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第118話:庇護の勇者 笹島涼子

スキルを封じられたタクマと勇者の戦闘です


スキルが封じられた事で俺は戦闘力が激減した。

戦い方がわからないのもあるが、俺普段は火竜槍を『マジックボックス』の中にしまってるんだよ。

つまり、俺の今の武器はエルフのショートボウとブロードソードのみ。

小鬼の大鉈すら外に出してなかったからな。


「……強い」


多少不格好ながらも次々放たれる鉄棍を避けていると、女勇者はぽつりと呟いた。

『朧月』が使用不可能になった事からも、このスキル無効化の効果は勇者の固有技能ユニークスキルであっても例外じゃないとわかる。

それは当然『致死予測』にも及ぶからな。

突然『闇の帳』の中に飛び込んで来た俺を見る事はできてない訳だ。


相手の力量がわからないままコイツ仕掛けてきたのか……。


勇者としての自分の強さに自信があるのか、それともただの考えなしか……。


「俺は月の神の使徒、ニート=フェディアールだ。その神器、お前は勇者だな……?」


このスキル無効化が『闇の帳』の効果なのか、それとも目の前の勇者のスキルなのかを確認しよう。

それには、彼女の方が反応してくれて助かった。


「庇護の勇者、笹島涼子」


短く名乗ると、女勇者、笹島は俺に向けて鉄棍を投擲する。


庇護の勇者か……。となるとスキル無効化はこいつの能力じゃないのかな?

いや、隷属の首輪が慈愛の神製なのを考えると、有り得ない話じゃない。


あなたは私が守るからスキルなんて使えなくてもいいのよ、みたいな感じで保有してても不思議じゃない。


とは言えその可能性は低いだろうけどな。

スキル無効化が庇護の勇者のスキルなら、笹島の他のスキルも封じられている理由がわからない。


敵味方関係なく範囲に存在する相手のスキルを封じる効果なら、その範囲に入っている庇護の勇者自身はどういう扱いにあるんだろう?

例外じゃないというならスキルを(・・・・)無効化する(・・・・・)スキルも(・・・・)封じられる(・・・・・)筈だ。


俺の名乗りが偽名だと見破れなかった時点で、こいつが『致死予測』を使えないのは確定している。

自分も効果対象に入るけれど、スキル無効化だけは別、という可能性もなくはないが、それよりはこのスキルを使用している勇者は別にいる、と考えた方が自然だ。


だってこのスキル、どう考えても対勇者の切り札だもの。

そのスキルの保有者が、外から飛び込んで来た乱入者の迎撃に出るのはあまりにも迂闊だ。


「今っ!」


とりあえずこれまでの戦いの記憶を頼りに攻撃を回避していると、直感的にそれ(・・)を感じる事ができた。

放たれた鉄棍、それが伸び切ったその時。

今すぐ飛び込めば相手の懐に潜り込めると感じる事ができた。


直感に逆らわずに飛び込む。


「だああぁ!」


あ、ダメだ。

自分でわかる。今俺、すっげぇ大振りでブロードソードを振るおうとしてる。


「甘い」


逆に隙を突かれる結果になった。

笹島は一瞬のうちに手にしていた刃の柄から刃と鉄棍を繋いでいる鎖部分に握りを変える。

手首を返すだけで、刃が俺のがら空きの胸部を直撃する。


「ぐはぁっ!?」


いてぇ! すっげぇいてぇ!


