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第100話:女神顕現

という訳で百話達成です。

これまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

これからももうちょっとだけ続きますので、よろしくお願いいたします。


立花の案内でダンジョンを抜けると、そこには荒野が広がっていた。

背後を振り返る。

聳え立つ雲まで届く、岩と砂の山脈。多分、これウェルズ山脈だよな。

『マップ』でもそれは確認できる。今居る場所は、ウェルズ山脈の西側だ。

国家事業で二度神の揺り籠の西へ遠征したが、二度とも失敗している。

それをこんな簡単に……。


まぁ、初見だとあのダンジョンを踏破するのは無理筋か。

神の揺り籠内を、ダンジョンの入口まで向かうのも厳しいしな。


神の揺り籠の中は草木が茂っていたけど、こちら側にはそういった生命力が感じられない。


これはマジで、ウェルズ山脈って、人を守るために作られた揺り籠なんじゃないだろうか。


「二日って言ったな? これまでダンジョンを進んで来た速度と同じでいいのか?」


「はい」


立花に尋ねると、彼女は短く答えた。

まぁ、普通の人がちょっと早足で歩くくらいの速度だ。


「方向はどっちだ?」


「あちらです」


更に尋ねると、立花はやや北寄りの西を指差す。


「よし、サラ、ミカエル」


二人を呼ぶと、俺の意図を察して、両側から俺に抱き着く。


「……何をしているんですか?」


道中で俺達の関係を薄々勘づいているんだろう。

じと目こそ向けるが、行為自体を批難するような感じは受けない。

こんな時に何をしているんだ? という感じか。


「飛ぶぞ。立花も掴まれ」


「え? 飛ぶ……? ああ、そういう魔法か何かですか? しかし、掴まると言っても、どこへ……?」


サラとミカエルが、俺の両腕を抱えるように引っ付いているため、選択肢はあまりない。

立花の頬が赤く染まった。


ふむ、こういう事にはあまり慣れていないのか。

まぁ、イメージ通りではある。


「だっことおんぶとどっちがいい?」


「背中でお願いします」


ちょっと意地悪く聞いてやると、顔を真っ赤にしながらも、立花は冷静にそう答えた。

うぅむ、単語のチョイスに狼狽える様とか見たかったんだが……。


両腕に加わる力が増した気がした。


「し、失礼します」


躊躇いがちにそう言うと、立花は俺の方にそっと、両手を置いた。


「それじゃ落ちるぞ、俺の首にしっかりと腕を回せ」


「え……? でも……」


背後で立花が抗議の声を上げる。

まぁ、何を気にしているかは想像に難くない。


「それなりに分厚い鎧をつけているから、感触なんてわからねぇよ」


「う……」


まぁ、半分嘘だけどな。

それでも、俺の言葉を信じたらしく、立花は躊躇いがちではあるが、俺の首に腕を回して、背中に密着する。


俺は確かにそれなりに分厚い防具を身に着けているが、金属どころか鎧ですらないからな。

ハーピーの毛皮で作ったジャケットと、狼の毛皮で作った服だ。押せば形は当然変わる。

しかも、相手は革の鎧さえなくブレザータイプの制服を身に纏っているだけ。


まぁ、よほど小さくなければ、服の厚み越しにその存在を感じる事ができるが……。

ほぅ、これは中々。


カタリナ>立花>モニカ>サラ>エレン>ミカエル


ちなみにノーラはモニカとカタリナの間だが、立花と比べるとどうだろうな。

どちらも直接見たり触ったりしてないからなぁ。

ついでに、サラとモニカの差は日に日に縮まっている。


心なしか、腕にかかる圧力が強くなった気がする。

だから俺、大きい方が好きって訳じゃないから、二人とも気にするな。


「『ライトウィング』」


そして俺は高速飛翔の魔法を使って飛びあがった。


以前にも説明したと思うが、『ライトウィング』は魔法の翼を出現させて、その力で術者を飛行できるようにするだけで、高速で飛行する事によって生じる不具合から、術者を守ってはくれない。

