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第132話:作戦会議


「詳しい説明をする前に移動しないか?」


「あ? ここじゃダメなのかよ?」


俺が場所の移動を提案すると、アルグレイは首を傾げた。

犬顔のゴブリンなせいか表情はわかりにくいけど、不機嫌になってるような感じはしないな。

純粋に疑問に思ってるだけか。


「援軍が来ても困るだろ」


「いいじゃねぇか、全員返り討ちにしちまえば」


人間の勇者がどれだけ量産されてるかはわからないし、どのくらいの速度で量産できるのかわからない。

とは言え、そうポンポンと数を出せるようなもんでもないだろう。


かつての獣人の集落に入り込んだ正体不明の相手を撃退するために派遣されたってだけなら、言ってしまえば国内巡回の兵士程度の気安さで投入できるくらいお手軽に量産可能って事にもなるが、どうも狙いはアルグレイっぽかったからな。


「どれだけくるかわからない相手と延々と戦うなんて冗談じゃない。それに、お前がどういう調査を命じられたのか知らないけど、相手の数が減れば補充まで大人しくなっちゃうかもだろ」


「それが何か問題か?」


「多少動きを見せてくれないと相手の情報を得る事は難しいって話だよ」


「ああ、なるほど……」


納得したように、手の平を叩くアルグレイ。

やっぱコイツに潜入調査って無理じゃね? ユリアは何を考えてコイツを派遣したんだ?


まさか派手に暴れさせてラングノニア自体が暫く大人しくなるよう。ダメージを与えるためって訳じゃないよな?


エレノニアと一応の協力体制にあるゴブリンキングダムからすると、外交状況が悪化してるラングノニアを牽制するのは意味がある行為ではあるけれど……。


……。

…………。

……………………あ。


エレノニア王国に協力しているゴブリンキングダムの幹部が、ラングノニア王国内で暴れたらどうなる?

ただ敵対行動だととられるだけじゃない。

エレノニア王国がモンスターを使って他国を攻撃させていると見られるだろう。


国内のダンジョン攻略の手助けのためとは言え、既にゴブリンと協力関係にある事自体がかなりアウトだ。

ここにそのゴブリンを他国にけしかけたって評価が加わればどうなるだろうか。


間違いなく、エレノニア王国は人類の敵になる。

果たしてその時にエレノニア王国はどうでるだろうか?


ゴブリンキングダムを単独で討伐して、そんな意図がない事を示す?

ゴブリンキングダムと協力して他国と戦う?


ゴブリンが安全に暮らせる世界を作ろうとした場合、邪魔になるのはモンスターは例外なく敵だと断定してる光の神の教団と、人間至上主義のラングノニア王国だ。


…………まさかな。


仮にそれがユリアの目的だった場合、俺はどう動くべきだろうか。

流石にエレノニアと共に他国と戦うのは勘弁して欲しい。

けれど、エレノニアを見捨てる事はしたくない。


ヒト国家全体とゴブリンキングダムが友好的になるのは絶対に不可能である以上、このまま時間が進むと辿り着くのはエレノニア王国とゴブリンキングダムの訣別か、エレノニア王国共々世界の敵になるかのどちらかだ。


だから俺にとってベターなのは、ゴブリンキングダムがエレノニアから離れて、ヒト国家から隠れて過ごして貰う事だろう。


どこにどうやって? ってのは流石に俺じゃ思いつかない。

けどそれが俺にとって一番良い展開だ。


人間の勇者の事報告した後、ユーマ君がそっち行っちゃったらゴメンな。


まずは喫緊の課題を片付けよう。

アルグレイがどこまでユリアから指示されているかわからないけれど、コイツの反応を見ると、何も聞かされてない可能性が高そうだ。


作製技術の奪取とかは別の奴が命令されてるんだろうか……?


「じゃあ一旦ウチに戻るぞ。そこで改めて話を聞こう」


「おう、よろしく頼むぜ」


とりあえず、こいつをこのまま暴れさせて、ゴブリンキングダムとラングノニアの全面抗争にエレノニアが巻き込まれる事は避けるべきだからな。



「それで? 協力って何をすればいいんだ?」


『テレポート』でガルツ近郊の家に戻り、ウォード一家をひとまず解放。

俺の部屋に俺とアルグレイと立花だけで入る。


ユリアの事を知ってるからみんなアルグレイをそこまで警戒してないみたいで、すんなり聞いてくれて助かった。

モニカもエレニア大森林でゴブリンフォードとは戦ったけれど、アルグレイ自体は見てないからな。


敵対した時、お前たちじゃ瞬殺だから入って来るな、なんて流石に言えないからな。

まぁ、どうしてもって言うなら言わなきゃだけども。


「大将が言いうには、どこかでアレを作ってる場所があるそうなんだ。俺はそれを見つけなきゃならねぇ」


しかしユリアはどこで人間の勇者の事を知ったんだろう。

ラングノニア的にはまだ機密だろう。


まぁ、俺はそれなりに有名人ではあるけど、国の中心からは離れた位置にいるから、ひょっとしたら各国上層部にとっては公然の秘密でしかないのかもしれないけど。


あれ? そうなるとユーマ君、人間の勇者自体は知ってる可能性があるのか?


