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プロローグ2

同日内二話投稿です。

ストックがあるので暫くは連日投稿が可能だと思います。

「あなたには、真人間になっていただきます」


突然俺の前に現れた女神フェルディアルが俺を指差しそう言った。


「真人間……?」


ちょっと予想外の言葉に、俺は思わずオウム返しに尋ねてしまった。


「はい。具体的には、きちんとした会社に就職し、働き、結婚し、子を成し、育て、老いていく。

そんな人生をこれから送って欲しいというのが御母堂の願いです」


いや、無理だろ。

高校中退のヒキコモリ歴干支一周分のニートがこれから人生の正道に復帰するのは無理があるだろ。

勿論世の中にはいるよ?

高校中退でも、長年ヒキコモリのニートでも。きちんと更生して社会復帰して、人生の双六をちゃんと進めてる人も。

けど、そういう人はやっぱり少数だよ。例外だよ。

そんな特異な例を持ち出して『だからお前もできる』は通らないよ。

むしろ、そういう奴にほど、現実見ろよと言いたくなるね。

せいぜい俺なんてバイトか派遣社員で40~50くらいまで働いて、あとは貯金の残金を睨みながら細々生きていくのが精一杯だろ。

結婚や子育てなんて無理ゲーだろ。


「勿論、現時点での琢磨さんの状況は理解しています。私の力を使えばあなたを国内有数の一流企業に就職させる事は可能ですが……」


マジで!? 神ぱねぇな!


「しかし、それでは御母堂の願いを叶えた事にはなりません。そんな大企業に就職したとしても、あなたは一年以内に自主的に退職するかクビになるでしょうから」


「……」


言い返せねぇな。それってまんま高校時代の俺じゃん。

無理していい会社入っても、実力不足でドロップアウトとか……。


「あなたの頭の中身も体も神の力で作り変える事は可能です。所謂チートというやつですね」


随分と俗っぽい言い方しますね、女神様。


「しかし、それではあなたが真人間になったとは言い難いですよね?

あなたが長い時間をかけて、あるいは劇的な何かを体験した結果変わるのならともかく、私の力を使って強制的に変わるのでは、それは別人を咲江さきえさんの息子としてあてがうのと一緒です」


ちなみに咲江さんってのは俺の母親な。


「ですので私は、あなたがこの世界で真人間になるのは不可能だと判断しました」


「え……?」


俺は思わず絶句してしまった。

そりゃそうだろう。

神様からお前の人生詰んでるよって太鼓判押されたんだから。


「しかし、咲江さんの篤い信仰に報いるため私は彼女の願いを絶対に叶えなければなりません」


いい人……いや、女神か。

神様なんて傲慢なイメージが強かったし、新興宗教の神なんてその最たる例だと思っていたけど。


「いえ、私はあくまで私の力を維持するためにしているだけですよ」


!? 心を読まれた!?

うわ、すげぇ神っぽいな!!

しかしそう言って悪戯っぽく微笑むフェルディアルがすげぇ魅力的だったので驚くよりも見惚れてしまう。


「咲江さんが私の教団に良いイメージを抱き、私への信仰心を強くする事で私の力も増大するのです」


そう言えば、神様は信仰してくれる人がいないと無力だって聞いた事あるな。

日本のマイナーな神様が外国へ行ったからってすぐに日本と同じ力を振るえる訳じゃないって話だ。


「そうすれば、より多くの人を救えるようになるでしょう?」


あ、やっぱりいい女神様だ。


「さて、そこで私が考えたのが、こちらの世界で無理なら、別の世界で真人間になってもらうという方法です」


ん?


「こちらの世界で琢磨さんが真人間になるには能力も足りていなければ性格的にも無理です。琢磨さんがもう5歳若ければ、教団に連れて行って訓練させる方法があったのですが、今からそれをしていては、今度は年齢的な障害が出てきます」


今さらっとひどい事と怖い事言わなかった?

勿論職業訓練的なものだと思うけれど、『教団』で『訓練』とか。

座禅で空飛ぶ修行しか思い浮かばねぇよ


「しかし、別の世界なら琢磨さんを真人間にする事ができます。

まぁ、まっとうな会社に入る、という条件とはずれてしまいますが……。

そこは、犯罪以外で収入がある、と解釈する事とします」


割と大雑把だな、女神。


「という訳で、これから琢磨さんには異世界に行っていただきます。

チートとしてステータス強化と特殊スキル追加と魔法も使えるようにしちゃいましょう!

あ、大丈夫ですよ。魔法が使える世界ですからね。使ったら捕まって人体実験みたいな事はありません。

それに読み書きもできるようにしておきましょうね。あ、向こうの世界の常識も頭の中に入れておきましょう。

向こうでは冒険者として働く事になると思うので、向こうの世界の冒険者の3割が知っている事までを『常識』にしておきます」


至れり尽くせりだな、おい。

ああ。感謝された方が彼女の力になるから、俺に向こうの世界で成功して欲しいのか。

でも、それってさっき言ってた、別人云々にひっかかるんじゃないのか?