まぁ、二年前の俺のステータスで、『ソウルアームズ』を発動させただけで高機動戦闘に耐えられたんだから、立花を含む三人のステータスなら、耐える事ができるだろう。

今回はただ飛ぶだけだから尚更だな。


それでも一応、空気の壁を前方に作って、風圧に対処。速度は落ちるが、錐型にすれば多少はマシだろう。

あとは『ヒートボディ』を使って温度の低下も対策しておこう。


日が傾きかけた頃、コンクリートの建物が見えて来た。

所謂、普通の校舎らしい建物だ。


「いきなり全員で行っても問題があるでしょうから、一旦この辺りで待ちましょう。私の本体が校舎内にいますので、クラスメートを一ヶ所に集めて説明します」


「わかった」


立花からそう提案があったので、俺は一先ず地面に降りた。

そういえば、この立花分身だったな。


「本体と分身だと、何か違うのか?」


「いえ、今のところ特には」


何気ない風を装って探りを入れてみるが、何気ない感じで躱された。


「仰々しい方が信用されそうだから、入る時はサラとミカエル、『エンゲージリンク』を発動させてからにしようか」


「はい」


「わかったよ」


「ところで立花、説明ってどうするんだ? 帰れるかどうかはわからないぞ」


フェルディアルに頼めば、多分なんとかなるとは思うけどな。


「この世界での協力者を得られた、という事にしようと思います。このままここで暮らすよりは、どこかで保護して貰った方が良いでしょうし」


「ふぅん、なら、神とか使徒とかは言わない方がいいかもな」


「そうですね。現代日本人にとって、宗教は馴染みがありませんし、テロリストのイメージが強いでしょうから」


さて、これには同意しようかどうしようか。

俺が日本人だとはバレてしまったが、いつの時代の人間かはバレてないからな。

ブレザータイプの制服を見て、違和感を覚えていないから、昭和後期から平成の人間だとはわかってるとは思うけど。


流石に、未来の人間だっていう発想はないだろうしな。


実際、立花達がいつの時代の日本から呼び出されたのか、俺もわからないし。

そもそも、俺が居た地球から来たのかどうかもわからないからな。


「あ、立花、まずい」


「どうしました?」


何気なく、校舎の方を眺めていると、俺はそれに気付いた。

二階にある一つの教室。何人かの男子生徒が集まってるその中に。

見覚えのある人物が混じっているのを。


「詳しい事は省くが、勇者に相応しくない勇者を殺す使命を帯びている勇者が校舎内にいる」


ユーマ君、何をやっているんだ!?

というか、どうやってここを知った!?

光の神の教団の情報網でも無理だろ。

あ、神託か?


