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第107話:龍王

声の主との対面です。


サンライトドラゴンが俺達を背に乗せ、彼らを使役していると思しき相手の『宮殿』へと向かって飛ぶ。

魔法を使って高速飛翔をした事はあるけれど、こうして誰かの力を借りて飛ぶのは初めてだな。


眩い光が俺達を包んだあの後、気が付くと俺達はサンライトドラゴンの背中にいた。

籠も無ければ鞍もなく、俺達は地面に立っていた時の姿勢のまま、硬い鱗の上にいた訳だ。

慌てて、寝転ぶようにして、その背にしがみつく。


他の皆も同じように、鱗を掴むような形でサンライトドラゴンにしがみつくと、若干だが飛行速度が上がったような気がした。


やっぱり風がきついし呼吸がしにくい。

かなりの速度が出ているようでしっかりと鱗にしがみついていないと吹き飛ばされてしまいそうだ。

魔法で対処する方法もあるけれど、上手く効果範囲をコントロールしないとサンライトドラゴンも指定範囲に含まれてしまい、相手の高い魔抵によって魔法を無効化されてしまう。

そして高速飛翔をしている自分達だけを対象にするのはひどく難しい。

個人を対象にする魔法で、寒さと風圧になんとか耐えている。


魔法が抵抗されるという事は、サンライトドラゴンが俺達を未だ敵だと見做しているという証拠でもあった。

彼らの上位者曰く、ヒトは下等な生物という事だから、そんな相手を背中に乗せるのは不愉快なのかもしれない。


まぁ、その上位者から俺達を連れて来るよう命じられてる訳だから、もし振り落とされようものなら無事に救出してくれるとは思うが……。


あ、ひょっとしてそれも含めてこいつらに『イタズラ』されてる?


俺達がギリギリ耐えられるような速度でわざと飛んで、それに苦しむ俺達を見て楽しんでいるんじゃないか?

それで使い走り兼乗り物にされた留飲が下がるなら甘んじて受けたいが、やっぱり面白くはないな。


かと言って、何ができる訳でもないんだが。

わざと振り落とされたら、それはそれで面倒だ。


相手は最初は慌てるだろうし、その様子を見ればこちらの胸も空くかもしれない。

けれどその後に待っているのは彼らの嘲笑だろうな。


中学までは勝ち組の側にいただけに、俺のプライドは無駄に高いぞ。

『俺はまだ本気出してないだけ』は割と多くのニートが思っている。

そしてその気持ちはニート歴が長いほど強くなる。


他人に軽くみられるのは嫌だし、耐えられない。

そもそもそれを許容できるなら、俺は高校を中退しなかっただろうし、引きこもりにもなっていなかっただろう。


まぁ、サラ達の事を考えればここで敢えて道化を演じるのもアリだとは思うんだが、けれどどうしても思ってしまう。


そんな俺を見てサラ達に失望されてしまうんじゃないか、と。


勿論、今まで過ごして来て、その可能性が低い事は理解している。

ほぼゼロだと言っても過言じゃないだろう。


けれどだからこそ。


怖い。


ある意味失望される事が確定しているならいっそ開き直れるんだろう。

けれど、まずそんな事は無いとわかっているからこそ、その低い可能性を引き当てた時の事を思うと恐ろしくなる。


そんな訳で俺はサンライトドラゴンの高速飛翔にひたすら耐えていた。

俺のステータスを借りている立花たちばなはともかく、サラやミカエルは大丈夫だろうか?