「どちらかと言うと、性格を変えてしまう事が問題だったので、肉体強化とスキル追加なら問題ありません。

異世界に『転生する』という扱いですので、まぁ、グレーゾーンではありますが……」


うーん、わかったようなわからんような……。

まぁ、大丈夫というならいいか。教団側の問題だしな。

異世界チート転生とか、憧れた事のないオタクはいないと言っても過言じゃないだろうし。


「こちらの記憶は当然残りますが、こちらから何か物を持っていく事はできません」


まぁ、スマホとか持って行っても使えないだろうし。

けど小説とか漫画は持って行きたいな。娯楽少なそうだし。


「ダメです。技術や文化にあなたが過度な影響を与える事は許されません。

内政チートとかしないでくださいね」


釘を刺されてしまった。

まぁ、そこまでの知識はないからやっていいと言われてもできなかっただろうけどな。

内政チートの基本である輪裁式農法ですら怪しいし。


「服も今お召しになられているものではなく、あちらで一般的な服に変えさせていただきます」


「靴は?」


「そちらも用意します」


怪しい恰好で即捕縛って事はないらしい。


「基本的にこちらの世界に戻って来る事はできません。

条件を満たした時、戻るかどうかを尋ねさせていただきます」


「条件?」


「はい。ご両親に累計で3000万円の仕送りをしていただくことです」


「さんぜんまん……!?」


なんだその途方もない金額は!?

しかも仕送りで……!?


「こちらの世界で働くのであれば、定期連絡くらいで済むのですが、別の世界に行くとなるとそうはいきません。

あまり簡単に世界を行き来すると世界同士のバランスが崩れてしまう危険性がありますから。

ですので一ヶ月に一度、手紙とお金を私に預けてください。それを私が教団を通して御母堂にお渡しします」


「それが仕送りか……」


「勿論お金は日本円に換金しますよ?

金額は金貨一枚。日本円にすると10万円になります」


10万円か……。まぁ、まともに就職してる人間なら妥当な金額なのかな?

いや、少し高いか。自分の趣味に使う金とかは間違いなく削る事になるよな。


「ちなみにあちらでの平均的な一日の収入は銀貨5枚。日本円で5000円になります」


やっす!! こっちのバイト並じゃないか!

それで月10万円を仕送り……!?


「チートをうまく使えばもう少し稼げると思いますよ?

こっちで言えば、毎月25日に一度督促に参ります。その時に手紙とお金を預けてくれても大丈夫です。

ただし、30日にお金と手紙を用意できていない場合、ペナルティを与えます。猶予は与えません。言い訳も聞きません。即実行します」


「ペナルティ?」


忘れていた場合の事を考えてくれてる辺り、やっぱり優しいんだろうけど、最後の言葉に慈悲や容赦は感じられなかった。


「はい。不幸になります」


「おい」


神様にそれを言われたら、間違いなく呪いをかけられるって事じゃねぇか!


「ご安心ください。金銭に関する事には負の祝福を与えません」


言い方変えても、呪いだよな。

でもまぁ、それならまだマシか。

どのくらい不幸になるのか知らないが、最悪、29日に全財産を失う不幸に見舞われる可能性だってある訳だしな。

するとまたノルマ未達成でペナルティが課せられて……。


「三ヶ月連続か累計で十二ヶ月支払いを怠った場合、問答無用で地獄に落とします」


死ぬ、と言われるより恐ろしいな。神様にそう言われると。


「異世界への転生と、ペナルティに関しては御母堂にも了承を得ています」


なに許可しちゃってんの!? 母さん!?


「それだけの覚悟なのですよ、咲江さんは。条件として、あなたが地獄に落ちた場合、自らも即座に地獄に落ちる事を了承しましたからね」


なに覚悟しちゃってんの!? 母さん!?

いや、それだけ俺が追い詰めてたのか。

ここで、妹に責任転嫁をする程堕ちちゃいないぜ。


「仕送りは最低金貨1枚ですので、余裕があるなら多く払っていただいても構いません。

月10万円の仕送りだけで3000万円を払おうと思えば、25年かかってしまいますからね」


払い終えると50歳超えてるのか……。それは確かに勘弁だな。

というか、そこまでいったらもうこっちに戻って来る気無くなってそうだしな。


「ところで、3000万円の根拠は?」


まぁ、根拠なんてなくていいんだけど、何となく気になった。


「あなたにこれまでご両親が支払った金額です。端数は四捨五入しましたけど」


それで3000万円か……。妥当……なのか? 多くないか?


「これはご両親が居なければあなたが享受できなかったものに関しては全て計算していますから。おうちですとか、車ですとか。

勿論、ご両親も利用したものに関しては、一部負担なだけですけどね」


そう説明されると、逆に騙されてるように感じるな。

だって内訳なんてどうとでもできるって事だろ?