「え!?」


「一般的なイメージでいいが、お前以外の勇者って、勇者に相応しいと思うか?」


「思いません。すぐに本体をそちらに向かわせます」


「待て、お前が行っても被害者が一人増えるだけだ。ここは俺が行って説得する」


「できるんですか?」


「力ずくで止めるのは無理だ。けれど、一応知り合いだから話はできるだろ。話ができれば、説得できる材料はある」


未確定情報でも、フェルディアルの力で彼らを送り返す事ができる、って伝えるしかないだろうけどな。

勇者に相応しくない勇者をこの世界から排除する事が目的なんだから、結果は同じだと説得できるかもしれない。


「んん? その勇者が突然崩れ落ちたぞ? ステータス的にはユーマ君の方が強いが……。【固有技能ユニークスキル】か?」


「おそらく、寛容の勇者の『心の重み』です。勇者の不利になる情報を聞いた者が、罪悪感から押し潰されてしまう能力です」


「聞いたら、ってところが厄介だな。ユーマ君の様子じゃ、抵抗もできないっぽいしな」


しかし解決策はある。

『アナライズ』で見ると、ユーマ君は状態異常を受けており、その種類は『耐荷超過(重度)』だ。

筋力を大きく超える装備を身に付けたり、荷物を持つと受けるバッドステータスで、敏捷が低下する。

(重度)にもなると、使用できるアクティブスキルや魔法にも制限がかかる。


精神系のバステじゃないので、『精神抵抗』も通用しない。

ただバステはバステだ。


解除する方法が無い訳じゃない。


「立花、すまんがユーマ君を助ける。その結果、周りの勇者は死ぬと思うがいいか?」


「……どうしようもできませんか?」


「無理だ。俺が直接行けばなんとかなるだろうけど、その前にユーマ君が殺される可能性がある。お前は間に合いそうか?」


「難しいです。間に合うかどうかもそうですが、私一人で彼らを相手にできるかどうかも……」


「お前が時間を稼いでいる間に、俺が向かうという手もあるけど?」


「……実は、私の『朧月』は、分身を増やすと、その分弱くなるんです……」


やっぱりそういう制限があったか。


「今まではなんとか誤魔化してこれましたが、彼らと戦うとなると、『致死予測』で見られてしまうでしょうから……」


今後のはったりにも使えなくなるって事ね。

帰れるなら今後とやらは関係無いが、確約できない以上、それを伝えるのは難しいからな。


「一応蘇生魔法がある。そう悲観するよな」


「わかりました」


俺がその存在を伝えると、立花は不承不承という感じではあったが、了承した。

まぁ俺としても、ユーマ君を殺して調子に乗っている奴らより、一度殺されてから蘇らせた奴らの方が、扱いやすいだろうっていう打算がある。


『テレポート』で届く距離に降りてれば良かったんだけどな。

『マップ』とスキルと魔法の併用で見えているだけのせいか、『テレポート』の座標を設定できないんだよな。


弓を構えて矢を番え、弦を引く。

まずはあの勇者達をユーマ君から離さないとな。


一撃で倒せるかわからないから、矢には『パラライズ』を付与。

相手に状態異常『麻痺』を与える魔法で、度合いは術者の魔力と相手の魔抵の差による。

俺とあの勇者達なら、まず(重度)がつくだろう。


通常は武器や攻撃に付与する事はできないが、『付与士エンチャンター』のスキルによって可能になる。


矢を放つ。


ほぼ直線の軌道で飛んだ矢は、そのまま窓から教室へ飛び込み、一人の勇者の頭に命中した。

うん、やはり死んでないな。しかし、すぐに麻痺の効果があらわれて、その勇者は床に倒れた。

続けて矢を放つ。

これには何も付与しない。

相手が勝手に、麻痺が付与されてると思ってくれるだろう。


案の定、ユーマ君の近くの床に矢が刺さると、勇者たちは大きく距離を取った。

暫く矢を放ち続け、ユーマ君と勇者たちの間に壁をつくると最後の一矢。


これにあらゆる状態異常を解消する魔法『ニュートライズ』を付与して放つ。

その一本がユーマ君の背中に刺さった瞬間、ユーマ君が、寛容の勇者の喉に光の剣を突き立てていた。


「よし、行くぞ。立花は本体に、クラスメートを一ヶ所に集めさせておいてくれ」


「わ、わかりました」


「急げよ、へたをすると、ユーマ君によってクラス全員皆殺しになるかもしれないぞ」


「え……?」


立花から聞いた情報が全て正しいと仮定するなら、あの校舎に居る学生達は、全員が勇者だ。

あくまで覚醒していないだけで、魂の保護が為されている以上、彼らは勇者であると言える。


さて、あの中に、ユーマ君のお眼鏡に叶う勇者が、果たして何人いるだろうか。


俺は三人を抱え、再び高速飛翔の魔法で飛び立った。




「やっぱり、タクマさんでしたか」


俺達が校舎に到着した時、ユーマ君は、教室の隅でガタガタ震えて命乞いをしている男子に、剣を振り下ろそうとしているところだった。

他の勇者は皆殺しにされている。

ああ、やっぱり覚醒していない男子も、ユーマ君の討伐対象になったか。


「ああ、そうだ。さてユーマ君、君の命を助けた恩人である俺のお願いだ。これ以上、この校舎内の人間を殺さないでくれるか?」


それを言うと、神の揺り籠で手に入れた素材を何も聞かずに、何も言わずに買い取ってくれた借りが、俺にはあるんだけどな。


「申し訳ありません。例え命の恩人の頼みであっても、これが僕の使命ですので」


貸しとは関係なく、ユーマ君に断られてしまう。


「ちなみに俺は死者を蘇生させる事のできる魔法を使えるが、それで復活させた場合はどうする?」


「氾濫の時にそれを使わなかった理由は、タクマさんの事情を考慮すれば予想できますから敢えて聞きませんけど」


相変わらず、目が笑ってない笑顔で答えるユーマ君は怖い。


「僕が殺した勇者で、蘇生魔法で復活させたなら、それは僕の使命の対象外ですね。ただ」


「ただ?」


「僕はただ勇者を殺している訳ではなく、勇者の力を剥ぎ取ってから殺しています」


「何か違うのか?」


「異世界の人間がこの世界に来ると、それだけで死んでしまう事は御存知ですか?」


「ああ」


「話が早くて助かります。勇者の力を剥ぎ取られても、暫くは魂が保護された状態ですが、しかし、その効果は徐々に薄れていきます。そうして魂が完全に破壊されてしまえば、輪廻の輪に戻る事もできず、完全に消滅してしまいます」