個人を対象にした対抗用の魔法をかけて抵抗力を底上げしているとは言っても、ステータスがそもそも段違いだからな。

ここで二人がいっそ落ちてくれれば、なんて思ってしまうのは、俺と同等以上のステータスを持つサンライトドラゴン三頭を前にした弱気故かな。


二人が落ちたら間違いなくサンライトドラゴンが救出するだろう。

そして、その後は二人に気を使って速度を緩める筈だ。


その後、サンライトドラゴンから軽んじられるんだろうけれど、その対象が俺でないというだけで多少気が楽だ。

勿論、彼らにとってはサラ達と同じように俺も侮蔑の対象になるんだろうが、自分は落ちていないという事実が、俺の心に棚を作ってくれる。


うーん、いかんな。

弱気のせいか恐怖もあるのか、思考が非常にネガティブだ。

俺に恥をかかせるな、と叱責する事もないだろうし、そんな気持ちを抱く事はないんだろうが。

それでもサラ達の失敗を願うなんて、かなり参っている証拠だぞ。


全員まとめて俺が守る。下等なヒト族だと馬鹿になどさせてたまるものか、という気概を抱くべきだよな。


情けない。




そんな自己嫌悪に陥りつつある俺を乗せて、一時間ほど飛ぶと、サンライトドラゴンは速度を緩めながら旋回を始めた。

どうやら目的地に到着したらしい。


見下ろせば、巨大な洞窟のようなものが見えた。


周囲に立っている木々の大きさからすると、まだかなりの高度を保っている筈だけど、それでもその穴の大きさがわかる。

あれ、相当でかいぞ。


そしてゆっくりと降下したサンライトドラゴンは、着地すると同時に俺達を振り落とさんと体を揺すり始めた。


とっとと降りろ、という事なんだろうな。


振り落とされてもたまらないので、急いでサンライトドラゴンの背中から飛び降りる。


「……ありがとう」


何と声をかけるのが正しいのかわからず、とりあえずそんな言葉が口を突いて出る。

それには応えず、三頭のサンライトドラゴンは洞窟の入口の傍に移動し、待機した。


照れた、なんて頭お花畑な事は思わない。

間違いなく、どうでもいい、と思われているんだろう。


「大丈夫か、お前達?」


とりあえず三人の安否を確認する。まだ『アナライズ』が使えない。


「うん、なんとかね。暫く剣が握れなさそうだけど」


手を握ったり開いたりしながらミカエルが答える。

ずっとしがみついていたせいで、指の感覚がおかしくなっているんだろう。


言われてみれば、俺も指を動かそうとすると違和感を覚える。


「はい、問題ありません。タクマ様が魔法で守ってくださっていましたので」


サラの純粋な好意が今は胸に痛い。

嫌味や皮肉でない事はわかっているのに、飛行中の思考を見透かされていたような気分に陥る。


「私も大丈夫です。ただ、飛ぶのはまだちょっと慣れませんね」


最後に立花は、地面を何度も踏みしめながら応えた。

地に足がついていないような感覚なんだろうな。

俺も最初に魔法で飛行したあと、同じように感じた事があるからわかる。


床が無いタイプのジェットコースターを降りた直後みたいな感じなんだよな、アレ。


「その穴を潜り、こちらへ来るが良い」


頭の中でそんな声が響く。

ここまで来たら是非も無い。

俺が三人を見渡して無言で頷くと、三人も無言で頷いた。


「それでは、邪魔させて貰おう」


一応一言断ってから、俺は洞窟へ向かって歩き出した。


正直、サンライトドラゴンもそうだが、この声の主に対してどういう態度を取るのが正解なのかわからない。


間違いなく俺達より強いから下手に出た方がいいんだろうけれど。

それはそれで何か違う気がする。


俺の無駄なプライドのせいでそう感じるだけかもしれないけれど。


洞窟は岩肌剥きだして、通常の洞窟と表面上は変わりがなかった。

地面や壁、天井が僅かに発光しているのはシュブニグラス迷宮とかと同じ理由だろうな。


しかし、通路が異常に広い。

言ってしまえばドラゴンのサイズに合わせた大きさなんだろうが、ただ『大きい』という事がこれほど異質に映るとは思わなかった。


