第12話:護衛クエストの終了。フィクレツ到着
間に合いませんでした……。
ストックあっても、手直しをしていると時間かかりますね。
朝早くに出発し、昼を少し過ぎた頃、草原の向こうに城壁が見えて来た。
車輪よ、あれがフィクレツの壁だ。
……ちょっと苦しかったな。
「到着ですね」
それを見たエストックが安堵の溜息を吐く。
ここまでの道中、襲われっぱなしだっただけに、目的地が確認できた事で気が緩んだんだろう。
一方の俺は気が気じゃなかった。
当然、昨夜ワンハンドから伝えられた襲撃予告のせいだ。
出発してからずっと、周囲を警戒していたせいで精神が消耗している。
ステータス的にはHPもMPも減っていないけど、状態が疲労(中度)になっていた。
フィクレツの特徴的な赤煉瓦の壁が徐々に大きく見えてくると、護衛者や御者、乗客達の表情が崩れ始める。
その時、ずずん、という地鳴りと共に地面が揺れた。
来たか……!
「な、なに……!?」
エストックが目に見えて狼狽している。
まぁ、これまでの状況を考えれば仕方ない反応だよな。
俺は思わずワンハンドを見た。
彼は無言で肩を竦めた。その口元に浮かんだ笑みはなんだよ?
余裕か? 余裕の表れなのか!?
「馬車を止めろ」
尚も伝わってくる音と振動。徐々にそれは近付いて来ているようだった。
俺は御者に鋭く命じた。
すぐに馬車が速度を落とす。
完全に止まる前に俺は馬車から飛び出した。
「おう……」
そしてそれを見て思わず驚愕の呟きを漏らしてしまった。
そこに居たのは青い肌をした一つ目の大鬼。
所謂サイクロプスだ。
近くに生えている大木が、サイクロプスの肩くらいの高さしか無いって事は、あいつ五メートルくらいあるぞ。
なるほど、確かにこいつならワンハンドの自信も理解できる。
LVで言えば『戦士』の60相当。
しかし実際には、余程有用なスキルか強力な装備でもない限り、LV70の『戦士』でも、単独で倒すのは難しいだろう。
大きいというのは、それだけで相当なアドバンテージになるからだ。
まずリーチの長さが圧倒的だし、攻撃が基本的に振り下ろしになるという事は、通常の筋力に加え、位置エネルギーが威力に加算される。
歩くだけで振動と衝撃波が発生し、攻撃を躱しても風圧で吹き飛ばされる事もある。
単眼に対して、遠近感無いから攻撃当たらないんじゃないの? と的外れな指摘をする人がネットの中にはいたが、その指摘こそ的外れだと言わざるを得ない。
単眼でまともに動いているんだから、蛇のピット器官のように、何かしらのセンサーを保有していると考えるべきだ。
そもそも特に回避行動をとらなくても攻撃が当たらない程距離感が狂うんだとすれば、隻眼の人はまともに生活する事ができなくなってしまう。
ちょっと片目を瞑ってみればわかるけど、意外と片目でも問題無く動けるもんだよ。
自転車とか車運転してる時はやめておけよ。
ともかく、圧倒的な体格によるリーチとパワー。そしてタフネス。これがサイクロプスが強い理由だ。
シンプルだけど、それだけに攻略が難しいって訳だな。
サイクロプスが動く事で発生する衝撃波とか風圧はただの物理現象だから、スキルとかで防ぎにくいのもある。
通常は戦闘職LV70越え数人から十数人がかりで、数日かけて討伐するような相手だ。
しかし俺にとっては美味しい敵でしかないんだけどな。
迷宮とか旅の途中で突然襲われたのならともかく、今回のように事前に準備ができているなら何の問題も無い。
チートを舐めてはいけない(戒め)。
魔石で300デュー美味しいです!!
