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閑話:戦争の終わり

三人称視点です。

王国と帝国との戦争に一応の決着がつきます。


国境沿いで行われていたエレノニア王国とフェレノス帝国の戦争は、まもなく始まってから一年が経とうとしていた。

万を超える大軍を投入した帝国は、その補給能力の限界から、近いうちに瓦解するだろうと考えられていた。

しかし同時多方面展開によって国境線を破った帝国軍は、王国領内で現地徴発を行い、継戦能力を向上させた。

奇しくも同時期に、王国内のダンジョンにて氾濫の兆しが見えたために、エレノニア王国は初動対応に失敗、戦争を長期化させる遠因となっていた。


冒険者有志による氾濫対策などもあり、王国側はこの失態を即座にカバー。

帝国軍のそれ以上の南下を防ぐ事に成功し、戦況は膠着状態となった。


帝国軍が兵站に不安を抱えているのは確かであるため、戦線を維持する事さえできれば、王国側の勝ちは揺るがないと思われた。


そしてその大方の予想通りに、帝国軍には綻びが見え始めていた。


「マグナル砦の放棄が決定されました。これで、エレノニア王国内に入り込んでいた部隊は、全て撤退した事になります」


フェレノス帝国西部に位置する帝都フェレノス。その王城の軍議の間は、重苦しい空気で満たされていた。

日に日に悪化していく戦況に、一向に改善されない補給環境。

王国側にも大きな損害を与えているとはいえ、帝国側の損害は三万を超え、失われた物資はそれ以上だった。


まともな軍は国境沿いにて、エレノニア王国のフェルデバ砦を攻略中の部隊のみ。

こちらは損害が出る度に部隊を補充しているため、数字のうえでは二万の兵数が残っているが、彼らが被った損害の累計はそれだけで一万にものぼる。

侵攻主力となる彼らは補給も優先的に受けているため、彼らに吸われた物資は最早計算する事さえ億劫だった。


「負け戦だな。これ以上は続けられまい。講和の道を探らねば」


「しかし王国側が受けるか? 相手は逆侵攻が可能なのだぞ?」


「エレノニア王国が、こんな痩せた土地を欲しがるものか」


「自分で言っていては世話はないが、事実ではあるな」


「しかし、それならば逆に和睦が難しくなる。賠償請求などされても、支払い能力など無いに等しいのだから」


「鉱山を幾つか差し出す事になるかもな」


「ばかな! あれを手放してはそれこそ帝国が崩壊する」


「なに、鉱山の多くは国土の北方にある。取り返す事は容易い」


この戦争は負け戦。それは誰もが認めるところであったが、どのように負けるかで意見が食い違い、議会は紛糾していた。


そんな上級貴族達の前向きなのか後ろ向きなのかわからない議論を聞き流しながら、今代のフェレノス帝国皇帝、ラドローム・フェレノスは、かつて追い落とした妹の事を考えていた。

王国との戦争を頑なに反対していた幼い妹。結局彼女の言う通りになってしまったのは、苦笑せざるを得ない。


だが、王国隆盛の最大要因であったエレア隧道の崩落と、王都の半壊を見て、チャンスだと思わない国は無かっただろう。

とは言え、それを武器に帝室内での政治闘争を勝ち上がった身としては、責任追及は免れない。


「領地の分割譲渡によって和睦を成す」


ラドロームの一言で、議論がぴたりと止む。


「国境からアンテバ砦までと東へ百キロの範囲だな。シドニ鉱山だけが入る形だ」


「確かにそれだけでも帝国にとっては痛手ですが、その程度の割譲で、王国側が納得するでしょうか?」


「それ以上は無理だな。こちらの支払い能力を超える」


「しかし、領地の割譲とならば、と更に要求されるのでは?」


「それは王国の外交情勢が許さぬ」


ラドロームの言葉に、数人の貴族が納得したような表情を見せる。


「王国の西側、帝国の南西には、エレノニア、フェレノスと並ぶ大国、ロドニア王国が存在する。これは我が帝国を仮想敵に、エレノニア王国と同盟を結んでいるが、あくまでそれは帝国への対策として繋がっているだけに過ぎぬ」


当然、帝国が倒れれば、神の揺り籠内部の覇権を争い、敵対するのは目に見えている。

どちらが先に手を出すかはわからないが、恐らくロドニアからだろうとラドロームは考えていた。


「だがそうなった時、エレノニア王国が帝国の領土の過半を飲み込み、強大化していたらどうする?」


「単独では対抗しえないでしょうな」


「その通りだ。しかしロドニアの周辺には味方らしい味方がおらぬ。南のノークタニア公国は、神の揺り籠の外に意識があるし、北方の西部小王国軍は、弱体化したとは言え、我ら帝国を無視する事などできぬであろうからな」


