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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第二章:エレノニア王国探訪記
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第19話:マヨイガ

また時間かかってしまいました

でもついに新年度。きっと更新速度も上がる……筈

「マヨイガはその性質から、あまり冒険者に好まれていないダンジョンなんです」


翌日、俺は馬に揺られながらマヨイガへ向かっていた。

フィクレツの北の門を出て、馬なら二、三日で到着する。

メンバーは俺とセニアとフェルとフェルの仲間の『曲者シーフ』の四人。


大勢で行って、また分断されるなんかして二次遭難したら困る、とかなんとか言って俺は同行者を減らさせた。

べ、別に知らない人に囲まれるのが怖かった訳じゃないんだからね。


正直案内役と団長達の捜索用にフェルだけで良かったんだけど、二対二の形にする事で、相手にこちらを必要以上に警戒させないようにした。


馬はフェル達が用意したものだ。

護衛クエストで客用に使われたものより大きく、豪奢で、そして堅牢そうな馬車もあったが、四人では持て余すので馬になった。


勿論俺に乗馬のスキルなんてない。

ただ意外にも『常識』の中にあったので、あとは例によってステータスの高さでゴリ押しする事にした。


暫く乗っていれば『騎手ライダー』の職業を獲得できるだろうし。

セニアも馬に乗れた。流石王族。


「逆に自分たち《赤き狼団》は、定期的にマヨイガに入り、ある程度攻略を進めていたんです」


「氾濫対策ですか」


「ええ、そうです」


《赤き狼団》は百人近い大人数を誇る巨大な冒険団だ。その人数の利を活かし、様々なダンジョンに多くの人員を送り込んでいる。

ベテラン冒険者を引率につければ、新人の教育も捗る。所謂パワーレベリングも容易だからな。

戦力の効率的な底上げが行われれば、ダンジョンから得られる利益も大きなものになる。

氾濫対策にもなるから、冒険者ギルドをはじめ、多くの組織から信頼を得られる。

そうすると、大きな後ろ盾がなくても、ある程度の独立独歩を許されるようにもなるだろう。


うん、うまく考えられている。


長い年月をかけて作られたシステムだって言うならともかく、これを一人の人間が十年程で築き上げたっていうんだから、そいつの才覚は推して知るべし。


しかしマヨイガを探索中、その団長と一部の団員がダンジョンの変動によってフェル達と分断された。

探索系のスキルを持った『曲者シーフ』らは全員団長の側。フェル達側に残った今俺達に同行している『曲者シーフ』は、鍵開けや罠解除が専門らしい。


「今までもパーティがダンジョンの変動によって分断された事はありました。そういう時は一度ダンジョンから出て、指定されたベースキャンプにて待機。数日待っても合流できない時は、先に帰還した事を示す旗を立てて一度フィクレツに帰るのですが……」


