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第105話:餓竜の宴

ドラゴンズピーク編第二回目です。


ドラゴンズピークに入っていきなり地竜に襲われてびびった。

正直俺が一人でも問題無く倒せたと思うけど、素早く倒す、となると中々厳しいな。


攻撃を続けていると、相手の防御力が下がるので、そうやって時間をかけて削っていくのが基本だからな。


ドラゴンの多くは単独で生活しているが、稀に番で居る事もあるらしい。

さっきのドラゴンの性別は確認をし忘れたが、番が居るならまずいので、周囲を警戒しつつ、休めそうな場所を探す。


そろそろ日も暮れるし、さっきの戦いで皆も疲れているからな。

HPやMP、バッドステータスなら、アイテムで回復できるけれど、疲労感は拭えない。

集中を欠いて戦闘時にミスをする事は、ここだとかなり危ないし。


暫く歩いていると大きな洞窟を見つけた。

高さは5メートルほどで、幅は20メートル近くもあるかなりでかい穴だ。


「さっきの奴の住処かな?」


「それなら他の場所よりは安全そうだね」


「そうなんですか?」


俺の呟きにミカエルが反応し、立花が質問をした。

サラは無言だけど、あの表情はピンときてない感じだな。


「魔物の多くは縄張り意識が強いからね。逆に言うと、他者の縄張りにもあんまり踏み込みたがらないんだ。住処にしてるって事は、外より縄張りの証拠、匂いとかが強いって事だからね」


「暫くすれば、縄張りの主が居なくなった事はわかるだろうが、それにも時間がかかるからな」


「でもモンスターには関係無いのでは?」


理解が追いついたのか、サラが疑問を口にした。


「それは外でも一緒だからね」


確かにそれはその通りだ。

洞窟の外でも中でもモンスターに襲われる。だったら、洞窟の中の方が、魔物に襲われない分安全だ。


「よし、今日はここで休んで、また明日から探索を続けよう」


洞窟の奥に『ライトボール』を放り込んで光源とし、入口に『センスアトモスフィア』を張って匂いが外に漏れないようにする。『センスアトモスフィア』は侵入者があった場合にセンサーの役割も果たすので一石二鳥だ。