どんな事象であっても、限度を超えれば異常だと感じてしまうって事だな。


声はあれきり止まっていた。

俺達も、緊張からか無言で歩を進める。


洞窟は一本道なので迷う心配はないし、俺は無言を気まずく思う事はないからいいけど。

俺も含めて周囲に漂うピリピリした空気が若干居心地を悪くしている気がしないでもない。


ここは間違いなく敵地だし、待ち構えているのは俺達よりはっきりと強いとわかる存在。


緊張するなという方が無理だよな。


だからと言って、この空気を変える事を俺はしない。

しないっていうかできない。

それこそ、この空気が俺にとって気まずいわけじゃないからな。

この空気を変える方法がわからないんだよ。


勿論、何をしてもいいって言うんなら可能だよ。

けれど、それはこの洞窟の主にとって快く思われるかって言うと、絶対に違うからな。

気まずさと命の危険を天秤かけたら、どちらに傾くかは言うまでもない。


かつてのスーパー俺を超えるハイパー俺になるためには、こういう場面での有効な会話方法も覚えないといけないんだろうけど、知らない事はどうしようもないからな。

手本があればいいけど、このメンバーじゃ望むべくもないし。

命が懸かって無ければ適当に喋ってみて反応を確かめるって手が使えるんだが。


まぁできない事は仕方ない。

今回はこの緊張感をもったまま、皆には過ごして貰おう。

ひょっとしたら何かスキルが獲得できるかもしれないしな。


それから暫く進むと、巨大な観音開きの扉の前に辿り着く。


「はいってまいれ」


声が聞こえたと思うと、ゆっくりと扉が開き始めた。

自然と喉が鳴る。


扉が開いた先には、大広間があった。

岩肌と地面が剥き出しだったここまでの道中とは違い、綺麗に切り取られた大理石が敷かれた床が、その先が見えないほど遠くまで伸びている。


等間隔に並んだ石柱を見上げると、天井は遥か闇の先だった。

全体的に青く輝いているその光景は、幻想的であり、感情に訴える何かがあった。


「……凄い」


俺が感じたものは、立花のその言葉に集約されていたのだろう。


「そのまま真っ直ぐこちらへ向かって来るが良い」


これまで以上に声がはっきり聞こえた。

この部屋に入ったからだろうな。

距離が近付いたからなのか、この部屋の効果なのかまではわからなけれど。


「よくぞ来た人間よ。我がこの龍の山の王、オーロロヴァインである」


そこにいたのは巨大な龍だった。

というか、殆ど顔しか見えない程に巨大なので、顔の形だけで龍だと判断したに過ぎないんだけど。


西洋のドラゴンより東洋の龍に近い感じだ。

俺達全員が余裕で通れそうな程巨大な鼻の穴の近くからは、巨大な髭が生えていて、うねうねと動いている。


部屋全体が微かに発光しているお陰で顔だけでなく体がちゃんとあるのもわかるが、百メートルは離れているのに全体像が全く見えない。

顔だけでサンライトドラゴンよりでかいもんなぁ。


黄金に輝く瞳がこちらを見る。

これだけデカイとちょっと目と認識するのも難しいな。

自分の姿が鮮明に映ってる事もあって、鏡のように思えてしまう。


「改めて、タクマだ」


相手の巨大さに気圧されていつまでも呆けている訳にはいかない。

俺は一歩前に出て、頭を下げながら名を名乗る。


神の使徒、という事は黙っておくことにした。

まだこの龍王の立場がわかってないからな。ヘタな事は言わない方がいいだろう。


「タクマ様の一の奴隷、サラです」


俺と同じく前には出つつも、俺よりは後ろの位置でサラが名乗る。

おお、サラが丁寧語を使っている。

自己紹介にちょっとひっかかるところはあるが、しっかり挨拶できたので今回は不問としよう。


「同じく、タクマ様の奴隷、ミカエルです」


サラに続いてミカエルが名乗る。

まぁ、そりゃお前も奴隷だけどさ。『様』呼びなのはなんでだ? 奴隷という立場を強調したかったからか?