「ああ」


なんて言うけど、そこまでは知らなかった。

輪廻があるのは、ユリアを見ればなんとなくわかるけど、異世界の人間がこの世界で死ぬと、それが失われるのか。


「これはただ殺されただけでも同じです。肉体という容れ物を失った魂は、直接この世界の空気に晒される事になり、簡単に崩壊してしまいますからね。僕はそうならないように、直接魂を輪廻の輪に戻しているんです」


「成る程。つまり、ユーマ君によって殺された勇者は、既に魂が輪廻の輪にあるから、蘇生魔法が効かないって事か」


「そうなりますね。蘇生魔法が、輪廻の輪から対象の魂を引き出す事ができるならともかく」


無理だろうな。それは時間と空間を司るフェルディアルにもできない。


「まぁ、神の加護が無くなっても、魂が破壊されたのではなく、殺されただけなら、この世界の死を司る神によって、輪廻の輪に運ばれるでしょうけれど、間に合わない可能性もありますからね」


「つまりユーマ君は確実に魂を輪廻の輪に返すために、ユーマ君自身が相手を殺しているって訳か」


「それもありますが、それだけではないです」


まぁ、ユーマ君の性格なら、こっちの世界で勇者の力を使って好き勝手に生きた奴なら、魂が消滅しても当然、とか考えてそうだしな。


「神が何故、異世界の人間に加護を与えるか、知っていますか?」


「魂を保護するためだろ?」


「それだけではありません。勇者の力を与える事で、自らの信者を増やす、つまり、自らの力を増やすためでもあります」


「ああ、加護を受けた勇者が活躍する事で、加護を与えた神の知名度も上がるって話か」


「そうです。しかしそれだけではありません。神の加護を受けたまま死んだ勇者は、その加護を与えた神に吸収される事になります」


「吸収?」


「はい。神全体からすれば微々たるものでしょうが、信者のように増減するものではない、固定化された力として、得る事ができるのです。この時、勇者の力が強ければ強い程、神が得られる力が大きいのは言うまでもありません」


「つまりユーマ君はそれを阻止していると?」


そう言えば、神同士で争っているんだっけ?


「ええ。光の神を主神とし、秩序が保たれているこの世界を壊す訳にはいきませんから」


あれ? そういう設定だったっけ?

一番力があるのが光の神ってのはその通りだけど、主神なんだっけ?


