の武器ではないようだけど、かなりの高性能だ。

ただこの威力とこいつのステータスじゃ俺に大したダメージは与えられない。

とは言え、何かスキルを持っていると厄介だ。


『乱れ撃ち』で黒犬からターゲットをゴブリンに変更する。

しかし俺の放った矢を、相手は空中で鉈を振るって弾き落とす。


おいおいマジか……。


そして俺に向かって鉈を振り下ろして来た。

俺はショートボウを捨て、右に跳ぶように転がって避ける。


そこには俺が捨てたブロードソードが落ちている。勿論、計算の上での行動だ。


「ぎゃあ!」


着地してすぐにこちらに向かって来ようとするが、その前にブロードソードでゴブリンの頭を断ち割る。


その間にも、矢を受けたモーザドゥーグから飛び降りたゴブリン達がホブゴブリンと連携して俺に向かって来ている。

無事な黒犬に乗ったゴブリンは、そのまま俺の横を走り抜けようとしていた。


「殿軍のつもりか!」


よく訓練されている。

逃げる奴は訓練されたゴブリンだ、ってか。


「『隆起(プリマス・ノーム)』!」


俺はブロードソードを地面に突き刺し、魔法を発動させる。

地面を隆起させる精霊魔法、所謂『スネア』だ。

盛り上がった地面に躓き、黒犬たちが次々転倒する。


「ぎゃあ!」


しかしそんな中でも、手綱を巧みに操り、転倒を防いだ奴がいる。


二体抜けられた。けれど……。


「ぐぎゃ!?」


凄まじい勢いで飛来した矢が、騎乗ゴブリンの頭部を貫いた。

今の矢、横回転してたな。てことはエルヴィンの『スパイラルアロー』か。


銃弾が丸から先が尖った今の形になり、銃口がただの筒からライフリングがついたものに変わったように、スピンして飛べば飛距離が伸び弾道が安定する。

ただ、弓矢の構造上、あり得ない飛び方だけどな。スキルって凄い。


更に飛来した数本の矢が、残ったゴブリンに突き刺さり、魔石に変えた。

あれはコルドの方か。


俺は抜かれたゴブリン達を意識の外に追いやり、向かって来た奴らを迎え撃つ。

先に逃げた奴らが倒されたのを見たのか、騎乗していたゴブリンが逃げるような姿勢を見せたので、そちらを優先的に攻撃する。


しかし俺とゴブリンの間にホブゴブリンが割って入る。

中々良い動きだけど、所詮はLV1の捨て駒さん。

動きの訓練くらいは受けているのだろうけど、しかし肝心の駒が拙くてはね!


俺はブロードソードを袈裟掛けに振るい、ホブゴブリンを切り裂く。


「うぉっ!?」


崩れ落ちるホブゴブリンの後ろから、俺に飛び掛かろうとしている騎乗ゴブリンが見えた。

連携!? 逃げようとしたのはフェイクか!


