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第109話:ロドニア入国

諸国放浪一国目、ロドニア王国です。


ロドニア王国は、エレノニア王国の西にある大国だ。

国の面積としてはフェレノス帝国の領土割譲前のエレノニア王国とそれほど変わらない。


けれど、すぐ西に神の揺り籠があるせいか、西側の多くは山岳地帯であり、神の揺り籠から漏れ出る魔力のせいか、ダンジョンも多く人が住みにくい土地になっている。

そんな土地に無理矢理農地を作っても、作物がイーティングイーターになるだけだしな。


そんな事情もあってか、基幹産業は傭兵業とダンジョンからの収入。

冒険者ギルドの本部があるのも納得の立地だ。


この間までエレノニア王国と同盟を結んで、帝国の拡張主義に対抗していた。

けれど、その帝国が王国に大敗し、土地を奪われた事で、関係が悪くなっているそうだ。


それは俺達が国境を越えるのに手間取った事からも何となく感じ取れた。


テテスに火竜の全身鎧の修理を頼んだあと、龍王の素材を加工できる職人を探して、とりあえずロドニア王国へ行く事になった。

ルードルイに行く前に話していた通り、全員ついてくるって話になったんだよ。


「それなら関所はきちんと通っておいた方がいいと思うよ」


と提案したのはミカエルだ。


「今色々情勢が不安定だからね。時空の神の使徒なんて目立つ存在が、国境を越えた記録も無いのにいきなり国内で活動してるとなると、ね」


その意見には納得できたので、従う事にした。

神の揺り籠へ行くのなら『テレポート』で飛ぶのも問題無いんだろうけどな。


まぁ、夜にはガルツへ帰るつもりだ。

適当な宿をとって、留守番を置いて家に帰る。

朝にはウォード一家に指示を出して、またロドニアへ戻る。


これを繰り返す。

双方に『ワープゲート』を設置しておけば、ロドニアで問題が起きた時にすぐに伝えられるし、なんなら逃げる事も可能だ。


神の揺り籠だと留守番組の危険度が増すから使わなかった手だな。

あとは、一度家でまったりしちゃうと再出発のやる気が中々出ないからか。


今回は、街の中の宿ならそれほど危険は無いから安心して留守番を置いていけるし。

留守番を残してるから再出発のやる気が出ないなんて事も無い。


自分のためには動けない、っていうと、なんか高潔っぽいけど、結局は理由が無いと動きたくない、っていう怠慢の言い訳なんだよな。


さておき。

ガルツの冒険者ギルドでロドニア国境を越えるための手形を貰い、サラドの冒険者ギルドでも、ミカエルのAランク冒険者としての身分を保証する紹介状を用意して貰った。

冒険者ギルドの本部があるだけあって、ロドニアは冒険者の出入りには緩い。


ギルドの紹介状があるなら尚更だ。


「冒険者が五人、奴隷が三人。奴隷のうち一人も冒険者……か」


そう思っていたのだけど、関所では胡乱な目で見られてしまった。

奴隷を連れている冒険者は多いし、戦闘奴隷が冒険者になっている例も少なくないのに何故だ?

俺以外女性ってのがまずいんだろうか?


「じゃあ一人ずつこの水晶の上に手を翳してくれ」


衛兵が示したのは、淡く輝いている水晶玉だった。

カタリナの領地を買い戻す手続きをした時にも使用された役見石だ。


役職を見るだけの奴だな。犯罪に手を染めてると、盗賊、とか殺人鬼とか出るから、これは神の基準で作ったシステムというより、かなり人間社会に則って判定されてるんだよな。

だって俺に限らず、パーティは全員人殺してるけど(立花はやってない。ノーラはラングノニア時代にどうかな?)、役職は奴隷や冒険者のままだ。

所属している集団から犯罪者だと認識されていないと役職に反映されないんだから。


俺の神の使徒は、まぁ知られても構わない。むしろフェルディアル的にはもっと大々的に知らしめたい感じだろう。

サラ、カタリナ、ミカエルは奴隷だからこれも良し。

モニカとエレンは冒険者なので何も問題無い。

ノーラの巫女は微妙か? まぁ、ラングノニアで人間以外のヒト種族が迫害されてるのは有名だから、そこから逃げて来たって事で大丈夫だろう。

難民問題がどう関わってくるかだな。


あ、立花たちばながマズイ。あいつ月の勇者じゃん。

ネガティブな目立ち方はしないだろうけど、色々面倒になりそうだ。


ちらっと俺が立花を見ると、彼女は無言で頷いた。


うーん、あれはどっちだろう?