『常識』は……。あ、駄目だ参照できる冒険者が居ない。


「うーん、と、じゃあつまり、勇者がこの世界に悪影響を与えずに、帰る事ができるとしたら、殺さないでも済むか?」


「え? うーん、そうですね、そうなりますね」


「じゃあ問題無い。彼らはすぐに地球に帰れる」


「「え?」」


ユーマ君と立花の声が重なる。

まぁ、ここは出たとこ勝負でいくしかない。


フェルディアルが応えてくれなかったらごめんなさいするしかないけど、勝算は高い筈だ。

ユーマ君に配慮して、彼らにフェルディアルの洗礼を与えなかったとしても、あとで地球で洗礼を与えればいいだけだからな。

そして、その部分はユーマ君に言う必要が無い訳だし。


更に彼らの中で、本格的にフェルディアルの教団にハマる人間が出たら、周囲の人間を巻き込んで信者を増やす手伝いをしてくれるかもしれないしな。


「俺は時空の神の使徒。時空の神は時間と空間を司る」


「世界間を移動できるという事ですか?」


「実際、そうして俺は連れて来られた」


「…………」


「ユーマ君も、帰れるかもしれないぞ?」


「いえ、僕はもう、この世界の人間になりましたから」


何やら考え込んでいたので、向こうの世界に未練でもあるのかと思い聞いてみるが、どうやらそういう事ではないらしかった。

そして、そのこの世界の人間になった、というのは、この世界に骨をうずめる覚悟だとか、元の世界に帰るつもりはないとかではないんだろう。

そういうニュアンスが、ユーマ君の声からは感じられた。


「そうか、帰りたくなったら言ってくれ。ユーマ君には色々世話になってるし、うちの女神に取り計らってやるから」


「ありがとうございます。そのような機会は無いと思いますが……」


俺もとりあえず言ってみただけなので、素直に感謝されると困ったが、ユーマ君もそう正直に返答しなくていいのに。


「じゃあ決定だな。立花、全員を集め終わってるな? 説明に行こう」


「あ、はい」


立花の背を叩いて、先に行くよう促す。

俺は部屋の隅にへたりこんでいる、男子生徒に近付いて担ぎ上げ……。

あ、失禁してるな。『クリーン』。

精神系の状態異常も大量に受けてるけど、正気に戻すよりは、このままの方が静かでいいか。


俺は部屋の隅にへたりこんでいる、男子生徒に近付いて担ぎ上げた。


「ユーマ君はどうする? 結末を見ていくか? それとも、あとは俺に任せて帰るか?」


「……御一緒しますよ。タクマさんを疑う訳ではありませんが、本当に彼らを返せるのか、確認したいです」


それを疑ってると言うんだと思うけど、まぁいいや。この分ならユーマ君は気付いてないっぽいしな。

女神に頼んで彼らを元の世界に帰せば、彼らを見逃すなんて、ユーマ君は承諾してないんだよね。

あくまで帰す事ができたらいいですね、くらいの返事だった。

そのあとの俺との会話でその辺が有耶無耶になったんだよな。


「サラとミカエルは『エンゲージリンク』を発動してついて来い」


「はい」


「わかったよ」


待機中のMP消費を避けるために『エンゲージリンク』を解除させてあったし、そのまま飛んで来たから、二人は元の姿に戻っている。

俺も、火竜シリーズを身に着けて、『ソウルアームズ』を発動させて神の使徒モードになる。


「それで行くんですか?」


「普通のハイティーンが言うより説得力あるだろ?」


「この世界に来ているなら、そこまでしなくても信じると思いますけど……?」


「どうかな? 立花やそこの勇者達ならともかく、守られていただけの生徒は、向こうの感覚が残ったままだと思うぞ」


むしろ、だからこそ彼らは覚醒しなかったんじゃないかとも思える。


「まぁ、普通にするよりは信じて貰いやすいでしょうから、反対はしませんけど……」


最後にはユーマ君も納得し、俺達は教室をあとにした。




立花の分身に案内されて向かった教室には、三十人近い男女の学生が集まっていた。

ユーマ君はともかく、いかにもな姿の俺達が姿を現すと、にわかに騒がしくなる。


う、ここの所忘れていたけど、一斉に注目を浴びるこの感覚、緊張するぜ。

好奇心と猜疑心の混じった目線に、俺は居心地の悪さを覚えた。


「みんな、この方々が、さっき話した、私達を元の世界に戻してくれる、時空の神の使徒様よ」


彼らと俺達の間に立った立花が、そう紹介する。

分身はいつの間にか居なくなっており、『アナライズ』で見ると、彼女が本体だとわかる。


「ほ、本当に帰る事ができるの?」


気の強そうな、ショートカットに背の高い女生徒が尋ねてくる。

俺達に、というより、立花に確認を取る感じだ。


「ああ、可能だ」


立花がこちらを見たので、俺は頷いて答えた。

声が上擦ってしまわないよう、意識して低い声を心がけたら、ちょっと低くなり過ぎてしまった。

サラとミカエルが、思わずこちらを見る。


仮面型の兜と、『ソウルアームズ』があってよかった。