「確かにあいつらを見てると、他の勇者みたいに戦闘や日々の鍛錬で覚醒したって感じじゃなかったからなぁ。製造工場みたいな場所はあるだろうな」


それが怪しい魔法陣なのか、怪しく発光する培養液なのかはわからないが。


「そうそう。だからよ、俺が派手に暴れてればアイツらがやってくるわけだろ? お前らはそれを見張って、出撃地点を逆探知して欲しいわけよ」


「製造場所と完成した勇者の待機場所が別の可能性は?」


「そしたらその待機場所を襲ってやればいい。そうすりゃ生産施設から補充されてくるだろ?」


「待機場所が他にもあったとしても、同じ事を繰り返せばいつか辿り着くってことか……」


「そうだぜ!」


俺の言葉に力強く頷き、ドヤ顔を向けるアルグレイ。

いや、見事な作戦だとは思うよ?

滅茶苦茶時間かかるって事を除けばな。


人間の勇者が『ここぞ』って時だけ投入される切り札的な存在であったなら、その待機場所も少ないだろうから、生産施設まで早い段階で辿り着けるかもしれないけれど、もしも領内巡回兵レベルで大量生産されてたらどうするんだよ?


そんな配備状況だと待機場所も百や二百じゃきかないだろ。


あとお前に暴れられるのが一番困るんだっつーの。


「相手がどのくらいいるか、あたりはついているんですか?」


「ああ?」


俺と同じ懸念を抱いたのか、立花がアルグレイに尋ねる。


「人間の勇者の数が多ければ、待機場所はその分多くなります。そうなると、他の待機場所を襲撃している間に、以前襲撃した待機場所が修復されてしまったり、新しい待機場所が作られる可能性もあるのではないかと……」


「つまり……?」


「永遠に生産施設には辿り着けませんね」


「やべーじゃん!!」


立ち上がって叫ぶアルグレイ。

耳をふさぐ俺と立花。


「けどどうすんだ!? アイツらを辿れねぇってなると、どうやって作ってる場所を探せばいいんだ!?」


これやっぱり、ユリアはコイツ暴れさせる目的で派遣しただろ。


「ある程度は隠し場所を絞れると思いますよ」


「ほんとか!?」


橘の言葉に希望の光を見出すアルグレイ。


「重要な施設なら当然、警備も厳しいわけですが、山奥や辺鄙な場所に大勢の警備が常駐してたら怪しいですよね?」


「そうか! そういう所を探せば……!」


「逆だろ」


「はい、逆です。警備が厳重でも不自然でない場所で行われていると考えるべきです」


「つ、つまり……!?」


アルグレイは何かに気付いて立ち上がるものの、俺達二人に指摘されて椅子に三度腰を下ろす。


「国の首都とか、大きな都市とか、その内部にあると思いますよ。更に絞るのであれば、最近常駐の兵が増えた場所とかですかね」


「よし、じゃあ首都を襲撃すればいいんだな!」


「いや、襲撃はするなよ。潜入して場所だけ確認しろ」


「なんでだよ!?」


「そういう重要な施設が一つだけって事はないだろう。何かあった時のために予備が用意されてるはずだ」


そんなものが本当にあるかは知らないけれど、そう納得して貰おう。

とにかくコイツを暴れさせないことが最優先。


アルグレイがラングノニア内で活動してた事は既に知られてるだろう。

ひょっとしたら、人間の勇者の生産施設が目的だってことまで推測できてるかもしれない。

それはいい。

俺達の存在を隠して貰わないといけないから、コイツの存在自体は暴かれてていい。


今ならまだ、コイツ単独の行動だと言い張る事ができるかもしれない。

既に手遅れなら、それはもうどうしようもないからな。

だったら、まだラインを越えてない前提で話を進めるべきだ。


「けど、お前が施設を襲撃した事がバレたら、生産機能をその予備に移されてしまうだろ? そうしたらお前が見つけた生産施設をユリアンに報告したとしても……」


「う、もうその場所には何もなくなってるってことか……」


「そうだ。だから探ってる事自体はバレてもいいが、生産場所を把握した事はバレちゃいけない」


そして俺はアルグレイに顔を近づける。

動揺と緊張で、アルグレイが息を呑んだ。


「非常に困難だが、重要な任務だ。見事やり遂げたら、ユリアンからの評価はうなぎのぼりさ」


「へへ、頼りにしてるぜ、おにいちゃん」


チョロい。


チョロい(確信)

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