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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第二章:エレノニア王国探訪記
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第18話:今更のテンプレと救出クエスト

日曜日なのに仕事でしたorz

「本当にいいの?」


来た時と同じ道程を辿ってフィクレツの街に戻って来た俺達は、ギルドで素材と魔石を換金していた。

俺が持っていた魔石と素材、それにセニアが持っていた魔石と素材を全てギルドで換金し、それを折半する予定だ。

セニアが疑問を呈したのはその配分方法だった。


まぁ、気持ちはわからんでもない。

あと、セニアは俺が『錬成』を使える事を知っているから、素材を全部売ってしまっていいのか? とも思っているだろうな。



確かに素材のまま売るより、『錬成』などでアイテムに変えてから売った方が儲けが出る。

現代でもそうだが、素材そのものよりも加工された商品の方が高額になるのは当然だ。そこに人の手が加わっていればいるほど、末端価格ははねあがる。


本来なら何人もの人や幾つもの組織を経由しなければならないアイテムでも、俺なら一人で全部できる。

当然、本来支払うべき、所謂中間マージンが必要無くなるので、同じ値段で売っても利益が段違いだし、少し値段を安くすればその分数が出るので同じく大きな利益となる。


今回俺が素材を全部素材のまま売却してしまったのは、言ってしまえば初志貫徹のようなもの。

ようするに必要以上に目立ちたくないからだ。


たった二人でエルフィンリードに赴き、大量の素材と魔石を持ち込んだだけでも目立つが、それならまだ、新進気鋭の才能ある冒険者で済む。

しかし、この素材をアイテムに変え、そのアイテムを更に上位のアイテムに『錬成』『合成』したものを持ち込めば、嫌でも目立つ。


徐々に解禁していこうとは思っているけど、まだその段階じゃない。

素材のまま売却しても十分な金額になるしな。

『錬成』を使えるのが俺だから、セニアもそこには文句を言わないだろう。

彼女だって不必要に目立ちたくない筈だ。


「ああ。この間みたいに個人が集まって行ったクエストならともかく、今回はパーティだったろ? なら、折半が妥当だ」


俺の言葉を聞いて、セニアが安堵の表情を浮かべる。

受け取る金額の大小ではなくて、俺が悪目立ちしてでも金を稼ぐ事を目的としている訳じゃないとわかったからだろうな。


「でもパーティだからこそ、利益はちゃんと公平に半分するべきじゃない? 今回の事で言えば、あなたがいなかったなら私は生きて帰れなかった訳だし」


「じゃあそれは、俺がセニアと冒険できて楽しかった分って事で」


聞きようによっては、お前戦力としては役に立ってねぇよ、と言っているようなもんだけど。


「もう、なによそれ……」


苦笑しつつも頬を赤く染めて言うセニアは、気分を害したようには思えなかった。


まぁ、実際戦力としても役に立ってくれた事に変わりはない。

俺一人でもエルフィンリードへ行き、素材やアイテムを持って帰ってこれただろうけど、今回得た金銭の一部は間違い無くセニアが居たからだ。

勿論、二分割したら俺一人で稼げた分より下回るだろうけど、久しぶりの人との旅が楽しかったというのは本当なんだ。


リハビリに付き合わせて悪かったな。


「おいおい、随分見せつけてくれるじゃねーか」


「まったくだ。ここはガキがイチャつく場所じゃねーんだぜ!?」


そんな俺達のやりとりを聞いて、数人の冒険者が声をかけてきた。

単純な冷やかしじゃあない。下卑た笑顔を浮かべて近づいて来た以上、他に目的があるのは明白だ。


1、2……5人か。

『アナライズ』で見ても大した人間はいない。

LVは8の『戦士ファイター』と9の『野伏レンジャー』と『剣戦士ライトセイバー』。LV7の『弓使い(アーチャー)』。

LV11ある『斧戦士アクスファイター』が一番ステータス的にも高いか。


鉄のプレートアーマーに革のグローブとブーツ。それぞれ得意としている武器を手にしている。


どこにでもいる普通の冒険者だな。

何か崇高な使命とか、大層な目的とかがあってなったタイプじゃなくて、その日暮らしの一獲千金狙いタイプだろう。


だからこそ、俺達みたいな一見すると大した実力を持ってなさそうな新人に絡む。

優越感に浸りたいからだ。


そして多くの冒険者はチンピラとゴロツキからランクアップする。

犯罪に手を染めて日々の糧を得る代わりに、冒険に出て生活費を稼ぐんだ。


そんな奴らが、いかにも新米冒険者然としていながら、大量の魔石と素材を持ち込んだ相手を見つけたらどうなるか?


