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第129話:故郷にて


「あの山には見覚えがあります」


ラングノニア王国内に侵入を果たして二日後、ウォードが街道から見える、背の低い山を指差した。


あれから何度か征火隊やラングノニア正規軍とエンカウントしたけれど、大きなトラブルもなくここまで進むことができた。

ラングノニアを拠点にする冒険者や傭兵くずれのチンピラに絡まれたりはしたけれど、まぁおおむね問題無い。


「やっぱり、奴隷じゃない人間が少ないと、軽く見られちゃうわね」


「そうですね」


モニカとエレンの呟きはもっともだ。

ただ、サラ達の首輪へ向けるのが羨望の眼差しじゃなければもっと説得力あったんだけどな。


真なる絆を築く事ができれば、強力な力を得る事のできる『隷属の首輪』はなるほど、確かに慈愛の神が生み出しただけはある。

だからってその必要もないのに、好きな女の子を奴隷にする趣味は俺にはない。

何度も言っているが、サラ達だって早く奴隷から解放したいんだからな。


「あの山の中腹あたりに我々の集落がありました。祠もそちらに」


言うウォードの声が弾んでいる。

つらい思い出の多い場所とは言っても、やはり故郷は大切なんだろうなぁ。


街道を外れて山へと向かう。

草原に生い茂る草の背丈が高くなり、木々の密度が増していく。

その頃には地面に傾斜がついていて、山を登り始めた実感が出た。


「この植生の変化が、道なき道を行っている感じがしますね」


立花たちばなの感想に共感しかない。


「そう言えば、あまり人が入ってる感じがしないね」


立花の心情を誤解したミカエルがそう評する。


ただ、彼女の感想も理解できる。

山や森はヒトの領域ではないという考えが強いこの世界でも、それでも猟師や冒険者は頻繁に入ってるはずだし、ごく浅い場所までなら、野草や果実採取目的で平民も森や山に立ち入る事は普通にある。


しかし獣道すら発見できないほど、自然がそのままの形で残っていた。


「ラングノニアの国民は、あまり街から出ないと聞くわね」


「外はケモノの領域だと考えられてるそうだな」


モニカがふと思い出したように呟き、俺が『世界の常識』から得た知識を披露する。


ラングノニアでは街の外はモンスターの領域であり、ヒトが住む場所ではないと考えられているそうだ。

だから街の外で出会うのは、征火隊や冒険者のようなモンスターを狩る事を仕事にしている人間か、街中にいられない事情がある人間ばかりだ。


交易商も稀に見かけるが、エレノニアやロドニアで見かけたそれよりも、護衛の数が明らかに多いように思えた。


勿論防壁のある街ばかりではないけれど、村や集落でも、他の国のそれより明らかに堅牢な造りをしているらしい。

外からの脅威に備えているのか、外へ出さないためなのか……。


そのように考えると、外にあまり出ないというのも、獣人をモンスター扱いしているために、必要以上に外を恐れているというよりも、獣人と交流する人間を少なくするための措置のようにも思える。


子供達に補助魔法をかけながら、そんな雑談をしつつ山を登ると、開けた場所に出た。


壊された建物の残骸、燃やされたのだろう炭化した木材などがあちこちに散らばっている。

まさに、荒らされた村落、といった雰囲気の場所だ。


「う……」


「く……」


その光景を前に、暫く無言で立ち尽くしていたウォード達だったが、突然崩れ落ち、声を押し殺して泣き始めた。


うーん、声掛けづれぇ。

こういう時どういう顔していいかわからん。笑ったら駄目だろうし。


獣人達の反乱が失敗し、獣人狩りを恐れて生まれ育った場所を捨てて逃げ出した一家。


国を超え、家族ぐるみでダンジョンに潜り稼ごうとするなどアグレッシブで前向き。

けれどやっぱり……。


「お見苦しい所をお見せしました」


何時間そうしていただろうか。

到着した頃はまだ高かった日が、傾きかけた頃、ウォードが立ち上がり、俺に笑顔を見せた。


すっきりした顔はしていない。

まぁ、そう簡単に切り替えられる訳ないよな。


「いや、仕方ないよ」


かろうじて口にできたのはその一言だけだった。

ほんと、何て言っていいのかわからん。


「さて、それじゃタクマ、祖神様に報告に行こう」


「あ、ああ……」


同じく復活を果たしたノーラに手を引かれ、俺は集落の奥へと歩き出す。

まだ目元が赤いし声もしゃがれてるんだよなぁ。


それでも気丈に振舞うノーラの気持ちを尊重し、彼女に曳かれるままについていく。


奥に進んだ先には、破壊された石の塊があった。

恐らく、これがかつて祠だったものだろう。


再び無言になるノーラ。


彼女が今何を思っているのか、俺には推測する事しかできない。

彼女が今何を思っているのか、俺には予想する事すらできない。


彼女に声をかける術を、今の俺はもたない。

ただ繋がれたままの彼女の手を、強く握る事しかできなかった。


破壊されたからなのか、元からなのかはわからないけれど、祠からは何の神性も感じられなかった。

前者だと信じ、そっと胸にその事実をしまいこむ。


ノーラが繋いでいない腕を自身の胸に置き、瞳を閉じる。

祖神の報告を行っているのだろう。


「にゃっ!?」


目を閉じたままのノーラを抱きしめ、その場から素早く離れる。

直後に、彼女のいた場所が爆ぜた。

遠くから飛来したエネルギーの塊が地面に着弾したんだ。


「無粋な奴らだ……!」


集落を囲む木々の影から、黒い覆面をかぶり、金属製の鎧を身に着けた武装集団が姿を現す。


さっきのはこいつらの魔法か? それともスキル?


ノーラの救助を優先したからよく見てなかったんだよな。

ただ、確認できていたからと言っても、わからなかったかもしれない。


役職:人間の勇者


『アナライズ』で彼らを見ると、全員そのように表示されたのだから。


勇者が多すぎる(今章裏テーマ)

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