ただ、やっぱりステータス自体は俺の方がはるかに高いせいか、痛いだけで済んだ。

HPが無くならなければ、刃で胸を切り裂かれても死なないこの世界の法則に助けられた形だ。


ただスキルが封じられているとは言え、俺の防御力を抜いてくるあたり、やっぱりこれが相手の神器なんだな。

神器には威力上限(キャップ)が存在しない。


常人の何十倍、何百倍って筋力で振るえば普通は武器の方が壊れる。

神器は壊れる事がないため、勇者の高いステータスをそのまま威力に転化できるんだ。


「硬い……」


勇者のステータスに神器の攻撃力なら殆どのモンスターは一撃だっただろうからな。

生きてるどころかピンピンしてる俺を見て、微かに驚いたような口調で笹島が呟く。


やっぱりうろ覚えの知識じゃまともな戦闘なんてできないな。

その点で言えば、ちゃんと自分で考えて戦ってきただろう勇者の方が戦闘経験としては上か。


今度ミカエルあたりに稽古つけて貰わないといけないな。

偉そうにノーラ達に戦闘訓練とか言ってたのにこれはちょっと恥ずかしいぞ。


「ただまぁ、今ので突破口が開けた」


「無理。ステータスに頼ってるだけの相手には負けない」


ああ、それ異世界転生したら言いたいセリフの一つだなぁ。

スキルがある世界だと、それに頼るから動きが大雑把になるからそこを突いて勝利するってのはテンプレだもんな。


まぁそのテンプレだと俺負ける側なんだけど……。


「試してみれば、わかるさ!」


言って俺は地を蹴り、笹島との距離を詰める。


「!? なにを……!?」


当然、真っすぐ突っ込んでくる俺に向けて笹島が攻撃をするが、それは俺に致命傷を与えない。

ただ痛いだけだ。


覚悟してれば我慢できる程度のものでしかない。


「くっ……!」


悔しそうに呻き、笹島が腰を落とす。

恐らく本気の一撃が来る。


これまでの攻撃は距離を保った状態での戦闘を重視して、大して力入ってなかったからな。

所謂手打ちって奴だ。

体重が乗ってないとか、腰が入ってないとかそういう攻撃だった。


けれど次の一撃は文字通り全力の攻撃だ。

俺の動きが素人レベルなのはさっき見せたからな。

その隙を突いて本気の一撃を叩きこむつもりなんだろう。


「え? あれ……!?」


そんな隙は二度と現れないけどな。

細かい戦闘機動が行えないなら最初から捨ててしまえばいい。


今の俺が笹島より上回っているのは圧倒的なステータスのみ。

ならそれに頼る戦闘をするのは当然だ。


ステータスに頼る相手には負けないと笹島は言ったが、それを理解し、ステータスの高さを活かす戦い方ならどうかな?


高い敏捷と筋力で、相手がまともに反応できない間に距離を詰め。

その速度をそのまま相手にぶつける。


ただの体当たり。

けれど、猛スピードで迫って来たトラックに轢かれて無事で済む筈がない。


「がは……!?」


結局出現する事のない俺の隙を待ち続けて避ける時間すら無くなった笹島は、盛大に吹き飛ばされた。

やっぱ武器を選ばないって点で、俺くらいのステータスがあれば素手の方が強いな。


数十メートル吹き飛び地面に落下。そのまま更に十数メートルごろごろと転がって、ようやく笹島の体はその動きを止めた。


死んでない……よな?


敵対してしまったとは言え、勇者クラブ自体は存在していた方が良い組織なのは間違いないし、襲撃の黒幕だろう闇の勇者はともかく、他の勇者は彼に従ってるだけだろうからな。

できれば殺したくない。


まぁ、手加減できる状況でもないから、殺してしまったらごめんなさいするしかないんだが……。


『常識』のお陰で人を殺した嫌悪感を抱かずに済んだとは言え、今はそのスキルが封じられているし、元の世界の人間を殺すのは初めてだ。

間接的にとは言え、立花のクラスメートを殺しているけど、直接手を下していないってやっぱり大事なんだな。


殺しちゃったかも、ってだけで今結構気分が沈んでるんだぜ。


そういや俺、油断するとすぐにバステがつく豆腐メンタルだった。


サニティサニティサニティ……。


駄目だ、発動しない。

という事はやっぱりスキル無効化は別の勇者のスキルか。

一番可能性が高いのはこの『闇の帳』だな。


「ソーマ君を倒してスキル無効化が切れたら回復させてやるから、できればそれまで死ぬなよ」


気休め程度にそう呟いて、俺は笹島が最初に指さした方向とは逆に向かって走り出す。

普通に考えれば、その先に立花がいるだろうからな。


ステータスの高さでゴリ押し勝利。

次回は闇の勇者と激突です。

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