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異世界から仕送りしています  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第二章:エレノニア王国探訪記
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第17話:夜戦。森林迷宮にて

月曜日に投稿すると言ったな。あれは嘘だ


すいません。寝落ちを繰り返してました

動物が火を怖がると思っている人はどのくらいいるだろうか?


それはある意味で正解であり、ある意味で間違いだ。


火を見た事が無い動物は、それが何なのかわからず、好奇心から寄って来る。これは熊などがそうだそうだ。

臆病な動物は逆に避ける場合が多いそうだが。


山火事や火山の噴火などは、実際に命の危険があるので本能的に避けるそうだ。


焚火程度では、熊避けにはならず、サイは火を消しに来るそうだし、猿は焚火で暖を取る。


キャンプで焚火などを焚くと動物避けになるのは、火そのものじゃなくて、炎の灯りに照らされた、人の姿を怖がるんだそうだ。

焚火を囲んでいれば、喋ったりもするだろうから、話し声や笑い声なども動物避けになるらしい。


さて、大体何が言いたいのか、もうわかったんじゃないだろうか?


動物は火を怖がらない。

むしろ、焚火に好奇心を刺激されたり、暖を取ろうとしたりして寄って来る。


そして動物避けになる人の姿や話し声は、モンスターにとっては獲物の存在を教えるものでしかない。


つまり、エルフィンリードの夜は、間断無くモンスターに襲われる、悪夢の夜と化すのだ。


「『ライトボール』」


俺は魔法で作った光の玉を、上空へと打ち上げる。

それは所謂燭燐弾的なものとして、周囲を煌々と照らした。


空には既に四つの光が浮かんでいる。

LEDライトより強い灯りに照らされて、辺りは昼のように明るくなっていた。


焚火を中心に、俺とセニアは背中合わせに俺達を囲むモンスターと対峙している。


「噂には聞いていたけど、ここまでとはな……」


俺は弓を放ちながらそう呟いた。

『常識』の中に、エルフィンリードで野営する事がいかに危険か、という情報はあった。

けれど、それは野生の動物はそれほど火を怖がらない上、モンスターは人を怖がらないので、安全に休む事ができない、という情報だった。

まさか焚火を焚いて、日が暮れた瞬間から、植物型や動物型の様々なモンスターが次々に集まって来るとは思わなかった。


怪しく輝く実で獲物を誘う、ランプツリー。


闇に溶け込む灰色の花弁を持ち、音も無く忍び寄る、ナイトストーカー。


魔力を帯びてモンスター化した迷宮猪と迷宮狼。


「これ、朝までもつの……!?」


セニアも弱気だ。

彼女も手にした小剣でモンスターを攻撃しているが、その怒涛の猛攻に防戦一方である。


最初は迷宮猪やナイトストーカーが単発で来ていただけだったのだが、迷宮狼の出現で状況が変わった。


群れで生活する通常の狼と同じく、迷宮狼も群れで活動する。

最初に現れたのは十一頭。

この時に広範囲への攻撃で一掃していれば状況も変わっていたかもしれないが、この時点では余裕があった俺は、戦闘訓練などと言いつつ、迷宮狼を一頭ずつ相手にする事にしたんだ。


そうしているうちに迷宮狼の援軍が次々に現れ、更に焚火の光と戦闘音に惹かれて、他のモンスターも寄って来てしまった。

至る、現在。


ダンジョンのモンスター出現条件は完全には解明されていない。

元々はダンジョンが定期的、あるいは不定期でモンスターを出現させているだけだと考えられていた。

放置されたダンジョンからモンスターが溢れる、氾濫現象が起こるのだから、これは正しい考えだろう。

だが、ダンジョンが侵入者を排除するべく、その近くにモンスターを出現させているのでは? という説も出て来た。

ランダムに出現させているにしては、侵入者の近くで新たにモンスターが出現する事があまりにも多いためだ。広大なダンジョンで、このような偶然がそう頻発するとは考えにくい。


今はどちらか、ではなく、上記の説両方が正しいのではないか、と推測されている。


考えてみればダンジョン内で野営なんてすれば、過去にダンジョンが出現させ、ダンジョン内で生活していたモンスターと、ダンジョンが侵入者に対して新たに出現させたモンスターの両方に襲われて当然だった。

