第102話:タクマと女性達
乙女と女性達の触れ合い。
インターミッション的な回ですね。
「初めまして、立花乙女と申します。この度、タクマ先輩のご厚意でこちらに住まわせていただく事になりました。いたらぬとろこもあるとは思いますが、よろしくお願いいたします」
俺の家に来た立花が、頭を下げて挨拶をする。
それに対して女性陣の反応は様々だ。
ミカエルとカタリナは既にお互いに自己紹介を済ませているので特に大きな反応は無い。ただ、苦笑いを浮かべて俺達を眺めているだけだ。
モニカは呆れた様子で立花を見ていて、エレンはわかりやすく嫉妬している。
サラは……なんだろう? どういう反応なんだ、あれ?
無表情で立花を見ているが、何も譲るつもりはない、という強い決意の伝わって来るオーラを発している。
「先輩とは一応同郷になると思います。その誼で、同居させていただく事になりました」
家に帰って来るまでの会話で、俺が立花の通う高校のOB(捏造)だと伝えると、彼女は俺を先輩と呼ぶようになった。
そこに特に壁のようなものは感じないが、慕われているという感じもしない。
だから、サラ達が懸念しているような事は何も無いんだが、それでも一緒に住む年頃の女性、という事で、彼女達は敏感になっているようだ。
わかりやすい敵意をぶつけられ、しかもそれが誤解に基づくもののせいで、立花も若干苛立っているようだ。
それがサラ達に伝わり、余計に敵愾心を抱かれる事になる悪循環。
そうね、ハーレムなんて作ってたら、普通はこうなるよね。
サラ達も仲が良かった訳じゃないけど、元々が奴隷という立場だっただけに、普通に複数人とそういう関係になる事は許容してくれていた。
そもそも、カタリナはサラが二人目を買いましょう、と提案したのが切っ掛けだしな。
サラがカタリナに嫉妬するのは胸部の戦力差くらいだし。
大丈夫、お前も少しずつだけど育っているからな。
おや、傍観していた筈のミカエルから冷たい目線が向けられている気がする。
ともあれ、通常、複数の女性と関係を持てば、俺と女性陣は勿論だけど、女性陣同士でも諍いがあって当然だ。
そういう意味では、これまでの女性陣は、俺と他の女性との関係を非難できない絶妙な立場にあったんだよな。
奴隷三人は勿論だけど、モニカは一度俺から離れたという負い目があったし、エレンは嫉妬こそするものの、実力者が複数人を妻とするのは当然、という文化で育ったからな。
エレノニア王国も、フェレノス帝国も、正妻の他に側室や愛人を持つのは当たり前だけど、それって基本的に婚姻が政略結婚だからだからなぁ。
ようは、恋愛と結婚は別、という考えが根底にあるんだ。
そんな中で奴隷でも無ければ、かつて約束をしていた訳でもない女性を、俺が連れて来たとなれば、まぁ、嫉妬から警戒もするわな。
ノーラは俺とひっつけようとしてるくせにこいつらは……。
「私はあまりそういう事には詳しくありませんけれど、ここまであからさまなら流石にわかります。それを踏まえて言わせていただきますと、ご安心ください。私は先輩とそういう関係になるつもりはありませんから」
はっきりと立花はそう宣言するけど、何故だろう? 嫌味か皮肉、ともすれば宣戦布告に聞こえてしまうな。
「本当? 絶対だと言い切れる?」
それを感じ取ったのか、サラは立花に詰め寄った。
うーん、それ逆効果な気がするぞ。
「人の心に絶対はありませんから、将来的にはわかりません。しかし、私は複数の女性と同時に関係を持つ男性を好ましいと思う感性は持ち合わせておりません」
俺を含めての範囲攻撃が立花から放たれる。
ミカエルは変わらず苦笑いを浮かべているが、カタリナとモニカも不快感を顕にした表情を浮かべる。
「だったらここに住まわせるわけにはいかない」
「ここは先輩のお宅ですよね? 私は既に、先輩から許可を貰っていますよ」
「外の敷地にテントを張るのは許す」
「お断りします」
徐々にサラと立花の距離が近くなる。
これが心の距離なら歓迎なんだが、そっちは開いていくばかりだからなぁ。
「タクマ、どうなの?」
尋ねて来たのはモニカだ。
流石に、二人の間に割って入るのは不毛だと判断したんだろう。
「あくまで同居人だ。俺も今のところ、彼女に手を出す気はないよ」
「今のところ?」
言葉の綾だ。と言っても通じないだろうな。
「俺の故郷では恋人は一人だけ、これは事実だ。恋人がいるのに他の女性に手を出したら、批判されて、時には社会的に死ぬ事にもなる」
「それはそれで凄いわね」
「ただ同時に、人によってはその生き方をカッコイイと感じ、肯定されたり、時には尊敬を得る事もある」
「なんだかよくわからない文化ですね」
エレンも、俺の方に寄って来た。
「大勢が住んでいるせいかもな。ともかく、価値観は本当に様々なんだ。あくまで、基本となる考えがあるってだけだよ」