まぁ、逆に安く抑えてくれてるって可能性もある。

現在でも月10万円の仕送りだと25年かかるんだ。

へたをすると、払い終える前に両親が死んでしまう可能性だってある。

寿命以外でも、病気とか、事故とかさ……。


「ご両親がどちらも亡くなられた時点であなたは解放されます。また、ご両親のお葬式などは流石にこちらの世界に戻しますのでご安心を、と言うのも、変ですね」


何が何でも帰さないって事ではないらしい。


「解放って言っても、向こうの世界に残ったままじゃないのか?」


「一応その時点でこちらに戻るかどうか確認します」


「何年後の話かわからないけど、今でさえ限界ギリギリなんだ。更に歳取った後じゃこっちの世界で生きられないだろ」


「向こうで得た財産をこちらの価値に換算してお渡ししますので、大丈夫だと思いますよ。あちらできちんと頑張っていれば」


うぅむ。さらりと釘をさしてくるよなぁ、この女神様。


「それと、今のままあちらの世界に送っても、すぐに働けなくなると思いますので10年ほど若返らせていただきます」


「え!? マジで!?」


流石にそれには声を出して驚いてしまった。


「はい。こちらの世界に戻る時は、今の年齢にあちらで過ごした年数を足した年齢にして戻しますのでご了承ください」


まぁ、そりゃそうなるな。

極端な話、行ったその日に3000万円稼いで帰ってきたら、18歳でした、とか洒落にならん。

母さんはともかく、父さんは今回の事知らされてないみたいだから、なんて説明すりゃいいんだよ!?

あくまで外見がそうなだけで、戸籍上は28歳だからな。人生やり直せる訳じゃないし。

稼いだ金は仕送りで親の元に送られてる訳だから、無職無一文のニートが残るだけだぞ。

まぁ、あの二人ならその金、俺のために取っておいてくれそうだけど……。


一日で3000万円稼げるなら、一年くらい向こうで楽しむと思うけどな。つまりその分金も稼いで戻ってこれる……。


「3000万円分の仕送りをした後の話なんだけどさ」


「はい。なんでしょうか?」


俺はふと、疑問に感じたのでフェルディアルに尋ねた。


「その時に戻らないって決めたあとで、やっぱり戻りたいってなったらどうするんだ?」


「戻らない選択をしたなら永住です。もしくは、何かしらの方法で世界を移動してください」


「選択をしなかったら?」


「はい。保留になさった場合は、いつでも選択可能です。あくまで、選択の機会が一度しかないだけですから」


「そうか……」


実際その時になってみないとわからないけど、仕送りを終えてすぐに決めなければならないのでない、というのは良い情報だ。


「さて、これで説明し忘れた事はないですね? 琢磨さんもご質問等ございませんか?」


「……これってやっぱり強制なの?」


すぐには思いつかなかったのでそんな事を聞いてみた。

このままこちらに残っていても、俺の人生に何か良い変化が訪れる可能性は限りなくゼロに近い。

それなら、この異世界転生に賭けてみるのは悪くない。

悪くないどころか、俺としては大歓迎だしな。

だからまぁ、なんとなく聞いただけなんだよな。

心の準備ができていなかったせいもある。


「はい。琢磨さんに拒否権はございません」


にこやかに言う事ではないよな。


「わかった。やってくれ」


「かしこまりました。それとこちらはとりあえずの生活費です」


言ってフェルディアルは俺に一つの袋を手渡した。

ずっしりと重い。何か金属が入っているような感触と音がする。

覗いてみると、銀貨と銅貨が数十枚ずつ入っていた。


「300デューです。銀貨で30枚分。デューは向こうの通貨単位ですよ。銅貨一枚で1デューです」


日本円で3万円ってところか。

そして銅貨1枚1デュー。300デューで銀貨30枚って事は、銅貨10枚で銀貨1枚と同価値って事だな。

金貨1枚=銀貨100枚=銅貨1000枚。

そして銅貨1枚=100円。

こういう事か。


「ちなみに金貨100枚で白金貨1枚になります」


フェルディアルが補足する。


俺の足元に光輝く魔法陣が出現する。

模様がフェルディアルが現れた時と違う気がするけど、もうあまり覚えてない。


「ああ、最後に一つ」


「なんでしょう?」


「なんで母さんの願いを叶えようと思ったんだ? 全財産を寄付したって言っても月に4万円くらいだろ?

それとも、誰にでもこんな事してるのか?」


「二つ目の質問はいいえ、です。咲江さんの信仰心に敬意を表した結果ですから。

そして最初の質問。金額の問題ではないからです。

主婦業と教団での修行の合間を縫ってパートで働いて稼いだお金をすべて。

同じ4万円でもそれしか持っていない人と10万円持っている人とでは、その価値は同じではないでしょう?」


それは確かにその通りだ。


「それだけ寄付して、願う思いは自分以外の人の事。

感じ入る事をしない神はいませんよ」


それが、女神が俺を救ってくれる理由か。

俺のためではなくて。

俺のために祈ってくれた母のために。


「納得したよ」


「それでは佐伯琢磨さん……」



「よい旅を」



その言葉と同時に俺は眩い光に包まれた。

視界が白く染まり、そして—―


俺は異世界へと転生を果たしたのだった。


読了感謝します。

次話から異世界での生活が始まります。

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