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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第二章:エレノニア王国探訪記
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第21話:暗殺者の夜

連日投稿は無理でした

若干短めです

俺はフェルの死体の上に熱球を上げ、氷を溶かしていた。


「ほんとに、勝っちゃったんだ……」


背後からセニアが声をかけきた。

なんだろう? 声に含まれた感情が複雑すぎてよくわからない。

ニートだから? コミュ障だから?

リア充になれば理解できるようになるのかな?


少なくとも、怖がられてはいない。

多少引かれてるっぽいけど。


「まぁ、相性が良かったな」


多少誤魔化しは入っちゃったけど、まぁ、嘘は言ってない。


程よく溶けたところで剥ぎ取り開始。

予定通りに火竜槍と火竜の小盾を回収する。

兜も無事だ。全身鎧は……あ、ダメだ。潰れちゃってる。


まぁ、予定通り予定通り。修理できるようになるまでは『マジックボックス』の肥やしだな。


続いて持ち物を漁る。

殆どが急速な冷却でダメになってしまっていた。

ち、勿体無いな。

お、魔力回復薬がある。

簡単な素材で『錬成』できるマジックヒーリングポーションと一部の茸に中和剤を混ぜて『錬成』すれば作れる中々レアなMP回復用アイテムだ。


使われていたら面倒な事になっていたな。


続いて先に殺したエディの剥ぎ取りに入る。

軽装備だがいいものばかりだ。流石大手冒険者団の一員。


火竜シリーズと違って、こっちはマントとかで隠せば目立たなくなりそうだな。

曲者シーフ』だけあって持っていたアイテムも有用なものばかりだったし。


「この人たちはどうするの?」


俺の作業が終わった頃、セニアが尋ねて来た。

彼女が言っているのは、フェルに殺された《赤き狼団》の団長とその仲間たちの事だ。


「どうもしない。俺が殺した相手じゃないから剥ぎ取りの権利はないし、仲間だった訳でもないから、遺品を持ち出す事もできないし」


正直、どんな人間だったかもわからないから、悼む気持ちも無いしな。


「そうね」


それはセニアも同じだったらしい。

その声に、特に含むものは感じられなかった。

俺が感じ取れなかっただけじゃないと、思いたい。


「とりあえずさっさと外に出よう。その後はフィクレツに戻らずルードルイへ向かう」


「そうね」


フィクレツに残っているだろう、フェルの仲間たちがどう出るかわからない以上、フィクレツからさっさと離れた方が良い。

実際に彼らが団長を殺したのかどうかは知らないが、少なくともフェルの行動に賛同したのは確かだし、今回の作戦も知っている筈だ。

そこでフェル達が戻らず、俺とセニアが戻ればどうなるか。


夜安心して眠れなくなる状況は勘弁だわ。


「よし、行くぞ」


言って俺はセニアの腕を取る。


「へぇっ!?」


中々面白い声を上げるな。

突然手を握られたから驚いたんだろうけど、グローブ越しじゃこっちもあんまりだからな。


「マヨイガの変動で分断される訳にはいかないからな」


「え? あ、ああ。そうね。そうよね」


他意なんてないわよね、と小声で呟くセニア。

すいません、あります。

いや、勿論合理的に女子と手を繋ぎたかった訳じゃない。

どちらかって言うと、このセニアの反応が見たかったのが大きい。


勿論、分断されないように、ってのも理由としてあるけど。


『マップ』と『サーチ』を駆使して入口まで戻る。

道中、少数の冒険者とニアミスしたが、何とか出会わずやり過ごす事ができた。

今通ろうとした通路が突然下から出現した壁で遮られたり、歩いている通路が横にスライドしたりしたりでかなりの時間がかかってしまった。