大抵の他人と違う人は、他人と違う事を知っているからな。
そのうえで、自分を貫いている人が殆どだ。
「それで、今のところっていうのは?」
「こっちに来て、既に俺は複数の女性と関係を持ってる。仕方ない面もあったとは言え、それは俺が決断した事だから、それに対する批判も受け入れるさ。つまり、俺の持っていた故郷での価値観は既に変化してしまっている訳だな」
「だから他の女性にも手を出すかもしれないって事?」
「状況が許せばそうなるって話だ。立花の気持ちと俺の気持ち、そして、お前たちの感情が許せば、そういう関係になるだろう」
その点に関してはノーラも同じなんだよな。
ノーラは俺の愛人になる事は拒否していないし、サラ達も許可している。
サラ達とは方向性が違うとは言え、普通に美人だと思うし、スタイルも良い。
鍛えられた肉体は野性的な魅力に溢れている。
けれど、状況が許さなかった。
それは彼女を取り巻く環境だ。
ノーラはラングノニア王国から亡命して来た獣人だ。
そして、ウチの周りには、同じく亡命してきた獣人が大勢いた。
成功者の行動を真似る習性があるという獣人達の中で、ノーラを娶ればどうなるか。
当然、他の獣人達も、娘や姉妹を差し出してくるだろうな。
断ったら断ったで面倒な事になるのは目に見えているから、俺はノーラを受け入れられなかった。
今まではな。
王国と帝国の戦争が終結し、王国が帝国から賠償金代わりに領土の一部を譲られた事で、ここの開発のための人手が必要になった。
ただでさえ、王国北方の、帝国との国境付近は戦争で荒れてしまって、復興に人手が必要な状況だからな。
王国の移民を管理する部門も機能を取り戻し、ラングノニアから逃れて来た獣人の多くは、そちらに送られる事になった。
まぁ、いつまでもラングノニア王国に近い南部のガルツに居るよりは、間違いなく安全だしな。
という訳でウチの周囲からは獣人がどんどんいなくなっている。
このままなら、ノーラの家族も近いうちに北へ行くだろう。
引き留めるならノーラを娶るのが一番だし、今なら他の獣人が追従するような事も無い。
それでも未だに俺がノーラに手を出していないのは、今まで逃げていたのに、今更どの面下げて、という思いがあるからだ。
モニカあたりに言わせれば、状況が変わったのだから対応が変わるのは当然、となるだろうし、それは俺も思っている。
けれど、中々人の感情は理屈通りにはいかないもんだよ。
有体に言って恥ずかしいんだよ。
いっそノーラから迫って来てくれないかな、とか思ってるチキン過ぎる俺が居る。
「つまり、あの娘が貴方を好きになって、貴方もあの娘を好きになって、私達がそれを許せば手を出すって事?」
「まぁ、そういう事。故郷にいた頃なら、好きにならないようにしよう、って考えだったと思うが、今はその辺抵抗が無いからな」
「そこはかとなく、最低な気がするんだけど、気のせい?」
多分、気のせいじゃない。
「気のせいですよ。旦那様の寛容な心を疑う事は許されませんよ」
庇ってくれるなら、どうしてエレンは俺の脇腹をつねっているんだろうか。
「そうね。まぁ、その辺りは今更だものね」
言いながら、モニカは俺の頬をつねった。
「それで、彼女が君を好きになる可能性はあるのかい?」
俺がモニカやエレンとイチャつき始めたと察したのか、ミカエルが近付いて来た。
「どうかな。彼女の事を何も知らないから、何が琴線に触れるかわからないからなぁ」
まぁ、つり橋効果というか、ストックホルム症候群的に惚れる可能性は無きにしも非ず。
「それを知りたいんですの?」
俺の服の裾をつまんで、カタリナが尋ねる。
唇が若干突き出されているのは、拗ねている証拠だ。可愛い。
「特には。一緒に生活していれば自然に知る事になるとは思うけど、積極的に知ろうとは思わないよ」
確かに立花は美人と言っても差し支えない整った容姿をしているし、スタイルも悪くない。
尖った正義感のようなものを持っていて、その点が面倒臭そうではあるけれど、善人である事は間違いないし。
それこそ、明確に嫌われていない限り、一緒に生活していれば、普通に好意を抱くだろう人物だ。
時折狂気が覗く時もあるけれど、それはウチの女性陣も負けてないからなぁ。
「なんですか?」
思わず見つめてしまったエレンが訊いてきた。
好意的な目線でない事には気付いているのだろう、いつもの照れ感が無い。
「なんでモニカとエレンもそっちで暢気に会話してるの?」
と、俺達に気付いたサラがいつの間にか近付いて来ていた。
「二人は私と一緒に反対する立場でしょう!?」
「え? そんな事はないわよ。タクマが連れて来たからちょっと面白くないだけで」
「旦那様の決められた事なら、エレンが逆らうなんて有り得ません」
