第125話:ラングノニア王国密入国計画
エレノニア王国からラングノニア王国へ入る事は実は簡単だ。
人間以外のヒト種族の扱いについて対立しているとは言え、一応は友好国だからだ。
ガルツから二日ほど街道を南下すると国境を守る砦と関所があり、そこを越えればラングノニアだ。
ただ、人間至上主義を掲げるラングノニアへ、人間以外のヒト種族が入る事は推奨されていない。
モンスターとのハーフと定義されていて、排除対象である獣人なら尚更だ。
エレノニア王国側でまず止められるし、それでも強引に突破するとなれば、入国の目的を始め、素性を徹底的に調べられる事になる。
この国の人間が、全員優しく真面目な人ばかりじゃないってのは、カタリナ関連でよく理解してるからな。
密入国となると、エレニア大森林を東につっきって、そこから山地を越えて入る事になるだろう。
一応そこにも砦があるんだけど、そこはどちらかと言えば、東に隣接している小国、エントリア王国の監視のために置かれているから、ラングノニア王国との国境は監視の目が薄い。
あとはガルツ南西にあるフェルデ森林を抜けて、ラングノニアの北西から入るというルートもある。
エレニア森林ルートは、エルフェンリードのダンジョンがある事もあって、エレノニア側はともかく、ラングノニア側の警戒は強い。
ただノーラの村はラングノニアの北東部の山地地帯の中にあるらしいから、フェルデ森林側のルートは入国してからが長い。
入る時が面倒なエレニア森林ルートか、入ってからが長いフェルデ森林ルートか。
不測の事態に対処しやすい、って意味ならラングノニアよりエレノニアだから、エレニア森林ルートを選ぶべきだろうか。
ただ、入国する時に問題が起きて、両王国から睨まれるって可能性もあるよなぁ。
「それなら、エレノニア王国とのトラブルは回避しやすいフェルデ森林側から入るのがいいんじゃないかい?」
周辺の地理に詳しいだろうミカエルに相談するとそんな回答があった。
「そうだな。この国に睨まれてここに住めなくなるのはそれはそれで面倒だしな」
拠点を失うのも問題だけど、何より折角作った販路を失うのが痛い。
目減りする貯蓄にやきもきしながら仕送りするのは流石に嫌だ。
「となると街道を外れていく事になりますから、馬車は使えませんわね。馬をどこかで借りてきましょうか」
「シュブニグラスの派生ダンジョンが幾つかあったわよね? ついでに潜ってみる?」
「むしろフェルデバイン川の手前の派生ダンジョンの入口までダンジョンを進んだ方が安全かもしれないね」
などと口にする女性陣。
んん? みんなついてくるの?
「え?」
俺の疑問にサラがちょっと意味がわからない、という表情を浮かべる。
「いや、俺としてはノーラと二人で行くつもりだったんだけど……」
その方が身軽というか、隠密行動に適しているからな。
「え?」
それを聞いて声を上げたのはなんとウォードさんだった。
「てっきり我々家族は連れて行って貰えるものだと……」
「待て、それだと計画を根本から考え直さないといけない」
確かに、言われてみればノーラと番になった報告を氏神様に報告するとなれば、そこにノーラの家族も同行するのは自然かもしれないな。
ただ、ウォード一家もシュブニグラス迷宮で鍛えているとは言え、ちょっと強い冒険者程度の実力しかない。
俺とノーラだけ、あるいは、それに女性陣を加えたパーティなら、何かトラブルが起きた時に、色々な解決策というか、回避方法を選ぶ事ができる。
けれど、ウォード一家が同行するとなると、力づくで解決、以外の方法を取りにくくなる。
ウォード一家との交流や炎の勇者関連で、大分ラングノニア王国に対する心証が悪くなってるとは言っても、絡んで来る奴ら皆殺しにして突き進むような気はないんだよ。
「家族は……必要?」
「できれば……」
ノーラに確認するとそんな答えが返って来た。
「うーん、じゃあやっぱりフェルデ森林側から入るのがいいかなぁ。何かあったからゲートですぐに戻る感じで……」
考えてみれば、ウォード一家を連れて行くとなると、家の面倒を見る人がいなくなるから、毎日家に戻る必要があるんだよな。
ならまぁ、なんとかなるかなぁ……。
多分炎の勇者以上の面倒な相手はいないと思うし。
炎の勇者はユーマ君にお仕置きされたし。
「いいんんですか?」
尋ねてきたのは立花だった。
「まぁ、神の揺り籠みたいな事は早々ないだろうし、大丈夫だろう」
「いえ、そういう事ではなく……。いえ、それもあるんですけど……」
「ああ、うん。まぁせっかくの祝い事だし、できるだけ叶えてやりたいじゃないか」
「それはまぁ、そうですね」
危険が予想される旅に子供達を連れて行っていいのか? という事を立花は聞きたかったんだろうと思い、そのように答える。
どうやら間違っていなかったようだけど、あんまり納得いってない感じだな。
まぁ、俺もニートの頃は結婚式ってなんであんなに金かけるの? とか思ってたクチだからな。
そこに命の危険も伴うってなれば、余計疑問に思うのも当然だろう。
「まぁ、必ず何か問題が起こるって訳でもないしさ。あっちも色々混乱してるだろうし、ひょっとしたら国内の獣人にはノーマークかもしれないぜ?」
炎の勇者の喪失は間違いなく国にとって大きな痛手だ。
エレノニア王国がフェレノス帝国の一部を飲み込んだ事で、強大化した相手への対処にも頭を悩ませているだろう。
この大陸東部のパワーバランスの変化に伴い、エレノニアの東側、ラングノニアの北側の小国家群でも動きがあるって聞く。
そう考えると、案外マジで、大きなトラブルもなく行って帰ってこれるかもしれないな。
フラグ建て乙