道中で拾っていた石と枯れ木で簡易的な竈を作って火を灯す。

『マジックボックス』に入れっぱなしになっている鍋を取り出し、野菜スープを煮込み始めた。


ミカエルと立花は特に気にしていないが、サラが顔を顰めたのを見逃さなかった。

勿論これだけだと俺も味気無いから、『マジックボックス』の中の猪肉を適当に細切れにして鍋にぶちこむ。


「豪快ですね」


「野営じゃ凝った料理なんてできないからな」


そんな様子を見ていた立花が呟く。


「そう言えば、タクマ君の料理は久しぶりだね」


家ではサラ達に一任しているし、ここに来るまでの野営だと保存食を優先して消費していたからな。


「そうは言っても、これまで食べてたものをあっためてるだけみたいなもんだぞ」


「タクマ様に調理していただけるという事が重要です」


「そう?」


言いながら俺は椀にスープを入れ、サラに手渡す。

サラはそれを一瞥したのち、ミカエルに渡した。


あ、肉が少ないと感じたな。


「肉の量は変わらんぞ」


二杯目を掬いながらそう言うと、サラは肩をびくりと震わせ、そして顔を背けた。


「ほら」


「…………」


手渡された椀をじっと見つめるサラ。

今度はそれを隣に渡すような真似はしなかった。


けれど眉根が寄っている。肉が少ないんだろうなー。


気にせず俺は三杯目を掬い、立花に手渡す。


「ありがとうございます」


「あ、ありがとうございます!」


立花の言葉にはっとしたサラが、慌ててお礼の言葉を口にする。

苦笑いを浮かべる事で、気にしなくていい、と伝える。

伝わっただろうか。


白パンを一つずつ配って食事が開始された。


「「「「いただきます」」」」


「おかわりはあるから、必要なら言えよ」


まぁ、自分で勝手によそってもいいとは思うけど。


食事が終わったら寝床の準備。

地面に布を敷き、枕と毛布を『マジックボックス』から取り出す。


「それじゃ、寝るか」


「見張りはいいんですか?」


俺がそう言うと、立花が疑問を口にした。

ここに来るまでは、確かに順番で見張り番を立てていたからな。


「完全な野宿って訳じゃないからな。見張りは必要ないさ」


洞窟の中なので上空や周囲からの襲撃を気にする必要がないからな。

特別見張り番を置かなくても大丈夫だろう。


「そうですか」


立花もそれ以上は突っ込まず、靴と上着を脱いで布の上に座った。


自然な動きでサラがその隣に座り、一つ開けてミカエルが座った。

ああ、その間に俺に入れと。


別に立花の隣に寝るつもりもなかったからいいけどさ。


「それじゃ、お休み」


「お休みなさい」


「お休みなさいませ」


「お休み」


そして俺は毛布をかぶり、目を閉じた。

やっぱり疲れていたんだろうな。すぐに睡魔が襲ってきて、俺の意識は闇へと落ちたのだった。




翌日、夢の中で腕が切り落とされたところで目を覚ます。

いつもの事だ。見ると、俺の腕を枕にして、サラとミカエルに左右から抱き着かれていた。


起こさないように腕を抜く。

二人の頭をそっと枕の上に乗せ、俺は両腕を広げたまま、両手を握ったり開いたりして、血を巡らせる。


「お早うございます」


そんな事をしていると、隣から声がかかった。

上半身を起こした立花が座っている。

寝起きの筈なのに、しゃっきりした顔だ。寝起き良いんだな。


「大変ですね」


「贅沢な悩みさ」


笑顔を浮かべてそう言った立花に、俺は苦笑いを浮かべて返した。

ちょっと今のはキメ過ぎか?

