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第113話:二人の戦い

初心者迷宮での戦い、後半戦です。


十階層のボスを倒して更に奥へと潜る。

発光の色が淡い黄色に変わり、出現するモンスターの種類や危険度に変かがある事を探索する者に伝えてくれる。


「ここから先はレッドキャップをメインモンスターにしつつ、ブラックアニスが同時に出て来るらしいな」


「ゴブリンの亜種の前衛後衛編成か厄介な編成だね」


それだけに基本でもある。

ただ簡単なだけじゃなくて、ダンジョン攻略の様々ないろはを学べるが故の初心者迷宮だ。


「ミカエルの言った通り、レッドキャップは前衛系。ブラックアニスは後衛系だ。特にブラックアニスは魔法を使って来るから、ノーラは気を付けろよ」


「ああ、わかったよ」


「ノーラさん、ではブラックアニスは私が請け負いますので、レッドキャップの抑えをお願いします」


「おう、任せろ」


とは言え、このフロアにも少数ではあるけど冒険者のパーティが存在している。

俺達は『テレポート』で入ってきているし、立花も二人に増えてるからな。

できるだけ見つからないようにしたい。


という訳で最短距離で次のフロアへ繋がる階段を目指す。


その途中でレッドキャップの群れや、レッドキャップとブラックアニスの混合編成などが出現したが、ノーラと立花が手際良く片付けて先へ進む。


そして十五階層。


ボス部屋に出現したのは通常の個体より一回り大きなブラックアニスと、レッドキャップが四体。

そして盾とこん棒で武装したゴブリンが八体だった。


「盾のゴブリンで後衛への突破を防ぎつつ、レッドキャップが攻撃。ブラックアニスで後衛を仕留める編成かな?」


「厄介さが増してるわね」


「ここまで来るような冒険者なら、役割分担ができててバランスの良いパーティが多いだろうからな。総力戦みたいな形になるんだろう」


特殊なスキルや魔法を使って来ないから、純粋な実力勝負ができるというのは有り難いだろうな。

逆に、地力が足りてないと勝つ事が難しい編成でもある訳だ。


「オトメ、数が多い方は任せる!」


「え!?」


「おい!」


叫んで飛び出すノーラに対し、驚きの声を上げる立花と俺。

道中の取り決めだと、立花がブラックアニスの担当だし、取り巻きの雑魚は十階層の時のように俺達が処理するつもりだったからだ。


「先輩、危なそうならお願いします」


それだけ言い残して立花も走り出す。


「でやあああぁ!」


裂帛の気合いと共に地を蹴り、ゴブリンに向かって飛ぶ。

それに反応したゴブリンが盾をノーラに向けて翳した。


「よっ!」


飛び蹴りというより、飛び乗るような形でその盾を踏みつけ、更に奥へと飛ぶノーラ。


ゴブリンとレッドキャップの間から、ブラックアニスの驚いた顔が見えた。


「くらええええぇぇぇぇぇえ!!」


更に空中で縦に回転し、勢いをつけた踵落としがブラックアニスの頭部を捕えた。


「はぁっ!」


思わずノーラの方を見てしまっていたゴブリン達を、立花が神器を振るって薙ぎ倒す。


「無茶苦茶だねぇ」


ミカエルが苦笑いを浮かべて呟いた。


「後衛を先にたたくのはセオリーではありますが……」


戦術自体はカタリナも認めつつも、やはり呆れているようだった。

まぁ、普通は後衛を狙う時は遠距離攻撃だもんな。


着地したノーラは伸びあがるような動きでレッドベアクローを突き上げ、ブラックアニスを切り裂く。

光の粒子となって消滅し、魔石へとその姿を変えた。


「よし、あとは雑魚だけ!」


「はい!」


こうなってしまうとこの編成は立花とノーラにとってただのカモだ。

ゴブリンのステータスと盾でも、ノーラの攻撃なら防げるかもしれないが彼らの目の前にいるのは神器を持った立花。

ステータスを落としているとは言え、神器の一撃なら盾ごとゴブリンを倒してしまえる。


防具を装備していないレッドキャップは、ノーラの攻撃でも受ければほぼ一撃で倒されてしまう。

動きの素早いレッドキャップなら、立花が攻撃する前に動く事ができ、立花も対応せざるを得なかったかもしれないけど、身軽なノーラ相手には通用しない。


それからほどなくして、残ったレッドキャップとゴブリンは全滅した。


「よっし! 次へ行こうぜ、タクマ!」


まだまだノーラは元気一杯だ。

一応二十五階層まで行くのを目標にしているけれど、立花はどうだろう?


「大丈夫です。行けます」


疲労のバッドステータスを受けてるみたいだけど、立花は溌剌とした様子で答えた。

ランナーズハイとかそんな状態なのか?

