第106話:火竜
サブタイで激しくネタバレです。
適当な所に拠点を作って野宿をする。
火の明るさは仕方ないけれど、匂いは漏れないようにセンサー兼任の『センスアトモスフィア』を張った。
竈を作って夕食の準備。
野菜スープの白パン。そして、牙竜の肉を焼き始める。
「先輩、それ……」
指摘した立花はあまり良い表情をしていない。
サラ達には猪肉を焼いてスープに入れてやったけど、牙竜の肉は俺用だ。
まぁ、言ってしまえば『捕食者』用だな。
地竜や剣竜も食べたいが、こちらはなんとなくちゃんと調理してからにしたい。
3キロ程の肉塊に切り分け、皮と鱗を剥ぎ、火竜槍に突き刺して焼く。その形はあの肉っぽい。
世の中のオタク憧れのあの肉だ。
「俺のスキル用だから気にしないでいいぞ」
「ああ、『捕食者』ですか……」
俺の職業やスキルに関しては説明してあるので、立花はそれだけで察したようだ。
基本的に肉食獣の肉はあまり美味くないらしい。
けどワニは美味いらしいし、こいつはどうなんだろうか。
スキルの『捕食』は食べられそうだ、と思えるだけで、別に美味く感じるような効果はないからな。
いい感じに焼けて来ると、辺りに濃厚な肉の香りが漂い始める。
肉食獣であるサラは勿論、ミカエルや立花までも鼻をヒクつかせ、喉を鳴らし始めた。
「ふむ……」
ほど良く焼けたのを『アナライズ』で確認し、火から離して齧りつく。
筋張っていて非常に硬い。
味は殆どしなくてパサついている。
肉汁は生臭く、濃厚で喉が呑み込むのを拒否するのがわかった。
有体に言って不味い。
塩を振ってもう一口。
多少はマシになったが、やはり不味い。
野菜スープを一口含んで口直し。
「もっとちゃんと下拵えをしないと駄目かもな」
「そんなに不味いんですか?」
「食べてみるか?」
目を輝かせて尋ねるサラに、俺は火竜槍を手渡した。
一瞬躊躇ったあと、一口齧る。
「…………」
寄る眉根がサラの感想を雄弁に語っていた。
モグモグと咀嚼しながら、無言で槍を返すサラ。
「ボクもいいかい?」
「あ、じゃあ次私も」
人は何故、不味いとわかっているものを食べて見たくなるんだろう。
好奇心猫を殺すって異世界でも通用するんだな。
結果として、二人の口にも合わなかったようだ。
立花などはうがいまでしている。
俺はとりあえず調理した分は、マヨネーズや真珠脂などで味を変えつつ食べ切った。
そののち、再び牙竜の肉を取り出す。
ギョっとするサラ達。食べねぇよ。
普通にもう腹いっぱいだし。
牙竜の生肉:体力2上昇。生命力1.2上昇。筋力1上昇。頑強1上昇。敏捷2上昇
まぁまぁだな。
野生の獣より魔物の肉の方が上昇値が高いのはまぁ当然か。牙竜が強いってのもあるかもな。
けど、この肉を食い続けるってのはかなり厳しいな。
量を減らすと上昇値も減るし、どうしよっか。
ユーマ君やユリアに対抗するにはこの『捕食』による底上げは必須なんだけど、そんな時が来るかね?
いや、来ないとも限らない以上対策しておかないとなんだけどさ。
来ないように立ち回る方が幾分現実的だよな。
まぁ、地竜や剣竜も食べてから考えよう。
ひょっとしたらこいつら美味いかもしれないし。
夕食後は二人ずつ交代して見張りながら就寝。
俺の見張り番の時には、念のために『アナライズ』と『セルフアナライズ』で全員の状態を確認した。
食中毒を引き起こすような菌がいないとも限らないからな。
幸いにも健康に問題が生じる事無く、俺達は朝を迎えた。
朝日が昇り始めた頃に朝食を摂り、素早く支度をしてその場を発つ。
殲滅したから大丈夫だとは思うが、また牙竜と剣竜の群れに襲われても面倒だからな。
そして暫く歩き、昼食を摂り終えた頃、俺達の頭上を一頭のドラゴンが周遊し始めた。
逆行で色がわからん。『アナライズ』を使ってみても、有効射程の範囲外なのか、表示されない。
「さて、どうする?」
「襲って来ないなら無視しても良いと思いますけど……」
「けれど、タクマ様の目的を考えますと、火竜の可能性が捨てきれない以上、倒すべきでは?」
立花とサラの意見が食い違う。
「言われてみればそうですね。倒しましょう」
サラが立花を見るが、立花はあっさりと意見を翻した。
サラは自分の意見が通った筈なのに、なんだか不満そうだ。
あれ? なんだろう。なんか胃が痛いぞ。
やっぱり牙竜には何かしらの菌か寄生虫がいたのか?