う、いかん。考えたら途端に恥ずかしくなってきた。


ちらりと立花を見るが、気にした風はなく、毛布を畳んでいる。


気付いていないのか、気付いて気にしないふりをしていてくれているのか。

後者だったら気まずいなぁ……。


「二人共、朝だぞ、起きろ」


「ん……お早う、タクマ君……」


「んにゅぅ……」


肩を揺すると二人はそれぞれの反応を示す。


ミカエルは眠そうだが、ちゃんと挨拶をしてきたが、サラは完全に寝ぼけている。

家に来た頃は絶対に俺より先に起きていたし、寝ぼけた様子も見せなかったのに、変わったなぁ、サラ。


「……なんだ?」


ミカエルが抱き着いたまま、目を瞑って唇を突き出している。

その唇の形がやり過ぎな感じなので、まぁ、本気じゃないんだろう。


「立花がいるから、今日はなしな」


「私は気にしませんよ」


「俺が気にする」


「普段あれだけイチャイチャしておいて、何を今更……」


「え? そんなにしてるか?」


「ふと視線をやると、肩を抱いているか腰を抱いているかキスをしているかのどれかですね、大体」


「……マジかぁ」


どうやら変わったのは俺も同じだったみたいだ。

ノーラ一家が越して来た時は多少気を付けていたんだが、どうも今の生活に慣れ過ぎてるみたいだな。


「でもまぁ、気付いたんならケジメは大事だ。ほら、ミカエル起きろ。サラも」


「はいはい」


「うみゅぅ……」


ミカエルは上半身を起こすが、サラは俺に抱き着いたままだ。

胸板に頬を擦りつけるんじゃない。

ただでさえ生理現象のせいで立ち上がれないんだから。


「はぁ……『ファイアショット』」


溜息一つ吐き、俺は昨日作った竈に魔法の炎を放ち、点火する。


「ミカエル、頼めるか」


「ああ。いいけど」


俺は『マジックボックス』から鍋を取り出しミカエルに渡す。

ミカエルはそれを受け取りながら、俺の方を見た。


「それよりそれ(・・)、処理してあげようか?」


「それは流石にやめてください」


即座に立花から突っ込みが入った。

俺達がそういう関係だと知っている立花だけど、流石にそういう場面を見たくはないんだろう。

けど、今のやり取りだけでそれを想像できるってのも、中々アレだな。


見ると、立花の頬が赤く染まっている。

表情は確かに豊かだけど、感情の起伏はそれほど激しくない印象だっただけに、ちょっと意外だ。


「ミカエル、料理の方を頼む」


「わかったよ」


ミカエルが無言で俺を見たので、俺はそう返した。

肩を竦めて、ミカエルが焚火の方へと歩いて行った。


「……お早うございます」


ミカエルが調理を始めると、すぐにサラが目を覚ました。

あのスープには昨日入れたシシ肉が入ったままだからな。

香ばしい匂いにつられて目を覚ますだろうと思ってたんだよ。


「そう言えば、飲み物ってあんまり種類がないですよね」


朝食を食べ終え、青汁を飲んでいると、立花がそんな事を聞いて来た。

一応果実ジュースとかミルクなんかはあるけど、そう言えば、基本的に飲むのは水か白湯か青汁だな。


あとはワインとエールか。


「何か飲みたいものがあるのか?」


「特にそういう訳じゃないですけど、気になったので」


「まず飲み物の種類自体が少ないからなぁ。青汁だって、薬草とかが大量にある森があるから材料の確保が楽だからってだけだし」


あとは、ほっとくとサラが肉しか食べないからだ。

バランスの良い食事を心がけた方が成長するって言ってんのに、これだけ聞き分けが良くないんだよな。


まぁこの世界の娯楽で言えば、食事は結構な割合を取るから、嫌いなものを口にしたくないってのは理解できるけど。


「街で売ってる果物、確かに甘みが少なかったり、酸味が強かったりしましたね。品種改良がされてないものはあんなものなんでしょうか」


「多分な」


その辺は俺も気にしてなかったな。

そうか、こっちの作物が不味いと感じる事が多いのは、品種改良がされてないからって考えもあるか。


「あれを絞っても、味を調えるのは難しそうですね」


「まぁな」


飲み物だけなら『錬成』でなんとかなると思うが、味の調整となると難しい。

そもそも俺自身が、そんなに味覚に自信がある訳じゃないし。

蜂蜜も砂糖もまだ貴重品だからな。




出発の準備を整えて、洞窟を出る。

火口、があるからはわからないけど、とりあえず頂上を目指して進む。


「GAGA」


暫く進んでいると、甲高い、耳障りな鳴き声と共に、一頭の魔物が姿を現した。


爬虫類然とした外見だけど二本脚。手、というか前足は短い。

大きな口には鋭い牙が並び、こちらを威嚇するように鳴いている。


顔の高さは2メートルくらいの位置にあるが、尻尾から頭の先までは3メートルくらいか。

ドラゴンではあるらしいけど、翼もないし、どちらかと言うと、恐竜のような外見をしている。


某狩猟ゲーでは運搬クエストのお邪魔虫として出て来そうな相手だ。


実際山歩きしてる時にこんなのと出くわしたら、悲鳴を上げて逃げ出してしまうだろうけど、今の俺の感覚だと大した迫力を感じない。

この世界に慣れたせいか、ステータスが高いせいかはわからないけど。


「牙竜か……」