エルフィンリードの内装が、あまりにもダンジョンっぽくないかったせいで、つい普通の森林に居る感覚でキャンプを作ってしまったんだよな。

交代で休んでも、度重なるモンスターの襲撃に対応できるだけの人数を揃えないといけなかったんだと思う。


『クリエイトウェポン』で作った魔法の矢を俺は放っている。

最初は剣や普通の矢だったんだけど、徐々に追いつかなくなったせいだ。

『クイックショット』と『連射』そして、射撃攻撃を行った後、別の対象に射撃攻撃を行う場合、その動作が速くなる『乱れ撃ち』も併用して、とにかく手数を増やしている。

近くに来たモンスターに向けて『クイックショット』で射撃。『連射』で速度を上昇させて追撃。まだ生きているならまた『連射』。

『連射』が発動しなければ、そいつは死んだという事なので、即座にターゲットを切り替えて『乱れ撃ち』を発動させる。倒したモンスターが光の粒子になるのを待ってなんていられないからな。

『乱れ撃ち』で攻撃した相手にまた『連射』。


これを繰り返していた。


「ちっ!」


俺の脇を抜け、セニアに飛び掛かろうとする一頭の迷宮狼が見えた。


「『光の槍(セカンダス・ウィスプ)』!」


俺が魔法の名を唱えると、上空に浮かぶ光の玉から、一本の光の矢が放たれ、迷宮狼を貫いた。


『スピアーレイ』とも呼ばれる精霊魔法で、これを使用するには光源が必要となる。

普通なら焚火や松明、ランタンなどを利用する。しかし焚火は持ち運びができないし、松明は持続時間が大幅に減少し、ランタンは魔法を放った衝撃で壊れてしまう。

精霊魔法は様々な制限が多い事もあって、これを使用する『精霊魔術師シャーマン』はその数が少ない。

そして『ライトボール』を使える『自然術士ドルイド』とはできる事がかぶっている場合が多いので、精霊魔法と自然魔法を両方修めている者、あるいは『精霊魔術師シャーマン』と『自然術士ドルイド』が同じパーティに居る事は稀だ。