「空を穿つ槍――」
「えっ……!?」
俺の呟きを聞いて、エストックが驚いた声を上げてこちらを見た。
通常、魔法を使う場合には呪文の詠唱が必要になる。
魔法使い系職業を獲得すれば、『高速詠唱』『詠唱省略』『詠唱破棄』といったスキルでこの詠唱を省く事ができる。
しかし俺はまだ魔法使い系の職業を獲得していない。
『サーチ』や『アナライズ』のように元々呪文の詠唱を必要としない魔法以外の場合、俺はステータスの高さにものを言わせて強引に無詠唱で魔法を使用している。
ある程度の魔力と知力がある場合、消費MPの増大と引き換えに、詠唱を破棄、あるいは省略する事ができる。
俺は『常識』に照らし合わせて、知られている魔法は詠唱を省略して使用し、知られていない魔法は詠唱を破棄して使用している。
そういうスキルだと言い張れば大丈夫だからだ。
大体第三階位以降の魔法は知られていないものが多い。
今から使う魔法は第五階位の魔法。
しかしその中でも、唯一存在が確認されている魔法だと言っても過言ではないだろう。
エレノニア王国の東にある、とある小国の王がこの魔法の使い手であるからだ。
彼はこの魔法を使い、数々の迷宮を攻略し、強力な魔物を倒して、建国を果たしたんだ。
転生者じゃないかと、俺は睨んでいるが、どうだろうな。
「――インヴィジブルジャベリン!!」
俺の右手に集まっていた魔力が渦巻き、捻じれるように動いて一本の槍となって射出された。
その名の通り、その魔法は見えなかった。
ただ、周囲の空気がその『槍』に巻き込まれる形で引き摺られていった事で、『槍』が放たれた事を知る事ができる。
その名の通り、見えざる槍の投擲。
圧縮した空気に魔力を纏わせて創るその『槍』は、魔法防御が施された大楯を構えた重装歩兵十人をまとめて貫いたという逸話を持つ。
次の瞬間、サイクロプスの顔面に巨大な『孔』が空く。
そのままゆっくりと、サイクロプスは仰向けに倒れ始める。
ずずん、という重たい音と地響きを残して、サイクロプスは光の粒子となって消えた。
残されたのは、直径が大人一人分ほどもある巨大な魔石。
あー、あれは『マジックボックス』行きだなぁ。まぁ、『リトルマジックボックス』で誤魔化すか。
今更とか言わない。隠せる分は隠す所存。
乗客は歓声を上げているが、御者もエストックもぽかんとしたままサイクロプスが居た辺りを眺めていた。
ワンハンドは、いつの間にか姿を消していた。
『サーチ』で確認できる範囲には既にいない。
逃げたか。
任務失敗で処分されるのを恐れて、国を出ようとしている可能性すらあるな。
まぁ、どうでもいい。
「あとは任せた。俺は着くまで寝る」
魔石を回収し、俺はエストック達にそう言うと馬車へと戻る。
考えてみれば二日寝てない。
ゴブリン軍団を前にした高揚感を、徹夜明けの感覚に似ていると表現したけれど。
まんま徹夜明けだったんだよな。そう言えば。
俺が眠っている間に馬車は何事も無くフィクレツの街に入った。
こうして、長いようで短かった、非常に密度の濃い護衛クエストは終了したのだった。
名前:佐伯琢磨
年齢:28歳(肉体年齢18歳)
性別:♂
種族:人間
役職:異世界からの訪問者
職業:弓使い
状態:疲労(軽度)消沈(軽度)
種族LV16
職業LV:戦士LV8 弓使いLV11 剣戦士LV5 狂戦士LV1 魔導士LV1 自然術士LV1
HP:376→503
MP:397→504
生命力:249→337
魔力:262→330
体力:234→301
筋力:207→275
知力:250→316
器用:237→310
敏捷:202→272
頑強:232→302
魔抵:243→298
幸運:109→115
装備:ショートボウ 革の服 布のズボン 革のブーツ ショートソード 鉄の矢 ブロードソード アイアンメイス 鋼鉄の槍 シミター
保有スキル
神々の祝福 技能八百万 魔導の覇者 異世界の知識 世界の常識
念願の、魔法系職業を、手に入れたぞー。
やっぱ魔法を使った時に種族LVが上がらないと駄目だったみたいだな。
『魔導士』と『自然術士』を同時に獲得しているのは、LVが上がる時に使った魔法、『インヴィジブルジャベリン』がこの二つの職業をある程度修めると使用可能になる真理魔法だったからだ
ちなみに本来、真理魔法を使うために必要な職業は『真理魔道士』だが、これを獲得するには『魔導士』と『自然術士』のLVがそれぞれ30以上必要だ。
フィクレツの冒険者ギルドの前で馬車は停車し、乗客が続々と降りてくる。
俺は御者とエストックと共にその流れを見ていた。
勿論、『アナライズ』で一人ひとりの役職を確認している。
……いた!
