第121話:死後の一戦
暗い暗い闇の中を歩いてる。
何故歩いているのかも、どこに向かうのかもわからない。
ただ、その先に向かわなければならないという想いだけで歩いている。
どれだけ歩いたかはわからないが、暗闇の先に小さな光が見えた。
あれが目的の場所だ。
直感でそう判断する。
光を目指して歩みを進める。
急ぎたいが、今歩いているのか早足で歩いているのか、それとも走っているのか。
ただ前に進んでいるという感覚以外、自分の体のことがわからない。
ただただ、光に向かって進む。
徐々に光が大きくなっていく。
近付いているためなのか、実際に大きくなっているのかはわからない。
光が大きくなるとその熱も感じられるようになった。
暖かな光だ。
体が光に包まれる。
視界が真っ白に染まる。
そして俺は、目を覚ました。
背中に感じられる地面の感触。
目に映るのは闇色のベールのようなものに覆われた空。
……『闇の帳』が解除されていないという事は、それほど時間は経っていないんだろうな。
視線を巡らして周囲を見る。
そこに、いた。
俺に背を向けて、恐らくは立花達が去っていった方向を見ている闇の勇者が、そこにいた。
今なら入る。
それまでのパニックが嘘のように、俺の思考はクリアになっていた。
冷静に状況を分析し、最適な行動を取れるようになっていた。
相変わらずスキルは使えない。
けれど、一度死んだことにより、受けていたバッドステータスが全部リセットされたせいだろう。
事前にかけておく事で、一度だけ死を回避する魔法『オーバーロード』。
HPの全回復、バフデバフに関わらず付与されていたステータスの消滅。
そしてMP0で蘇生する、超理魔法の第十階位。
効果時間は24時間。
『闇の帳』はそれまでかかっていたバフも全部除去されていたから、『オーバーロード』もどうなるかわからなかったけど、上手く発動してくれたみたいだな。
ちなみにMPが0になるとMP枯渇状態になって気絶するんだけど、MP最大値が高いおかげで数秒の気絶でも1くらいはMPが回復してくれたのか。
それとも、『闇の帳』でもパッシブスキルは効果を発揮するのか?
もしもそうなら『根性』が発動してる事になるけれど、けれど通常のパッシブスキルと違って、俺の場合はスキルのオンオフができるからなぁ。
まぁ『セルフアナライズ』が使えない現状ではそれを確認する事はできない。
検証はあとでいい。
とにかくソーマ君を倒す。
今は復活したてでバステが消えているけれど、俺の豆腐メンタルの事だ。すぐにまたメンタル由来のバステが大量につくぞ。
俺は素早く起き上がり、ソーマ君に向けて駆け出す。
「!?」
その気配に彼も気付いたが、もう遅い。
――鉤突き――
俺の放った拳がソーマ君の背中を捕える。
相手の背後からの攻撃にはボクシングの反則打撃であるキドニーブローがある。
ただこれは、背中側に存在する腎臓を打つ打撃であり、ただ背後から打っただけだとそうは呼ばれない。
腎臓どこにあるかわからねぇし。
「ぐぅっ!」
痛みに喘ぎ、ソーマ君が体をよじる。
腎臓がどこにあろうと、そもそも当たったかどうかなんて関係ない。
俺の筋力で打撃を放てば、命中した箇所は全て急所になる。
そしてただのフック気味のパンチを敢えて鉤突きと呼称したのなら、ここから繋げる攻撃は決まっている。
鉤突きで体が曲がった事により、落ちた頭に反対側から肘打ち。
両手の近い位置に頭があるので諸手突き。
衝撃で離れた相手に手刀を打ち込み、最後に貫き手で一押し……。
「って、ダメだ。練習なしじゃ繋がらねぇわ」
実際には肘打ちが入った時点でソーマ君は勢いよく地面に倒れ込んでいて、俺の諸手突きは空振っていた。
そもそも諸手突きってちゃんと知らないしな。
「ふうううぅ」
なんとなく息を吸い込みながら、両手を頭の前で交差させ、息を吐きだしながら両手を腰の位置へ移動させる。
その間に空間全体を覆っていた闇のヴェールが剥がされた。
『闇の帳』が解かれたんだろう。『セルフアナライズ』を使って自分を確認する。
『オーバーロード』で蘇生しているのでHPは満タン。
しかしMPは1だった。
やっぱり蘇生から気が付くまでの間にMPが回復してたか。
多分、蘇生と同時にMP枯渇で気絶、そこからMPが回復して覚醒って感じか。
ソーマ君を確認すると、HPは一桁台まで落ちているけれど死んでいないようだ。
いや、これは……。
確認している途中でソーマ君が跳ねるように起き上がり、俺目掛けて闇の神器を振るってきた。
しかし『技能八百万』と『世界の常識』のお陰で、俺の動きは洗練されている。
難なくステータス通りに体を動かし、その攻撃を回避する。
「『死後の一戦』か……」
勇者のスキルにあった奴だ。
HPがゼロになっても戦い続けられるスキルだと思っていたけど、どうやら『オーバーロード』と同じリレイズ系のスキルだったか。
MPを消費しない代わりにHPが微量しか回復しないタイプだな。
いや、数値を見るとこれは、最大値の1%か……?