味方だと思っていた二人から突き放される形になり、サラは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。
「今のところお互いその気は無いみたいだし、今後そういう関係になるにしても、それは私達と同じになるだけだしね。ちょっと気に入らないだけで」
大分気に入らないみたいですね、モニカさん。
「二人は奴隷じゃないからそんな簡単に受け入れられるんだ……」
「ならサラも奴隷から解放して貰えばいいでしょ? それとも、まだタクマを信じられない」
「タクマ様は、信じてる……」
「なら、貴女が奴隷のままだったとして、その娘とタクマがそういう関係になったとしても、貴女と同じ立場になっただけだって理解できるでしょう?」
サラは未だに、自分の想いが『隷属の首輪』によって造られたものではないか、という疑念を払拭できていない。
こればかりは、俺がどれだけ彼女に自分の想いを伝えてもどうにもならないからなぁ。
言ってしまえば、奴隷から解放された時、俺への想いが消えた場合に帰る場所があるカタリナとミカエルと違って、サラには何も無い事も怖がっている理由の一つだろうな。
奴隷の両親に生まれて、奴隷になるために育てられたサラは、奴隷以外の生き方を選べないんだ。
それは彼女にとって未知の領域。
知らない事を恐れるのは、人間の本能だからな。
今のサラなら冒険者として問題無くやっていけると思うが、問題はそこじゃないからなぁ。
サラの気持ちはわかるから、俺も強引に彼女を奴隷から解放する事ができない訳だし。
ここでキッパリハッキリと、『立花とそういう関係になる事は絶対に無い』と言えればいいんだが。
そこは俺も、心がまだ童貞のせいだろうか。女性との可能性を潰す言動をしたくないという考えがある。
うん、そこはかとなくどころか、間違いなく最低な考え方だ。
いっそ、全てのいい女は俺様のものだ、ガハハ! と開き直れれば楽なんだが、それもできない自分の中途半端さに嫌気が差す。
「サラ、おいで」
俺が呼ぶと、サラは無言で近寄って来た。優しく、抱きしめる。
「俺を信じてくれるなら、俺の言葉も信じてくれないか?」
「……」
サラも、俺の背中に手を回して、抱きしめ返してくれる。
「確かに、立花に対して好意を抱かないとは言えないし、邪な考えを抱かないとは言わないさ。けれど、お前達を蔑ろにはしないと誓うよ」
「…………」
俺の背中に回された、サラの腕に力が籠る。額を強く、俺の胸に押しつけているのがわかる。
「サラ、俺はこれまで通り、いや、これまで以上に、お前を愛すると誓うよ」
視界の隅で、頬を赤く染めた立花が目を逸らしているのが見えた。
やめろ、その反応。俺だって恥ずかしいんだから。
「……………………」
サラが俺の足に、自分の太腿を絡めてくる。頬を擦り付ける。
「そこまでですわ」
サラを引きはがすのではなく、俺に背中から抱き着いてきて、カタリナがそう言った。
背中に感じられる、柔らかな感触。心なしか、サラが爪を立てたような気がした。
「サラさん、貴女だけズルくありませんこと?」
「そんなことない。こういうのは一番の先輩である私の特権」
「まぁまぁ、順番って事でいいじゃないか。ほら、サラ君、カタリナ君に替わって」
「…………」
ミカエルが仲裁に来たと思ったら、ちゃっかり自分も抱きしめて貰うように取り計らっていた。
まぁ、いいけどね。
神の揺り籠のダンジョンに向かってから今まで、皆をほったらかしにしていた訳だからな。
勿論、このくらいで済むとは思ってないが、多少は欲求不満が解消されるなら安いもんだ。
信じて欲しいのは事実だし、仲良くして欲しいのも本心だしな。
「いつもこんな感じですか?」
「大体そうね。ミカエル、次は私だからね」
「わかってるよ」
カタリナを抱きしめ、愛を囁いていると、そんな会話が聞こえて来た。
モニカの参加は既定路線らしい。まぁ、逆に来ないようならこっちから呼ぶつもりだったからいいけど。
むしろ、そういう時に恥ずかしがるモニカは中々可愛らしいし。
エレンも順番が待ち遠しそうだ。
そしてノーラ。物欲しそうな目で見るんじゃない。
いやむしろこの流れでいってしまえば恥ずかしさが軽減されるか?
いやいや、そんななし崩し的な流れはまずいだろう。
けれど、サラ、カタリナ、モニカと、実は流れに流されて手を出した相手の方が多いんだよな。
むしろ俺らしいのか?
「ちゃんとわたくしに集中してください」
「ごめん」
まぁ、今日は皆を優先しよう。
ノーラに関しては、今後の課題ということで……。
今年最後の投稿なので、和やかな雰囲気のものにしようと思ったら、若干のギスギス感が。
そして爆発しろ感もあるので、晴れやかな心で新年を迎える事ができるでしょうか?