ミリネア・エインズ・アーネロブト
役職:アーネロブト公爵令嬢
くすんだ金髪に簡素な服装。どこにでもいる町娘のような外見だけど、明らかに肩書がおかしい人間が一人いた。
特に従者のような人間はいないから、お忍びか、家出か……。
『常識』によると、アーネロブト公爵家は特に何か有名な家という訳ではないようだ。
勿論、公爵なのでそれなりに名門なんだろうけど、良くも悪くも話題になるような家ではないらしい。
となるとお家騒動か? それとも王宮内の政争だろうか。
ワンハンド達の目的は彼女だったのは間違いない。
その理由まではわからないし、知る必要はない。
ただ彼女のせいで、二人の冒険者が命を落とした事だけは、心に留めておいても良いだろう。
ギルドでクエストの報奨金を受け取り、ついでに色々とおかしかった今回の護衛クエストについて事情聴取を受けた。
勿論、公爵令嬢の事は言わなかった。何故知っていたのか? と追及されたら面倒だからだ。
ランスとワンハンドが裏切り者で、襲撃者を手引きしていた事は伝えた。
誰か高貴な人間でも紛れていたんじゃないですかー? みたいな事もさりげなく伝えておいた。
支局とは言え、ギルド長となれば、公爵令嬢の顔くらい知っているだろう。
何か公爵家に対して行動を起こすかもしれないな。
「しかし、それだけの襲撃をどのように回避したんだね」
俺は話す気は無かったんだけど、御者がいつ、どこで、何に襲われたのかを詳細に報告してしまった。
そういう仕事だと言われれば仕方ないんだけど、余計な事しやがって、という思いは拭えない。
ギルド長にギルド奥の応接室に呼ばれ、彼とテーブルを挟んで対面して座らされた。
ギルド長は口髭が威厳を醸し出す、初老の男性だった。
元冒険者らしく、種族LVはそれなりに高いが、衰えは隠せない。
その分人生経験は積んでそうだな。
「悪いが切り札だ。そう簡単には明かせないな」
ギルド長に呼ばれた事で何となく聞かれる事は予想できていたので、前もって考えておいた返答をする。
「だが、高位の魔法を使ったと聞いたが……?」
「悪いが話せないな。正直、今回の騒動で俺のギルドに対する不信感はかなり高まっている。そんな所に自分の情報をホイホイ教えると思うか?」
ちょっと早口になってしまったのは仕方ない。
間を置いたら忘れてしまいそうだし、途中で口を挟まれて、予定外の事を喋らなければならなくなると、途端にボロが出るからな。
「……そうか。まぁ、それなら深くは追及しないでおこう……」
俺の言葉通り、今回の事はギルド側の失態なので、ギルド長も渋々ではあるけど納得してくれた。
その後もギルド長の質問を、「信用できないから話せない」で押し通し、一時間程で解放される。
あー、メンドかった……。
「あの……」
ギルドから出た所で声をかけられた。
振り向くと、エストックが不安そうな表情で立っていた。
「どうした?」
「え、と……その、よければ、ガルツに戻る際の護衛クエストも、一緒にできないかしら……?」
指を太ももの前で組んでモジモジさせ、上目遣いで俺を見てくるエストック。
金髪美少女のその仕草は反則だと思った。
特に、十二年間ヒキコモリで女性に耐性の無い俺への効果は抜群だった。
「あー、いや、俺はこのまま各地を巡るつもりなんだが……」
どうやらエストックは、ガルツとフィクレツの間を走る乗り合い馬車の護衛クエストで生活費を稼いでいるようだった。
『テレポート』でガルツに戻る時はあるけど、基本的に俺はこれから、各地を巡り、神殿で洗礼を受けるつもりだった。
「巡礼者なの?」
「そういう訳じゃないけど、まぁ、後々のために、洗礼だけでも受けておこうと思ってな」
誰かに聞かれたり、うっかり知られたりした時のために、用意しておいた言い訳を披露する。
後々がいつかは言っていないし、洗礼を受けるだけなのは確かだから、嘘は言っていない。
けれどエストックは、俺の思惑通りに、冒険者を引退した後の備えを目的としているのだと誤解してくれた。
「帝国には、行く?」
「え? とりあえず予定にはないけど……」
行きたいなら行ってもいい、と言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。
エストックの表情から、帝国には行かないで欲しがっているのだと判断できたからだ。
「そう。それなら、その旅に同行してもいいかしら?」
エストックは嬉しそうだ。
美少女の無防備な笑顔って、最早凶器だよな。
『サニティ』『サニティ』『サニティ』……。
そんなつもりじゃないとわかっていても、俺の事好きなんじゃないかと勘違いしそうになる。
丁度、そんなイベントをこなした後だしな。
チョロいぜ。ヒキコモリ童貞。
「ああ。別に構わないぜ? ただ、旅で見る事になるだろう、俺の諸々については秘密にしてもらえると助かる」
「ふふ、そうね。伝説の建国王と同じ魔法が使えるなんて、知られる訳にはいかないものね」
なんだろう? 言動の一つ一つに気品というか、高潔さを感じる。
正直、さっきの公爵令嬢よりよっぽど……。
ふと気になって、俺は彼女を『アナライズ』で見てみた。
名前もちゃんと覚えてなかった、というのも理由だ。
名前:モニカ・ヴェレイ・デル・フェレノス
年齢:14歳
性別:♀
種族:人間
役職:フェレノス帝国第三王女
職業:王女
状態:疲労(軽度)空腹(軽度)興奮(軽度)
種族LV15
職業LV:戦士LV9 剣戦士LV4 王女LV20
HP:108/133
MP:122/125
生命力:92
魔力:64
体力:53
筋力:56
知力:92
器用:83
敏捷:78
頑強:51
魔抵:62
幸運:88
装備:夜啼き鶯 堅亀の胸当て 甲殻虫のブーツ 薄紫花糸のグローブ 星の首飾り
保有スキル
剣戦闘 軽業 直感 仁徳 カリスマ 王気 貴人の振る舞い
ダブルピアッシング アクセルショット
「改めて、セニアよ。まだ駆け出しの冒険者だけど、よろしく頼むわね」
………………うそつけ。
タクマが『アナライズ』を使うと凄いのに当たるネタは天丼としてこの後も度々出てきます。
あと、今日は一日二話投稿wになると思います。