「そ、それじゃタクマ君。弓か魔法で攻撃してさっさと倒してしまおうよ」
「あ、ああ、そうだな」
何かを察したらしいミカエル慌てた様子で声を上げる。
俺もそれに乗るべく、両手に魔力を集中させて、空に向かって『インヴィジヴルジャベリン』を放った。
不可視の槍が命中したらしく、影が一瞬揺らいだ。
そして翼を畳んでこちらに向かって落ち来る。否、急降下して来た。
赤い! 火竜か!?
「火竜だ!」
思わず俺は叫んだ。『アナライズ』でしっかりと確認する。
「『フリーザーストーム』!」
速度を落とさず突っ込んで来る赤い竜に向けて、氷の魔法を放つ。
第六階位の自然魔法。無数の氷の粒が螺旋の軌道を描いて真っ直ぐに飛ぶ。
「GUOOOOO!」
しかし命中する直前、火竜がその口から業火を吐き出し、氷の竜巻にぶつけた。
轟音と衝撃波、そして水蒸気が発生し、周囲を濃い霧が包む。
「やっべ!」
分散していた訳じゃないけど、密集していた訳でもない。
視界が奪われたこの状態だと互いに連携するのが難しい。ああ、『テレパス』かけるの忘れて……
「うぐぅ!?」
突然の衝撃。胸と腹に激痛が走ったと思ったら、背中から地面に叩きつけられる。
そのまま押さえつけられ、動けなくなる。
あ、これはまずい……!
どうも急降下からの蹴りをくらって、そのまま押さえられているみたいだ。
「タクマ様! タクマ様、ご無事ですか!?」
霧の向こうからサラの呼ぶ声が聞こえる。
俺の方がステータスが圧倒的に高いので、すぐに踏みつぶされるような事はない。
とは言え、普通に痛ぇ。
あと、このまま圧迫され続けるとこちらの防御力が下がって行って、火竜の攻撃が通るようになる。
そうすると踏みつぶされて、内臓がやばい事になるな。多分、HP一撃で全部もっていかれるだろう。
一応オートレイズの魔法はかけてあるけど、MPと引き換えだから、復活したあと何もできなくなるんだよな。
大丈夫だ、と応えようとしたが、胸を圧迫されているせいか声が出ない。
これはいよいよヤバイ。
無詠唱で『ウィンドウォール』を発動させてまずは水蒸気の霧を吹き飛ばす。
「た、タクマ様!」
そして俺の姿を見たサラが驚愕と共に叫んだ。
声は出ないので、腕を振って大丈夫、とジェスチャーで示す。
あれ? サラさんなんか余計怒ってるような……。
髪が逆立ち、目が吊り上がり、一度頭に上がった血が急激に下がったらしく、白い肌が更に白くなっている。
「うああああああああああああぁぁぁぁぁああ!」
ああ、俺が大丈夫っての伝わってないわ。
まぁ、実際大丈夫じゃないし、俺の為に怒ってくれるってのは嬉しいもんでもあるけどさ。
けどその突撃はちょっと無謀だと思うぞ。
「GUUUUuuuuuuuAAAAAaaaaaA!!」
そんなサラを認めて、火竜が天に向かって大きく吠えた。
鳴き声の大きさ以外の理由で体にびりびりと電流が走る感覚。
この手の奴らが当たり前のように持ってるバインドシャウトだ。
そして俺の見ている前でサラが盛大に転び、地面に突っ伏す。あ、シャウト効いたな。
「サラ君!」
そしてこちらはサラとは別方向から、静かに火竜に忍び寄っていたミカエル。
サラを見て思わず叫んだのは、彼女がこけたからだけじゃないだろう。
火竜は大きく息を吸い込み、口を開いた。
こちらからは見えないが、その口腔内は赤く光っているに違いない。
ブレスが放たれる直前だ。そして、狙いの先にはサラがいる。
「サラさん!」
飛ぶような勢いで駆けこんで来た立花がサラを抱えてその場から離脱しようとする。
いや、あれじゃ間に合わない!