「なぁお前ら、エルフィンリードから逃げて来たんだって?」


「あそこはベテランの冒険者でも一日といられないって言うからな。そんな――」


そこで男は俺の装備をちらりと見た。

実際は魔法の武具で固めているセニアと違い、俺は正真正銘初心者装備だ。


「――貧弱な装備じゃ死にに行くようなもんだぜ」


「帰ってこれただけ大したもんだ」


あれ? 意外にいい人?


「どうせベテランのパーティに付いて行った初心者だろう? そいつらを見捨てて逃げて来たんじゃないか?」


「それとも敵討ちに行く気か? それなら二人じゃまずいだろう?」


「なんなら俺達が手伝ってやろうか?」


「もちろん、それなら俺達も同じパーティなんだから、その金は折半だよなぁ?」


なんて事はなかったぜ。

わかりやすい態度だけど、一応筋を通そうとしている辺り、そこまでの無法者じゃないみたいだ。ここが冒険者ギルドの中って事もあるだろうけど。

本人たち的には筋を通しているつもりなんだろうけど、理屈自体は滅茶苦茶だよな。


「悪いけど承服しかねる。今回得た報酬は俺達だけで冒険した結果だ。当然、今からパーティに加入する人間に支払うつもりはない。もっとも――」


そこで俺は言葉を切り、相手を睨みつける。

こういう手合いにはわかりやすい方法が一番いい。

一昔前の詐欺で、電話によるセールスがあったので「けっこうです」と断ったら、「『けっこう』はOKって意味だ」って商品が一方的に送られて来て代金を請求されるってのがあった。

断る時は誤解のないようしっかりと、わかりやすく。


「――もっとも、お前たちをパーティに入れるつもりは毛頭ないがな」


え? キャラが違う?

一見大した事無さそうに見えて、実は実力者って人間を演じてるからだと思うよ。

え? 何故そんな事してるかって?


そうしないと知らない人と会話できないからだよ。


俺の背後ではセニアも男たちを睨みつけている。

ちらりと俺達の換金作業をしているギルド職員を見ると、我関せず、といった風に作業を続けていた。


『常識』でも確認してみるが、この手合いをぶっ飛ばしても特に罪には問われない。

相手が得物を抜けば、殺してしまっても正当防衛が成立する。

物騒だよね。ビバ法治国家。


とは言え、先に相手に手を出されたという事実は重要だ。

幸いここには多くの証人がいる。

一番は全ての冒険者に対して公平なギルドの職員。


俺的にはとっととセニアを連れて逃げたいところだけど、まだ換金が終わってないからなぁ。

そのタイミングを狙って来たんだとしたら、随分と手馴れてらっしゃる事だ。


流石にこいつら自身の事は『常識』にはないが、この手の輩の事はあった。

新人冒険者を脅してその儲けをピンハネするような奴らだ。


中には、今回のように新人を強引にパーティに加えて、囮に使ったり、クエスト目標を達成した直後に分け前を増やすために殺したりするような者もいる。

当然、その時セニアみたいな美少女がどうなるかなんて、言わなくてもわかるよな?


モニター越しならそういう展開も興奮と共に見られるけれど、今の俺にセニアを見捨てる選択肢は無い。


こいつらがそういう厄介な輩でない確証が無い以上、ここは跳ね除けるのが正解だ。


「おいおい、俺達は親切心で言ってやってるんだぜ?」


「そうそう、先輩の忠告は聞いておくべきだぜ?」


「忠告は有り難く。そのうえで断らせてもらう」


ち、意外と慎重派だな。

さっさと実力行使に出ろよ。


ネットなんかでわざと不良やヤクザを怒らせて返り討ちにする武道家の話を目にするけど、そいつらはこんな気持ちだったんだろうか。


ここで敢えて挑発するような事はしない。

適当に悪態ついて離れて行ってくれた方がいいからだ。

その方が目立たなくて済む。

既に十分目立っているけど、俺の実力を見せるよりはマシだろう。

精々新人にしては肝の据わっている奴らだ、程度の評価で落ち着く筈だ。


「わかんねぇ奴だな。いいからてめぇは、はいと言やいいんだよ」


俺の態度に腹を立てたらしく、男たちは距離を詰めて来た。

セニアの手が、柄にかかるのが気配でわかった。


「何故お前たちの提案を呑まなければならないのか理解できないな。俺達は確かにエルフィンリードから逃げ帰って来たが、元々二人だけで潜っていたから敵討ちは必要無い。そして俺達には二人だけでエルフィンリードに赴き、無事に帰って来るだけの実力がある」