「それ故にエレノニア王国が遠慮するというのですか? それはあまりにも……」


楽観的過ぎる。その貴族はそう言いかけた。


「ロドニアが組むのは、エレノニア王国南東にあるラングノニア王国になるだろう」


「ラングノニアですか? しかし、神の揺り籠内では、国民内における人間の割合が最も低いロドニアと、人間至上主義を掲げるラングノニアでは協力は難しいのでは?」


「実際に同盟を組む必要はなかろう? ロドニアが西を攻めている間、ラングノニアは南東から攻めれば良いだけなのだから。ラングノニアにとって、自国の人間以外がこれまで優先すべき事項だっただけで、人間以外が暮らす他の国は、いつだって攻撃対象だ」


勿論、ラングノニア王国上層部が、人間至上主義を国是としながらも、本気でそれを思っている訳ではない事は、ラドロームにもわかっている。

しかし、長年その体制の中で生きて来た国民にとって、それは天道の運行のように自明の事実であり、人間以外のヒトは、人間の成り損ないと本気で思っている。


王国の体制を維持するために、ラングノニアの上層部は間違いなく、人間以外のヒトを人間と平等に扱っているエレノニア王国に対し、戦争を仕掛けるだろう。


「勝過ぎれば妬まれる。当然の話だ。帝国の領土を奪ったとは言え、さきも誰かが言ったが痩せた土地だ。維持管理するだけでも大変な負担となるのに、これを国力に還元するにはどれだけの時間と労力がかかるだろうな」


割譲された領土の開発にリソースを割けば、一時的にエレノニア王国自体の国力は下がる。

将来的にはエレノニア王国の助けとなっても、その前に国が滅べばなんの意味もない。


「仮に領土を得て、理論上は神の揺り籠内部で突出した国力を持つに至ったとしても、我が帝国が健在であるなら、ロドニア王国もエレノニア王国との同盟を破ろうとは思わんだろう。帝国との戦争に続けて、ロドニア王国、ラングノニア王国と覇権を賭けて大戦争に巻き込まれないためにも、エレノニア王国は、帝国の脅威を残さねばならぬ」


「なるほど。それ故に、無茶な要求はしてこないと?」


「その通り。流石に向こうにも面子があるであろうからな。何の賠償もなしでは和睦に応じぬであろうが……」


しかし、フェレノス帝国が、土地が痩せ、その国家運営を鉱山での収入に頼っているというのは周知の事実。

その帝国が貴重な南部の平地と鉱山を手放すのだ。

帝国の全てを併呑するつもりでもなければ、手打ちにする可能性は高い。


最悪これを蹴られたならば、ロドニア王国に情報を流してやれば良かった。

エレノニア王国は、帝国を飲み込んで、神の揺り籠内の完全支配を目論んでいる、と。


そのような野望を抱いていたのはむしろ帝国の方なのだが、それでもロドニア王国は口車に乗るだろう。

そんなバカなと思いつつも、本当にエレノニア王国が神の揺り籠内制覇を企んでいるなら、それは是が非でも阻止しなければならないからだ。


そこには合理的な理屈は無い。

ロドニア王国が、エレノニア王国の支配を望まないという、ただそれだけの話でしかない。


しかし、国家間の戦略はそれこそが重要なのだ。

上層部の保身だけの話ではない。自国民の安全を考慮すれば、どこかの下につく、というのは本来選択肢から外れるものである。


覆しがたい程の国力差が最初からあるならともかく、そうでないならば、隣国が国力を大幅に増強しようとしている行動は阻止しなければならなかった。


「しかし、この和睦を実現させるためには、エレノニア王国以上に説得しなければならない相手がいる」


「帝国内の交戦派ですな」


一人の貴族の言葉に、ラドロームは無言で頷いた。

その交戦派の筆頭こそが、ラドロームだったのだが、彼は自ら講和の条件を提示してみせた事で、その認識から外れる事に成功した。


「これ以上戦を続けるのは国家的な自殺と変わらぬ。それもわからず戦を望むというなら、それは帝国を滅ぼす国賊に他ならぬ」


「その通りですな」


「まさにまさに」


議場内の上級貴族達もラドロームに追従する。

勿論、彼らの中にも戦前は交戦派だった者も多い。

むしろ、非戦派の多くは、エレノニア王国との戦の前に粛清や追放されていた。

それを免れた貴族も、役職の解任や領地への謹慎を命じられていた。

中には、戦の前に帝国軍によって略奪を受けた者もいる。


しかし、風向きが変われば主線が変わるのも当然の話だった。

それを風見鶏と捉えるか、柔軟な思考と捉えるかは、意見のわかれるところだろうが。



数日後、フェレノス帝国からエレノニア王国に対し、降伏宣言とも取れる停戦の申し出があった。

エレノニア王国侵攻に対する謝罪文と、帝国南方の一部領土の割譲。そして、現皇帝ラドロームを除く、全ての皇族の処刑を条件にしていた。

帝国側からの譲歩に加え、光の神の教団からの停戦命令も付随していた以上、エレノニア王国もこれを受け入れざるを得なかった。


こうして、一年もの長きにわたって続いた戦争は、フェレノス帝国の敗北という形で幕を閉じたのだった。


さて、全ての皇族の処刑はどこまで適用されるんでしょうかね?

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