こっちの世界だと謙譲語に該当する言葉使いはあっても、自分の主人や上司を紹介する時に呼び捨てにする習慣はないからな。

調子に乗って悪ふざけしているだけの可能性も否めないけど、ミカエルの場合……。


「冒険者をしております、オトメと申します」


そして無難な自己紹介をする立花。


「ふむ……」


俺達の自己紹介を受けて、龍王の瞳が動く。

どうやら俺達一人一人を確認しているらしい。


そして再び瞳の中心に俺が映った。


「下等生物の名と顔など一々覚えてられん。時間を無駄にせず本題に入ろう」


ある意味予想通りの反応に俺は苦笑する。

ミカエルと立花は無反応。

サラだけが不穏なオーラを放っているが、ここで噛みつかないだけの分別はついてるみたいだ。


口が動いてないのに声が聞こえるって事は、これやっぱりテレパシー的な何かなんだろうな。


「今より暫し昔に、我が眷属が下界へと連れ去られた」


「眷属?」


「うむ、其方らが呼ぶところのサンライトドラゴンだ」


あれ、嫌な予感がするぞ。


「この龍の山より自立した者達であるので、本来ならば我が関わる事ではないのだが、一度に三体ともなると放ってはおけぬ」


あー、ビンゴだ、これ。

ユリアンの事だろ。あの俺の不肖の妹。

いや、向こうからすれば俺の方が不詳の兄なんだろうけど。


「これを取り返して貰いたいのだ」


「もしも、眷属自身が戻る事を拒絶した場合は?」


「そのような事は有り得ぬ」


言い切ったよ。目撃者の話だと、完全に従属してたそうだからな。

何か魔法やスキルを使っているのか、それとも心底から心酔しているのかは知らないけれど。

どちらにせよ説得するのは骨が折れるぞ。


実力行使なんてできる訳ないし。


「それを何故俺達に頼む? 他の眷属を使って取り戻させれば良いんじゃないのか?」


「我と我の眷属は盟約によりこの地から動く事叶わぬ」


ドラゴン全部がこいつの眷属って訳じゃないのかな?


「盟約って、誰との?」


「下等生物が知る必要のない御方だ」


その言い方は、勇者的な存在によって封じられてるとかじゃないっぽいな。

明かな上位者によって行動を制限されている感じか。


「我がこの地より動けば、彼の方との盟約を破るばかりでなく、彼の方の御心を傷つけてしまう。慈悲深き彼の方を裏切ることなどできぬ」


どこかの神の使徒なんだろうか?

山の神はいるけど、龍の神っていたっけ?


「以来の内容は理解した。それで、報酬は?」


「ほう……」


俺がそう切り出すと、龍王の瞳が若干細められた。

サラ達が、驚いたような表情で俺を見る。


「俺は一応冒険者だ。依頼をするならそれに見合った報酬が必要だ。受けるかどうかはそれ次第さ」


「強欲は己が身を滅ぼすぞ。下等生物如きが我に対価を要求するか。無事に山を降りる事が報酬だと理解せよ」


「俺達を殺したらお前の眷属は二度と戻らないぞ」


「む……」


「この山に足を踏み入れる人間がそもそもごく少数。その上で、このダンジョンまで来る奴がどのくらいいるかな?」


「……其方を無残に殺し、他の者に警告するという方法がある」


「俺が死ぬとこっちの二人も同じく死ぬ。あの首輪にはそういう魔法がかかっている。立花だけじゃ眷属を取り戻すのは不可能だろうな」


勿論、『隷属の首輪』にそんな効果はない。

第一、俺が死んだら彼女達は奴隷から解放されるようになってるからな。

ミカエルだけは、サラ、カタリナと所有権が移るけれど。


だから立花、そんな不穏な目つきで俺を見ないでくれないか?