そこでわざとらしく肩を竦める。


「悪いがお前たちにそこまでの実力があるようには思えない」


実際無いしな。


「はっきりと言っておく」


某メシアのような口調になってしまった。


「お前たちでは足手まといだ」


「んだとこらぁ!」


俺の言葉に反応した男が剣の柄に手をかけた。

あ、思わず挑発しちゃった。


そういうキャラクターを演じてたから、仕方ないね。


俺は素早く動いてその柄頭を手のひらで押さえる。


「ぬ、ぐ……」


別にこいつらがどうなってもいいが、流石に抜かれてしまうと、今にも暴発しそうなセニアが飛び掛かりかねない。

護衛クエストの時もそうだが、セニアも既に人を何度か殺しているだろう。

だからと言って殺人を許容する訳にはいかない。


「お前の剣は、こんな奴ら相手に振るわれるべきじゃねぇよ」


肩越しにセニアをちらりと見て、俺はそう言った。

あ、キメ顔でそう言った。

キメ顔ができていたかどうかは知らない。


「てめぇ……」


「言っただろ? 実力不足だって」


俺を押しのけて剣を抜こうと思っているみたいだけど、筋力のステータス四倍くらいあるからな。無理だよ。

むしろ柄頭を砕かないよう、少し力を抑えてるくらいだからな。


「てめぇ!」


俺が柄を抑えている男の後ろで、他の男たちが激昂している。

けれど、怒声を発する以外の行動はしない。

犯罪者と紙一重とは言え、彼らも危険を生業とする冒険者。

俺がその身に持つ『異質』に気付いてるんだろう。


だから動けない。


「お前たちをパーティに入れる事はしない。当然、今回の稼ぎを渡しもしない。何か問題があるか?」


リーダーと思しき斧戦士を真っすぐに見据えて尋ねる。


狂戦士バーサーカー』のスキル『狂者の眼』を発動させているので、その威圧感は抜群の筈だ。

相手に状態異常『恐慌』を与えるスキルで、段階は俺の魔力と相手の魔抵の差によって変わる。

正直、俺の魔力のステータスと、こいつらの並程度しかない魔抵を比べたら、恐慌(重度)を超えて『発狂』に至るだろう。

だからこれも抑えている。


「ち、いくぞ、お前ら……!」


俺の威圧に屈してくれたらしく、リーダーの男が踵を返すと、他の奴らもそれに続いてギルドを出て行った。


「ふぅ……」


俺が安堵の溜息を吐くと、あちこちから拍手が起きた。

え? 何……?