出現するモンスターは、試し切りとばかりに火竜槍で次々に屠る。

槍戦士ライトランサー』の職業も欲しかったし。



火竜槍:[分類]近接武器

    [種類]槍

    [属性]突き・斬撃・打撃

    [備考]魔法の武器

    [性能]物理攻撃力210・重量34

     物理攻撃時、追加で威力150の炎属性のダメージ付与

    [固有性能]焔魔爆裂

     MP80消費。炎属性の魔法ダメージを広範囲の対象に付与



ちなみに火竜槍の性能はこんな感じ。

もうショートソードとかシミターでどっちが威力が高いかとか比べるのが馬鹿らしくなる性能だよな。

火竜槍の特徴として、通常のダメージの他に炎属性のダメージが追加で乗る事。

しかもこれは、火竜槍の通常攻撃とは別に判定されるので、炎属性の攻撃を無効化する相手でも、通常のダメージは入る。

便利だなぁ。


けど重量がとんでもない。

普通の人間だと持てないぞ? これ。

持つことはできても振るう事は無理だろうな。


単純に、筋力の数字を超える重量を装備する事はできないと思えばいい。

ただ持つだけなら全身で抱えればいいけど、戦闘するとなると、この重量を腕だけで支えなくてはいけないし、槍を振るえば遠心力が重さに乗る。

二桁の筋力では、その重量に振り回されるのがオチだろうな。


まぁ、俺は全く問題ない訳だけど。


基本耐久力の高いダンジョンのモンスターを、その高い攻撃力にものを言わせて次々ワンパンで撃破する。

ここまでの武器だと、俺が筋力をフルに使って振るっても、壊れる心配が無いから、ショートソードなんかと比べて、非常に威力が高く感じられるんだよな。


来た時は二日かかった道程を半日で踏破し外に出る。

このまま野営や砦に宿泊するのは危険と考え、そのまま北へと向かう事にする。


「馬はどうするの?」


ルードルイまでは街道を通っても、歩けば二十日はかかる。

馬を使えば五日程度だ。


「俺達を殺すか仲間にするかするつもりだったんだから、変な小細工はしてないだろう。そのまま使わせてもらおう」


フェルとエディが乗っていた馬はそのまま置いていく。

のもあれなので、繋いでいた綱を切って、適当な所へ走らせる事にした。

野生化する事はないだろうけど、上手くいけばどこかの村に拾われるだろう。

馬は高価だけど、農作業をかなり楽にしてくれる優良な家畜だからな。

牛と比べて食費が嵩む欠点があるけど。


エレア山地の南側は、エレア山の山頂から漢字の『人』のような形になっている。

その枝分かれした山地をそれぞれ流れるのが東西エレア川だ。

とは言え、そこまで標高は高く無いし、険しい訳でもない。

わざわざ山地を迂回する事もなく、俺達はまずマヨイガから山を越えて東へ突っ切り、フィクレツからルードルイへ続く街道へと出る。


マヨイガを出た時は昼少し前くらいだったが、山を越えた辺りで日が暮れたので、麓で野営する事になった。


適当な大木の下に簡易的なキャンプを造り、夕食を摂った後はすぐに就寝となった。

相当疲れていたんだろう。すぐにセニアは静かな寝息を立て始めた。


俺は暫くそんなセニアを眺めた後、俺は彼女に右手を翳し……。


「『眠りの風テルティアス・ウィンキー』」


眠りの精霊の力を借りた精霊魔法、通称『ウィリーウィンキー』。

効果は勿論、対象を『睡眠(重度)』にする事。

相手の魔抵が高いと程度が低くなるし、最悪抵抗される事もある。

けれどどちらも、相手に抵抗の意思があった場合の話だ。


眠っている相手なら、無条件で更に深い眠りに誘う事ができる。

これで余程の事が無ければ起きないだろう。


「『コンシールエフェクト』」


更に対象を認識されにくくなる魔法でキャンプ周辺を覆っておく。


ここまで準備して俺は何をするのか?

手を出した事の責任逃れのために、完全に相手に気付かれない形でセニアに悪戯をする?

