表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/149

第99話:そして彼らは光へ還る

三人称視点です。

異世界に転移して来た彼らが、遂に絡みます。


立花たちばな乙女おとめ達が異世界に転移して三ヶ月が過ぎようとしていた。

結局あれから勇者として覚醒する者は現れず、鮒田ふなだ派と立花派に分かれたまま、静かな緊張感を保って、彼らは生活していた。


「結局この世界ってなんなんだろうな?」


鮒田派の中心は鮒田を始めとした勇者達である。

彼らは教室を幾つか占拠し、その中の一つを、自分達専用の談話室として使っていた。

日課の狩りを終えて、その部屋で談笑するのもいつものパターンになっていた。


そんな時、茶田さたがそう疑問を漏らした。


「ブタの話だと異世界って事じゃなかったか?」


桶谷が答える。


「いや、そうじゃなくて、いや、それもなんだけどさ。俺達がこっち来た原因? みたいな」


「ブタがなんか言ってなかったっけ? あれだ、召喚者が居るなら、俺らにコンタクト取って来ないとおかしいから、事故か何かに巻き込まれたとかなんとか」


そう答えたのは、若干オタク気質のあった上井うえいだ。

桶谷を始めとした彼らは、元々の世界でもスクールカースト上位に位置していた。

それ故に、上井は自らのオタク趣味をひた隠しにしていた。


漫画やアニメを見るし、ゲームもやるが、オタクでない人間でも知っている有名なものだけ。

そういうスタンスを取っていた。


しかし、こちらの世界に来て、勇者という特別な力を得た事で、オタク趣味をある程度オープンにしてもカースト上位に居られるようになった。

水を得た魚のように、イキイキとして、嬉々として自分の異世界論を語る鮒田の話を一番理解しているのは、この上井だった。


「けどあれだな。元の世界に戻る方法もボチボチ探していかないといけないよな」


「まぁな。力振るうのは楽しいっちゃ楽しいが、やっぱ飽きるよな」


家田いえだの言葉を肯定したのは桶谷だった。


「え? なんでさ? そういうのは委員長に任せておけばいいじゃん」


「それだとあいつらにマウント取られちまうだろうが」


茶田の考えなしの発言を、上井が否定する。


「結局やる事っつったら、怪物倒すか女抱くか二瓶にへいいじめるかだもんな。そりゃ飽きるわ」


二瓶は桶谷達のグループに居たが、勇者として覚醒していないためカーストの順位が下がってしまった男子だ。

鮒田の分がスライドした訳ではなく、カースト最下層にまで落とされてしまった。

これは、元の世界で鮒田をいじめていた桶谷達が、鮒田の機嫌を取るために二瓶を生贄に差し出した結果だった。


鮒田派に入った女子生徒も、その体を好きにできるようになっているが、それも早々に飽きてしまった。

勿論、不定期的に抱いてはいるが、最初の頃のように昼夜を忘れてのめりこむような事は、一週間もするとなくなってしまった。


余程の相手でなければ、欲情できる男子高校生の性欲とは言え、それは制限があったからだと、桶谷達は思い知らされた。


桶谷の元カノを始めとした、世間的に見ても美人、スタイルが良い、と言える外見を持つ女子は数人しかおらず、結局、『誰でも好きにできる』という特典は、ほぼ形骸化してしまっている。