「いや、よくやったぜにいちゃん!」


「あのグエルド相手に一歩も退かないなんて、中々肝が据わってるじゃねぇか!」


お、それは欲しかった評価だな。


「ノドンの抜刀を抑えた動きも凄かったしな!」


それは欲しくなかった評価だな。


「その、ありがとうね。さっきの言葉、嬉しかったよ?」


そして背後からかかる、照れを含んだ声。

そうだよな、フラグ立つよな、あんな言動してちゃ。


「お待たせいたしました。こちら本日の換金代金、1020デューになります。お確かめください」


そう言って受付の男性はトレイに半金貨と銀貨を二枚ずつ置いて俺に差し出して来た。

俺ができるだけ大きいお金で、二人で等分しやすいように、と言った結果だ。


ちなみに半金貨はその名の通り、金貨の半分の価値がある。

形も金貨を半分に割った、半円をしている。

銀貨百枚で金貨一枚という換算なので、その間を埋めるために造られた貨幣だ。

この半金貨を更に半分に割り、扇形にした四分金貨。

更にそれを半分にした、八分金貨。

通常の金貨より二回り程小さい十六分金貨。

その半分の三十二分金貨。

その更に半分の六十四分金貨がある。

この半分にすると、それはもう欠片になるな、どうするか? と悩んでいる時、銀貨の価値を下回ってしまう事に気付いて百二十八分金貨は造られなかったらしい。


そもそもこの世界の貨幣は金貨と銅貨しか存在していなかった。

貨幣を使用するのが上流階級と一部商人だけだったので、それで問題が無かった。

けれど、貨幣経済が広がるにつれ、金貨と銅貨の差が大きく不便だと感じる者が多くなる。

そして造られたのが銀貨だ。

だから、金貨と銅貨の価値の差を変える事は許されないため、このようなややこしい貨幣が誕生した経緯がある。


結構な金になったな。勿論『錬成』や『合成』をするともっと高くなったんだろうけど、まぁ、今回はこれでいい。


『マジックボックス』に入れた分の素材と魔石は持ったままだしな。


ちなみに魔石からレア素材は一個も出なかった。

山羊小鬼の毛以来出ないなー。


この世界に確率計算なんてないからなー。

あくまで『常識』の範囲で、だけど。

どのくらいの頻度でレア素材が出るのかわかんないんだよな。

レア素材が確認されてない魔石もあるくらいだし。


「じゃあこれ、セニアの取り分な」


言って俺は半金貨と銀貨をそれぞれ一枚ずつ渡す。


「本当に、いいのね?」


「ああ」


「そう。ふふ、ありがと」


微笑みながら、セニアは自分の財布に半金貨と銀貨をしまった。


ギルドを出た俺達はそのまま宿へと向かう。

今は夕方に差し掛かろうって時間帯。若干日が沈み始めているが、外はまだ明るい。


決めた宿は、先日泊まった宿より若干高級だった。

懐に余裕があるからね。セニアもまだ追っ手の恐怖があるのか、賛成してくれた。


ちなみに部屋は別だ。

若干セニアが残念がっていたのは見なかった事にする。


せめて彼女の役職が()王女であったなら……。


一応この世界はそれほど貞操観念が強い訳じゃない。

別に結婚する相手が生娘じゃなくても気にしない。

恋人でもない相手と致すのも、人生経験として容認されているくらいだからな。

流石に人妻や他人の恋人に手を出すのはNGみたいだけど。

あと、そういう行為をするにあたって合意を得るのは本人より親御さんみたいだ。


冒険者みたいな根無し草なら、例え故郷に両親が健在でも、本人の合意のみでOKみたいだけどな。


そういう訳で王族や貴族の娘なんかは普通に愛人を囲っていたりする。

婚姻前だと跡継ぎの問題が出てくるのであまり勧められてはいないけど、それが原因で破談や離縁になったりは少ないらしい。

夫や姑、舅がそういう事を気にするタチなら問題だけど、そんなのは現代地球でも同じだしな。


だからここで俺がセニアに手を出しても問題は無い。

成人はまだだけど、合意のうえなら未成年に手を出しても犯罪じゃないからね。


けど俺は、王族の愛人として面倒な政治闘争に巻き込まれるのはごめんだ。

そこから抜け出したいから手伝って欲しいと言われたんなら協力するのもやぶさかじゃないんだけど……。


どうもセニアのはそういうのじゃないっぽいしな。


「今日はここでゆっくりして、明日はマヨイガに向かおうと思う」


「いいけれど、大丈夫?」


夕食時、俺はセニアと今後の方針を話し合った。

と言っても、俺が一方的に宣言して、それをセニアが了承する形だけど。


「まぁ、なんとかなるよ。エルフィンリードでの実力、見ただろ?」


「そうね。あれならマヨイガでも大丈夫よね」


セニアは納得してくれたようだ。


マヨイガは様々な性質を持つ始祖ダンジョンの中でも極めて異彩を放つダンジョンだ。


マヨイガと言えば、中に入った人間を迷わせ食らう、家の妖怪の事だけど、この世界でも似たような性質を持っている。

正直、この世界のダンジョンの命名、転生者とか来訪者なんじゃないの? と思う時がある。

『常識』に無いし、他のスキルからでも知る事ができないから、確証は得られないんだけどな。


マヨイガは巨大な迷路をその中に持っていて、その内部構造がかなりの頻度で変化する。

それも、迷宮丸ごとである事もあれば、壁や通路の一部だけが変化する事もある。

それだけなら他のダンジョンでも起こり得るが、マヨイガの頻度は異常だ。


毎日どころか、毎時間、毎分、ダンジョンのどこかで構造が変化しているんだからな。


ダンジョンで適当に探索して、元来た道を帰ろうと思っても、もうその頃には全く別の迷路になっている事なんてざらだ。


だからこのマヨイガに潜るには、『曲者シーフ』『探索者フェレット』『野伏レンジャー』と言った職業が必要になる。

以前に見た勇者ユーマなら、その圧倒的な幸運の高さによって、勘だけで踏破してしまえそうだけど。


ちなみに、先程ギルドで絡んで来た冒険者達を警戒して、セニアはすぐに街を出たそうだったが、彼らが待ち伏せをするなら街中よりも門だろうと考え、俺は敢えて一日街に留まる事にした。