『アナライズ』で確認するとそう表示された。

ステータス的にはLV30の『戦士ファイター』相当。

普通の冒険者や兵士と比べればかなり強い相手だけど、ドラゴンズピークで出て来る魔物、モンスターの中では弱い方だ。


「GAGA」


「GYAA!」


一体だけなら……。


「囲まれましたね」


「どこから湧いて出たんだか……」


俺達を囲むように、牙竜が次々と姿を現す。

集団で狩りをする性質をもった、中型のドラゴンだ。

数も多いし連携も上手い。


「でやっ!」


こちらを窺うようにピョンピョン跳びながら距離を詰めて来た牙竜に対し、先制攻撃を行う。

間違いなく逃げても追いかけてくるだろうし、他のドラゴンと鉢合わせても面倒だ。


火竜槍の穂先が命中する前に、牙竜は首を振って直撃を避けた。

削り取られた鱗と共に、赤い血が舞う。


くそ、意外と素早い。


「GYAA!」


「GAGA!」


「GYAGYA!」


俺の攻撃を境に一斉に鳴き始める牙竜。

その不快になる声には、明らかに怒りの色が滲んでいる。


「全滅させる!」


「「はい!」」


俺がそう宣言すると、サラとミカエルが力強く応えた。


「だ、大丈夫ですか? 数が多いみたいですけど……」


「逃げても一緒さ!」


最初に攻撃した牙竜は、痛みに喘ぎながら俺から離れて行った。

けれど、距離を取っただけで逃げた訳じゃない。

適当に痛めつけて戦意を無くさせる事はできそうもないな。


近くにいた牙竜に、まずは『インヴィジヴルジャベリン』を撃ち込み、動きを止めたところに火竜槍を振るう。

一撃で首を飛ばす事ができたけど、やっぱり硬い。


「くっ……!」


見ると、サラもその硬い鱗に苦戦しているようだった。

サラは『筋力』は高いけど、持っている武器の威力上限(キャップ)が火竜槍に比べて低いからな。


「でぇい!」


比べてミカエルは、相手を攻撃し、怒って反撃に出たところをカウンターでダメージを与えている。

スキル的にはあれをやるのはサラの方だと思うんだが、これは戦闘経験の差だろうか。

口を開けて噛みつきにきたところを狙う上手いやり方だ。背中より腹の方が柔らかいし、そしてそれよりは口の中の方が防御力が低いからな。


「てやぁっ!」


そしてこういう相手だと一番活躍できるのが立花だ。

俺のステータスを『湖面の月』で写し取り、威力上限(キャップ)の無い神器で次々と牙竜を撲殺していく。

俺の『敏捷』と『器用』があれば、牙竜の素早い動きにも惑わされずに攻撃を当てられるからな。


「GYA!」


「GYAGYA!」


暫くすると、牙竜たちが逃げ始めた。


「深追いはするな!」


罠かもしれないからな。三人とも逃げる素振りを見せた牙竜は無視し、まだ戦意の残っている相手にターゲットを移す。


「ふぅ……」


ほどなくして、周囲から動ける牙竜はいなくなった。


「今のうちに移動しよう。援軍を連れて来られても面倒だ」


「はい」


俺は『マジックボックス』に牙竜の死骸を回収しながらそう指示を出す。

回収を終え、足早にその場から離れた。



「GYAA!」


「GYAGYA!」


「GYAAAAA!!」


そして昼を少し回った頃、適当な斜面で昼食を摂っている時、そいつらは姿を現した。


大量の牙竜。そして、その牙竜より二回りは大きそうな牙竜が数体。

剣竜だ。


魔物はモンスターと違って進化みたいな事はしないので、純粋に別種族なんだが、外見と性質が似ていて、そのうえで強大であるせいか、牙竜を従えている事もあるらしい。

強さとしては、LV60戦士相当。

昔に戦ったサイクロプスと同じくらいだな。

大きいという事が強さに繋がるので、単純なステータスとは別に、単体の強さとしてはサイクロプスの方が上だろう。

けれど、剣竜は牙竜と同じく集団での狩りを得意とし、狡猾で残虐な性格をしている。


間違いなく、厄介なのはこっちだ。


「さっきの奴らかな」


「この怒りようは、多分な……」


やっぱり援軍を連れて来たか。

どのみち追いつかれるなら、あの場で待っていた方が良かったか?

いや結果論だ。あのまま逃げて戻って来ない可能性だってあったんだから。


「剣竜は俺と立花が引き受ける! サラとミカエルは牙竜を優先してくれ!」


「はい!」


「わかったよ!」


「お任せください!」


矢を放って牙竜を牽制しつつ、剣竜へと向かって駆けだす。


「GYAAA!」


迎え撃つように一つ吠え、五体いる剣竜の一体が、俺に向かって来た。


その大きく開いた口の中に『インヴィジヴルジャベリン』を撃ち込む。

ダメージに怯んだ隙に、弓をしまい、火竜槍を取り出し跳躍。


「でりゃぁぁっ!」


スキルを重複発動させて、剣竜の口内目がけて突きを繰り出す。

穂先が口の中から、奥へと抜けるのを感じた。


「GAAAAA!!」


間違いなく貫通した筈だが、剣竜は怒りの咆哮を上げて暴れ始めた。

HPが0にならないと、頭部を槍で貫かれても死なないこの世界の法則だな。


文字通り、死ぬほどの痛みに我を忘れているようで、周囲の牙竜も無差別に攻撃している。


ほっとくと勝手に数を減らしてくれるんじゃないかな?