だから、『ライトボール』から『スピアーレイ』を発生させるというコンボは知られておらず、『常識』の中にも無かった。

これは俺が色々と魔法を見ていた時に思いついた、オリジナルの連携魔法である。ドヤァ。


とは言え、このままでは俺のMPもいずれ尽きる。

MPが尽きても俺は暫く戦えるが、このまま敵の攻勢が続けば、『空腹』『疲労』『飢餓』といったバステで能力が減少し、押し負ける事になるだろう。

まぁ、そうなったら『テレポート』で逃げるけど。


『テレポート』はある程度の人数までなら他人も運べる。

しかし、『テレポート』を見せるほど、セニアを俺は信用していない。

だからと言って、見殺しにしても良いとは思っていない。

助けられるならなんとか助けてやりたい。


潮時だな……。


俺が今まで戦っていたのは、いつかはこの大攻勢が止まるのではないかと淡い希望を抱いていたからだ。

だって今まで倒したモンスターの魔石、未回収だからね。

けれどもう無理。

例え夜が明けたとしても、向かって来るモンスターの種類が変わるだけで、状況にさしたる変化は無いだろう。

『ライトボール』の光が届かない闇の向こうから、モンスター出現の予兆である、魔力が噴出している音が何度も聞こえている。

一体、この包囲の向こうに、どれだけのモンスターがひしめいている事やら。


諦めて逃げる事を選択する。

命あっての物種だ。魔石が勿体無いけど、死んでは元も子もない。


そうと決まれば早速行動に移そう。

セニアも嫌とは言わないだろう。言うようなバカなら無理矢理連れて行くまでだ。


「緑の四層――ウィンドウォール――」


俺とセニアを中心に風が放射状に放たれる。風というより、空気が壁となって動いたような感じだ。

見えない壁に弾き飛ばされるようにして、俺達を囲んでいたモンスターが吹き飛ばされる。


「セニア!」


叫んで俺は彼女に近付き、その腰を抱える。


うわ、細い。

厚手の布越しでも伝わる柔らかな感触と体温にドキドキしちゃうぜ。


「ちょっと……」


「しっかり掴まってろよ! 『ブーストジャンプ』」


抗議の声を上げるセニアを無視して忠告し、俺は魔法を発動させた。


どかん、という爆音と共に俺達は宙を舞う。

上空にではなく、できるだけ水平方向への跳躍。


「っ……!」


セニアが俺の首に腕を回してしっかりとしがみついてきた。

く、鎧のせいで密着具合が……。


首に回された細い腕の感触と、近くで感じられるセニアの息遣いは素晴らしいのに。


小剣を持ったままのせいで、首筋に刃が当たっていて別の意味でもドキドキするけど。


着地と同時に『ブーストジャンプ』。これを繰り返し、モンスターの包囲を抜ける。

空中で下半身を振り、右足を前に突き出すと、何か硬いモノが足の裏に触れた。木の幹だ。


「『ブーストジャンプ』!」


膝を柔らかく使って衝突の衝撃を吸収し、すぐに幹を蹴るようにして跳躍。方向転換に成功する。


「見えてるの!?」


その動きを感じたセニアが驚きの声を上げた。


「多少はな」


ビクティオンの祝福『ダークサイト』のお陰で、少ない光源でも昼のように見える。

外と違って空に星も月も無いが、周囲には微かに光を発する植物が自生している。

普通の人間にとっては足元を照らす程度の光でも、今の俺には十分過ぎる。


今度は左足を突き出し、木を蹴って跳躍。

通常の木であれば、俺の筋力と、『ブーストジャンプ』の衝撃、更に、ここまで飛んで来た運動エネルギーを受けて粉々に砕け散ってしまうが、このダンジョンの中の木の大半は、ダンジョンの壁だ。

そう、防御力四桁オーバーの壁である。

勿論普通の木もあるので、それは『アナライズ』で判別している。

『サーチ』を使ってモンスターを避け、自分が移動した場所の詳細情報を知れる『マップ』の魔法で来た道を迷う事無く戻る事ができた。


「ふぅ……」


最初に出て来た、木の根で構成された通路の入口に着地して、俺は一息吐いた。

ここまでくれば大丈夫だろう。後は出口までダッシュするだけだ。


「あ、ありがとう……」


言うセニアの声が震えている。

モンスターの恐怖か、それともここまでの高速移動の恐怖か。

ん? 声が近いな。

思って顔を上げると、すぐそこにセニアの顔があった。


危ない!

よくあるラブコメみたいに唇が触れ合いそうになったぞ!

いや、そのままいっても良かったけれど、俺のヘタレな部分が全力で回避を要求。

更に冷静な部分が、セニアとそういう関係になる危険性を指摘してくる。

セニア自体は可愛いし、綺麗だし、何の問題も無いんだけど、彼女に付随している『役職』が邪魔なんだよなぁ。


帝国の王女なんて、厄介事の種でしかないよ。


「あ、わるい……」


まだ彼女を抱えたままだった事を思い出し、俺はすぐに離れる。


「あ、うん。別に、いいけど……」


目を逸らし、呟く彼女の頬が赤い。

嫌がっているようには見えない。そこにあるのは決して感謝だけではないだろう。


やめろ、俺にフラグを立てさせるな!

正直、セニアを抱きかかえていた時の感触とか、道中の吐息とか、何日も風呂に入っていないせいでややきつくなった体臭とか。

思い出すとフラグじゃないものまで勃っちゃうから!


すまん、ちょっと下品だったな。


「魔石、もったいなかったな」


「生きていれば、また稼げるわよ」



出口へと向かう途中、俺達はそんな会話を交わした。

モンスターの包囲を抜け、ダンジョン脱出までもう少し、という事で心に余裕があった。

別に油断していた訳じゃない。ここまで来ればもう大丈夫、と確信が二人ともあったからだ。


変なフラグじゃないぞ。

ほら、その証拠に出口に到着した。


本当に何の波乱も無く、俺達はダンジョンから森に出る事に成功する。


すぐに、今朝残していったキャンプ跡に向かい、焚火に火をつける。


「ふぅ」


丸太に腰を下ろし、一息吐く。

『マジックボックス』から水袋を取り出し、喉を潤した。

更に今朝の残りのウサギ肉を取り出し、火で炙る。


「まだ残ってたんだ」


俺と同じように水を飲みながら、セニアが言った。


「おう、お前の分もあるからな」


「そんな心配はしてないわよ」


うん、苦笑するセニアも可愛いのう。

肉が焼けるまでの間、俺は保存食の干し肉を齧りながら、そんなオヤジ臭い事を考えていた。

うん、実年齢はオジサンだからね。しょうがないね。


ああ、セニアに手を出さない理由がここにもあるのかもしれないな。

だって俺とセニア、実年齢で言えば一回り以上離れてるんだぜ?

