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第114話:勇者クラブ

お待たせしました。

初心者迷宮を出たのち、交易都市ルクリアにて勇者たちとの会合に臨みます。


初心者迷宮を出て付近で一泊。

レヘトへは向かわずそのまま街道を通ってルタリアへ。

途中で野営二回の道程だ。


「勇者から貰ったメモにあった場所は、ロドニア王国の都市名みたいだな」


「日付はこちらの暦ですか?」


「というより、何日ごとにどこにいるかを書いてあるみたいだ」


「ローテーションで住む場所を変えてるって事ですかね?」


「うーん、違う気がするなぁ」


立花が勇者から渡されたメモには場所と日付が書いてあった。

『常識』で調べれば、場所はロドニアの各都市名だとわかる。

日付は何月何日、みたいな書き方じゃなくて、日にちしか書いてなかった。

しかも数字の間隔がほぼ一定で、徒歩で各都市間を移動できる日数内に納まっていた。


「都市名は書いてあるけど、番地みたいなものはなし……。秘密の会合かな?」


「国にその存在を知られていない勇者、という事を考えるとその可能性は高いかもね」


俺の呟きに、ミカエルが同意する。


「つまり、勇者同士の会合って事? それも国や公的な機関に秘密の?」


「ヤバそうにゃ匂いがプンプンするねぇ」


モニカは顔を顰め、ノーラは唇の端を吊り上げた。


「例えば氷の勇者みたいに、国から良い扱いを受けなかった経験のある勇者が、他の勇者を保護している、って可能性もあるのか」


モニカの亡命を手伝ってくれた氷の勇者、長瀬慎二くんは、本人とモニカの話から、あまり帝国で良い扱いを受けてないらしい事はわかっている。

いい思いはしていたが、国に利用されていた炎の勇者みたいなのもいるしな。


「行ってみようと思いますけど、良いですか?」


「何か手掛かりがつかめるかもしれないからか?」


「はい」


迷っていて俺に判断して欲しい感じじゃない。

むしろ、ここで俺が駄目だと言ったら一人で行ってしまいそうだ。


そうなると、二度と立花とは行動を一緒にする事はなくなるだろうな。


うーん、立花達がこっちにやって来た原因はフェルディアルだと思っているけど、証拠は無いんだよなぁ。

こないだの仕送りの時に聞いてみたけど、違うって言われちゃったし。


神様は嘘を吐けないとかいうルールは特にないからな。

女神に隠し事をされたら、俺にそれを暴く術は無い。


俺が使っているスキルは女神によって強化、改変されてるものだから、それこそ情報の遮断や捏造、改変も女神の思うがままだ。


そういう意味では立花とはここで別れてしまっても問題は無い。

むしろ、トラブルの種が一つ減ったと喜ぶべきだろう。


ただ、ここまで一緒にいて、じゃあ元気でな、ではなんとも味気ない。

それに、彼女が敵に回る可能性を考えると、できる限り近くに置いておきたい。


月の勇者のスキルは色々厄介だからなぁ。


勇者連合(仮)がユーマ君と接触して丸ごと敵に回る可能性もあるし、逆にユーマ君に排除認定されて、立花とユーマ君の二択を迫られるとか勘弁して欲しい。


「危険があるかもしれないからな。分身で行け。本体はこっちに残して、実況してくれると助かる」


「わかりました。勿論、私の判断で話さない事もあるかもしれませんよ?」


「それは仕方ないさ。俺達はあくまで目的と利害が一致しているから行動を共にしているに過ぎないんだから」


「……そうですね」


冗談めかして肩を竦めて見せたが、立花の返事はなんだか含みがあったな。


ぽんぽん、とミカエルに肩を叩かれる。


「なに?」


「いや」


そのやれやれ仕方ないなぁこのボーイは、って顔はなんだよ。


ルクリアの街に到着した時、メモに記された日付の前日だった。

そのため今日は宿を取り、明日立花の分身を一人でうろつかせてみる事にした。


また、念のため街に入る際は、立花とノーラとエレンだけを先に向かわせ、残った俺達は時間差で入るようにする。


ルクリアはロドニア一の交易都市であり、東西南北に計六本の街道が伸びている。

神の揺り籠から注ぎ、ロドニア国内を縦断するように流れるウェルズ大河が街の西側を貫いていて、そこから船が航行するのに十分な広さの水路が街中を縦横無尽に走っている。


「水の街だな」


エレノニアの王都も運河が通っていたけど、ここまで見事な水運網は構築されてなかった。

水路があちこちにあるせいか、なんとなく街中が涼しく感じられた。


「荷運びが基本水路で行われているせいか、人は多いけど落ち着いてる印象があるわね」


流石にモニカは目の付け所が違う。


「これだけの水路を整備するっていうのも、中々できる事じゃないしね」


ミカエルは費やしたコストや労力に感心しているようだった。


「神の揺り籠から注がれている川という事は、魔力を帯びているでしょうから、水路ごと迷宮化する可能性もありますしね」


そう言えば、そんな危険性もあるのか。

神の揺り籠から流れてきているから、水棲系のモンスターや魔物もいそうだよな。


まぁ、そもそもルクリアみたいに水路になってないだけで、運河としてはロドニア王国王都ロードグリアを先に通ってきてるからな。

モンスターとかダンジョン対策をその前に終わってるんだろう。


「さて、先に宿を探そうか。祝福の日じゃないが、結構人通りがあるみたいだからな。良い宿は埋まっちゃうかもしれない」


「宿を決めたあとも街を見て回りますか?」


「え? ああ、そうだな……」


サラが俺の服の裾をつまんでそんな風に聞いて来た。

珍しい事だったので、ちょっと反応が遅れてしまった。


うーん、どういう事だ?