という訳で怒り狂う剣竜は放置して、俺は別の剣竜目指して、その場から離れた。



暫く戦っていると、牙竜の動きがおかしい事に気付く。


最初は、牙竜に対する統率スキルを剣竜が持っているせいかとも思ったけれど、すぐにそれが違うとわかった。

牙竜の多くがサラに殺到している。剣竜も、俺や立花が目の前にいればこちらを攻撃してくるが、そうでないならサラに向かって吠えている場合が多い。


理由はすぐにわかった。サラの持つスキル、『ヘイトアップ』だ。

盾戦士ガード』の職業スキルで、敵に狙われやすくなるスキルな訳だが、俺はサラに、彼女がこのスキルを保有している事を教えていない。

とは言え、アクティブスキルはそのスキルが効果を発揮する状況になると勝手に頭に浮かぶから、完全に隠す事は不可能だ。


そして『ヘイトアップ』が使用スキルとして候補に挙がる時は、自分が相手の攻撃を引き付けようとしている時だ。

俺がいるなら、サラはそう思う事が多いだろうなぁ。

そもそも盾と槍を使わせていたのは、サラの安全を考えてのもので、防御担当タンクにするためじゃなかったんだけど……。


そしてそのサラは、一対一なら牙竜は勿論、剣竜にだって負けないだろう。

けれど、数が多い。敵の攻撃を捌ききれずに攻撃を受ける場面が増えていた。

今のところ、サラの防御を抜く事は牙竜にはできてないみたいだけど、攻撃を受け続ければその部位の防御力が低下するし、『疲労』などのバッドステータスを受けるとステータス全体が下がる。


そうなると色々まずいな……。


「ちっ! 邪魔だ!」


サラの下へ向かおうとすると、牙竜がまとわりついてきた。

舌打ちと共に『インヴィジヴルジャベリン』を連打し、薙ぎ払う。


背後に気配。

振り向きながら槍を振るうと、俺に飛び掛かろうとしていた牙竜が空中で弾き飛ばされていた。


「GYAAAAA!!」


「くっ!」


そこへ剣竜が襲いかかってきた。

横に跳び、噛みつきを躱す。


サラがピンチなのをこいつらも理解しているんだろうか。

狡猾で冷酷、そして高い連携スキルを持つ。


「このっ!」


槍を振るうが、剣竜の硬い鱗に阻まれる。

ダメージは入っているようだけど、一撃じゃ無理か。


「GYAAAA!!」


背後から咆哮。

口と後頭部から血を滴らせている。最初の奴か!

ダメージと失血で死んでるかと思ってたが、しぶとい!


さて、『テレポート』でも使ってサラの傍へ飛ぶ事は可能だけど、地味に今、俺達四人は分断されてるんだよな。

俺がサラの下へ飛ぶと、俺が今引き受けてる分が立花とミカエルへと向かってしまう。

勿論、『ヘイトアップ』につられてサラの方へ向かってくれる可能性もあるんだけど、どうなるかわからないからな。


とは言え、このままジリ貧になるのもまずい。

まずはミカエルの所へ『テレポート』して、その後ミカエルを連れて立花の所へ『テレポート』。

その後、立花とミカエルを連れてサラの所へ『テレポート』するのがいいか?