今回は道がわかるのが団長達側だったので、フェル達は大人しく待っているつもりだった。

けれどすぐにダンジョン変動があり、フェル達の目の前に出口に繋がる通路が出現したんだそうだ。


まるでさっさと出て行けと言わんばかりのタイミングだな。

ダンジョンの意思がどんなものかはわからないけど、そういう事もあるのかもしれない。


ともかく、フェル達は先にダンジョンを出て、件のベースキャンプへ戻ったのだが。


「旗も立ってなかったし、待っても戻って来なかったと?」


「はい……」


まぁ、ほぼ最短ルートで外へ出たフェル達より先に団長達が戻れる可能性は低いだろうから、旗が立っていなかった事は不思議じゃない。

ダンジョンの構造が変動するんだから、数日待っても戻って来ない事だってあるだろう。


問題は、それが一ヶ月前のできごとだって事だ。


持ちこんだ食料は一人一ヶ月分。更に予備物資として団長が『リトルマジックボックス』にある程度用意していたらしい。

節約しながらなら、食料自体は保つ計算だ。


精神的な疲労に関しても、今まで何度も修羅場をくぐってきたベテラン冒険者達。すぐに疲労や不安から自暴自棄になったり、仲間割れを始めたりといった事はないだろう。


かと言って楽観視できる訳じゃない。

探索系のスキルを持ったメンバーが団長側に居るという事は、彼らはダンジョンから脱出するために動いた筈だ。

当然、モンスターと遭遇する事もあるだろうし、別の変動によって、更に分断されてしまった可能性だってある。


幾つかの村を経由して、二日ほど馬を走らせると、エレア山地に辿り着く。

山地の中心に位置する、エレア山から流れる大河エレア川。

フィクレツを挟むように東西に枝分かれするこの川、その分岐点となる山の麓に、マヨイガの入口はあった。


三角州が形成されたこの土地は、冬にエレア山地で積もった雪が春に融け、流れ込む地域だった。

土壌の栄養分が豊富で、農園地帯が広がっている。


そんな牧歌的な風景に似つかわしくない、幾つかの石造りの小さな砦。

王国南でも有数の穀倉地帯の安全を守るために設置された兵士の詰め所だ。

彼らはマヨイガの氾濫を未然に防ぐ事を目的にしており、また、出現した派生ダンジョンに積極的に潜り、これを無力化する任務も与えられている。


そして目的は違うが、結果としてこの地域を守る事に繋がる冒険者の支援も行っていた。

と言っても、マヨイガや周辺の派生ダンジョンに挑む際、ベースキャンプとして無料で利用できる程度だったが。


「安全な寝床が常に確保できているっていうのは、それだけで心強いですから」


砦で休憩を取りながら、そんな話をしていた。

ちなみに、主に話していたのはフェルとセニアだ。


俺は話を振られた時だけ言葉を返すだけ。

それも二言三言。

そんな事を繰り返していれば、当然、フェルが俺に話を振る回数は減る。


セニアもそんな俺を理解しているのか、積極的に会話に参加させるような事はしなかった。

曲者シーフ』の男も無言で物静か。


自然と、フェルとセニアが会話する事が多くなる。


うん? 嫉妬とかしないのかって?


多少はするよ。

やっぱり、今まで仲良くしてた女子が、他の男性と仲良く話してるのを見ると、悔しいよね。


でもさ、俺会話に参加できないんだもん。

無理に参加してどもって変な空気を作ったり、ちょっと笑わせようと思ってネタを披露して上滑りしたりしたら、目も当てられない。

ていうかそんな光景が目に浮かんじゃったら、もう無理だよね。

それでも強引に突撃できるだけの勇気が俺には無いのよ。

あったら多分ヒキニートなんてやってなかったわ。


そんな余計にセニアの評価を下げるような真似はできません。


よって俺は、セニアの傍で、余裕のある笑顔を浮かべて、口は挟まないけど会話に参加してる、風を装っていた。


砦に着いた時には日が沈みかけていたが、少しの休息を取っただけで、俺達はマヨイガへ向けて出発する。


ここまで来たなら、半日程度の遅れは誤差の範囲だとは思ったが、フェルにしてみれば、ここまで来たんだから、一分一秒でも早く団長を探したかったんだろう。

気持ちは理解できたので、彼の提案に反対する事はなく、俺達はフェルに先導されてマヨイガを進む事になった。


マヨイガは石造りの通路が続いている構造になっていた。

床も、壁も、天井も、同じ色合いの白い正方形の石でできている。

勿論、ダンジョンの壁なので防御力はアホほど高い。


等間隔に通路を照らす魔法の光が灯っている。


どれだけ歩いても同じような風景が続く迷宮。これは、変動が起きて地形が変わってしまったら、自分が今どこにいるのか、把握するのは難しいだろうな。

壁を出現させたり、逆に通路を伸ばしたりするだけでなく、内装でも侵入者を惑わしにきているんだ。


マヨイガに出現するモンスターはゴブリンなどのわかりやすいモンスター的なモンスター。

メインとなるのは巨大な蛾、ジャイアントモスとその幼虫と思しきビッグキャタピラー。

マヨイガって、家の妖怪であって、蛾の妖怪じゃなかったと思うんだけど……。


出現するモンスターはフェルが次々に屠っていく。

最初は俺も戦闘経験を得ようと戦闘に参加するつもりだったのだけど、今回は速度が重要だ。

だから主な戦闘はフェルに任せる事にした。

俺達は背後や横合いから突然出現したモンスターに対してのみ、攻撃するようにしている。


三メートル近い巨大な槍を、狭いダンジョン内で器用に操るフェルは流石と言えた。

うーん、やっぱり参考になるなぁ。

槍の取り回しもそうだけど、常に敵の先手を取るための位置取り、ポジショニングからの最速の一手を繰り出すための体捌き。

敏捷が低くても、いや、敏捷が低いからこそ洗練された動きだ。


そしてこの動きは俺が真似する事もできるし、弓に応用する事だって可能だ。

元々弓を使い始めた理由が、近距離で戦うより、遠距離で戦った方が安全だと思ったからだ。

だったら、中距離で戦える槍に持ち変えるのも、選択肢としてはありだろう。


フェルはダンジョン探索にあたって、兜を被って完全装備になっていた。

龍の頭を模したフェイスガードがついた、フルフェイスの兜。

勿論、本物の龍の頭にしては小さいので、ただ象っただけなのは明白だ。

けれど、鎧の雰囲気とあいまって、赤い龍がその場に降り立ったような強烈な威圧感を放っていた。


「よう、どうだい?」


フェルが先を切り拓いている間、『曲者シーフ』のエディ(例によって本名は長くてややこしい)が訪ねて来た。


「うー……ん……」


俺は一枚の羊皮紙を眺めて唸った。

これは『マップ』をただの羊皮紙に転載したものだ。


『マップ』の魔法を教える訳にはいかないし、『野伏レンジャー』や『曲者シーフ』のスキルだと言っても、これだけLVの高い冒険者達だと、彼らが知らないスキルという方が目立つ。