セニアの年齢が現代日本で言えば、事案が発生しちゃう年齢だとか、それ以前の問題だよ。


セニアが先に見張りをするから休んで良いと言って来た。

多分、俺のMP回復を優先しての提案だろう。

俺も遠慮せずに好意に甘える事にした。


正直MPはまだ余裕があったし、昨日から集めた素材を『錬成』すればMP回復アイテムを作ることができる。

でも、ま、気を遣ってもらうって、なんか久しぶりで嬉しかったから。


ニートでいた頃?

ま、あれはあれであれだからさ。



朝の光が眩しくて、目を覚ます。

て、朝だよ、おい。


ここでセニアが起きていれば、俺を気遣って起こさないでいてくれたんだと思うけど、普通に寝ちゃってるもんなぁ。

まぁ、疲れてたんだろう。肉体的にってより、精神的な疲労の方が大きかったのかもしれない。

死を覚悟するほどの危機と、それを乗り越えた安心感。

そして心地よい倦怠感に包まれては、睡魔に抗う事はできなかったんだろう。

俺も起きてる自信ない。

特に俺には前科があるしな。


丸太に座ったままの体勢で、上半身を自分の膝の間に突っ込むという、器用な寝方をセニアはしていた。

それ、頭皮熱くない? 焚火にめっちゃ近いんだけど?


少し離れた茂みへ入り、用を足す。

戻って来てもセニアはまだ眠っていたので、朝食の準備を始めた。

黒パンを皮を削った木の串に刺して焚火で炙る。

焼けるまでの間に昨夜、余裕があった頃に拾っていた、ナイトストーカーの魔石を還元する。


俺の手に中には親指くらいの大きさの種が残された。夜這い葛の種だ。

ちなみにレア素材じゃない。


『マジックボックス』から空の陶器を取り出し、種と少量の塩を入れる。

そして『錬成』。


陶器の中から光が発生し、それが収まった後、中を覗くと、バターができていた。

いや、植物油で作ったからマーガリンか。

油脂含有量は100%近いので、ファットスプレッドじゃない、正真正銘のマーガリンだ。


……量が少ないな。

拾っていたナイトストーカーの魔石はあと三つ。

まぁ、それだけあれば十分か。


全部素材に還元する。

今欲しいのは夜這い葛の種。レア素材は必要ない。

そう、レア素材は要らない。

この世に物欲センサーというものがあるなら、こういう時はレア素材が出る可能性が高い。


…………うーん、物欲センサーは仕事しすぎだよなぁ。


俺の手の中には三つの種があった。


やっぱ世の中そううまくはいかないね。


「怒ってる?」


「いや、昨日の状況を考えたら、しょうがないよ。一応、危険を感知したら知らせるようにはしてたからさ」


起きたセニアは俺が逆に恐縮するくらい取り乱した。

顔を真っ赤にして言い訳になってない言い訳を口にし、謝り倒す姿は年相応の幼さが見えて、微笑ましかった。


俺はマーガリンを塗った黒パンをセニアに渡す。


「これは?」


「植物油で作った調味料。こんな風にパンに塗って食べたり、バターの代用品にしたりするんだ」


ちなみにこの世界でバターは高級品だ。

地球でもかつてはバターが高価だったために造られた歴史があるからな。


「ひょっとして、真珠脂マルガリン? どこで手に入れたの?」


あ、知ってたか。庶民じゃ中々手に入れられないのは同じだけど、王族なら食べた事があっても不思議じゃないか。

うーん、どうするかな? 言おうかな?

うん、言っちゃおう。もうこのくらいならどうってことはないだろう。

怪訝な表情をされるだろうし、変に思われるだろうけど、それは今更だもんな。


「俺がさっき『錬成』したんだよ」


「『錬金術師アルケミスト』なの?」


「『錬金術師アルケミスト』でもある」


言って俺は唇の端を歪めてみせた。セニアは暫く俺を見つめて、そして長い溜息を吐いた。


「いや、うん。いいわ。このくらいなら、驚かない」


驚いてたろ、今。

うまく自分の中で折り合いをつけられたみたいで良かったよ。


「……美味しい」


深く考えない事にしたようで、セニアはパンを一口齧った。

素直な感情が漏れ出たのか、ほころんだ表情は、非常に魅力的だった。


夜の森は危険。現代まで通じる常識です

ちなみに熊と遭遇した際、死んだふりは意味が無いとか言いますが、意外と生存率高いそうです

遭遇しないようにするのが一番ですけどね

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