俺の頭上から轟音と高熱。直後に放たれる火炎放射。
立花も間に合わないと悟ったのか、サラを力任せに放り投げた。
炎に巻かれる立花。サラはすんでのところで効果範囲から逃れられたようだ。よかった。
「オトメ!」
自分を庇って犠牲になった立花の名をサラが呼ぶ。
その声は悲壮感に満ちていた。安心させてやりたいが、俺は声が出せない。
ふと横を見ると、俺を押さえつける火竜の後ろ足めがけて神器を振りかぶっている立花の姿。
最初から『朧月』による分身だった訳だ。
「感覚を共有しているので、痛みも熱さも感じてますけど、ね!!」
文字通り身を焼かれる苦痛を受けても、叫ぶところか身じろぎ一つしないこいつの精神力はどうなってるんだろうな?
横薙ぎに振るわれた月の錫杖が火竜の足を直撃する。
金属同士がかちあう音が響くと、火竜の巨体が、足を払われた形で傾いた。
拘束が緩んだ!
すぐさま転がって脱出。
「すまん、助かった」
「いえ、先輩って無敵って訳じゃなかったんですね」
「ちょっとステータスが高いだけの、この世界に慣れた元高校生だからな!」
若干俺は見栄を張った。
高校生だった時期はあるので間違いじゃない。
ただ高校生でなくなってから、異世界に転移するまでちょっと期間が空いただけだ。
ほんの干支一周分くらいな。
「た、タクマ様! ご無事ですか!?」
「ああ、大丈夫だから落ち着け! 俺が魔法でこいつの頭を抑える! ミカエルは尻尾、サラは翼! 立花は頭部を集中攻撃! サラとミカエルは『エンゲージリンク』の使用を許可する!」
「お任せください!」
「わかったよ!」
「はい!」
三者三様の返事をして、それぞれ駆け出す。
さて、俺は俺の仕事をしないとな。
転倒した火竜の上から『インヴィジヴルジャベリン』をはじめt、複数の魔法を発動させ、背中と足へ集中攻撃。
せっかく転ばせたんだから、起きられると面倒だ。
「GUUUUU!!」
痛みに喘ぎ、暴れ始める火竜。
5メートルを超える巨体がのたうち回るのは凄い迫力だな。
その適当に動かした手足と尻尾に当たっただけでも被害は甚大だし、風圧だけでも吹き飛ばされかねない。
しかし鈍い音がしたかと思うと、火竜の動きが止まった。
立花が錫杖を火竜の頭に振り下ろしたからだ。
「GYUUUUUU……」
「唸れ! 『鈍喰!』」
ミカエルが尻尾に向けて宝剣を叩きつける。
「GYUAAAA!?」
その痛みに体を頭を上げ、体を突っ張らせる火竜。
流石に一撃では尻尾を切り落とせないみたいだが、ミカエルが剣を振るうたびに鱗の破片が周囲に飛び散っていた。
「でやあぁぁぁぁぁああ!!」
一方でサラは地面に落ちた翼目がけてひたすら槍を繰り出している。
多分、火竜が飛ぶのは翼によるものじゃなくて、魔法かスキルだろうから、翼をズタズタにしたり、骨を砕いたりしても意味無いとは思うけど、どうだろう?
翼が引き千切られると、魔法ならともかくスキルは使用不能になるんじゃないだろうか?
そんな考えもあってサラに翼を任せた訳だけど……。
「よくも、よくもよくも、よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも!!」
間断無く突きを繰り出しながら、そう叫び続けるサラがちょっと怖い。
一秒間に十回『よくも』と言うなんて楽勝みたいな雰囲気だ。
俺の為に怒ってくれるのは、嬉しい……よ?