「この力を持って日本に居たんなら、もっと好き勝手できたと思うけどな」


それこそ、普通に生きていたのでは、手が届かない相手を好きにする事だって可能だったかもしれない。


「せめて近くに街でもあればな……」


見渡す限り荒野が広がり、地平線の向こうにうっすらと山脈が見える程度。

校舎の外に初めて出た時は、桶谷達もテンションが上がったものだが、それもすぐに飽きてしまった。


「み、みんな、終わったよ」


教室に鮒田が入って来る。

けだるい雰囲気に加え、しきりにベルトの位置を調整しているため、今まで何をしていたかがわかる。


「おう、どうだったよ?」


彼が何をしていたかを知っている桶谷が、唇の端を吊り上げて鮒田に尋ねる。


「ん、まぁ、ふ、普通だったよ。順川よりかわさんが経験者だったのは、ち、ちょっと驚いたけどね、でゅふふ」


「あー、確か中学時代に彼氏が居るって噂があったな」


現在、鮒田派は二ヶ月前と比べて三人増えている。

その三人は、乙女と共に狩りに行った際、モンスターの迫力に恐怖し、鮒田派に乗り換えた生徒達だ。


三人とも女子で、一人は派閥が別れてすぐに、残りの二人は今日派閥を変えた。


暗黙の了解で、彼女達の『味見』は、鮒田が最初に行う事になっていた。


「さ、さすがに疲れたよ。けど、この力はやっぱり凄いね、ぐふふ。強くなるだけじゃなく、あっち(・・・)の持続力と回復力も成長してるんだから、っと!」


敢えて鮒田は勢いをつけて椅子に座った。


「ぐぅ……」


椅子(二瓶)が短く呻く。


「き、君は全然強くならないねぇ。でゅふふ。な、なんなんだろうね、覚醒の条件って」


桶谷のグループならある程度の共通点はあるが、二瓶や桶谷の元カノが覚醒していない理由がわからない。

乙女も彼らとは毛色が違うし、鮒田との共通点などまるで思いつかなかった。


「まぁ、い、いいんだけどね。覚醒されると、面倒だし。でも、いずれはあの山脈を超えたいよね、ぶふ」


言いながら、鮒田は桶谷達を見た。

『致死予測』で見る彼らの名前は、三ヶ月前から変わらず緑色のままだ。

しかし、その名前は点滅している。

それは、何かしらの方法で、鮒田を殺し得る可能性がある事を示していた。


何かなど、勇者が持つ【固有技能ユニークスキル】以外に有り得ない。

現に、鮒田の下に居る二瓶の名前は点滅していない。


総合的なステータスは、このままモンスターを狩り続けていれば、逆転される事はないだろう。

だが、覚醒されると、絶対安全とは言えなくなる。


それは、鮒田だけでなく、桶谷達も許容できる未来ではなかった。


「!?」


その時、教室の扉が、大きな音を立てて吹き飛んだ。

思わず腰を浮かせて、鮒田達は扉の方を見る。


ガラスが割れた扉は、地面から五十センチ程度の高さの位置を中心にへこんでいた。

何者かに、蹴り破られたのだと予想できた。


そしてその何者かが、ゆっくりと、教室の中に入って来る。


短く切り揃えられた黒髪に精悍な顔立ち。

黒い瞳には強い意志の輝きが灯っている。

身に纏う鎧は、それそのものが輝いているかのように眩い光沢を放っている。


「ユーマ・クジョウ……?」


『致死予測』で見た、誰かがその名を呟く。


「そうだ。僕はユーマ、光の勇者だ」


「勇者……!? どおりで……」


ユーマの名乗りを受けて、呟いたのは桶谷だった。

『致死予測』で見た、彼の名前は真っ赤だった。そして、鮒田相手ですら点滅する名前が、静かに鎮座している。


それは、自分一人では何があっても、目の前の相手に敵わない事を意味していた。

思わず、鮒田を見る。


「君達の話を聞いただけでも、最早疑いの余地なく、君達は勇者失格だが、それでも君達にチャンスをやろう」


そしてユーマは、『反英雄宣告』を行うべく、右手をゆっくりと上げる。


「そうか、勇者! 光の勇者か! カッコイイね! でゅふふ!」


しかし、突然鮒田が甲高い声で叫んだ事で、ユーマはその動きを止めてしまう。


「いやぁ、助かったよ。突然こんな世界に飛ばされてさ。召喚だとは思うんだけど、その召喚者が居ないもんでね。どうしたもんかと悩んでいたんだ。もう三ヶ月もここに居るんだよ。その間、進展は何もなし。けれどようやっと来たんだ! こうして出会えた!」


早口でまくしたてながら、鮒田がユーマに近付く。


「それ以上近付くな」


腰に差していた剣を抜いて、ユーマが鮒田にその切先を突き付ける。


「おっと、いや、凄い武器だね。いいな、おれたちはそういう武器も防具も何も無いんだよ。スキルだけは勇者として貰っているんだけどね。そういった武器ってどこで貰えるんだい? やっぱり、おれたちの勇者にそれぞれついてる属性が関係しているのかな? これって何? 神? 精霊? おれたちなにも知らないんだよね。あ、ちなみにおれは寛容の勇者なんだ。あっちの桶谷君は激昂の勇者。あ、悪っぽいよね、おれもそう思う。上井君は節制の勇者で、茶田君は庇護の勇者。家田君は懐疑の勇者なんだ。だからてっきり、人の感情とか、そういうのを司る精霊でもいるのかと思ってたんだけど、君は光だって? いいねぇ、いかにも勇者っぽいねぇ」