「……確かに、慈愛の神による強力な契約が為された魔道具のようだ」


あ、そういうのわかるのか。

まぁ、一部の魔法を使用不能にする事ができるんだから、魔法を感知、分析できても不思議じゃないか。


細かくわからなくて良かったな。

まぁ、俺が死んだらサラとミカエルも死ぬってのはあながち間違ってない。


二人は確実に、この龍王に戦いを挑むからだ。


自惚れでもなんでもなく、二人は俺のために死ぬだろう。

贅沢な悩みだが、やはり愛が重いぜ。


「小賢しい下等生物め」


言葉と同時に、耳を塞ぎたくなるような不快な轟音が空間内に響き渡った。

どうやら歯ぎしりをしたらしい。


「愚かにも我を脅そうとは。だが、眷属が戻ったならばその身が引き裂かれると知れ」


「それは怖い。なら、眷属を取り戻したなら、俺達を無事に下山させるって契約か、報酬を前払いして貰うかどっちか約束して貰おうか」


「なんだと……!?」


「まさか下等生物との契約なんて破ってもいいなんて思ってないよな? そんな事をしたらお前が大事にしてる彼の方との盟約が軽くなっちまうぜ?」


「…………」


顔中に血管が浮き上がっている。

おー、怒ってる怒ってる。


俺は冷静にその様子を観察しているが、三人は気が気でないらしく、俺と龍王を交互に見ながらどうしようかと困惑していた。


その時、ばきん、と何か硬いものが折れる音が聞こえた。

つーか随分でかかったな、今の。柱でも折れたかと思ったぞ。


仄暗い空間の向こうから、巨大な何かが飛来し、俺達の前に落ちた。

え? なんだこれ? 形としては鱗っぽいけど……。

あ、まさか……。


「我の鱗だ。それを持って失せるが良い。だが、眷属が戻らぬその時は、ドラゴンが人の空を覆いつくす事となるぞ」


「よし、これで依頼成立だ。早速で悪いが、魔法の封印を解除するか、俺達を下山させるかして貰えるか?」


「疾く、去ね」


龍王が吐き捨てるように言うと、俺達の足元に魔方陣が出現した。

サンライトドラゴンの背中に転移させられたものとは模様が違う。

そんな事を考えていると、目の前が眩い光に包まれ、視界が真っ白になった。




光が収まったので目を開くと、俺達は山の中にいた。

『マップ』と『サーチ』の魔法で確認すると、ドラゴンズピークとの境界線上らしい。


「ふぅ、なんとかなったか」


言いながら、俺は傍に転がっている巨大な鱗を『マジックボックス』に収容する。

竜鱗も相当な価値があるけれど、龍王の鱗となるとどうだろうな。

まず価値がわかる人間が居ないと思うから、素直に加工するべきか。


腕の良い鍛冶師を探す理由が増えたな。テテスが加工してくれると楽でいいんだが。


「もう、ひやひやしたよ」


大きな溜め息を吐きつつミカエルが言った。


「本当ですよ、あんな挑発をして。眷属とやらを取り戻す事を諦めて、私達を殺そうとか考えたらどうするつもりだったんですか!?」


「いや、フェルディアルがなんとかしてくれるだろうと思ってたから」


あの女神の目的を考えれば、順調に信者を増やしている使徒を見殺しにはしない筈だからな。


「仮にフェルディアルが助けてくれなかったとしても、あの龍王が怒りに我を忘れる可能性は低いと思ってたよ」


「……一応根拠を聞かせていただけますか?」


「あいつの言うところの下等生物にちょっと挑発されたくらいで怒りに任せて殺す程度の話なら、そもそも俺達を呼び出して依頼しようとは思わないだろ?」


「うーん、納得できるような、できないような……」


まぁ、ギャンブルだった事は確かだ。

勝率が高いとは思っていたけど、確実じゃなかったからな。


「ひょっとしてこれまでもこんな感じだったんですか?」


「いや、こんな事をしなくていいように立ち回ってた」