まさか。そんな度胸欠片も無いよ。

この世界のものではないけど、社会的倫理観はそこそこある方なので。


「『テレポート』」


そして俺は瞬間移動する。

場所はマヨイガへ向かう前日に宿泊した宿。

いや、もうホテルと言ってしまおう。

そのホテルの俺が泊まっていた部屋。

そのベッドの下だ。


間違いなく別の人間が宿泊しているだろうから、その用心のためだ。


用心のためにベッドの下で眠る人間もいるそうだけど、このホテルに宿泊するような客ならそこまではしない。

そんな客を狙って斧を持った男がベッドの下に潜んでいるような事も無かった。


ベッドの上に人の気配。

俺は『マップ』と『サーチ』で目的の相手を探る。

うん。予想通りこの宿に泊まっているな。


勿体ぶらずに言えば、目的はフェルと一緒にいた《赤き狼団》の残りのメンバーだ。

フェルの思想に賛同する事はいい。それで団長他古参のメンバーを殺害するのも、それは団の中の事なのでこれもどうでもいい。


しかし、俺はもう巻き込まれてしまった。

しかも、死か従属かの選択を迫られるという最悪の形で。


彼らがフェルの作戦を知っていたかどうかはどうでもいいし、確認のしようがない。

けれど、少しでも俺達を害する可能性があるなら、それを排除しておくべきだ。


だから俺はこの宿に戻って来た。


無言で自分に『サイレントウォーク』の魔法をかけて足音を消す。

音も無くベッドの下から這い出て、扉へ向かった。

微かな月明りと、外の街灯から差し込む僅かな光しかないけど、『ダークサイト』の祝福のお陰で昼間のように見る事ができた。


そのままフェルの仲間達の元へ。

三人と一人に分かれて泊まっている。

一人は女性だ。

男女別に分かれる程度の分別があったのか。

それとも、この一人がフェルのお手付きなのか。


あいつの性格を考えると、後者の可能性が高いなぁ。


まぁ、どうでもいい。


俺はまず、男三人の部屋へと入る。


眠っている男に音も無く近寄り、そして火竜槍を振り上げる。


こいつらはフェルと違って俺を殺そうとした訳じゃない。

けれど、俺を殺す事に賛成した奴らだし、ならばフェルの失踪を知ったこいつらが、事情を知っていそうな俺達を探す可能性は十分にある。

そして完全に敵だと認識したこいつらが、見つけた俺達から穏便に話を聞こうとする訳がない。


流石にそんな奴らを野放しにしたまま旅は続けられない。

夜、安心して眠れない状況は勘弁だからな。


野営なら防具をつけていただろうが、このホテルのベッドの上では、歴戦の冒険者と言えど、完全に無防備な状態だった。


奇襲に部位狙い。俺の筋力に火竜槍の攻撃力。そして振り下ろし攻撃の威力を高める『スマッシュ』。


まぁ、耐えられる人間はまずいないわな。


俺は次々に一撃で男たちの頭を割っていく。

慣れてしまえば、このHPがゼロになると普通にグロくなる現象は、死亡か死んだふりかを見極める良い基準になった。


三人を手早く殺して俺は部屋を出る。

こいつらの装備や所持品は漁らない。


あくまでこれは俺が今後旅を続けるうえで、安全保障上、念のために行っている行為だ。


復讐でも返り討ちでもない。


だから、こいつらから剥ぎ取りを行うのは違うと思ったんだ。


間違いなく『盗賊ロバー』の職業を獲得してしまっていただろうな。


スキルだけで見れば、割と良いものが揃っているから、獲得してしまっても良いのだけど、職業を確認できる人間は割と多いから、その時、『盗賊ロバー』を持っていたら、あらぬ疑いを抱かれる事になる。


職業として存在していると言っても、普通に犯罪者だから。

バレると利用できない施設もあるし、何より多くの街に入れなくなる。

場所や相手によっては問答無用で投獄、へたをするとその場で殺されてしまう可能性だってある。


そんなリスキーな職業、獲得したくないよ。


最後に残った女の部屋へ。


神性術士ヒエラティック』の彼女はそこそこ整った顔立ちをしていた。

誰が見ても美人、という訳じゃないけど、クラスメートなら普通に可愛いと思える容姿をしている。

同じクラスにこんな娘がいて、告白されたなら、その時余程好きな相手が居ない限り、了承してしまうだろう。

そのくらいには可愛い。


勿体無いけど仕方ない。

既に一人しか残っていないから放っておいても良い気はするけど、彼女がフェルの恋人だった場合、復讐に燃える女の情念は時に恐ろしいからな。


織田家に滅ぼされた朝倉家の姫が、本願寺内で暗躍して、包囲網崩壊後も徹底抗戦の姿勢を取らせたって説もあるくらいだし。


後顧の憂いは断っておくに限り。


ここで可愛いからと言って、ヤる事ヤってから殺すなんてそんな鬼畜じゃないけどな。

そこまでのステージには至っていないし、至りたいとも思わねぇよ。


あと、三十前のヒキニート童貞の貞操観念なめんな。

ここまで童貞だったからこそ、それを捨てる時には幻想を抱いているもんなんだよ。


そして俺は火竜槍を振り下ろし、男たちと同じように、女の頭を割った。


……暗くて良かった。流石に罪悪感はんぱねぇな。




新しい職業ゲット→暗殺者:獲得条件・気付かれずに対象を殺害し、その際種族LVが上がる。

         槍戦士:獲得条件・槍を用いて行動した時、種族LVが上がる。



そういや『騎手ライダー』獲得してねぇな。

結構長く乗らなきゃダメなのかな?


まぁ、簡単に獲得できるんなら、フェルもエディも獲得してる筈だしな。


獲得条件は騎手として熟練する。ってだけだから、ひょっとしたら何かしらの曲芸でも行わなければいけないのかな?


そして俺は『テレポート』でセニアが眠るキャンプへ戻り、例によって見張り中に寝てしまい、そのまま朝までグッスリだった。


敵には容赦しません

勇者とかそういうのじゃないので

勿体無い勿体無い

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― 新着の感想 ―
[一言] 告発も何もしてないから調査はいったら指名手配されそうなことしてるなぁ。
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