「おいブタ!」


名前からスキルを連想するのは難しいとは言え、自分達の司性をバラされて、上井が慌てる。


「さっきも言ったけど、おれたち、そういう武器も防具も持ってないし、この世界の知識を何も持ってないんだ。三ヶ月前にここに来たんだけどさ、それからずっと、モンスターを狩り続けてるだけ。大分強くなったつもりだったんだけど、上には上がいるもんだね。君の名前真っ赤だもん。おれたちじゃ絶対敵わないんだろうな」


桶谷が上井を手で制する。上井も、鮒田の思惑を理解して、口を噤んだ。


「格闘技みたいなのを習ってたのは茶田君くらいで、桶谷君達は喧嘩くらいしか戦闘経験が無いんだよね。その程度で戦闘経験なんてあれだけどさ。モンスターとの戦いも、ステータスの高さに任せてのゴリ押しだしね。ああ、魔法くらいは使えるよ。攻撃魔法と治癒魔法を少しね。魔法に関しても何も知らないんだよね。この世界にはどういった魔法があるの? 魔法ごとに名前がついてたり……って……」


そこで、鮒田の言葉が止まった。


「やっと効いたか。くふふ、ふ、普通の人間なら、一つ二つで済むんだけどね、さ、流石は勇者だね、こぷぉ」


鮒田が嗜虐的な笑みを浮かべて、ユーマを見下ろす(・・・・)

鮒田の目の前では、ユーマが地面に両膝と両肘をついて項垂れていた。


「ぐ、う、く……」


「これがおれの力、『心の重み』だ! 俺の秘密を聞いた相手は、その罪悪感に押し潰されてしまうのさ! 物理的にね!」


鮒田が勇者の力に覚醒した時、桶谷が彼の放つ重圧に負けて、膝をついたように見えた。その力の正体がこれだった。

乙女はこの能力を『湖面の月』で写し取り、二ヶ月前にクラスが別れてしまった時、鮒田達を押し潰した。


「ゆ、勇者はさ、おれだけじゃなくて、こいつらもみんな特殊な力を持ってる! そのせいか、名前が赤くても、点滅してるんだよね。つまりさ、一撃必殺での逆転が可能なスキルを、大体持ってるって事だろう? だ、だからさ、他の人間が、特に、勇者の事を知っている人間が現れたら、必ずおれのスキルが威力を発揮すると思ってたんだ!」


鮒田が話せば話す程、ユーマに圧し掛かる力は増し、彼を押し潰していく。


「だ、だって、勇者が自分の能力や、スキルに関わりそうな情報を話してるんだ。ふ、普通聞くよね? 聞いちゃうよね!? くふふ!」


しかし聞いたが最後、寛容の勇者の【固有技能ユニークスキル】、『心の重み』によって、行動の自由を奪われてしまう。


「あ、ははははははは! 強い! 強いよ! おれ! やっぱり強いんだ!! 君随分自信満々だったもんね!? 負けるなんて思ってもいなかったんじゃないかい!? つまりさ、それはこの世界で、君は相当強い方なんだよね? じゃあさ、それを倒したおれってどれだけ強いの!?」


勿論、ステータスでは大きく劣っている。だが、それでいながら鮒田のスキルがユーマに通じたという事は、この世界の殆どの人間に、スキルが通じるという事でもある。


「このスキルはさ、おれの言葉を聞いた人間全員に効果がある訳じゃないんだよ。任意で対象を選択できるんだ。つまりさ、多人数で一人と戦う時や、多人数同士の戦いでも、効果を発揮するって事なんだよね! くふふ、つまり軍を勝利に導く力って訳だ! 英雄だよ! 王だよ! おれはこの世界で絶対的な王となるために呼び出されたんだ!!」