そもそも最初は四人固まってた筈なのにいつの間にか分断されてたんだよな。

結局同じ事になるんじゃないだろうか。


うぅむ、単純に手が足りない。

四人固めた後、広範囲魔法で牙竜達を吹き飛ばして逃げた方がいんだろうか。


でも結局追いつかれそうな気がする。

寝込みを襲われて休めない事になるくらいなら、やっぱりこの場で殲滅するべきか。


「先輩、どのくらい保ちますか!?」


脳内に立花の声が響いた。

距離が空いた頃に全員に『テレパス』の魔法を使用してある。


「俺は問題無いが、サラとミカエルを助けに行きたい」


「そちらは私が担当します」


「『朧月』か? けど、大丈夫なのか!?」


立花のスキル『朧月』は自分のコピーを作り出すもの。その代わり、コピーを作るごとに能力値が下がる。

けれど、『湖面の月』で俺のステータスを写し取ればそのデメリットは消せる。


とは言えコピーできるのはステータスと一部のスキルだけ。

ようは武器防具、とくに神器はコピーできない訳だ。

となると素手、しかも威力上限(キャップ)がかかるので牙竜はともかく、剣竜を倒す事は難しくなる。


「守るだけなら問題ありません。牙竜なら時間をかければ倒せますし」


「……そうだな。なら、俺と神器を持った立花で剣竜を対処。ミカエルとサラは合流を目指しつつ、生存を最優先」


「はい!」


そして立花が自らの分身を作り、ミカエルとサラのサポートに回る。


「私だけでもなんとかなったけど、それでも、楽になったのは事実。感謝する」


サラも素直ではないけど、立花に感謝しているようだ。


「正直、貴女が敵を引き付けようとするのは許容できないんですよ」


「それが私の役目だから」


「先輩はそれを望んでいないようだけど?」


「私はタクマ様によって買われ、タクマ様によって救われた。ならば、私がこの身を犠牲にしてでもタクマ様を守るのは当然の話」


「…………」


立花は無言だが、無言の意識が俺に向けられているのがわかる。

俺も色々言いたい事はあるし、サラには今までも色々言って来たけれど、野菜嫌いと俺の壁になる事に関しては頑ななんだよな。


まぁ、前線に出なくて良いなんて言える状態じゃないし、俺とミカエルを除けば、ステータスがそれほど育っていないモニカと魔法職のカタリナしかいないから、サラが前に出る事が多くなる。

前に出なくても、カタリナやモニカを守る役目になるから、どうしても前線向きのステータスになっちゃうんだよな。


「気持ちはわからないでもないけれど、頼れるところは頼った方がいいと思いますよ。先輩を守るために、先輩の負担になっては本末転倒でしょう?」


「…………」


「先輩と貴女の関係に口を挟むつもりはありませんし、今のところ、私自身が先輩とどうこうするつもりもありませんから」


「……そうね、頼ってあげる」


「ありがとうございます」


なんだろう。二人の会話を聞いているとなんだかヒヤヒヤするな。

そもそもサラはなんであんなに立花に警戒心というか、嫉妬心みたいなのを抱いているんだ?

ノーラは積極的に俺のハーレムに入れようと企んでいるみたいなのに。


「GYAAAAA!!」


まぁ、わからない事は考えるのを一旦やめて、目の前の事に集中するか。

一応、サラと立花の話もついたみたいだし。

あとでミカエルなりモニカなりに聞くとしよう。

事情をわかってそうなのはミカエルだけど、答えてくれそうなのはモニカだな。


俺に向かって遅いかかってきた剣竜を火竜槍を振るって吹き飛ばす。

追撃で『インヴィジヴルジャベリン』を撃ち込む。


「GAGAGA!!」


牙竜を引き連れて、別の剣竜が向かって来た。

クソ、とどめをさせなかった……!