そういう意味では、油断していたのは間違いない。

何かあっても『テレポート』などですぐに逃げられるだろう、と慢心していたんだ。


「ボクに決闘を挑まれたり、カタリナ君の問題だったり、割とそういう場面に巻き込まれてないかい?」


「…………」


言われてみたらそうかもしれないな。

炎の勇者だって、あいつが多少でも自分と同等か、それ以上の相手と戦った経験があったら、あそこまで楽に勝てたとは思えないし。

そういう意味では、氷の勇者の時もそうか。


そもそも、ユリアンが俺の妹だったのが相当な幸運だからなぁ。


「まぁ、今後は気を付けるよ。お前達を不幸な目に遭わせたくないし、お前達を悲しませたくもないからな」


「サラ君、どうもボク達が奴隷だからと彼に頼るばかりの時代は終わったようだよ」


「そうね。私達がしっかりしないと、タクマ様はきっとまた無茶をするわ」


信用ねぇな。


「それで? 依頼はどうするんだい? サンライトドラゴン、それも三体なんてどうやって取り戻すのさ? あれ多分、今噂になってるゴブリンの王が連れてたやつの話だよね?」


おっとミカエルも気付いてたか。


「どうもしない」


「え?」


「ミカエルの言う通り、今の俺達じゃどうしようもない。下手に藪をつついて蛇を出す必要もない」


「ええ!? でも依頼は受けちゃったじゃないか!?」


「冒険者ギルドで受けた依頼でもないから、失敗しても問題無いし」


「しかし、放置していてはあのドラゴンが言っていたような事態が起こるのでは?」


人の空をドラゴンが覆うって奴ね。

多分、大量のドラゴン放って人間殺すぞ、って意味なんだろうけど。


「でも、期限は切られてないぜ?」


「え?」


「サンライトドラゴンが出現したのはもう半年も前だ。普通に考えれば、ゴブリンの王がそいつらを従えたのはもっと前だろう? なのに今更依頼してきた」


「それは、これまでは依頼する相手がいなかったからじゃないのかい?」


「だったらとっととドラゴン飛ばしてヒトに報復すれば良かったんだ」


「優先度が低いという事ですか?」


立花は俺の説明から結論を推測するが、まだ甘いな。


「時間の感覚が俺達とは違うってのが正解だろう」


それこそ優先順位が低いなら、俺が挑発した時点で俺を殺していた筈だし、先にも述べたように、近くまで来たからと言って、下等生物に依頼なんてしない。


「あいつらの感覚だと、サンライトドラゴンが拉致されてから、まだそんなに経ってないんだよ」


「つまり、例えばできるだけ早く、と催促されたとしても、一年、二年の猶予があると?」


「まぁそういう事だな」


推測に過ぎないと言われればその通りだけど、実際今は手が無いからなぁ。

一度ユリアンに話してみるのはアリだけど、断られたらそれこそ実力行使しかなくなる。


それをするには、まだ俺の力が足りない。


「ともかく今は何もできないし、何もしなくて大丈夫だ。サンライトドラゴンを説得できるよう、力を蓄えるべき時間だよ。急がば回れって言うだろ?」


言ってウィンクを飛ばすが、反応は芳しくない。


まぁ、厄介ごとを抱え込んだのは確かだ。

時間はあるかもしれないし、意外とないかもしれない。

それは誰にもわからない。龍王の気分一つだ。


案外、俺に依頼した事忘れてしまうかもしれないしな。


もしもこれもフェルディアルによる、信者を増やすためのイベントなのだとしたら、ちょっと難易度上がり過ぎだ。

今度の仕送りの時に文句言ってやる。


という訳でかなり厄介な依頼を引き受けてしまったタクマでした。

本人も言っている通りある程度放置可能な依頼ですが。

次回、閑話を挟んで新章に突入します。

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