ホントダヨ。
「GUGYUU……」
そして二発目の立花の振り下ろし。
まだ耐えるか。流石の生命力だな……。
しかし流石の火竜も、俺の『筋力』に威力上限無視で放たれた攻撃を三度も耐える事はできず、息絶えたのだった。
「ほ、本当に大丈夫ですか!?」
俺が火竜を『マジックボックス』にしまうと、慌ててサラが駆け寄ってきてすがりついた。
「ああ、大丈夫だから。心配かけてすまなかったな」
そのサラを優しく抱き止め、頭を撫でてやりながら、できる限り優しい声色で諭す。
「よかった……。本当によかったです……」
そのまま俺の胸に顔を埋めた。肩が震えている。
「ミカエルも、心配かけたな」
片方の手を背中に回し、もう片方の手で頭を抱きかかえるようにしながら、俺はミカエルにもそう声をかける。
「心配はしてなかったよ。ちょっと慌てただけさ」
言って肩を竦めるミカエルだが、『恐慌』と『困惑』のバッドステータスが彼女の内面を物語っていた。
なんとなく、魔法で取り除くのは躊躇われ、俺もミカエルに苦笑いを返す。
「立花こそ大丈夫か? 派手に焼かれていたみたいだけど……」
「死ぬほどではなかったので大丈夫ですよ。私自身も、『朧月』も」
立花のステータスがあれば、ブレスで即死する事もないのか。
それでも痛みと熱さは本物だからな。それも、普通の人間ならあっさりと死ぬほどのやつだ。
いくらステータスが高くても、勇者の多くは少し前までただの一般人だった奴らだ。
その苦痛を味わってなお、正気を保てる人間が果たしてどれだけいるだろうか。
それに耐えうる精神力を持っている人間が勇者に選ばれるのか。
それとも立花が特別なのか。
後者の方がいいな。前者だと、他の勇者が脅威になるから。
「それで先輩、これで一応目的は達成ですか?」
「ああ、そうだな。素材は確保したから、あとは俺が『鍛冶師』を獲得するか、腕の良い鍛冶を探すか……」
「火竜の鎧を修復できる程腕の立つ鍛冶師なんてボクでさえ知らないよ?」
俺も将来的な事を考えて、それとなく情報を集めてみたんだが、ミカエルの言う通りだった。
そもそもこの火竜の全身鎧、誰かが仕立てたんじゃなくて、ダンジョン内の宝箱から手に入れたんじゃないだろうか?
そう思えるくらいには、情報がまるで出て来なかったんだ。
「鍛冶に長けた種族と言えばドワーフだけど、腕の良いドワーフは、大体国か貴族が抱えてしまっているからね。エレノニア王国内部で探せば出て来るかもしれないけど……」
「お前に迷惑がかかりそうだから、それはやらない」
「……ありがとう」
うん、照れるミカエルは普通に可愛い。
「探すとなるとフリーの鍛冶師か。職人気質で権力を嫌いそうだから、在野にいそうではあるな」
「どうかな? 友情や義理にも厚いだろうから、個人的に親交をもった貴族や王族に協力しているという事も考えられるよ」
まぁ、そういう相手を是が非でも引き込みたいと思ったら、そうした手段にも出るか。
「国によっては誘いを断った時点で処刑されてる可能性もあるしね」
封建制と身分社会のコンボはこのうえなく危険だな。
余に恥をかかせるとは何事か、ってところだろうか。
「探すとすれば東西南部の小国家群か、冒険者ギルドの本部があるロドニア王国かな」
「情報が集めやすいのはロドニア王国だな。神の揺り籠に隣接しているからか、良い鉱山が多いとも聞くし」
そういう意味ではその南にあり、神の揺り籠の切れ目と唯一接しているノークタニア公国も良い候補かもしれない。
冒険者ギルドがあるロドニア王国、神の揺り籠の向こうを目指す有志を常に集めているノークタニア公国。
他国の人間が活動するには、どちらも都合が良い場所だ。
「ロドニアはエレノニアと同盟国だっただろう? 帝国との戦争がひとまず終わったとしても、その関係は薄れていないんじゃないか? ミカエル的に、それは大丈夫なのか?」
「あー、確かに可能性の話だと色々マズそうだね」
どうやらミカエルもその辺りの事情を忘れていたらしい。
ウチでの暮らしに慣れて、その辺りの感覚が薄れてきているのかもしれない。
危機感が薄いと嘆くべきか。俺との生活に安心感を抱いていると喜ぶべきか。
「何はともあれひとまず戻るか。長い事家を空けてしまったから、カタリナ達が拗ねているかもしれない」
「タクマ君一人ならともかく、今回はボク達も一緒だからね。ズルいと思われてるかもしれないね」
ついでに言えば、留守番組も同行組も、ここ数日いたしていない。
暫く夜は眠れないかもしれないな……。
まぁ嬉しい悲鳴、贅沢な悩みという奴だ。
二年前までニートだった事を考えると、今の俺がどれだけ恵まれているかわかるってもんだしな。
……おや?