既に俺はブロードソードを振り抜いている。騎乗ゴブリンが振るう鉈を止める事はできない。

ブロードソードを普通に扱っていたらな。


俺の身の丈程もあり、肉厚のブロードソードは、通常両手で扱う。

おまけにその重量と長さのせいで、遠心力がとんでもない事になるから、どうしても振り回すような動きになる。


けれど俺は筋力にものを言わせてブロードソードを片手で振るっている。

更に振り抜いても、体まで持って行かれる事はなく、すぐに体勢を建て直す事が可能だ。


「ふんっ!」


俺はすぐに身を捻り、左手に抜いたショートソードでゴブリンの鉈を受ける。


「ぎゃあっ!?」


甲高い音が響いて、ゴブリンが空中で弾かれたように仰け反る。

思いっきり振ったからなぁ。受けるというより弾くような感じになっちゃった。


あとショートソード砕けちまったし。


左手を振るった事で右手も引く事ができた。


「でやぁっ!!」


左足を強く踏み込み、腰を回転させる意識で右手を振るう。

ブロードソードが火花を上げる勢いで走る。空気を纏って重く感じる程だ。


右手を振り抜いた時、感触は何もなかった。

ただ空中で静止したように体を両断されて浮かぶゴブリンの存在だけが、俺の成した事を証明していた。


よし、ブロードソードは無事だ。


「ぎゃ、ぎゃぁ……」


俺がゆっくりと振り向くと、残された二体の騎乗ゴブリンと、三体のホブゴブリンが戸惑うような素振りを見せた。

こいつ、怯えてやがるぜ。


彼らの背後ではまだ戦闘が続いている。

けれど、ゴブリンが倒されて魔石となる光が徐々に近づいて来ているのが見えた。

終わりは近いな。


「あとはそ奴らだけか」


俺の背後でエルヴィンが言った。

俺とエルヴィンの距離は二メートル程。その更に五メートル程後方にコルドが控えている。


黒犬の機動力を失った奴らでは、この木の通路を抜ける事は不可能だろう。


さてあとは、玉砕覚悟で突っ込むか……。


すると一体のゴブリンが懐から青い布を取り出す。

そう言えば戦闘に夢中になってて気にしてなかったけど、騎乗ゴブリンって普通に服着てるよな。

ホブゴブリンやレッドキャップは通常通りの腰ミノ一枚なのにな。


「降伏するつもりか!? ゴブリン風情が!?」


エルヴィンが吐き捨てるように言った。

青い布、というか青旗は降伏の合図だ。

この世界でも元々降伏は白旗を挙げて現していた。

けれど、昔に白旗を掲げて降伏した小国家を、侵略者の王が、

「あれは茶色と赤で塗られていて白旗とは言えぬ」

と言って皆殺しにした事で、青旗が用いられるようになった。


「モンスターに降伏など認められぬ! みなごろしに……」


エルヴィンが言いかけた時、ゴブリン達が動いた。

はなから降伏が認められると思っていなかったんだろう。

青い布を取り出したゴブリンは、その行動で俺達の眼を引くための囮。


二体のホブゴブリンがそれぞれ通路の壁にとりつく。

腰を下げて両手を組んで膝の間に差し出した形。

バレーのレシーブに似ているが、手のひらが上を向いている。


ていうか、あれまさか……。


二体の騎乗ゴブリンがホブゴブリンに向かって走り出す。


「ちっ! 逃がすか!」


意図に気付いてエルヴィンが弓を構える。


「ぐぎゃあ!」


しかしその目の前に残ったもう一体のホブゴブリンが立ちはだかる。


マジなんなのこいつら? 動き良すぎだろ。

一体どれだけの状況を想定してきたんだよ……。


ゴブリンが軽やかにホブゴブリンの手の平に飛び乗ると同時に、ホブゴブリンがゴブリンを凄まじい勢いで打ち上げる。

子供の頃に試した事のある人は多いと思うけど、この人の手を踏み台にしたハイジャンプ、非常に難しい。

大体、飛び乗って来る相手を自分の手だけで受け止めるのが難しい。そのうえで大きく上に放り上げないといけないんだ。

打ち上げる側だけでなく、飛び上がる側にもシビアなタイミングとバランス感覚を要求されるからな。

これをこともなげにやってのけるという事は、相当練習して来ている証拠だ。


感心だけしてられれば楽なんだけど、そういう訳にもいかないだろう。

なんとなく、逃がしてしまいたい衝動に駆られるけれど、悲しいけど、これお仕事なのよね。


「『エナジーランス』」


ショートボウもクロスボウも手放した状態じゃ流石に弓は間に合わない。

だから魔法で撃ち落とす。


詠唱破棄をエルヴィンに知られてしまうが、まぁ、今更だ。


樹木の壁より高く舞い上がったゴブリン達それぞれの目の前に、魔力の塊を出現させ、それを槍状に変化させて彼らにぶつける。

魔法は別に両手から放たなくてもいいんだ。

魔力の放出をイメージしやすいから、手や杖から魔法を放っている人間が多いだけ。

魔力操作に慣れていれば、適当な空間に座標を設定して、任意の場所に魔法を発動させる事ができる。


魔導士ソーサラー』LV50以上で使えるスキル、『魔力遠隔操作』を今回は使った。

獲得してない職業のスキルが使えないのは中々厳しい制限だけど、獲得してさえいれば、スキルの使用に必要な条件を無視して使用できるのはやはり強い。


「ぐぎゃあ!?」


魔法の槍に貫かれて、樹木の壁の内側に落下するゴブリン二体。受け身も取れずに落下した事でHPが尽きたのか、そのまま光の粒子となって消えた。残されたのは三つの魔石。

そう、三つ。

種族LVが上がるとモンスターが落とす魔石の数が増えるんだ。

ゴブリンから出るのはゴブリンの魔石だからね。苦労してLV99のゴブリン倒したのに、手に入ったのはゴブリンの魔石一つって、正直その落胆だけで死ねそうなガッカリ感だ。

あ、別にLVの最高が99って訳じゃないからな。


青い布を取り出したゴブリンと、エルヴィンによる迎撃を妨害しようとしたホブゴブリンはこの間に倒されていた。

俺は打ち上げ係になったホブゴブリンに無造作に近付くと、ブロードソードを振るって一刀の下に切り倒していく。


さて、後は集落を攻撃しているゴブリン達だけど……。


うん、もう大分数が減っているな。

指揮する者がいなくなったのも大きいんだろうけど、まぁ、元々突破は無理、みたいな話だったしな。


「どうします?」


「巻き込まれてもつまらん。遠距離から削るぞ」


「わかりました」


「はい」


弓を持って敵集団に近付くエルヴィンに続き、俺とコルドも弓を構えて前に出る。

そのくらいでセニアがルドと一緒に追いついて来た。


「ルドさん、替わります」


「わかりました」


それに気付いて、俺はセニアに近付いていく。ルドは俺の提案を受けて、弓を持って小走りにエルヴィン達を追いかけた。


「大丈夫か?」


「ええ。情けない所を見せちゃったわね」


「いや、今までも結構見てたし」


「そ、そうだっけ?」


「寂しがり屋で恥ずかしがり屋で世間知らずだよな」


「そ、ソウダッケ……?」


「強がりだし見栄っ張りだし」


「…………」


「かと思うと素直な所もあったりして……」


「……………………」


「時折見せる、年相応な可愛さが……」


「もうやめてっ!」


おお。耳まで真っ赤だ。

うん。途中から楽しくなっちゃったのは内緒だ。


「すまんすまん」


「もう……」


適当にへらへらと謝ると、セニアは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

うわ、つつきてぇ。


「それよりエルフの依頼だけど……」


「勿論受けるわよね?」


疑問形だけど、決定事項のようだ。

まぁ、さっきのゴブリン達見てちょっと興味湧いたから別にいいけど。


「まぁ、セ……ミューズが受けるっていうなら俺は従うよ」


「ふふ、よきにはからえ」


王女のわりにノリ良いんだよなぁ。

正直この旅のパートナーがセニアで良かったぜ。

ヒキニートの俺でも大分会話できるようになったもんな。


謎の高LVゴブリン登場

次回はエルフの集落にて交渉をする予定

加えて、あるサービスシーンも予定しております

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