自分でも、今顔が真っ赤なのがわかる。


「私は時空の神、フェルディアルの使徒である。君たちのように、異世界から迷い込んだ者を探し、送り返す事を使命としている」


とりあえず余計な事は言わず、神の使徒と使命でごり押しする事にした。


「帰れる……?」


「帰れるんだ……!」


「よかった、よかった……!」


俺の言葉で事態を理解したのか、生徒たちは感涙に咽び、互いに抱き合って喜んでいる。


「剣を振り回して乗り込んでいたら、見られなかった反応だろ?」


「そ、そうですね……!」


若干涙ぐみ、微笑みを浮かべていたユーマ君に、そう囁くと、彼は慌てた様子で目を擦った。


感謝されるって事は、気持ちの良い事でもあるんだ。

これで今更ユーマ君も、彼らを殺すとか言い出さないだろう。


「それでは、早速呼び出すとしよう」


俺がそう言うと、ぴたりと騒ぎがやんだ。

う、そんな注目しないでくれ。緊張するじゃないか。


「出でよ、時空の女神フェルディアルよ!」


若干恥ずかしかったが、片手を挙げて高らかに宣言する。


しかし、何の反応もなかった。


え? マジか!? マジかフェルディアル!?

ここで無視とか、マジか!?


あ、偶々こっちを見てないだけかな?



『召喚陣と召喚の言祝ぎをお願いします』


なんて思っていたら、脳内にそんな声が響いた。

え? フェルディアルって好き勝手に出て来れないのか!?


『神々の取り決めで、正しい手順に則って召喚されない限りは姿を現してはいけない事になっているんです。タクマさんの前に、仕送りの受け取りに現れるのは、咲江さんと契約が成立しているから可能なのです』


知らなかったそんなの……。

あ、咲江さんてのは俺の母さんな(79話振り三度目)。


けれどまぁ、呼び出せない訳じゃないなら、まだマシか。


「どうやら、ここは力場が悪いらしく、召喚の儀式をしないと神が顕現なされないようだ」


場の空気が白け始めていたので、俺は適当な理由をつけて、女神がこの場に現れない理由を説明する。


「召喚用の魔方陣を描く。机や椅子を片付けてくれ。それと、何か書く物を」


「チョークで大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ、問題無い」


生徒達に机や椅子を教室の端に寄せて貰い、俺は立花からチョークを受け取る。

そして、床に魔方陣を描いていく。

頭の中に、フェルディアルから送られて来た図柄が浮かんでいるので、それを参考に描く。


「よし」


3センチ程あったチョークを半分使って描き上げ、俺は手をぱんぱんと鳴らして埃を払う。

『ソウルアームズ』発動中だったせいで、魔力同士が干渉しあい、耳鳴りのような甲高い音が教室内に響いた。


「うっ!」


生徒達だけでなく、不意打ちだったためか、ユーマ君も耳を抑えて顔を顰めた。


「天の杯雨の道枝の端と葉の流れ隣なす大地にて座す姫の言の葉……」


気にせず召喚のの呪文を唱える。

その耳鳴りのような音も、儀式の一環だったと思わせるためだ。

うっかり謝って、儀式そのものに疑問を持たれてもアレだからな。


「遥かなる流れにありて春に流るる雪解けの音……」


唱えるのは、俺がこの世界に来る直前、母さんが唱えていたあの呪文。


勿論、覚えていたのではなくて、フェルディアルから頭に送らている文言をそのまま読み上げているだけだ。


「おお……」


魔方陣が発光を始める。それを見た、誰かが感嘆の呻きを漏らす。


「我が意我が言に応えられんことを……」


そして俺は、両手の平を床に叩きつけた。

それに呼応して、魔方陣から光の柱が立ち上る。


「……!」


そして、魔方陣からゆっくりと、一人の女性が姿を現す。


流れるような輝く銀髪。

光沢どころか、光を放つ白い服。

風ではなく、逆巻く力の奔流によってはためく裾。

神秘的な雰囲気を纏った美女。


時空の女神フェルディアルが、この世界に顕現した。


前書きにも書きましたが、百話です。

閑話などを抜いての、百話です。長い道のりでしたが、これも偏に、ここまで読んでいただき、応援してくださった皆様のお陰です。

本当に感謝しております。ありがとうございました。

正直、所謂エタる事は無かったと思いますが、作者だけだと、更新頻度がもっと少なかったでしょうから。

これからも、気長にお付き合いください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 百話おめでとうございます! [一言] 支払日以外はきちんと手順踏まないといけないの(笑)でもそりゃそうですよね、じゃないとしょっちゅう神様が現れまくる世界になりますものね。
[一言] 転生モノでもかなり面白いです! ハマってます!
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