第128話:ラングノニア潜入成功
ラングノニアの国境を越えた後、適当な所に『ワープゲート』を設置する。
できる限り国境から離れた場所へ、国の奥へと進みたいところだけど、ノーラ達の集落の場所がわからないからなぁ。
全然違う方向に進んでから呼び寄せてしまったら問題だ。
その時間をロスした分だけ彼女達が危険に晒されるわけだからな。
「ここはどのあたりにゃんですかな?」
ゲートから出て来たウォードが尋ねる。
考えてみれば、彼らも基本集落の中だけで生活してて、獣人による反乱の直後に初めて外に出た訳だから、国内の土地勘無いよな
国境から歩いて来たならともかく、いきなりラングノニア王国内に出現したら、周囲の景色から現在地点を推測するのは無理か。
「この辺りだな」
俺は『マップ』をウォードに見せて説明をする。
「ここが国境、ラングノニア王都がこの辺だな」
「そうすると、我々の集落があった場所はこの辺りでしょうか……」
指差すウォードは自信なさげだ。
まぁ地図なんて初めて見ただろうから仕方ない。
「じゃあとりあえずそっちへ向かってみるか。近くに行けば景色から正確な場所がわかるようになるだろ」
「すみません……」
「気にするなって。それよりも……」
俺は『マジックボックス』からあるアイテムを取り出す。
「これからお前達に、ちょっと不快な思いをさせるだろうけど、いいか?」
「! いえ、必要にゃことだと思います……」
それを見たウォードは一瞬顔を強張らせるが、すぐに肯定の意を示した。
ノーラ達に目線をやると、彼女達も真剣な表情で頷く。
「わかった。魔力を込めて起動させなければただのアクセサリーと同じだからさ」
どちらかと言うと自分に言い訳しながら、俺はウォードに『隷属の首輪』をはめるのだった。
「おい、そこの!」
夜が明けて太陽が真上に差し掛かった頃、街道をいく俺達に声をかけてきたのは、騎乗して武装した十人ほどの集団だった。
軽装ではあるけどしっかりとした装備。野盗の類でないのは確かだ。
「なんでしょう?」
後ろから俺達を追い抜き、前を塞ぐようにして止まった集団に、俺が尋ねる。
「そのケダモノ共はお前の奴隷か?」
「ええ」
土地勘がない以上、街道を外れて隠れて進むなんて不可能だ。
だから俺は堂々と街道を進むために、ウォード一家に首輪をつけた。
偽装のために背負う荷物の配分も彼らが多めだ。
全部は渡していない。
荷物を全部渡しているという事は、それだけ獣人を信頼しているという証拠になるので、この国だと逆に怪しまれる。
「征火隊の方々ですか? ご苦労様です」
俺がその名前を口にすると、彼らの警戒度が明らかに下がった。
肩に巻いた青い布は征火隊のトレードマークだ。
彼らは獣人狩りを専門とする国の正規部隊。
活動は完全に国内なので、ラングノニア王国の外でその名前と特徴を知っている人間はごくわずかだ。
モンスターの末裔だと思っている獣人にわざわざ部隊名を名乗らないから、国外に逃亡した獣人から話が漏れる事もない。
俺は『世界の常識』で彼らの正体を看破したけれど、それを知らない彼らは、俺を国内で活動する冒険者だと思ったはずだ。
そして、冒険者ならラングノニア王国の政策が気に食わなければ出て行けばいい。
わざわざ国内で活動しているという事は、生まれも育ちもラングノニアの可能性が高いと考えるだろう。
ラングノニアで生まれ育った『人間』が、獣人をどのように扱うかは征火隊の彼らこそよく知っている。
「ふん、よくわきまえているようだな」
俺の傍に付き従う、サラやカタリナとウォード達を比べて征火隊の一人がそう言った。
簡素な服しか身に着けていないウォード達とは違い、同じ奴隷でありながら、サラ達は仕立ての良さそうな衣服をまとい、高品質の武具を装備している。
人間と獣人で差をつけている俺を見て、彼らは高評価したようだ。
嬉しくないなぁ。
「光の神の定めに逆らうケダモノ共が、未だ国の中で這いずり回っている。あまり目立つ真似はするなよ」
そう言い残して、征火隊は馬を駆って俺達から離れて行った。
「よしよし、偽装は上手くいってるな」
「話には聞いていたけれど、なんというか、過激だね」
おお、ミカエルが言葉を選んでいる。
「その国の文化だと言っても、やはりあまり気分の良いものではないですね」
立花も複雑な感情を滲ませた難しい表情をしていた。
差別に対する忌避感と、現代の倫理観を押し付ける事への躊躇がせめぎ合ってる感じだな。
自分を真面目だとは思っていても、正義だとは思っていない立花らしい。
「こんにゃに堂々としていて大丈夫なのかと思ってたけど、案外にゃんとかにゃるもんだね」
逆にノーラは気楽だ。
ウォード達も、他のヒトを気にせず歩けることに喜びこそすれ、緊張している様子はない。
それだけ抑圧されてたって事なのか、それとも俺への信頼が高いのか。
後者という事にしておこう。