「次にお前が俺の攻撃を食らうと死ぬぞ」
「そうでしょうね。そして、何故か今のあなたには攻撃が当たる気がしません……」
大量に汗をかきながら神器を構えるソーマ君。
その汗はきっと、体温調節のためのものじゃないんだろうな。
「『闇の帳』が解けたからですか? しかし、スキルのあるなしでここまで変わるものですか……?」
「体を思う通りに動かすスキルがある」
まぁこのくらいなら言ってもいいか。
「戦う前にも言ったが、俺は勇者クラブ自体は必要な組織だと思っている。だから、ここでお前を殺すのは今後の異世界人のためにも良くない」
「だったらここで死んでほしい、なんて願いは聞いてくれないんでしょうね」
「当たり前だ」
「じゃあ仕方ないですね」
それは妥協の言葉だったが、決して諦めの意味は込められていなかった。
ソーマ君は俺に刃を向けたままだ。
仕方ないから見逃します、じゃなくて、死を覚悟して戦いを継続します、って事だな。
もう一度『闇の帳』を展開すれば勝機はあるだろうに、それをしないって事は回数制限があるのか?
それとも展開に時間がかかるのか?
まぁどのみち、即座に使用できるなら、不意打ちで俺を攻撃する前に使ってるはずだ。
「ああ、仕方ないな」
そして俺は『マジックボックス』からMPを回復させるアイテム、魔力回復薬を取り出し、口に含む。
「しまった!」
すぐにそれの正体に気付いて俺との間合いを詰めようとするが、残念、俺の方が速い。
無詠唱で魔法を行使する。
放ったのは相手の動きを封じる『バインド』。
第二階位の低位魔法だ。
俺の魔力があっても、魔力上限が存在する以上、ソーマ君の魔抵なら問題無く抵抗できるはずだった。
しかしソーマ君はその動きを封じられる。
瀕死の状態に陥った事で大量にバステがついて能力値が下がってしまった結果だ。
「くっ……!」
「この程度の魔法にも抵抗できないような状態で無理をするもんじゃない。HPを回復するアイテムを他の勇者に渡しておくから、あとで助けて貰え」
そう言って俺はその場から立ち去る。
本当は『マインドスタン』で気絶させてから、HPを回復してやりたかったけれど、勇者がデフォルトで所持してる『精神抵抗』のスキルがそのへんを無効化してくるからな。
『バインド』で封じたまま相手のHPを回復させる方法がないからな。
HPを回復させるとバステが消えて能力値が戻り、『バインド』を破られてしまう可能性が高い訳だし。
しかしマズイ相手に目をつけられたもんだ。
ユーマ君もそうだけど、あっちは一応言いくるめで戦闘回避が可能なだけまだマシか。
目的がハッキリしているから、説得材料を探すのも容易だしな。
けれどソーマ君は違う。
これからは間違いなく、私怨で俺を追って来るぞ。
この国のドワーフが竜王の鱗を確実に加工できるとは限らないんだよな。
すぐに国を出るべきか。
それともできる限り距離を稼げば時間も稼げるだろうか。
あ、冒険者ギルドの本部にも行かないといけないんだっけ。
どうすっかな。
勇者たちが初心者迷宮の管理を任されてたって事は、冒険者ギルドと懇意にしてる可能性が高いんだよな。
勇者だって事はバラしてなくても、かなり深い関係にあった場合、先に情報が出回っていたらマズイ事になるかもしれない。
うーん、どうすっかなー……。
という訳でオートレイズからの反撃で勝利でした。
そしてまだまだ勇者クラブとの因縁は終わらない感じで次回へ続きます