鮒田が言葉を止めた時、ユーマは床に這いつくばっているような状態だった。


「うぐ、ぐ、うぅ……」


「そ、その状態でも武器を離さないのは凄いね。ふふ、ついでだ。君を殺したら、その武器と防具はおれが貰うよかぬぽぅ」


空気が漏れたような笑い方をしながら、鮒田は桶谷達の方へ向き直る。


「で、さ、勇者って殺したら、どのくらいの経験値になると思う?」


「まぁ、俺らより大分強いみたいだし、かなり貰えるんじゃないか?」


「モンスター以外を殺した場合どうなるのか、やっと試せるな」


冷静に予測を述べる桶谷とは対照的に、茶田はどこか楽しそうだ。


「じゃ、じゃあ、恨みっこなしで、順番に殴っていこうか」


「というか、俺達の攻撃でダメージ通るのかよ?」


「何度も殴っていれば、防御力が減るのは実証済みでしょ? 疲労でステータスも下がるだろうし」


家田と上井はあまり乗り気ではないようだ。流石に、人を殺すとなると、この特殊な環境下でもハードルが高いのだろう。


「つーかよ、この剣使って攻撃すりゃいいんじゃね? こいつが持ってるんなら、強いだろ」


そう言って桶谷が、ユーマの持つ光の剣を奪おうと近付く。

近付いた桶谷の頭に、窓を突き破って飛び込んで来た矢が突き刺さった。


「え…………?」


「…………ぷ」


何が起きたのかわからない桶谷を見て、鮒田が思わず吹き出す。


「や、矢が頭に刺さってるのに、死んでないどころか、血も出てない! シュール! 相変わらずシュール!」


鮒田が腹を抱えて笑い出す。周りの男子も、つられて笑い始めた。

桶谷の顔だけが、羞恥で赤く染まる。


「ぷーくすくす、早く抜きなよ、矢ガモ君」


「うるえぇ! ったく、仲間がいやが……」


頭に刺さった矢を抜こうとしたところで、桶谷の動きが止まり、その場に崩れ落ちた。


「え?」


「おい、アキラ、どうした……?」


ふざけているのだと思い、男子達が近付く。しかし、桶谷は床で小刻みに震えながら動けないでいた。


「ま、マヒだ! 矢にマヒがつけてあったんだ!」


ゲーム的な解釈で鮒田が叫んだ。しかしそれは正解だった。

続けて、窓から矢が飛来し、床に突き刺さった。


「ま、窓から離れろ!」


そうしているうちに、矢は次々とユーマと鮒田達の間に突き刺さる。


「ち、仲間か……! けど、このくらいならいずれ……」


矢の雨が収まるのを待っていた鮒田の目の前で、一本の矢がユーマの背中に刺さった。


「うっ!」


短く呻き、ビクン、とユーマの体が震える。


「く、ふふは! 仲間に刺してどうするんだよ!? ばかな……」


嘲るように笑う鮒田の声は、途中で遮られた。

その喉元には、光の剣が突き刺さっていたからだ。


「な、なんで……!?」


鮒田の目の前には、ユーマが居る。悲壮感の漂う表情で、剣を握る手に力を込めた。


訳がわからなかった。まだ自分のスキルの効果時間内の筈。

なのに、何故動ける!?


「すまない! 君は危険だ! 君だけは、勇者のまま(・・・・・)殺す事に(・・・・)なる(・・)!」


「か、は……」


「すまない。君の魂は、寛容の神に吸収される。輪廻も、何も無くなる」


「あ、あ……」


「それでも君のその能力は危険すぎる。『反英雄宣告』を使う暇も惜しい程に……!」


「…………」


そして、鮒田の体が光の粒子になって消えていく。


「すまない……」


暫く、顔を俯かせて、肩を震わせていたユーマが、顔を上げて、茶田達に向き直った。


「ひ……」


「君達なら大丈夫だ。安心して欲しい。今すぐ勇者から解放してあげるよ。例え死んでも、輪廻の輪に戻れる。今度はこんな事に巻き込まれない事を祈るよ」


そしてユーマは上井達を指差す。


「汝()、勇者に非ず」


ユーマくんによる勇者の成敗完了。

二瓶は生きていますのでご安心を。

そして、ユーマを救った矢を放ったのは一体!?(棒)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