剣竜の牙と爪による攻撃を躱しながら、牙竜を薙ぎ払う。

牙竜もほったらかしにできないから、確実に潰していかないとな。


「せいっ!」


俺を噛み砕こうと突っ込んできた剣竜を躱し、その頭部に火竜槍を振り下ろす。

後頭部に傷。最初の奴だな。


「GUGYAAAAA……」


よし、倒した。

ここまでくると火竜槍も力不足になって来たな。

まぁ、本来はもっと大勢の人数で囲んで、時間をかけて討伐する相手だからな。

個人で、それも短時間で倒す事がそもそもおかしいんだから。


どうやら剣竜ごとに従えている牙竜が違うのか、一部の牙竜の連携が乱れた。

逃げられてもそれはそれで面倒なので、まずは動きの悪くなった牙竜を始末する。


そうしていると、ほらきた。


「GYAAAAA!!」


一頭を倒して油断しているとでも思ってくれたのか、剣竜が配下の牙竜を伴って襲い掛かって来た。

四メートル近い巨体が空中に舞う。大きく開かれた口は、俺なんて一飲みだろう。

並んだ牙はいかにも凶悪で、かつて受けた傷が幻痛を訴える。


「けど、このタイミングでその飛びは、死ぬ感じだ!」


剣竜の口腔内に『インヴィジヴルジャベリン』を連打。更に火竜槍を突き入れる。

そして刺突攻撃の連撃速度を向上させるスキルの最高峰『インフィニティスパイク』を発動。


「GYUAAAAA!?」


剣竜が血を撒き散らしながら吹き飛ぶ。『アナライズ』で見ると死んだのがわかった。

俺に飛び掛かろうとしていた他の牙竜は、流石にこのタイミングではその動きを止められない。

噛みつこうと突っ込んで来た奴は頭の側面をひっぱたいて吹き飛ばす。

跳び蹴りの態勢で飛んで来た奴は下から切り上げて吹き飛ばす。

群がって来た牙竜を火竜槍を振り回して薙ぎ払う。


剣竜と共に俺に攻撃を仕掛けて来た奴を倒すと、残るのは統率者を失い、混乱した牙竜だけ。

しかも剣竜に率いられていたから感じずにいられていたらしい、俺への恐怖を思い出したらしく、明らかに腰が引けている。


これなら逃がしてもいいか?

いや、元々の群れに剣竜がどれだけいたからわらかないんだ。

巣に戻った先でまた新たな剣竜に率いられてこちらを追って来られたら面倒だ。


「『ウィンドウォール』!」


牙竜の背後に風の障壁を発生させ、牙竜の逃走を阻止。

効果時間はほぼ一瞬だけど、動きを止める事には成功したし、混乱し、統率者を失った事で知能が低下している牙竜なら、逃げる事ができないと勘違いするはずだ。


案の定、その場に寝ころび、腹を見せて完全降伏のポーズを取る奴が出る。

腹を見せた奴は無視して、残りの奴を攻撃し、撃破していく。

そうすると、中途半端に知能がある牙竜達は、降伏すれば殺されないと判断したらしく、次々に腹を見せて行った。


「よし」


すぐに俺の周りには、腹を見せた牙竜と、牙竜の死体だけになる。

弓を取り出し、『クリエイトウェポン』で魔法の矢を作り、番えた。


「『アローレイン』!」


本来は複数の矢を一度に放ち、曲射する際の威力と命中を向上させるスキルだ。

けれど、複数の対象を一度に狙えるスキル『マルチロック』と併用し、魔法の矢でこれを使うと、矢が放物線の頂点に達した際に、『マルチロック』で対象にした相手と同じ数の矢となり、文字通り、雨のように降り注ぐ。