まぁ、街を色々見たいって事なんだろうけれど……。


「そうだな。日が落ちるくらいまでは街を見て回ろうか」


「はい」


冷静を装っているけれど、明らかに嬉しそうな表情で返事をするサラ。

まぁ、一緒にいたいって事でいいんだろうな。

今更俺への好意を疑うような関係でもないしな。


「お魚が多いですね」


という訳で宿を予約したのち、再び俺達は街の散策に繰り出した。


宿は一泊30デューの中々高級なところ。それを二部屋取った。

調度品は俺の目から見ても普通だったけれど、部屋はそれなりに広いし、ベッドも大きかった。


傭兵と冒険者の斡旋が基幹産業の国だけあり、実用性重視なんだろうか。


さて、街の中を見て回ると、サラは屋台、特に食べ物系に食いつきを見せていた。

食べ物だけにな。


「そう言えば、ウチってあんまり魚は食事に出ないわね」


折角なので、魚の練り物を買って全員で食べてみる。

流石に現代日本のそれと比べると味が薄いしパサついているけれど、十分美味しいと思える味だった。


「まぁ、唯一と言える水場はトイレと排水路に利用してるからな」


下流は勿論、上流ですら、そんな水の中で育った生物を食べたくない。

時折どうしても魚を食べたくなった時にルードルイへ『テレポート』で買いに行くけれど、基本はシュブニグラス迷宮に潜ってた人がガルツで買って帰ってくる事になってるからなぁ。


「アジフライ、天ぷら……」


どうやら食欲を刺激されたらしく、サラがそんな言葉を呟く。

そういや練り物を揚げる料理もあったな。あれって普通に油に突っ込むだけでいいんだろうか?


「武具に関してはガルツやサラドとそう大差無いね」


「冒険者の国だからな。スタンダードなもので揃えているんじゃないか?」


「でも、神の揺り籠が近くにあるわけですし、そこで獲れた素材を使った装備なんかあっても良さそうですけれど」


「テテスさんも腕の良いドワーフがこの国には多いって言ってましたもんね」


カタリナとサラの言葉はもっともだった。

大量生産品が並んでいるから、とかかな?


「ウェルズ山脈に近い都市なら変わるかもしれないな。王都のロードグリアとか、鉱山都市のガンディアとか」


「そう言えばここは、交易都市とは言え、エレノニア王国との交易がメインですものね。王国向けの商品を置いていると考えるのが妥当ですわね」


「そういう事だろうな」


ロドニア王国特有のものを運ぶ商人なら、それこそロドニアの西部まで足を伸ばすだろうからな。





立花が受け取った紙に記されていた日付は丁度今日だった。

俺達とは別のルートで宿に入った立花は、本体を俺達の下に残して分身を示された場所へと向かわせる。


魔法の灯りが灯った街灯が立ち並ぶ通りを外れて、薄暗い路地裏へ。


その中でも、一際目立たない(・・・・・)建物が、紙に記されていた場所だった。


「山」


古い木製の扉を三回ノックすると、屋内からそんな声が聞こえて来た。

ベタな合言葉だけど、日本語だ。

これならここの事を知っている人間でないと合言葉を当てる事は難しいな。


「川」


立花が答えると、鍵が外される音がして、わずかに扉が開いた。

それ以上の動きは無かったので、立花は慎重な動きで自らノブを握り、扉を引く。


扉をくぐると、二畳にも満たない狭い部屋に出た。

二人の男が立っており、無言で、更に奥にある扉を指し示す。


『致死予測』と『アナライズ』で確認させるが、どうやら現地の人間みたいだな。

しかし、どちらも二十歳そこそこでありながら種族LVが30を超えており、この世界の人間としては相当強い。


現地の人間で、若くしてこれだけの強さを持っていながら、裏方に徹する事のできる人間は稀だ。

勇者によるパワーレベリングを受けたのなら別だけどな。


奥の部屋は横幅十メートル、奥行きで五メートルは超えており、それなりに広かった。


そこには、風の勇者、大野(おおの)大志(たいし)を含む、五人の男女が集っていた。


風の勇者、大野大志。

鉛の勇者、前山康太。

庇護の勇者、笹島涼子。

勇気の勇者、飯田卓志。


「ようこそ、勇者クラブへ。歓迎するよ、月の勇者」


五人の中心に座った、一人の少年が、笑顔を浮かべて言った。

言葉ほどには歓迎していないとわかる、胡散臭さがある笑顔だ。


その少年の名前は相馬健司。


闇の勇者だった。


いかにも怪しげな勇者たち。

次回は勇者クラブの秘密に迫ります。

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