第133話:ラングノニア潜入
アルグレイと共に人間の勇者製造工場を探すにあたり、問題があった。
そんなものが本当にあるのか? というそもそもの疑問は勿論あった。
けれど、ある程度は探してみせないとアルグレイは納得しないだろうからな。
放置してアイツにラングノニアで好き勝手暴れられても色々マズイし。
問題は、誰を同行させるかということだ。
諸々考慮すれば俺は確定。
何かあった時の生存確率を考慮すれば、立花になるんだろう。
ただ、何かあった時のためというなら、立花は家にいて欲しい気持ちもある。
彼女の目的を考えると、ラングノニアを色々回りたいかもしれないが、それはアルグレイをゴブリンキングダムに追い返した後で、とか説得可能だろう。
人間至上主義の国だからな。ゴブリンの進化先を連れて歩くより人間だけで行った方が色々と融通が利くだろう。
人間の勇者のステータスを見る限り、サラやミシェルは少し危うい。
そもそものステータスが低いモニカやノーラは危険だし、魔法系に偏っているカタリナやエレンも怖い。
エレンの能力は探索向きではあるんだが。
そんな訳で女性陣からの愚痴を背中に受けながら、俺はアルグレイと二人でラングノニアに戻って来た。
まぁ、以前一人旅したら立花を拾った実績があるからな。
そういう意味でもサラ達は色々と心配なんだろう。
「さて、まずはどこから探す?」
割とコイツが提案してた、適当にコイツに暴れて貰って、迎撃に出てきた人間の勇者を逆探知するってのが楽な気がしてきたが、まぁそれは最終手段。
ユリアの企みが俺の危惧した通りであった場合に備えて、ゴブリンキングダムからの刺客だと思われるような行動はできる限り控えさせたい。
もう遅いかもしれない? それはそう。
けれどそれこそ今更考えても仕方のない事なので、考えない事にする。
「立花の言っていた通り、まずは王都を調べてみるか」
現代の感覚で言えば製造工場とかは街から離れた場所にあるイメージだ。
まぁ、どうしても開けた広い場所が必要だからな。土地の値段が安い郊外を選ぶのは当然と言える。
騒音問題とかとも無縁だしな。
けれどこの世界だと、街中に作っても騒音公害とは別の意味で無縁だ。
不満を持たれても気にする必要がないからな。
土地の値段だって公共事業ならある程度無理を通せるし、そもそも地下が誰かの土地って認識がない。
秘密の製造工場なら王都の地下が有力だろう。
立花が言っていたように、そんな辺鄙な場所に厳重な警備を置いていたら、重要な何かがある事がバレバレだってのも勿論ある。
まぁあとは、情報伝達網が整ってないこの世界だと、近くに置いておいた方が監視も管理もしやすいだろう。
「あとの問題はお前か……」
俺より上背があって体格も良い。
それ自体はこの世界では珍しくないけれど、肌は赤黒く、鼻先が犬のマズルのように伸びている。
燃える王冠のよう髪は……前衛的な髪型として誤魔化せるけれど、尖った耳と併せてこの顔はどうしようもないよなぁ。
他の国なら一部顔を隠して獣人として誤魔化せるけれど、人間至上主義のラングノニアじゃそれも難しい。
いっそ俺の奴隷として連れて歩くか?
ウォード一家の時もそれで誤魔化せたし。
いや、街道を行くだけならともかく、街に入るとなると問題があるかな……?
コイツに奴隷らしい演技を期待するのも難しいだろうし。
「? なんだよ?」
俺がじっと見るので、不審そうにアルグレイは首を傾げた。
獣人に偽装する案はそれほど悪くない気がするんだよな。
コイツを隠す事が難しい以上、堂々と連れ歩く方法を考えるべきだ。
暗くなるまで街の外に潜んで、闇夜に紛れて侵入するって手もあるけれど、コイツに隠密の適正無いからな。
ガチの犬獣人ならともかく、犬っぽいゴブリンでしかないからしょうがない部分もあるか。
それに、どこをどう探ればいいか全くわかっていない状況で、夜に活動するのは非効率に過ぎる。
「そうだな。ちょっと獣人のフリをしてもらおうか」
「ほう、さすが大将の兄弟子。なんか考えがあるんだな?」
「ああ。お前にとってぴったりの作戦だよ」
「そいつぁいいや。俺を使いこなせるのなんて大将くらいだぜ?」
俺の言葉に呵々と笑うアルグレイ。乗せられた言葉は挑発か皮肉か。
「問題無い。なんせ、ちょっと暴れてもらうだけだからな」
言って俺が笑うと、一瞬きょとんとした顔を見せるも、アルグレイも口の端を吊り上げ、凶悪な犬歯を剥き出しにしたのだった。