わかってます、『湖面の月』でなんとかしますって意味だろうか。

それとも、バレても問題ありませんって意味だろうか。


「し、使徒!?」


役見の先陣を切ったのは俺だ。

最初にインパクトをかまして後の印象を薄くする作戦だ。


「ああ、訳あって時空の神の使徒をしている。時空の神、知ってる?」


「……失礼ながら、存じ上げておりません」


一衛兵の認識なんてそんなもんだよな。

エレノニア王国だとある程度認知度上がってるんだが、まだまだマイナーだな。


「まぁそれに出るから実在してるってのはわかるだろ? そしてアンタみたいな兵士にも知って貰うために色々活動してるのさ」


「な、なるほど……」


「なんなら洗礼も調べるか? 闇の神の陣営に属してないって証明のために幾つか受けてるんだ」


勿論、有効な祝福を集めるためなんだけど、洗礼を受けてるって事自体が有用な身分保障だと今更ながら気付いた。


「そうですね、では後程最寄りの教会に同行して貰いましょう」


そこまでしていただかなくて結構です、的な反応を期待したんだけどな。


一応それ以外には特に問題無かったので、俺は無事通過。

ただし、衛兵の詰め所で待機させられる事になった。


サラ、カタリナも問題無し。

ミカエルはそもそも紹介状があるのでフリーパスだ。

サラドはロドニア王国との交易を一手に担う大都市だからな。

そこの冒険者ギルドの紹介状を信用しないってなると、それは冒険者ギルドそのものへの不信感ととらえられかねない。


ロドニアにおいて冒険者ギルドの権力は、時に王族を凌ぐ、とまで言われてるからな。

衛兵程度なら推して知るべし、だ。


モニカとエレンも無事通過。


「戦巫女……」


「ラングノニアではもう人間以外はまともに生活できにゃいからね。一族を守るために国を出たのさ」


「ではなぜロドニアに?」


「生きていくのには金がいるだろ? 戦巫女に戦う以外の事ができるとでも?」


「うー……ん、あとで冒険者ギルドの本部にも同行して貰います」


衛兵はちらっと俺を見て言った。

教会のあとにギルド本部ね、了解。

多分、ギノ族戦巫女、ってのがなんなのかわかんなかったんだろうな。

戦、ってついてるからある程度ノーラの言葉に納得した感じか。


ちなみに俺もどういう役職なのかわかってない。

戦いの前に神に祈りを捧げ、死した魂を神の元へ還す。替わりに一族の繁栄を願う、とは説明された。

氏族の族長より時に強い権限を有するらしいけど、正直よくわからん。


使徒ほど神の方針に左右されないけど、勇者みたいに特別な力を持ってる訳じゃない、って感じかな。

勇者の役職を得るには、神から加護を貰い、その神から『勇者ヒーロー』に選定して貰わないといけない。

ユリアみたいに、稀に神に選ばれる以外の獲得条件を満たして『勇者ヒーロー』を獲得する場合もあるが、その場合は役職に反映されないからな。

そして一柱の神に勇者は一人、みたいな条件もあるそうだ。


まぁ、でないとこの世界は光の勇者で埋め尽くされちゃうからな。


勿論、今の勇者が死んだり、何らかの理由で『勇者ヒーロー』を失った場合、他に勇者を選定できるそうだが。

とは言え、勇者を使い捨てにする事は神でさえ憚られる。

なんせ彼らが勇者を選定する一番の理由は、その名を広げて自分達を信仰する者を増やすためだ。


自己犠牲で、勇者の死と引き換えに信仰心を得られるなら別だが。

ただ、勇者に与えられる力はその神の力そのものだ。

勇者が神の力を得て、その力を使ってより強く成長した後でないと、勇者を作る度に神は力を失っていく事になる。


だから、勇者を使い捨てにはできない訳だな。


異世界から連れて来られた人間の魂を保護しながら、勇者となるには覚醒条件を満たす必要があるってのも、この辺りが原因だろう。

魂の保護は神の義務だけど、簡単に死んだり、そもそも自分の強さを磨こうとしない奴に力は与えられないって事なんだろうな。


