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第134話:勇者釣り

三人称視点です


ラングノニア王都の城門に、ボロ布を纏い、顔を半分隠した一人の獣人が姿を現す。


「おいおい、誰だ? 奴隷の管理がなってねぇぞ」


周囲がざわつく中、一人の冒険者然とした男が、見下した笑みを浮かべて獣人に近付く。

ラングノニアにおける奴隷に人権はない。

それでも人間の奴隷であれば、他人の所有物であるためぞんざいに扱われる事はないが、獣人の奴隷はその限りではなかった。


ラングノニアの国民にとって獣人とはモンスターとのハーフであり、忌むべき存在。

仮に冒険者の男が獣人の奴隷を殺してしまっても、それは自分の奴隷をきちんと管理できていなかった所有者の責任となり、冒険者の男は罪に問われない。


この国の人間にとって、獣人とは後ろ暗い欲求を致すための最適の玩具だった。


「ほら、この奴隷は誰の……だっ!?」


そういう意味では、冒険者の男の態度はまだ寛容だった。

腰に佩いた剣を抜いて、一刀のもとに切り捨てても咎められない相手に対し、素手で暴行するだけに留めようとしたのだから。


人間のそれに比べると安価であるとは言え、それでもタダではない。

持ち主が近くにいるなら、管理の甘さを指摘しながら制裁を加えることで、その持ち主が周囲に批難されないようにという配慮がなされていた。


当然だが、その配慮の対象に獣人は入らない。

この国の人間なら至極当然の思考だ。


腹を目掛けて靴底を押し当てる程度の威力の蹴りを放つ。

獣人の奴隷など最低限の食事しか与えられずに重労働に従事させられるのが普通だ。


大抵の獣人はこの程度の蹴りでも後ろに吹き飛び、しりもちをつくだろう。


その無様な姿を見れば、周囲の人間の留飲も下がる。

あとは名乗り出た持ち主に小言と一緒に返してやれば、特に大したトラブルに発展する事無く問題は収束するだろう。


そこまで考えての前蹴り。

しかしその蹴りは、獣人の奴隷に当たる前に、その足首を掴まれていた。


「なに……をっ!?」


想定外の事態に一瞬思考と動きが止まる男。

その間に片手で持ちあげられ、そのまま放り投げられる。


一人うろつく獣人の奴隷、などというものを目にして不快な気分にさせられていた入門待ちの人間たちが、その行動に悲鳴を上げる。


中には敵意を剥き出しに、獣人を睨みつける者もいた。


「てめぇ!」


数人が、それぞれ武器を手に人だかりの中から前に出る。


しかし彼らも、その武器を振るう前に、獣人に腕や肩を掴まれ、碌に抵抗もできずに投げ捨てられた。


(最初につっかかってくる奴らは極力殺さない。すると次に衛兵が近づいてくるから……)


門の奥から数人の衛兵が騒ぎを聞きつけて近づいてくる。

走って来た勢いのまま、槍を突き出して来た。


身をひねって躱し、槍の柄を掴み、これまでと同じように持ち上げ、放り投げる。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォオオ!!」


駆け付けた衛兵全員を投げ捨てたところで遠吠え。

勝鬨のようにその雄叫びは何度も轟いた。

まるで誰かに合図を送っているかのようにも見えた。


「まさか、また獣人のクーデターか!?」


「いや、残党だろ?」


「誰か、征火隊に連絡を……!」


その後も近付く人間たちを放り投げ、時には自分から近付いて投げ捨てたりしていると、肩に青い布を巻いた軽装の武装集団がやって来るのが見えた。


ラングノニア王国の獣人狩りの専門部隊、征火隊である。


(青い布を巻いた奴らは、殺してもよし)


その瞬間、獣人が跳んだ。

目にも止まらぬ速さで征火隊との距離を詰めると、これまで隠して来た鉤爪を振るい、先頭の男の首を飛ばした。


「なっ……!?」


驚きつつも抜剣してすぐさま戦闘態勢に移行するのは、流石正規兵。

チンピラ程度の冒険者や衛兵とは練度が違う。


しかし解き放たれた獣人――獣人のフリをしたアルグレイには無意味だ。


「オオオオオオオオオオォォォォォオオオ!!」


雄叫びを上げながら征火隊の中心へと飛び込む。

すぐさま腕と足を振るい、周囲の敵を吹き飛ばす。


これまでの手加減していた攻撃とは違う。

相手の事を一切考慮しない一撃は、征火隊の体に穴を開け、頭を弾き、四肢を千切った。


「ウォオオオオオオオオォォォォォォオオオ!!」


再びの遠吠え。


そしてアルグレイが城門の方を見る。


「へへ。流石は大将の兄弟子だ」


城門から、黒い覆面を顔を隠した異様な集団が姿を見せていた。


征火隊でも手に負えない獣人を始末するために、人間の勇者が派遣されたのだ。


勿論それこそが、アルグレイの、アルグレイとタクマの立てた作戦だった。

アルグレイが獣人のフリをして王都の付近で暴れて人間の勇者を釣り出す作戦。


人間の勇者は突然その場所に湧き出る訳じゃない。

必ず待機場所があるし、その場所に補充する別の待機場所がある。


次々に襲い来る人間の勇者を撃退し続ければ、最初に派遣された勇者の穴埋めとして別の待機場所から人間の勇者が補充されるし、その穴埋めのために別の場所から勇者がやってくる。


その工程を何段階踏めばいいかはわからないが、逆に辿っていけば、かならず生産場所へと行き着く。


最初に出て来るだろう衛兵をを殺さずに適当にいなすことで、獣人狩りの専門部隊である征火隊が現れる。

そして彼らを無惨に殺害して見せれば、クーデターを起こした獣人の残党が、征火隊への復讐に現れたと思われるはずだ。


人間の勇者は獣人にとって想定外の相手。

そう認識させられれば、アルグレイの外見も相まって、ゴブリンキングダムとの繋がりを疑われる可能性は低いだろう。


勿論、タクマと再会するまでの間にアルグレイが正体をバラしている可能性はあったが、それこそ、最早手遅れなので、考えるだけ無駄だ。


(王都の待機場所はあそこか……)


狩りの神、ビクティオンの祝福を使って姿を隠していたタクマは、人間の勇者が出て来る所をしっかり確認していた。


あとはそこに再配置される補充人員、あるいはアルグレイ討伐のために援軍として現れる人間の勇者の動きを逆に辿って行けばいいだけだ。


(これで時間はかかるけど、確実に製造場所に辿り着けるはずだ)


この時のタクマは、そう楽観的に考えていたのだった。


とりあえず目論見通りに人間の勇者を釣り出す事には成功

しかし漂う不穏な空気

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