「どうしたの、タクマ君?」
「……『テレポート』が発動しない……」
「えっ!?」
「実は最初の踏みつけで死んでいて、『オーバーロード』が発動していたのではないですか?」
「いや、そのあと魔法が使えていたからそれはない。今もMPは残ってるし……」
実際には、『テレポート』は発動している。心の中で唱える度にMPが減っているからな。
けれど、効果が発揮されない。
神の揺り籠の効果? ドラゴンズピークの特性?
いや、昨日までは普通に使えていた。
となると結論は……。
「全員警戒! 何者かに魔法が封じられている!」
「!!?」
俺の言葉に全員の顔が引き締まる。
サラがさっと俺から離れて、槍と盾を構えて周囲を油断なく警戒し始めた。
「『ファイアショット』」
試してみると、指の先から小さな火の球が出現。地面に着弾した。
「他の魔法は使える? 『テレポート』だけか、転移系全般か? とりあえず全員に『テレパス』をかける」
(どうだ? 通じるか?)
しかし反応が無い。
使えないのは『テレポート』と『テレパス』……。
多分他にも似た系統の魔法は使えないんだろうな。
考えられる可能性としてはどちらも神理魔法だから、それがピントイントで封じられている事だけど……。
正直、全ての系統の魔法を極めないと到達できない神理魔法を妨害できるって方がヤバいよな。
それならまだ『テレポート』と『テレパス』、時間と空間に関わる魔法が妨害されてると思った方が精神衛生上よろしい。
あれ? 時間と空間って……。
「た、タクマ君!」
ミカエルが空を指差す。視線を向けると、先程の火竜と似たようなシルエットが舞っていた。
それが徐々に大きくなり、そして、ゆっくりと俺達を囲むように三頭のドラゴンが降り立った。
肌の色は黄色? いや金色か?
火竜より二回りはデカイ。明らかに上位個体だな。
うげ、『アナライズ』も使えないのか。『セルフアナライズ』が使えるのはなんでだ?
他人に干渉する魔法が使えない?
「さ、サンライトドラゴン……!?」
「知っているのかミカエル!?」
「竜王とも称される、最強のドラゴンだよ……。伝承では聞いた事があるけれど、実物を見た者はいないと……」
「フィクレツの街に現れたと聞いたけど?」
「ああ、確かユリ……ゴブリンの王が従えていたのがそれだった筈だ……」
という事はこいつらもそれか?
それだと話が楽なんだが……。
「人間か……。ヒトの中でも強い特性を持たない繁殖力だけが取り柄の種族が、これほどの力を見せるとはな……」
突如、頭の中に声が響く。
目の前のサンライトドラゴン?
いや、確かにその目には知性の輝きを宿しているが、違う。
声には侮蔑するような感情と同時に驚きの色も含まれていた。
けれど、この目の前の三頭のドラゴンから感じられるのは、敵意と警戒心のみ。
「だがその人間に頼らざるを得ないこの身のなんと矮小である事か」
溜息交じりの自虐。
けれどそれは、不幸自慢の域を出ていないように感じられた。
「これより其方らを我が宮殿に招待しよう。勿論、下等生物たる人間ごときが、断る事などないであろうな」
「立花、『致死予測』は?」
「……黄色です。先輩のステータスを借りて……」
つまりこの三頭は一頭が俺とほぼ互角。
なるほど、拒否権は無いに等しいな。
「応じよう……」
「其方の賢明なる判断に敬意を表する」
俺がそう答えると、返答と共に足元に魔方陣が出現した。
次の瞬間、俺達は眩い光に包まれたのだった。
一難去ってまた一難。