正直、襲撃は無いだろうと思っていたが、仮に待ち伏せがあったとしても、これで奴らは俺達を見張りながら半日以上待ちぼうけを食らう事になる。

さすがのあいつらも、一泊100デュー(朝食、夕食代含む)もする宿に攻め込む気は無いだろう。

現代日本でも結構ランクの高いビジネスホテルに泊まれる値段だ。この世界だとかなり良い宿に泊まれる。

そして高級な宿であればあるほど、警備も厳重になり、安全性も高まる。


部屋はこれまでに泊まっていた宿の倍以上の広さになり、ベッドもシングルベッドからダブルベッド並の大きさに変化。

クローゼットも大きく、鍵がついている。

ランプの油もお湯も無料というサービス精神溢れる宿だ。

夕食にはサラダも出て来たしな。

ドレッシングのようなものは無い。

迷宮で作った真珠油マルガリンがまだ残っているけど、流石にサラダにつけて食う気はしない。

とりあえず出された白パンに塗って食べる。

うん、美味い。パンは相変わらず堅いけどな。


まぁ俺がこの街に一泊しようと思った一番の理由は、まともなベッドで寝たかったからなんだけどな。

マントや藁の布団にはもう飽きました。


「あの、マヨイガへ向かわれるんですか?」


そんな俺達に声をかけて来た者が居た。

振り向くと、いかにも冒険者といった人間が六人そこに立っている。


おや、この宿にはあまり似つかわしくない恰好だな。

人の事言えないけど。

そこはセニアの気品でカバー。


「そうだけど? そっちは?」


勿論行先じゃなくて何者なのかを聞いた。そして彼らはそれを誤解しなかった。


「申し遅れました。自分はこのフィクレツを拠点に活動している冒険者団、《赤き狼団》の副団長をしています、フェルドアルードと言います」


また覚えにくい名前が出て来たな。

微妙に女神フェルディアルに被ってるし。

ああ、そこからとった男性名なのか。

ちなみに信者じゃなくても特定の神の名前をもじる事はこの世界ではよくある事だ。

妙な名前だと思ったら、大体神様由来の名前だしな。


副団長と言ったフェルドアルード(以下フェル。面倒)は、赤い鎧に赤い髪をしていて、冒険者団の名前に相応しい外見をしていた。

他の五人も、鎧や武器の一部に赤色を取り入れている。

でもフェルの出で立ちって普通団長のそれじゃないかい?


お、『常識』に団の名前があるぞ。結構有名なんだな。

こんな高級宿に泊まっているのも納得だ。


「お願いします。マヨイガの迷宮に取り残されたうちの団長と、団員数名を助ける手伝いをしてくださいませんか?」


うわ、厄介事だった。


「救出依頼ならギルドに提出したらどうだ?」


「一応しましたが、誰も協力してくれません」


「ライバル冒険者が減るのを歓迎する人間は居ても、惜しむ人間は少ないからな」


フェルの後ろに居た壮年の男性が立派な顎鬚を撫でながら補足した。

ああ、言葉から苦労がにじみ出ている。


これは昨日今日の話じゃないな。


「特に高い技量を持つ『探索者フェレット』や『曲者シーフ』は冒険者団やギルド、他の様々な組織でも引っ張りだこです。フリーランスの人間を探すのは難しく、また、自分で言うのもなんですが、自分達が逃げ帰らなければならなかった程の場所まで一緒に来てくれる者を探すのはもっと難しいのです」


マヨイガはその性質上力押しできるようなダンジョンじゃないからな。

例え高LVの探索用職業でも、スキルが噛み合わなければ役に立たない可能性がある。

そんなリスクは背負えないって事なんだろうな。


「…………報酬は?」


ギルドに依頼を提出し、更に草の根活動で適正のある人材を探し続けていたんだろう。六人には濃い疲労の色が見えた。

そしてわざわざ俺に声をかけて来たんだ。もう藁にもすがる思いなんだろう。

ここで断って、思い切った手段に出られても困る。


彼らは爆弾ゲームの爆弾だ。

そしてもう爆発寸前で俺の所に回って来た。


「同行してくれれば1000出します。救出に成功したら更に1000。また、道中で得た素材や魔石は全て差し上げます」


どんだけ追い詰められてんだよ。

その取り残された団員や団長はそんなに大事なのか?