魔法の矢に俺の魔力に落下エネルギー。スキルの重複発動による威力の向上。

それを、柔らかい腹に受ければ、牙竜と言えどほぼ即死する。


それにこれだけあれば、何体かは『一撃死』が発動するだろうし。


「GYAAAAAAAAAA!!?」


周囲に牙竜の断末魔の悲鳴が響き渡る様は、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図と言えた。

ちょっとやり過ぎたと思う。反省はしていない。


「っ! くっ!」


一方の女子組は中々苦戦しているようだ。

既に二体の剣竜が倒され、牙竜もミカエルとサラ、立花の分身によって順調に数を減らしている。

とは言え、剣竜を唯一倒せる神器を持った立花の動きにキレが無い。


疲労もあるけれど、あちこち皮膚が切り裂かれて出血している。

既にこういう光景にも慣れたけれど、高校の制服という、否が応でも現実を意識させられる服装をしていると、痛ましさが漂う。


俺のステータスを写し取っているとは言え、やっぱりその動きは素人だ。

剣竜のトリッキーな動きと、牙竜との連携に翻弄されている。


当てさえすれば威力上限(キャップ)の無い神器だ。俺の『筋力』と神器の攻撃力でほぼ一撃だろう。

ただ、当てるにしてもしっかりと腰を入れて振り抜く必要があるだろう。

少なくとも、両腕は思い切り振らなければならない筈だ。


ステータスに差があるからと言って、コン、と当たっただけで敵が吹っ飛ぶような事は、この世界でさえ起こり得ない。


そういう意味では、これまでステータスの高さに任せて力ずくの狩りを行って来た立花にとって、剣竜は相性最悪の相手と言えるかもしれない。

俺のスキルの『世界の常識』の範囲がどの程度かわからないが、神の揺り籠に来ると、『常識』がほぼ働かないんだよなぁ。

ミカエルやカタリナ、モニカ、エレンといったあたりを連れてくると彼女達の知っている事が『常識』として入って来る。


うーん、ミカエルって錫杖を武器にした立ち回りを知ってるのかなぁ?

いや、錫杖じゃなくてもいいんだ。長物とかの知識は無いかな?


「無いね」


そう思って尋ねてみると、ミカエルからそんな答えが返って来た。


「勿論、心得くらいはあるけれど、実戦に使えるかというと微妙だね。ボクの基本は片手剣だし、そうなると押し当てて切り裂くか、突き刺すかのどちらかだけど……」


「そうか悪いな」


突きは良いかもしれないな。

あ、そう言えば他人が『世界の常識』を使うと、俺ってどういう扱いになるんだろう。

冒険者が単純な役職の事だとすると、ミカエルから知識が得られる事がおかしくなる。

冒険者的な活動をしていたとすれば、俺もその対象になる筈だ。

槍での戦闘の中には穂先だけでなく、柄を叩きつけるものもあるから、多少は役に立つだろう。


「駄目です。『世界の常識』を写し取れません」


提案してみたんだが、立花から返ってきたのは意外な答え。

勇者の【固有技能ユニークスキル】は写し取れていたからいけるかと思ったんだが……。


「神からの加護は写し取れなかったので、その関係じゃないでしょうか?」


言われてみると、その可能性は確かにありそうだ。


「今から『テレポート』で剣竜に奇襲をかける。そのタイミングで攻撃してくれ! カウントスリー……」


「はい!」


「ツー、ワン!」


そこで俺は『テレポート』。剣竜の頭上に出現し、そのまま落下と共に火竜槍を突き立てる。


「でやぁっ!」


突然のできごとに意識が自分から外れた瞬間を狙って、立花が全力で月の錫杖を振るう。

良い、フルスイングだ。

破裂音と共に血霧を残して剣竜の首から上が消滅する。


「「「うわぁ……」」」


俺とミカエルと立花の声が見事にハモった。


「よ、よし。残りの牙竜を蹴散らすぞ」


「は、はい!」


「任せてよ!」


これが威力上限(キャップ)を無くした俺の攻撃力って考えると、改めて、自分のチート具合がよくわかる。

勇者の神器ありきとは言え、ここから更にスキルや魔法で攻撃力が上昇するからな。


一応はレベリングによって成長したとは言え、やっぱりこのステータスは過剰だよな。

女神の目的は俺をこの世界で生かす事じゃなくて、母さんの願いを叶える事だから、俺に死なれると困るのはわかるけれど……。


俺を使って信仰を得る事も目的であるから、色々とトラブルに巻き込まれる訳だ。

だとしたら、この過剰な強さを使って俺は何をさせられるんだろう。


牙竜は恐竜で言えばラプトル。某狩りゲーで言えば鳥竜の小型~中型のモンスターですね。

集団で襲いかかり、獲物を疲労させる事で強大な敵も倒してしまう奴らですが、ヒトがドラゴンを狩る時も実は似たような戦術を取る事になります。


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