興奮のバステもついてるしな。


まぁ、危なくなったら止めればいいか。


という訳で十六階層へ。

十六階層は壁や天井が赤く発行している。


「ここからトラップの出現が確認されてるみたいだな。立花……」


「はい、先輩」


俺の呼び掛けの意味を理解しているらしく、立花はすぐに『サーチ』で周辺を確認し始める。

ここまで来ると、冒険者の数が減ったな。

フロアが広い事もあって、ニアミスすらしないですみそうだ。


出現するのは十一階層以降と同じく、レッドキャップがメイン。

しかし、ブラックアニスの他にストーンゴーレムも出現するようになる。


ステータスの高さは勿論だけど、相性の良い武器選びが必要になる編成だ。

特に『斬撃耐性』と『刺突耐性』は、多くの冒険者の武器が剣である事を考えるとかなり厄介な相手だ。

じゃあハンマーなんかの打撃系の武器で、と思っても、『物理攻撃軽減』があるからな。


更に言うとストーンゴーレムは戦士LV16相当の強さを持っているから、種族LVがそれほど離れていないノーラと、彼女のステータスを写し取っている立花ではかなり苦戦するんだが。


「月光槍!」


神器から放たれた青白い光がストーンゴーレムを貫き、魔石へと変えた。


魔法に対する抵抗力は同じLV帯の平均に比べて低いからなぁ。

それでも風や炎に対する耐性を持っているんだが、月魔法に対する耐性は持ってない。


というか、月属性に対する耐性ってあるのか?

少なくとも『常識』には無かったぞ。

光や闇に含まれるんだろうか?

月魔法はあくまで月属性だから、併用は効かないと思うけど……。


ともかく、そんな感じでサクサク進み、トラップも『サーチ』で事前に察知できるので問題無く突破していく。


二十階層のボスはブラックアニスが三体とレッドキャップが八体だった。

武装したゴブリンやストーンゴーレムはいない。

ただ、ステータスが上の階層よりそこそこ強化されている。


八体のレッドキャップに前衛を押さえられている間にブラックアニスから魔法が飛ぶ訳か。

ストーンゴーレムをなんとか倒せる程度のステータスだとこれは厳しいな。


「うおっ!?」


そして出現と同時に魔法を放って来るブラックアニス。

ほう、無詠唱か。『詠唱破棄』ならスキルだから魔法以外でもMPが消費されて長期戦は有利になるけど、どうかな?


足を止めた二人にレッドキャップが殺到する。

それも、ただ距離を詰めて来るだけじゃなく、八体が広がり、二人を囲むように動いていた。


「くっ……!」


繰り出される斬撃を、身を捻って躱し、手首を打って軌道を逸らし、肘を打ち下ろして武器を弾き落とさせたりしながら、ノーラはなんとか回避する。


「レッドキャップは引き受けます! ノーラさんはブラックアニスを!」


「お、おう、けど……」


立花はそう提案するものの、連携の取れた動きで迫るレッドキャップを抜けてブラックアニスを攻撃する事は至難の業だ。

少なくとも、そう見えたし、ノーラもそう感じたんだろう。


「まずは敵の動きを止めます!」


立花は『朧月』を使用して分身する。

分身が増える分だけステータスが下がるが、それはノーラのステータスを写し取って対処。


多少の斬撃を食らいながら、立花達がレッドキャップの動きを止める。

その隙に、ノーラが間を抜け、ブラックアニスへと向かう。


レッドキャップがいた事で止まっていた魔法がノーラに向けて放たれるが、一度勢いがついた彼女は中々捉えきれるもんじゃない。

一直線にブラックアニスへと迫り、レッドベアクローを突き立てた。


一撃で消滅するブラックアニス。

レッドキャップも、立花が神器を振るって一体ずつ確実に倒していく。


ノーラの接近を許したブラックアニスには抵抗する術はなく、あっさりと消滅。

レッドキャップも動きを止められている間に、次々と神器で潰されていき、程無くして全滅した。


「ふぅ、今のは中々(にゃかにゃか)やばかったにゃ」


「けれど、上手く対処できました。ノーラさんの序盤の回避が活きましたね」


汗だくで息も荒い。

『アナライズ』で確認するまでもなく疲労困憊ながら、二人は良い笑顔で手を握り合った。


スポーツで勝利したペアかな?


「で? 次どうする? ボスはストーンゴーレムとブラックアニスとレッドキャップの混成みたいだけど」


「…………」


「…………」


なんだかやり切ったような表情だった二人に尋ねてみると、無言で立花とノーラは顔を見合わせた。


「今回はここまでで……」


「ご迷惑おかけしました」


流石にこれ以上はキツイみたいだな。

こうして初心者迷宮への最初のアタックは幕を閉じた。


またノーラが成長したら連れて来てみるか。


さて、残す問題は例の勇者達だな。


一先ず初心者迷宮の攻略はここで終了となります。

そして次回は乙女と勇者達の接触編。

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