……となると、例のクラス転移、覚醒した奴の共通点が見えて来るな。

委員長である立花、クラスカースト上位の男子、そして、カースト最下位の男子。


良くも悪くも、周囲の人間の注目を集めていた生徒だ。

カースト上位の男子がハブられた理由とか、勇者の元カノだったらしい、カースト上位の女子が覚醒しなかった理由とかまではわかんないけど。


まぁそうした、力と信仰のジレンマを解消する存在が巫女なのかもしれないな。


さて問題の立花だけど……。


「……冒険者か、問題無いな」


どうやら『湖面の月』でモニカかエレンのステータスを写し取ってくれたようだ。

ほっと胸を撫で下ろす。


立花がこの世界に残った理由は、自分を召喚した相手を探して事情を聞く事だからな。

月の勇者だと周囲に喧伝した方が都合が良いのは確かだ。

ましてや、ここは神の揺り籠のすぐ東にある国。


手違いで神の揺り籠の西に召喚してしまったのだとしたら、召喚主がいる可能性が高い場所でもある。


まぁ、俺は一番の容疑者はフェルディアルだと思ってるんだけどな。


しかしもしそうだとすると、立花には不毛な活動をさせている事になるよな。

召喚主を探すのは簡単だ。

いや、その道程が困難極まるかもしれないけれど、召喚主がいるのなら、見つける事はできるだろう。

けれど、召喚主がいない場合は?


それを証明する事はできないってのが悪魔の証明だよな。

いないものを探す事は不可能だ。いる可能性を全て潰していって、何も残らなければ証明って感じだからな。

それにしたっていない可能性が極めて高い、ってだけの話で、完全に証明された訳じゃない。


立花がどこでいないと判断するかが肝要だ。

正直、こいつの性格からすると、可能性がある限り探し続ける気がするんだよな。


かと言って、フェルディアルが犯人ってのも、俺の直感以外に根拠はない。

フェルディアルのこれまでの言動や、勇者のシステムを結び付けて推理したに過ぎない。


立花はそれで納得するか?

納得したとして、その後立花はどうする?


フェルディアルに問い質したとしても、否定されたらそれ以上何もできないぞ。


やっぱり立花が満足するまで探させてやるのが一番なのかね?


年齢が経過して元の世界に戻るのは問題無い的な事も言ってたけど、それがどういう意味なのかも聞いてないからなぁ。


うーん、難しい話だ。

立花を彼女の抱える事情ごと俺のものにしてしまうのが色んな意味で近道ではある。

それなら俺が彼女の問題に介入する理由ができるし、俺も躊躇なく踏み込む事ができる。


けれど、それを立花が望んでいるかってなると……。


「では皆さん、ようこそロドニア王国へ。まずは最寄りの教会……。レヘトの光の神の教会へ行きましょうか」


そして俺達を取り調べたのとは別衛兵が五人やってきた。

前に三人、後ろに三人というフォーメーションで俺達を挟んで歩く。


まぁ、護送だな。


「最初からこれだと先が思いやられるな」


「商人の方々も長い時間止められているようでしたから、余程王国との関係が悪化しているようですわね」


俺の呟きにカタリナが反応する。

よく見てたな、と感心した。


サラドがロドニア王国との交易で発展した街である事からもわかるように、昔からロドニア王国とエレノニア王国の交流は盛んだ。

そのサラドに最も近い関所でこの厳重さ。

物流に悪影響が出るのは間違いない。


そしてそれは、エレノニア王国側だけでなく、ロドニア王国側の経済にも打撃を与える筈なんだ。

にも関わらず商人達を止めてるって事は、それを許容してでも警戒しなければならないものがあるって事だよな。


これは、この国に長居するのはやめた方がいいかもしれないな……。


初っ端から不穏な空気が漂っているロドニア王国。

時期的には知恵の勇者と入れ違いでしょうか。

次回は冒険者ギルド本部での話。

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