だったら、俺の固有技能ユニークスキルという事にした方がいい。


セニアは何も言わなかった。

信じたのか、俺のする事だからと半ば呆れているのかはわからなかった。


羊皮紙の上をインクのようなものが走り、これまでの道筋を描く。

幾つかの点が周囲に記されるが……。


「いや、この階層にはいないっぽいな。南に進むと下へ降りる階段があるから、次へ向かおう」


「わかったぜ。フェル!」


「ああ、聞こえていた。先頭は任せろ」


そして俺達は、フェル達がかつて一週間(この世界では十日)かけて踏破した階層まで、わずか二日で到達したのだった。


「反応がある」


「本当か!?」


この頃になると、俺達も大分打ち解けていて、フェルも最初に会った時のような丁寧な喋り方じゃなくなっていた。

この階層は以前フェル達が彼らの団長と分断された階層だ。

結局この階層より浅い場所に、団長達の反応は無かった。


しかしここにはある。

聞いていた通り、十二人の反応。


しかしこの反応は……。


死んでるよな? これ。

けれどおかしい。

フェルの話では、探索系のスキルを持った団員は団長の側に居た筈だ。それがなんでこの階層から移動していないんだ?

モンスターにやられた?

絶対という事は無いだろうけど、この階層のモンスターは彼らにとって脅威にはなりえないという事だった。

致死性のトラップ?

しかしマヨイガは頻繁にダンジョンの構造が変化するという特性上、出現するモンスターもトラップも、他の始祖ダンジョンの同階層に比べて数段落ちるそうだ。

勿論、これも絶対ではない。


だからと言っても、これはおかしい。


だからってこれ、フェル達に言っていいもんか?

何かしらのトラブルが起きたんだとしたら、こいつら下手したら当事者だぞ?


まぁ、とりあえず行ってみるか。


二人を先導して反応のある場所へ向かう。

部屋になってるみたいだな。


「やっぱり、大きく変化しているな」


この階層での印象はやはり強いんだろう。フェルが周囲を見て呟いた。


「そんなに違うものですか?」


「ああ。同じような風景ばかりだからあれだけど、あった筈の通路が無くなっていたり、無かった筈の壁があったりしてるな」


「微妙に坂道もできてるっぽいぞ」


セニアの疑問にフェルとエディが答える。

そうか、勾配もできるのか。

確かに、変動って壁だけじゃないよな。


「ここだ」


俺は一枚の扉の前に立った。

『マップ』とそれを映した羊皮紙には、この扉の向こうに反応がある事を示した輝点プリッツが表示されている。


『アナライズ』で見ても、扉やその周辺に罠は無い。


ノブに手をかけ、扉を開ける。


「う……」


そして中の光景に、思わず呻いてしまった。


そこは二十畳ほどの広さの部屋だった。

床も壁も天井も、ここまでのダンジョンと同じ材質の石でできた部屋。

壁に灯った魔法の明りが薄暗いながらも部屋を照らしている。


そして、地面に累々と横たわる死体。

血と肉と臓物の混じった匂い。長く放置されていたためか、腐臭が立ち込め、質量となって俺を襲う。

喉の奥から込み上げてくるものを、かろうじて飲み込む。


鎧やローブに身を包んだ、いかにも冒険者然とした死体達。彼らはその装備のどこかに、赤いマーキングを施していた。

そして、一番奥。

壁にもたれかかるようにして死んでいる冒険者は、全身真っ赤な鎧を身に着けていた。

それが元々の色なのか、それとも大量の血を浴びた結果なのかは、この距離ではわからなかった。


「これは……」


俺はある種の確信を持っていたが、それでも敢えて部屋の中に足を踏み入れる。


「彼らはお前たちの仲間か?」


死体を確認するようにしながら、自然な足取りで奥へと進む。

セニアの手を一瞬引いて、ついてくるよう合図をしておいた。

一瞬驚いたような表情を彼女は浮かべたが、すぐに困惑の表情を装って、俺のあとについてくる。


「間違いないわ。《赤き狼団》の団長、グェルノーディアルスよ」


奥の死体の傍に屈み込み、その顔を確かめてセニアが言った。

その時、入って来た扉が閉じる音がした。


「どういうつもりだ?」


俺はゆっくりと、彼らの方を向いた。


扉を閉めたのはフェル。その半歩手前で、エディが薄ら笑いを浮かべている。


「見たな?」


フェルが言う。


「見てしまったな?」


「どういう事かな?」


察しはついているが、俺は質問を重ねる。


「どうもこうもないさ」


そしてフェルは槍を構えた。

三メートル近い巨大な槍。

赤い穂先はモンスターの血を吸い、怪しく輝いている。


「俺がそいつらを殺した。そしてお前たちもここで死ぬ。それだけの話だ」


フェイスガードの向こうの瞳が、赤く輝いた気がした。



次回、激闘

普通に強い相手との戦闘は初めてになりますね

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