いや、団長だから大事なんだろうけど。


ああ、《赤き狼団》を作ったのがその団長で、今の団員はその団長の人望とカリスマで集まったのか。

そりゃ団長居なくなったら団自体が崩壊しかねないわな。


「ギルドでのやり取りは見ていましたし、エルフィンリードから無事に帰って来ただけでなく、それなりに素材や魔石を持ち帰った程の実力者。更にこの宿に泊まれるという事は、その稼ぎが決して幸運によるだけのものではない証拠。どうか、力を貸してもらいたいのです」


うぅむ。しっかりと分析されている。

二人合わせて1000デュー以上を稼いだのだから、記念宿泊と考えないんだろうか。

考えないんだろうな。その日暮らしが基本の冒険者。明日命を落とすかもしれないし、それだけなら金を残しても仕方ないけど、大けがをして冒険者を引退せざるを得なくなったら悲惨だ。

装備やアイテムはともかく、高級宿に泊まってあぶく銭をぱーっと使ってしまおうと考える人間は少ない。


「セニア、いいかな?」


「ええ。構わないわ」


知らない人間と組むことに難色を示すかと思ったけど、以外にもすんなりと了承してくれた。

《赤き狼団》の名前をおそらく知ってたんだろう。

そして、特定の政治団体と繋がりがない事で有名な事も。


冒険者団は大きくなると貴族や王国が後ろ盾になりたがるからな。

彼らが迷宮から持ってくる利益は非常に魅力的だし、子飼の傭兵集団として使う事もできる。

冒険者団側としても、必要最低限の生活費などは援助されるのだから、どちらにとっても利がある話だ。


そして先に言った通り、冒険者はその多くが犯罪に手を染める代わりにクエストや迷宮探索で生活している人間が殆どだ。


冒険者っていうと何者にも縛られない、自由な人間ってイメージあるけど、雲の拳士である事に誇りを持った人間は稀だ。


《赤き狼団》はその数少ない例外なんだ。

ああ、そういう事もあって、彼らに勧誘を断られた貴族なんかが圧力をかけてるのかもしれないな。

仮にそういう事が無くても、彼らに協力したらそうした組織に目をつけられると思ってる人間もいるかもしれない。


「わかった。引き受けよう。けれど出発は明日からでいいか?」


「はい。勿論です。ありがとうございます!!」


そう叫んでフェルは大きく頭を下げた。

おお、九十度のおじぎなんて初めて見たぜ。

後ろに並ぶ他の団員も、そこまでではないけど頭を下げている。




名前:フェルドアルード

年齢:27歳

性別:♂

種族:人間

役職:冒険者

職業:竜騎士

状態:歓喜(中度)疲労(中度)空腹(重度)狂気(軽度)


種族LV27

職業LV:戦士LV30 槍戦士LV25 竜騎士LV11 盾戦士LV18 重戦士LV13


HP:274/386

MP:36/231


生命力:266

魔力:143

体力:185

筋力:199

知力:123

器用:116

敏捷:78

頑強:318

魔抵:203

幸運:18


装備:火竜槍 火竜の兜(未装備) 火竜の全身鎧 火竜の小盾 氷の首飾り


保有スキル

槍戦闘 盾戦闘 鎧戦闘 直感 忍耐 精神抵抗 戦闘指揮 根性 不屈 治癒上昇 不運(中度)

カバーリング 防衛ライン ヘイトアップ 双竜撃 大車輪 足払い フルスイング ツインスパイク ランススライダー 自己回復 シールドバッシュ ファランクス トリプルスパイク ジャンプ 降龍撃 重破撃 チャージ



普通に強い人間の戦闘を見るのは参考になるだろうな。

けどメイン盾かよ。獲得職業もステもスキルもかったいなぁ、おい。

あと装備が火竜シリーズで統一されてるよ。装備統一ボーナスついてんぞ。

火竜シリーズは水、氷属性に弱くなるけど、氷の首飾りで無効化するし、なんだコイツ。


不器用なんだな。そして鈍い。

いかにも鈍重そうなのにジャンプあるのか。

竜騎士ドラグナイト』ってそっちか。


状態異常も色々ひどいな。MPも尽きそうだし。


そして極めつけはその運の悪さだよな。

幸運が低いのはいいよ。

けど、スキルに不運があるよ、しかも(中度)ってなに?

結構な不運って事!?


やべー、断りたくなってきた……。


次回はマヨイガへ向かいます

救出クエスト発生。

そしてタクマは突然6人増えた同行者のプレッシャーに耐えられるのか!?

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